特許第6048067号(P6048067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048067帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート
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  • 特許6048067-帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048067
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20161212BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20161212BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B32B27/32 Z
   B32B27/18 D
   E04F13/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-233800(P2012-233800)
(22)【出願日】2012年10月23日
(65)【公開番号】特開2014-83750(P2014-83750A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐川 浩一
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074074(JP,A)
【文献】 特開2011−079918(JP,A)
【文献】 特開平09−226071(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/041649(WO,A1)
【文献】 米国特許第06617008(US,B1)
【文献】 特開2005−246745(JP,A)
【文献】 特開平10−265618(JP,A)
【文献】 特開2003−128806(JP,A)
【文献】 特開平01−230653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09K 3/16
E04F 15/00−15/22
C08L 23/10−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層以上のポリオレフィン系樹脂層と表面保護層とを有するポリオレフィン系化粧シートにおいて、前記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも1層に、分子中に下記化学式1にて表される原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する半極性有機化合物と、分子中に塩基性窒素原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する塩基性有機化合物とを混合させた組成物よりなる帯電防止剤を含み、前記表面保護層には帯電防止剤を含まず、
前記帯電防止剤を含む前記ポリオレフィン系樹脂層が示差走査熱量分析測定による融解熱量が、70〜170J/gであるポリプロピレン樹脂からなり、
前記帯電防止剤の添加量が、前記ポリオレフィン系樹脂層中のポリプロピレン樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部である、ことを特徴とする帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート。
【化1】
【請求項2】
前記表面保護層の厚みが3〜30μmであることを特徴とする、請求項1記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂層が2層以上の共押出により積層されており、そのうちの少なくとも1層が前記帯電防止剤を添加してなるポリオレフィン系樹脂層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂層が3層の共押出により積層されており、その中間の層が前記帯電防止剤を添加してなるポリオレフィン系樹脂層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート。
【請求項5】
前記半極性有機化合物と前記塩基性有機化合物は、それぞれの添加量の比率が2:1〜1:2の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自然木・合板・集成材・アルミ材・鋼板材・石材・無機材・アスファルト・コンクリートなどの意匠性や耐久性を向上させる為に表面に貼り合せる化粧シートに関するものであり、特には、室内の床材表面に使用される帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、各種基材に意匠性を付与する為に貼り合せるものであり、当初は紙製あるいはポリ塩化ビニル樹脂製のものが主に製造・使用されていた。しかし近年の環境問題への関心の高まりから、ポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートは敬遠されており、それに置き換わる形で、ポリオレフィン系樹脂をベースにしたものが好適に使用されてきている。
【0003】
化粧シートのポリ塩化ビニル樹脂製からポリオレフィン系樹脂製への切り替えに際しては、当初より様々な問題が指摘されていたが、技術の成熟によりその多くは解決されていった。しかし静電気帯電に関わる部分と難燃性に関わる部分では、ポリオレフィン系樹脂製化粧シートでポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートと同等の性能を付与することはこれまで困難であった。それゆえ、例えば前者の静電気帯電に関しては、特に湿度が低くなる冬場に化粧シート表層に静電気が帯電しやすい状態になる為、例えばカド部や隙間部などで埃が溜まりやすくなったり、また溜まった埃が取れにくくなったりといった問題が発生している。また、床材の表層や室内ドア、建具などに使用された場合に、帯電した静電気が放電(スパーク)しやすくなるなどで、住空間が不快な環境になってしまう。
【0004】
ポリオレフィン系樹脂の高い帯電性は、その材質に由来する部分であり、根本的な対策は困難であるが、界面活性剤を表層に吹き付けるタイプや導電性材料を樹脂中に添加するタイプ、ポリエーテル−エステル−アミド系などの高分子型の帯電防止剤を添加するタイプ(例えば特許文献1を参照)などが提案されてきた。
【0005】
しかし、例えば界面活性剤吹き付けタイプであれば、効果を長期間に渡って持続させることは難しく、また導電性材料添加や高分子型タイプであれば、導電性材料を相当量添加しないと効果が発現されないため、ポリオレフィン系樹脂の機械物性等への影響が高くなったり、透明性などの光学的性質への影響があったりするなどの問題がある。また、全てに共通する問題として、いずれも最表層へのアプローチでなければならず、中間層に上記の施策を施した場合には、帯電性を防止する効果は殆ど見られなかった。それゆえ、従来の帯電防止剤を使った処方では、長期間に渡る帯電防止効果の持続が難しかったり、帯電防止材料が化粧シートの物性に少なからず影響を与えてしまい、性能低下に繋がってしまったりするなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4863748号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題とするところは、上記の様に帯電性を防止する効果をポリオレフィン系樹脂の化粧シートに付与することで、ポリオレフィン系樹脂の材質に由来する帯電性を緩和させ、例えば床材表層装飾に使用した場合にも、カド部や隙間部などでの静電気由来の埃の堆積を抑制したり、同じく静電気由来のスパークを防止したりするような、帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートの仕様を設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこの課題を解決したものでありすなわちその請求項1記載の発明は、少なくとも1層以上のポリオレフィン系樹脂層と表面保護層とを有するポリオレフィン系化粧シートにおいて、前記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも1層に、分子中に下記化学式1にて表される原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する半極性有機化合物と、分子中に塩基性窒素原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する塩基性有機化合物とを混合させた組成物よりなる帯電防止剤を含み、前記表面保護層には帯電防止剤を含まず、前記帯電防止剤を含む前記ポリオレフィン系樹脂層が示差走査熱量分析測定による融解熱量が、70〜170J/gであるポリプロピレン樹脂からなり、前記帯電防止剤の添加量が、前記ポリオレフィン系樹脂層中のポリプロピレン樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部である、ことを特徴とする帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートである。
【0009】
【化2】
【0011】
その請求項にかかる発明は、前記表面保護層の厚みが3〜30μmであることを特徴とする、請求項1記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートである。
【0012】
その請求項にかかる発明は、前記ポリオレフィン系樹脂層が2層以上の共押出により積層されており、そのうちの少なくとも1層が前記帯電防止剤を添加してなるポリオレフィン系樹脂層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートである。
【0013】
その請求項にかかる発明は、前記ポリオレフィン系樹脂層が3層の共押出により積層されており、その中間の層が前記帯電防止剤を添加してなるポリオレフィン系樹脂層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートである。
【0014】
その請求項にかかる発明は、前記半極性有機化合物と前記塩基性有機化合物は、それぞれの添加量の比率が2:1〜1:2の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明はその請求項1記載の発明により、表面保護層に帯電防止剤を添加しなくとも、ポリオレフィン系樹脂層に、請求項1にて示した特定の構造を有する帯電防止剤を添加することにより、帯電防止効果が発現する。この効果が発現するメカニズムは、半極性有機化合物がドナー、塩基性有機化合物がアクセプターとなり、これらの間でクーロン力によりイオン伝導機構が働き、最表層に帯電した静電気が、該帯電防止剤の添加された層へとリークされる為である。そして表面保護層には帯電防止剤を添加していないので、化粧シートの表面物性に悪影響が出ることが無い。本発明の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートを床材表面に用いることで、埃吸着防止や生活環境下でのスパーク(床材と室内履きのスリッパ裏面との間の摩擦により発生する静電気の放電)などを防止・抑制することが可能になる。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂層のポリオレフィン系樹脂を上記ポリプロピレン樹脂とすることより、ポリエチレンなどの他のポリオレフィン系樹脂を使用した場合に比べて、帯電防止剤のブリードアウトによる界面積層密着力の低下、及び帯電防止剤の析出による効果低減を抑制することが可能になる。これはポリプロピレン樹脂の高い結晶性が、帯電防止剤の移動度を抑制する為である。
さらに、帯電防止剤の添加量を制限することで、帯電防止機能を維持しつつ、ポリオレフィン系樹脂層の透明性を十分なものとすることで化粧シートとしての意匠性を向上させることが可能となる。
【0018】
本発明はその請求項記載の発明により、表面保護層の層厚を限定することで、帯電防止機能を維持しつつ、化粧シートとしての表面物性を維持することが可能となる。
【0019】
本発明はその請求項記載の発明により、帯電防止剤を添加したポリオレフィン系樹脂層を共押出で積層してなることにより、帯電防止剤のブリードアウトによる界面積層密着力の低下を最小限に抑えることが可能になる。
【0020】
本発明はその請求項5記載の発明により、帯電防止剤として用いる半極性有機化合物と塩基性有機化合物は、それぞれの添加量の比率が2:1〜1:2の範囲内であれば、実用的な帯電防止機能を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートの一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートの一実施例の断面の構造を示す。基材シート1、絵柄模様層2、ポリオレフィン系樹脂層3(31,32)、表面保護層4の積層体からなる。
【0023】
基材シート1としては、後述する絵柄摸様層2を設けるのに適した厚みと材料からなるものであれば従来公知のものが使用可能である。特に限定するものではないが、ポリ塩化ビニル系樹脂ではなくポリオレフィン系樹脂からなるものが好ましい。化粧シートを貼り合わせる下地に対して隠蔽性を設けるために適宜着色することが好ましい。厚みとしては隠蔽性、ハンドリング性、経済性などを鑑みて、50〜100μm程度が好ましい。
【0024】
絵柄摸様層2は、意匠性向上、あるいは隠蔽性の付与などの目的で、好適に設けられる。絵柄模様層2の材質は特に限定されるものではないが、アクリル系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、酢酸ビニル系等々のバインダーに染料または顔料などの着色剤や体質顔料などを添加し、さらに可塑剤、安定剤、ワックス、グリース、乾燥剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、充填剤などを任意に添加してなるものが、好適に用いられる。上記材料を溶剤、希釈剤などで充分混練してなる塗工液を準備し、グラビア印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、シルク印刷、静電印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法、あるいはスプレーや刷毛などを使用した公知の塗装方法によって積層させることで設けることができる。絵柄模様層2の印刷は、後述するポリオレフィン系樹脂層3側に行なっても良いし、基材シート1側に行なってもよい。また、インキの密着力向上や隠蔽性の向上などを目的として、必要に応じてプライマーコート層(図示しない)を設ける方法も、好適に用いられる。
【0025】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂層3(31,32)の材質としては、炭素と酸素からなるポリオレフィン材料であれば、それ以外に特に制限を設けないが、耐傷付性や添加剤のブリードアウトのし易さ、更には経済性までをも含めた総合評価では、特にポリプロピレン材料を用いたものが望ましく、ホモポリプロピレンなどの高結晶の樹脂を使用したものが、機械物性や、後に示す融解潜熱を所定の数値範囲に設定するためにも、尚望ましい。
【0026】
ポリプロピレン樹脂の結晶性の程度を示す指標としては、結晶を融解させる為に必要な熱量、所謂融解熱量が好適に用いられる。この融解潜熱が70J/g以下の場合は、充分な結晶成分が生成されてなく、非結晶成分が多いために、帯電防止剤のブリードがやや起き易い傾向になる。170J/g以上になることは、通常のポリプロピレン樹脂ではあり得ないが、仮になった場合には、非結晶部が少なすぎる為、添加剤が少ない非結晶部に偏在してしまうため、同じくブリードの問題が起き易い。
【0027】
また、化粧シートの意匠性や質感を向上させる為に、ポリオレフィン系樹脂層3の表面には、木目、梨地、抽象模様等の様々な凹凸模様を設けてもよい。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂層3(31、32)の少なくとも1層には、分子中に前記化学式1にて表される原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する半極性有機化合物と、分子中に塩基性窒素原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する塩基性有機化合物とを混合させた組成物よりなる帯電防止剤が添加される。図では便宜上、ポリオレフィン系樹脂層3としてポリオレフィン系樹脂層31とポリオレフィン系樹脂層32の2層からなるように記載してあるが、単層でもよいし、3層以上の複層であってもよい。
【0029】
本発明における前記分子中に化学式1にて表される原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する反極性有機化合物としては、具体的には下記化学式2、化学式3、化学式4、などがあげられる。後述する比較例で用いる化学式5では直鎖型飽和炭化水素の炭素数が11に満たないため好ましくない。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
本発明における前記分子中に塩基性窒素原子団1個と炭素数11〜22の直鎖型飽和炭化水素を最小限1個有する塩基性有機化合物としては、具体的には下記化学式6、化学式7、化学式8、などがあげられる。後述する比較例で用いる化学式9では直鎖型飽和炭化水素の炭素数が11に満たないため好ましくない。
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
【化9】
【0038】
【化10】
【0039】
帯電防止剤を添加するポリオレフィン系樹脂層は、全部のポリオレフィン系樹脂層であってもよいし、どれか一部だけでも良い。ポリオレフィン系樹脂層を複数層の積層体とする方法としては、共押出法による積層が層間の明確な界面ができないため、効率的に製造することが可能となる。特には3層構成としてその中間層のみに前記帯電防止剤を添加するようにすれば、添加剤成分のブリードによる密着強度低下や剥離などの問題が殆ど発生しない為、望ましいものとなる。
【0040】
本発明において帯電防止剤として用いる半極性有機化合物と塩基性有機化合物は、それぞれ単独で添加しただけでは効果を発現しない。必ず対になる状態で、両者が存在する必要がある。半極性有機化合物と塩基性有機化合物は、それぞれ同数存在する場合に最大の効果を発揮する。但し、実際には、完全に同数にすることは不可能に近く、添加量の比率が2:1〜1:2の範囲内であれば、実用的には効果が発現できる。
【0041】
前記帯電防止剤の適正な添加量は、その合計量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部が好適な範囲内である。0.1重量部よりも少ない添加量では帯電防止効果は期待できず、5.0重量部以上の添加量では、添加量を増やしても帯電防止効果の向上効果は得られずに、透明性の低下や経時でのブリードアウト、ポリオレフィン系樹脂の機械物性への影響などが起きてしまう為、好ましくない。
【0042】
本発明における表面保護層4の厚みは、帯電防止機能を効率的に発現させるためには、できる限り薄くすることが望ましいが、表面保護層の効果である耐傷性・耐候性・耐摩耗性などの付与を考慮すると、ある一定以上の厚みを設けてあるほうが望ましい。一方で、一定以上の厚みがある場合には、表層に帯電した静電気の内部へのリークが発生しづらくなる為、帯電防止効果が充分に発揮されなくなる。これらのバランスを考慮すると、表面保護層の厚みが3〜30μmの範囲内にあることが望ましい。
【0043】
本発明における表面保護層4は、その材質に制限はないが、(メタ)アクリレート系材料をイソシアネート硬化剤で架橋硬化させたり、紫外線照射や電子線照射などを用いて架橋硬化させたりしたものを用いると、硬質かつ強靭性のある表面保護層4が得られるため、好適である。(メタ)アクリレート系材料としては、例えば適度な柔軟性を付与してハンドリング性をアップさせたい場合などは、ウレタン(メタ)アクリレート材料なども好適に用いられる。例えばイソシアネート硬化剤を用いて架橋させる場合には、イソシアネートと反応させるために、(メタ)アクリレート樹脂には水酸基が付与され、紫外線照射を用いて反応させる場合には、光重合開始剤が適宜添加される。電子線を用いて硬化をさせる場合には、(メタ)アクリレート樹脂であれば、特段の添加剤は必ずしも必要ではないが、より高効率に架橋を進めるために、架橋助剤の添加は好適に用いられる。尚、(メタ)アクリレート材料の分子量には特に規定はなく、モノマー、オリゴマー、プレポリマー状のものなどが、任意に選択できる。またこれらを複数種混合して使用することも可能である。
【0044】
表面保護層4としてアクリル系樹脂を主原料とすれば、元より高い耐候性能を持つものとなるが、更なる性能付与の為に、紫外線吸収剤及びラジカル補足剤の添加が好適に用いられる。紫外線吸収剤として使用されるものとしては、有機系のものでは、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などがあり、それ以外にも無機系の紫外線カット剤も、有機系紫外線吸収剤と同様に作用する添加剤として使用される。ラジカル補足剤としては、ヒンダードフェノール系及びヒンダードアミン系のうち、特定の構造を持つものが、光励起によって発生した、材料劣化の原因となるフリーラジカルの増殖を抑えて無害化する効果がある。特に、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤はその効果が大きく、また長期間に渡って効果が持続するという特徴を有するので、適量を添加することで、表面保護層4としての性能を損なうことなく、耐候性能を付与することができる。尚、紫外線吸収剤は、その構造によって吸収波長域などに特徴があるので、複数種の併用使用も好適に行われており、時に相乗効果が期待できる。同様にラジカル補足剤も複数種の併用使用が時に好適である。
【0045】
表面保護層4の積層方法に制限はなく、例えばその原料が液体であれば、公知のコーティング方法を用いて積層すればよい。また、機能性の付与や面状態の改善等の為に、表面保護層4を複層化してもよい。無論、同じ材料を複数回に分けて積層してもよい。
【0046】
表面保護層4には、さらに機能性を付与する為に、前述の紫外線吸収剤やラジカル補足剤の他にも、様々な添加剤が適宜添加される。例えば、抗菌剤、防汚剤、艶消し剤、沈降防止剤、ワックス、難燃材、各種顔料、各種染料、遮熱剤、有機フィラー、無機フィラーなどが好適に使用される。表面保護層4の架橋方法としてイソシアネート架橋を選択する場合には、硬化剤の添加が必須であり、紫外線架橋を選ぶ場合は、光重合開始剤の添加は必須である。尚、イソシアネート硬化剤は、公知のものを使用して良いが、その選定にあたっては、使用用途を考えて、無黄変タイプまたは難黄変タイプのものから適宜選択するのが望ましい。
【0047】
また、表面保護層4の硬度を補強する目的で、各種無機材料の添加も好適に行なわれる。特に中空状のガラスビーズを添加すると、表面を硬質にする為に擦り傷に対する耐性が向上し、更に中空状にする為に、押し傷に対してもクッション性を発揮して、傷が付きにくくなる。
【0048】
以上のようにして得た本発明の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートを、木質材、アスファルト、コンクリート、金属材、無機材、などに貼り合わせることで、高い意匠性・耐久性・防滑性など保持しつつ、帯電防止機能に優れた床材を得ることができる。帯電防止機能に優れているため、表面に静電気が長期間に渡って存在することがなく、床材の継ぎ目に埃が溜まりにくく、また溜まった埃も簡単な掃除で取り除くことができる。また、特に湿度の低い冬場などにおいて、帯電した静電気のスパーク放電を防止することができる。
【実施例1】
【0049】
<実施例1〜7>
ランダムポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ_S235WC:株式会社プライムポリマー製)を85重量部、低密度ポリエチレン樹脂(ノバテックLD_LC600A:日本ポリエチレン株式会社製)を10重量部、酸化チタン(CR−60:石原産業株式会社製)を5重量部の割合で押出機を用いて混練し、Tダイ製膜機を用いて厚み70μmで製膜を行ない、基材シート1を作成した。
【0050】
グラビアインキ(XS−756;DICグラフィックス株式会社製)にイソシアネート硬化剤を添加し、メチルエチルケトン溶剤で粘度調整を行った塗工液を準備し、前記の通り作製した基材シート1の片面に、グラビア印刷法を用いて絵柄模様層2を印刷した。基材シート1の反対側の面には、前記グラビアインキから顔料成分を抜いたものを準備し、更にシリカを適量添加したものを、グラビアコーターを用いて、塗布量1g/m(ドライ)狙いで塗工した。その後、40℃のオーブン下で3日間の養生を行なった。
【0051】
養生後の基材シート1の絵柄模様層2を設けた側に、アンカーコート剤(タケラック_A3210:三井化学株式会社製)にイソシアネート硬化剤を添加し、更に酢酸エチル溶剤で固形分が25%になるように希釈し、バーコーターを用いて塗布量1g/m(ドライ)狙いで塗工した後、Tダイ3種3層共押出ラミネータを用いて、下記表1の通りに配合したポリプロピレン樹脂を共押出ラミネートした。その後コロナ処理を行い、表面保護層4として、アクリレート系コート剤(UCクリヤー_W480E:DICグラフィックス株式会社製)に、ヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤と希釈溶剤としてメチルエチルケトンを適宜添加して、バーコーターを用いて塗布量6±1g/m(ドライ)の範囲内に収まるように塗工した。その後、40℃のオーブン下で3日間の養生を行なった。このようにして実施例1〜7の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートを作製した。
【0052】
【表1】
【実施例2】
【0053】
<実施例8〜13>
表2に示すように、バーコーターの番手を変更したり重ね塗工回数を増やしたりするなどして、表面保護層4の厚みを変えた以外は実施例1と同様にして実施例8〜13の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートを作製した。
【0054】
【表2】
【0055】
<比較例1、帯電防止剤なし>
表3で示すように、帯電防止剤なしの配合とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の化粧シートを作製した。
【0056】
【表3】
【0057】
<性能評価>
このようにして作製した、実施例及び比較例の化粧シートを、水系エマルジョン接着剤(リカボンドBA−10L:中央理化工業株式会社製)を介して合板基材に貼り合わせて、化粧板を作製した。作製した床面材に対して、下記の通り物性評価を行ない、性能の優劣を確認した。
【0058】
<表面抵抗測定>
実施例及び比較例を使用したそれぞれの化粧板について、表面抵抗計(ST−4:シムコジャパン株式会社製)を用いて、温度25℃湿度60%の環境下で、表面抵抗の測定を行なった。
【0059】
<表面帯電静電気量測定>
実施例及び比較例を使用したそれぞれの化粧板について、チャージマスターシステム(シムコジャパン株式会社製の直流高電圧発生装置ECM−20(Lite)とHDRチャージングアプリケーターからなる静電気帯電装置)を用いて強制的に帯電状態を起こし、静電気測定器(FMX−003:シムコジャパン株式会社製)を用いて表層の電位を経時的に測定して、帯電電位が10kVから5kVに低下するまでの時間を計った。尚、この測定は、合板基材に貼り合せる前のシートの状態で行なった。
【0060】
<表面保護層の密着性>
実施例及び比較例の各種化粧板を、25℃(室温)×192時間、60℃×192時間加熱、80℃×192時間加熱、80℃2時間と−20℃2時間を100サイクル、の各環境下に置いた後に暴露試験を行なった後、セロハンテープ剥離試験をおこなって、表面保護層の剥離状態を確認した。以上の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4で明らかなように、本発明の実施例の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートは、比較例1の化粧シートに比べて、帯電電位が低下する時間が短くなっていることがわかる。これは、ポリオレフィンに添加した帯電防止剤の効果であるといえる。尚、表面への帯電のし易さを示す指標である表面抵抗の値は、実施例及び比較例の全てにおいて、差が分らないほどに高い値であった。これは、比較例はもちろん、実施例の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートにおいても、その最表層には帯電防止剤が添加されていない為である。これは即ち、実施例の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートも、強制帯電させた直後には帯電するが、その後、シート内部に帯電した電荷がリークされていると考えられる。帯電電位が低下する時間は、帯電した電荷が内部にリークしていく速度を示す指標と考えられる。
【実施例3】
【0063】
<実施例14〜17>
表5に示すように、帯電防止剤Aの代わりに帯電防止剤B〜Eを添加した以外は実施例1と同様にして、実施例14〜17の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートを作製した。
【0064】
【表5】
【0065】
<比較例2〜3、炭素数11〜22の直鎖炭化水素を有しない帯電防止剤>
表6に示すように、炭素数11〜22の直鎖炭化水素を有しない帯電防止剤F〜Gを用いた以外は実施例1と同様にして比較例2〜3の化粧シートを作製した。
【0066】
【表6】
【0067】
<性能評価>
実施例14〜17と比較例2〜3の化粧シートについて、前記と同じ方法で表面抵抗測定、表面帯電静電気量測定の測定を行なった。結果を表7に示す。炭素数10以下の直鎖型飽和炭化水素しか有さない比較例2及び比較例3の化粧シートにおいては、表面保護層の密着性低下がみられている。これは帯電防止剤とポリプロピレン樹脂との相容性に問題があり、ブリードアウトを起こしてトップコート層との界面に偏析した為と考えられる。
【0068】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の帯電防止機能を有するポリオレフィン系化粧シートは、塩化ビニルを一切使用しないため環境問題の心配もない。更には、帯電防止機能が付与されている為、埃が付き難い、付いた埃を掃き取り易い、静電気のスパークによる不快適性を感じない、などの効果が得られる。
【符号の説明】
【0070】
1…基材シート
2…絵柄模様層
3(31,32)…ポリオレフィン系樹脂層
4…表面保護層
図1