特許第6047737号(P6047737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6047737-複合サイクル試験機 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6047737
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】複合サイクル試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-14824(P2016-14824)
(22)【出願日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年3月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107583
【氏名又は名称】スガ試験機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】菊川 信治
(72)【発明者】
【氏名】井上 純
(72)【発明者】
【氏名】北村 徳久
(72)【発明者】
【氏名】古山 和弘
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−276715(JP,A)
【文献】 特開平09−196424(JP,A)
【文献】 特開2010−019440(JP,A)
【文献】 特開2015−064250(JP,A)
【文献】 特開平07−293972(JP,A)
【文献】 特開2016−008942(JP,A)
【文献】 特開2013−079887(JP,A)
【文献】 特開2006−125991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
F24F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧腐食試験を含む複合サイクル試験を行う複合サイクル試験機であって、
試験槽と、
前記試験槽と連通した調温調湿槽と、
前記試験槽に設けられた吹き出し口と、
前記調温調湿槽に設けられ、前記吹き出し口から前記試験槽内へ空気を送る送風機と、
前記試験槽内の空気が前記調温調湿槽へ排出される第1排出口および第2排出口と、
前記吹き出し口に設けられ、水平方向にそれぞれ伸びると共に互いに異なる高さ位置に設けられた複数の風向板を有する風向調整部と、
前記試験槽に設けられ、腐食液を噴霧する噴霧器と、
前記試験槽内に設けられ、水平方向に並ぶように複数の試験片が載置される載置台と
を備え、
前記吹き出し口、前記第1排出口および前記第2排出口は、いずれも、前記載置台の水平方向における一端側に設けられており、
前記試験槽内の空気が、前記第1排出口および前記第2排出口を通過して前記調温調湿槽へ取り込まれ、前記調温調湿槽において所定の温度および所定の湿度に調整されたのち前記送風機によって前記試験槽に送られるようになっており、
前記第1排出口の高さ位置と前記第2排出口の高さ位置とが異なり、
前記吹き出し口の高さ位置は、前記載置台の高さ位置、前記第1排出口の高さ位置および前記第2排出口の高さ位置のいずれよりも高く、
前記載置台の高さ位置は、前記第1排出口の高さ位置および前記第2排出口の高さ位置のいずれよりも高い
複合サイクル試験機。
【請求項2】
前記試験槽は前記吹き出し口が設けられた壁部を有し、
前記複数の風向板は、鉛直方向に並んでおり、または下方から上方に向かうほど前記壁部から離れるように並んでいる
請求項1に記載の複合サイクル試験機。
【請求項3】
前記複数の風向板のうちの少なくとも1つにおける傾斜角度は、他の前記風向板の傾斜角度と異なっている
請求項1または請求項2に記載の複合サイクル試験機。
【請求項4】
前記試験槽内の空気のうち、前記第1排出口を通過した第1の空気と前記第2排出口を通過した第2の空気とを合流させたのち前記調温調湿槽へ導入する合流部をさらに備えた
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合サイクル試験機。
【請求項5】
前記試験槽と前記調温調湿槽との間のうち前記第1排出口および前記第2排出口の各々と対向するように立設した仕切り壁をさらに備えた
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合サイクル試験機。
【請求項6】
前記複合サイクル試験は浸漬試験を含むものであり、
前記仕切り壁の上端の高さ位置が、前記載置台に載置される前記試験片の上端の高さ位置よりも高い
請求項5に記載の複合サイクル試験機。
【請求項7】
前記第1排出口の面積は、前記第2排出口の面積よりも大きい
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合サイクル試験機。
【請求項8】
前記吹き出し口の近傍に設けられた第1の温湿度センサと、
前記載置台の近傍に設けられた第2の温湿度センサと、
予備運転において前記第1の温湿度センサにより測定される第1の測定値と前記予備運転において前記第2の温湿度センサにより測定される第2の測定値との偏差と、実際の試験において前記第1の温湿度センサにより測定される測定値とに基づいて前記試験槽内の温湿度を制御する制御部と
をさらに備えた請求項5に記載の複合サイクル試験機。
【請求項9】
前記載置台の異なる位置に設けられた複数の温湿度センサと、
前記複数の温湿度センサにより各々測定される複数の測定値に基づいて前記風向板の向きを変更する制御部と
をさらに備えた請求項5に記載の複合サイクル試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材料の耐食性を評価する複合サイクル試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
複合サイクル試験は、例えば噴霧腐食試験、乾燥試験および湿潤試験などの複数種の環境試験を組み合わせて1サイクルとし、このサイクルを繰り返して行うことで試験片の腐食を促進させ、各種材料の耐食性を評価するものである。複合サイクル試験機によれば、このような複合サイクル試験を同じサンプルに対して1つの試験槽内で行うことができる。複合サイクル試験機では、1サイクルに含まれるある試験から他の試験に移行する際、例えば温湿度条件などの試験槽内の環境を切り替える必要がある。
【0003】
一般に、複合サイクル試験機の試験槽内における雰囲気の温湿度条件は、試験槽内の雰囲気を乱すことが禁じられている試験(塩水噴霧試験など)工程以外では、試験槽外の調温調湿槽において予め調温および調湿がなされた調温調湿済みの空気(以下、調温調湿空気という。)を攪拌扇により試験槽内に送り込むと共に循環させることで制御されている。
【0004】
この試験槽内における雰囲気の温湿度制御については、例えば特許文献1に開示された補助送風装置が提案されている。この補助送風装置は、試験槽内に送風機およびダクトを設置し、被試験物の大きさや形状等に応じてダクトの吹き出し位置を変更することにより試験槽内の環境条件を改善するようにしたものである。
【0005】
また、塩水噴霧試験などの噴霧腐食試験を実施できる複合サイクル試験機において、試験片を載置する試験片載置台は、噴霧塔から噴霧された腐食液を自然落下によって複数の試験片にできるだけ実質的に均等に付着させるため、水平方向に延在するように設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−196424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、複合サイクル試験において試験環境(試験槽内の雰囲気)に曝される試験片の腐食は、噴霧腐食試験において表面に付着した腐食液の塩の状態が周囲の温湿度の変動により変化することで促進される。したがって、試験槽内の温湿度を次の環境試験の条件に移行(例えば塩水噴霧試験から乾燥試験に移行)する際には、試験槽内に載置された全ての試験片に対して同様の温湿度条件を与えながら試験槽内の雰囲気を変化させることが、試験片の腐食挙動にばらつきのない均質な試験結果を得るために重要となる。
【0008】
前述のように、試験槽内の温湿度条件を移行する際に各試験片に同じ温湿度条件を与えるためには、調温調湿槽から試験槽内に送り込まれる調温調湿空気の流速が、試験槽内の試験片が載置される各位置で均質化されている必要がある。
【0009】
一方、近年、製品開発の高速化などの理由から、一度に多くの試験片を十分に均質化された試験条件下で行うことのできる複合サイクル試験機が望まれている。例えば、約8m3の容積を有する試験槽を備えた大型の複合サイクル試験機が既に製造されている。
【0010】
しかしながら、複合サイクル試験機における試験槽容積の大型化に伴い、複合サイクル試験において試験槽内の温湿度条件を次に行う環境試験の条件に移行する際、調温調湿槽から試験槽内に送り込まれる調温調湿空気の流速が、試験槽内での試験片の載置位置の違いによりばらつくおそれがあった。このため、複合サイクル試験機ごとに調温調湿空気の流れを個々に調整することが困難であった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、試験槽内の、試験片を載置する位置において各試験片に与えられる温湿度条件の均質性を保ちながら、試験槽内雰囲気の温湿度条件を容易に調整可能な複合サイクル試験機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の複合サイクル試験機は、噴霧腐食試験を含む複合サイクル試験を行うものであって、試験槽と、この試験槽と連通した調温調湿槽と、試験槽に設けられた吹き出し口と、調温調湿槽に設けられ、吹き出し口から試験槽内へ空気を送る送風機と、試験槽内の空気が調温調湿槽へ排出される第1排出口および第2排出口と、吹き出し口に設けられ、水平方向にそれぞれ伸びると共に互いに異なる高さ位置に設けられた複数の風向板を有する風向調整部と、試験槽に設けられ、腐食液を噴霧する噴霧器と、試験槽内に設けられ、水平方向に並ぶように複数の試験片が載置される載置台とを備える。吹き出し口、第1排出口および第2排出口は、いずれも、載置台の水平方向における一端側に設けられており、試験槽内の空気が、第1排出口および第2排出口を通過して調温調湿槽へ取り込まれ、調温調湿槽において所定の温度および所定の湿度に調整されたのち送風機によって試験槽に送られるようになっている。また、第1排出口の高さ位置と第2排出口の高さ位置とが異なり、吹き出し口の高さ位置は、載置台の高さ位置、第1排出口の高さ位置および第2排出口の高さ位置のいずれよりも高い。載置台の高さ位置は、第1排出口の高さ位置および第2排出口の高さ位置のいずれよりも高い
【0013】
本発明の複合サイクル試験機では、高さ位置の異なる2つの排出口(第1排出口および第2排出口)を備えるようにしたので、試験槽と調温調湿槽とを循環する空気の、試験片位置での流速のばらつきが緩和される。また、本発明の複合サイクル試験機では、吹き出し口に設けられた風向調整部をさらに備えるようにしたので、試験槽と調温調湿槽とを循環する空気の、試験片を載置する位置における流速のばらつきが低減される。その風向調整部は、水平方向にそれぞれ伸びると共に互いに異なる高さ位置に設けられた複数の風向板を有するものである。それら複数の風向板のうちの少なくとも1つにおける傾斜角度は、他の風向板の傾斜角度と異なっているとよい。
【0014】
本発明の複合サイクル試験機では、さらに試験槽内に、水平方向に延在すると共に試験片を載置する載置台を備え、載置台の高さ位置が、第1排出口の高さ位置および第2排出口の高さ位置のいずれよりも高いことが望ましい。また、吹き出し口の高さ位置は、例えば試験槽の最上部付近であり、第2排出口の高さ位置は、例えば試験槽の底面付近であってもよい。また、第1排出口の面積は、第2排出口の面積よりも大きいとよい。また、吹き出し口の近傍に設けられた第1の温湿度センサと、載置台の近傍に設けられた第2の温湿度センサと、第1の温湿度センサにより測定される第1の測定値と第2の温湿度センサにより測定される第2の測定値との偏差に基づいて試験槽内の温湿度を制御する制御部とをさらに備えるとよい。また、載置台の異なる位置に設けられた複数の温湿度センサにより各々測定される複数の測定値に基づいて風向板の向きを変更する制御部をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合サイクル試験機によれば、第1の排出口と、これと高さ位置の異なる第2の排出口と、複数の風向板を有する風向調整部とを設けるようにしたので、試験槽内の、試験片を載置する位置において、試験槽内の各試験片に与えられる温湿度条件の均質性を保ちながら、試験槽内雰囲気の温湿度条件の変更を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る複合サイクル試験機の全体構成例を表す概略図である。
図2図1に示した複合サイクル試験機を正面から眺めた正面図である。
図3】第1の変形例としての複合サイクル試験機の要部を表す概略図である。
図4A】実験例において試験槽内の空気の流速を測定する箇所を説明するための説明図である。
図4B】実験例において試験槽内の空気の温度を測定する箇所を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、その説明は以下の順序で行う。
1.一実施の形態(基本構造を有する複合サイクル試験機)
2.変形例(風向板の並び方を変更した例)
3.実験例
【0018】
<1.一実施の形態>
[複合サイクル試験機の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る複合サイクル試験機10の概略構成例を模式的に表したものである。また、図2は、図1に示した複合サイクル試験機10を正面から眺めた正面図である。この複合サイクル試験機10は、1つの試験槽1内で例えば噴霧腐食試験と、乾燥試験と、湿潤試験とを順次繰り返し行うことができるものである。図1に示したように、この複合サイクル試験機10は、試験槽1と、調温調湿槽2と、制御部3とを備えている。
【0019】
試験槽1の中央付近には、試験片Sを複数載置することのできる試験片載置台12が例えば水平に延在するように設けられている。なお試験槽1には、噴霧腐食試験に対応させるため、試験片載置台12は1段のみ設けられている。複数の試験片載置台12を重ねて載置する(すなわち多段に設ける)ようにすると試験片同士が鉛直方向に重なり合ってしまうので、噴霧された腐食液を自然落下によって各試験片に実質的に均等に付着させることができなくなってしまうからである。また、試験槽1内には、噴霧腐食試験において腐食液を試験槽1内に噴霧する噴霧塔14が四隅にそれぞれ1つずつ、合計4つ設けられている。各噴霧塔14の高さ位置は、試験片載置台12の高さ位置よりも高いことが望ましい。試験槽1は、上記の各種試験を実施する際に、雰囲気が所定の試験条件を満たすようになっている。試験槽1は、調温調湿槽2との間を仕切る壁部1Aと、その反対側の壁部1Bに設けられた開口1Kとを有している。開口1Kには扉13が開閉可能に取り付けられており、開口1Kを介して試験槽1への試験片Sの設置と、試験槽1からの試験片Sの取り出しとが行われるようになっている。
【0020】
調温調湿槽2は所定の温度および所定の湿度に調整された空気、すなわち調温調湿空気を生成し、その調温調湿空気を試験槽1へ提供する部位である。調温調湿槽2には冷却器21およびヒータ22が設けられている。また、調温調湿槽2には外気強制導入口23が設けられており、その外気強制導入口23から外気を導入することができるようになっている。なお、調温調湿槽2には、例えば加湿器により発生する飽和空気が供給されるようになっていてもよい。
【0021】
壁部1Aの、例えば最上部付近には、調温調湿槽2から調温調湿空気が吹き出す吹き出し口5が設けられている。吹き出し口5は、調温調湿槽2の空気が試験槽1へ供給される窓口であり、少なくとも試験片載置台12よりも上方に位置する。
【0022】
さらに、壁部1Aの下部には第1排出口6および第2排出口7が設けられている。第1排出口6および第2排出口7は、試験槽1内の空気を調温調湿槽2へ排出するための窓口であり、例えば壁部1Aのうち試験片載置台12の下方に設けられている。第1排出口6および第2排出口7から流入した試験槽1内の空気は、例えば仕切り1Cに突き当たったのち上方へ導かれ、仕切り1Cの上端を折り返してさらに下方へ移動したのち、調温調湿槽2に導入されるようになっている(図1)。この仕切り1Cは、噴霧腐食試験において試験槽1内へ噴霧される腐食液の液滴(または、試験片を溶液に浸漬させる浸漬試験を実施する場合において試験槽1内へ導入される浸漬液)が調温調湿槽2内に侵入することを防止するために設けられている。
【0023】
第1排出口6の高さ位置は第2排出口7の高さ位置と異なっており、ここでは第1排出口6が第2排出口7の上方に設けられている。第1排出口6の高さ位置は、試験片載置台12の高さ位置よりも低いことが望ましい。また、第2排出口7の高さ位置は、試験槽1の底面近傍であることが望ましい。さらに、吹き出し口5の高さ位置は、当然ながら第1排出口6の高さ位置および第2排出口7の高さ位置のいずれよりも高い。また、第1排出口6の面積(開口面積)は第2排出口7の面積(開口面積)よりも大きいことが望ましい(図2)。
【0024】
さらに、調温調湿槽2は、調温調湿槽2内の調温調湿空気を試験槽1へ送風する送風機4を複数有している。複数の送風機4は、幅方向(調温調湿槽2と試験槽1とを結ぶ方向と直交する方向)に並ぶように配置されている。
【0025】
送風機4は、モータ41と、モータ41によって回転するシャフト42と、シャフト42の先端に固定された羽部43とを有する。送風機4は、モータ41により例えば一定速度でシャフト42を介して羽部43を回転させ、時間あたりの風量を一定に維持するように調温調湿空気を、調温調湿槽2から吹き出し口5を介して試験槽1へ送風するようになっている。また、送風機4は、試験槽1内の空気を強制的に調温調湿槽2内へ取り込むように機能する。具体的には送風機4の駆動により、すなわち送風機4の羽部43の回転によって生成される循環流により、試験槽1と調温調湿槽2との間で空気が循環するようになっている。その際、制御部3により冷却器21およびヒータ22を制御(必要に応じて外気強制導入口23および加湿器も制御)することで、試験槽1内の雰囲気を乱すことが禁じられている試験(塩水噴霧試験など)工程以外の複合サイクル試験の各試験工程、および塩水噴霧試験もしくはそれ以外の各試験工程間の移行時において、試験槽1内の雰囲気を所定の温湿度に調節することができる。
【0026】
このように調温調湿槽2と試験槽1とは、吹き出し口5と、第1排出口6および第2排出口7とを介して互いに連通している。このような構成により、調温調湿槽2内において生成される調温調湿空気が、送風機4の羽部43の回転によって調温調湿槽2から吹き出し口5と、試験槽1と、第1排出口6および第2排出口7とを順に経由して再び調温調湿槽2へ流入するようになっている。
【0027】
吹き出し口5には風向調整部8が設けられている。風向調整部8は複数の風向板81を有する。複数の風向板81は、例えば水平方向にそれぞれ伸びると共に互いに異なる高さ位置に設けられており、例えば鉛直方向に並んでいる。
【0028】
複数の風向板81のうちの少なくとも1つにおける傾斜角度は、他の風向板81の傾斜角度と異なっている。例えば図1では全部で6つの風向板81を有し、そのうちの上から1番目および2番目の風向板81における傾斜角度は、それらの下方に位置する4つの風向板81の傾斜角度のいずれよりも緩い(水平に近い)。なお、風向板81は例えば水平方向に伸びる回転軸J1を中心として回転可能に構成されている。風向板81を複数設けることにより、吹き出し口5から試験槽1へ導入される空気の上下方向における吹き出し角度を所定の範囲の角度に設定することができる。これにより、試験槽1と調温調湿槽2とを循環する調温調湿空気の局所的な滞留が解消され、試験槽1内の、試験片Sを載置する位置における調温調湿空気の流速分布のばらつき、特に壁部1A近傍での流速分布と扉13近傍での流速分布との相違を低減することができる。
【0029】
風向調整部8は、さらに、鉛直方向にそれぞれ伸びると共に水平方向に並ぶ複数の風向板82を有しているとよい(図2)。風向板82は、例えば鉛直方向に伸びる回転軸J2を中心として回転可能に構成されている。風向板82を複数設けることにより、吹き出し口5から試験槽1へ導入される空気の左右方向における吹き出し角度を所定の範囲の角度に設定することができる。
【0030】
試験槽1内には、例えば吹き出し口5の近傍に乾球温度センサ91Aおよび湿球温度センサ92Aからなる温湿度センサ9Aが設けられているとよい(図1)。さらに、試験槽1内における試験片載置台12の上またはその近傍に、他の乾球温度センサ91Bおよび他の湿球温度センサ92Bからなる他の温湿度センサ9Bが設けられているとよい。その理由は、実際の試験を実施する前に予備運転を行い、温湿度センサ9Aにおいて測定される温湿度データと温湿度センサ9Bにおいて測定される温湿度データとの偏差等に基づき、試験中における調温調湿槽2内の調温調湿空気の調整を制御部3によって行うことができるからである。なお、噴霧腐食試験中に噴霧された腐食液が温湿度センサ9Bに付着すると、腐食液に含まれる塩の影響を受け、温湿度センサ9Bで測定された温湿度の値と温湿度センサ9B近傍の実際の温湿度との間にずれが生じるおそれがある。このため、実際の試験では、腐食液の影響を受けにくい位置にあり、また付着した腐食液を洗浄する洗浄機構(図示しない)を備える温湿度センサ9Aの実測値を試験槽1内の温湿度として、各種環境試験に規定の温湿度条件となるように制御している。
【0031】
しかしながら、温湿度センサ9Aの位置と試験片Sの位置とは異なるので、温湿度センサ9Aの実測値と試験片Sに与えられる温湿度との間にもずれが生じるおそれがある。そこで、予備運転では、実際の試験と同様の複合サイクル試験を実施し、温湿度センサ9Aで測定される吹き出し口5の位置における温湿度の実測値と、温湿度センサ9Bで測定される試験片Sの位置における温湿度の実測値との差を偏差として、制御部3に入力する。これにより、温湿度センサ9Aの制御目標値は入力された偏差で補正されるため、温湿度センサ9Aで試験槽1内の温湿度制御を行う実際の複合サイクル試験においても、制御部3は、試験片Sの位置が各種環境試験の規定の温湿度条件となるように制御を行うことができる。また、偏差設定後に試験片載置枠12上から温湿度センサ9Bを取り外して実際の試験を行えば、温湿度センサ9Aによって試験片Sの位置における温湿度条件を正確に制御しつつ、より多くの試験片Sを同時に同じ複合サイクル試験に曝すことができる。
【0032】
さらに、温湿度センサ9Bを離散的に複数設け、実際の試験の前に予備運転を行うことで試験片Sの位置での温度分布を各々測定し、それらの測定値の中心値(平均値)を基に偏差等の設定を行うようにしてもよい。例えば、予備運転で温湿度センサ9Aの測定値が60℃となるように温度制御している際に、試験片載置台12の上に離散的に配置された複数の温湿度センサ9Bの測定値の平均値が58℃である場合、その温度差2℃が偏差として制御部3に入力される。これにより、温湿度センサ9Aの制御目標値が補正され、温湿度センサ9Aは設定値の60℃に偏差の2℃が加算された62℃となるように温湿度制御が行われる。したがって、試験片載置台12近傍の温度の平均値は設定値の60℃となり、試験片Sと異なる位置にある温湿度センサ9Aで温湿度制御を行う場合でも、試験片Sの位置における温湿度をより正確に設定値に制御することができる。
【0033】
さらに、温湿度センサ9Bを複数、離散的に設け、実際の試験を実施する前に予備運転を行い、複数の温湿度センサ9Bにおいて測定される温湿度データのばらつきが低減されるように風向板81,82の向きの調整等を予め実施してもよい。その際、制御部3は、複数の温湿度センサ9Bにより各々測定される複数の測定値に基づいて、例えばモータなどの駆動部に風向板81,82の向きを変更させるように制御するとよい。
【0034】
制御部3は中央演算処理装置(CPU)やメモリを有するコンピュータを利用し、メモリに予め記憶させた所定のプログラムに従い、各種環境試験の実行制御を行うものである。
【0035】
[複合サイクル試験機10の作用効果]
このように、この複合サイクル試験機10では、試験槽1内における試験片載置台12の下方に高さ位置の異なる2つの排出口(第1排出口6および第2排出口7)を設けると共に、吹き出し口5に複数の風向板81を有する風向調整部8を設けるようにしたので、試験槽1と調温調湿槽2とを循環する空気の、試験片を載置する位置における流速分布や温湿度分布が均質化される。このため、複合サイクル試験において試験槽内の雰囲気を次に行う環境試験の温湿度条件に移行する際、試験槽1内に載置された各試験片に対して、同様の温湿度条件を与えることができる。よって、例えば試験槽1の容積が増大した場合であっても、試験片位置における空気の温湿度のばらつきを抑えることができ、試験条件移行中の温湿度条件のばらつきに起因する各試験片の腐食挙動のばらつきを抑制した、より信頼性の高い複合サイクル試験を行うことができる。
【0036】
<2.一実施の形態の変形例>
図3は、上記実施の形態の変形例としての複合サイクル試験機10Aの要部における概略構成例を模式的に表したものである。上記実施の形態では、風向調整部8における複数の風向板81が鉛直方向に並ぶようにした。これに対し、本変形例における風向調整部8は、図3に示したように、下方から上方へ向かうほど試験槽1へせり出すように、すなわち下方から上方へ向かうほど壁部1Aから離れるように並んでいる複数の風向板81Aを有している。こうすることにより、試験槽1内において、より壁部1Aに近い領域における空気の流速を高めることができる。この結果、試験槽1と調温調湿槽2とを循環する空気の、試験片を載置する位置における流速分布や温湿度分布がより均質化される。
【0037】
<3.実験例>
(実験例1)
上述の実施の形態で説明した複合サイクル試験機10(図1)において、塩水噴霧試験(温度35℃,湿度95%rh以上)から乾燥試験(温度60℃,湿度20%rh〜30%rh)への試験条件移行開始から30分後(環境条件移行中)の試験槽1内における空気の流速分布および温度分布を測定した。ここでは、試験槽1における幅および奥行を共に2m(=2000mm)とし、図4Aで示した各位置での試験片載置台12の近傍における空気の流速分布を測定した。図4Aにおいて、下方が扉13に近い位置を示し、上方が吹き出し口5に近い位置を示している。表1にその結果を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
また、図4Bで示した各位置での試験片載置台12の近傍における空気の温度分布を測定した。図4Bにおいて、下方が扉13に近い位置を示し、上方が吹き出し口5に近い位置を示している。表2にその結果を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
(実験例2)
第1排出口6および風向調整部8を設けなかったことを除き、他は図1に示した複合サイクル試験機10と同様の構成を有する複合サイクル試験機において、実験例1と同様にして空気の流速分布および温度分布をそれぞれ測定した。それらの結果を表3および表4にそれぞれ示す。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
実験例2では、表3に示したように流速に大きなばらつきが見られた。特に、壁部1Aの近傍では扉13の近傍よりも大幅に流速の低下が見られた。また、表4に示したように、温度にも大きなばらつきが見られた。
【0045】
これに対し実験例1では、表1および表2に示したように、空気の流速および温度のいずれについても試験槽1内でのばらつきが大幅に改善された。具体的には、流速の最大値と最小値との差分を、実験例2では3.74m/秒であったものを実験例1では2.25m/秒に減少させることができた。これにより、温度の最大値と最小値との差分を、実験例2では8.3℃であったものを実験例1では3.4℃に減少させることができた。
【0046】
さらに、試験槽1内の試験片載置台12の近傍における相対湿度は、実験例2では、最大値が図4BのPP11の位置で63.3%、最小値がPP13の位置で39.4%となっており、その差分は23.9%であった。これに対し実験例1では、最大値が図4BのPP11の位置で48.6%、最小値がPP14の位置で40.0%となり、相対湿度の最大値と最小値の差分を8.6%まで減少させることができた。
【0047】
この結果、本発明の複合サイクル試験機10によれば、互いに高さ位置の異なる第1排出口6と第2排出口7と複数の風向板81を有する風向調整部8とを設けるようにしたので、複合サイクル試験の試験槽1内の温湿度条件移行時における、試験槽1と調温調湿槽2とを循環する空気の、試験片を載置する位置における流速分布、温度分布および湿度分布のばらつきを大幅に低減できることが確認できた。
【0048】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態において説明した各部材の配置位置や形状、個数等は例示であって、上記実施の形態において説明したものに限定されない。また、上記実施の形態において説明した以外の部材を備えるようにしてもよい。具体的には、本発明の複合サイクル試験機では、例えば複合サイクル試験の試験工程の1つとして浸漬試験を行う際の浸漬液タンクおよびその供給配管をさらに備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…試験槽、1A,1B…壁部、1C…仕切り、1K…開口、12…試験片載置台、13…扉、14…噴霧塔、2…調温調湿槽、21…冷却器、22…ヒータ、23…外気強制導入口、3…制御部、4…送風機、5…吹き出し口、6…第1排出口、7…第2排出口、8…風向調整部、81,82…風向板、9A,9B…温湿度センサ、10,10A…複合サイクル試験機。
【要約】
【課題】試験槽内の、試験片を載置する位置において各試験片に与えられる温湿度条件の均質性を保ちながら、試験槽内雰囲気の温湿度条件を容易に調整可能な複合サイクル試験機を提供する。
【解決手段】複合サイクル試験機10は、試験槽1と、この試験槽1と連通した調温調湿槽2と、試験槽1に設けられた吹き出し口5と、調温調湿槽2に設けられ、吹き出し口5から試験槽1内へ空気を送る送風機4と、試験槽1内の空気が調温調湿槽2へ排出される第1排出口6および第2排出口7と、吹き出し口5に設けられ、複数の風向板81を有する風向調整部8とを備える。試験槽1内の空気が、第1排出口6および第2排出口7を通過して調温調湿槽2へ取り込まれ、調温調湿槽2において所定の温度および所定の湿度に調整されたのち送風機4によって試験槽1に送られるようになっている。第1排出口6の高さ位置と第2排出口7の高さ位置とが異なり、吹き出し口5の高さ位置は、第1排出口6の高さ位置および第2排出口7の高さ位置のいずれよりも高い。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4A
図4B