特許第6048103号(P6048103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048103
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20161212BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20161212BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01L29/78 658G
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 652L
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-270015(P2012-270015)
(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-116483(P2014-116483A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100148448
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 務
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【審査官】 綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−078604(JP,A)
【文献】 特開2004−356577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336−338
H01L 29/12
H01L 29/78−812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の製造方法であって、
基板上に、第1のN型半導体層と、P型半導体層と、第2のN型半導体層と、を前記基板側から順に積層した構造に対して、
(A) 前記P型半導体層に電極を形成するために前記P型半導体層の一部を前記第2のN型半導体層側に露出させる工程と、
(B) 前記工程(A)の後に、前記工程(A)によって露出した前記P型半導体層の一部をアライメントマークとして用いて位置合わせを行って、前記第2のN型半導体層の表面から前記第1のN型半導体層まで達するゲート電極用トレンチを形成する工程と、
(D)前記工程(B)の後に、露出した前記P型半導体層に電極を形成する工程と、を備える、半導体素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体素子の製造方法であって、
(C) 前記半導体素子を区画するために前記第1のN型半導体層の一部を前記第2のN型半導体層側に露出させる工程、をさらに備え、
前記工程(C)は、前記工程(B)以前に行われる、半導体素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の半導体素子の製造方法であって、
前記工程(C)は、前記工程(A)の後に行われる、半導体素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記工程(A)において、前記P型半導体層の一部はドライエッチングによって露出される、半導体素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法であって、
前記第1のN型半導体層と、前記P型半導体層と、前記第2のN型半導体層は、窒化ガリウム系の半導体層である、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法、および半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置(半導体デバイス)を構成する半導体素子として、例えば、NPN型の窒化ガリウム(GaN)系半導体素子が知られている(例えば、特許文献1を参照)。NPN型のGaN系半導体素子には、基板に対して、第1のN型半導体層と、P型半導体層と、第2のN型半導体層とが順に積層されている。第1のN型半導体層、P型半導体層および第2のN型半導体層は、窒化ガリウム(GaN)系の半導体層である。第1のN型半導体層は、ケイ素(Si)をドナー(ドーパント、不純物)として含有する。P型半導体層は、マグネシウム(Mg)をアクセプタ(ドーパント、不純物)として含有する。第2のN型半導体層は、第1のN型半導体層よりも高い濃度でSiをドナーとして含有する。GaN系半導体素子には、例えば、P型半導体層に電極を形成するための窪みと、ゲート電極用のトレンチと、が形成される。P型半導体層に電極を形成するための窪みは、凹状あるいは段差状の形状を有しており、「リセス」とも呼ばれる。通常、これらリセスやトレンチは、複数回のエッチング処理によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−117820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GaN系半導体素子を形成するためのエッチング処理について、例えば、特許文献1に記載の技術では、ゲート電極用トレンチを形成するためのエッチング処理が行われた後に、リセスを形成するためのエッチング処理が行われる。一般的に、GaN系半導体素子では、ゲート電極用トレンチにチャネル領域が隣接する。そのため、特許文献1記載の技術では、ゲート電極用トレンチに隣接するチャネル領域が、リセスを形成するためのエッチング処理によって汚損され、半導体素子のチャネル抵抗が悪化するおそれがあった。そのほか、半導体素子においては、微細化や、低コスト化や、省資源化や、製造の容易化などが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態は、半導体素子の製造方法を提供する。この製造方法は、基板上に、第1のN型半導体層と、P型半導体層と、第2のN型半導体層と、を前記基板側から順に積層した構造に対して;(A)前記P型半導体層に電極を形成するために前記P型半導体層の一部を前記第2のN型半導体層側に露出させる工程と;(B)前記工程(A)の後に、前記工程(A)によって露出した前記P型半導体層の一部をアライメントマークとして用いて位置合わせを行って、前記第2のN型半導体層の表面から前記第1のN型半導体層まで達するゲート電極用トレンチを形成する工程と;(D)前記工程(B)の後に、露出した前記P型半導体層に電極を形成する工程と、を備える。
また、本発明は以下の形態として実現することも可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、半導体素子の製造方法が提供される。この半導体素子の製造方法は、基板上に、第1のN型半導体層と、P型半導体層と、第2のN型半導体層と、を前記基板側から順に積層した構造に対して;(A) 前記P型半導体層に電極を形成するために前記P型半導体層の一部を前記第2のN型半導体層側に露出させる工程と;(B) 前記工程(A)の後に、前記第2のN型半導体層の表面から前記第1のN型半導体層まで達するゲート電極用トレンチを形成する工程と、を備える。この形態の半導体素子の製造方法によれば、P型半導体層の一部を露出させた後に、ゲート電極用トレンチが形成されるので、ゲート電極用トレンチに隣接するチャネル領域が、P型半導体層を露出させる工程(A)に曝されることはない。そのため、チャネル領域に与える汚損等のダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0007】
(2)上記形態の半導体素子の製造方法において、(C) 前記半導体素子を区画するために前記第1のN型半導体層の一部を前記第2のN型半導体層側に露出させる工程、をさらに備え;前記工程(C)は、前記工程(B)以前に行われてもよい。この形態の半導体素子の製造方法によれば、半導体素子を区画するために第1のN型半導体層を露出させる工程を備える場合であっても、第1のN型半導体層の一部を露出させる工程(C)以後に、ゲート電極用トレンチが形成されるので、ゲート電極用トレンチに隣接するチャネル領域が、工程(C)に曝されることはない。そのため、チャネル領域に与えるダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0008】
(3)上記形態の半導体素子の製造方法において、前記工程(C)は、前記工程(A)の後に行われてもよい。この形態の半導体素子の製造方法によれば、工程(A)の後に工程(C)が行われ、さらに工程(C)以後にゲート電極用トレンチが形成される。そのため、ゲート電極用トレンチに隣接するチャネル領域が、工程(A)と工程(C)とに曝されることはない。よって、チャネル領域に与えるダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0009】
(4)上記形態の半導体素子の製造方法において、前記工程(B)では、前記工程(A)によって露出した前記P型半導体層の一部をアライメントマークとして用いて、前記ゲート電極用トレンチの位置合わせが行われてもよい。この形態の製造方法によれば、工程(A)によって露出したP型半導体層の一部を、アライメントマークとして用いてゲート電極用トレンチが形成されるため、別途アライメントマークを形成する必要がない。そのため、半導体素子の製造工程の短縮化と、製造コストの低減とを達成することができる。また、露出したP型半導体層の一部の周辺においてのずれが少なくなるので、露出したP型半導体層の一部の周辺に微細構造を形成することが可能となる。
【0010】
(5)上記形態の半導体素子の製造方法にでは、前記工程(A)において、前記P型半導体層の一部はドライエッチングによって露出されてもよい。この形態の半導体素子の製造方法によれば、ドライエッチングによってP型半導体層の一部を露出させた場合であっても、ゲート電極用トレンチが最後に形成される。そのため、チャネル領域に与えるダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。また、一般的に、ドライエッチングによって半導体層に形成される形状は、ウェットエッチングによって形成される形状よりも、明確である。そのため、ドライエッチングによって露出させたP型半導体層の一部をアライメントマークとする際には、以降の工程において、アライメントマークを容易に読み取ることができる。
【0011】
(6)上記形態の半導体素子の製造方法において、前記第1のN型半導体層と、前記P型半導体層と、前記第2のN型半導体層は、窒化ガリウム系の半導体層であってもよい。この形態の半導体素子の製造方法によれば、電気的特性の向上した窒化ガリウム系の半導体素子を製造することができる。
【0012】
本発明は、上述した半導体素子の製造方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、上述した半導体素子の製造方法によって製造された半導体素子や、複数の半導体素子を備える半導体装置や、複数の半導体素子を備える半導体装置の製造方法や、半導体素子や半導体装置を備える電気機器や、半導体素子や半導体装置を製造する製造装置などの形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の形態の半導体素子の製造方法によれば、P型半導体層の一部を露出させた後に、ゲート電極用トレンチが形成されるので、ゲート電極用トレンチに隣接するチャネル領域が、P型半導体層を露出させる工程(A)に曝されることはない。そのため、チャネル領域に与える汚損等のダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】半導体素子10の構成を模式的に示す断面図である。
図2】半導体素子10の製造方法を示すフローである。
図3】ステップS100からステップS106を行うことによって形成された、製造過程における半導体素子15を示す図である。
図4】リセス220が形成された、製造過程における半導体素子16を示す模式図である。
図5】リセス220とアイソレーション用トレンチ170が形成された、製造過程における半導体素子17を示す模式図である。
図6】リセス220とアイソレーション用トレンチ170とゲート電極用トレンチ250とが形成された、製造過程における半導体素子18を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A1.半導体素子の構成:
図1は、半導体素子10の構成を、模式的に示す断面図である。半導体素子10は、窒化ガリウム(GaN)を用いて形成されたGaN系の半導体素子である。本実施形態では、半導体素子10は、電力制御に用いられ、パワーデバイスとも呼ばれる。図1には、説明を容易にするために、相互に直交するXYZ軸が図示されている。以降の図3〜6についても同様である。
【0016】
半導体素子10は、基板110と、第1のN型半導体層120と、P型半導体層130と、第2のN型半導体層140と、リセス220と、ゲート電極用トレンチ250と、絶縁膜255と、アイソレーション用トレンチ170と、ドレイン電極210と、Pボディ電極230と、ソース電極240と、ゲート電極260と、を備える。半導体素子10は、NPN型の半導体素子であり、第1のN型半導体層120と、P型半導体層130と、第2のN型半導体層140とが順に積層した構造を有する。半導体素子10は、リセス220を中心としたXZ平面に対して対称な構造を有しているが、図1には、半導体素子10の一部を簡略化して示している。
【0017】
半導体素子10の基板110は、X軸およびY軸に沿って広がる板状をなす。基板110はGaN系基板であり、第1のN型半導体層120よりも高い濃度でケイ素(Si)をドナーとして含有する。
【0018】
第1のN型半導体層120は、基板110から+Z方向に積層した状態で形成されている。第1のN型半導体層120は、GaN系の積層体であり、ケイ素(Si)をドナーとして含有する。第1のN型半導体層120は、「n-−GaN」とも呼ばれる。
【0019】
P型半導体層130は、第1のN型半導体層120から+Z方向に積層した状態で形成されている。P型半導体層130は、GaN系の積層体であり、マグネシウム(Mg)をアクセプタとして含有する。P型半導体層130は、「p−GaN」とも呼ばれる。
【0020】
第2のN型半導体層140は、P型半導体層130から+Z方向に積層した状態で形成されている。第2のN型半導体層140は、GaN系の積層体であり、第1のN型半導体層120よりも高い濃度でケイ素(Si)をドナーとして含有する。第2のN型半導体層140は、「n+−GaN」とも呼ばれる。
【0021】
リセス220は、Pボディ電極230を形成するための、第2のN型半導体層140の表面からP型半導体層130に到達する凹部である。アイソレーション用トレンチ170は、半導体素子10を他の半導体素子が形成された領域から分離するための、第2のN型半導体層140の表面から第1のN型半導体層120に到達する凹部である。ゲート電極用トレンチ250は、ゲート電極260を形成するための、第2のN型半導体層140の表面から第1のN型半導体層120に到達する凹部である。
【0022】
なお、リセス220の形状は、P型半導体層130が第2のN型半導体層140側に露出していれば、例えば段差状の形状やV字型の形状等の他の形状であってもよい。また、ゲート電極用トレンチ250の形状は、第2のN型半導体層140の表面から第1のN型半導体層120に到達していれば、例えばV字型の形状等他の形状であってもよい。同様にアイソレーション用トレンチ170の形状は、第1のN型半導体層120が第2のN型半導体層140側に露出していれば、例えば段差状の形状やV字型の形状等の他の形状であってもよい。また、アイソレーション用トレンチ170は、例えば、半導体素子10があらかじめ他の半導体素子と分離されていたり、イオン注入等の他の方法によって半導体素子10が他の半導体素子から分離されるのであれば、必ずしも半導体素子10に形成されていなくともよい。
【0023】
Pボディ電極230は、P型半導体層130にオーミック接触するように、リセス220に形成された電極である。本実施形態では、Pボディ電極230は、ニッケル(Ni)からなる層に金(Au)からなる層を積層した構造を有する。他の実施形態では、Pボディ電極230は、NiおよびAuの他、白金(Pt)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)等の導電性材料の少なくとも1つを含む電極であってもよい。
【0024】
絶縁膜255は、ゲート電極用トレンチ250の底面tgと壁面hgとゲート電極用トレンチ250周縁の第2のN型半導体層140の表面に、一体的に形成された絶縁膜である。本実施形態では、絶縁膜255は、酸化シリコン(SiO2)からなる膜である。他の実施形態では、絶縁膜255は、アルミニウム(Al)のシリケート化合物からなる層であってもよいし、アルミニウム(Al)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等の各酸化物、または各酸窒化物、例えば窒化シリコン(SiN)等の窒化物であってもよい。または、これらのシリケート化合物からなる膜であってもよい。または、これらの材料からなる複層膜であってもよく、例えば、ZrO2/SiO2や、Al23/SiO2等であってもよい。
【0025】
ゲート電極260は、絶縁膜255を介して、ゲート電極用トレンチ250の底面tgと壁面hgとゲート電極用トレンチ250周縁を一体的に覆うように形成された電極である。本実施形態では、ゲート電極260は、アルミニウム(Al)からなる構造を有する。他の実施形態では、ゲート電極260は、Alの他、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、金(Au)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、ポリシリコン等の導電性材料の少なくとも1つを含む電極であってもよい。
【0026】
ソース電極240は、第2のN型半導体層140の表面に形成された電極である。本実施形態では、ソース電極240は、チタン(Ti)からなる層にアルミニウム(Al)からなる層を積層した構造を有する。他の実施形態では、ソース電極240は、Tiの代わりに、例えば、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)を用いてもよい。
【0027】
ドレイン電極210は、基板110の第1のN型半導体層120が積層されている面の反対側の面(以降、基板裏面s3ともいう)に形成された電極である。本実施形態では、ドレイン電極210は、チタン(Ti)からなる層にアルミニウム(Al)からなる層を積層した構造を有する。他の実施形態では、ドレイン電極210は、Tiの代わりに、例えば、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)を用いてもよい。
【0028】
上述のように構成された半導体素子10においては、P型半導体層130におけるゲート電極用トレンチ250の壁面hg付近の領域が、チャネル領域310となる。本実施形態の半導体素子10は後述の製造方法により製造されているので、リセス220付近が微細化されているとともに、チャネル領域310は良好なチャネル抵抗を有する。そのため、本実施形態の半導体素子10は、良好な電気的特性を有する。
【0029】
A2.半導体素子の製造方法
図2は、半導体素子10の製造方法を示すフローである。半導体素子10を製造する際には、まず、用意した基板110をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置の反応室に配置する(ステップS100)。
【0030】
次に、MOCVD法により、基板110上に第1のN型半導体層120を形成する(ステップS102)。本実施形態では、第1のN型半導体層120の形成には、Ga原子の原料ガスであるトリメチルガリウム(TMGa:Tri-Methyl-Gallium)と、窒素原子の原料ガスであるアンモニア(NH3)と、ドーパント用ガスであるシラン(SiH4)とを混合したガスを用いる。また、本実施形態においてMOCVD法による半導体層の形成に用いられるキャリアガスは、水素および窒素ガスである。
【0031】
基板110上に第1のN型半導体層120を形成すると(ステップS102)、MOCVD法により、第1のN型半導体層120上にP型半導体層130を形成する(ステップS104)。ステップS104では、ステップS102で用いた原料ガスと、ドーパント用ガスであるシクロペンタンジエチルマグネシウム(CP2Mg)との混合ガスを用いる。
【0032】
第1のN型半導体層120上にP型半導体層130を形成すると(ステップS104)、MOCVD法により、P型半導体層130上に第2のN型半導体層140を形成する(ステップS106)。ステップS106では、ステップS102で用いた原料ガスと、ドーパント用ガスであるシラン(SiH4)との混合ガスを用いる。また、第2のN型半導体層140におけるSiの濃度が、第1のN型半導体層120よりも高くなるようにシランの濃度(流量)を調整する。
【0033】
図3は、上述のステップS100からステップS106を行うことによって形成された、製造過程における半導体素子15を示す図である。半導体素子15は、次の工程のために、MOCVD装置から取り出される。
【0034】
次に、ステップS100からステップS106の工程を経た、製造過程における半導体素子15に対して、リセス220をドライエッチングによって形成する(ステップS108)。具体的には、半導体素子15のリセス220を形成すべき所定の領域に、SiO2をマスクとするパターンを形成する。その後、プラズマエッチングにより半導体素子15の表面からP型半導体層130に到達するまで、所定の深さをプラズマエッチングする。エッチング後、SiO2マスクを酸洗浄等により除去することによって、リセス220が形成される。リセス220を形成する工程は、本願の「工程(A)」に相当する。
【0035】
図4は、リセス220が形成された、製造過程における半導体素子16を示す模式図である。図4に示すように、リセス220の深さは、半導体素子16の表面からP型半導体層130まで到達する深さである。
【0036】
次に、リセス220が形成された、製造過程における半導体素子16に対して、アイソレーション用トレンチ170をドライエッチングによって形成する(ステップS110)。アイソレーション用トレンチ170は、リセス220をアライメントマークとして、XY平面においてリセス220からあらかじめ定めた間隔だけ離れた領域に、形成される。アイソレーション用トレンチ170の形成は、ステップS108においてリセス220を形成したときと同様に、SiO2をマスクとするパターンを形成し、プラズマエッチングを行った後、SiO2マスクを除去することによって行われる。アイソレーション用トレンチ170を形成する工程は、本願の「工程(C)」に相当する。
【0037】
図5は、リセス220とアイソレーション用トレンチ170が形成された、製造過程における半導体素子17を示す模式図である。図5に示すように、アイソレーション用トレンチ170の深さは、半導体素子17の表面から第1のN型半導体層120まで到達する深さである。
【0038】
次に、アイソレーション用トレンチ170が形成された、製造過程における半導体素子17に対して、ゲート電極用トレンチ250をドライエッチングによって形成する(ステップS112)。ゲート電極用トレンチ250は、リセス220をアライメントマークとして、XY平面において、リセス220とアイソレーション用トレンチ170との間に形成される。ゲート電極用トレンチ250の形成もまた、ステップS108においてリセス220を形成したときや、ステップS110においてアイソレーション用トレンチ170を形成したときと同様に、SiO2をマスクとするパターンを形成し、プラズマエッチングを行った後、SiO2マスクを除去することによって行われる。ゲート電極用トレンチ250を形成する工程は、本願の「工程(B)」に相当する。
【0039】
図6は、リセス220とアイソレーション用トレンチ170とゲート電極用トレンチ250とが形成された、製造過程における半導体素子18を示す模式図である。図6に示すように、ゲート電極用トレンチ250の深さは、半導体素子18の表面から第1のN型半導体層120まで到達する深さである。
【0040】
ゲート電極用トレンチ250を形成すると、次に、ドレイン電極210と、Pボディ電極230と、ソース電極240と、ゲート電極260と(以下、これらをまとめて単に電極ともいう)を形成する(ステップS114)。ステップS114では、まず、ゲート電極用トレンチ250の底面tgと壁面hgとゲート電極用トレンチ250の周縁とを一体的に覆うようにして絶縁膜255を形成した後、電極を形成する。具体的には、リセス220の表面の絶縁膜255に覆われていない箇所には、P型半導体層130とオーミック接触するように、Pボディ電極230を形成する。また、第2のN型半導体層140の表面の絶縁膜255に覆われていない箇所には、第2のN型半導体層140とオーミック接触するように、ソース電極240を形成する。ゲート電極用トレンチ250の絶縁膜255に覆われている箇所には、ゲート電極260を形成する。基板裏面s3には、ドレイン電極210を形成する。電極の形成は、蒸着や、スッパッタリングによって行うことができる。以上のようにして、図1に示した半導体素子10が完成する。
【0041】
以上のような半導体素子10の製造方法であれば、リセス220と、アイソレーション用トレンチ170とが形成された後に、ゲート電極用トレンチ250が形成される。半導体層等にリセス220やアイソレーション用トレンチ170やゲート電極用トレンチ250を形成する際には、SiO2をマスクとするパターン形成や、ドライエッチングや、その後のSiO2マスクの除去等によって、例えばゲート電極用トレンチ250の底面tgおよび壁面hgは、SiO2マスクの残渣による汚染や表面あれ等のダメージを受ける場合がある。特に、P型半導体層130における壁面hg付近には、図1に示すようにチャネル領域310が存在するため、このようなダメージは、チャネル抵抗の悪化の要因となる。
【0042】
しかし、本実施形態の製造方法であれば、リセス220と、ゲート電極用トレンチ250と、アイソレーション用トレンチ170とのうち、ゲート電極用トレンチ250が最後に形成される。そのため、チャネル領域310部分は、リセス220やアイソレーション用トレンチ170を形成する際のSiO2をマスクとするパターン形成やドライエッチングやSiO2マスクの除去を行う工程(図2:ステップS108,ステップS110)に曝されることはない。よって、チャネル領域310部分に与えるダメージを減少させることができるので、チャネル抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0043】
一般的に、半導体素子10を製造する際には、半導体層の所定の位置にアライメントマークが形成される。そして、例えばゲート電極用トレンチ250や電極が、半導体層の所望の位置に形成されるように、アライメントマークを基準としてアライメント(位置合わせ)を行い、SiO2をマスクとするパターンを形成してエッチングをしたり、蒸着を行う。しかし、本実施形態の半導体素子10の製造においては、上述のように、リセス220をアライメントマークとして、アイソレーション用トレンチ170や、ゲート電極用トレンチ250を形成するので、別途アライメントマークを形成する必要がない。そのため、半導体素子の製造工程の短縮化と、製造コストの低減とを達成することができる。さらに、リセス220は、ドライエッチングによって形成される。一般的に、ドライエッチングによって形成される形状は、ウェットエッチングによって形成される形状よりも明確である。そのため、本実施形態の製造方法であれば、リセス220を形成した以降の工程において、アライメントマークを容易に読み取ることができる。
【0044】
また、例えばゲート電極用トレンチ250や電極は、アライメントに用いられるアライメント装置の精度等に起因して、所望の位置からずれて形成される。しかし、本実施形態の半導体素子10は、リセス220をアライメントマークとするため、リセス220周辺のずれが小さくなる。そのため、本実施形態で半導体素子10を製造すれば、リセス220付近周辺の微細化を達成することが可能となる。
【0045】
B.変形例:
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0046】
B1.変形例1:
上述の実施形態では、アイソレーション用トレンチ170を形成した後にゲート電極用トレンチ250を形成している。しかし、ゲート電極用トレンチ250は、例えば、ゲート電極用トレンチ250とアイソレーション用トレンチ170の深さが同じであれば、同時に形成されてもよい。また、ゲート電極用トレンチ250とアイソレーション用トレンチ170の深さが同じでなくとも、アイソレーション用トレンチ170は、あらかじめアイソレーション用トレンチ170を形成する箇所を一定の深さまでエッチングして、その後、エッチングされた箇所を、ゲート電極用トレンチ250の形成と同時にさらにエッチングすることによって、形成されてもよい。また、アイソレーション用トレンチ170は、リセス220よりも先に形成されてもよい。すなわち、ゲート電極用トレンチ250が、リセス220と、アイソレーション用トレンチ170と、ゲート電極用トレンチ250とを形成する工程の中で、最後に形成されれば、チャネル領域310の抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0047】
B2.変形例2:
上述の実施形態では、半導体素子10は、リセス220を中心としたXZ平面に対して対称な構造を有している。これに対し、半導体素子10は、XZ平面に対して略対称な構造であってもよく、非対称な構造であってもよい。また、上述の実施形態では、半導体素子10は、リセス220が形成された位置とアイソレーション用トレンチ170が形成された位置との間の位置に、ゲート電極用トレンチ250が形成された構造を有している。これに対し、半導体素子10は、ゲート電極用トレンチ250が形成された位置とアイソレーション用トレンチ170が形成された位置との間の位置に、リセス220が形成された構造を有していてもよい。すなわち、リセス220が形成される位置とゲート電極用トレンチ250が形成される位置とは、入れ換えられてもよい。本願の製造方法によって製造された半導体装置であれば、リセス220の形成される位置とゲート電極用トレンチの形成される位置とによらず、上述の実施形態と同様の効果を奏する。
【0048】
B3.変形例3:
上述の実施形態では、ドレイン電極210は、基板裏面s3に形成されている。これに対し、ドレイン電極210は、アイソレーション用トレンチ170の底面tiに形成されてもよい。
【0049】
B4.変形例4:
上述の実施形態では、リセス220の形成後にアイソレーション用トレンチ170を形成し、アイソレーション用トレンチ170の形成後にゲート電極用トレンチ250を形成している。これに対し、リセス220とアイソレーション用トレンチ170とゲート電極用トレンチ250のそれぞれの形成後に、ドライエッチングによって受けたダメージを回復するために、ウェットエッチングを行うこととしてもよい。また、ウェットエッチングは、ゲート電極用トレンチ250の形成後にのみ行うこととしてもよい。こうすることで、チャネル領域310の抵抗をさらに低減することができる。
【0050】
B5.変形例5:
上述の実施形態では、半導体素子10の基板110には、MOCVD装置を用いた結晶成長によって、第1のN型半導体層120と、P型半導体層130と、第2のN型半導体層140とが順に積層した状態で形成されている。これに対し、第1のN型半導体層120とP型半導体層130との間に真性半導体層が形成されてもよい。また、基板110として、Si基板や、SiC基板を用いてもよい。また、ドレイン電極210を、アイソレーション用トレンチ170の底面tiに形成する場合には、基板110として、サファイア基板を用いてもよい。また、PNP型の半導体素子に、ゲート電極用トレンチを最後に形成することとして、上述の実施形態の半導体素子10の製造方法を適用してもよい。
【0051】
B6.変形例6:
上述の実施形態では、GaN系の半導体素子10について示している。これに対し、半導体素子10は、窒化アルミニウム(AlN)や、窒化インジウム(InN)や、炭化ケイ素(SiC)や、窒化ホウ素(BN、ボロンナイトライド)や、Si等の他の材料系の半導体素子であってもよい。また、上述の実施形態では、GaN系の半導体素子15に対して、リセス220と、アイソレーション用トレンチ170と、ゲート電極用トレンチ250とがドライエッチングによって形成されている。これに対し、半導体素子10が、例えば、Si系の半導体素子である場合には、リセス220と、アイソレーション用トレンチ170と、ゲート電極用トレンチ250とはウェットエッチングによって形成されてもよい。
【0052】
B7.変形例7:
上述の実施形態では、リセス220を形成する工程(図2:ステップS108)と、アイソレーション用トレンチ170を形成する工程(図2:ステップS110)と、ゲート電極用トレンチ250を形成する工程(図2:ステップS112)とにおいては、マスクとして、SiO2マスクが用いられている。これに対し、マスクとして、フォトレジストを用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…半導体素子
15、16、17、18…製造過程における半導体素子
110…基板
120…第1のN型半導体層
130…P型半導体層
140…第2のN型半導体層
170…アイソレーション用トレンチ
210…ドレイン電極
220…リセス
230…Pボディ電極
240…ソース電極
250…ゲート電極用トレンチ
255…絶縁膜
260…ゲート電極
310…チャネル領域
s3…基板裏面
hg…ゲート電極用トレンチ壁面
tg…ゲート電極用トレンチ底面
ti…アイソレーション用トレンチ底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6