特許第6047916号(P6047916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6047916-容器詰め米飯の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047916
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】容器詰め米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20161212BHJP
【FI】
   A23L7/10 E
   A23L7/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-105112(P2012-105112)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-230132(P2013-230132A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100098442
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 美穂子
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100161791
【弁理士】
【氏名又は名称】大神田 梢
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100180817
【弁理士】
【氏名又は名称】平瀬 実
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友里
(72)【発明者】
【氏名】福井 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎治
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−224962(JP,A)
【文献】 特開2011−045249(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038825(WO,A1)
【文献】 特開昭52−061248(JP,A)
【文献】 特開平07−194354(JP,A)
【文献】 特開平09−172992(JP,A)
【文献】 特開平07−147918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に生米と炊飯用水を充填し、容器に含気させて密封し、
容器内の米の品温を所定の加熱殺菌温度まで昇温させる昇温工程と、
該米の品温を該加熱殺菌温度で保持する加熱殺菌工程と、
殺菌終了後の冷却工程とから成るレトルト殺菌を行うことにより容器詰め米飯を製造する方法であって、
該容器がレトルトパウチであり、
該密封された容器の含気量を、生米と炊飯用水の合計体積に対して15〜40%とし、
該昇温工程において米の品温(冷点)が90℃を超え、所定の殺菌温度に達する前に容器を反転させるとともに、
昇温工程開始時から冷却工程終了時まで、容器内の最上層の米粒とその上方の容器壁の内面との間に隙間が維持されるように米の品温に応じて容器に加わる圧力を、容器内圧力よりも、
前記昇温工程においては71%〜97%の範囲で低く、
前記加熱殺菌工程においては76%〜80%の範囲で低く、
前記冷却工程においては49%〜76%の範囲で低く調節することを特徴とする容器詰め米飯の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、容器の反転を行うことを特徴とする請求項に記載の容器詰め米飯の製造方法。
【請求項3】
前記加熱殺菌工程において、容器の反転を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の容器詰め米飯の製造方法。
【請求項4】
前記容器内に含有させる気体は、不活性ガスであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の容器詰め米飯の製造方法。
【請求項5】
前記加熱殺菌工程は、熱水による加熱殺菌であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の容器詰め米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器詰め米飯の製造方法に関し、特にレトルトパウチ詰め米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルトパウチ詰め米飯は、生米と炊飯用水をパウチに充填・密封してレトルト殺菌装置内の殺菌棚に載置し、加圧加熱殺菌と米飯の炊飯を同時に行う方法、前記方法に用いる米を、生米を水に一定時間浸漬した後の浸漬米を用いる方法等を用いて、従来生産されている。これらのレトルトパウチ詰め米飯の製造方法においては、炊き上がった米飯が圧力によって押し潰されやすく、パウチの下部の米飯が押し潰されて粽のような状態になることや、パウチの下部と上部、中心部と端部では水分が不均一となる問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1には、原料米穀を水洗、水に浸漬した後95℃以上で蒸し、次いで再び水に浸漬して原料米穀の1.7〜2.0倍の重量に調整し、その後、水、調味料と共に容器に充填・密封し、加圧・加熱処理する米飯の製造方法が開示されている。この方法によれば、容器に充填する前に米は充分に吸水することができるが、蒸し工程があるために食感が若干脆い米飯の仕上がりとなり、また、再度の浸漬のために手間や時間がかかり、エネルギー消費も大きく製造費が高コストになるという問題がある。
【0004】
一方、特許文献2には、水分を均一にするために、洗浄後の生米を水に浸漬・水切りして水と共に耐熱性パウチに充填・密封し、加熱昇温工程の品温(冷点)が70〜90℃の段階において、レトルト釜を連続的に半回転させる方法が開示されている。この方法によれば、炊飯時における水分分布を均一に調整でき、米粒の形状が崩れてモチ状になることは防止できるが、加熱昇温工程や殺菌工程でパウチを連続的に半回転するため、パウチ内の米に割れた米粒が散見される場合がある。また、前記したように連続的に回転させることにより、ある程度パウチ内の米粒の偏りは防止できるが、回転条件によっては前記偏りが散見され、或いは、パウチの上部の米は乾燥気味に、パウチの下部の米は水分が多くなりがちであり、米の炊き上がりや水分分布をより均一にするために更なる改良が求められる。
【0005】
また、生米でなく、炊飯した米飯を容器に充填後にレトルト殺菌を行う方法では、炊飯後の米飯は粘着性があるために容器に充填することが難しい上に、衛生上の管理も煩わしい。さらに、炊飯した米飯を無菌充填する方法もあるが、そのための特別の装置が必要となり、製造コストが高額となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−55009
【特許文献2】特開平9−149766
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の容器詰め米飯の製造方法の問題点にかんがみなされたものであって、製造された容器詰め米飯の崩れや米飯の潰れによる粽状になることが防止され、また、パウチ等の容器内の米飯の上部と下部、中心部と端部の間に水分の不均一がなく、さらに香りが良く、米粒表面のざらつきのない食感が良い容器詰め米飯の製造方法を提供するものである。加えて、充填作業が容易で、特別の装置が不要であり、製造コストが低額な容器詰め米飯の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究と実験を重ねた結果、密封された容器の含気量を、生米と炊飯用水の合計体積に対して15〜40%とし、容器内の米の品温を所定の加熱殺菌温度まで昇温させる昇温工程において、米の品温(冷点)が90℃を超え、所定の殺菌温度に達する前に容器を反転させるとともに、昇温工程開始時から冷却工程終了時まで、容器内の最上層の米粒とその上方の容器壁の内面との間に隙間が維持されるように、米の品温に応じて容器に加わる圧力を調節することにより、上記課題を一挙に解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の上記課題を解決するため、本発明の第1の構成においては、容器に生米と炊飯用水を含気させて充填、密封し、容器内の米の品温を所定の加熱殺菌温度まで昇温させる昇温工程と、該米の品温を該加熱殺菌温度で保持する加熱殺菌工程と、殺菌終了後の冷却工程とから成るレトルト殺菌を行うことにより、容器詰め米飯を製造する方法であって、該充填、密封された容器の含気量を、生米と炊飯用水の合計体積に対して15〜40%とし、該昇温工程において米の品温(冷点)が90℃を超え、所定の殺菌温度に達する前に容器を反転させるとともに、昇温工程開始時から冷却工程終了時まで、容器内の最上層の米粒とその上方の容器壁の内面との間に隙間が維持されるように、米の品温に応じて容器に加わる圧力を調節することを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第2の構成においては、第1の構成に加え、前記隙間の維持を、前記容器に加わる圧力を容器内圧力より低く調節することを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第3の構成においては、第1または2の構成に加え、前記冷却工程において容器の反転を行うことを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第4の構成においては、第1〜3のいずれかの構成に加え、前記加熱殺菌工程において容器の反転を行うことを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第5の構成においては、第1〜4のいずれかの構成に加え、前記容器内に含有させる気体は不活性ガスであることを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第6の構成においては、第1〜5のいずれかの構成に加え、前記加熱殺菌工程は熱水による加熱殺菌であることを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第7の構成においては、第1〜6のいずれかの構成に加え、前記容器はレトルトパウチであることを特徴とする容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の構成によれば、容器詰め米飯の崩れ、潰れによる粽状、容器内の米飯の上部と下部、中心部と端部の間の水分の不均一が防止され、香りが良く、米粒表面のざらつきのない、食感の良い容器詰め米飯が提供される。
また、充填作業が容易で、特別の装置が不要であり、製造コストが低額な容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第2の構成によれば、昇温工程開始時から冷却工程終了時まで、容器内の最上層の米粒とその上方の容器壁の内面との間の隙間が容易に維持され、前記食感の良い容器詰め米飯を得るための特別な装置が不要となり、より一層、製造コストが低額な容器詰め米飯の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第3の構成によれば、加熱殺菌工程で容器内に生じた水蒸気が冷却工程において水滴になることにより起こる米飯中の水分の不均衡を是正し、米飯の水分を一層均一なものとすることができる。
【0019】
本発明の第4の構成によれば、米飯の水分をより一層均一なものとすることができる。
【0020】
本発明の第5の構成によれば、香りが良く、さらに、空気を使用する場合に比べて米飯の酸化を防止して長期間保存することができる。
【0021】
本発明の第6の構成によれば、熱水中にあることで容器に浮力が加わるために、反転により容器が受ける反動が緩やかになり、容器が殺菌棚から脱落することや、擦れて傷や穴あきが発生することが防止される。
【0022】
本発明の第7の構成によれば、本発明の容器として最適の容器はレトルトパウチであり、容器としてレトルトパウチを用いることにより本発明の効果を最大限に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の1実施例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本発明は、プラスチックトレイ、プラスチックカップ、レトルトパウチ等の合成樹脂性容器入り米飯の製造方法に関するものであるが、本発明が適用される最適の容器はレトルトパウチである。以下、容器としてレトルトパウチを用いる場合について、本発明の実施態様について説明する。
【0025】
本発明に用いられるレトルトパウチ(以下パウチという)は、レトルト加熱殺菌に使用可能な耐熱性パウチであれば、材質、寸法等、特に限定はない。
【0026】
米飯として使用される生米はうるち生米、もち米、または無洗米であり、白米の他、玄米、七分づき米でも良い。また生米のほか、本発明の目的の達成を妨げない限度において、麦、粟その他の穀類や具材を添加することも可能である。また炊飯用水としては、味付けのため調味料やビタミン剤等の添加剤を少量溶解した水溶液を使用してもよい。
【0027】
生米と炊飯用水の含有比率は、重量比で生米1に対し炊飯用水0.9〜1.2が好ましい。前記含有比率が0.9未満であると、炊き上がり時の米飯が黄色くなり色味が悪く、また、吸水不足のためにかたい食感となってしまう。一方、前記含有比率が1.2を越えると、水分過多で炊き上がりが柔らかすぎたり、パウチ内に水分が残存し、柔らかい米が水分に浸った状態になったりしてしまう。生米は水洗い(無洗米の場合は水洗い不要)、水切りをした後、炊飯用水とともにパウチに充填する。充填前の生米の水への浸漬は必要としない。
【0028】
生米と炊飯用水を充填したパウチは、含気量を生米と炊飯用水の合計体積に対して15〜40%、好適には20〜38%に調節してから公知の方法により密封する。含気量が15%未満の場合は、パウチ内の米飯の上部と下部、中心部と端部の間の水分の不均一が防止されるという反転効果が得られず、また、容器に加わる圧力を調整しても、パウチが米飯を潰してしまう。一方、含気量が40%を越えると、パウチ内の熱伝導率が低下して米への加熱、殺菌にムラが生じるため殺菌時間が長くなり、商品価値が低下し、また、パウチが破袋する可能性も高くなる。
さらに、パウチに含有させる気体としては空気でもよいが、香りが良く、さらに、酸化を防止するためには、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。パウチ内の気体は、前述した反転効果を確実にするために必須の要素であり、このため含気量を前記の値に調節する必要がある。
【0029】
密封後のパウチの所定個数を、公知のレトルト加熱殺菌装置の殺菌棚に載置して、容器内の米の品温を所定の加熱殺菌温度まで昇温させる昇温工程と、米の品温を加熱殺菌温度で保持する加熱殺菌工程と、殺菌終了後の冷却工程とから成るレトルト殺菌を順次行うことにより容器詰め米飯を製造する。
【0030】
重要なことは、パウチ内の最上層の米粒と、その上方のパウチ壁の内面との間に一定範囲の隙間が維持されるように、昇温開始時から冷却終了時まで、圧力制御装置を使用して米の品温に応じてレトルト釜内のパウチに加わる圧力をパウチ内圧力以下に調節することである。この圧力調節により、昇温工程、加熱殺菌工程、冷却工程におけるパウチの厚みは、充填、密封直後のパウチの厚み以上となる。すなわち、パウチ内の最上層の米粒とその上方のパウチ壁の内面との間に隙間が維持されるように、レトルト釜内の容器に加わる圧力を調節することにより、米飯がパウチによって押し潰されることが防止される。
【0031】
このように隙間を維持することにより、パウチ内の米の品温を所定の加熱殺菌温度まで昇温させる昇温工程においても、パウチ内での熱の対流と移動、生米の吸水が、炊飯釜で炊飯する場合と同様に妨げられることがない。また、米デンプンの糊化と米への吸水が進むと米が膨らむが、昇温工程における米の品温(冷点)が90℃を越え、所定の殺菌温度に達する前は、より米の膨らみが増す。このため、昇温工程における米の品温(冷点)が90℃を越え、所定の殺菌温度に達するまでのパウチを反転する前後においては、パウチ反転前よりもパウチ反転後の最上層の米粒とパウチ壁内面の間の隙間を若干大きくなるようにレトルト釜内の圧力を調節することが、ふっくらとした米飯を炊き上げるためにより好ましい。
【0032】
さらに、殺菌工程中は米の品温が高く、パウチ内の膨張した気体によってパウチが膨れ上がり過ぎると、気体の熱伝導率が低いことに起因して殺菌時間が長くなり、米飯の一部が過加熱状態になるとともに、加熱が米飯全体に均一に行われなくなる恐れがある。このため、米の品温が所定の殺菌温度に到達した後は、パウチ内の最上層の米粒とその上方のパウチ壁の内面との間の隙間を、一定範囲に維持するようにレトルト釜内の圧力を一定にして殺菌を行う。
【0033】
次いで、冷却工程においても、前述した隙間を一定範囲に維持するように圧力調整を行うことによって、冷却工程における米飯が、炊飯釜中で米飯が蒸らされる状態と同様に、自然に蒸らすことができる。尚、冷却工程ではパウチ内の圧力は減圧状態に移行していくため、米飯がパウチによって押し潰されないことが重要で、前述した昇温工程や加熱殺菌工程よりも、パウチ内の最上層の米粒とその上方のパウチ壁の内面との間の隙間を若干大きくなるように、レトルト釜内の圧力を調節するとより好適である。
【0034】
尚、後述する実験例においては、レトルト釜内の圧力の調節を手動により行ったが、実用上は、容器サイズ、生米と炊飯用水の充填量、含気量に基づき、手動によるレトルト釜内の圧力の調節テストを行なって最適な圧力調節パターンを割り出した後、割り出した圧力調節パターンをコンピューター制御にて行うことにより、大量生産に対応することができる。
【0035】
また、本発明においては、前述した昇温工程において、米の品温(冷点)が90℃を超え、所定の殺菌温度に達する前にパウチを反転させることが重要である。品温が90℃を超えた状態で米は吸水がほぼ完了して柔らかくなっているが、パウチ内の米飯の上部はその表面が高温の気体層に接触しているので、比較的に乾燥した状態となっている。一方、気体層から遠いパウチ内の米飯の下部は、上部に比べて水分を多く含んでおり、パウチ内の米飯の上部と下部との間に水分の不均衡が発生する。本発明によれば、米飯がこのような状態にある時にパウチを反転させ、パウチ内の米飯の上部と下部の位置を反転するので、反転前の下部にあった水分が上部に位置することにより余分な水分が下降し、反転前に比較的乾燥状態であった上部に浸透し、一方、反転前の下部は、高温の気体に触れて適当な水分状態まで乾燥される。この結果、上部と下部の間の水分の不均衡が是正され、米飯の水分が上部、下部を通じて全体として均一化される。
【0036】
尚、昇温工程におけるパウチの反転回数は、多すぎると米が潰れたり割れたりする恐れがあるので、反転回数は1回から3回が好ましく、1回のみが最も好ましい。
【0037】
また、パウチの反転は昇温工程ばかりでなく、冷却工程においても行うことが好ましい。即ち、殺菌工程において水蒸気となっていた炊飯用水の水分は、冷却工程において温度が下がると水滴となって米飯の表面に付着しやすい。その結果、冷却工程において米飯の上部、特に表面付近の部分は水分が過多となり、米飯の下部との間に水分の不均一を生じやすい。従って、冷却工程においてもパウチの反転を行うことにより、このような米飯中の水分の不均衡を是正し、米飯の水分を一層均一なものとすることができる。
尚、冷却工程における反転回数も、1回のみが好ましい。
【0038】
さらに、パウチの反転を加熱殺菌工程においても行うことにより、米飯の水分をより一層均一なものとすることができる。
【0039】
米飯の加熱殺菌と炊飯を行う加熱殺菌方法としては、加熱殺菌を熱水により行う方式、シャワーにより行う方式、蒸気により行う方式のいずれの方法も使用することができるが、熱水による加熱殺菌を使用することにより、レトルト装置内が熱水で満たされ、殺菌棚の反転によりパウチが受ける反動を熱水中の浮力で緩和し、パウチが殺菌棚から脱落すること、殺菌棚によるパウチの傷付き、穴あきが防止されるので、特に好ましい。
【0040】
米飯の殺菌条件としては、食品衛生法により定められたF値3.1以上が必要であり、ボツリヌス菌等の殺菌も考慮すればF値4以上が必要である。一方、炊飯釜による米飯の炊飯は、通常、98℃で20分〜30分であり、所望の殺菌条件に必要な時間と、炊飯に必要な時間の双方を考慮して最適な殺菌・炊飯時間を設定すればよい。
[実験例]
【0041】
1.容器
容器としては、130mm×170mmのレトルトパウチを使用した。パウチ構成は、パウチの外側から、ポリエチレンテレフタレート12μm/ナイロン15μm/アルミ箔7μm/ポリプロピレン50μmのラミネートフィルム材とした。
【0042】
2.内容物の調整
生米としてはうるち白米を使用し、うるち白米を水洗いして水切りした後、浸漬は行わずに、レトルトパウチに生米75g、炊飯用水82.5g合計157.5gを充填後、パウチに窒素ガス50mlを吹き込み、ヒートシールして密封した。パウチの含気量は、生米と炊飯用水の合計体積135mlに対して約37%であった。
【0043】
3.レトルト殺菌
密封したパウチを、レトルト加熱殺菌装置(東洋製罐社製 シュミレーターレトルト H130−C100−S・SHW.P.WR−A)の殺菌棚に載置し、昇温工程、加熱殺菌工程、冷却工程から成る米飯の殺菌・炊飯処理を行った。
また、各工程においては、レトルト釜前面にある覗き窓からの目視によりパウチの厚み(殺菌棚戴置後の垂直方向へのパウチ高さ)を確認し、パウチ内の最上層の米粒とその上方のパウチ壁内面の間に一定範囲の隙間が維持されるように、圧力制御装置を使用して米の品温(冷点)に応じてレトルト釜内圧力をパウチ内圧力以下に調節した。
尚、パウチ内圧力は、ボイル・シャルルの法則より導き出した下記式により計算した値である。
【0044】
<パウチ内圧力の計算式>
P=Pw+(Pg・T/T
P:パウチ内圧力(絶対圧・MPa)
:レトルト殺菌開始前の品温の絶対温度
(品温℃+273K)
:加熱時の品温Xの絶対温度(X℃+273K)
Pw:品温Tに相当する飽和水蒸気圧(MPa)
Pg:品温Tでのヘッドスペースガス分圧(MPa)
【0045】
上記の式でのパウチ内圧力は絶対圧であるため、下記式に変換してゲージ圧でのパウチ内圧力を計算し、データとして用いた。
尚、レトルト殺菌開始前の品温は20℃(293K)、品温Tでのヘッドスペースガス分圧Pgは大気圧の絶対圧(0.1013MPa)として計算した。
【0046】
P(ゲージ圧)=
Pw+(0.1013・293/X+273)−0.1013
【0047】
昇温工程、加熱殺菌工程、冷却工程におけるレトルト釜内雰囲気温度(℃)、品温(℃)、レトルト釜内圧力(MPa)、パウチ内圧力の計算値(MPa)を図1に示す。
尚、本発明における米の品温とは、温度センサ(Ellab社製 CMC821 サーモプロセッサー)の先端が、パウチ内の米の冷点(米飯の中心点)に保持されるようにパウチに取り付けて固定し、測定した温度とした。
【0048】
(1)昇温工程
レトルト殺菌装置を始動後、熱水を用い、15分間を要してレトルト釜内雰囲気を殺菌温度の115℃に上昇させ、後述する殺菌工程の終了時まで30分間115℃を維持した。一方、パウチ内の米の品温は100℃まで上昇させた後、殺菌棚を1回のみ半回転させてパウチを反転し、次いで、パウチ内の米の品温を殺菌温度の115℃まで上昇させた。
また、レトルト釜内圧力は、パウチ内の米の品温が100℃までは0.020MPaから0.116MPa、100℃から115℃までは0.116MPaから0.157MPaにそれぞれ上昇させ、一方、パウチ内圧力は、0.024MPaから0.126MPa、0.128MPaから0.195MPaまでそれぞれ上昇し、パウチに加わる圧力(レトルト釜内圧力)をパウチ内圧力よりも71〜97%の範囲で低く調整した。
【0049】
(2)加熱殺菌工程
前記昇温工程後、パウチ内の米の品温を殺菌温度の115℃に維持し、F値5以上となるよう熱水による加熱殺菌を行った。このF値5以上の加熱殺菌は、前述したレトルト釜内雰囲気を115℃で30分間維持することにより達成される。
また、レトルト釜内圧力は、0.153〜0.159MPaの圧力に維持し、一方、パウチ内圧力は、0.195〜0.201MPaの圧力を維持し、パウチに加わる圧力(レトルト釜内圧力)をパウチ内圧力よりも76〜80%の範囲で低く調整した。
尚、加熱殺菌工程においては、吸水が終了して炊飯状態にある膨らんだ米がパウチで潰されないように、昇温工程よりもパウチがやや膨らみ気味となるように圧力調整を行った。
また、加熱殺菌工程の終了直前に、殺菌棚を1回のみ半回転させてパウチを反転した。
【0050】
(3)冷却工程
前記加熱殺菌工程が終了した後、冷却水を注入してパウチ内の米の品温を115℃から30℃まで冷却した。
この冷却工程においては、レトルト釜内圧力を0.156MPaから0.021MPaまで下降させ、一方、パウチ内圧力は、0.200MPaから0.029MPaまで下降し、パウチに加わる圧力(レトルト釜内圧力)をパウチ内圧力よりも49〜76%の範囲で低く調整した。
尚、冷却工程においての米は、炊飯が終了して米飯となり膨らんでいるため、米飯がパウチで潰されないように、昇温工程や加熱殺菌工程よりもパウチが膨らみ気味となるように圧力調整を行った。
また、レトルト釜内雰囲気が80℃に下降した時点で、殺菌棚を1回のみ半回転させてパウチを反転した。
尚、図1に示すように、冷却工程終了間際ではレトルト釜内圧力よりもパウチ内圧力が高くなっているが、これは、実験例で使用したレトルト殺菌装置では冷却工程後の排水時にレトルト釜内圧力を高めておく必要があるため、両者の圧力が逆転した状態になっているものであり、装置的な問題がなければ、冷却工程終了時まで、レトルト釜内圧力よりもパウチ内圧力を低く調整することがより好適である。
本実験例では、前記圧力の逆転状態であっても、パウチ内の含気により、米飯がパウチに押し潰されることはなかった。
【0051】
そして、この実験により、レトルト殺菌における全ての工程において、パウチ内最上層の米粒とその上方のパウチ壁の内面との隙間が維持され、また、冷却工程においては、昇温工程や加熱殺菌工程よりも若干パウチが膨らみ気味になることが目視と数値上で確認された。
【0052】
この結果、本実験例の米飯の製造方法によるパウチ詰め米飯は、崩れ、潰れによる粽状が防止され、米飯の上部と下部、中心部と端部の間の水分の不均一が防止されて水分のむらが低減し、米飯全体として均一であり、また、香りが良く、米粒表面のざらつきのない食感が良いパウチ詰め米飯が得られた。
図1