特許第6047813号(P6047813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6047813ラッカーゼ及びそれを用いたエピテアフラガリンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047813
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ラッカーゼ及びそれを用いたエピテアフラガリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161212BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20161212BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20161212BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N9/04 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P7/18
   A23F3/16
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-43815(P2012-43815)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-179849(P2013-179849A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306018343
【氏名又は名称】クラシエ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】黒川 純司
(72)【発明者】
【氏名】松永 孝之
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 勝
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勉
(72)【発明者】
【氏名】小此木 明
(72)【発明者】
【氏名】勝部 祐司
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−000159(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/141945(WO,A1)
【文献】 特開2009−114079(JP,A)
【文献】 特開2009−219484(JP,A)
【文献】 ITOH, N. et al.,"Laccase-catalyzed conversion of green tea catechins in the presence of gallic acid to epitheaflagallin and epitheaflagallin 3-O-gallate.",TETRAHEDRON,2007年 9月17日,Vol.63, No.38,pp.9488-9492,ISSN 0040-4020
【文献】 WANG, H.X. et all.,"A new laccase from dried fruiting bodies of the monkey head mushroom Hericium erinaceum.",BIOCHEM. BIOPHYS. RES. COMMUN.,2004年 9月10日,Vol.322, No.1,pp.17-21,ISSN 0006-291X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
C12N 9/00− 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有し、かつヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716が起源である、ラッカーゼ。
(i)分子量:67.2kDa(SDS-PAGE)
(ii)サブユニット構造:単量体
(iii)至適pH:pH4.5
(iv)天然型酵素のN末端アミノ酸配列:
Ala - Ile - Gly - Pro - Val - Thr - Asp - Leu - His - Ile
【請求項2】
さらに以下の理化学的性質を有する請求項1に記載のラッカーゼ。
(v)熱安定性:安定温度は50℃以下(pH 6.0、30分)
(vi)pH安定性:pH4.0〜9.0では安定
【請求項3】
没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成する請求項1〜2のいずれか1項に記載のラッカーゼ。
【請求項4】
没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成する請求項1〜2のいずれか1項に記載のラッカーゼ。
【請求項5】
以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
【請求項6】
ラッカーゼ活性が、没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成する活性である、請求項5に記載のタンパク質。
【請求項7】
ラッカーゼ活性が、没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成する活性である、請求項5に記載のタンパク質。
【請求項8】
以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質をコードするポリ核酸化合物。
(a)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
【請求項9】
以下の(d)、(e)又は(f)に示す塩基配列を有するポリ核酸化合物。
(d)配列表の配列番号1に示す塩基配列;
(e)配列表の配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(f)配列表の配列番号1に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列
【請求項10】
ラッカーゼ活性が、没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成する活性である、請求項8又は9に記載のポリ核酸化合物。
【請求項11】
ラッカーゼ活性が、没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成する活性である、請求項8又は9に記載のポリ核酸化合物。
【請求項12】
請求項〜11のいずれか1項に記載のポリ核酸化合物を発現可能に含有する組換えベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項14】
ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716を培養し、その培養物からラッカーゼを採取することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラッカーゼの製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からラッカーゼを採取することを特徴とする、請求項5〜のいずれか1項に記載のラッカーゼの製造方法。
【請求項16】
エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキン3-O-ガレートに、没食子酸の存在下、請求項1〜のいずれか1項に記載のラッカーゼまたはタンパク質を作用させて、それぞれエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン3-O-ガレートを得ることを含む、エピテアフラガリン類の製造方法。
【請求項17】
茶抽出物に、没食子酸を添加し、請求項1〜のいずれか1項に記載のラッカーゼまたはタンパク質を作用させて、前記茶抽出物に含まれるエピガロカテキン及び/又はエピガロカテキン3-O-ガレートの少なくとも一部をそれぞれエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン3-O-ガレートに変換することを含む、エピテアフラガリン類を含有する飲料の製造方法。
【請求項18】
茶抽出物が、緑茶抽出物、ウーロン茶抽出物、又は紅茶抽出物である請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラッカーゼ及びそれを用いたエピテアフラガリンの製造方法に関する。本発明は、より詳細には、新規なラッカーゼ、新規なラッカーゼをコードするポリ核酸化合物、このポリ核酸化合物を含む形質転換体等、新規なラッカーゼの製造方法、新規なラッカーゼを用いたエピテアフラガリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶カテキンあるいはそれを含有する緑茶は、既に多くの機能性を示す研究報告がなされており、有用な機能性食品として認められている。茶カテキンの主成分は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種類であり、特に緑茶エキスはEGCg等の渋み成分の含有量が多い。
【0003】
緑茶カテキンを没食子酸の存在下、ラッカーゼで酸化させるとエピテアフラガリン3-O-ガレート(ETFGg)などのエピテアフラガリン類の含量を高めることができる。これは緑茶カテキンに含まれるEGCgの持つピロガロール基と没食子酸からベンゾトロポロン環が形成され、ETFGgが生産される為である。
【0004】
【化1】
【0005】
ETFGgなどのエピテアフラガリン類は、高い抗酸化能、膵リパーゼ阻害による中性脂肪吸収抑制作用、糖の吸収抑制作用、がん転移抑制作用など、生活習慣病やメタボリックシンドロームを抑制する優れた機能が確認されている(例えば、特許文献1)。さらに口腔関連では、虫歯、歯周病予防作用を示すことが明らかになっている(例えば、特許文献2、3)。
【0006】
本発明者らは、先に、食品に直接利用できるエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートの簡便な製造方法、並びにこの製造方法を利用したエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートを含有する飲料の製造方法を提供した(特許文献4、非特許文献1)。この方法は、食品として使用が認められている各種ポリフェノールオキシダーゼや食品添加物として認められている没食子酸を利用して、緑茶等の風味を損なうことなくエピテアフラガリン類を製造する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4815421号公報
【特許文献2】特2009−219484号公報
【特許文献3】特2009−221191号公報
【特許文献4】特許4026723号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N.Itoh, Y. Katsube, K. Yamamoto, N. Nakajima, K. Yoshida, Tetrahedron, 63, 9488-9492 (2007)
【非特許文献2】H.X. Wang & T.B.Ng, Biochemistry and Biophysics Research Communication, 322, 17-21(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び非特許文献1に記載の方法は、ポリフェノールオキシダーゼとしてラッカーゼを用いる。特許文献1及び非特許文献1では、ラッカーゼとして市販のラッカーゼダイワY120(トラメテス(Trametes)属由来、大和化成株式会社)を用いていた。本発明者らは、この酵素を用いて、エピテアフラビン類高含有茶エキスの商品化を目的として、緑茶エキスからのエピテアフラガリン類の製造について検討した。しかし、上記ラッカーゼダイワY120を用いる方法は、実用的なレベルでは、エピテアフラビン類の生産性が低いことが判明した。
【0010】
そこで本発明は、緑茶カテキンを没食子酸の存在下、酸化させてエピテアフラガリン3-O-ガレート(ETFGg)などのエピテアフラガリン類の含量を高める方法において、生産性が高い新たなラッカーゼを提供すること、さらにはこのラッカーゼを用いたエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートの製造方法、並びにこの製造方法を利用したエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートを含有する飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、約150株の菌体から、上記反応に適した新たなラッカーゼのスクリーニングを行った。その結果、担子菌類に属する菌体から、上記課題を解決できる新たなラッカーゼを見出して本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、緑茶カテキンを没食子酸の存在下、酸化させてエピテアフラガリン3-O-ガレート(ETFGg)などのエピテアフラガリン類の含量を高める方法において使用できる、生産性が高い新たなラッカーゼを提供することができる。さらに本発明によれば、このラッカーゼを用い、高い生産性での、エピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートの製造方法、並びにこの製造方法を利用したエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン-3-O-ガレートを含有する飲料の製造方法の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼ及びラッカーゼダイワY120によるETFGgの生成量の変化の結果
図2】精製酵素(H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼ)のSDS-PAGE
図3】精製酵素(H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼ)の至適pH
図4】精製酵素(H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼ)の熱安定性
図5】精製酵素(H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼ)のpH安定性
図6】全長cDNAの塩基配列
図7】コーディング領域がコードするアミノ酸配列
図8】本発明の新規ラッカーゼとレンティヌラ・エドデス(Lentinula edodes)由来lcc6ラッカーゼ)のアミノ酸配列のアラインメントの結果
【発明を実施するための形態】
【0014】
<新規ラッカーゼのスクリーニング>
151株の担子菌及び糸状菌を購入し、探索対象とした(実施例の表3)。
全151株中、37株は培養がうまくいかず菌体が生育しなかったため、酵素液の抽出及び活性測定を行うことが出来なかった。残りの114株については培養した菌体の抽出液についてラッカーゼ活性を測定した。そのうち70株にラッカーゼ活性がみられた。その中でも特に、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor)、トラメテス・オリエンタリス(Trametes orientalis)、アガリカス・ビスポラス(Agaricus bisporus)由来の菌体の抽出液が強いラッカーゼ活性を示した。
【0015】
これらの高活性を示した株が変換実験に適していると考え、この測定結果を元に、EGCg及び緑茶エキスを用いたETFGgの生産を行った。その結果、ETFGgの生産性が高かった10株を選択した。この結果(実施例の表4)から、ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)由来の酵素が緑茶カテキンを効率的に変換するのに適していると考えH.コラロイデス(coralloides)より、目的のラッカーゼを精製し、その諸性質の決定を行った。その結果、151株のラッカーゼ生産菌の中から、唯一、本発明の新規ラッカーゼが得られた。
【0016】
<新規ラッカーゼ>
本発明の新規ラッカーゼは、下記の理化学的性質を有する、ラッカーゼである。
(i)分子量:67.2kDa(SDS-PAGE)
(ii)サブユニット構造:単量体
(iii)至適pH:pH4.5
(iv)天然型酵素のN末端アミノ酸配列:
Ala - Ile - Gly - Pro - Val - Thr - Asp - Leu - His - Ile (配列番号9)
【0017】
本発明の新規ラッカーゼは、さらに下記の理化学的性質を有することができる。
(iv)熱安定性:安定温度は50℃以下(pH 6.0、30分)
(v)pH安定性:pH4.0〜9.0では安定
【0018】
本発明の新規ラッカーゼは、ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716が起源である。ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716は市販の菌である。本発明の新規ラッカーゼは、没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成するラッカーゼである。さらに、本発明の新規ラッカーゼは、没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成するラッカーゼである。
【0019】
上記本発明のラッカーゼと既存のラッカーゼの理化学的性質を以下の表に示す。表に示すように、至適pHは似ているが、分子量及びN末端配列は、本発明のラッカーゼのアミノ酸配列の何れの部分にも全く一致しない。これらの事実から、両者は異なる酵素だと判断できる。本発明のラッカーゼと既存のラッカーゼとは異なる酵素である。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明の新規ラッカーゼは、以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質である。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
【0022】
上記ラッカーゼ活性は、没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成する活性であることができる。また、上記ラッカーゼ活性は、没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成する活性であることができる。
【0023】
本発明の新規ラッカーゼは、既知のラッカーゼでアミノ酸配列が報告されているものの中で、その同一性が最も高いものレンティヌラ・エドデス(Lentinula edodes)由来lcc6ラッカーゼでも、同一性は77%である。アラインメントの結果は図8に示す。従って、この点でも新しいラッカーゼである。
【0024】
本発明は、以下の(a)、(b)又は(c)のタンパク質をコードするポリ核酸
化合物を包含する。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質
【0025】
本発明は、さらに、以下の(d)又は(e)に示すポリヌクレオチドを含むポリ核酸化合物を包含する。
(d)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(e)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、ラッカーゼ酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0026】
(1)本発明のポリ核酸化合物
本発明のポリ核酸化合物は、下記の(a)、(b)または(c)のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリ核酸化合物である。
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;又は
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;
【0027】
本発明のポリ核酸化合物の具体例としては、以下の(d)、(e)又は(f)に示す塩基配列を有するポリ核酸化合物が挙げられる。
(d)配列表の配列番号1に示す塩基配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(e)配列表の配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(f)配列表の配列番号1に記載の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイスする塩基配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列
【0028】
本発明において、「ラッカーゼ活性」とは、没食子酸の存在下、エピガロカテキンに作用してエピテアフラガリンを生成する活性であることができる。または上記ラッカーゼ活性は、没食子酸の存在下、エピガロカテキン3-O-ガレートに作用してエピテアフラガリン3-O-ガレートを生成する活性であることができる。
本発明のポリ核酸化合物は、例えば、ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716から単離できる。
【0029】
本明細書で言う「1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0030】
本明細書で言う「配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における同一性は、90%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上である。
【0031】
本明細書で言う「1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0032】
上記した「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0033】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の同一性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAが挙げられる。
【0034】
本発明のポリ核酸化合物の取得方法は特に限定されない。本明細書中の配列表の配列番号1および2に記載したアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いてヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより本発明のポリ核酸化合物(遺伝子)を単離することができる。cDNAライブラリーは、本発明のポリ核酸化合物を発現している細胞から常法により作製することができる。
【0035】
PCR法により本発明のポリ核酸化合物を取得することもできる。上記したcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0036】
上記したプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的ポリ核酸化合物のクローニングなどの操作は当業者に既知の方法を用いて行うことができる。
【0037】
また、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリ核酸化合物;並びに配列表の配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、ラッカーゼをコードする塩基配列を有するポリ核酸化合物(以下、これらのポリ核酸化合物を変異ポリ核酸化合物と称する)については、配列番号1〜12に記載のアミノ酸配列および塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。
【0038】
例えば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用である。
【0039】
(2)本発明のタンパク質
本発明のタンパク質は、下記の何れかのアミノ酸配列を有する。
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;又は
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、ラッカーゼ活性を有するアミノ酸配列;
【0040】
本発明のタンパク質はラッカーゼ活性を有するタンパク質である。ラッカーゼ活性については前記の通りである。
【0041】
本発明のタンパク質の取得方法は特に制限されず、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質でもよい。
組換えタンパク質を作製する場合には、先ず、本明細書の上記(1)に記載した当該タンパク質をコードするポリ核酸化合物(DNA)を取得する。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明のタンパク質を産生することができる。発現系でのタンパク質の発現については本明細書中後記する。
【0042】
さらに本発明は、上記本発明のポリ核酸化合物を発現可能に含有する組換えベクター、この組換えベクターを含む形質転換体を包含する。
【0043】
(3)本発明の組換えベクター
本発明のポリ核酸化合物は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明のポリ核酸化合物は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0044】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosidase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌のlac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0045】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0046】
また、本発明のポリ核酸化合物は必要に応じて、適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明の組換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)などの要素を有していてもよい。
本発明の組換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0047】
本発明の組換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。本発明のポリ核酸化合物、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0048】
(4)本発明の形質転換体及びそれを用いた組換えタンパク質の製造
本発明のポリ核酸化合物又は組換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。
本発明のポリ核酸化合物または組換えベクターを導入される宿主細胞は、本発明のポリ核酸化合物を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
【0049】
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
【0050】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0051】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0052】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。
【0053】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0054】
上記の形質転換体は、導入されたポリ核酸化合物の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明のタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0055】
<ラッカーゼの製造方法>
本発明のラッカーゼの製造方法は、ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716を培養し、その培養物からラッカーゼを採取することを含む方法、及び、上記本発明の形質転換体を培養し、得られる培養物からラッカーゼを採取することを含む方法である。ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716または上記本発明の形質転換体の培養は、例えば、実施例に記載のラッカーゼ生産菌の探索の項における培養条件を参照して実施できる。さらに、培養物からのラッカーゼの採取は、同項の酵素液の抽出を参照して実施できる。
【0056】
<エピテアフラガリン類の製造方法>
本発明のエピテアフラガリン類の製造方法は、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキン3-O-ガレートに、没食子酸の存在下、本発明のラッカーゼまたはタンパク質を作用させて、それぞれエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン3-O-ガレートを得ることを含む。
本発明のエピテアフラガリン類を含有する飲料の製造方法は、茶抽出物に、没食子酸を添加し、本発明のラッカーゼまたはタンパク質を作用させて、前記茶抽出物に含まれるエピガロカテキン及び/又はエピガロカテキン3-O-ガレートの少なくとも一部をそれぞれエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン3-O-ガレートに変換することを含む。
本発明のエピテアフラガリン類を含有する飲料の製造方法において、茶抽出物は、緑茶抽出物、ウーロン茶抽出物、又は紅茶抽出物であることがきる。
【0057】
本発明のエピテアフラガリン類を含有する飲料の製造方法は、本発明のエピテアフラガリン類の製造方法の一態様である。以下、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートが茶抽出物に含まれている場合、即ち、エピテアフラガリン類を含有する飲料の製造方法を例に説明する。エピテアフラガリン類の製造方法については、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートが茶抽出物を、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する原料または原料溶液、と読み替えて実施することができる。
【0058】
本発明において、茶抽出物は、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する物であれば特に制限はない。茶抽出物としては、例えば、緑茶抽出物、ウーロン茶抽出物、または紅茶抽出物を挙げることができる。
【0059】
緑茶抽出物
緑茶は、ツバキ属(Camellia)植物の葉の抽出物であり、主にCamellia sinensis、Camellia assamicaの新芽を原料として、それを乾燥させたものである。緑茶抽出物としては、例えば、SD緑茶エキスパウダーNo.16714(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、カメリアエキス40R(太陽化学株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0060】
ウーロン茶抽出物
ウーロン茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を一定時間発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(半発酵茶)。ウーロン茶抽出物としては、例えば、FDウーロン茶エキスパウダーNo.16297(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0061】
紅茶抽出物
紅茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を強発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(強発酵茶)。紅茶抽出物としては、例えば、SD紅茶エキスパウダーNo.16691(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0062】
茶抽出物の例を以下の表2に示す。但し、これらの茶抽出物は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0063】
【表2】
EGCおよびEGCg含有量は、各メーカーのカタログ値
【0064】
本発明の方法では、茶抽出物に含まれるエピガロカテキン及びエピガロカテキンガレートの総量に対してモル比で1〜10の没食子酸を添加することが適当である。好ましくはエピガロカテキン及びエピガロカテキンガレートの総量に対してモル比で2〜5の没食子酸を添加する。
【0065】
ラッカーゼは、本発明のラッカーゼである。
【0066】
ラッカーゼは遊離の酵素または固定化酵素であることができる。ラッカーゼは遊離の酵素である場合、ラッカーゼは没食子酸を添加した茶抽出物に所定量添加し、所定時間、所定温度で変換反応を行う。ラッカーゼの所定量とは、例えば、茶抽出物を0.5(w/v)%〜15(w/v)%を含む溶液1mlに対して0.1〜2.0U(DMPを用いた活性)の範囲である。
【0067】
尚、茶抽出物にどの程度のエピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートが含有されているかは、茶抽出物により異なる。例えば、エピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの総和が20(w/w)%以上と称されているSD緑茶エキスパウダーでは、エピガロカテキンが約10(w/w)%、エピガロカテキンガレートが約13(w/w)%ほど含まれている。従って、例えば茶抽出物を1%含む溶液は、エピガロカテキンが約1mg/ml、エピガロカテキンガレートが約1.3mg/mlになる。
【0068】
変換反応についての所定時間とは、例えば、10分〜15時間、所定温度とは20〜60℃の範囲である。ラッカーゼによる変換反応後に、茶抽出物を加熱して酵素を失活させることをさらに含む。加熱条件は、70〜90℃で2〜10分とすることが適当である。
【0069】
ラッカーゼは固定化酵素であることもできる。固定化酵素を用いる場合、ラッカーゼによる変換反応は、固定化酵素を、没食子酸を添加した茶抽出物に添加して行うことができる。変換反応の時間及び温度は、例えば、10〜240分、所定温度とは20〜60℃の範囲である。変換反応後に茶抽出物から固定化酵素を除去する。除去は、例えば、固定化酵素を濾過することで行うことができる。
【0070】
ラッカーゼは固定化酵素である場合、ラッカーゼによる変換反応は、固定化酵素を充填した容器に没食子酸を添加した茶抽出物を通すことで行うこともできる。茶抽出物の流通の条件は、温度を20〜60℃の範囲とし、固定化酵素との接触時間を例えば、10〜240分の範囲とすることで行うことができる。
【0071】
ラッカーゼによる変換反応は、茶抽出物に酸素または空気を通気しながら行うことができる。酸素または空気を通気することで、変換反応を促進することができる。酸素または空気の通気条件は例えば、0.2〜10 L/L/minとすることができる。さらに、通気の効果を高めるために、反応液を攪拌しながら通気を行うこともできる。
【0072】
ラッカーゼによる変換反応は、茶抽出物に含まれる少なくとも一部のエピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートを、それぞれエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン-3-O-ガレートに変換するように実施する。目的によっては、エピガロカテキン及び/又はエピガロカテキンガレートの全量がエピテアフラガリン及び/又はエピテアフラガリン-3-O-ガレートに変換するように、没食子酸の添加量や反応条件を選択することができる。
【0073】
ラッカーゼによる変換反応は、茶抽出物に没食子酸を添加して行うが、茶抽出物には、ラッカーゼ活性のpH依存性を考慮して、pH調整を目的として緩衝剤を添加することもできる。但し、変換反応生成物は、そのまま飲料として利用されることを考慮すると、緩衝剤としては、例えば、リン酸及びその塩類、クエン酸及びその塩類などを用いることが好ましい。勿論、緩衝剤を添加せずに、ラッカーゼによる変換反応を行うこともできる。
【0074】
本発明の製造方法により得られる飲料は、そのまま飲料として利用することができる。本発明の製造方法により得られる飲料は、具体的には、茶飲料であり、茶飲料としては、例えば、緑茶飲料、緑茶風飲料、ウーロン茶飲料、ウーロン茶風飲料、紅茶飲料、または紅茶風飲料を挙げることができる。本発明の製造方法により得られる飲料は、エピテアフラガリン類を、例えば、0.001〜1.0質量%含有するものであることができる。
【0075】
さらに、本発明の製造方法により得られる飲料は、そのまま飲料として利用することもできるが、没食子酸存在下で茶抽出物をラッカーゼで処理した液を、抽出・精製または濃縮を行い、噴霧乾燥または凍結乾燥し、整粒によりエキス粉末を調製する。こうした濃縮溶液またはエキス粉末を各種形態の食品およびヘルスケア製品の原料として供することもできる。
【0076】
濃縮溶液またはエキス粉末を適用できる食品としては、例えば、ガム、菓子、キャンデー、サプリメント等を挙げることができる。濃縮溶液またはエキス粉末を適用できるヘルスケア製品としては、例えば、口腔洗浄液、歯磨きペースト等を挙げることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
ラッカーゼ生産菌の探索
[実験材料]
富山県農林水産総合技術センター所有菌で15株、米国アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)で1株、製品評価技術基盤機構(NITE)で135株、計151株の担子菌及び糸状菌を購入し、探索対象とした(表3)。
【0079】
[菌の継代及びフリーズストック]
Potato Dextrose Agar(BD社)スラント培地で継代をおこなった。また、2ml容積のスクリューキャップチューブに10%(v/v)グリセロール1mlとポテトデキストロース液体培地で培養した菌糸塊(2,3個)を入れ、4℃に30分間放置後、-80℃で凍結保存してフリーズストックを作成した。
【0080】
【表3】
【0081】
培養及び抽出条件
[培養条件]
10mlのポテトデキストロース液体培地を入れた試験管に担子菌等を植菌し、25℃で振盪培養(振盪速度180min-11)を行った。次に、形成した菌糸塊をフスマ固体培地(小麦ふすま20g、水道水20ml、0.1M CuSO4 20μl)に植菌し、25℃で培養した。
【0082】
[酵素液の抽出]
培養後、培地にpH6.0の20mMリン酸カリウム緩衝液(KPB)を50ml加えて薬さじでよく撹拌し、4℃で4時間放置した。その後キッチンペーパーで濾過し、濾液を遠心(10,000rpm、10min、4℃)した。上澄みを取り出し、これを酵素抽出液とした。
【0083】
ラッカーゼ活性及びタンパク質濃度の測定
[ラッカーゼ活性測定]
1mM DMPを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5) 990μlに酵素抽出液10μlを加え、25℃で反応させた。この時の波長468nmにおける吸光度の増加を測定した。このDMPの酸化反応によって2,2',6,6'-tetramethoxydibenzo-1,1'-diquinone(分子吸光係数49.6mM-1cm-1)が生成される。なお、酵素1Uは1分間に1μmolの生成物を生産する酵素量とした。
【0084】
【化2】
【0085】
[タンパク質濃度の測定]
タンパク質濃度はBradford法によって測定した。タンパク質定量試薬にはProtein Assay Reagent(Bio-Rad社)、スタンダードにはウシ血清アルブミン(BSA)溶液を用いた。
【0086】
ETFGgの生産
[EGCgを用いたETFGgの生産]
エピガロカテキン3-O-ガレート(EGCg)2.0mg、没食子酸4.8mgと0.13U分(DMPを用いた活性)のラッカーゼダイワまたは酵素抽出液を水に溶解し、全量1mlの反応系とした。これを45℃で振とうしながら酵素反応を行った。時間ごとにサンプルを採取し、等量の50%エタノールを添加し、フィルター濾過(0.45μm)した後、HPLCを用いてETFGgを測定した。なお、活性が0.5U/mL以下の酵素抽出液は濃縮操作後、生産反応を行った。
【0087】
[HPLC分析条件]
以下の条件で分析を行った。
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:CadenzaCD-C18 (75×4.6mm、3μm)
カラム温度:40℃
移動相:A液:0.05mol/l リン酸塩緩衝液(pH 2.3)
/ アセトニトリル混液(10:1)
B液:0.05mol/l リン酸塩緩衝液(pH 2.3)
/ アセトニトリル混液(1:1)
B液濃度:0%(0分)→0%(5分)→35%(21分)→35%(23分)
→0%(25分)→0%(30分)
流量:0.9ml/min
流入量:5μl
【0088】
[緑茶エキスを用いたETFGgの生産]
緑茶エキス10mg(太陽化学、カメリアエキス40R、EGCg 1.63mg含)、没食子酸4.8mgと0.13U分(DMPを用いた活性)のラッカーゼダイワまたは酵素抽出液を水に溶解し、全量1mlの反応系とした。これを45℃で振とうしながら酵素反応を行った。サンプルの調製とHPLC分析条件はEGCgによる実験方法と同様に行った。
【0089】
[没食子酸の濃度変化に伴うETFGgの生成量の変化]
緑茶エキス10mg(EGCg 1.63mg含)、没食子酸と0.13U分(DMPを用いた活性)のラッカーゼダイワまたはヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)由来の酵素抽出液を水に溶解し、全量1mlの反応系とした。没食子酸の濃度は0.8mg/ml、2.4mg/ml、4.8mg/mlと換えて行った。これを45℃で振とうしながら酵素反応を行った。サンプルの調製とHPLC分析条件はEGCgによる実験方法と同様に行った。
【0090】
[ラッカーゼ活性測定結果]
全151株中、114株の抽出液のラッカーゼ活性を測定した。(残りの株は培養がうまくいかず生育しなかったため、酵素液の抽出及び活性測定を行うことが出来なかった。)そのうち70株にラッカーゼ活性がみられた。その中でも特にトラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor)、トラメテス・オリエンタリス(Trametes orientalis)、アガリカス・ビスポラス(Agaricus bisporus)由来の抽出液が強いラッカーゼ活性を示した。これらの高活性を示した株が変換実験に適していると考え、この測定結果を元に、EGCg及び緑茶エキスを用いたETFGgの生産を行うことにした。
【0091】
[EGCgを用いたETFGgの生産]
ラッカーゼ活性測定の結果を元に、高活性を示した株の抽出液を使って変換実験を行った。その結果、ETFGgの生産性が高かった株を以下に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
この結果から、ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)、コリオラス・エロンガタス(Coriolus elongatus)、ヘリシウム・エリナセウム(Hericium erinaceum)の酵素抽出液で酵素反応を行った時、ETFGgの生産性が高いということがわかった。この中でも特に、H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼで変換実験を行った時にETFGgの生産性が高かったので、このラッカーゼが緑茶カテキンを効率的に変換するのに適していると考えた。そこで、H.コラロイデス(coralloides)より、目的のラッカーゼを精製することにした。
【0094】
[没食子酸の濃度変化に伴うETFGgの生成量の変化]
反応させる没食子酸の濃度を低下させていくと、ETFGgの生成率はどう変化するのかをH.コラロイデス(coralloides)由来の抽出液とラッカーゼダイワを使用して実験を行った。その結果、ETFGgの生成率はどちらも没食子酸の濃度にほぼ比例して増加するということがわかった(図1)。また、全ての没食子酸濃度においてETFGgの生成率はラッカーゼダイワよりH.コラロイデス(coralloides)の方が優れていた。このH.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼはラッカーゼダイワY120よりETFGgを約2倍生成できるということがわかった。
【0095】
ヘリシウム(Hericium)属由来のラッカーゼは、3種の変換率測定法の何れにおいてもETFGgの生産性が高いことが分かり、特にヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides)NBRC 7716株が最も優れた生産性を示した。これは、現在、エピテアフラビン類の生産に用いられているラッカーゼダイワY120よりも約2倍の高生産性を示し、当該ラッカーゼの使用により緑茶カテキンをETFGgに効率的に変換することが可能となった。
【0096】
[酵素精製]
[方法]
300 gの小麦ふすま培地から得られた酵素抽出液を硫酸アンモニウム沈殿法で分画した。40-80 %飽和濃度で得られた沈殿物を集め、40 %飽和濃度硫安を含む20 mM KPB pH 6.0で懸濁した。同じ緩衝液で平衡化したButyl-Toyopearl 650M(東ソー (株))カラムに酵素液を供した。酵素を40から0 %の飽和濃度硫安の逆濃度勾配により溶出した。透析した画分を同じ緩衝液(20mM KPB pH 6.0)で平衡化したDEAE-Toyopearl 650M(東ソー(株))カラムに供した。酵素を0から0.5 M NaClの濃度勾配により溶出した。透析した画分を同じ緩衝液(0.3M NaClを含む20mM KPB pH 6.0)で平衡化したCellulofine GCL2000sf(2.0 ×100 cm)(チッソ(株)社製)カラムに供した。透析した画分を同じ緩衝液(MOPS buffer pH 7.0)で平衡化したBioassist Qカラム(東ソー(株))に供した。酵素を0から0.3 M NaClの濃度勾配により溶出した。
【0097】
[結果]
酵素精製を行った結果、最終的に精製度は162倍、回収率は1.2 %となった(表5)。
また、酵素精製度をSDS-PAGEで確認したところ、最終的に単一なタンパク質として酵素を得ることができた(図2)。
【0098】
【表5】
【0099】
SDS-PAGEで約67.2 kDaの位置のバンドの酵素のN末端アミノ酸配列分析を行った。その結果、N末端側より10アミノ酸の配列を決定できた。(配列番号9)

確定アミノ酸
(1) (5) (10)
Ala - Ile - Gly - Pro - Val - Thr - Asp - Leu - His - Ile

この配列は、取得できたcDNA配列から得られた配列の23番目から33番目と完全に一致した。また、この配列はヘリシウム・エリナセウム(Hericium erinaceum)の乾燥子実体から報告されたラッカーゼのN末端配列:AVDDDAEQIP(非特許文献2)とは全く異なるものであり、既知ラッカーゼとは異なる。
【0100】
[ゲルろ過クロマトグラフィー]
[方法]
本酵素の分子量を決定するためにTSK-Gel G3000sw(東ソー (株))カラム(7.5 mm I.D. ×30 cm)を用いたHPLC分析を行った。マーカーにはMW-marker(オリエンタル酵母工業(株)社製)を用いた。
[結果]
高いラッカーゼ活性を示す画分にUVクロマトグラムのピークが見られ、そのピークの保持時間は85.3 minだった。MW-markerの検量線から計算したところ、推定分子量は約68,000 Daであった。これはSDS-PAGEの結果とほぼ一致し、モノマーの酵素である事が分かった。
【0101】
諸性質の決定
以下の諸性質の決定については全て、精製したサンプルを酵素液として使用した。
[至適pH]
緩衝液として0.2M 酢酸緩衝液 (pH 3.5-4.5)、0.2M リン酸カリウム緩衝液 (pH5.0-8.5)を用いた。それぞれ25℃で反応させて、活性測定を行った。その結果、至適pHは4.5であることがわかった(図3)。
【0102】
[熱安定性]
温度は氷上及び30〜70℃の間で、10℃刻みで行った。緩衝液として0.2M リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)を用い、それぞれの温度でプレインキュベートしておいた。さらに酵素液を加えて、30分間インキュベートを行った。その後、反応温度25℃で、0.05M 酢酸緩衝液(pH4.5)とDMPを用いて残存活性を測定した。その結果、安定温度は50℃以下(pH 6.0、30分)であることがわかった(図4)。
【0103】
[pH安定性]
緩衝液として0.1M citrate-NaOH (pH 3.0-5.0)、0.1M リン酸カリウム(pH 6.0-8.0)、0.1M Gly-NaOH (pH 9.0-11.0)を用いた。それぞれの緩衝液に酵素液を加えて、4℃で3時間及び15時間インキュベートを行った。その後、反応温度25℃で、0.05M 酢酸緩衝液 (pH4.5)とDMPを用いて残存活性を測定した。その結果、pH安定性は4.0〜9.0であることがわかった(図5)。
【0104】
[基質特異性]
基質としてDMP、ABTS、4-アミノアンチピリン(下記参照)を用いた。反応温度25℃で、緩衝液として0.05M 酢酸緩衝液 (pH4.5)を用いて活性を測定した。
<基質>
DMP: 1mM 2,6‐ジメトキシフェノール
ABTS: 2mM 2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)
4-アミノアンチピリン: 83.3mMフェノール、3mM 4-アミノアンチピリン
【0105】
H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼの基質特異性を調べるために、DMP、ABTS及び4-アミノアンチピリンを基質に用いて、活性測定を行った。H.コラロイデス(coralloides)由来のラッカーゼとラッカーゼダイワを比較し、基質特異性を検討した結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
[遺伝子クローニング]
[方法]
ポテトデキストロース液体培地で菌を培養した後、集菌し、液体窒素下、乳鉢と乳棒ですり潰した。トリス飽和フェノールを用いてすり潰した菌体からゲノムDNAを抽出した。
total RNAを抽出するために、小麦ふすま培地で菌を培養した。培養した菌体を小麦ふすまごと液体窒素下、乳鉢と乳棒ですり潰した。ある程度すり潰した後、グラスビーズ(0.5 mm)を加え、さらにすり潰した。TRIZOL(R) 試薬(ライフテクノロジーズジャパン(株)社製)を用いてすり潰した菌体からtotal RNAを抽出した。RACE法によってラッカーゼをコードする遺伝子配列を取得した。SMARTerTM RACE cDNA Amplification Kit(タカラバイオ(株)社製)を用いて5'-RACE及び3'-RACEを行った。
【0108】
精製酵素のN末端アミノ酸配列及びラッカーゼの銅結合部位II(銅結合部位I〜IVの2番目)の配列を基に、オリゴヌクレオチドプライマーLAC-N-ter-1 (5'-CCNGTNACNGAYYTNCAYAT-3')(配列番号3)とLAC-copper2-com (5'-RTGRCTRTGRTACCARAANG-3') (配列番号4)を合成した。これらのプライマーを用いてゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、ラッカーゼ遺伝子の部分配列を取得した。取得した配列を基にオリゴヌクレオチドプライマーlcc2-N2F (5'-CAATGTCATCAATGAACTGACGG-3') (配列番号5)を合成した。このプライマーとSMARTerTM RACE cDNA Amplification Kitを用いてtotal RNAを鋳型に3'-RACE PCRを行った。得られた配列を基にオリゴヌクレオチドプライマーlcc2-cdna-N5R (5'-GACCAGCAGTCACGGATACAAC-3') (配列番号6)を合成した。このプライマーを用いて5'-RACE PCRを行った。
【0109】
3'-RACE及び5'-RACEによって得られた配列を基にオリゴヌクレオチドプライマー
lcc2-fullcDNA-Nend (5'-GTTCGAGGTCTTTCACCCCTAG-3') (配列番号7)とlcc2-fullcDNA-Cend (5'-GCAACCTACAACTTTGCACGTAT-3') (配列番号8)を合成した。このプライマーを用いてtotal RNAを鋳型にRT-PCRを行い、全長cDNAを取得した。
【0110】
[結果]
取得した全長cDNA(配列番号1)は1925 bpであり、コーディング領域は1533 bpである(図6)。コーディング領域がコードするアミノ酸配列(配列番号2)(図7)の分子量は55,171.2である。ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides) NBRC 7716株培養液から精製した酵素の測定分子量(67.2 kDa: SDS-PAGEのデータ及び、68 kDa:ゲルろ過でのデータ)との差異は、糖鎖の付加に起因するものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、ラッカーゼに関する分野および茶カテキンに関連する分野に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0112】
SEQ ID NO:1 ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides) NBRC 7716 ラッカーゼDNA
SEQ ID NO:2 ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides) NBRC 7716 ラッカーゼPRT
SEQ ID NO:3〜8 プライマー
SEQ ID NO:9 ヘリシウム・コラロイデス(Hericium coralloides) NBRC 7716 ラッカーゼN末端アミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]