特許第6048087号(P6048087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048087コークス中の有機硫黄割合の推定方法、コークス中の全硫黄割合の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、ならびに、コークスの製造方法
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  • 特許6048087-コークス中の有機硫黄割合の推定方法、コークス中の全硫黄割合の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、ならびに、コークスの製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048087
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】コークス中の有機硫黄割合の推定方法、コークス中の全硫黄割合の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、ならびに、コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20161212BHJP
   C10B 45/00 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 33/22 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01N31/00 P
   C10B45/00 Z
   G01N33/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-253855(P2012-253855)
(22)【出願日】2012年11月20日
(65)【公開番号】特開2014-102139(P2014-102139A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】花田 一利
(72)【発明者】
【氏名】藤本 京子
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−219235(JP,A)
【文献】 特開2009−074048(JP,A)
【文献】 特開2009−257920(JP,A)
【文献】 特開平11−116968(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02613136(EP,A1)
【文献】 特開2012−073239(JP,A)
【文献】 КАЦМАН В Х, ЧОРГОЛАШВИЛИ Г А, МЕТРЕВЕЛИ О А,Сера в доменном коксе, полученном из углей разных бассейнов.,Металлургическая и горнорудная промышленность(0543-5749),1990年,No.1,Page.11−13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
C10B 45/00
G01N 33/22
JSTPlus/(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合を、
前記石炭中の有機硫黄割合および揮発成分割合で示される下記式(1)を用いて求めることを特徴とするコークス中の有機硫黄割合の推定方法。
有機Scoke=Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(1)
ここで、有機Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合(石炭質量を100質量%とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(石炭質量を100質量%とした時の質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(石炭質量を100質量%とした時の質量%)、Q:係数であって、石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には1.0であり、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には0.91以上0.97以下の予め設定された値である。
【請求項2】
石炭を乾留して製造されるコークス中の全硫黄割合を、
前記石炭中の黄鉄鉱硫黄割合、有機硫黄割合および揮発成分割合(R)で示される式(2)を用いて求めることを特徴とするコークス中の全硫黄割合の推定方法。
全Scoke=黄鉄鉱Scoal/2+Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(2)
ここで、全Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の全硫黄割合(石炭質量を100質量%とした時の質量%)、黄鉄鉱Scoal:石炭中の黄鉄鉱硫黄割合(石炭質量を100質量%とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(質量%)、Q:係数であって、石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には1.0であり、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には0.91以上0.97以下の予め設定された値である。
【請求項3】
複数の石炭を配合してコークスを製造する際に、請求項1に記載のコークス中の有機硫黄割合の推定方法もしくは請求項に記載のコークス中の全硫黄割合の推定方法を用いて、複数の石炭の配合割合を決定することを特徴とするコークス製造用石炭の配合方法。
【請求項4】
複数の石炭を配合してコークスを製造する際に、請求項1に記載のコークス中の有機硫黄割合の推定方法もしくは請求項に記載のコークス中の全硫黄割合の推定方法を用いて、複数の石炭の配合割合を決定し、次いで、決定した配合割合に基づき複数の石炭を配合してコークスを製造することを特徴とするコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス中の有機硫黄割合の推定方法、コークス中の全硫黄割合の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、ならびに、コークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中の硫黄は、製品の熱間脆性や割れを引き起こす元素として知られており、鋼材の高品質化のためには硫黄の低減が求められる。そして、鋼中に残存する硫黄の多くは、鉄鉱石より鋼を製造する際に用いられるコークスに由来しており、コークス中に存在する硫黄の量、特に、形態別に硫黄の量を把握し制御することが非常に重要である。
【0003】
コークスは複数の石炭を配合し、乾留することによって製造される。そのため、原料である石炭からコークス中の硫黄量を推定することが好ましい。
【0004】
個々の石炭に関し、各石炭から、コークスとなった時の硫黄分を推定できれば、コークスを製造した際に硫黄分を直接定量する必要がなくなり、コークス中の硫黄分についての情報を迅速に得ることができ、鋼製造過程においてコークス中の硫黄分の制御を行う上で非常に有用となる。また、通常は、多くの銘柄の複数の石炭を混合した配合炭を用いてコークスを製造するため、個々の石炭から、コークス中の硫黄分を直接定量することなく推定できれば、配合炭を設計する上で非常に有用な技術となる。
【0005】
上記に対し、従来は、個々の石炭からコークス中の硫黄分を推定する方法はなかった。さらに、迅速かつ精度よく、コークス中の硫黄分を形態別に直接定量する方法はなかった。
【0006】
非特許文献1には、硫黄形態を、硫酸塩硫黄、黄鉄鉱硫黄、有機硫黄、硫化鉄硫黄、亜硫酸塩硫黄に大別してコークス中の硫黄を分析する方法が記載されている。この方法では、コークス中に残留する硫酸塩硫黄、黄鉄鉱硫黄は石炭中の硫黄の形態別定量方法に準拠した方法でコークスを分析して行われる。すなわち、石炭中の硫酸塩硫黄は塩酸で抽出し、これを塩化バリウムにより、硫酸バリウムとして沈殿させて、重量法により定量される。黄鉄鉱硫黄は、硫酸塩硫黄の定量に用いた残渣炭から硝酸で抽出し、黄鉄鉱の状態で結合している鉄を定量することで、間接的に算出される。有機硫黄は、石炭に存在する全硫黄の割合から、硫酸塩硫黄と黄鉄鉱硫黄の割合を差し引いて計算される。また、石炭の黄鉄鉱硫黄は、乾留過程で半量はガスとして揮発し、半量は硫化鉄硫黄としてコークス中に残留することが知られているため、非特許文献1では、石炭中の黄鉄鉱の状態で結合している鉄割合と、コークス中の黄鉄鉱の状態で結合している鉄割合との差が、硫化鉄の状態で結合している鉄割合と等しいと仮定して、硫化鉄硫黄を算出している。このため、コークスの硫化鉄硫黄の定量には、コークス中の黄鉄鉱硫黄の分析に加え、石炭中の黄鉄鉱硫黄の分析も必要である。そして、コークス中に存在する亜硫酸塩硫黄は非常に微量であるため無視できる。つまり、非特許文献1の方法では、コークス中の硫化鉄硫黄や有機硫黄を定量するためには、石炭を分析する、石炭を乾留してコークスを製造する、コークスを分析する、のすべて行わないと求めることができなかった。
【0007】
また、乾留の際に揮発する硫黄分の多くは有機硫黄に由来すると考えられている。しかし石炭中の有機硫黄には、スルフィド、チオール、チオフェンなどの、揮発性の異なる数種類の形態が、石炭銘柄毎に異なった割合で含有されているため、乾留過程での有機硫黄の定量的な変化は明らかにされていない。
【0008】
また、硫黄割合の低いコークスを製造するにあたり、石炭配合によって硫黄量を制御する技術が考えられる。このためには、石炭乾留時に硫黄が揮発し減少する過程を石炭銘柄毎に調査しなければならない。しかし、コークスの製造では、複数銘柄の石炭を配合して乾留するため、乾留後のコークスの硫黄分析では、配合した銘柄がすべて混ざった状態でコークス中にどの程度の硫黄が残留するかについての情報しか得られず、それぞれの銘柄の石炭が、それぞれ、硫黄のコークス中の残留に、どのように影響を与えているかを調べるためには、用いた石炭のすべての銘柄をそれぞれ乾留・分析する必要がある。当然、配合銘柄数が増加するほど、分析試料数も増加する。通常用いられる石炭10銘柄程度の配合を仮定すると、分析用のコークス製造および試料調製は12日程度、石炭・コークスの硫黄分析はそれぞれ10日程度を要し、コークスの硫黄割合を迅速に評価できない。また、コークス製造のための乾留設備の整備や、定量分析のための熟練した分析技術も必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Sugawara, K.Sugawara, H.Ohashi: Fuel, 67, (1988), 1263-1268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、コークス中に存在する硫黄分を形態別に、精度よく、かつ、迅速に推定するコークス中の有機硫黄割合の推定方法、コークス中の全硫黄割合の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、ならびに、コークスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合を、前記石炭中の有機硫黄割合および揮発成分割合で示される下記式(1)を用いて求めることを特徴とするコークス中の有機硫黄割合の推定方法。
有機Scoke=Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(1)
ここで、有機Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、Q:係数(Q=1.0)である。
[2]前記[1]において、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には、前記係数Qは0.91以上0.97以下であり、石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には、前記係数Qは1.0であることを特徴とするコークス中の有機硫黄割合の推定方法。
[3]石炭を乾留して製造されるコークス中の全硫黄割合を、前記石炭中の黄鉄鉱硫黄割合、有機硫黄割合および揮発成分割合(R)で示される式(2)を用いて求めることを特徴とするコークス中の全硫黄割合の推定方法。
全Scoke= 黄鉄鉱Scoal/2+Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(2)
ここで、全Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の全硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、黄鉄鉱Scoal:石炭中の黄鉄鉱硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(質量 %)、Q:係数(Q=1.0)である。
[4]前記[3]において、前記石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には、前記係数Qは0.91以上0.97以下であり、前記石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には、前記係数Qは1.0であることを特徴とするコークス中の全硫黄割合の推定方法。
[5]複数の石炭を配合してコークスを製造する際に、前記[1]または前記[2]に記載のコークス中の有機硫黄割合の推定方法、もしくは、前記[3]または前記[4]に記載のコークス中の全硫黄割合の推定方法を用いて、複数の石炭の配合割合を決定することを特徴とするコークス製造用石炭の配合方法。
[6]複数の石炭を配合してコークスを製造する際に、前記[1]または[2]に記載のコークス中の有機硫黄割合の推定方法、もしくは、[3]または[4]に記載のコークス中の全硫黄割合の推定方法を用いて、複数の石炭の配合割合を決定し、次いで、決定した配合割合に基づき複数の石炭を配合してコークスを製造することを特徴とするコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、精度よく、かつ、迅速に、コークス中の有機硫黄割合、全硫黄割合を直接定量するのではなく、石炭中の有機硫黄割合および揮発成分割合(R)等から推定することができる。本発明の推定方法を用いることで、石炭銘柄毎の硫黄特性およびコークス中の硫黄割合を簡便に評価できるようになるため、コークスを製造する際に、硫黄割合の高い劣質石炭を有効利用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】乾留過程における石炭銘柄A、B、Cの原料石炭質量を100質量%とした時の有機硫黄濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
石炭は主に炭素、水素、酸素から構成される物質であるが、0.1〜3 質量%程度の硫黄を含むことが知られている。製鉄プロセスにおいて石炭はコークス炉で1000℃程度まで乾留され、コークスとなる。このとき、CH4、CO、H2などのガスの他に、タールと呼ばれる有機芳香族化合物や無機硫黄化合物に由来する硫黄を成分とするガスなどが放出される。そして、石炭中に含まれる硫黄が有機化合物の形態であるか、無機化合物の形態であるかによって乾留時に放出される硫黄の量が異なることになる。
【0015】
このように、硫黄の形態ごとに乾留過程での熱分解挙動が異なるため、石炭中の硫黄分とコークス中の硫黄分との関連は明瞭ではなく、石炭中の硫黄分からコークス中の硫黄分を推定する簡便な方法が従来はなかった。
【0016】
そこで、本発明では、まず、従来法に則り石炭およびコークスの硫黄分析を行い、乾留過程における硫黄の熱分解挙動を調査した。
【0017】
ここで、硫黄の形態別熱分解挙動については、既に以下のことが知られている。
(I)硫酸塩硫黄は熱分解し、コークス中に残留しない。
(II)黄鉄鉱硫黄(FeS2)は、硫化鉄硫黄(FeS)と硫黄(S)とに熱分解し、石炭の黄鉄鉱硫黄の約半量が硫化鉄硫黄としてコークス中に残留する。
しかしながら検討したところ、上記知見は、還元性の水素ガス雰囲気下、10〜40℃/minの急速昇温条件で得られるものであり、実コークス炉における硫黄の挙動が正確に反映されていないことがわかった。そこで本発明者らは、実コークス炉を模擬した条件である、不活性の窒素ガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で以下の実験を行った。
【0018】
分析用石炭は、JIS M8811「石炭類及びコークス類‐サンプリング及び試料調製方法」によって調製した気乾試料を用いた。石炭の全硫黄は、JIS M8813「石炭類及びコークス類‐元素分析方法」に記載の、高温燃焼法を用いて定量した。石炭の硫酸塩硫黄、黄鉄鉱硫黄、有機硫黄の形態別の硫黄割合は、JIS M8817 「石炭類の形態別硫黄の定量方法」の方法にて分析した。
【0019】
次に、コークスの製造およびコークス中に残留している全硫黄、形態別硫黄の定量を行った。石炭試料を入れた黒鉛るつぼを乾留炉内に設置し、大気圧の窒素ガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で、室温から350℃、500℃、700℃、1000℃の乾留終了温度まで加熱して3種類の銘柄の石炭からそれぞれ3種類の乾留試料(乾留終了温度:350℃、500℃、700℃)と1種類のコークス試料(乾留終了温度:1000℃)を製造した。次いで、JIS M8811「石炭類及びコークス類‐サンプリング及び試料調製方法」によって気乾試料を調製した。続いて、コークス中の全硫黄割合を上記JIS M8813の方法を用いて定量し、その後、コークス中の硫酸塩硫黄、コークス中の黄鉄鉱硫黄、コークス中の硫化鉄硫黄、コークス中の有機硫黄の形態別の硫黄割合を非特許文献1に記載の方法にて分析した。この時得た分析値は、コークス中への残留の度合いを比較しやすくするために、コークスの定量分析で得られた定量値(コークス質量に占める硫黄割合)を加熱前の石炭質量に占める硫黄割合に換算したものを使用した。
【0020】
乾留過程での石炭の熱重量変化を熱重量分析で調べた。10mg程度の石炭試料を不活性のアルゴンガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、石炭の初期質量に占める、加熱前石炭と加熱後石炭の質量差の割合を算出した。また、この熱重量分析値を用いて、コークス中硫黄割合を、コークス質量に占める値(コークスの質量を100 質量%とした時の値)から、加熱前の石炭質量に占める値(加熱前石炭の質量を100 質量%とした時の値)へと換算した。
【0021】
上記実験をもとに硫黄形態別に熱分解挙動を解析した結果、硫酸塩硫黄と黄鉄鉱硫黄については、実コークス炉を模擬した不活性窒素ガス雰囲気下の加熱条件でも、上記(I)(II)の事が同じように起こる事を確認できた。さらに、有機硫黄割合に関しては、乾留終了温度が350℃、500℃、700℃の試料についても、上記と同様の方法で、加熱前の石炭質量に占める値として求めた。乾留過程における有機硫黄の熱分解挙動に関しては、図1に示すように銘柄に依存することがわかった。これは、石炭中の有機硫黄には、スルフィド、チオール、チオフェンなどの、乾留過程での揮発性の異なる数種類の硫黄形態が、石炭銘柄毎に異なった割合で含有されているためであり、従来より有機硫黄量の変化の推定を困難にさせていた理由のひとつでもある。
【0022】
次に、乾留過程における有機硫黄割合の減少を定量的に評価するために、上記実験で使用した石炭銘柄毎の水分、揮発成分、灰分、固定炭素などの特性値を整理し、乾留前後での硫黄割合変化と関係があるかを調べた。その結果、乾留過程において減少する有機硫黄の割合(揮発性有機硫黄割合と称することもある)が、石炭の有機硫黄割合と石炭の揮発成分割合との積にほぼ等しいことを見出した。そして、この知見をもとに、下記の式(1)により、原料石炭質量を100質量%とした時に、生成したコークス中に含まれる有機硫黄質量の割合(質量%)が推定できることを見出した。すなわち、本発明では、石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合を、石炭中の有機硫黄割合および揮発成分割合で示される下記式(1)を用いて求めることとする。
有機Scoke=Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(1)
ここで、有機Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の有機硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量 %)、Q:係数(Q=1.0)である。
【0023】
以下、コークス中の有機硫黄の割合について詳細に記載する。
石炭銘柄A〜Dについて石炭中の全硫黄割合(全Scoal)、有機硫黄割合(有機Scoal)を上記JIS M8813、JIS M8817の方法より求めた。また、各石炭銘柄を1000℃の乾留終了温度まで加熱してコークス試料を得て、得られたコークス中の有機硫黄割合を非特許文献1の方法にて求めた。求められたコークス中の有機硫黄割合はコークス100質量%に対する値であるため、原料石炭質量に占める(原料石炭100質量%に対する)コークス中の有機硫黄割合(有機Scoke)を算出した。この際、後述するVMをもちいた。また、各石炭銘柄の、石炭中の揮発成分割合(R)として石炭の揮発分(VM)を用いた。以上の結果を表1に示す。
また、上記により得られた値から算出(有機Scoal−有機Scoke)される揮発性有機硫黄割合と、石炭中の有機硫黄割合(有機Scoal)と石炭の揮発成分の割合(R)との積を併せて表1に記載した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1より、測定値から算出される揮発性有機硫黄割合と、石炭中有機硫黄割合(有機Scoal)と石炭の揮発成分の割合(R)との積はほぼ等しいことがわかり、硫黄の形態が有機硫黄の場合には、石炭中有機硫黄割合(有機Scoal)と石炭の揮発成分の割合(R)との積が揮発性有機硫黄割合の推定値として用いることができる事がわかった。表1に、石炭銘柄A〜Dについて、式(1)により算出した有機Scokeの推定値も併記したが、測定で得られた有機Scokeの値とよく一致している。つまり、JIS M8813、JIS M8817など公知の方法で石炭の分析をすることにより石炭中有機硫黄割合(有機Scoal)を求めれば、コークス中の有機硫黄割合(有機Scoke)を推定できることが分かった。
【0026】
さらに、通常使用される石炭では、石炭中の全硫黄割合は2質量 %以下のものがほとんどである。そこで、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の、銘柄A、銘柄C、銘柄Dについてより詳細に検討を行ったところ、石炭中全硫黄割合は2質量%以下の場合は、式(1)における係数Qとして0.91以上0.97以下、好ましくは0.94を用いることにより、コークス中有機硫黄割合をより正確に推定することができる事がわかった。
【0027】
表2に、石炭中全硫黄割合が2質量%以下である銘柄A、銘柄C、銘柄Dの場合について、係数Q=0.91、係数Q=0.94、係数Q=0.97とした時の式(1)によるコークス中有機硫黄割合を示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、石炭中全硫黄割合が2質量%以下の場合にはQ=0.91〜0.97とした時の有機Scoke推定値は測定値との誤差が0.02質量%以下になり、JIS M8813で許容されている誤差より正確になる事がわかった。 以上の検討の結果から、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には、係数Qは0.91以上0.97以下であり、石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には、係数Qは1.0とするのが好ましい。
【0030】
また、コークス中の全硫黄割合は、コークス中に残留する硫酸塩硫黄割合、黄鉄鉱硫黄割合、硫化鉄硫黄割合、有機硫黄割合の和で求めることができる。上述の検討結果から、硫酸塩硫黄割合、黄鉄鉱硫黄割合、硫化鉄硫黄割合に関しては、上記従来の知見(I)(II)より残留量を推定できることがわかった。また、有機硫黄の割合については、本発明の推定方法を用いることで推定できる。この結果、コークス中の全硫黄割合を石炭の分析をすることにより推定することが可能になる。
【0031】
すなわち、コークス中に残留する硫酸塩硫黄割合(以下、硫酸塩Scokeと称することもある)は0(残留せず)、石炭中の黄鉄鉱硫黄のうち、半分が硫化鉄硫黄としてコークス中に残留するので、硫化鉄硫黄割合(以下、硫化鉄Scokeと称することもある)は黄鉄鉱Scoal/2、黄鉄鉱硫黄割合(以下、黄鉄鉱Scokeと称することもある) は0(残留せず)、有機硫黄割合(有機Scoke)は、有機Scoke=Q×有機Scoal×(1−R/100)であらわされるので、それらの和であるコークス中に残留する全硫黄割合(全Scoke)は、下記式(2)で求めることができる。
全Scoke= 黄鉄鉱Scoal/2+Q×有機Scoal×(1−R/100)・・・(2)
ここで、全Scoke:石炭を乾留して製造されるコークス中の全硫黄割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、黄鉄鉱Scoal:石炭中の黄鉄鉱硫黄の割合(石炭質量を100 質量 %とした時の質量%)、有機Scoal:石炭中の有機硫黄割合(質量%)、R:石炭中の揮発成分割合(質量 %)、Q:係数(Q=1.0)である。
【0032】
コークス中の有機硫黄割合の推定方法と同様に、コークス中の全硫黄割合を推定する場合でも、より精度の高い推定を行う場合には、石炭中の全硫黄割合に応じて推定割合を補正することが好ましい。すなわち、石炭中の全硫黄割合が2質量%以下の場合には、係数Qは0.91以上0.97以下であり、石炭中の全硫黄割合が2質量%超えの場合には、係数Qは1.0とするのが好ましい。
【0033】
以上のように、本発明のコークス中の有機硫黄割合の推定方法またはコークス中の全硫黄割合の推定方法によれば、石炭中の黄鉄鉱硫黄の割合、石炭中の有機硫黄割合、石炭中の揮発成分割合を定量することにより、その石炭から製造されるコークス中の有機硫黄割合および全硫黄割合を、コークスを直接分析することなく、推定できるようになる。
【0034】
なお、この時、分析用石炭試料としては、JIS M8811「石炭類及びコークス類‐サンプリング及び試料調製方法」によって調製した気乾試料を用いることができる。石炭中の黄鉄鉱硫黄、有機硫黄は、JIS M8817 「石炭類の形態別硫黄の定量方法」の方法にて定量することができる。石炭の揮発成分割合(R)は、石炭の揮発分(VM)もしくは、熱重量分析値のどちらを用いても良い。石炭の揮発分(VM)は通常、石炭の水分や灰分等とともに、JIS M8812「石炭類及びコークス類‐工業分析方法」に規定される方法で、通常石炭入荷時に分析が行われる。各石炭銘柄の特性値として管理されるものであり、石炭入荷時に既に求められている場合には、新たな分析を省略することができる。熱重量分析は、周知の方法であり、その条件は適宜設定することができる。例えば、10mg程度の石炭試料を不活性のアルゴンガス雰囲気下、約3℃/minの昇温速度で1000℃程度まで加熱し、石炭の初期質量に対する、加熱前石炭と加熱後石炭の質量差の割合を算出して使用する。
【0035】
また、本発明のコークス中の有機硫黄割合の推定方法またはコークス中の全硫黄割合の推定方法の結果を複数の銘柄の石炭を配合してコークスを製造する際に用いることにより、様々な配合で組合わせて製造されるコークス中の硫黄量を推定することが可能になる。例えば、ある配合炭から製造されたコークス中の硫黄量が分かっている時に、新たな銘柄の原料石炭を本発明の推定方法で評価することにより、その銘柄を更に加えてコークスを製造した時のコークス中の硫黄量を推定することが容易になる。また、配合する各々の石炭の分析を行っておくことで、それらを様々な組成で配合してできる種々のコ-クスの硫黄割合をコークスを直接分析することなく推定できる。
【実施例】
【0036】
分析用石炭試料としては、JIS M8811「石炭類及びコークス類‐サンプリング及び試料調製方法」によって調製した気乾試料を用いた。石炭中の全硫黄(全Scoal)は、JIS M8813「石炭類及びコークス類‐元素分析方法」に規定される、高温燃焼法を用いて定量した。石炭中の硫酸塩硫黄(硫酸塩Scoal)、黄鉄鉱硫黄(黄鉄鉱Scoal)、有機硫黄(有機Scoal)は、JIS M8817 「石炭類の形態別硫黄の定量方法」の方法にて定量した。石炭の揮発成分割合(R)としては、石炭の揮発分(VM)をJIS M8812に準じて測定した。得られた結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
また、石炭試料を入れた黒鉛るつぼを乾留炉内に設置し、大気圧の窒素ガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で、室温から1000℃まで加熱してコークス試料を製造した。続いて、コークス試料中の全硫黄割合を上記JIS M8813を用いて定量し、さらに、硫酸塩硫黄、黄鉄鉱硫黄、硫化鉄硫黄、有機硫黄のそれぞれの割合を非特許文献1の方法をもとに分析した。次に、石炭の熱重量分析を行った。10mg程度の石炭試料を、不活性のアルゴンガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、石炭の初期質量に占める、加熱後石炭の質量の割合を算出した。この加熱後石炭の質量の割合を用いて、上記分析で求めたコークス質量に占めるコークス中の各硫黄濃度の分析値を、原料の石炭質量に占める硫黄濃度に換算した。
また、コークス中の硫化鉄硫黄割合は、乾留前後で消失した黄鉄鉱がすべて硫化鉄に変換したとして、下記式(3)により求めた。
コークス中の硫化鉄硫黄割合
(石炭の黄鉄鉱鉄割合−コークスの黄鉄鉱鉄割合)/55.85×32.07・・・(3)
また、コークス中の有機硫黄割合に関しては、下記式(4)により求めた。
コークス中の有機硫黄割合=コークス中の全硫黄割合−コークス中の硫酸塩硫黄割合
−コークス中の黄鉄鉱硫黄割合−コークス中の硫化鉄硫黄割合・・・(4)
得られた結果を表4に示す。
【0039】
また、本発明のコークス中の全硫黄割合の推定方法(Q=1.0)を用いて、原料石炭質量に占めるコークス中の全硫黄割合 (全Scoke(質量%))の推定値を求め、上記測定値との誤差を求めた。併せて表4に示す。
なお、全硫黄割合(全Scoal測定値)が2質量%以下の石炭である銘柄A、C、Dについては、本発明の方法(式2、Q=0.94)を用いて、原料石炭質量に占めるコークス中の全硫黄の割合 (全Scoke(質量%))の推定値を求め、測定値との誤差と併せて表4に記載した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4より、本発明の方法では、コークス中の全硫黄の割合 (全Scoke(質量%))を精度よく推定することができていることがわかる。さらに、全硫黄割合(全Scoal測定値)が2質量%以下の石炭に関して、式(2)において係数Q=0.94とする補正を行った場合、より精度よく全硫黄の割合 (全Scoke(質量%))が推定できている。
【0042】
また、本発明による推定方法および従来のコークスを直接分析する方法による、コークス中の有機硫黄割合および全硫黄割合を比較したものを表5に示す。銘柄Bに関しては係数Q=1.0、銘柄A、CおよびDに関しては係数Q=0.94を適用した推定値である。
【0043】
【表5】
【0044】
また、本発明による推定方法において、石炭の揮発成分割合(R)として、前述のVMではなく、熱重量分析値を用いて推定した結果を表6に示す。熱重量分析は10mgの石炭試料を不活性のアルゴンガス雰囲気下、3℃/minの昇温速度で1000℃程度まで加熱し、石炭の初期質量に対する、加熱前石炭と加熱後石炭の質量差の割合を算出して揮発成分割合(R)とした。この時、銘柄Bに関しては係数Q=1.0、銘柄A、CおよびDに関しては係数Q=0.94を適用した。
【0045】
【表6】
【0046】
コークス中の全硫黄の定量方法として、JIS M8813の高温燃焼法を用いた場合、2回の測定値の許容差が、銘柄AおよびCおよびDのように全硫黄割合が1.00質量%以下の試料の場合は0.04 質量 %、銘柄Bのように全硫黄割合が1.00を超え2.00質量%以下の試料の場合は0.07 質量 %と規定されている。これに対して、表5、表6より、本発明法と従来法の誤差は、使用した全4銘柄で上記許容差範囲内であり、本発明法は従来法と同程度の正確さで硫黄濃度を推定できることがわかる。
【0047】
次に、例として4銘柄の石炭よりそれぞれ製造したコークスの有機硫黄割合を得るのに必要な時間を、上記の分析に要した時間より、試算した。なお、コークスの製造および試料調製は一つの装置で1サンプルずつ行い、また、全硫黄分析も1サンプルずつ行った。また、形態別硫黄分析は4サンプルを同時に行った。
従来法でコークスの有機硫黄割合は、コークスの全硫黄割合から、コークスの硫酸塩硫黄割合、黄鉄鉱硫黄割合、硫化鉄硫黄割合を差し引いて算出される。前述のように、コークス中の硫酸塩硫黄割合および黄鉄鉱硫黄割合はゼロ、硫化鉄硫黄割合は石炭中の黄鉄鉱硫黄割合の半分として求めているから、コークスの有機硫黄割合を求めるためには、コークス中の全硫黄の分析に加え、石炭中の黄鉄鉱の分析が必要である。したがって、従来法を用いて全4銘柄の石炭を乾留したコークスの有機硫黄割合を分析する場合、分析用コークスの製造および試料調製は5日、コークスの全硫黄割合の分析は2日、石炭の黄鉄鉱硫黄の分析は2日を要する。
【0048】
一方、本発明法を用いて全4銘柄の石炭を乾留したコークスの有機硫黄割合を推定する場合、石炭中の全硫黄割合と黄鉄鉱硫黄割合、硫酸鉄硫黄割合の分析値から有機硫黄割合を求めればよく、それには石炭中の全硫黄分析で2日、黄鉄鉱と硫酸塩の分析で2日、計4日かかる。また、石炭の揮発成分割合は簡便なJIS M8812の方法で求められるVMを用いればよく、その測定に1日を要する。
【0049】
以上より、本発明法は従来法よりも計4日の日数短縮が可能であった。特に、本発明ではコークスの分析試料の調整が必要ないため、従来法に比べ、簡便なものになっている。なお、コークスからの分析試料調整は、乾燥、粉砕、粒度調製などの作業が必要である。特にコークス試料は石炭試料よりも固いため、粉砕と粒度調製には時間や熟練度が必要なものである。また、上記は、石炭配合銘柄数を全4銘柄と仮定した場合であり、配合銘柄数が増加するほど分析用コークスの製造および試料調製、コークスの硫黄割合分析の所要日数は増加するため、本法を用いればより短期間でコークスの硫黄分析が可能となる。
図1