特許第6047712号(P6047712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047712
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】鉄鋼のプラズマ窒化方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/36 20060101AFI20161212BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C23C8/36
   H05H1/46 L
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-108563(P2012-108563)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234370(P2013-234370A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(73)【特許権者】
【識別番号】591090828
【氏名又は名称】ワイエス電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】河西 伸一
(72)【発明者】
【氏名】木島 一広
(72)【発明者】
【氏名】清水 章良
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和幸
(72)【発明者】
【氏名】早川 亮
(72)【発明者】
【氏名】杉田 良雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 均
(72)【発明者】
【氏名】関谷 英治
(72)【発明者】
【氏名】中込 章公
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−356764(JP,A)
【文献】 特開2013−023769(JP,A)
【文献】 特開平07−233461(JP,A)
【文献】 特開2010−212234(JP,A)
【文献】 特開2008−174790(JP,A)
【文献】 特開平10−237662(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0281442(US,A1)
【文献】 特開2001−192861(JP,A)
【文献】 特開昭61−272362(JP,A)
【文献】 山中 久彦,“イオン窒化法”,日本,日刊工業新聞社,1976年 7月10日,初版,p.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合条件での鉄鋼のプラズマ窒化方法において、前記水素(H)ガスの量を前記窒素(N)ガスの量の1/25未満という条件で、プラズマ窒化が行われるようにしてなるとともに、
前記プラズマ窒化を、電位0状態で接地されたチャンバーと、このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、自励式の高周波を発生させる高周波発振部と、前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、発振器に電力を供給する発振器用電源と、前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなるとともに、インピーダンス整合回路が不要な双極子電極プラズマ発生装置により行うことを特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法。
【請求項2】
窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合条件での鉄鋼のプラズマ窒化方法において、前記水素(H)ガスの量を前記窒素(N)ガスの量の1/25以下という条件で、プラズマ窒化が行われるようにしてなるとともに、
前記プラズマ窒化を、電位0状態で接地されたチャンバーと、このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、自励式の高周波を発生させる高周波発振部と、前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、 発振器に電力を供給する発振器用電源と、前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなるとともに、インピーダンス整合回路が不要な双極子電極プラズマ発生装置により行うことを特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼のプラズマ窒化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマによる金属の窒化方法として以下のような技術が知られている。
(1)金属部材を300〜650℃の温度に保持し、体積比を1(NH3)/100(H2)〜2(NH3)/1(H2)とし、好適には1(NH3)/10(H2)〜1(NH3)/3(H2)とするアンモニアガスと水素ガス(実験では、真空チャンバー1内に水素ガスを2000ml/分、アンモニアガス500ml/分導入)を用い、金属部材の表面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行い、該金属部材の表面近傍のグロー放電の発光分光分析を行い、NHラジカル/窒素分子イオン(N2+)の発光強度比が10/1以上となるプラズマ状態でイオン窒化する金属部材のイオン窒化方法が知られている。(特許文献1)
アンモニアガスと水素ガスの体積比を1(NH3)/100(H2)以上としているのは、それ未満とではイオン窒化反応が十分に起こらないためであるとしている。
【0003】
(2)水素ガス2000ml/分、アンモニアガス500ml/分で真空チャンバー1内に導入し、圧力を1トールに維持し、印加電圧−400Vで水素ガスとアンモニアの直流グロー放電プラズマを発生させ、金属部材の温度を300〜650℃に維持させて行う金属部材のイオン窒化処理の技術が知られている。(特許文献2)
アンモニアガスと水素ガスの体積比は、1(NH3)/100(H2)〜2(NH3)/1(H2)とし、好適には1(NH3)/10(H2)〜2(NH3)/1(H2)としている。
【0004】
(3)処理温度425[℃]、処理時間60[分]、ガス混合比N2:H2=1:1、処理圧力4[Torr](=532[Pa])の条件で、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを炉本体5に導入し、被処理物上にパルス・OFF時間可変式のプラズマ電源からグロー放電を発生させ、パルス・オフ時間を制御することによりプラズマの加熱量と窒素エネルギーの制御を最適値に制御しながらステンレス鋼をプラズマ窒化する技術が知られている。(特許文献3)
【0005】
(4)電位0状態で接地されたチャンバーと、このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、自励式の2MHzの高周波を発生させる高周波発振部と、前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、発振器に電力を供給する発振器用電源と、前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなっている、インピーダンス整合回路(マッチングBOX)が不要なプラズマ発生装置(以下「双極子プラズマ装置」という。)が知られている。(特許文献4)
【0006】
半導体製造等に使われている従来のRFプラズマ装置にはインピーダンス整合回路が付属している。インピーダンス整合回路は機械的応答による制御なので応答が遅く、瞬時に大きく変動する高密度プラズマや低気圧から高気圧など広範囲な圧力下でのプラズマ制御には適さない。また金属部材の熱処理や表面加工に用いられているパルス・プラズマ装置では、パルスの波高電圧とパルス間隔により、プラズマの安定性や密度、イオン加速度の調節が複合的に行われるので分離出来ず、処理に最適なパルスの波高電圧とパルス間隔を決定したり、また温度などによるプラズマ状態の変動条件に対応し最適条件を維持したりすることが難しい。
この双極子プラズマ装置は、周波数の応答によりプラズマの変化に応答するので、広範囲な圧力下でも俊敏に応答して、常に安定したプラズマ状態を維持でき、しかも、プラズマ発生とイオン加速度の調節を個別に行うので、処理に最適なプラズマ状態を容易に決定でき、かつ維持出来る特性を持っているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-118826号公報
【特許文献2】特開平6-220606号公報
【特許文献3】特開2008-133518号公報
【特許文献4】特開2010-212234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に示すように、金属部材のプラズマ窒化の技術にあっては、最適なアンモニアガスと水素ガスの体積比あるいは窒素ガスと水素ガスの体積比(混合比)が見出されてきた。
また、従来の直流放電プラズマ、パルス放電プラズマによる鉄鋼のプラズマ窒化の、窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)の最適値は、7(N2):3(H2)であるとされてきた。
本発明者のうちの杉田良雄は、特開2010-212234号公報に開示されている2MHzの高周波の双極子電極を特徴とする双極子電極プラズマ発生装置を開発し、この双極子電極プラズマ発生装置を研究機関に提供し、これらの研究機関および研究者たちと双極子電極プラズマ発生装置による鉄鋼の窒化の実験・研究を進めてきた。
その結果、本願の発明者たちは、双極子電極プラズマ発生装置による鉄鋼の窒化の良好な条件として、水素(H2)ガスと窒素(N2)ガスの混合比を、水素(H2)ガスを窒素(N2)ガスの1/25未満(実験装置では500(N2):20(H2)未満)にしたところにNHラジカルの良好な活性域があることを見出した。
【0009】
本発明は、鉄鋼のプラズマ窒化の新たな窒化条件を特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は次に述べるような構成としている。
窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合条件での鉄鋼のプラズマ窒化方法において、前記水素(H)ガスの量を前記窒素(N)ガスの量の1/25未満という条件で、プラズマ窒化が行われるようにしてなるとともに、
前記プラズマ窒化を、電位0状態で接地されたチャンバーと、このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、自励式の高周波を発生させる高周波発振部と、前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、発振器に電力を供給する発振器用電源と、前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなるとともに、インピーダンス整合回路が不要な双極子電極プラズマ発生装置により行うことを特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法である。
【0011】
又は、 窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合条件での鉄鋼のプラズマ窒化方法において、前記水素(H)ガスの量を前記窒素(N)ガスの量の1/25以下という条件で、プラズマ窒化が行われるようにしてなるとともに、
前記プラズマ窒化を、電位0状態で接地されたチャンバーと、このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、自励式の高周波を発生させる高周波発振部と、前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、
発振器に電力を供給する発振器用電源と、前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなるとともに、インピーダンス整合回路が不要な双極子電極プラズマ発生装置により行うことを特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法である。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
窒素(N2)ガスと水素(H2)ガスの混合条件での鉄鋼のプラズマ窒化において、前記水素(H2)ガスの量を前記窒素(N2)ガスの量の1/25未満という条件で、プラズマ窒化が行われるようにしてなることを特徴とする鉄鋼のプラズマ窒化方法であるので、次に述べるような効果を奏する。
すなわち、
窒化処理時間2時間の窒化サンプルによる、図の硬度分布対比グラフおよび硬度分布表(段落[0038])から、20μm、30μmの窒化層の表面からの距離(深さ)で、従来条件によるものの表面硬度が1050Hv、800Hvであるのに対して、本実施例によるものの表面硬度が1240Hv、1030Hvであり、よって、本実施例によるものが従来のものより190Hv、230Hvも高い硬度であり、従来技術の条件によるものよりも本発明の条件によるものが格段に優れているものであることが明らかである。
また、窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)は、図のグラフから500(N2):20(H2)が最適値ではないこと、最適値はそれ未満、すなわち、500(N2):20(H2)未満(以下)=25(N2):1(H2)未満(以下)の条件にあることは明らかであり、その最適値においては、1240Hv、1030Hvより高硬度の優れた窒化層を実現できるものと推察される。
このことは、従来技術と同程度の窒化層深さで同程度の硬さ(Hv)の窒化層を形成する場合、本発明ではより短時間で形成できることを示しており、生産性の著しい向上を実現するものでもある。
【0013】
上記実験データは、特定のチャンバー容積、窒素ガスの注入装置、水素ガスの注入装置、真空装置に限定されて行ったものである。
しかるに、本発明を検証する実験装置では、圧力80Paを維持しながら500cc毎分の窒素ガスをチャンバーに注入し続け、水素ガス20cc毎分を注入するのが限界であり、水素ガス20cc毎分以下の水素ガス量を注入することができないものである。
したがって、図に示す分光器によるNHラジカルの測定結果にあっては、窒素ガス(N2)を500cc分にして、その後水素ガス20cc毎分を注入してからのNHラジカルのスペクトル強度の測定を行っているが、NHラジカルのスペクトル強度は、水素ガスの注入を停止(0cc毎分)してからの後に上昇し最高値に達しており、このときの水素ガス量の正確な数値は特定されていない。
これらの検証実験より、窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)は、500(N2):20(H2)が最適値ではなく、それ以下、すなわち、最適値は窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)が500(N2):20(H2)未満(以下)の条件にあることは明らかである。
【0014】
に示す結果から、本発明の窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比は、従来法の体積比と比較して強いNHラジカルのスペクトル強度が得られていることがわかる。この結果と図に示す結果から、窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)の500(N2):20(H2)未満にある最適値(もっとNHラジカルが活性な域)を見出し、その最適値でプラズマ窒化処理を行うことにより、上記データで得られた優れた結果よりもさらに優れた結果が得られものであることは明らかである。
【0015】
インピーダンス整合回路(マッチングボックス)を使用する従来のRFプラズマ装置やパルス放電プラズマ装置は、プラズマガス圧力やプロセスガス流量比の急激な変化に対して、安定してプラズマを発生することが困難であったり、整合回路の応答速度が条件の変化に追従する事が困難であったりするため、ガス流量や圧力を動的に変化させた分光スペクトルの測定は困難であった。
しかるに、実験に使用した2MHz(実際には2MHzに一定ではなく、周波数の変化がありそれを概2MHzといっている。)の双極子電極プラズマ発生装置では、プラズマ状態変化に対して俊敏に応答し、かつ安定に制御されたプラズマの維持がなされるので、NHラジカルの微細な変化や短時間の変化の分光スペクトルも安定明瞭に現れ、精密な分光器によって測定可能になったものである。
【0016】
前記プラズマ窒化を行うプラズマ窒化装置が、
電位0状態で接地されたチャンバーと、
このチャンバー内に設けられプラズマを発生させる双極子構造のプラズマ発生双極子電極と、
自励式の高周波を発生させる高周波発振部と、
前記チャンバー、該チャンバーに導通形態で一体化されて前記高周波発振部を覆うように設けられた高周波発振部シールドカバーとからなるシールド体と、
トランスの中位点と前記チャンバーを電位0状態で接地してなる中位点接続部と、
発振器に電力を供給する発振器用電源と、
前記チャンバー内に該チャンバーと絶縁状態で設けられたワーク電極形成部と、
このワーク電極形成部にバイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用電源とからなるとともに、 インピーダンス整合回路が不要な双極子電極プラズマ発生装置であり、該双極子電極プラズマ発生装置は、次のような特徴を持つものである。
【0017】
[a]連続なRF(高周波)グロー放電プラズマ発生装置であり、高周波電力でプラズマの強さは大きくも小さくも容易に整調可能である。すなわち、発振器の出力でプラズマ密度が調節できる。
[b]プラスイオンの加速度は直流のバイアスにより自由に調節できるので、イオン効果(スパッタリング作用)は小さくも大きくも自由にでき、よって、表面の粗さおよび精密さ、化合物層生成が自在に制御できる。また交流バイアスを併用すれば絶縁性の膜生成時にも適用できる。
[c]プラズマ制御が速いのでガス種、気圧のカバー範囲が広いので、PVD領域(低圧)でのスパッターやクリーニング処理と、CVD領域(高圧)での化学反応処理も同一チャンバー内で、大気に晒すことなく、連続に運転可能である。
以上のような特徴を有するものであるので、形成される窒化層は表面の精密性、密度・構造、滑らかさにおいて、優れたものにできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1の双極子電極プラズマ発生装置の概念図。
図2】本発明の実施例1の分光器によるNHラジカルおよびN+、N2+イオンの分光スペクトルグラフ。
図3本発明の実施例1の窒化処理材(鉄鋼)と従来技術の硬度分布対比グラフ。
図4本発明の実施例1の分光器によるNHラジカル発光波長、N2+イオン発光波長の発光強度時間変化測定グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態である実施例について説明する。但し、本発明をこれら実施例のみに限定する趣旨のものではない。また、後述する実施例の説明に当って、前述した実施例の同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【実施例1】
【0020】
図1ないし図4に示す本発明の実施例1において1は双極子電極プラズマ発生装置であって、この双極子電極プラズマ発生装置1は次のような構成となっている。
電位0状態で接地された導通性部材からなるチャンバー2と、このチャンバー2内に該チャンバー2とは絶縁状態に設けられてプラズマを発生させる電極A、電極Bからなる双極子電極(対称電極)であるプラズマ発生電極3と、直流を概2MHzの高周波に変えて前記プラズマ発生電極3に供給する、発振器4とトランス5を有する自励式の高周波発振部6と、前記チャンバー2に導通形態で一体化されて前記高周波発振部6を覆うように設けられた、導通性部材からなる高周波発振部シールドカバー7と、前記トランス5の中位点と前記チャンバー2を電位0状態で接地してなる中位点接続部8と、前記高周波発振部6およ該チャンバー2内で生ずる高周波によるノイズ輻射を生じなくさせるための、前記チャンバー2と前記高周波発振部シールドカバー7とによって形成されてなるシールド体9と、このシールド体9と絶縁状態で前記発振器4に直流電力を供給するDC電源である発振用電源10と、前記チャンバー2内に該チャンバー2と絶縁状態で設けられた、鉄鋼からなるワーク14をバイアス電極状態にするためのワーク電極形成部11と、このワーク電極形成部11にバイアス直流電圧を供給する、前記シールド体9と絶縁状態とされ且つ該シールド体9と電位0状態で接地されたバイアス形成用直流電源12(交流電源でもよい)と、ワーク電極形成部11の下部に設置されたヒータ17とからなっている。
チャンバー2の内壁はガラス製部材、セラミックス製部材などの耐蝕壁13となっていてもよい。
チャンバー2内は真空引きにより減圧でき、窒素ガス(N2)、水素ガス(H2)、アルゴンガスなどのガスを注入できるようになっている。
【0021】
高周波電力は、同一形状の電極Aおよび電極Bを介して、プラズマに平衡給電される。電極A,Bは同一形状であるので、自己バイアス現象は生じない。プラズマは直流電位的にはシールド体9(金属などの導体)と同電位にある。プラズマのバイアス電圧が必要な時は、ワーク電極形成部11との間にトランス5の中位点15からバイアス電位(直流)を与えるようになっている。高周波は平衡給電し、シールド体9には高周波電流は流れない。それゆえシールド体9の電位変動は起こらないので、アースされたシールド体9全体の電位は常に”0“となりシールドされた状態、即ちコモンモードの発生が低減されノイズ輻射は起こりにくい。
【0022】
自励発振とは、プラズマの電気的諸条件を発振に必要な”共振回路(コイルとコンデンサ、抵抗で構成)に含めて設計しておくと、プラズマの負荷状態により発振周波数が決定され”自ら”(自動とか手動とかでなく“自発的に”の意)共振条件に追随し発振することをいう。
このしくみでは、プラズマの状態変化は、すなわち共振回路の定数変化と同等であり、自励発振の応答、すなわち周波数変化への俊敏な応答が“自ずから”なされ、よって、安定したプラズマ状態が維持される。
【0023】
双極子電極プラズマ発生装置1のメリット>
1)原理的に不要輻射が放射されにくい
国際条約で決められたISMバンドを使わずともプラズマ発生ができる
2)プラズマ発生に適した周波数選択が可能
プラズマはその発生させる面積や分布状態、電子密度などで、電気的条件がかわる。周波数や注入パワーをその用途に応じて自由に選択できることになる。
【0024】
3)製作する装置に適した周波数選択が可能
用途からの要求される周波数もさることながら、放電電力や制御のし易さ、部品の調達など装置を製作する上で、周波数を選択できることも、コストやシステム構築にとって重要な要素である。
【0025】
4)周波数(可変)による整合が可能となるので、
・コンデンサやコイルの値を機械的に動かす従来の方法より、電気的な整合となるのではるかに高速、精密制御ができる、
・自励発振であるので周波数自動調整手法が使えるものであり、電気的な周波数(可変)整合による高速、精密な制御がシンプルな制御構成により実現できる、
・反射電力検知装置、インピーダンス整合回路(マッチングBOX)が不要、ローコストになる。
【0026】
5)チャンバーを電極としない、即ちプラズマとチャンバーが同電位であるので、プラズマ洗浄(クリーニング)や蒸着などを行うとき、チャンバー内壁が汚れにくい
【0027】
6)別にダミー電極を設けることができる。ダミー電極とは、ワーク電極と同じようにこの電極にバイアスを与え、何の処理も行わず、専らチャンバー内のプラスイオンを吸着させる電極の事である。例えばワーク電極上でのプラズマ処理を行う前に、プラスイオンを引き付けチャンバー内に存在するプラスイオンを吸着させ、高減圧操作を実行せずにチャンバー内の清浄化を行うことができる。
【0028】
7)高周波電力でプラズマを発生させた状態にして、バイアス形成用直流電源をON/OFFとすることにより、直流プラズマもON/OFFできる。これによって、
[a]高周波プラズマをONとしバイアス形成用直流電源をOFFとした状態での高周波プラズマのみの使用、
[b]高周波発振部をONとして高周波プラズマを発生した後でバイアス形成用直流電源をONとして直流プラズマを発生させ、高周波プラズマと直流プラズマの混合プラズマ状態を形成しての使用、
[c]高周波発振部をONとして高周波プラズマを発生した後でバイアス形成用直流電源をONとして直流プラズマを発生させ、高周波発振部をOFFにして直流プラズマのみでの使用という、三つの使用パターンの安定したプラズマ発生を可能とする。
【0029】
8)高周波電力(RF電力)と、加速するバイアス電圧が別々に調節できる。高周波電力(RF電力)によってプラズマ密度を調節することができるとともに、ワークに衝突するイオンの加速度をバイアス電圧により調節することができる。
【0030】
窒素(N2)と水素(H2)の体積比を70(N2):30(H2)と、窒素(N2)と水素(H2)の体積比を500(N2):20(H2)=1(H2)/25(N2)の図に示す硬さ分布データを取得した。
【0031】
*硬度分布表
窒化層の表面 本実施例 従来技術 差
からの距離 (N2:H2=500:20) (N2:H2=70:30)
10μm 1260Hv 1160Hv 100Hv
20μm 1240Hv 1050Hv 190Hv
30μm 1030Hv 800Hv 230Hv
40μm 720Hv 630Hv 90Hv
50μm 650Hv 600Hv 50Hv
【0032】
*窒化処理条件
処理時間 2時間
窒化材料 大同特殊鋼DHAI(SKD61改良材)
焼き入れ・焼き戻し済み HRS48
圧力 80Pa
温度 500℃
プラズマ 概2MHzRFプラズマ(入力 230V 0.8A)
バイアス DC500V
【0033】
に示す、窒化処理時間2時間の窒化サンプルの硬度分布表から次のことが明らかである。
窒素(N2)と水素(H2)の体積比を70(N2):30(H2)という、従来条件の鉄鋼のプラズマ窒化方法と比べて、本発明の条件の範囲である窒素(N2)と水素(H2)の体積比を500(N2):20(H2)という、プラズマ窒化が硬さ(Hv)と窒化層の深さ(μm)のいずれもが、従来技術の条件によるものよりも本発明の条件によるものが格段に優れているものであることが明らかである。
すなわち、水素(H2)ガスの量を窒素(N2)ガスの量の1/25未満という条件でのプラズマ窒化処理により、表面に従来技術よりも良好な窒素拡散層を形成してなる鉄鋼を実現している。
の窒化処理材の硬度分布グラフおよび該グラフの上記データ表から、20μm〜30μmで190Hv〜230Hv高い硬度の本実施例の方が、従来技術よりも優れた顕著な高硬度を実現するものであることが明らかである。
【0034】
このことは、従来技術と同程度の窒化層深さの同程度の硬さ(Hv)の窒化層を形成する場合、本発明ではより短時間で形成できることを示しており、生産性の著しい向上を実現するものでもある。
概2MHzの双極子電極プラズマ発生装置1によるプラズマ窒化処理にあっては、自励発振による俊敏なプラズマ状態変化への対応と、プラズマの安定状態の維持がなされるので、NHラジカルなどの微細な変化や短時間の変化の分光スペクトルも安定明瞭、精密に分光器に現れ、よって測定可能であり、これを用いて制御可能である。
に示す硬さ分布データは、特定のチャンバー容積、窒素ガスの注入装置、水素ガスの注入装置、真空装置に限定されて窒化処理を行ったものである。
【0035】
しかるに、双極子電極プラズマ発生装置1では、500cc毎分の窒素ガスをチャンバーに注入し続け、圧力80Paを維持しながら水素ガス20cc毎分を注入するのが今回の装置の限界であり、水素ガス20cc毎分以下の水素ガス量を注入することができないものである。
したがって、図に示す分光器によるNHラジカルの測定結果にあっては、窒素ガス(N2)を500cc毎分にして、その後水素ガス20cc毎分を注入してからのNHラジカルのスペクトルの測定を行っているが、NHラジカルのスペクトル強度は、水素ガスの注入を停止(0cc毎分)してからの後に上昇し最高値に達しており、このときの水素ガス量の正確な数値は特定されていない。
よって、窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)を、500(N2):20(H2)が最適値ではなく、最適値は窒素(N2)と水素(H2)のガスの体積比(混合比)を、500(N2):20(H2)未満、すなわち、水素(H2)ガスの量を窒素(N2)ガスの量の1/25未満としたところにあるとするのが相当である。
【0036】
概2MHzの双極子電極プラズマ発生装置1によるプラズマ窒化処理にあっては、プラズマ状態の変化への俊敏な対応とそれらの安定状態の維持がなされる。
このことが、窒化層の短時間での形成に寄与していると考えられるものであり、500(N2):20(H2)未満(水素(H2)ガスの量を窒素(N2)ガスの量の1/25未満)の体積比とによって、良質な窒化層の短時間での形成がなされていると考えられる。
【0037】
鉄鋼材としては、主としてS15CK等の肌焼鋼、S45C等の構造用鋼、SUP10等のばね鋼、SUJ2等の軸受鋼、SACM1等の窒化鋼、SKD61等の熱間加工用鋼、SKD11等の冷間加工用鋼、SKH51等の高速度鋼、SUS301等の耐熱鋼、SCr20等の機械部品鋼、SUS410等の耐熱耐酸鋼等、各種ある。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、鉄鋼のプラズマ窒化を行う産業で利用される。
【符号の説明】
【0039】
1:双極子電極プラズマ発生装置、
2:チャンバー、
3:発生双極子電極、
4:発振器、
5:トランス、
6:高周波発振部、
7:高周波発振部シールドカバー、
8:中位点接続部、
9:シールド体、
10:発振用電源、
11:ワーク電極形成部、
12:バイアス形成用直流電源、
13:耐蝕壁、
14:ワーク、
17:ヒータ。
図1
図2
図3
図4