(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パンチ部は、荷重が付与される板状部位と、当該板状部材から突設され、前記試験材に当接することで前記試験材を押圧する押圧部位と、を有する、断面略T字形状の部材であり、
前記板状部材と前記試験材固定機構との間には、所定の閾値以上の荷重が付与された際に付与された荷重の大きさに応じて収縮する収縮部材が設けられており、
前記収縮部材が収縮することで、前記押圧部位の先端部が前記試験材を押圧する
ことを特徴とする、請求項10〜13の何れか1項に記載の成形温度評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
以下で説明する成形温度評価方法及び成形温度評価システムは、非鉄金属材や、一般的に用いられる各種の鋼材のみならず、ステンレス鋼板や、DP(Dual Phase)鋼、TRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼等といった特殊な鋼板まで適用可能なものである。以下の説明では、成形温度評価の対象金属材として、残留オーステナイト鋼板の一種であるTRIP鋼を取り上げて説明を行うものとするが、本発明の実施形態に係る成形温度評価方法及び成形温度評価システムの適用金属材が下記の例に限定されるものではない。
【0033】
TRIP鋼は、ベイナイトやフェライトと、オーステナイトとが混在する組織からなる鋼材であり、残留するオーステナイトが変形の途中でマルテンサイトに変態することにより、強度及び延性に優れるという特性を有する鋼材である。このTRIP鋼に発現する、変形に伴うオーステナイトからマルテンサイトへの変態現象を、変態誘起塑性現象(Transformation Induced Plasticity:TRIP現象)という。
【0034】
以下では、本発明の実施形態に係る成形温度評価方法及び成形温度評価システムについて説明するに先立ち、以下の説明で着目するTRIP現象と、TRIP現象を考慮した成形温度評価方法について、図を参照しながら説明する。
【0035】
(変態誘起塑性現象と変態誘起塑性現象を考慮した成形温度評価方法について)
<変態誘起塑性現象について>
図1は、変態誘起塑性現象を説明するための模式図である。
図1に示すように、オーステナイトを含有する鋼材(TRIP鋼)を例えば引張変形させると、ある程度の変形後に、くびれが生じる。くびれが生じると、そのくびれ部に作用する応力が高くなり、この応力により残留オーステナイトがマルテンサイトに変態する加工誘起変態(
図1中でAとして示す。)が生じる。マルテンサイトは他のミクロ組織と比較して高強度なので、加工誘起変態によりくびれ部が他の部位より強化され、くびれ部の変形が進行しなくなる。この結果、くびれ部近傍の相対的に低強度である部位で変形が進行するようになる。このように、加工誘起変態によるくびれの発生と、変形の抑制とが繰り返される現象が、変態誘起塑性現象(TRIP現象)と呼ばれる。これにより、材料内で均一に変形が進行して、優れた延性が得られることとなる。
【0036】
しかし、上述したTRIP現象には、温度依存性が存在する。このTRIP現象(加工誘起変態)による延性の向上は、特定の温度範囲のみにて発現する。また、TRIP現象(加工誘起変態)によって延性が最も向上する温度(以後、加工誘起変態延性極大温度と称する。)は、そのTRIP鋼の化学組成及び金属組織に依存する。さらに、本発明者らが、鋭意検討した結果、この加工誘起変態延性極大温度は、塑性変形時のひずみ比β(塑性変形様式)に影響を受けて、その値が変化するひずみ比β依存性(塑性変形様式依存性)も有することが明らかとなった。
【0037】
ここで、ひずみ比βとは、2軸応力状態における2軸方向のひずみをそれぞれ最大主ひずみε1及び最小主ひずみε2とするとき、β=ε2÷ε1で表される。ただし、ε1≧ε2である。特に、β=−0.5となる状態が一軸引張状態、β=0となる状態が平面ひずみ引張状態、そして、β=1.0となる状態が等二軸引張状態と呼ばれる。
図2に、一軸引張、平面ひずみ引張、及び、等二軸引張を説明する模式図を示す。
図2に示すように、β=−0.5である一軸引張とは、図中に示すε1方向に伸び、ε2方向には縮む変形様式であり、これは絞り成形のような塑性加工に対応する。β=0である平面ひずみ引張とは、図中に示すε1方向に伸び、ε2方向には変形が生じない変形様式であり、これは曲げ成形のような塑性加工に対応する。β=1.0である等二軸引張とは、図中に示すε1方向に伸び、ε2方向にも伸びる変形様式であり、これは張出し成形のような塑性加工に対応する。
【0038】
塑性変形能の向上のためにTRIP現象を有効に活用するには、鋼材種毎に特有の値となる加工誘起変態延性極大温度と、この加工誘起変態延性極大温度に影響を及ぼす塑性変形時のひずみ比β(塑性変形様式)との両方を同時に考慮しなければならない。また、TRIP現象に伴って、TRIP鋼に由来する発熱(加工発熱や、加工変態熱等)が生じるため、これらが塑性加工試験結果に重畳する可能性を考慮することも求められる。しかしながら、上述した従来技術では、これらの考慮を行っていない。そこで、以下で説明する本発明の実施形態に係る成形温度評価方法及び成形温度評価システムでは、上記のような様々な点を考慮しつつ、金属材の成形温度を適切に評価する技術を提供するものである。
【0039】
なお、加工誘起変態延性極大温度はひずみ比βに依存する値であるので、以後、加工誘起変態延性極大温度をTβと表すものとする。例えば、ひずみ比がβ=−0.5である場合、その加工誘起変態延性極大温度をT−0.5と表す。
【0040】
<変態誘起塑性現象を考慮した成形温度評価方法について>
図3に、低炭素鋼について調査した各ひずみ比βにおける限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性を示した。
図3中で、四角印及び点線がβ=−0.5の結果を表し、△印及び二点鎖線がβ=0の結果を表し、丸印及び実線がβ=1.0の結果を表している。また、相当ひずみεeqとは、2軸応力状態における2軸方向のひずみを、それぞれ最大主ひずみε1および最小主ひずみε2とするとき、下記の式Aにより計算されるひずみのことである。この相当ひずみεeqは、多軸応力状態における応力−ひずみ成分を、それに相当する単軸応力−ひずみに換算したものである。この相当ひずみεeqは、異なる塑性変形様式、つまり、異なるひずみ比βにおける塑性変形能(延性)を比較するために用いられる。そして、限界相当ひずみεeq−criticalとは、被加工材である鋼材に破断が発生する際の相当ひずみεeqのことである。
【0042】
図3に示したように、限界相当ひずみεeq−critical(延性)は、特定の温度範囲でその値が向上する。前述のように、この延性の向上は、TRIP現象の発現に起因するものである。このように、TRIP現象による延性の向上は、温度依存性を有するものである。例えばβ=−0.5の場合、
図3に示したように加工誘起変態延性極大温度T−0.5は150℃となり、この温度で限界相当ひずみεeq−criticalが最も高い値となることがわかる。
【0043】
また
図3から明らかなように、ひずみ比βに依存して、加工誘起変態延性極大温度Tβが変化することがわかる。例えば、上述のようにβ=−0.5の場合、加工誘起変態延性極大温度T−0.5は150℃であるが、β=0の場合には加工誘起変態延性極大温度T0は200℃となり、β=1.0の場合には加工誘起変態延性極大温度T1.0は250℃となる。このように、加工誘起変態延性極大温度Tβは、ひずみ比β依存性を有する。
【0044】
図4に、
図3中のβ=0における限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性を二点鎖線として示すとともに、限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性が正規分布曲線に従うと仮定した場合の近似曲線を点線として併せて示した。上記のように、ひずみ比β=0の場合、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが最も向上する温度は、加工誘起変態延性極大温度T0の200℃となる。しかし、
図4に示すように、限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度は、特定の範囲を有している。この限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲は、
図4中にて点線で示す正規分布曲線に従うと仮定して近似した曲線から求めることが可能である。
【0045】
上記のTRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲を、近似曲線(近似関数)から求める方法を以下に説明する。
【0046】
まず、限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性が正規分布曲線に従うと仮定して、この温度依存性を下記の式B及び式Cに示す確率密度関数に近似する。
【0048】
ここで、上記式Bは、ひずみ比がβであり、そして、限界相当ひずみεeq−criticalが最も向上する温度である加工誘起変態延性極大温度Tβより低温度側である、限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性の近似関数(Tβより低温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線)を表している。
【0049】
また、上記式Cは、ひずみ比がβであり、そして、限界相当ひずみεeq−criticalが最も向上する温度である加工誘起変態延性極大温度Tβより高温度側である、限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性の近似関数(Tβより高温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線)を表している。
【0050】
なお、上記式B及び式Cにおいて、
εeq−critical:限界相当ひずみ
T:温度
Tβ:加工誘起変態延性極大温度
σLβ:Tβより低温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差、
σHβ:Tβより高温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差、
e:自然対数、
π:円周率、
C1〜C4:定数、
である。
【0051】
確率密度関数の数学的な定義から考慮すると、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲は、上記のσLβとσHβとにより表現が可能である。つまり、この温度範囲は、例えば、(Tβ−3×σLβ)〜(Tβ+3×σHβ)、(Tβ−2×σLβ)〜(Tβ+2×σHβ)、又は、(Tβ−σLβ)〜(Tβ+σHβ)等のように表現することができる。ここで、上記範囲が(Tβ−3×σLβ)〜(Tβ+3×σHβ)である場合は、確率密度関数の積分値が0.9974となることを数学的に意味し、上記範囲が(Tβ−2×σLβ)〜(Tβ+2×σHβ)である場合は、確率密度関数の積分値が0.9544となることを数学的に意味し、上記範囲が(Tβ−σLβ)〜(Tβ+σHβ)である場合は、確率密度関数の積分値が0.6826となることを数学的に意味する。
【0052】
このように、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲は、正規分布曲線に従うと仮定して近似した曲線(限界相当ひずみ近似曲線)の標準偏差であるσLβとσHβとを用いて表現することができる。これらのσLβ及びσHβは、ひずみ比βに依存する値である。以後、これらのσLβ及びσHβを、例えば、ひずみ比がβ=0である場合、σL0及びσH0と記す。
図4に示すひずみ比β=0の場合では、加工誘起変態延性極大温度T0が200℃となり、そして、近似曲線の解析結果から、σL0が55℃、σH0が19℃となる。なお、σLβとσHβとを求めるための近似曲線の解析は、一般のデータ分析・グラフ作成アプリケーションや、一般のグラフ作成機能を有する表計算アプリケーションで行うことができる。
【0053】
図4では、例えば、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲は、(T0−3×σL0)〜(T0+3×σH0)の場合が35℃〜257℃、(T0−2×σL0)〜(T0+2×σH0)の場合が90℃〜238℃、または、(T0−σL0)〜(T0+σH0)の場合が145℃〜219℃、などと表現することが可能である。
【0054】
ただ、本発明者らが、種々の鋼材及び種々のひずみ比について鋭意検討した結果、温度範囲として(Tβ−2×σLβ)〜(Tβ+1.25×σHβ)を採用すると、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲を、過不足なく好ましく表現できることが判明した。従って、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲としては、(Tβ−2×σLβ)〜(Tβ+1.25×σHβ)を採用することが好ましい。
【0055】
また、必要に応じて、上記の温度範囲の下限を、(Tβ−1.75×σLβ)、(Tβ−1.5×σLβ)、又は(Tβ−1.25×σLβ)としてもよい。同様に、上記の温度範囲の上限を、(Tβ+1.20×σHβ)、(Tβ+1.15×σHβ)、又は(Tβ−1.10×σLβ)としてもよい。
【0056】
ひずみ比がβ=0の場合、そして、温度範囲を(T0−2×σL0)〜(T0+1.25×σH0)とする場合、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲は90℃〜223.75℃となる。つまり、この低炭素鋼の場合、ひずみ比β=0である塑性変形様式で塑性変形能を向上させるためには、90℃〜223.75℃の温度範囲で塑性加工を行えばよい、という成形温度評価を下すことができる。
【0057】
以上説明したように、TRIP鋼の成形温度を評価する場合には、温度T及びひずみ比βを変化させながらTRIP鋼の塑性加工試験を実施し、最大主ひずみε1及び最小主ひずみε2を測定する。その後、得られた測定結果を利用して、ひずみ比β毎に各温度Tにおける限界相当ひずみεeq−criticalを算出する。これにより、
図3に例示したような、温度Tと限界相当ひずみεeq−criticalとの関係を示したグラフ図を得ることができる。続いて、得られた限界相当ひずみεeq−criticalの温度依存性を示す曲線を正規分布曲線で近似する。このような正規分布曲線を算出することで、塑性加工に適した成形温度を評価することが可能となる。
【0058】
なお、以上の説明では、TRIP鋼を例に挙げて説明を行ったが、一般的な鋼材を含む他の金属材の場合であっても、限界相当ひずみεeq−criticalが最大となる温度を特定し、かかる温度を延性極大温度T
βとして取り扱うことで、同様に成形温度を評価することが可能である。
【0059】
以下では、以上説明したような金属材に対する成形温度評価を行うことが可能な成形温度評価システムについて、図を参照しながら詳細に説明する。
【0060】
(第1の実施形態)
<成形温度評価システムの構成について>
以下では、まず、
図5を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る成形温度評価システムの構成について説明する。
図5は、本実施形態に係る成形温度評価システムの全体構成を概略的に示した説明図である。
【0061】
図5に示したように、本実施形態に係る成形温度評価システム1は、演算処理装置10と、塑性加工試験装置20と、を少なくとも有する。
【0062】
演算処理装置10は、成形温度を評価する評価対象金属材(以下、単に金属材とも称する。)の塑性加工試験結果に基づいて、評価対象金属材の成形温度に関する評価(より具体的には、延性の温度依存性に関する評価)を行う装置である。この演算処理装置10は、先だってTRIP鋼を例に挙げて説明したような成形温度評価方法に基づいて、評価対象金属材の評価を実施する。
【0063】
なお、演算処理装置10の詳細な構成等については、以下で詳述する。
【0064】
塑性加工試験装置20は、評価対象金属材に対して種々の塑性加工試験を実施して、評価対象金属材の最大主ひずみε
1及び最小主ひずみε
2を少なくとも測定する装置である。このような塑性加工試験装置20としては、公知の引張試験機や成形試験機を挙げることができ、これら公知の試験機を用いることで、試験中の試験片の温度変化を50℃以内に保ちつつ、塑性加工試験を実施することができる。
【0065】
ここで、本実施形態に係る成形温度評価システム1では、以下で詳述するような特定の引張試験装置21又は成形試験装置23の少なくとも一方を用いるものとする。以下で詳述するような試験装置の少なくとも一方を用いることで、ステンレス鋼を含む、オーステナイト含有率が2〜100%であるオーステナイト鋼を試験対象とした場合であっても、試験中の試験片の温度変化を30℃以内に均一に保ちつつ、正確な測定を行うことができる。また、以下で詳述するような試験装置の双方を用いることで、オーステナイト含有率が2〜30%であるオーステナイト鋼(例えば、TRIP鋼やDP鋼等)を試験対象とした場合であっても、試験中の試験片の温度変化を15℃以内に均一に保ちつつ、極めて正確な測定を行うことができる。これは、以下で詳述する引張試験装置21や成形試験装置23を利用することで、金属材を均一に加熱し、塑性変形をより均一に近い状態で進行させることが可能となるためである。
【0066】
これら引張試験装置21及び成形試験装置23の詳細な構成については、以下で詳述する。
【0067】
以上、
図5を参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価システム1の構成について説明した。
【0068】
<演算処理装置の構成について>
次に、
図6を参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価システム1が備える演算処理装置10の構成について、詳細に説明する。
図6は、本実施形態に係る演算処理装置10の構成の一例を示したブロック図である。
【0069】
本実施形態に係る演算処理装置10は、
図6に示したように、測定データ取得部101と、ひずみ演算部103と、評価部105と、評価結果出力部107と、表示制御部109と、記憶部111と、を主に備える。
【0070】
測定データ取得部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力装置、通信装置等により実現される。測定データ取得部101は、以下で詳述する塑性加工試験装置20により実施された各種の塑性加工試験の試験結果に対応する測定データを取得する。この測定データには、評価対象金属材について、ひずみ比βを変化させながら様々な温度で測定した、最大主ひずみε
1及び最小主ひずみε
2に関する測定データが少なくとも含まれている。
【0071】
かかる測定データは、後述する記憶部111に予め格納されていてもよいし、ユーザによってキーボード等の入力装置から入力されたものであってもよいし、各種の記録媒体に記録されたものであってもよい。測定データ取得部101は、塑性加工試験装置20から測定データを直接取得してもよいし、測定データが格納されている外部のサーバから測定データを取得してもよい。
【0072】
測定データ取得部101は、取得した塑性加工試験結果に対応する測定データを、ひずみ演算部103に出力する。
【0073】
ひずみ演算部103は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。ひずみ演算部103は、塑性加工試験装置により実施された、所定のひずみ比における相異なる複数の温度での測定結果に基づいて、相当ひずみε
eqを演算する。より詳細には、ひずみ演算部103は、塑性加工試験装置による試験結果のうち、試験材が破断した時点での測定データを利用して、限界相当ひずみε
eq−criticalを演算する。限界相当ひずみε
eq−criticalの演算は、上記式Aを用いることで行うことができる。
【0074】
ひずみ演算部103は、このような限界相当ひずみε
eq−criticalを、塑性加工試験を実施した各ひずみ比β毎に試験を行った各温度Tについて算出することで、
図3に例示したような限界相当ひずみの温度依存性を表す曲線に対応するデータ群を生成することができる。
【0075】
また、ひずみ演算部103は、以上のようにして得られた演算結果を利用し、それぞれのひずみ比βごとに、限界相当ひずみε
eq−criticalが極大となる温度(すなわち、延性極大温度T
β)を特定する。その後、ひずみ演算部103は、上記式B及び式Cを利用して、延性極大温度T
βよりも低温度側に位置する限界相当ひずみの近似曲線と、延性極大温度T
βよりも高温度側に位置する限界相当ひずみの近似曲線と、を算出する。得られた近似曲線を表す式と、上記式B及び上記式Cとを比較することで、ひずみ演算部103は、ひずみ比β毎に、延性極大温度Tβより低温度側における、ひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差σLβと、延性極大温度Tβより高温度側における、ひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差σHβとを、特定することができる。
【0076】
ひずみ演算部103は、以上のようにして、限界相当ひずみε
eq−criticalや、延性極大温度T
βや、各標準偏差σLβ,σHβ等を含むひずみ関連情報を、それぞれのひずみ比βについて生成する。
【0077】
ひずみ演算部103は、以上のようにして生成した各ひずみ比βでのひずみ関連情報を、評価部105に出力する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係るひずみ演算部103は、評価対象金属材の物性を解析する物性解析部であると言える。
【0079】
評価部105は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。評価部105は、ひずみ演算部103により得られたひずみ関連情報を利用して、各ひずみ比βでの金属材の延性の温度依存性を評価する。
【0080】
具体的には、評価部105は、まず、評価対象金属材を塑性変形させる際に、金属材の最もくびれや破断が発生しやすい局所領域(予測破断箇所)を特定し、この局所領域の塑性変形様式としてひずみ比βxを特定する。続いて、評価部105は、塑性加工試験装置20で測定されたひずみ比β(ひいては、ひずみ演算部103から出力されたひずみ関連情報に含まれるひずみ比β)の中から、このひずみ比βxを選択する。
【0081】
ここで、予測破断箇所及び該当箇所のひずみ比βxの特定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、塑性加工試験装置20により別途スクライブドサークルテストを実施することで、予測破断個所及び該当箇所のひずみ比βxを特定することができる。スクライブドサークルテストとは、加工前の被加工材の表面に、円形パターンや格子パターン等を描いておき、塑性変形によってくびれや破断が発生しやすい局所領域(予測破断箇所)を特定するとともに、当該局所領域の上記パターン形状を測定することで、局所領域の塑性変形様式(ひずみ比βx)を特定する方法である。
【0082】
評価部105は、塑性加工試験装置20により別途実施されたスクライブドサークルテストの結果から、局所領域の塑性変形様式を、一軸引張(β=−0.5)、絞り領域(−0.5<β<0)、平面ひずみ引張(β=0)、張出領域(0<β<1.0)及び等二軸引張(β=1.0)等に分類することができる。
【0083】
なお、上述のように、実測によって予測破断箇所及び該当箇所のひずみ比βxを解析することも可能であるが、評価部105は、有限要素法を用いた塑性変形シミュレーションを用いて、予測破断箇所及び該当箇所のひずみ比βxを解析してもよい。この場合には、数多く市販されているコンピュータ用の塑性変形シミュレーションプログラムを使用すればよい。塑性変形シミュレーションを用いれば、実測が困難である、被加工材の内部が予測破断箇所となる場合でも、予測破断箇所の特定と該当箇所のひずみ比βxの解析とが可能となる。そして、上記シミュレーション結果の妥当性を、実験にて確認するだけでよいため、最小実験数にて予測破断箇所及び該当箇所のひずみ比βxを解析することが可能となる。
【0084】
このように、評価部105では、まず、塑性変形様式の解析処理が実施される。
【0085】
その後、評価部105は、下記式Dで表される金属材の予測破断箇所の局所温度T
localの範囲を、該当箇所のひずみ比βxに応じた成形最適温度範囲であると評価する。ここで、下記式Dに示した成形最適温度範囲の下限値及び上限値を算出する際には、ひずみ演算部103により算出された各ひずみ比βでのひずみ関連情報が利用される。
【0086】
(T
βx−2×σL
βx)≦T
local≦(T
βx+1.25×σH
βx) ・・・(式D)
【0087】
上記のように、温度範囲としては、(T
βx−3×σL
βx)〜(T
βx+3×σH
βx)または(T
βx−2×σL
βx)〜(T
βx+2×σH
βx)などを用いてもよいが、本実施形態では、(T
βx−2×σL
βx)〜(T
βx+1.25×σH
βx)を、第一の成形最適温度範囲として評価する。また、評価部105は、必要に応じて、上記第一の成形最適温度範囲を、例えば、(T
βx−σL
βx)〜(T
βx+σH
βx)又は(T
βx−0.5×σL
βx)〜(T
βx+0.5×σH
βx)などと更に狭めて設定することも可能である。
【0088】
また、成形を行う金属材がTRIP鋼等であり、更に好ましく延性向上効果を得たい場合には、評価部105は、塑性加工中に熱交換や加工発熱などによって変化する予測破断箇所の局所温度T
localの温度変位ΔT
localを単位℃で解析しておき、上記式Dに示した第一の成形最適温度範囲に代わり、この温度変位ΔT
localを勘案した下記の式Eに示す温度範囲を、第二の成形最適温度範囲として評価すればよい。
【0089】
(T
βx−ΔT
local−2×σL
βx)≦T
local≦(T
βx−ΔT
local+1.25×σH
βx) ・・・(式E)
【0090】
このように、塑性加工中に熱交換や加工発熱などによって変化する金属材の局所温度T
localの温度変位ΔT
localを考慮することによって、次の効果が得られる。例えば、ひずみ速度が遅い塑性加工であり、塑性加工開始時と、金属材にくびれや破断が発生する塑性加工終了時と、を比較して金属材の温度変化が大きい場合であっても、塑性変形能が最も必要とされる塑性加工終了時における予測破断箇所の局所温度T
localを、適切に評価することができる。又は、例えば、ひずみ速度が速い塑性加工であり、加工発熱の影響が無視できない場合であっても、上記局所温度T
localを適切に評価することができる。
【0091】
評価部105は、最も好ましく延性向上効果を得たい場合、必要に応じて、上記第二の成形最適温度範囲を、(T
βx−ΔT
local−σL
βx)〜(T
βx−ΔT
local+σH
βx)又は(T
βx−ΔT
local−0.5×σL
βx)〜(T
βx−ΔT
local+0.5×σH
βx)などとすればよい。
【0092】
なお、温度変位ΔT
localの解析は、予測破断箇所に熱電対等を取り付けて塑性変形中の予測破断箇所の局所温度T
localを実際に測定すればよい。または、上述した有限要素法を用いた塑性変形シミュレーションを用いて、上述した予測破断箇所及びその箇所のひずみ比βxの解析に加えて、この温度変位ΔT
localを解析してもよい。
【0093】
以上のようにして得られた第一又は第二の成形最適温度範囲は、金属材の延性の温度依存性を評価したデータであると言える。評価部105は、このようにして得られた成形最適温度範囲に関するデータを、着目している金属材の評価結果として、評価結果出力部107に出力する。
【0094】
評価結果出力部107は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。評価結果出力部107は、評価部105による評価対象金属材に対する評価結果を出力する。評価結果は、表示制御部109を介してディスプレイ等の表示装置に表示されたり、プリンタ等の出力装置により紙媒体として出力されたり、各種記録媒体にデータとして格納されたり、外部に設けられた各種の機器に送信されたりする。これにより、成形温度評価システム1のユーザは、各種の評価結果を把握することが可能となる。
【0095】
表示制御部109は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置、通信装置等により実現される。表示制御部109は、評価部105から伝送された、評価対象金属材の延性の温度依存性を含む各種の評価結果を、演算処理装置10が備えるディスプレイ等の出力装置や演算処理装置10の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、成形温度評価システム1のユーザは、各種の評価結果をその場で把握することが可能となる。
【0096】
記憶部111は、例えば本実施形態に係る演算処理装置10が備えるROM、RAMやストレージ装置等により実現される。記憶部111には、本実施形態に係る演算処理装置10が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部111は、測定データ取得部101、ひずみ演算部103、評価部105、評価結果出力部107、表示制御部109等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
【0097】
以上、本実施形態に係る演算処理装置10の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0098】
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0099】
<成形温度評価方法の流れについて>
続いて、
図7を参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価方法の流れの一例について、簡単に説明する。
図7は、本実施形態に係る成形温度評価方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0100】
本実施形態に係る成形温度評価方法では、所定の塑性加工試験装置20を利用して、評価対象金属材に対して塑性加工試験が実施される(ステップS101)。
【0101】
その後、演算処理装置10の測定データ取得部101は、得られた試験結果に対応する測定データを取得して(ステップS103)、ひずみ演算部103に出力する。
【0102】
ひずみ演算部103では、取得した測定データに基づいて、限界相当ひずみεeq−criticalを演算するとともに(ステップS105)、得られた限界相当ひずみεeq−criticalを利用して、上記のひずみ関連情報を生成する(ステップS107)。その後、ひずみ演算部103は、得られたひずみ関連情報を、評価部105に出力する。
【0103】
評価部105は、ひずみ演算部103から得られたひずみ関連情報を利用するとともに、塑性加工試験装置20により実施されたスクライブドサークルテスト等の結果や各種シミュレーション結果を利用して、評価対象金属材の塑性変形様式を解析する(ステップS109)。その後、評価部105は、得られた解析結果やひずみ関連情報を利用して、上記式D又は式E等に基づいて、評価対象金属材の成形最適温度範囲を算出する(ステップS111)。評価部105は、このようにして得られた評価対象金属材の成形最適温度範囲を、評価結果として評価結果出力部107に出力する。
【0104】
続いて、評価結果出力部107は、評価部105から出力された評価結果を、所定の方法により出力する。これにより成形温度評価方法を利用したユーザは、評価対象金属材の成形最適温度範囲に関する評価結果(すなわち、延性の温度依存性の評価結果)を把握することが可能となる。
【0105】
以上、
図7を参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価方法の流れについて、簡単に説明した。
【0106】
続いて、本実施形態に係る塑性加工試験装置20として利用することが好ましい各種の試験装置について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0107】
<引張試験装置について>
[引張試験装置の全体構成について]
まず、
図8A及び
図8Bを参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価システムにおいて使用することが好ましい引張試験装置21の全体構成について説明する。
図8Aは、本実施形態に係る引張試験装置を側方から見た場合を模式的に示した概略図であり、
図8Bは、本実施形態に係る引張試験装置を上方から見た場合を模式的に示した概略図である。ここで、
図8A及び
図8Bに関する説明では、各図に示した直交座標系を利用して方向を説明するものとする。また、
図8Aは、引張試験装置の内部構造をより明確に図示するために、部材の一部を省略して記載している。
【0108】
本実施形態に係る引張試験装置21は、金属試験材の伸びを変位センサで検知して試験材に生じたひずみを測定し、試験材の引張強度を測定する引張試験装置である。かかる引張試験装置21は、恒温槽として機能する熱媒体浴201を有しており、熱媒体浴201の内部には、例えばシリコンオイル等の液体状の熱媒体203が保持されている。この熱媒体浴201には、試験材Sの長手方向が鉛直方向(z軸方向)と略平行となるように、試験材Sの被測定部位が浸漬される。熱媒体203としてシリコンオイル等といった液体状の媒体を利用することで、熱媒体の熱容量を増加させることが可能となり、試験材に発生する熱による影響を緩和することができる。
【0109】
熱媒体203の種類は、引張試験の実施温度に応じて決定すればよく、熱媒体203として例えばシリコンオイルを用いた場合には、シリコンオイルの使用許容温度範囲である−70℃〜250℃での引張試験が可能となる。
【0110】
ここで、試験材Sの形状は特に限定するものではないが、例えば、JIS Z2201(金属材料引張試験片)に規定されているようなJIS5号試験片等の各種の試験片を利用することが可能である。
【0111】
試験材Sは、長手方向の下端(z軸負方向側の端部)を固定する試験材下部チャック治具(以下、下部チャック治具とも称する。)205と、長手方向の上端(z軸正方向側の端部)を固定する試験材上部チャック治具207a,207bと、により固定されている。試験材下部チャック治具205は、
図8Aに示したように、熱媒体浴201の内部に固定される。また、試験材上部チャック治具207a,207bは、熱媒体浴201の外部に配設されるものであり、
図8Bに示したように、x軸正方向側から試験材Sを固定する治具207aと、x軸負方向側から試験材Sを固定する治具207bと、から構成されている(以下、これらの治具207a,207bをまとめて、上部チャック治具207とも称する。)。
【0112】
試験材下部チャック治具205及び試験材上部チャック治具207a,207bは、シャフト209を介して、荷重被負荷治具211と連結されている。これら試験材下部チャック治具205、試験材上部チャック治具207a,207b、シャフト209及び荷重被負荷治具211が、試験材Sに対する外力印加部として機能する。
【0113】
すなわち、荷重被負荷治具211は、アクチュエータ等の公知の駆動装置(図示せず。)に連結され、駆動装置の動作に伴ってz軸正方向側に引っ張られたり、z軸負方向側に圧縮されたりする。荷重被負荷治具211に加えられた荷重負荷は、シャフト209を介して試験材上部チャック治具207a,209bに伝達され、その結果、試験材Sに対して外力が印加されることとなる。
【0114】
また、試験材Sには、試験材Sの下部チャック治具205側の端部(z軸負方向側の端部)を挟持する第1挟持部材213と、試験材Sの上部チャック治具207側の端部(z軸正方向側の端部)を挟持する第2挟持部材215と、が設けられている。第1挟持部材213及び第2挟持部材215の一端は、熱媒体浴1の外部に位置している。かかる第1挟持部材213及び第2挟持部材215については、以下で詳述する。
【0115】
第1挟持部材213及び第2挟持部材215の熱媒体浴201の外部に位置する端部には、変位センサとして機能する差動トランス式変位計217がそれぞれ設置されている。差動トランス式変位計217は、コア219の鉛直方向(z軸方向)の変位を電圧差として出力する変位センサであり、コア219に生じた変位を、電圧という高精度な電気信号として出力することができる。それぞれの差動トランス式変位計217からの出力データ(すなわち、電圧に関する電気信号)は、後述する演算処理ユニット223に出力される。本実施形態に係る引張試験装置21では、試験材Sに生じた変位を測定する測定機器が熱媒体浴201の外部に設けられているため、熱媒体203によって測定系が影響を受けることがない。
【0116】
このように、本実施形態に係る引張試験装置21では、第1挟持部材213、第2挟持部材215及び各差動トランス式変位計217が互いに連携することで、ひずみ計として機能することとなる。
【0117】
熱媒体浴201の下部には、熱媒体の温度を制御する温度制御部として機能するヒータ221が設けられており、熱媒体203の温度を、引張試験を実施する所定の温度に維持することができる。
【0118】
また、引張試験装置21には、それぞれの差動トランス式変位計217から出力された電圧に関する電気信号に基づいて、試験材Sに発生した伸び量(又は縮み量)を算出する演算処理ユニット223が設けられている。
【0119】
差動トランス式変位計217は、出力される電圧差が測定対象に生じた変位と比例している計測機器である。従って、第1挟持部材213に設置された差動トランス式変位計217が検知した変位量と、第2挟持部材215に設置された差動トランス式変位計217が検知した変位量との差分を取ることによって、演算処理ユニット223は、試験材Sに生じた変位量(すなわち、伸び量又は縮み量)を算出することができる。
【0120】
また、演算処理ユニット223は、算出した試験材Sの伸び量と、試験材Sに加えられた外力の大きさと、を利用して、試験材Sに生じたひずみや、試験材Sに付与された応力の大きさを算出することが可能である。更に、演算処理ユニット223は、得られた算出結果に基づいて応力−ひずみ曲線等を作成し、ディスプレイ等の表示装置や他のコンピュータ等に結果出力したり、所定の帳票形式で結果をプリントアウトしたりすることも可能である。
【0121】
なお、演算処理ユニット223は、引張試験装置21に実装されたCPU、ROM、RAM等からなる電子回路であっても良いし、引張試験装置21に接続されたCPU、ROM、RAM等を有する各種のコンピュータであってもよい。
【0122】
また、
図8Bに示したように、熱媒体浴201には、熱媒体203を攪拌するための公知の攪拌装置225が設置されていることが好ましい。攪拌装置225により熱媒体203を攪拌することで、熱媒体浴201中における熱媒体203の温度分布をより均一化することが可能となり、より正確に引張試験を実施することが可能となる。
【0123】
更に、
図8Bに示したように、熱媒体浴201中には、ヒータ221に加えて、投げ込みヒータ227が更に設置されていてもよい。
【0124】
以上、
図8A及び
図8Bを参照しながら、本実施形態に係る引張試験装置21の全体構成について説明した。
【0125】
[第1挟持部材及び第2挟持部材について]
続いて、
図9〜
図13を参照しながら、第1挟持部材213及び第2挟持部材215について、詳細に説明する。
図9〜
図10Bは、本実施形態に係る第1挟持部材及び第2挟持部材を示した概略図である。
図11A、
図12、
図13は、本実施形態に係る第1挟持部材213の部分拡大図であり、
図11Bは、本実施形態に係る第2挟持部材215の部分拡大図である。
【0126】
図9は、
図8A及び
図8Bに示した引張試験装置21の全体構成から、試験材S、第1挟持部材213及び第2挟持部材215を取り出して示したものである。
図9に示したように、第1挟持部材213は略S字形状の部材であり、第2挟持部材215は、略Z字形状の部材である。これら第1挟持部材213及び第2挟持部材215は、試験材Sを短手方向(y軸方向)に沿って挟持する。換言すれば、第1挟持部材213及び第2挟持部材215は、試験材Sの引張方向(z軸方向)に対して直交する方向に、試験材Sを面で挟持している。また、第1挟持部材213及び第2挟持部材215は、第1挟持部材213及び第2挟持部材215自体は変形することなく、試験材Sの伸び(又は縮み)に追随する。これにより、シリコンオイル等の液体状の熱媒体203中に試験材Sが浸漬されたとしても、試験材Sとの間に滑りが生じることなく確実に保持することが可能となるため、液体状の熱媒体中で正確に引張試験を行うことが可能となる。
【0127】
第1挟持部材213は、
図9に示すように、y軸方向に延設され試験材Sを挟持する挟持部213aと、挟持部213aの一端に連結され、試験材Sの長手方向(z軸方向)に延設された連結部213bと、連結部213bの一端から延設された変位センサ取付部213cと、を備える。これら挟持部213a、連結部213b及び変位センサ取付部213cは、一体に形成されることが好ましい。
【0128】
同様に、第2挟持部材215は、y軸方向に延設され試験材Sを挟持する挟持部215aと、挟持部215aの一端に連結され、試験材Sの長手方向(z軸方向)に延設された連結部215bと、連結部215bの一端から延設された変位センサ取付部215cと、を備える。これら挟持部215a、連結部215b及び変位センサ取付部215cは、一体に形成されることが好ましい。
【0129】
また、第1挟持部材213及び第2挟持部材215が試験材Sに取り付けられる際、挟持部213aと挟持部215aとの間の離隔距離L1を所定範囲の値となるように調整することが好ましい。例えば試験材SとしてJIS5号試験片を利用する場合、離隔距離L1は、45mm〜55mmとなることが好ましい。この数値範囲について、JIS Z2201では、JIS5号試験片を利用する場合の標点距離を50mmとすることが規定されている。そこで、標点距離に対応する離隔距離L1としては、JISで規定された標点距離に5mmの余裕を見て、45mm〜55mmが好ましいとしている。離隔距離L1が45mm未満である場合には、局所的な伸びの影響が大きくなり、正確な評価が出来ない場合があるため、好ましくない。また、離隔距離L1が55mm超過である場合には、JIS5号試験片のRによる影響が大きくなって、正確な評価が出来ない場合があるため、好ましくない。
【0130】
続いて、
図10A〜
図13を参照しながら、第1挟持部材213及び第2挟持部材215のより詳細な構造について説明する。
図10Aに示したように、第1挟持部材213の連結部213bの長さをA[mm]とし、第2挟持部材215の連結部215bの長さをB[mm]とした場合に、(B/A)で表される連結部の長さの比が、0.5以上2.0以下となることが好ましい。以下、長さの比(B/A)が上記範囲となることが好ましい理由について説明する。
【0131】
試験材Sが、下部チャック部材205及び上部チャック部材207に取り付けられる際に、試験材Sの長手方向が鉛直方向(z軸方向)と平行となるように設置されることが望ましいが、試験材Sが鉛直方向から若干傾いて設置されてしまう場合が生じうる。このように設置された試験材Sに対して外力を印加して引張試験を行った場合、試験材Sは、
図9中のyz平面内で回転運動をしつつ伸び(又は縮み)が生じることとなる。その結果、得られた試験結果には、回転運動に伴う影響が含まれることとなり、本来得られるべき正確な試験結果から誤差を生じてしまう。そこで、上記の長さの比(B/A)を、0.5≦(B/A)≦2.0とすることによって、試験材Sの取り付け誤差に伴う回転運動の影響を緩和させることが可能となり、より正確な試験結果を得ることが可能となる。
【0132】
長さの比(B/A)が0.5未満となる場合や、2.0超過となる場合には、試験材Sの取り付け誤差に伴う回転運動の影響を十分に緩和することができず、好ましくない。また、長さの比(B/A)は、1.0に近づくほど好ましく、
図10Bに示したように、長さの比(B/A)が1.0となる場合が最も好ましい。連結部の長さの比(B/A)が1.0となる場合には、回転運動に伴って第1連結部材213に作用するモーメントの大きさと第2連結部材215に作用するモーメントの大きさとの釣り合いが取れ、試験材Sの取り付け誤差に伴う回転運動の影響をより確実に緩和させることができる。
【0133】
図11Aは、第1挟持部材213の挟持部213aの近傍を拡大して模式的に示した分解斜視図である。
図11Aに示したように、挟持部213aは、第1部材231と、第2部材233と、を有している。第2部材233は、連結部213bから延設される部材であり、第1部材231は、第2部材233に着脱可能なように設けられる部材である。第1部材231には、試験材Sが配設される溝部235が設けられており、弾性変形が可能な部材を利用して形成されている。また、第1部材231及び第2部材233には、ボルト締結用のネジ穴237が形成されており、ボルト(図示せず。)を利用して試験材Sを第1部材231と第2部材233との間に固定する。
【0134】
図11Bは、第2挟持部材215の挟持部215bの近傍を拡大して模式的に示した分解斜視図である。
図11Bに示したように、挟持部215aは、第1部材241と、第2部材243と、を有している。第2部材243は、連結部215bから延設される部材であり、第1部材241は、第2部材243に着脱可能なように設けられる部材である。第1部材241には、試験材Sが配設される溝部245が設けられており、弾性変形が可能な部材を利用して形成されている。また、第1部材241及び第2部材243には、ボルト締結用のネジ孔247が形成されており、ボルト(図示せず。)を利用して試験材Sを第1部材241と第2部材243との間に固定する。
【0135】
なお、第1挟持部材213及び第2挟持部材215の第1部材に設けられる溝部の深さは特に限定されるものではなく、引張試験を実施する試験材Sの厚みに応じて適宜決定すればよい。
【0136】
図12は、第1挟持部材213を例に挙げて、試験材Sの挟持状態を説明するための図であり、第1挟持部材213の挟持部213aを上方(
図8Aにおけるz軸正方向側)から見た場合を示している。ここで、以下では、第1挟持部材213を例に挙げて説明を行うが、第2挟持部材215についても同様の機構により試験材Sを挟持するものである。
【0137】
試験材Sが第1部材231の溝部235に配設されつつ、第1部材231及び第2部材233に挟持され、第1部材231及び第2部材233それぞれに設けられたネジ孔247に、ボルト249,251が締結される(
図12上段)。この状態で、試験材Sに当接しているボルト251を更に締めることで、第1部材231が弾性変形し、更に強力に試験材Sを挟持することが可能となる(
図12下段)。これにより、試験材Sとの間で滑りが生じやすい液体状の熱媒体中であっても、試験材Sを更に強力に挟持することができ、より正確な試験結果を得ることが可能となる。
【0138】
図13は、第1挟持部材213の挟持部213aを、溝部235が形成されている部分で切断し、側方(
図8Aにおけるy軸正方向側)から見た場合を示した概略断面図である。本実施形態に係る引張試験装置21では、例えば
図13に示したように、第2部材233の断面形状を略三角形状としてもよい。
図13に示したように、第2部材233の断面形状を略三角形状とし、試験材Sに当接する第2部材233の面積を小さくすることで、更に強力に試験材Sを挟持することが可能となる。また、試験材Sに当接する部分の頂角の大きさは、挟持部に求められる試験材保持力の大きさに応じて、適宜決定すればよい。
【0139】
以上、
図9〜
図13を参照しながら、第1挟持部材213及び第2挟持部材215について、詳細に説明した。
【0140】
以上説明したように、本実施形態に係る引張試験装置21では、熱媒体としてシリコンオイル等の液体状の熱媒体を使用することで、20℃近傍の室温だけでなく、熱媒体の使用許容温度範囲で、鋼材や非鉄金属材等の金属材の引張試験を実施することが可能となる。また、熱媒体として液体状の熱媒体を利用することで、金属材に発生した熱による影響を抑制し、金属材に生じる温度変化を少なくとも30℃以内、更には15℃以内とすることが可能となる。その結果、より温度が安定した試験条件で金属材に生じるひずみを計測することができ、試験材の微小な伸びを均一温度で正確に計測することが可能となる。
【0141】
そのため、本実施形態に係る引張試験装置21を利用することで、各種の非鉄金属材のみならず、残留オーステナイト鋼板等のように加工発熱や加工変態熱の影響を受けやすいような鋼板であっても、より正確な引張試験を行うことが可能となる。
【0142】
<成形試験装置について>
[成形試験装置の全体構成について]
次に、
図14〜
図15Bを参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価システムにおいて使用することが好ましい成形試験装置23の全体構成について説明する。
図14は、本実施形態に係る成形試験装置を側方から見た場合を模式的に示した概略断面図であり、
図15A及び
図15Bは、本実施形態に係る成形試験装置のパンチ部の一例を模式的に示した説明図である。
【0143】
なお、
図14に関する説明では、図中に示した直交座標系を利用して方向を説明するものとする。また、
図14は、本実施形態に係る成形試験装置を、その中心軸を通るようにyz平面で切断した場合を示したものであるが、本実施形態に係る成形試験装置は、中心軸を通るようにxz平面で切断した場合についても、
図14と同様な構造を有している。
【0144】
本実施形態に係る成形試験装置23は、金属試験材に対して張出加工を行うことで、金属試験材の成形試験を行うものであり、いわゆる張出試験装置として機能する装置である。成形試験装置23は、金属試験材(以下、試験材とも称する。)Sに対して塑性加工を施す塑性加工部31と、金属試験材の温度を所定の温度に維持する恒温槽部33と、から構成されている。
【0145】
○塑性加工部について
まず、塑性加工部31の構成について説明する。
塑性加工部31は、試験材Sに対して負荷を付与する、断面略T字形状のパンチ部301を有する。パンチ部301は、
図15Aに示したように、アクチュエータ等の公知の駆動装置(図示せず。)に連結されることで荷重が付与される板状部材301aと、板状部材301aから突設され、試験材Sに当接することで試験材Sを押圧する押圧部位301bと、から形成されている。また、
図14及び
図15Aでは、押圧部位301bの先端部(z軸負方向側の先端部)の断面形状が球形である球頭形状となっているが、押圧部位301bの先端部の形状は、実施する成形試験の種類に応じて適宜変更することが可能である。
【0146】
すなわち、
図15Bに示したように、中島法による成形限界試験を実施する場合には、
図14及び
図15Aに示したような球頭パンチを用いればよいし、マルシニアック法による成形限界試験を実施する場合には、
図15Bに示したような円筒パンチを用いればよい。また、成形試験を実施する場合には、
図15Bに示したような角筒パンチを用いればよいし、穴拡げ試験を実施する場合には、
図15Bに示したような円錐パンチを用いればよい。
【0147】
このように、押圧部位301bの先端部の形状は、実施する試験に応じて、球形状、角筒形状、円筒形状又は円錐形状を有している。
【0148】
図14に戻って、パンチ部301の板状部材301aの下方(z軸負方向側)、かつ、パンチ部301の押圧部位301bの周囲には、収縮部材303が配設される。収縮部材303は、所定の閾値以上の荷重が付与された際に、付与された荷重の大きさに応じて収縮部材303自体の高さが定量的に変化する部材である。本実施形態では、パンチ部301の板状部材301aを介して荷重が付与され、荷重の大きさが所定の閾値を超えた時点で、付与された荷重の大きさに応じて高さが規則的に収縮していく。このような収縮部材303として、公知の部材を用いることが可能であるが、収縮部材303の一例として、ガススプリングを挙げることができる。
【0149】
収縮部材303の下方(z軸負方向側)には、
図14に示したように、押圧部位301bに対応する部分に貫通孔が形成された断熱材305が配設されることが好ましい。かかる断熱材305には、テフロンシート等の公知の断熱材を使用することが可能である。
【0150】
断熱材305の更に下方には、押圧部位301bに対応する部分に貫通孔が形成され、試験材Sの固定されるブランクホルダ307が配設される。
【0151】
ブランクホルダ307は、試験材固定機構として機能する部材であり、z軸負方向側の面の貫通孔に対応する部分に、試験材Sが固定される。パンチ部301の押圧部位301bは、断熱材305及びブランクホルダ307に形成された貫通孔を介して、固定されている試験材Sを押圧することとなる。
【0152】
なお、試験材Sは、成形試験装置23の中心軸(z軸方向の中心軸)に対して点対称に配置された複数の試験材保持部材309により、試験材Sの中心と成形試験装置23の中心軸とが一致するようにブランクホルダ307に固定される。これにより、試験材Sの中心がずれないように保持しつつ、試験材Sに対して塑性加工を行うことができる。また、試験材保持部材309は、ブランクホルダ307に脱着可能に配設されるため、試験材保持部材309を取り外すことで、試験材Sの交換をより簡便に実施することができる。
【0153】
○恒温槽部について
次に、恒温槽部33の構成について説明する。
恒温槽部33は、
図14に示したように、熱媒体浴311を有しており、熱媒体浴311の内部には、例えばシリコンオイル等の液体状の熱媒体313が保持されており、試験材Sの被測定部位が浸漬される。熱媒体313としてシリコンオイル等といった液体状の媒体を利用することで、熱媒体の熱容量を増加させることが可能となり、試験材に発生する熱による影響を緩和することができる。
【0154】
熱媒体313の種類は、成形試験の実施温度に応じて決定すればよく、熱媒体313として例えばシリコンオイルを用いた場合には、シリコンオイルの使用許容温度範囲である−70℃〜250℃での成形試験が可能となる。
【0155】
また、熱媒体浴311の内部(より具体的には、
図14に示したように、熱媒体浴311の底面)には、スペーサ315が固定されている。このスペーサ315には、成形試験装置23の中心軸を中心として貫通孔が形成されており、また、この貫通孔を中心に、熱媒体313の流れる流路317が形成されている。
【0156】
このスペーサ315については、以下で改めて詳述する。
【0157】
スペーサ315の天面(熱媒体浴311の底面と対向する面)上には、ダイ319が配設される。ダイ319には、成形試験装置23の中心軸を中心として、パンチ部301の押圧部材301bに対応する位置に貫通孔が形成されている。この貫通孔の形状は、パンチ部301の押圧部材301bの先端部の形状に適合したものとなっている。
【0158】
また、熱媒体浴311の下部には、
図14に示したように、熱媒体313の温度を制御するための温度制御機構として、ヒータ321が配設されている。
【0159】
○成形試験装置の動作機構について
以上説明した塑性加工部31と、恒温槽部33とは、
図14に示したように、中心にシャフトが配設された連結用スプリング323によって互いに接続されている。
【0160】
試験材Sに対する各種の成形試験を実施する際は、まず、連結用スプリング323の長さを調整することで、試験材Sの固定された塑性加工部31を所定の温度に維持されている熱媒体浴311中に降下させ、試験材Sが、ブランクホルダ307及びダイ309に挟持されるようにする。
【0161】
その後、試験材S及びパンチ部301の温度が安定するまで(例えば、試験材S及びパンチ部301の温度が熱媒体313の温度とほぼ等しくなるまで)、試験材Sに対して荷重をかけることなく、熱媒体浴311中に維持する。その後、試験材S及びパンチ部301の温度が安定した段階でパンチ部301の板状部材301aに対して荷重を付与して、パンチ部301を更に降下させる。これにより、ブランクホルダ307及びダイ309に挟持された試験材Sは、押圧部材301bにより更に押圧されることで張出加工が施されることとなり、ダイ309に設けられた貫通孔の中空部分に向かって試験材Sが張り出していく。
【0162】
試験材Sが張り出していくことでダイ309に設けられた貫通孔の中空部分から押し出される熱媒体313は、貫通孔を通過し、更に、スペーサ315に設けられた流路317を流れることで、熱媒体浴311中を対流することとなる。このように、本実施形態に係る成形試験装置23では、パンチ部301の熱媒体313中への降下動作に伴って熱媒体浴311中に対流が生じ、熱媒体313が攪拌されることとなる。その結果、本実施形態に係る熱媒体浴311中では、成形試験を実施している際に熱媒体313の温度が均一に保たれることとなる。
【0163】
なお、本実施形態に係る成形試験装置23では、熱媒体浴311中の熱媒体313の温度を更に均一にするために、上記のような攪拌機構に加えて、攪拌装置を更に利用してもよい。
【0164】
以上、
図14〜
図15Bを参照しながら、本実施形態に係る成形試験装置23の全体構成について、詳細に説明した。
【0165】
[試験材の形状について]
次に、
図16を参照しながら、本実施形態に係る成形試験装置23で利用される試験材Sの形状について、簡単に説明する。
図16は、本実施形態に係る成形試験装置に用いられる試験材の形状の一例について模式的に示した説明図である。
【0166】
図14〜
図15Bを参照しながら説明した成形試験装置23では、板状の金属材であれば、任意の形状の金属材を試験材Sとして利用することが可能である。しかしながら、
図16に示したような略H字形状の試験材を用いることで、より正確に金属材の成形特性を試験することが可能となる。
【0167】
すなわち、試験材Sの中央部分には、パンチ部201により荷重が加えられることとなるが、試験材Sの形状を略H字形状とすることによって、図中の点線で囲んだ領域への応力集中を分散することが可能となる。その結果、点線で囲んだ領域に応力集中に起因してき裂等が生じることを防止することができ、より正確に試験材Sの成形特性を測定することが可能となる。
【0168】
[スペーサの構造について]
次に、
図17〜
図19を参照しながら、本実施形態に係る成形試験装置23で用いられるスペーサ115の構造について、より詳細に説明する。
図17〜
図19は、本実施形態に係る成形試験装置のスペーサの一例を模式的に示した説明図である。
【0169】
先だって説明したように、本実施形態に係る成形試験装置23に用いられるスペーサ315には、パンチ部301の押圧部位301bに対応する部分に貫通孔が形成されている。この貫通孔は、例えば
図17に示したように、スペーサ315を上方(
図14のz軸正方向側)から見た場合に、成形試験装置23の中心軸を中心として形成されている。また、スペーサ315に形成されている流路317は、
図17に例示したように、貫通孔と連通するように形成されている。
図17に示した例では、流路317は、スペーサ315に対して井桁状に形成されている。
【0170】
このような流路317をスペーサ315に形成することで、
図17に示したように、パンチ部301の下降動作に伴って押しのけられる熱媒体313を、流路317を介してスペーサ315の外部の熱媒体浴311へと排出することができる。これにより、熱媒体浴311中に対流が生じて熱媒体313が攪拌される。
【0171】
ここで、本実施形態に係るスペーサ315では、スペーサ315を厚み方向に切断した場合の流路の総断面積をS
1とし、試験材Sに当接するパンチ部301の押圧部位301bのスペーサ315への投影面積をS
2としたときに、(S
2/S
1)で表される値が、0.2〜100となるように流路317が形成されることが好ましい。
【0172】
ここで、流路の総断面積S
1は、例えば
図17の場合には、単位流路長あたりの断面積がW×Hで表されるため、(8本分の流路317の総延長)×W×Hで表される値が、流路の総断面積S
1となる。
【0173】
(S
2/S
1)で表される値が0.2未満である場合には、成形試験に伴いスペーサ315の土台となっている金属が塑性変形してしまい、正確な試験結果が得られなくなる可能性があるため、好ましくない。また、(S
2/S
1)で表される値が100超過である場合には、押しのけられた熱媒体313の行き場がなくなり、成形試験装置23に必要以上の負荷が掛かって正確な試験結果が得られなくなる可能性があるため、好ましくない。
【0174】
(S
2/S
1)で表される値は、更に好ましくは、0.4以上8以下である。(S
2/S
1)で表される値を0.4以上とすることで、適度な熱媒体313の流速を実現することができ、十分な熱媒体313の攪拌効果を得ることが可能となる。また、(S
2/S
1)で表される値を8以下とすることで、適度な流路の大きさを実現することができ、十分な熱媒体313の攪拌効果を得ることが可能となる。
【0175】
なお、スペーサ315に形成される流路317のレイアウトは、
図17に示した例に限定されるわけではない。例えば
図18に示したように、スペーサ315上に十字状に流路317が形成されていても良いし、例えば
図19に示したように、スペーサ315上に放射状に流路317が形成されていても良い。また、
図17〜
図19に示した例では、流路317の幅Wが一定である場合について図示しているが、流路317の幅Wを例えばスペーサ315の端部に向かうほど広くなるように形成するなど、幅Wを一定にしなくとも良い。
【0176】
以上、
図17〜
図19を参照しながら、本実施形態に係る成形試験装置23が備えるスペーサ315に設けられた流路317の構造について、詳細に説明した。
【0177】
以上説明したように、本実施形態に係る成形試験装置23では、熱媒体としてシリコンオイル等の液体状の熱媒体を使用することで、20℃近傍の室温だけでなく、熱媒体の使用許容温度範囲で、鋼材や非鉄金属材等の金属材の成形試験(張出試験等)を実施することが可能となる。また、熱媒体として液体状の熱媒体を利用することで、金属材に発生した熱による影響を抑制し、金属材に生じる温度変化を少なくとも30℃以内、更には15℃以内)とすることが可能となる。その結果、より温度が安定した試験条件で金属材の成形試験を実施することができ、試験材に対して塑性加工を均一温度で正確に施すことが可能となる。
【0178】
そのため、本実施形態に係る成形試験装置23を利用することで、各種の非鉄金属材のみならず、残留オーステナイト鋼板等のように加工発熱や加工変態熱の影響を受けやすいような鋼板であっても、より正確な成形試験(張出試験等)を行うことが可能となる。
【0179】
<演算処理装置のハードウェア構成について>
次に、
図20を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理装置10のハードウェア構成について、詳細に説明する。
図20は、本発明の実施形態に係る演算処理装置10のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0180】
演算処理装置10は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置10は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0181】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置10内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0182】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0183】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置10の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。演算処理装置10のユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0184】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置10が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置10が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0185】
ストレージ装置913は、演算処理装置10の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0186】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置10に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0187】
接続ポート917は、機器を演算処理装置10に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置10は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0188】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0189】
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置10の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0190】
以上、
図5〜
図20を参照しながら、本実施形態に係る成形温度評価システム及び成形温度評価方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0191】
(引張試験装置21の検証)
以下ではまず、
図8A及び
図8Bに例示した本発明の実施形態に係る引張試験装置21の性能について検証した結果について説明する。
【0192】
以下では、
図8A及び
図8Bに示した引張試験装置21を用いて、残留オーステナイト鋼板に対する引張試験を行った。用いたオーステナイト鋼板は、SUS304である。なお、用いた引張試験装置21では、第1挟持部材213及び第2挟持部材215における連結部の長さの比(B/A)は1.0であり、各挟持部材213,215の挟持部における第1部材の断面形状は、
図13に示したような略三角形状となっている。また、熱媒体203としては、−70℃〜250℃の範囲で使用可能なシリコンオイルを使用した。
【0193】
ここで、オーステナイト鋼板はJIS5号試験片に加工し、熱媒体であるシリコンオイルの温度を20℃に制御した上で引張試験を行って、応力−ひずみ曲線(Stress−Strain Curve)を得た。
【0194】
また、引張試験を行うに際しては、JIS5号試験片の標点中心部における試験片の温度を、K熱電対を利用して併せて測定した。
【0195】
また、比較例として、従来の引張強度試験機を用いて、上記と同様のJIS5号試験片についての引張試験を大気中で実施した。
【0196】
得られた結果を
図21に併せて示した。
図21において、横軸は、JIS5号試験片に生じたひずみ(公称ひずみ)[%]である。また、縦軸として、JIS5号試験片に与えられた応力[MPa]と、標点部温度[℃]を示している。
図21において、オイル中と示した曲線が実施例で使用した引張強度試験装置を用いた測定結果であり、大気中と示した曲線が従来の引張強度試験機を用いた測定結果である。
【0197】
図21から明らかなように、オーステナイト鋼板を用いたJIS5号試験片を大気中で測定した場合、ひずみ量が大きくなるにつれて、標点部の温度が急激に上昇していることがわかる。この温度上昇は、オーステナイト鋼板の加工変態熱や加工発熱に伴う温度上昇と考えられ、得られた応力の測定結果には、加工変態熱や加工発熱に伴う誤差が重畳されているものと考えられる。
【0198】
一方、オーステナイト鋼板を用いたJIS5号試験片を、本発明の実施形態に係る引張試験装置を用いてオイル中で測定した場合、ひずみ量が大きい場合であっても、標点部温度の上昇度合い(温度変化)を、従来の1/3程度に抑制できていることがわかる。従って、本発明の実施形態に係る引張試験装置による応力の測定結果は、加工変態熱や加工発熱に伴う誤差が低減されており、より正確にオーステナイト鋼板のひずみを表したものであるといえる。
【0199】
(成形試験装置23の検証)
次に、
図14に例示した本発明の実施形態に係る成形試験装置23の性能について検証した結果について説明する。
【0200】
<張出試験>
以下ではまず、
図14に示した成形試験装置23を用いて、引張試験装置の検証に用いたものと同様のオーステナイト鋼板(SUS304)に対する張出試験を行った。なお、パンチ部301には、
図15Bに示した球頭パンチを用い、スペーサ315には、(S
2/S
1)で表される値が0.69である、
図17に示したスペーサを使用した。また、熱媒体313としては、−70℃〜250℃の範囲で使用可能なシリコンオイルを使用した。ここで、熱媒体浴311には、更なる攪拌装置を設置せずに試験を行った。
【0201】
また、オーステナイト鋼板は
図16に示した形状を有する試験片に加工し、熱媒体であるシリコンオイルの温度を25℃に制御した上で張出試験を行って、パンチ部301の降下量である成形ストローク[mm]と、試験片温度[℃]との関係を測定した。なお、試験片温度は、パンチ部301の押圧部位301bの先端と試験材との接触部位を、K熱電対を利用して測定した。
【0202】
また、比較例として、従来の成形試験機を用い、上記と同様の試験片について試験片温度を大気中で測定した。
【0203】
得られた結果を
図22に示した。
図22において、横軸はパンチ部301の成形ストローク[mm]であり、縦軸は試験片温度[℃]である。また、
図22において、オイル中と示した曲線が実施例で使用した成形試験装置を用いた測定結果であり、大気中と示した曲線が従来の成形試験機を用いた測定結果である。
【0204】
図22から明らかなように、オーステナイト鋼板を用いた試験材を大気中で測定した場合、成形ストロークが大きくなるにつれて、接触部の温度が大きく上昇していることがわかる。この温度上昇は、オーステナイト鋼板の加工変態熱や加工発熱に伴う温度上昇と考えられ、得られた接触部温度の測定結果には、加工変態熱や加工発熱に伴う誤差が重畳されているものと考えられる。
【0205】
一方、オーステナイト鋼板を用いた試験材を、本発明の実施形態に係る成形試験装置を用いてオイル中で測定した場合、成形ストロークが大きい場合であっても、接触部温度の上昇度合い(温度変化)を、従来の1/3程度に抑制できていることがわかる。従って、本発明の実施形態に係る成形試験装置による試験片温度の測定結果は、加工変態熱や加工発熱に伴う誤差が低減されており、より正確にオーステナイト鋼板の加工に伴う温度変化を表したものであるといえる。
【0206】
<成形限界線図試験>
続いて、上記張出試験で用いたものと同様のオーステナイト鋼板に対し、上記と同様の成形試験装置を利用して、成形限界線図(Forming Limit Diagram:FLD)試験を実施した。試験に際しては、(最小主ひずみε
2/最大主ひずみε
1)で表されるひずみ比βが1.0である等二軸引張を試験材に施した。なお、最大主ひずみε
1及び最小主ひずみε
2の計測は、熱媒体であるシリコンオイルの温度を−50℃、室温(約20℃)、100℃、200℃にそれぞれ制御して実施した。
【0207】
また、比較例として、従来の成形試験機を用い、上記と同様の試験片についてFLD試験を大気中で実施した。なお、最大主ひずみε
1及び最小主ひずみε
2の計測は、熱媒体である大気の温度を−50℃、室温(約20℃)、100℃、200℃にそれぞれ制御して実施した。
【0208】
得られた結果を、
図23及び
図24に示す。
図23は、本発明の実施形態に係る成形試験装置を用いた試験結果を示しており、
図24は、従来の成形試験機を用いた試験結果を示している。また、
図23及び
図24の双方において、横軸は最小主ひずみε
2であり、縦軸は最大主ひずみε
1を表している。
【0209】
図23及び
図24を比較すると、同様の試験材であるにも関わらず、各温度における成形限界線の形状が異なっていることがわかる。この結果からも明らかなように、本発明の実施形態に係る成形試験装置では、温度による材料特性の変化を明確に測定することが可能であることがわかる。
【0210】
次に、以下において実施例を示しながら、本発明の実施形態に係る成形温度評価システム及び成形温度評価方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る成形温度評価システム及び成形温度評価方法を説明するためのあくまでも一例であって、本発明に係る成形温度評価システム及び成形温度評価方法が以下に示す例に限定されるわけではない。
【0211】
(実験例1)
以下では、オーステナイトを含有する鋼材(実施例)と、オーステナイトを含有しない鋼材(比較例)とを用い、上記の成形試験装置23を利用して各ひずみ比β及び各温度における限界相当ひずみε
eq−criticalを測定した。各ひずみ比β及び各温度における限界相当ひずみε
eq−criticalの測定では、試験片の縦横寸法を変化させて、試験片端部を固定する球頭張り出し試験を、各温度にて実施した。これにより、くびれや破断が生じた際のひずみから、限界相当ひずみε
eq−criticalを算出した。
【0212】
以下の表1に、各ひずみ比β及び各温度における限界相当ひずみεeq−criticalの測定結果を示した。また、
図25に、このようにして得られた限界相当ひずみεeq−criticalの測定結果の一つをグラフとして示した。
【0213】
【表1】
【0214】
例えば、実施例1では、β=−0.5の場合、限界相当ひずみεeq−criticalが極大を示す加工誘起変態延性極大温度T−0.5は75℃となり、β=1.0の場合、加工誘起変態延性極大温度T1.0は150℃となる。実施例3では、β=−0.5の場合、加工誘起変態延性極大温度T−0.5は150℃となり、β=1.0の場合、加工誘起変態延性極大温度T1.0は250℃となる。このようにオーステナイトを含有する鋼材(実施例)では、鋼材種、加工温度及びひずみ比βに依存して、限界相当ひずみεeqcriticalが変化することがわかる。一方、比較例6では、表1に示すように、限界相当ひずみεeq−criticalが最も向上する温度が、ひずみ比βに依存しない。すなわち、加工誘起変態延性極大温度Tβにひずみ比β依存性が存在しない。これは、オーステナイトを含有しない鋼材(比較例)であるため、TRIP現象が発現しないからである。
【0215】
また、以下の表2に、表1に示した結果を用いて近似曲線(近似関数)解析を行って求めた、各ひずみ比における加工誘起変態延性極大温度Tβより低温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差をσLβと、Tβより高温度側であるひずみ比βに依存する限界相当ひずみ近似曲線の標準偏差をσHβとを示した。
【0216】
【表2】
【0217】
このように、標準偏差σLβと、σHβとをひずみ比β毎に解析することにより、各ひずみ比βにおいて塑性変形能を向上させることができる成形最適温度範囲を決定し、着目する鋼材を評価することができる。
【0218】
例えば、実施例3では、β=0の場合、2×σL0=110℃、1.25×σH0=24℃であるので、加工誘起変態延性極大温度Tβを基準として、TRIP現象により限界相当ひずみεeq−criticalが向上する温度範囲が、90℃〜224℃であると決定することができる。
【0219】
次に、上記の成形試験装置23を利用して角筒絞り成形加工を施し、予測破断箇所と、この予測破断箇所のひずみ比βとを解析した。この角筒絞り成形加工に関する解析を、スクライブドサークルテストによって行った。
【0220】
以上のようにして得られた結果のうち、実施例3に対応する評価結果を、
図26に併せて示した。このような解析を行うことで、着目する金属材の塑性変形様式と、成形最適温度と、をあわせて評価することが可能となる。
【0221】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。