特許第6047982号(P6047982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6047982硬化性組成物、この硬化性組成物からなる粘接着剤組成物、及びこれらの組成物を介して形成される床構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047982
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】硬化性組成物、この硬化性組成物からなる粘接着剤組成物、及びこれらの組成物を介して形成される床構造
(51)【国際特許分類】
   C09J 171/02 20060101AFI20161212BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20161212BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20161212BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20161212BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20161212BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20161212BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20161212BHJP
   C09J 11/02 20060101ALI20161212BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C09J171/02
   C09J133/14
   C09J183/04
   C08L71/02
   C08L33/04
   C08K3/00
   C08K5/00
   C09J11/02
   E04F15/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-167633(P2012-167633)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-25001(P2014-25001A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100107560
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 惣一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬淵 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山田 倫子
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−131271(JP,A)
【文献】 特開2006−037076(JP,A)
【文献】 特開平05−163477(JP,A)
【文献】 特開平10−088818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 171/02
C08K 3/00
C08K 5/00
C08L 33/04
C08L 71/02
C09J 11/02
C09J 133/14
C09J 183/04
E04F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋性珪素基を有し、数平均分子量が500〜50,000である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と、
(B)架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と、
(C)硬化触媒と、
(D)充填剤と、
(E)前記(A)成分と前記(B)成分との混合物100重量部に対して10重量部以上のアルコールとを含有し、
前記(A)成分の分子鎖は、少なくとも
(a1)アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、
(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、を含み、
(a1)と(a2)との質量比(a1):(a2)は90:10〜30:70であり、
高分子系張り床材に対して用いられる、粘接着剤組成物
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比(A)成分:(B)成分は5:95〜50:50である、請求項1に記載の粘接着剤組成物
【請求項3】
前記アルコールメタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールから選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記高分子系張り床材がビニル床タイルである、請求項1から3のいずれかに記載の粘接着剤組成物。
【請求項5】
床仕上材が高分子系張り床材であり、請求項1から3のいずれかに記載の粘接着剤組成物を介して形成される床構造。
【請求項6】
前記高分子系張り床材がビニル床タイルである、請求項5に記載の床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、この硬化性組成物からなる粘接着剤組成物、及びこれらの組成物を介して形成される床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下地材の表面に床仕上材を敷設するにあたり、硬化性組成物が広く用いられている。下地材の表面に床仕上材を敷設する用途として、硬化性組成物は、(1)下地材への塗布のし易さを示す作業性、(2)床仕上材を下地材に仮固定できるだけの施工性、(3)タイルの膨張収縮による突き上げや目隙きを防止するために、接着した床仕上材の熱による膨張・収縮を抑える拘束性、及び(4)床仕上材を交換する際の容易さを示す更新性を両立することが好ましいとされている。
【0003】
しかしながら、とりわけ拘束性と、更新性とは、要求性能が相反する。拘束性を重視すれば、床仕上材の交換が困難となる。一方、更新性を重視すれば、床仕上材の剥がれや、突き上げ等が起こり得る。
【0004】
ビニル床用の硬化性組成物として、(A)シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を有する有機重合体、(B)シラノール縮合触媒、及び(C)接着性付与剤、を含有してなる硬化性組成物であって、(C)成分のうち25重量%以上が、一般式:RN=CR−NR
(R、R及び2つのRは、それぞれ独立に水素原子または有機基である。)
で表されるアミジン化合物、である硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−169529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、拘束性と更新性との両方を高め、相反する要求性能を満たすことが求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、(1)作業性、(2)施工性、(3)拘束性、及び(4)更新性のいずれも満たし、下地材の表面に床仕上材を敷設する用途に適する硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、特定の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用い、かつ、有機溶剤を多く用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、(A)架橋性珪素基を有し、数平均分子量が500〜50,000である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と、(B)架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と、(C)硬化触媒と、(D)充填剤と、(E)前記(A)成分と前記(B)成分との混合物100重量部に対して10重量部以上の有機溶剤とを含有し、前記(A)成分の分子鎖は、少なくとも(a1)アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、を含み、(a1)と(a2)との質量比(a1):(a2)は90:10〜30:70である硬化性組成物である。
【0010】
(2)また、本発明は、前記(A)成分と前記(B)成分との質量比(A)成分:(B)成分は5:95〜50:50である、(1)に記載の硬化性組成物である。
【0011】
(3)また、本発明は、前記有機溶剤はメタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールから選択される少なくとも一種である、(1)又は(2)に記載の硬化性組成物である。
【0012】
(4)また、本発明は、(1)から(3)のいずれかに記載の硬化性組成物からなる粘接着剤組成物である。
【0013】
(5)また、本発明は、高分子系張り床材に対して用いられる、(4)に記載の粘接着剤組成物である。
【0014】
(6)また、本発明は、前記高分子系張り床材がビニル床タイルである、(5)に記載の粘接着剤組成物である。
【0015】
(7)また、本発明は、(1)から(3)のいずれかに記載の硬化性組成物を介して形成される床構造である。
【0016】
(8)また、本発明は、(4)から(6)のいずれかに記載の粘接着剤組成物を介して形成される床構造である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(1)作業性、(2)施工性、(3)拘束性、及び(4)更新性のいずれも満たし、下地材の表面に床仕上材を敷設する用途に適する硬化性組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】拘束性の評価における、仕上材(ビニル床材)1の長さ変化測定位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、(A)(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と(以下「(A)成分」ともいう。)、(B)ポリオキシアルキレン系重合体と(以下「(B)成分」ともいう。)、(C)硬化触媒と(以下「(C)成分」ともいう。)、(D)充填剤と(以下「(D)成分」ともいう。)、(E)有機溶剤と(以下「(E)成分」ともいう。)を含有する。
【0021】
[(A)(メタ)アクリル酸エステル系共重合体]
本発明の硬化性組成物は、(A)成分として、架橋性珪素基を有し、数平均分子量が500〜50,000である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を含有する。
【0022】
〔架橋性珪素基について〕
(A)成分において、架橋性珪素基とは、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる基をいう。架橋性珪素基としては、例えば、下記一般式(1)で示される基が好適である。
【0023】
【化1】
【0024】
式(1)中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基またはRSiO−(Rは、前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。dは0、1、2または3を、eは0、1または2を、それぞれ示す。またp個の下記一般式(2)におけるeは同一である必要はない。pは0〜19の整数を示す。但し、d+(eの和)≧1を満足するものとする。
【0025】
【化2】
【0026】
該加水分解性基や水酸基は1個の珪素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、d+(eの和)は1〜5の範囲が好ましい。加水分解性基や水酸基が架橋性珪素基中に2個以上結合する場合には、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
架橋性珪素基を形成する珪素原子は1個でもよく、2個以上であってもよいが、シロキサン結合等により連結された珪素原子の場合には、20個程度あってもよい。
【0028】
上記架橋性珪素基としては、下記一般式(3)で示される架橋性珪素基が、入手が容易である点から好ましい。
【0029】
【化3】
(式(3)中、R、Xは前記に同じ。dは1、2又は3の整数である。)
【0030】
上記Rの具体例としては、たとえばメチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基や、RSiO−で示されるトリオルガノシロキシ基等があげられる。これらの中ではメチル基が好ましい。
【0031】
上記Xで示される加水分解性基としては、特に限定されず、従来公知の加水分解性基であればよい。具体的には、たとえば水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等があげられる。これらの中では、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基およびアルケニルオキシ基が好ましく、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基がさらに好ましい。加水分解性が穏やかで取扱やすいという観点からアルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基の中では炭素数の少ないものの方が反応性が高く、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなるほどに反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが通常メトキシ基やエトキシ基が使用される。
【0032】
上記式(3)で示される架橋性珪素基の場合、硬化性を考慮するとdは2以上が好ましい。通常、dが3の場合、dが2の場合に比較し、硬化速度が大きくなる。
【0033】
架橋性珪素基の具体的な構造としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基[−Si(OR)]、及びメチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等のジアルコキシシリル基[−SiR(OR)]が挙げられる。ここでRはアルキル基であり、炭素数10以下のアルキル基が好ましく、メチル基やエチル基がさらに好ましい。
【0034】
また、架橋性珪素基は1種で使用しても良く、2種以上併用してもかまわない。架橋性珪素基は、主鎖または側鎖あるいはいずれにも存在しうる。硬化物の引張特性等の硬化物物性が優れる点で架橋性珪素基が分子鎖末端に存在するのが好ましい。
【0035】
架橋性珪素基を形成する珪素原子は1個以上であるが、シロキサン結合などにより連結された珪素原子の場合には、20個以下であることが好ましい。
【0036】
前記重合体(A)に含有される架橋性珪素基の数は特に制限はないが、重合体1分子中に平均して0.5個以上2.5個以下、好ましくは0.8個以上2.0個以下存在するのがよい。分子中に含まれる架橋性珪素基の数が平均して0.5個未満になると、硬化性が不充分になり、良好なゴム弾性挙動を発現しにくくなる。架橋性珪素基は、有機重合体分子鎖の主鎖の末端あるいは側鎖の末端にあってもよいし、また、両方にあってもよい。特に、架橋性珪素基が分子鎖の主鎖の末端にのみあるときは、最終的に形成される硬化物に含まれる有機重合体成分の有効網目長が長くなるため、高強度、高伸びで、低弾性率を示すゴム状硬化物が得られやすくなる。
【0037】
〔アクリル骨格について〕
(A)成分の分子鎖は、少なくとも(a1)アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、を含み、(a1)と(a2)との質量比(a1):(a2)は90:10〜30:70である。
【0038】
(a1)成分である炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、下記一般式(4):
【化4】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜2のアルキル基を示す)
で表される。(a1)成分として炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を用いると、本発明に係る硬化性組成物の硬化物として接着強度の高い良好なゴム弾性体が得られる。なお、一般式(4)で示される単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
また(a2)成分である炭素数3以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、下記一般式(5):
【化5】
(式中、Rは前記に同じ、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す)
で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が挙げられる。
【0040】
一般式(4)のRとしては、たとえばメチル基、エチル基、等の炭素数1〜2のアルキル基があげられる。なお、Rのアルキル基は単独でもよく、2種以上混合していてもよい。
【0041】
一般式(5)のRとしては、たとえばプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等の炭素数3以上、通常は7〜30、好ましくは8〜20の長鎖のアルキル基があげられる。なお、Rのアルキル基はRの場合と同様、単独でもよく、2種以上混合したものであってもよい。
【0042】
該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の分子鎖は実質的に式(4)及び式(5)の単量体単位からなるが、ここでいう「実質的に」とは該共重合体中に存在する式(4)及び式(5)の単量体単位の合計が50質量%を超えることを意味する。式(4)及び式(5)の単量体単位の合計は好ましくは70質量%以上である。
【0043】
該共重合体に含有されていてもよい式(4)及び式(5)以外の単量体単位としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアミド基、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を含む単量体;その他アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等に起因する単量体単位があげられる。
【0044】
これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。シリル基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを併用することにより、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(A)中の珪素基の数を制御することができる。接着性が良いことから特に好ましくはメタクリル酸エステルモノマーからなるメタクリル酸エステル系重合体である。また、低粘度化、柔軟性付与、粘着性付与を行う場合には、アクリル酸エステルモノマーを適時使用することが好適である。なお、本願明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/あるいはメタクリル酸を表す。
【0045】
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得る方法は、特に限定されず、公知の重合法(例えば、特開昭63−112642号、特開2007−230947号、特開2001−40037号、特開2003−313397号等の記載の合成法)を利用することができ、ラジカル重合反応を用いたラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、重合開始剤を用いて所定の単量体単位を共重合させるラジカル重合法(フリーラジカル重合法)や、末端などの制御された位置に反応性シリル基を導入することが可能な制御ラジカル重合法が挙げられる。但し、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを用いる通常のフリーラジカル重合法で得られる重合体は、分子量分布の値が一般に2以上と大きく、粘度が高くなるという問題を有している。従って、分子量分布が狭く、粘度の低い(メタ)アクリル酸エステル系重合体であって、高い割合で分子鎖末端に架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を得るためには、制御ラジカル重合法を用いることが好適である。
【0046】
制御ラジカル重合法としては、特定の官能基を有する連鎖移動剤を用いたフリーラジカル重合法やリビングラジカル重合法が挙げられ、付加−開裂移動反応(Reversible Addition-Fragmentation chain Transfer;RAFT)重合法、遷移金属錯体を用いたラジカル重合法(Transition-Metal-Mediated Living Radical Polymerization)等のリビングラジカル重合法がより好ましい。また、反応性シリル基を有するチオール化合物を用いた反応や、反応性シリル基を有するチオール化合物及びメタロセン化合物を用いた反応(特開2001−40037号公報)も好適である。
【0047】
(a1)アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との質量比(a1):(a2)は、90:10〜30:70であることが好ましく、90:10〜50:50であることがより好ましく、90:10〜60:40であることがさらに好ましい。(a1)成分が90:10〜30:70の範囲より多いと、(B)成分との相溶性が低下するため好ましくない。(a1)成分が90:10〜30:70の範囲より少ないと、大面積の被着体に貼り合わせできるだけの十分な貼り合わせ可能時間をもたせることができない可能性があることのほか、接着性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0048】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(A)は直鎖状、または分岐を有してもよく、その数平均分子量はGPCにおけるポリスチレン換算において500〜50,000であり、より好ましくは1,000〜30,000である。数平均分子量が500未満では、硬化物の接着性の点で不都合な傾向があり、50,000を越えると、高粘度となる為に作業性の点で不都合な傾向がある。
【0049】
上記の架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、単独で使用してもよいし2種以上併用してもよい。
【0050】
[(B)ポリオキシアルキレン系重合体]
本発明の硬化性組成物は、(B)架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する。(B)成分において、架橋性珪素基としては、前述した重合体(A)の架橋性珪素基が挙げられる。ポリオキシアルキレン系重合体(B)に含有される架橋性珪素基の数は特に制限はないが、重合体(A)と同様、重合体(B)1分子中に平均して0.5個以上2.5個以下、好ましくは0.8個以上2.0個以下存在するのがよい。
【0051】
前記ポリオキシアルキレン系重合体(B)は、本質的に下記一般式(6)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【化6】
前記一般式(6)中、Rは炭素数1〜14の直鎖状もしくは分岐アルキレン基であり、炭素数1〜14の、さらには2〜4の、直鎖状もしくは分岐アルキレン基が好ましい。
【0052】
一般式(6)で示される繰り返し単位の具体例としては、
【化7】
等が挙げられる。ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなってもよい。特にポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン−ポリオキシブチレン共重合体等のポリオキシアルキレン系重合体が好適である。
【0053】
ポリオキシアルキレン系重合体の合成法としては、たとえばKOHのようなアルカリ触媒による重合法、たとえば特開昭61−197631号、同61−215622号、同61−215623号、同61−215623号に示されるような有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる、有機アルミ−ポルフィリン錯体触媒による重合法、たとえば特公昭46−27250号および特公昭59−15336号などに示される複金属シアン化物錯体触媒による重合法等があげられるが、特に限定されるものではない。有機アルミ−ポルフィリン錯体触媒による重合法や複金属シアン化物錯体触媒による重合法によれば数平均分子量6,000以上、Mw/Mnが1.6以下の高分子量で分子量分布が狭いポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0054】
上記ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格中にはウレタン結合成分等の他の成分を含んでいてもよい。ウレタン結合成分としては、たとえばトルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネートと水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体との反応から得られるものをあげることができる。
【0055】
ポリオキシアルキレン系重合体への架橋性珪素基の導入は、分子中に不飽和基、水酸基、エポキシ基やイソシアネート基等の官能基を有するポリオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を示す官能基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させることにより行うことができる(以下、高分子反応法という)。
【0056】
高分子反応法の具体例として、不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体に架橋性珪素基を有するヒドロシランや架橋性珪素基を有するメルカプト化合物を作用させてヒドロシリル化やメルカプト化し、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得る方法をあげることができる。不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体は水酸基等の官能基を有する有機重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基および不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0057】
また、高分子反応法の他の具体例として、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体とイソシアネート基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させる方法や末端にイソシアネート基を有するポリオキシアルキレン系重合体と水酸基やアミノ基等の活性水素基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させる方法をあげることができる。イソシアネート化合物を使用すると、容易に架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0058】
架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の具体例としては、特公昭45−36319号、同46−12154号、特開昭50−156599号、同54−6096号、同55−13767号、同57−164123号、特公平3−2450号、特開2005−213446号、同2005−306891号、国際公開特許WO2007−040143号、米国特許3,632,557、同4,345,053、同4,960,844等の各公報に提案されているものをあげることができる。
【0059】
上記架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0060】
(A)成分と(B)成分との質量比重量比に特に制限はないが、(A)成分:(B)成分が5:95〜50:50であることが好ましく、20:80〜40:60であることがより好ましい。(A)成分がこの範囲より多いと粘度が高くなり、作業性が悪化するため好ましくない。(A)成分がこの範囲より少ないと、粘着性の発現が遅くなる(施工性が低下する)可能性があることのほか、接着性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0061】
前記重合体(A)及び重合体(B)として、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体をブレンドしてなる有機重合体を用いてもよい。該ブレンドしてなる有機重合体の製造方法は、たとえば、特開昭59−122541号、特開昭63−112642号、特開平6−172631号、特開平11−116763号公報等に提案されているが、特にこれらに限定されるものではない。
【0062】
[(C)硬化触媒]
本発明の硬化性組成物は、(C)硬化触媒を含有する。(C)成分として、公知の硬化触媒を広く用いることができ、特に制限はないが、例えば、有機金属化合物やアミン類等が挙げられ、特にシラノール縮合触媒を用いることが好ましい。前記シラノール縮合触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンテトラアセチルアセトナート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジネオデカネート(ジオクチル錫ジバーサテート)、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物、ジブチル錯塩と正珪酸エチルとの反応生成物等の4価錫化合物、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫、ジネオデカン酸錫(バーサチック酸錫)等の2価錫化合物等の有機錫化合物類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類;ビスマス−トリス(2−エチルヘキソエート)、ビスマス−トリス(ネオデカノエート)等のビスマス塩と有機カルボン酸または有機アミンとの反応物等;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類;オクチル酸鉛等の有機鉛化合物;ナフテン酸鉄等の有機鉄化合物;有機バナジウム化合物;ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等のアミン系化合物あるいはそれらのカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物等が例示される。
【0063】
これらの硬化触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらの硬化触媒のうち、有機金属化合物類、または有機金属化合物類とアミン系化合物の併用系が硬化性の点から好ましい。さらには、硬化速度が速い点からジブチル錫マレエート、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジオクチル錫ジネオデカネートが好ましい。また、環境問題の点からジオクチル錫化合物が好ましい。硬化触媒は重合体(A)と重合体(B)との合計100質量部に対して0.1〜20重量部用いるのが好ましい。
【0064】
[(D)充填剤]
本発明の硬化性組成物は、(D)充填剤を含有する。(D)成分を配合することにより、硬化物を補強することができる。
【0065】
(D)成分として、公知の充填剤を広く用いることができ、特に制限はないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪藻土含水ケイ酸、含水けい酸、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、シリカ、二酸化チタン、クレー、タルク、カーボンブラック、スレート粉、マイカ、カオリン、ゼオライト等が挙げられ、このうち炭酸カルシウムが好ましく、表面処理炭酸カルシウムがより好ましい。また、ガラスビーズ、シリカビーズ、アルミナビーズ、カーボンビーズ、スチレンビーズ、フェノールビーズ、アクリルビーズ、多孔質シリカ、シラスバルーン、ガラスバルーン、シリカバルーン、サランバルーン、アクリルバルーン等を用いることもできる。
【0066】
前記炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、コロイダル炭酸カルシウム、粉砕炭酸カルシウム等、いずれも使用可能であるが、コロイダル炭酸カルシウムがより好適である。これら炭酸カルシウムは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。本発明において重質炭酸カルシウムとは石灰石を粉砕して得られる炭酸カルシウムをいい、軽質炭酸カルシウムとは消石灰に二酸化炭素を反応させて人工的に合成した炭酸カルシウムであって一次粒子径が1ミクロン以上のものをいい、コロイダル炭酸カルシウムとは消石灰に二酸化炭素を反応させて人工的に合成した炭酸カルシウムであって一次粒子径が1ミクロン未満のものをいう。
【0067】
前記炭酸カルシウムの一次粒径が0.5μm以下であることが好ましく、0.01〜0.1μmであることがより好ましい。このような粒径の小さい微粉炭酸カルシウムを使用することにより、硬化性組成物にチキソ性を付与することができる。
【0068】
また、炭酸カルシウムの中でも、チキソ性の付与、硬化物(硬化皮膜)に対する補強効果の観点から、表面処理炭酸カルシウムが好ましく、表面処理した微粉炭酸カルシウムがより好ましい。さらに、表面処理した微粉炭酸カルシウムに、他の充填剤、例えば、表面処理されていない、粒径の大きな炭酸カルシウムである重質炭酸カルシウムや、表面処理した粒径の大きい炭酸カルシウム等を併用してもよい。表面処理した微粉炭酸カルシウムと他の充填剤を併用するときは、表面処理した微粉炭酸カルシウムと、その他の充填剤の比率(質量比)は、1:40〜1:1が好ましく、1:20〜1:3がより好ましい。
【0069】
更に、高分子系張り床材の様な軟質系床材に対して本発明の硬化性組成物を用いる場合、クシ目の立てやすさ、下地材への塗り広げやすさ、容器への充填のしやすさ、容器からの取り出しやすさの観点から、表面処理した微粉炭酸カルシウムと、その他の充填剤との比率(質量比)が1:20〜1:5であることが最も好ましい。
【0070】
前記表面処理炭酸カルシウムにおいて、用いられる表面処理剤に特に制限はなく、公知の表面処理剤を広く使用可能である。該表面処理剤としては、例えば、高級脂肪酸系化合物、高級脂肪酸エステル系化合物、樹脂酸系化合物、芳香族カルボン酸エステル、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、パラフィン、チタネートカップリング剤及びシランカップリング剤等が挙げられる。これら表面処理剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0071】
前記表面処理炭酸カルシウムとしては、公知の表面処理された炭酸カルシウムを広く使用することができ、特に制限はないが、例えば、Vigot 15(白石カルシウム(株)製、脂肪酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム、一次粒子径0.15μm)等の表面処理軽質炭酸カルシウム;Vigot 10(白石カルシウム(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.10μm)、白艶華CCR−B(白石カルシウム(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.08μm)、カルファインN−350(丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.04μm)、シーレッツ200(丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸エステルで表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.05μm)、シーレッツ500(丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸エステルで表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.05μm)、シーレッツ700(丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸エステルで表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.05μm)、白艶華DD(白石カルシウム(株)製、樹脂酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.05μm)、カーレックス300(丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、一次粒子径0.05μm)、ネオライトSS(竹原化学工業(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、平均粒子径0.04μm)、ネオライトGP−20(竹原化学工業(株)製、樹脂酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、平均粒子径0.03μm)、カルシーズP(神島化学工業(株)製、脂肪酸で表面処理されたコロイダル炭酸カルシウム、平均粒子径0.15μm)等の表面処理コロイダル炭酸カルシウム;ライトンA−5(備北粉化工業(株)製、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム、平均粒子径3.6μm)、MCコートP1(丸尾カルシウム(株)製、パラフィンで表面処理された重質炭酸カルシウム、一次粒子径3.3μm)、AFF−95((株)ファイマテック製、カチオンポリマーで表面された重質炭酸カルシウム、一次粒子径0.9μm)、AFF−Z((株)ファイマテック製、カチオンポリマー及び帯電防止剤で表面された重質炭酸カルシウム、一次粒子径1.0μm)等の表面処理重質炭酸カルシウムが挙げられる。これらの中で、硬化性組成物の貯蔵安定性が良好である点から脂肪酸エステルで表面処理された炭酸カルシウムがより好ましい。
【0072】
[(E)有機溶剤]
本発明の硬化性組成物は、(E)上記(A)成分と上記(B)成分との混合物100重量部に対して10重量部以上の有機溶剤を含有する。
【0073】
有機溶剤の種類は特に限定されるものではないが、被着体への塗布後、短時間で揮発し、短時間で粘着性を有する点で、沸点が150℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0074】
沸点が150℃以下の有機溶剤の例として、メタノール、酢酸エチル、酢酸メチル、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、アセトン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、ジメチルカーボネート、ノルマルパラフィン又はイソパラフィン等が挙げられる。有機溶剤は1種類であってもよいし、2種類以上の混合溶媒であってもよい。
【0075】
中でも、(1)被着体への塗布後、短時間で揮発し、短時間で粘着性を有する点、(2)貼り合わせ可能時間を長くすることができる点、及び(3)臭いが少ない点から、アルコールを用いることが好ましく、メタノールを用いることが特に好ましい。炭化水素系溶剤の場合、アルコールに比べ、粘着性の発現が遅くなる(施工性が低下する)可能性があり、十分な貼り合わせ可能時間をもたせることができない可能性がある。
【0076】
上記の(E)有機溶剤の含有量は、硬化性組成物の所望される作業性や粘度等によって適宜選択されるが、(A)成分100質量部に対して好ましくは10〜300重量部、さらに好ましくは20〜300重量部、特に好ましくは30〜200重量部である。
【0077】
[その他の成分]
本発明の硬化性組成物は、上記(A)成分から(E)成分に加えて、必要に応じて、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、揺変剤、脱水剤(保存安定性改良剤)、希釈剤、接着性付与剤、物性調整剤、粘着付与剤、垂れ防止剤、着色剤、ラジカル重合開始剤などの物質を配合してもよく、また相溶する他の重合体をブレンドしてもよい。
【0078】
前記難燃剤としては、公知の難燃剤を使用可能であり、特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;赤リン、ポリリン酸アンモニウム等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン等の金属酸化物系難燃剤;臭素系難燃剤;塩素系難燃剤等が挙げられ、毒性の点から金属水酸化物が好適である。前記金属水酸化物は表面処理剤で表面処理された金属水酸化物を使用してもよい。前記難燃剤は単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0079】
前記酸化防止剤は、硬化性組成物の酸化を防止して、耐候性、耐熱性を改善するために使用されるものであり、例えば、ヒンダードアミン系やヒンダードフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。
【0080】
前記紫外線吸収剤は、硬化性組成物の光劣化を防止して、耐候性を改善するために使用されるものであり、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0081】
老化防止剤は、硬化性組成物の熱劣化を防止して、耐熱性を改善するために使用されるものであり、例えば、アミン−ケトン系等の老化防止剤、芳香族第二級アミン系老化防止剤、ベンズイミダゾール系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤、亜リン酸系老化防止剤等が挙げられる。
【0082】
前記可塑剤は硬化後の伸び物性を高めたり、硬さを調整して低モジュラス化を可能とする目的で添加される。前記可塑剤としては、その種類は特に限定されないが、例えば、ジイソウンデシルフタレートなどの如きフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチルなどの如き脂肪族二塩基酸エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエートなどの如きグリコールエステル類;オレイン酸ブチルなどの如き脂肪族エステル類;リン酸トリクレジルなどの如きリン酸エステル類;エポキシ化大豆油などの如きエポキシ可塑剤類;ポリエステル系可塑剤;ポリプロピレングリコールの誘導体などのポリエーテル類;テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリ−α−メチルスチレンなどのポリスチレン系オリゴマー類;ポリブタジエンなどの炭化水素系オリゴマー類;塩素化パラフィン類;UP−1000(東亞合成(株)製)、UP−1080(東亞合成(株)製)、UP−1110(東亞合成(株)製)やUP−1061(東亞合成(株)製)などの如きアクリル系可塑剤類;UP−2000(東亞合成(株)製)、UHE−2012(東亞合成(株)製)などの如き水酸基含有アクリル系可塑剤類;UC−3510(東亞合成(株)製)などの如きカルボキシル基含有アクリルポリマー類;UG−4000(東亞合成(株)製)などの如きエポキシ基含有アクリルポリマー類;US−6110(東亞合成(株)製)、US−6120(東亞合成(株)製)などの如き0.5個未満のシリル基を含有するアクリルポリマー類、0.5個未満のシリル基を含有するオキシアルキレン樹脂などが例示される。
【0083】
前記揺変剤としては、例えば、コロイダルシリカ、石綿粉等の無機揺変剤、有機ベントナイト、変性ポリエステルポリオール、脂肪酸アマイド等の有機揺変剤、水添ヒマシ油誘導体、脂肪酸アマイドワックス、ステアリル酸アルミニウム、ステアリル酸バリウム等が挙げられる。
【0084】
前記脱水剤は保存中における水分を除去する目的で添加される。前記脱水剤として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ジメトルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、等のシラン化合物や、ゼオライト、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0085】
前記接着性付与剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ジアミノイソプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル型不飽和基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等の塩素原子含有シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート含有シラン類;メチルジメトキシシラン、トリメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等のハイドロシラン類等が具体的に例示されうるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
接着性付与剤は、あまりに多く添加すると、硬化物のモジュラスが高くなり、少なすぎると接着性が低下することから、重合体(A)と重合体(B)との合計100質量部に対して0.1〜15重量部添加することが好ましく、さらには0.5〜10重量部添加することが好ましい。
【0087】
粘着付与剤は被着体へのぬれ性の改善や、はく離強度を高める上で好ましい。石油樹脂系、ロジン・ロジンエステル系、アクリル樹脂系、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂やそのフェノール樹脂共重合体、フェノール・フェノールノボラック樹脂系等の粘着付与樹脂が例示されうるが、これらに限定されるものではない。
粘着付与剤は、重合体(A)と重合体(B)との合計100質量部に対して1〜100質量部添加することが好ましく、5〜50質量部添加することがより好ましい。
【0088】
<硬化性組成物の製造方法>
本発明の硬化性組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等の撹拌機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
【0089】
<用途>
本発明の硬化性組成物は、床用粘接着剤組成物として好適である。ここで、粘接着とは、初期状態において常温で粘着性を示すが、一定時間の経過後には常温で接着性を示すものをいう。本発明の硬化性組成物を適用できる床仕上材は、どのようなものでも良く、高分子系張り床材やタイルカーペット、木質系床材等の建築物の仕上材が挙げられる。高分子系張り床材としては、例えば、コンポジションビニル床タイル、ホモジニアスビニル床タイル、ビニル床シート、リノリウム系床シート、リノリウム床タイル、オレフィン系床シート、オレフィン系床タイル、ゴムタイル、ビニル系床材、リノリウム系床材、ゴム系床材等が挙げられる。また、人工芝にも好適である。中でも、初期状態における粘着性と一定時間の経過後における接着性とをより効果的に発揮する点で、高分子系張り床材を接着するときに本発明の硬化性組成物を用いることが好ましく、とりわけ、ビニル床タイルを接着するときに本発明の硬化性組成物を用いることが好ましい。本発明の硬化性組成物を塗布するには、下地材表面に、クシゴテ等のコテ、刷毛、ロール、スプレー等を用いて塗布すれば良い。
【0090】
本発明に係る硬化性組成物の塗布量は、適宜選択でき、通常、塗布時の重量で10〜600g/m、好ましくは30〜500g/m、さらに好ましくは50〜400g/mである。10g/m未満であると充分な接着強度が得られない。一方、600g/mを超えると乾燥性が悪く施工能率が落ちる。またそれ以上の強度の向上も望めない。本発明の床材用粘接着剤の貼り合わせ可能時間(粘接着剤組成物を塗布した後、オープンタイムを過ぎてから、その接着力が維持されていて床仕上材が貼り付けられる時間)は、室温(23℃50%RH)で、好ましくは50〜120分である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0092】
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
【表1】
(単位は質量部)
【0093】
〔合成例A〕
撹拌機、温度計、窒素導入口、モノマー装入管及び水冷コンデンサーを装着したフラスコに、酢酸エチルを270質量部入れ、80℃に加熱した。別の容器にメチルメタクリレート400質量部、ステアリルメタクリレート118質量部、n−ブチルアクリレート66.6質量部、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン22.5質量部、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン18.0質量部、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)8.20質量部を混合し、それを3時間かけて滴下し、さらに6時間80℃反応させることで、ポリスチレン換算にて数平均分子量は6000であり、かつ、1分子当たり平均2.0個のメチルジメトキシシリル基を有するアクリル酸エステル系重合体を得た。以下、合成例Aに係るアクリル酸エステル系重合体をアクリル酸エステル系重合体Aともいう。
【0094】
〔合成例B〕
各成分の配合が表1に記載のとおりであること以外は、合成例Aと同じ方法にて合成例Bに係るアクリル酸エステル系重合体を得た。以下、合成例Bに係るアクリル酸エステル系重合体をアクリル酸エステル系重合体Bともいう。アクリル酸エステル系重合体Bの数平均分子量はポリスチレン換算にて6000であり、1分子当たりのメチルジメトキシシリル基の数は平均2.0個であった。
【0095】
〔合成例C〕
各成分の配合が表1に記載のとおりであること以外は、合成例Aと同じ方法にて合成例Cに係るアクリル酸エステル系重合体を得た。以下、合成例Cに係るアクリル酸エステル系重合体をアクリル酸エステル系重合体Cともいう。アクリル酸エステル系重合体Bの数平均分子量はポリスチレン換算にて6000であり、1分子当たりのメチルジメトキシシリル基の数は平均2.0個であった。
【0096】
〔合成例D〕
各成分の配合が表1に記載のとおりであること以外は、合成例Aと同じ方法にて合成例Dに係るアクリル酸エステル系重合体を得た。以下、合成例Dに係るアクリル酸エステル系重合体をアクリル酸エステル系重合体Dともいう。アクリル酸エステル系重合体Dの数平均分子量はポリスチレン換算にて6000であり、1分子当たりのメチルジメトキシシリル基の数は平均2.0個であった。
【0097】
<硬化性組成物の対比>
【表2】
【0098】
【表3】
※比較例4として、市販品(商品名:ルビロン101,ウレタン溶剤系組成物,東洋ポリマー社製)を用いた。
※比較例5として、市販品(商品名:ベンリダインGT,アクリルエマルジョン系ピールアップ施工専用接着剤,サンゲツ社製)を用いた。
【0099】
下記の成分を表2及び3の配合として実施例及び比較例における硬化性組成物を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の含有量は、固形分換算の値である。
1)(メタ)アクリル酸エステル系共重合体
A)上記アクリル酸エステル系重合体A
B)上記アクリル酸エステル系重合体B
C)上記アクリル酸エステル系重合体C
D)上記アクリル酸エステル系重合体D
2)ポリオキシアルキレン系重合体:カネカ社製EST280(商品名,ジメトキシメチルシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体)
3)充填剤
コロイド炭酸カルシウム:シーレッツ200(商品名,脂肪酸エステルを表面処理剤とする表面処理コロイド状炭酸カルシウム,丸尾カルシウム社製)
表面処理重質炭酸カルシウム:備北粉化工業社製ライトンA5
4)有機溶剤:メタノール、エタノール又はメチルシクロヘキサンのいずれか
5)硬化触媒(有機スズ系):ネオスタンU700ES(商品名,ジブチル錯塩と正珪酸エチルとの反応生成物,日東化成社製)
6)脱水剤:KBM1003(商品名,ビニルトリメトキシシラン,信越化学工業社製)
7)接着付与剤:KBM603(商品名,N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,信越化学工業社製)
【0100】
[評価項目及び評価方法]
下記の評価を行った結果をまとめて表4及び表5に示す。なお、特に断りのない限り、評価は、23℃50%RHの環境下で行った。
(1)粘度
実施例及び比較例に係る硬化性組成物を調整後24時間静置し、B型粘度計(東機産業社製、BHローター6番 20rpm)を用いて23℃での粘度を測定した。
【0101】
(2)チキソ性(TI値)
実施例及び比較例に係る硬化性組成物を調整後24時間静置し、上記粘度計を用いて23℃での粘度を測定した。測定は、2rpmと20rpmで行い、その比である2rpm/20rpmをチキソ性(TI値)とした。
【0102】
(3)平面引張強さ試験
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、JIS A5536法の5.3.2に準じて平面引張強さ試験を行った。なお、該規格において、変成シリコーン系の硬化性組成物は高分子系張り床材用として規定されていないが、本実施例では、該規格を流用して試験した。また、養生は、23℃50%の環境下で168時間行った。被着体として、下地材として70×70×20mmのモルタル板を使用し、仕上材として40×40×2.5mmの複層ビニル床タイルFT,サンゲツフロアタイルGT−701(商品名,サンゲツ社製)を使用した。評価は、0.8N/mm以上であるときを“○”とし、0.5N/mm以上0.8N/mm未満であるときを“△”とし、0.5N/mm未満であるときを“×”とした。
【0103】
(4)はく離接着強さ試験
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、JIS A5536法の5.3.3に準じてはく離接着強さ試験(90度はく離)を行った。なお、該規格において、変成シリコーン系の硬化性組成物は高分子系張り床材用として規定されていないが、本実施例では、該規格を流用して試験した。また、養生は、23℃50%の環境下で168時間行った。被着体として、下地材として150×70×10mmのモルタル板を使用し、仕上材として25×200×2.5mmのビニル床シート,サンゲツノンスキッドPX−121(商品名,サンゲツ社製)を使用した。評価は、15N/25mm以上40N/25mm未満であるときを“○”とし、10N/25mm以上15N/25mm未満又は40N/25mm以上70N/25mm未満であるときを“△”とし、10N/25mm未満又は70N/25mm以上であるときを“×”とした。
【0104】
(5)作業性
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、JIS A5536法の5.3.1に準じて塗布性試験を行った。評価は、塗りやすく、クシ目が立つ場合を“○”とし、塗布後、クシ目が広がる場合を“△”とし、塗りにくい或いは塗布できない、又はクシ目が立たない場合を“×”とした。
【0105】
(6)施工性
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、施工性を評価した。被着体として、下地材として300×150×5mmのスレートを使用し、仕上材として25×150×2.5mmの複層ビニル床タイルFT,サンゲツフロアタイルIS−344(商品名,サンゲツ社製)を使用した。まず、スレートに上記硬化性組成物を、JIS A 5536法に準拠した櫛目ゴテを使って長手方向に櫛目が生じるように塗布し、その後、オープンタイムとして30分が経過した後に、仕上材の長手方向が上記櫛目と直角になるように仕上材を貼り合わせた。接着面積は25mm×100mmであった。その後、JIS A5536法に準じたハンドローラーで50Nの荷重をかけ、2回往復することで圧着し、その直後、バネばかりを用いてせん断方向の強度を測定した。評価は、15N以上である場合を“○”とし、10N以上15N未満である場合を“△”とし、10N未満である場合を“×”とした。
【0106】
(7)貼り合わせ可能時間
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、貼り合わせ可能時間を測定した。被着体として、下地材として上記スレートを使用し、仕上材として40×40×2.5mmの上記IS−344を使用した。まず、スレートに上記硬化性組成物を、櫛目ゴテを使って櫛目状に塗布し、その後、所定の時間が経過した後に仕上材を貼り合わせた。接着面積は40mm×40mmであった。その後、1kg重の重りを10秒間載せて圧着し、その直後、仕上材を下地材から剥がした。剥がした後の仕上材の接着面を目視し、硬化性組成物が転写される状態を確認した。そして、櫛目の5割以上が現れることとなる上記「所定の時間」を「貼り合わせ可能時間」とした。評価は、50分以上である場合を“○”とし、40分以上50分未満である場合を“△”とし、40分未満である場合を“×”とした。
【0107】
(8)拘束性
JIS A1454法の6.9に準じて、実施例及び比較例に係る硬化性組成物で接着されたビニル床材の熱膨張率を算出することによって拘束性を評価した。ただし、より過酷な試験を行うため、試験前の仕上材(ビニル床材)の養生(80℃、6時間)は行わなかった。
下地材として600×600×12mmのラワン合板を使用し、仕上材として457.2×457.2×2.5mmの複層ビニル床タイルFT,サンゲツフロアタイルIS−785(商品名,サンゲツ社製)を使用した。
上記合板に対し、上記硬化性組成物を、上記櫛目ゴテを使って櫛目が生じるように塗布し、上記仕上材を貼り合わせた。貼り合わせた後の試験体を23℃、50%RHの条件下で168時間養生させた。
養生後、5℃雰囲気中に試験体及び測定器を12時間静置した後、図1に示される、仕上材(ビニル床材)1の縦、横両方向における6本の標線(AB、DC、EF、A’D’、B’C’、E’F’)の長さを測定した。さらに35℃雰囲気中に試験体及び測定器を12時間静置させた後、上記6本の標線の長さを測定した。そして、試験体の縦・横両方向について次式におけるβを算出し、有効数字2けたのβの平均値を熱膨張率とした。
【数1】
ここで、βは仕上材(ビニル床材)1の縦又は横方向の熱膨張率(単位:℃−1)を示し、
βは測定器の熱膨張率(1×10−5−1とする)を示し、
ΔTは長さ測定時のl35とlとの温度差(単位:℃)を示し、
35は温度35±2℃における仕上材(ビニル床材)1の縦及び横方向の長さの平均値(単位:mm)を示し、
は温度5±2℃における仕上材(ビニル床材)1の縦及び横方向の長さの平均値(単位:mm)を示す。

評価は、βが5.0×10−5未満である場合を“◎”とし、5.0×10−5以上7.0×10−5未満である場合を“○”とし、7.0×10−5以上9.0×10−5未満である場合を“△”とし、9.0×10−5以上である場合を“×”とした。
なお、上記仕上材を下地材に接着せずに置いた場合のβは、9.5×10−5であった。
【0108】
(9)更新性
実施例及び比較例に係る硬化性組成物に対し、更新性を評価した。被着体として、下地材として、モルタル、フローリング材(BFV47305J,朝日ウッドテック社製)、クッションフロア(CM−4625,サンゲツ社製)の3種類を使用し、仕上材として40×40×2.5mmの上記IS−344を使用した。
上記下地材に対し、上記硬化性組成物を、上記櫛目ゴテを使って塗布し、上記仕上材を貼り合わせた。貼り合わせた後の試験体を23℃、50%RHの条件下で1週間養生させた。
養生後、スクレイパーを使って下地材と仕上材とを剥がした。評価は、仕上材の剥がしやすさという観点と、下地材に残った粘接着剤硬化物の除去のしやすさという観点との2点で行った。仕上材の剥がしやすさについては、剥がす際にほとんど抵抗がない場合を“○”とし、やや抵抗がある場合を“△”とし、かなり抵抗がある場合を“×”とした。下地材に残った粘接着剤硬化物の除去のしやすさについては、スクレイパーにて粘接着剤硬化物を容易に除去しやすい場合を“○”とし、スクレイパーにて粘接着剤硬化物を容易に除去しにくい場合を“△”とし、スクレイパーでは粘接着剤硬化物を容易に除去できない場合を“×”とした。
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
(A)架橋性珪素基を有し、数平均分子量が500〜50,000である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と、(B)架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と、(C)硬化触媒と、(D)充填剤と、(E)前記(A)成分と前記(B)成分との混合物100重量部に対して10重量部以上の有機溶剤とを含有し、(A)成分の分子鎖が、少なくとも(a1)アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、を含み、(a1)と(a2)との質量比(a1):(a2)が90:10〜30:70である硬化性組成物は、(1)下地材への塗布のし易さを示す作業性、(2)床仕上材を下地材に仮固定できるだけの施工性、(3)タイルの膨張収縮による突き上げや目隙きを防止するために、接着した床仕上材の熱による膨張・収縮を抑える拘束性、及び(4)床仕上材を交換する際の容易さを示す更新性のいずれも満たし、下地材の表面に床タイルを敷設する用途に適することが確認された(実施例1〜9)。特に、(a1):(a2)が90:10〜50:50であると、作業性、施工性、拘束性及び更新性の全てに優れる点でより好ましいことが確認された(実施例1、2)。また、有機溶剤については、メタノール、エタノール、メチルシクロヘキサンといった汎用性のある有機溶剤であれば広く一般に使用できるが、高い施工性が得られる点でメタノールがより好ましいことが確認された(実施例3〜5)。また、有機溶剤の量については、作業性を高める点で、(A)成分と前記(B)成分との混合物100重量部に対して50重量部以上であることがより好ましいことが確認された(実施例5)。
【0112】
一方、(a1):(a2)が90:10〜30:70の範囲にないと、平面引張強さ及び剥離接着強さが十分に得られない可能性があることのほか、貼り合わせ可能時間が十分に得られない可能性がある点でも好ましくないことが確認された(比較例1及び2)。また、無溶剤型の硬化性組成物を用いると十分な作業性が得られない点で好ましくなく(比較例3)、ウレタン系の組成物を用いると十分な更新性が得られない点で好ましくないことが確認された(比較例4)。また、ピールアップ施工専用接着剤を用いると十分な拘束性が得られず、更新性において下地に残った接着剤を十分に除去できない点で好ましくないことが確認された(比較例5)。
【符号の説明】
【0113】
1 仕上材(ビニル床材)
図1