(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
生産性を鑑みると光学材料用重合性組成物は、ろ過やモールドへの注入操作が容易である低粘度であることが望ましく、好ましくは注型時温度での粘度200mPa・s以下であり、より好ましくは注型時温度での粘度100mPa・s以下である。また、工業的な量産を鑑みた場合、調合した組成物全量をモールドに注入するために要する時間として3時間程度が必要であり、この間重合性組成物の粘度が上記の粘度を超えないことが好ましい。
【0009】
本発明で使用する(a)化合物である硫黄の純度は98%以上である。98%未満の場合、不純物の影響で光学材料にクモリが生じる現象が生じやすくなるが、98%以上の純度であればクモリが生じる現象は解消される。硫黄の純度は、好ましくは99.0%以上であり、より好ましくは99.5%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。一般に入手できる硫黄は、その形状や精製法の違いにより、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、結晶硫黄、昇華硫黄等があるが、本発明においては、純度98%以上であれば、いずれの硫黄でもかまわない。好ましくは、光学材料用重合性組成物製造時に溶解しやすい粒子の細かい微粉硫黄である。(a)化合物の添加量は、光学材料用重合性組成物中の硫黄原子含有率が高いほど高屈折率な光学材料が得られるが、添加量が多すぎると組成物に溶け残りが生じたり、組成物の粘度が著しく高くなるため、(a)および(b)化合物の合計質量を100質量部とした場合、10〜50質量部使用するが、好ましくは10〜45質量部、さらに好ましくは15〜35質量部である。
【0010】
本発明で使用する(b)化合物の添加量は、(a)および(b)化合物の合計を100質量部とした場合、50〜90質量部使用するが、好ましくは55〜90質量部、より好ましくは60〜85質量部である。
(b)化合物の具体例としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタンなどのエピスルフィド基を分子内に2個有するエピスルフィド化合物である。(a)化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。 中でも好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(3))および/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(4))であり、最も好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
【化3】
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
【0011】
【化4】
ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
【0012】
本発明で使用する(c)化合物はSH基を2個有する化合物である。SH基が1個の場合は、予備重合反応時の粘度上昇速度は低下するが、得られる光学材料の耐熱性、および屈折率が低下しやすくなり、SH基が3個以上の場合は予備重合反応時の粘度上昇が著しく大きくなるため好ましくない。
本発明で使用する(c)化合物の添加量は、(a)および(b)化合物の合計を100質量部とした場合、1〜20質量部使用するが、好ましくは2〜18質量部、より好ましくは3〜15質量部、特に好ましくは4〜12質量部、最も好ましくは5〜10質量部である。(c)化合物の割合が上記範囲よりも小さい場合、予備重合反応時の粘度上昇速度を抑える効果が小さくなってしまう。一方、上記範囲よりも多い場合には、得られる光学材料の耐熱性が低くなるなどの問題が発生する。
(c)化合物具体例としては、メタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(メルカプトメチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルオキシ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1−チアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1−チアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)チオフェン、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、2,2’−ジメルカプトビフェニル、4、4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−メルカプトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド等があげられる。なかでも好ましい具体例としては、メタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)エーテル、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)チオフェン、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ビス(4−メルカプトフェニル)メタン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィドである。より好ましくはメタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)チオフェン、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、特に好ましくは1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンである。なお、これらのSH基を2個有する化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0013】
本発明では、予備反応触媒として(d)化合物を用いることができる。(d)化合物は、前記(2)式で表される化合物をすべて包括するが、他の組成成分との相溶性や、光学材料用重合性組成物を重合硬化後得られる硬化物の屈折率を低下させないために低分子量の化合物が好ましく、具体的には(2)式のXが下記構造式(5)である化合物である。これら化合物の中でも好ましくは、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルメタクリレ−ト(下記構造式(6))、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルアクリレ−ト(下記構造式(7))および/ または1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル−4−ビニルベンゾエート(下記構造式(8))が挙げられ、最も好ましい具体例は工業的に入手が容易な1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルメタクリレ−トである。
(d)化合物の添加量は、(a)および(b)化合物の合計100質量部に対して、0.001〜3質量部であり、好ましくは0.002〜1質量部であり、より好ましくは0.003〜0.5質量部である。
【化5】
【化6】
1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルメタクリレ−ト
【化7】
1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルアクリレ−ト
【化8】
1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル−4−ビニルベンゾエート
【0014】
本発明の光学材料用重合性組成物を得るための予備重合反応について、詳細を以下に説明する。本発明は、(a)化合物である硫黄と(c)化合物であるSH基を2個有する化合物を(b)化合物存在下、予備重合反応することを特徴としている。硫黄とチオールとの反応は、通常、塩基性化合物の存在下あるいは非存在下に加熱することで促進されるが、塩基性化合物を使用する方法で反応時間が大幅に短縮できることから好ましい。しかしながら、塩基性化合物はエピスルフィド化合物の重合触媒として好適に作用するため、(a)化合物と(c)化合物とを(b)化合物存在下予備重合反応の触媒として通常の塩基性化合物を用いると、予備反応物(プレポリマー)および/または予備反応物(プレポリマー)を含んでなる重合性組成物の粘度が高くなったり、粘度上昇速度が速くポットライフが短くなるなどの問題がある。そこで鋭意検討を行った結果、特定の塩基性化合物である(d)化合物0.001〜3質量部を予備重合触媒として予備重合反応すると、(d)化合物は、そのアミノ基両端の置換基による立体障害に起因してエピスルフィド化合物の重合触媒として活性が著しく低いため、高選択的に(a)化合物と(c)化合物とを予備重合反応できることが判明した。さらに(d)化合物を予備重合触媒とした場合、室温付近の反応温度でも(a)化合物である硫黄の析出のない予備反応物(プレポリマー)が得られることが判明した。
【0015】
すなわち、本発明における、(a)化合物と(c)化合物を(b)化合物の存在下、予備重合反応させる具体的な方法は、(a)、(b)および(c)化合物に、好ましくは(d)化合物を添加し0℃〜45℃、好ましくは5℃〜40℃、より好ましくは10℃〜40℃で撹拌混合する。その際の添加方法は(a)、(b)化合物を反応温度に温度制御しつつ混合後、(c)および(d)化合物を混合後添加しても、(a)、(b)化合物と(c)化合物の一部を反応温度に温度制御しつつ混合後、(c)化合物の残りおよび(d)化合物を混合後添加しても、(a)、(b)、(c)化合物を反応温度に温度制御しつつ混合後、(d)化合物を添加しても良い。
反応は窒素、酸素、水素、硫化水素などの気体の存在下、常圧または加減圧による密閉下または減圧下等の任意の雰囲気下で行ってよいが、得られる光学材料の色調、耐熱性、耐光性等の物性を保持するためには酸素等の酸化性気体分圧を可能な限り低減させることが好ましい。
予備重合反応の際には液体クロマトグラフィーおよび/または粘度および/または比重および/または屈折率および/または発生ガス量を測定する事は、反応進行度を検知し、反応を制御する事により一定の光学材料を製造するうえで好ましい。なお、予備重合反応の停止点は、得られる予備反応物(プレポリマー)における(a)化合物の再析出や粘度などを考慮して適宜設定されるが、(a)化合物の50%以上を反応させることが好ましい。予備重合反応時間は、(d)化合物の添加量や反応温度によって制御することは可能であるが、反応時間が短すぎると停止点の制御が難しく、長すぎると生産性が悪くなるため10分から5時間、好ましくは10分から3時間、より好ましくは10分から2時間である。
さらに必要に応じて、予備重合反応の際に酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤、などの得られる光学材料の性能を向上させうる各種添加剤等を適宜添加しても構わない。
【0016】
得られた予備反応液(プレポリマー)を用いて重合性組成物を調製する具体的な方法は、予備反応液に重合硬化のために必要な重合触媒を混合する。この際、重合触媒を予め、(b)化合物、(c)化合物あるいは予備重合反応生成物の組成成分の少なくとも一成分と反応可能な化合物に溶解させて添加することもできるが、(c)化合物に溶解させて添加する方法が好ましい。重合触媒を混合するにあたり、設定温度、これに要する時間等は基本的には各成分が十分に混合される条件であればよいが、過剰の温度、時間は各原料、添加剤間の好ましくない反応が起こり、さらには粘度の上昇をきたし注型操作を困難にする等適当ではない。混合温度は5℃から40℃程度の範囲で行われるべきであり、好ましい温度範囲は10℃から40℃である。混合時間は、1分から12時間、好ましくは5分から8時間、最も好ましいのは5分から4時間程度である。必要に応じて、活性エネルギー線を遮断して混合してもかまわない。さらに必要に応じて、減圧下で混合することもでき、減圧条件は、0.001〜100torrであり、好ましくは0.005〜50torrであり、より好ましくは0.01〜30torrであり、これらの範囲で減圧度を可変しても構わない。
さらに必要に応じて、重合触媒を混合する際に、光学材料を得るための重合反応を適切に制御するために、重合調節剤を加えることが好ましい。
さらに必要に応じて、重合触媒を混合する際に、予備重合反応生成物の組成成分の少なくとも一成分と反応可能な化合物、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤、などの各種添加剤等を適宜添加しても構わない。
【0017】
本発明における重合触媒としては、アミン化合物、ホスフィン化合物、第4級アンモニウム塩誘導体、第4級ホスホニウム塩誘導体、アルデヒドとアミン系化合物の縮合物、カルボン酸とアンモニアとの塩、ウレタン化合物、チオウレタン化合物、グアニジン化合物、チオ尿素化合物、チアゾール化合物、スルフェンアミド化合物、チウラム化合物、ジチオカルバミン酸塩誘導体、キサントゲン酸塩、第3級スルホニウム塩誘導体、第2級ヨードニウム塩誘導体、鉱酸、ルイス酸、有機酸、ケイ酸、四フッ化ホウ酸、過酸化物、アゾ系化合物、酸性リン酸エステル誘導体を挙げることができる。これら重合触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。これらのうち好ましい具体例は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドおよび/またはテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
【0018】
本発明における重合調節剤としては、長期周期律表における第13〜16族元素のハロゲン化物を挙げることができる。これら重合調節剤は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。これらのうち好ましいものはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物である。より好ましくはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物であり、さらに好ましくはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。最も好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドである。
【0019】
本発明における予備重合反応生成物の組成成分の少なくとも一成分と反応可能な化合物は、耐酸化性、耐候性、染色性、強度、屈折率等の各種性能改良を目的として添加することができ、SH基を有する化合物、エポキシ化合物、イソ(チオ)シアネート化合物、カルボン酸誘導体、カルボン酸無水物、フェノール誘導体、アミン化合物、ビニル化合物、アリル化合物、アクリル化合物、メタクリル化合物等が挙げられる。
【0020】
前記方法により調製した光学材料用重合性組成物をモールドに注入する前にあらかじめ脱気処理を行うことは、重合性組成物の粘度上昇速度の低減、光学材料の高度な透明性の面から好ましい。脱気処理は、(a)化合物、(b)化合物、(c)化合物および(d)化合物を予備重合反応して得られる反応物と、組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物、各種添加剤、重合触媒、重合調節剤等の混合前、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。好ましくは、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。脱気処理条件は、0.001〜100torrの減圧下、1分間〜24時間、0℃〜45℃で行う。減圧度は、好ましくは0.005〜50torrであり、より好ましくは0.01〜30torrであり、これらの範囲で減圧度を可変しても構わない。脱気時間は、好ましくは5分間〜8時間であり、より好ましくは10分間〜4時間である。脱気の際の温度は、好ましくは5℃〜40℃であり、より好ましくは10℃〜40℃であり、これらの範囲で温度を可変しても構わない。脱気処理の際は、撹拌、気体の吹き込み、超音波などによる振動などによって、光学材料用重合性組成物の界面を更新することは、脱気効果を高める上で好ましい操作である。脱気処理により、除去される成分は、主に光学材料用重合性組成物の粘度上昇を促進する硫化水素等の溶存ガスや低分子量のメルカプタン等の低沸点物等であるが、脱気処理の効果を発現するのであれば、特に種類は限定されない。
【0021】
光学材料用重合性組成物をモールドに注入する前の注型液温度を制御しておくことは作業性向上のために重要である。反応進行や温度低下による粘度上昇の効果のために予備反応温度から大きく温度変化させることは望ましくなく、予備反応温度から好ましくは+10℃〜−10℃、より好ましくは+5℃〜−5℃である。また、注型液温度を重合初期温度に近づけておくことは良好な光学材料を得るために有効である。この温度制御により注型液温度と重合炉の炉温の差に起因する対流による脈理の発生を防止する効果がある。この脈理防止効果は組成物温度が炉温と等しい場合に最大となるが、注型液温度が低すぎる場合には結露や(a)化合物の析出といった問題が、注型液温度が高すぎる場合には粘度上昇速度が高くなるという問題が出るため注型液温度は重合初期温度に対して+10℃〜−10℃であることが好ましく、+5℃〜−5℃であることがさらに好ましく、かつ0℃〜45℃であり、好ましくは10℃〜40℃、さらに好ましくは15℃〜35℃である。
【0022】
モールドに注入する直前に、これらの重合性組成物をフィルターで不純物等をろ過し精製することは本発明の光学材料の品質をさらに高める上から好ましい。ここで用いるフィルターの孔径は0.05〜10μm程度であり、一般的には0.1〜5.0μmのものが使用され、フィルターの材質としては、PTFEやPETやPPなどが好適に使用される。ろ過を行わなかったり、孔径が10μmを超えるフィルターでろ過を行った場合は、光学材料に異物が混入したり、透明性が低下したりするため、通常光学材料として使用に耐えなくなる。このようにして得られた重合性組成物は、ガラスや金属製のモールドに注入後、電気炉や活性エネルギー線発生装置等による重合硬化を行うが、重合時間は0.1〜100時間、通常1〜48時間であり、重合温度は−10〜160℃、通常0〜140℃の範囲であり、特に重合開始温度は0〜40℃が一般的である。重合は所定の重合温度で所定時間のホールド、0.1℃〜100℃/hの昇温、0.1℃〜100℃/hの降温およびこれらの組み合わせで行うことができる。また、重合終了後、材料を40から150℃の温度で5分から5時間程度アニール処理を行う事は、光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに必要に応じて染色、ハードコート、反射防止、防曇性、防汚性、耐衝撃性付与等の表面処理を行うことができる。
【0023】
本発明で得られる光学材料の脈理とは、光学材料中の母体材質と屈折率を異にした材質成分が綿状または層状になっている部分であり、重合硬化中の重合発熱による重合性組成物の対流による光学材料中の微少な疎密や、重合反応の不均一な進行などによって生じる。通常、光学材料の脈理評価を行う場合、水銀灯光源を作製した光学材料(光学レンズ)に透過させ、透過光を白色板に投影し、次の基準で外観脈理レベルを評価する。すなわち、目視で脈理が確認されない場合は脈理1級、薄くて分散した脈理で目に見える限界の脈理が確認された場合は脈理2級、脈理2級以上の脈理が確認された場合は脈理3級と分類し、製造した光学材料の90%以上95%未満が脈理1級かつ脈理3級が5%未満であることが好ましく、製造した光学材料の90%以上95%未満が脈理1級かつ脈理3級の光学材料がないことがより好ましく、製造した光学材料の95%以上が脈理1級かつ脈理3級の光学材料がないことがさらに好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。光学材料用重合性組成物および重合して得られる光学材料の分析は以下の方法で行った。
[粘度]
B型粘度計(東機産業製、TV10M型)を使用し、各々の注型液温度での粘度を測定した。
[光学材料の耐熱性測定]
サンプルを厚さ3mmに切り出し、0.5mmφのピンに10gの加重を与え、30℃から10℃/分で昇温してTMA測定(セイコーインスツルメンツ製、TMA/SS6100)を行い、軟化点を測定した。
[光学材料の屈折率、アッベ数]
光学材料の屈折率、アッベ数はデジタル精密屈折率計(株式会社島津製作所製、KPR−200)を用い、25℃でのe線での屈折率、d線でのアッベ数を測定した。
[光学材料(光学レンズ)の脈理評価]
水銀灯光源を作製した光学材料(光学レンズ)に透過させ、透過光を白色板に投影し、下記の基準で外観脈理レベルを評価した。目視で脈理が確認されない場合は脈理1級、薄くて分散した脈理で目に見える限界の脈理が確認された場合は脈理2級、脈理2級以上の脈理が確認された場合は脈理3級とした。また、光学レンズは100枚作成し、以下の5段階で評価した。
A:100枚中、脈理1級の光学レンズが95枚以上で、脈理3級の光学レンズがないこと。
B:100枚中、脈理1級の光学レンズが90枚以上95枚未満で、脈理3級の光学レンズがないこと。
C:100枚中、脈理1級の光学レンズが90枚以上95枚未満で、脈理3級の光学レンズが5枚未満。
D:100枚中、脈理1級の光学レンズが80枚以上90枚未満で、脈理3級の光学レンズが5枚以上10枚未満。
E:100枚中、脈理3級の光学レンズが10枚以上。
【0025】
実施例1
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(以下b−1化合物と呼ぶ)84.5質量部、(c)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(以下c−1化合物と呼ぶ)7.7質量部、(d)化合物として1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルメタクリレ−ト(以下d−1化合物と呼ぶ)0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、30℃で1.0時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である25℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である25℃での粘度は40mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は82mPa・sであった。
(プラスチックレンズの製造方法)
得られた重合性組成物を1.0μmのPTFE製メンブランフィルターでろ過をし、ガラスモールド(設計度数(S/C)−10.0D/0.0D)とガスケットから構成されるモールド300セットに注入した。これらモールドを100セットずつオーブンで初期保持温度5、20、35℃から100℃まで、22時間掛けて緩やかに昇温加熱して重合硬化させた後に室温まで冷却して、モールドから離型し光学レンズを得た。その際の光学レンズの脈理、屈折率、アッベ数および耐熱性軟化点(Tg)、の結果を表1に示した。
【0026】
実施例2
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物7.7質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.005質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、40℃で1.5時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である30℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である30℃での粘度は36mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は110mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0027】
実施例3
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物7.7質量部、(d)化合物として1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジルアクリレ−ト(以下d−2化合物と呼ぶ)0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、25℃で1.5時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である25℃に保って濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である25℃での粘度は42mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は85mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0028】
実施例4
(a)化合物である硫黄16.0質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.0質量部、(c)化合物として1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン(以下c−2化合物と呼ぶ)8.7質量部、d−1化合物0.3質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、5℃で0.8時間反応させた。得られた反応液に、c-2化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である15℃に加熱して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である15℃での粘度は160mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は180mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0029】
実施例5
(a)化合物である硫黄10.0質量部、(b)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(以下b−2化合物と呼ぶ)90.0質量部、(c)化合物としてc−1化合物4.1質量部、d−1化合物0.1質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、5℃で1.2時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である15℃に加熱して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である15℃での粘度は90mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は103mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0030】
実施例6
(a)化合物である硫黄20.0質量部、(b)化合物としてb−1化合物80.0質量部、c−1化合物9.1質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、30℃で1.5時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である20℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である20℃での粘度は82mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は115mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0031】
実施例7
(a)化合物である硫黄30.0質量部、(b)化合物としてb−1化合物70.0質量部、c−1化合物14.1質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.033質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、30℃で1.0時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である25℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である25℃での粘度は55mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は96mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0032】
比較例1
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物8.6質量部、(d)化合物を加えず、窒素雰囲気常圧下、60℃で24時間反応させたが硫黄が残存した。
【0033】
比較例2
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物7.7質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、50℃で1.0時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である40℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である40℃での粘度は160mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は820mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0034】
比較例3
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物8.6質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.2質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、−5℃で1.0時間反応させたが硫黄が残存した。
【0035】
比較例4
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物7.7質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、45℃で1.0時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である25℃に冷却して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である25℃での粘度は210mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は450mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0036】
比較例5
(a)化合物である硫黄15.5質量部、(b)化合物としてb−1化合物84.5質量部、c−1化合物7.7質量部、(d)化合物としてd−1化合物0.016質量部を加えて、窒素雰囲気常圧下、25℃で1.5時間反応させた。得られた反応液に、c-1化合物0.9質量部、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.37質量部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.16質量部を加え、10Torrで脱気処理しながら注型時温度である40℃に加熱して濁りのない光学材料用重合性組成物を得た。得られた組成物の注型時温度である40℃での粘度は30mPa・sであり、注型時温度で3時間保持後の粘度は260mPa・sであった。
引き続き実施例1記載の方法で光学レンズを得た。その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】