(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048088
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】アマモ場の造成方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
A01G33/00
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-254920(P2012-254920)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2014-100103(P2014-100103A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】小杉 知佳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】赤司 有三
(72)【発明者】
【氏名】三木 理
【審査官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−288323(JP,A)
【文献】
特開2005−087068(JP,A)
【文献】
特開2002−291359(JP,A)
【文献】
特開2006−115707(JP,A)
【文献】
特開2011−155993(JP,A)
【文献】
特開2001−061368(JP,A)
【文献】
特開平11−071737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して得られ、山中式硬度計で測定される硬度が、前記混合後30日目で20kPa以上500kPa以下に達し、かつ、前記混合後30日目以降も20kPa以上500kPa以下の範囲内である改質土を海底に敷設し、この改質土で海草類を育成することを特徴とするアマモ場の造成方法。
【請求項2】
前記改質土の硬度が、前記混合後30日目で30kPa以上に達し、かつ、前記混合後30日目以降も30kPa以上500kPa以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項3】
前記改質土中に予め海草類の種子を混合し、得られた種子入り改質土を海底に敷設することを特徴とする請求項1又は2に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項4】
海底に敷設された前記改質土に海草類の種子を播種し、育成することを特徴とする請求項1又は2に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項5】
前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に海草類の種子を播種し、種子が播種された改質土を育成容器と共に海底に敷設することを特徴とする請求項1又は2に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項6】
前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に海草類の種子を播種し、育成して発芽した苗を前記改質土及び育成容器と共に海底に移植することを特徴とする請求項1又は2に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項7】
前記海草類の種子が、改質土の表面から深さ1〜2cmまでの間に播種されることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項8】
前記製鋼スラグの添加量が、前記改質土中30質量%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項9】
前記製鋼スラグは、0.075mm以下の粒径が10質量%以下であって、26.5mm以上の粒径が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項10】
30質量%の製鋼スラグを混合して得られる改質土の硬度が20kPa未満の場合、前記改質土中に1質量%以下の高炉スラグを混合することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項11】
前記改質土中に、無機態栄養分として腐植土を混合することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項12】
前記海水中分解可能な育成容器が、生分解性プラスチック製であることを特徴とする請求項5〜11のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項13】
前記海底が水深5m以上である場合、この海底に盛り土をして水深5m未満としてから前記改質土の敷設をして海草類を育成することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項14】
前記盛り土が、30質量%超の製鋼スラグを含むものであることを特徴とする請求項13に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項15】
前記盛り土が、浚渫土砂中に30質量%超の製鋼スラグを混合して得られたものであることを特徴とする請求項13又は14に記載のアマモ場の造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマモ場を造成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中で生育する植物には、付着器によって岩礁帯に接着し、海水中に溶存した栄養塩類を摂取して生長する海藻類(コンブ、ノリ等)と、陸上植物と同様に種子によって増殖し、砂質又は砂泥質中に根を伸ばし、この根から栄養塩類を摂取して生長する海草類(アマモ等)がある。
【0003】
海草類が群生する場所を主に海草藻場(アマモ場)と呼ぶが、このアマモ場は、多くの魚介類の産卵場、生育場であり、さらにアマモ表面に珪藻や動物プランクトンが付着することから、餌場にもなる。アマモ場によって形成される豊かな生態系は、水質浄化の役目も果たしている。
【0004】
しかし、近年、沿岸域の埋め立て工事、それによる海砂の流失、底質のヘドロ化等によって、アマモ場は激減しており、沿岸域の底質環境の改善によるアマモ場の復元が強く求められるようになった。
そして、これまでも、アマモ場の回復に向けて以下のような対策が提案され、実施されている。
【0005】
1)アマモ苗の根を粘土で包み、直接海域底質に固定する方法(特許文献1)
2)人工栽培したアマモ苗を生分解性シートに移植し、海域底質に敷設する方法(特許文献2)
これらの方法1)及び2)は、アマモ苗を粘土や生分解性シートに固定させて移植するものであり、移植時の作業を簡便化するものではあるが、アマモ苗へのダメージが大きく、アマモ苗が根付くには容易ではなく、結果として、アマモ苗の根の伸長が遅くなり、海域底部付近の流速が速い場合等にはアマモが容易に流失することから、この移植後の苗の流失を予め考慮に入れた上でのアマモ場造成となってしまう。また、上記の方法は、汚濁の進んだ底質環境を改善するものではないのでアマモ場の復元は容易ではなく、ある程度環境が清浄化した場所に限定した適用となってしまう。さらに、上記の方法2)においては、アマモ種子の播種から移植まで一貫して同じ生分解性シートを用いているものの、移植可能になるまでの育成期間においては海水をかけ流しにする必要があり、設備投資が大きくなるほか、実施可能な箇所が限られてしまい、必ずしも簡便な方法であるとは言い難い。
【0006】
上記のような方法1)及び2)に加えて、近年、海域の浚渫工事で発生する浚渫土砂を用いてアマモ場を復元する方法が提案されている。しかし、浚渫土砂は窒素、リン等のアマモの生長に必要な栄養源を多く含むものの、極めて粒度が小さく流失し易いため、そのままではアマモ場の基盤材として用いることが困難である。そこで、以下のような流出防止対策が考案されている。
【0007】
3)軽焼マグネシア系固化剤、セメント系固化剤を浚渫土に混合して、アマモを植え付ける方法(特許文献3)
4)高炉水砕スラグを浚渫土に混合して、アマモを植え付ける方法(特許文献4)
これらの方法3)及び4)は、流失し易い浚渫土に軽焼マグネシア系固化材、セメント系固化材、あるいは高炉水砕スラグを混合し、軟弱底質である浚渫土を改質してアマモ場の基盤材とするものであるが、浚渫土砂の改質指標が明確でなく、改質の程度とアマモの生長との関係も不明確であり、アマモ場の復元を期待できるものではない。それ故、これらの方法で永続的にかつ広範囲に安定してアマモ場を造成することは困難であり、また、高炉水砕スラグは天然砂よりも比重が重く、安定性に優れてはいるものの、潜在水硬性(アルカリ刺激でそれ自体が硬化する現象)があり、使用程度によっては底質の固化が過度に進行し、アマモの根の伸長を阻害することも懸念される。
【0008】
ところで、改質の程度を示す指標として「硬度」が挙げられており、この硬度を指標として用いる以下の方法が考案されている。
5)高炉水砕スラグと他の基盤用材料を混合して、山中式硬度計による硬度測定値が少なくとも一部において10mm以上となるように人工水底基盤を作製する方法(特許文献5)
6)高炉水砕スラグと他の基盤用材料を混合して、山中式硬度計による硬度測定値が3〜20mmとなるように人工水底基盤を作製する方法(特許文献6)
【0009】
これらの方法5)及び6)は、いずれも着底基盤の硬度を規定しているものの、施工完了から6カ月後の硬度を評価する必要があることから、着底基盤の施工とアマモ場の造成とを同時期に実行できず、たとえ同時期に実行したとしても、希望する硬度を得られる可能性が低く、アマモ場の復元までに長時間を要し、早急な対策を打てる方策とは言い難い。また、これらの方法では、固化状態が均一ではないため、必ずしもアマモやその他の底生生物に適した硬度が得られるとは限らない。高炉水砕スラグは、硫黄含有量が多く、水産用水基準からも海域底質に大量に用いるべきではなく、さらに、着生基盤から何らかの原因で高炉水砕スラグが露出した場合には、アルカリ成分が溶出して固化が異常に進行し、提案されている所望の均質な硬度を得ることが難しくなり、また、混合が不十分な場合には、その箇所での固化が異常に進み、生物の生息も困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平7-2,063号公報
【特許文献2】特開2008-61,568号公報
【特許文献3】特開2008-259,436号公報
【特許文献4】特開2011-4,768号公報
【特許文献5】特開2006-288,322号公報
【特許文献6】特開2006-288,323号広報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】アマモ類の自然再生ガイドライン、水産庁・マリノフォーラム21、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、これまでに提案・実施されてきたアマモ場の造成方法における種々の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、意外なことには、浚渫土砂にカルシウムイオンを溶出する固化促進材
、特に製鋼スラグを添加してアマモの生育に適すると共に流出防止を達成できる硬度の改質土を調製し、この改質土を用いることにより、アマモの種子の発芽を促進し、また、アマモ場を効果的に造成できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
従って、本発明の目的は、浚渫土砂を改質し、アマモの生育に適した硬度に制御することにより、アマモの発芽及び生育を促進し、これによってアマモ場を容易に造成し得るアマモ場の造成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(15)の通りである。
(1)浚渫土砂
と製鋼スラグとを混合して得られ
、山中式硬度計で測定される硬度
が、前記混合後30日目で20kPa以上500kPa以下
に達し、かつ、前記混合後30日目以降も20kPa以上500kPa以下の範囲内である改質土を海底に敷設し、この改質土で
海草類を育成することを特徴とするアマモ場の造成方法。
【0015】
(2) 前記改質土の硬度が、前記混合後30日目で30kPa以上に達し、かつ、前記混合後30日目以降も30kPa以上500kPa以下の範囲内であることを特徴とする前記(1)に記載のアマモ場の造成方法。
(3)前記改質土中に予め
海草類の種子を混合し、得られた種子入り改質土を海底に敷設することを特徴とする前記(1)
又は(2)に記載のアマモ場の造成方法。
(4)海底に敷設された前記改質土に
海草類の種子を播種し、育成することを特徴とする前記(1)
又は(2)に記載のアマモ場の造成方法。
【0016】
(5)前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に
海草類の種子を播種し、種子が播種された改質土を育成容器と共に海底に敷設することを特徴とする前記(1)
又は(2)に記載のアマモ場の造成方法。
(6)前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に
海草類の種子を播種し、育成して発芽した苗を前記改質土及び育成容器と共に海底に移植することを特徴とする前記(1)
又は(2)に記載のアマモ場の造成方法。
【0017】
(7)前記
海草類の種子が、改質土の表面から深さ1〜2cmまでの間に播種されることを特徴とする
前記(4)〜(6)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【0018】
(8)前記製鋼スラグの添加量が、
前記改質土中30質量%以下であることを特徴とする
前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
(9)前記製鋼スラグは、0.075mm以下の粒径が10質量%以下であって、26.5mm以上の粒径が5質量%以下であることを特徴とする
前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【0019】
(10)30質量%の製鋼スラグを混合して得られ
る前記改質土の硬度が20kPa未満の場合、
前記改質土中に1質量%以下の高炉スラグを混合することを特徴とする
前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
(11)前記改質土中に、無機態栄養分として腐植土を混合することを特徴とする
前記(1)〜(10)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【0020】
(12)前記海水中分解可能な育成容器が、生分解性プラスチック製であることを特徴とする
前記(4)〜(11)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
(13)前記海底が水深5m以上である場合、この海底に盛り土をして水深5m未満としてから前記改質土の敷設をして
海草類を育成
することを特徴とする
前記(1)〜(12)のいずれか1項に記載のアマモ場の造成方法。
【0021】
(14)前記盛り土が、30質量%超の製鋼スラグを含むものであることを特徴とする
前記(13)に記載のアマモ場の造成方法。
(15)前記盛り土が、浚渫土砂中に30質量%超の製鋼スラグを混合して得られたものであることを特徴とする前記(13)又は(14)に記載のアマモ場の造成方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、固化促進材を用いて軟弱土壌である浚渫土砂を改質し、アマモの生育に適した硬度に制御することによって、アマモ種子の発芽及び生長を促進し、さらに簡便にアマモ場を造成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、浚渫土砂、この浚渫土砂に製鋼スラグを種々の混合率(スラグ混合率:10質量%、20質量%、30質量%、及び50質量%)で混合して得られたスラグ混合土(改質土)、及びコントロール(腐植土+山砂)にアマモ種子を播種した際におけるアマモ種子の発芽率を示すグラフ図である。
【0024】
【
図2】
図2は、浚渫土砂、この浚渫土砂に製鋼スラグを種々の混合率(スラグ混合率:10質量%、20質量%、30質量%、及び50質量%)で混合して得られたスラグ混合土(改質土)、及びコントロール(腐植土+山砂)の硬度の経時変化を示すグラフ図である。
【0025】
【
図3】
図3は、製鋼スラグの各スラグ混合率に対するアマモ発芽率及び硬度変化の関係を示すグラフ図である。
【0026】
【
図4】
図4は、製鋼スラグの各スラグ混合率に対するアマモ発芽体の各種部位における生長の違いを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、本発明の海草藻場(アマモ場)の造成方法について説明する。
本発明が造成の対象とする海草藻場とは、水底の底質(天然の海草藻場であれば、砂質又は砂泥質)中に地下茎を張り巡らせ、そこから生育・繁殖するアマモ類(例えば、アマモ、コアマモ、オオアマモ、リュウキュウスガモ)等の海草類が群生している海底のことであり、一般にはアマモ場と呼ばれる。
【0028】
このようなアマモ場を造成するために、本発明のアマモ場の造成方法では、浚渫土砂にカルシウムイオンを溶出する固化促進材を混合し、浚渫土砂の硬度をアマモ等の海草類の生育に適した範囲に調整し、海草類を育成するための改質土(基盤材)とする。この改質土によってアマモ種子の発芽、発芽体の生長を促進し、さらに海草類の地下茎又は根の安定性を増すことで、永続的なアマモ場の造成が可能となる。また、浚渫土砂の硬度を増大させることにより、浚渫土砂の流出を防止することが可能になる。
【0029】
固化促進材としては、カルシウムイオンを溶出する材料を用いることが必要であり、これは、浚渫土砂から溶解性シリカが溶出するが、この浚渫土砂にカルシウムイオンが供給されると、浚渫土砂の粒子間にケイ酸カルシウム(CSH)が生成し、固化が促進されるからである。このような固化促進材としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム等も使用できるが、中でも、製鉄プロセスの副産物である製鋼スラグを用いることが最も望ましい。これは以下の理由による。
【0030】
製鋼スラグは、製鉄系スラグの一つであり、安価で安定供給のできる資材である。また、主成分はカルシウムシリケート化合物であって、長期間に亘ってカルシウムイオンを供給することが可能である。また、比重も2.8〜3.0kg/Lと砂(2.3〜2.5kg/L)よりもかなり高く、浚渫土砂と混合することによって流失し難い安定した基盤材(改質土)となる。但し、製鋼スラグを過剰に添加し過ぎると周辺海水のpH上昇が懸念されるため、最大添加量は50質量%以下とすることが望ましい。混合する場合には、十分に混合し、それによって、酸性である浚渫土砂の間隙水が製鋼スラグのアルカリ分を中和し、極端なpHの上昇を抑えることができる。30質量%を超える製鋼スラグの混合は、浚渫土砂の種類によっては間隙水のpHが過度に上昇する場合があり、アマモ等の海草類の生長を阻害する可能性がある。
【0031】
本発明で使用する製鋼スラグは、浚渫土砂を混合した改質土の硬度と相関性が確認されているCaO、f-CaO、及びSiO
2の含有割合が、それぞれ20〜60質量%、0.2〜20質量%、及び5〜25質量%の範囲であるのが好ましい。また、粒径分布は、0.075mm以下の粒径が10質量%以下、26.5mm以上の粒径が5質量%以下であることが望ましい(JIS Z 8801に規定する網ふるいの呼び寸法で規定)。さらに、50%粒径(粒子全体の50%の粒径)が5mm以上15mm以下であることが望ましい。0.075mm以下の粒径の製鋼スラグはf-CaOの含有率が高く、また、表面積も大きくてpHが上昇し易いため、10質量%以下とすることが望ましい。また、粒径が26.5mm以上の製鋼スラグでは、逆にカルシウムイオンの溶出が抑制され、固化の進行が生じ難くなるため、5質量%以下とすることが望ましい。
【0032】
さらに、本発明で使用する製鋼スラグは、50%粒径が5〜15mm程度の礫であるため、アマモ等の海草類は、根を礫に絡めながら伸長させることができるので、造成されたアマモ場においてその安定性が向上し、一般に生育困難であるとされている流速60cm/sの海域でも流失することなく、アマモ場を造成することができる(アンカー効果)。なお、従来において、アマモ場の造成で推奨されている砂の50%粒径は0.14〜0.39mmであり、上記のようなアンカー効果は期待することができない。また、本発明においては、施工時に、従来法(特許文献3)で使用が推奨されている草体安定工(例えば、エクスバンドメタル)を採用する必要がなく、より安価に、かつ、簡便にアマモ場を造成することが可能である。
【0033】
浚渫土砂に製鋼スラグを所定量混合しても硬度20kPa以上の改質土が得られない場合には、さらに固化を促進させるために、高炉水砕スラグの微粉を製鋼スラグと共に加えてもよい。しかし、高炉水砕スラグの微粉はそれ自体が潜在水硬性(アルカリ刺激で硬化する現象)を有しているため、過剰に加えると、得られた改質土(スラグ混合土)の硬度が500kPa以上になり、アマモ種子の発芽及び苗の生育を阻害する場合がある。そこで、改質土の硬度を500kPa以下とするためには、高炉水砕スラグ微粉の添加については、比重2.89及びブレーン値3000〜5000cm
2/gで規定されるものを用いて、その添加量も1質量%以下とすることが望ましい。
【0034】
ところで、アマモ等の海草類の生息できる基盤材(改質土)の理想的な環境としては、これまで、海底流速、底質砂面の変化量、そして底質の移動状況を示すシールズ数を指標として定義されてきた(非特許文献1)。特に、底質砂面の変化量の計測には1週間から1ヶ月を要し、アマモ場造成の候補地としての迅速な判断をすることが困難であった。また、これまでは、基盤材の硬度は、アマモ場の環境指標としては無視されてきた。これは硬度の増大は、アマモの生育にマイナスの効果しかないとして認識されてきたためである。しかし、発明者らは、本発明において、硬度の増加は必ずしもマイナスの効果ばかりではなく、アマモの生育に適した基盤材の硬度が存在することを初めて見出したのである。ここで述べる土壌の硬度は「山中式土壌硬度計」を用いて測定した圧入抵抗値である。山中式土壌硬度計を用いることによって、簡便、かつ短時間にアマモ場造成地としての適性を判断することができる。さらに、該硬度計は、測定者による誤差も生じ難く、安価に入手できる。
【0035】
製鋼スラグによる浚渫土砂の改質、つまり固化の促進は、製鋼スラグの混合割合によって調節することができる。通常、固化の進行は、混合直後から開始するが、材齢30日で飽和となるため、30日以降の硬度(山中式硬度計で測定した圧入抵抗値)が20kPa以上500kPa以下、好ましくは30kPa以上400kPa以下になるように、浚渫土砂に製鋼スラグを混合するのがよい。硬度が20kPa未満では海流による流出を抑制することが困難であり、反対に、硬度が500kPa超ではアマモの発芽に影響が出る。できれば、敷設する前に、少量の製鋼スラグ及び浚渫土砂でテストピースを作製し、30日目の硬度が20kPa以上500kPa以下となる配合割合を特定しておくのがよい。以上のように、本発明によって、改質土の硬度を短期間で簡便に評価できるため、より迅速にアマモ場の造成を実現することができる。
【0036】
本発明の改質土を海底に敷設し、この改質土で
海草類を育成してアマモ場を造成するに際し、より具体的には以下の第1〜第4の方法が採用される。
すなわち、第1の方法は、前記改質土中に予め
海草類の種子を混合し、得られた種子入り改質土を海底に敷設する方法である。この第1の方法において、浚渫土砂に製鋼スラグ及びアマモ等の海草類の種子を混合した改質土から、海草類の種子が流失せず、かつ、効率よく発芽できるように、好ましくは敷設する改質土の厚みを3〜5cmとするのが望ましい。アマモ等の海草類の種子は、表面から数cmの深さであれば容易に発芽することができる。また、発芽後、深さ5cm程度で2次元的に地下茎を伸長させ、分枝しながら、個体数を増やしていくため、海草類の種子を混合させた改質土を3〜5cmの厚みで敷設することによって、効率的にアマモ等の海草類の発芽及び生長促進を促すことができる。また、5cmよりも厚く敷設すると、5cmより深い場所に存在する種子は発芽し難くなり易く、アマモ場の造成効率が低下する可能性がある。
【0037】
また、第2の方法は、海底に敷設された前記改質土に
海草類の種子を播種して育成する方法であり、また、第3の方法は、前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に
海草類の種子を播種し、種子が播種された改質土を育成容器と共に海底に敷設する方法であり、更に、第4の方法、前記改質土を海水中分解可能な育成容器に入れてこの改質土に
海草類の種子を播種し、育成して発芽した苗を前記改質土及び育成容器と共に海底に移植する方法である。そして、これら第2〜4の方法において、前記改質土に
海草類の種子を播種する際の播種深さについては、改質土の表面から1〜2cmであるのがよく、これより深いと発芽率が低下し、また、これより浅いと発芽しても改質土から脱落する虞がある。
【0038】
更に、本発明において、改質土の敷設予定地が、アマモ等の海草類の生育に適さない水深5m以上である場合、盛り土をして生育に適した水深に調整することも可能である。この場合、盛り土の種類には特に制限はないが、製鋼スラグを30質量%超で含んで固化が促進された盛り土であることが好ましく、特に製鋼スラグを30質量%超で含む浚渫土砂が好ましい。また、底質が極めて軟弱である場合には、浚渫土砂に製鋼スラグを30質量%以上混合し、強固に固化させた盛り土でマウンドを作製し、その上にアマモ種子を混合した改質土(製鋼スラグ30質量%以下混合)を敷設すればよい。なお、製鋼スラグを多量に混合した盛り土は、周辺海水のpHを上昇させ易くなるが、その上に本発明の改質土を被覆することにより周辺海水との間が遮蔽され、pHの上昇を抑制することができる。
【0039】
さらに、浚渫土砂と製鋼スラグを混合し固化が進行した改質土は、これまで広く用いられてきた山砂と腐植土の混合土よりも栄養塩を豊富に含むため、アマモ等の海草類の種子の発芽及び苗の生長をより促進することができる。すなわち、表1に示すように、浚渫土砂の間隙水には無機態の窒素及びリンが多量に含まれており、これらを摂取したアマモ等の海草類の種子は、その発芽及び生長が促されるものと考えられる。なお、本発明者らは、これら栄養塩の供給が改質土の固化によって阻害されないことを確認している。
【0041】
なお、浚渫土砂が汚濁の進んでいない海域のもので砂分が多い場合等、浚渫土砂の間隙水中の窒素、リン等が少ない場合も想定される。このような浚渫土砂を用いる場合には、浚渫土砂及び製鋼スラグの他に、腐植土等を加えてもよい。このような腐植土の添加量は、間隙水中の窒素、リン等の濃度が水産用水基準で示されたノリの養殖の海水基準値(窒素:0.1mg/L、リン:0.014mg/L)の10倍濃度以上(希釈を考慮)、即ち、窒素濃度が1mg/L以上、リン濃度が0.14mg/L以上となるように添加すればよい。
【0042】
アマモ等の海草類の苗を陸上において育苗する場合、本発明で確立した浚渫土砂の改質によって、アマモ等の海草類の苗の生長を促進することができる。上記方法によって作製した浚渫土砂及び製鋼スラグを含む改質土を育成容器(例えば、バットやカップ等)中に通常3cm以上15cm以下、好ましくは6cm以上10cm以下の厚さで敷設し、そこにアマモ種子を表面から1〜2cm程度の深さに播種する。播種した育成容器は、遮光をして、できるだけ15℃以下になるように静置する。種子の発芽を確認した後、育成容器を明条件に移し、苗の生長を促す。種子の播種の際、改質土(スラグ混合土)を予めプラスチック製のカップや生分解性プラスチック製カップや薄鉄板製カップ等の海水中分解可能なカップ等に入れて、苗を育苗してもよい。それによって、苗をアマモ場造成海域に移植する際に、海中でカップを外してから、もしくはカップを付けたままで、容易に移植することができるため、簡便にかつアマモ苗にダメージを与えることなく移植でき、効率的にアマモ場の造成を進めることができる。
【0043】
実海域におけるアマモ等の海草類の種子の発芽率は、通常10%未満とされており、また、天然アマモ場の密生域では、生育密度が30株/m
2程度である。したがって、アマモ場造成時の播種密度は、300〜1000粒/m
2であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
〔実施例1:アマモ種子の発芽に適した硬度の特定〕
浚渫土砂への製鋼スラグの混合率(スラグ混合率)を変化させて4種類の改質土を作製し、アマモ種子の発芽率を比較することによって、アマモ種子の発芽に適した硬度の特定を行った。
【0045】
東京湾で採取した浚渫土砂に製鋼スラグをスラグ混合率0質量%(0vol%)、10質量%(6.3vol%)、20質量%(13.1vol%)、30質量%(20.6vol%)、及び50質量% (37.7vol%)の割合で混合し、各々400mLの改質土からなる試験土壌を作製した。また、コントロールとして、通常、アマモ種子の発芽に用いる山砂及び腐植物質を体積比7:3で混合した試験土壌400mLを用いた。
【0046】
各試験土壌の中に、冷暗環境下で保管されたアマモ種子を900粒/m
2となるように50個ずつ混合し、得られた種子入りの試験土壌を厚さ4cm程度となるようにバット上に広げた。次に、このようにして調製したアマモ種子入りの各試験土壌が敷設された各バットを、バケツに入れた東京湾の実海水中に沈め、遮光した後に15℃に設定した人工気象室に移し、種子の発芽を促した。定期的に発芽した個体数を計測し、実験区での発芽率を算出した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
(1)発芽率の比較(
図1)
図1に示すように、敷設から8日目で最初の発芽を確認した。その後、発芽個体数は徐々に増加していった。コントロールの試験土壌(腐植土+山砂)では、42日目に発芽率が24%となり、その後変化が見られなかった。実験系では、製鋼スラグを含まないスラグ混合率0質量%(浚渫土砂のみ)の試験土壌、及びスラグ混合率50質量%の試験土壌において、コントロールよりも低く、57日目で12.5%となった。また、スラグ混合率10〜30質量%の各試験土壌では、ほぼ同率でコントロールよりも顕著に高くなり、スラグ混合率20質量%の試験土壌において57日目で38%に達した。57日目の発芽率を比較すると以下のようになった。
10〜30質量%>コントロール(腐植土+山砂)>浚渫土砂、50質量%
【0049】
アマモ種子の発芽には、根の伸長が伴う。そのため、浚渫土砂に製鋼スラグを混合した改質土(スラグ混合土)からなる試験土壌のように、硬度が上昇したとしても、底質中に礫があることで、根が絡まり易く、安定し易い。このことが、浚渫土砂単体(スラグ混合率0質量%の試験土壌)よりも硬度が高い改質土で発芽率が上回ったものと考えられる。しかし、スラグ混合率50質量%の試験土壌において発芽率が低下したことから、アマモ種子の発芽に適した硬度があることが推察された。
【0050】
(2)硬度の比較(
図2)
上で作製した各試験土壌の硬度を、山中式硬度計を用いて計測した。硬度は、各試験土壌毎に3地点計測し、その平均値を求めた。
コントロールの試験土壌(腐植土+山砂)では、30日目には、17kPaと約20kPaになった。その後もそのままで推移し、飽和硬度は20kPaと推定された。
【0051】
また、浚渫土砂単体(スラグ混合率0質量%)の試験土壌では、硬度を発現することなく、0kPaのままであった。
スラグ混合率10及び20質量%の試験土壌では、コントロールよりも若干硬く、それぞれ32kPa、38kPaであった。その後もゆるやかに上昇し、飽和硬度は40kPa程度と推定された。
【0052】
スラグ混合率30質量%の試験土壌では、14日目に318kPaとなり、30日目には458kPaとなり、飽和硬度は500kPaと推定された。
スラグ混合率50質量%の試験土壌では、さらに硬度が増し、30日目に981kPaに達し、57日目には1155kPaとなり、飽和硬度は、約1000kPaと推定された。
【0053】
(3)硬度と発芽率の関係(
図3)
上記の各試験土壌(改質土)におけるスラグ混合率に対する発芽率及び硬度変化の関係を
図3に示す。
この
図3から理解されるように、改質土の硬度が30〜500kPaの間で発芽率が高く、コントロール(硬度17kPa)よりも上回った。しかし、この範囲以外にある場合、0kPa、及び1000kPaでは、発芽率がコントロールよりも下回り、アマモ種子の発芽に適さないことが判明した。
【0054】
〔実施例2:実海域での試験〕
東京湾で採取した浚渫土砂に製鋼スラグを40質量%の割合で混合し、改質土を調製した。この改質土を用いて東京湾沿岸の水深10mの実海域に水深が4mになるように盛り土を行った。この盛り土の上に、表2に示した各試験土壌〔コントロール(山砂:腐植物質=7:3)、スラグ混合率0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、50質量%)の改質土〕を用い、厚さ5cmのマウンド(5m×5m)を作成した。
【0055】
また、各マウンドと同様の試験土壌を生分解性プラスチックカップに入れて播種し、発芽させたアマモ苗(アマモ種子発芽体)を各マウンドに50株/m
2となるように植え付けた。移植から約2カ月後の57日目にアマモ苗の各種部位を計測し、比較した。
結果を
図4に示す。
【0056】
コントロールでは、4割の苗が脱落していたのに対し、スラグ混合率0質量%、10質量%、20質量%、30質量%の各マウンドでは、アマモ苗の脱落は殆どなく、脱落個体は2割に止まっていた。また、スラグ混合率50質量%のマウンドでは、7割が枯死していた。
また、マウンド付近のpHは、全条件で8.2前後となり、製鋼スラグを混合したことによるpHの上昇は全く認められなかった。
【0057】
計測項目である葉幅、葉数、草丈、葉身全てにおいて、スラグ混合率0〜20質量%の各マウンドは、コントロールを上回っており、スラグ混合土30質量%のマウンドはコントロールとほぼ同程度という傾向が見られた。スラグ混合率50質量%のマウンドでは、移植後殆ど生長が認められず、全ての計測項目でコントロールを下回った。スラグ混合率0〜30質量%の各マウンドでコントロール以上もしくは同様にアマモ苗が生長したことから、浚渫土砂からの栄養塩類の溶出がアマモの生長に大きく影響していることが判明した。
【0058】
さらに、57日目の各マウンドの硬度は、表3のようになり、実施例1の実験室内における検討と同様であった。これらの結果とアマモ種子の発芽率を考慮すると、アマモに適した硬度は20〜500kPaであり、製鋼スラグの混合率は10〜30質量%であることが判明した。
なお、スラグ混合率0質量%(浚渫土単独)のマウンドでは、アマモ苗の生長は良好であったが、マウンドの一部が流失しており、長期的には、盤石なアマモ場造成は困難であると判断した。
【0059】
【表3】