特許第6048116号(P6048116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048116内燃機関のピストンの製造方法、及び内燃機関のピストンの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048116
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】内燃機関のピストンの製造方法、及び内燃機関のピストンの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/04 20060101AFI20161212BHJP
   B22C 9/24 20060101ALI20161212BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20161212BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B22D27/04 G
   B22C9/24 A
   B22C9/06 B
   F02F3/00 G
   F02F3/00 J
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-276666(P2012-276666)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-117744(P2014-117744A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 建興
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−108849(JP,A)
【文献】 特開昭61−078548(JP,A)
【文献】 特開2004−255430(JP,A)
【文献】 特開昭61−215860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 27/00−27/20,15/00−15/04,
B22C 9/00,9/06,
F02F 3/00−3/28,
F16J 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンの製造方法において、
ピストンの燃焼室の口元部以外を形成するピストン形成部と、該ピストン形成部の構成部材よりも高い熱伝導率を有する微細化促進部材で一部又は全部が形成された、前記口元部を形成する口元形成部とから構成される金型に、溶湯金属を流し込んでから、第1冷却装置により前記ピストン形成部を冷却すると共に第2冷却装置により前記口元形成部を冷却するまでの間に、
前記第1冷却装置により、前記ピストン形成部を前記溶湯金属が凝固せずにその溶湯金属を前記ピストン形成部の細部まで充填可能な第1温度に保つと共に、前記第2冷却装置により、前記口元形成部を、その第1温度よりも低い鋳造組織を微細化可能な第2温度に保つことを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【請求項2】
内燃機関のピストンの製造方法において、
ピストンの燃焼室の口元部以外を形成するピストン形成部と、該ピストン形成部の構成部材よりも高い熱伝導率を有する微細化促進部材で一部又は全部が形成された、前記口元部を形成する口元形成部とから構成される金型を用いて、前記ピストンを製造する際に、
前記口元形成部を冷却する第2冷却装置により、前記口元形成部を第2温度に保った後に、
前記ピストン形成部を冷却する第1冷却装置により、前記ピストン形成部を前記第2温度よりも高い第1温度に保つことを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【請求項3】
内燃機関のピストンの製造装置において、
ピストンの燃焼室の口元部以外を形成するピストン形成部と、該ピストン形成部の構成部材よりも高い熱伝導率を有する微細化促進部材で一部又は全部が形成された、前記口元部を形成する口元形成部とから構成される金型と、前記ピストン形成部を冷却する第1冷却装置と、前記口元形成部を冷却する第2冷却装置と、前記ピストン形成部の温度を測定する第1温度センサと、前記口元形成部の温度を測定する第2温度センサと、前記第1冷却装置、前記第2冷却装置、前記第1温度センサ、及び前記第2温度センサのそれぞれに接続された制御装置と、を備え、
前記制御装置が、前記第1温度センサの測定した温度に基づいて、前記第1冷却装置により第1温度に保つと共に、前記第2温度センサの測定した温度に基づいて、前記第2冷
却装置により前記口元形成部をその第1温度よりも低い第2温度に保つことを特徴とする内燃機関のピストンの製造装置。
【請求項4】
前記制御装置が、前記第2温度センサの測定した温度に基づいて、前記第2冷却装置により前記口元形成部を前記第2温度に保った後に、前記第1温度センサの測定した温度に基づいて、前記第1冷却装置により前記ピストン形成部を前記第1温度に保つことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関のピストンの製造装置。
【請求項5】
前記金型の前記ピストン形成部と前記口元形成部との間に、前記ピストン形成部と前記口元形成部との間の伝熱を抑制する断熱部材を介設することを特徴とする請求項3又は4に記載の内燃機関のピストンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンを、金型に流し込まれた溶湯金属を冷却して、凝固させて製造する内燃機関のピストンの製造方法、内燃機関のピストンの製造装置、及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排ガス規制、燃費向上、及び高出力化といった要求を満たすため、エンジン(内燃機関)のピストンは、高強度化と耐熱性の向上が図られている。
【0003】
そこで、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニア)、Fe(鉄)、及びMn(マンガン)の添加により、高温強度を高め、ピストンの頂面部に必要な350℃付近の高温疲労強度を高めると共に、凝固様式をα−Al相が指向性凝固する過共晶凝固にすることにより、気孔の発生を防止しているピストンの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アルミニウム−珪素合金の鋳鍛造により得た内燃機関用ピストンの表面に、前記ピストンを構成する合金中に拡散浸透することにより該合金の強度を向上させる強化元素を含む粒径20〜400μmの噴射粉体を、噴射速度80m/s以上、又は噴射圧力0.
3MPa以上で噴射して衝突させ、ピストン表面に、前記合金元素と前記噴射粉体中の強化元素を含む、金属組織が均質、微細化された改質層を形成するピストンの表面改質方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、レーザー照射で燃焼室の口元部をリメルトして組織の微細化により強度を向上させる方法も提案されている。しかしながら、それらの方法は、どれも製造コストが高い、あるいは製造工程が複雑化するという問題がある。また、レーザー照射を用いた方法は、リメルト後の再凝固時に新たな巣が発生する可能性が生じるので、強度を安定的に向上させることが難しいという問題もある。
【0006】
そこで、製造コストをより安くするために、鋳造後、金型を冷やすタイミングを早くしたり、又は冷却水の流量を多くしたりして、冷却性能を向上させる方法も提案されている。しかし、金型に炭素鋼などの特殊鋼で形成された金型を使用するため、その金型は熱伝導率が悪く、冷却水で冷却しても、その冷却効率が良くなかった。よって、いずれの方法も鋳造組織の更なる微細化は難しい。
【0007】
一方、溶湯金属の細部までの充填性を確保するため、金型の温度を200℃以上に保つ必要があり、金型そのものに熱がこもることになる。よって、溶湯金属の細部までの充填性を確保すると鋳造組織の微細化はより難しくなる。
【0008】
また、ディーゼルエンジンのような大型エンジンでは、ピストンの直径が大きく、鋳造組織の微細化が更に難しくなる。さらに、生産現場では、連続にピストンを鋳造するため、熱伝導率の悪い特殊鋼の金型を使用する場合に、冷却しても金型の温度は中々下がらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−249840号公報
【特許文献2】特開2008−051091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、ピストンの口元部の鋳造組織を微細化することにより、その他の部分の溶湯金属の細部への充填性や、ピストン全体の凝固性を悪化させずに、ピストンの口元部における耐熱性と強度の両方を向上させることができる内燃機関のピストンの製造方法、及び内燃機関のピストンの製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関のピストンの製造方法は、内燃機関のピストンの製造方法において、ピストンの燃焼室の口元部以外を形成するピストン形成部と、該ピストン形成部の構成部材よりも高い熱伝導率を有する微細化促進部材で一部又は全部が形成された、前記口元部を形成する口元形成部とから構成される金型に、溶湯金属を流し込んでから、第1冷却装置により前記ピストン形成部を冷却すると共に第2冷却装置により前記口元形成部を冷却するまでの間に、前記第1冷却装置により、前記ピストン形成部を前記溶湯金属が凝固せずにその溶湯金属を前記ピストン形成部の細部まで充填可能な第1温度に保つと共に、前記第2冷却装置により、前記口元形成部を、その第1温度よりも低い鋳造組織を微細化可能な第2温度に保つことを特徴とする方法である。
【0012】
この方法によれば、金型の口元形成部での溶湯金属の冷却速度をピストン形成部での溶湯金属の冷却速度よりも速くすることで、主にピストンの燃焼室の口元部の鋳造組織を微細化し、ピストン形成部の溶湯金属の細部への充填性や、ピストン全体の凝固性を悪化させずに、口元部における耐熱性と強度の両方を向上させることができる。
【0013】
なお、ここでいう口元部とは、燃焼室に燃料が噴射されて、燃焼したときに、350℃以上の高温に曝されるため、ピストンの部位の中でも強度や耐熱性を向上する必要がある部分であり、ピストンの頂面に凹設された燃焼室の口元の部分、つまり燃焼室の開口の周縁部のことである。この口元部と口元形成部の形状は燃焼室の形状により様々な形状に形成される。また、微細化促進部材とは、金型の構成部材よりも高い熱伝導率を有するものであり、例えば、構成部材が炭素鋼の場合には、銅又は銅合金などを用いる。
【0014】
また、上記の内燃機関のピストンの製造方法において、前記金型の前記ピストン形成部と前記口元形成部との間に介設した断熱部材により、前記ピストン形成部と前記口元形成部との間の伝熱を抑制すると、ピストン形成部から口元形成部への伝熱を阻害することができ、確実に口元形成部に接触している口元部を冷却し、口元部の微細化を促進することができる。この断熱部材は、セラミックスの多孔質体、またはセラミックス繊維で形成すると、断熱性に加えて、耐熱性と強度も高いためよい。
【0015】
加えて、上記の目的を解決するための本発明の内燃機関のピストンの製造装置は、内燃機関のピストンの製造装置において、ピストンの燃焼室の口元部以外を形成するピストン形成部と、該ピストン形成部の構成部材よりも高い熱伝導率を有する微細化促進部材で一部又は全部が形成された、前記口元部を形成する口元形成部とから構成される金型と、前記ピストン形成部を冷却する第1冷却装置と、前記口元形成部を冷却する第2冷却装置と、前記ピストン形成部の温度を測定する第1温度センサと、前記口元形成部の温度を測定する第2温度センサと、前記第1冷却装置、前記第2冷却装置、前記第1温度センサ、及び前記第2温度センサのそれぞれに接続された制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記第1温度センサの測定した温度に基づいて、前記第1冷却装置により第1温度に保つと共に、前記第2温度センサの測定した温度に基づいて、前記第2冷却装置により前記口元形成部をその第1温度よりも低い第2温度に保つことを特徴とするものである。
【0016】
この製造装置によれば、口元形成部での溶湯金属の冷却速度をピストン形成部よりも速くすることで、溶湯金属の細部への充填性や、ピストン全体の凝固性を悪化させずに、ピストンの口元部における耐熱性と強度の両方を向上させることができる。
【0017】
さらに、上記の内燃機関のピストンの製造装置において、前記金型の前記ピストン形成部と前記口元形成部との間に、前記ピストン形成部と前記口元形成部との間の伝熱を抑制する断熱部材を介設すると、確実に口元部を他よりも急速に冷却することができるため好ましい。
【0018】
上記に記載の内燃機関のピストンの製造方法で鋳造されたピストンを備えた内燃機関は、ピストンの燃焼室の口元部の鋳造組織が微細化されたことにより、ピストンがより高い燃焼温度と圧力に耐えることができるので、内燃機関の排ガス規制、高出力化、及び燃費向上を図ることができる。特に、直径が大きいピストンの口元部でも微細化することができるので、ディーゼルエンジンなどの大型内燃機関に好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ピストンの口元部の鋳造組織を微細化することにより、その他の部分の溶湯金属の細部への充填性や、ピストン全体の凝固性を悪化させずに、ピストンの口元部における耐熱性と強度の両方を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のピストンの製造装置の構成を示す断面図である。
図2図1の製造装置により鋳造されたピストンを示す図であり、(a)はそのピストンを備える内燃機関の一部を示す断面図であり、(b)はピストンを示す斜視図である。
図3図1の製造装置の金型を示す底面図である。
図4】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関のピストンの製造装置の構成を示す断面図である。
図5図4の製造装置の金型を示す底面図である。
図6】本発明に係る第3の実施の形態の内燃機関のピストンの製造装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関のピストンの製造方法、及び内燃機関のピストンの製造装置について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
以下の実施の形態では、内燃機関のピストンとして、アルミニウム、又はアルミニウム合金で形成されたディーゼルエンジンのピストンを例に説明するが、本発明は、ガソリンエンジンにも適用することができ、金型鋳造法により製造されるピストンであれば、その材質は限定しない。
【0023】
加えて、その金型鋳造法に関しては、重力鋳造法、ダイカスト法、低圧鋳造法、及び高圧鋳造法(スクイズキャスト法)などは限定しない。さらに、この製造方法は、ピストンの燃焼室が上向きの鋳造方法と下向きの鋳造方法の両方に適用可能である。なお、図面に関しては、構成が分かり易いように寸法を変化させており、各部材、各部品の板厚や幅や長さなどの比率も必ずしも実際に製造するものの比率とは一致させていない。
【0024】
まず、本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関のピストンの製造装置について、図1図3を参照しながら説明する。図1に示す製造装置10は、図2の(a)及び(b)に示すピストン1の金型11を備え、図1に示すように、金型11が、ピストン1の燃焼室5aの口元部7以外を形成するピストン形成部12と、ピストン形成部12を構成する炭素鋼(構成部材)よりも高い熱伝導率を有する銅又は銅合金(微細化促進部材)で一部又
は全部が形成され、口元部7を形成する口元形成部13とを備えて構成される。
【0025】
また、口元形成部13での溶湯アルミニウム又は溶湯アルミニウム合金(以下、溶湯アルミニウムに統一して記載する)M1の冷却速度を、ピストン形成部12での溶湯アルミニウムの冷却速度よりも速くして、口元部7の鋳造組織を微細化する微細化促進手段14を備えて構成される。
【0026】
この実施の形態では、この微細化促進手段14として、ピストン形成部12を冷却する第1冷却装置15と、口元形成部13を急速に冷却する第2冷却装置16とを備えると共に、ピストン形成部12の温度を測定する第1温度センサS1と、口元形成部13の温度を測定する第2温度センサS2とに接続され、第1冷却装置15と第2冷却装置16を制御する制御装置17を備えて構成される。
【0027】
上記の金型11で鋳造されるピストン1は、アルミニウム、又はアルミニウム合金で形成されるピストンである。このピストン1は、図2の(a)に示すように、エンジン(内燃機関)2のシリンダブロック3のシリンダ3a内を摺動し、その頂面4に燃焼室5aが凹設されている。その燃焼室5aは、シリンダヘッド6のインジェクタ(燃料噴射弁)6a、吸気バルブ6b、及び排気バルブ6cなどで囲まれた燃焼室5bと共に、インジェクタ6aから噴射される燃料が燃焼する燃焼室5を形成している。そのピストン1の頂面4に凹設された燃焼室5aの開口の周縁部に口元部7を備える。また、図2の(b)に示すように、燃焼室5aに設けられた突起部8と、ピストン1の外周に設けられ、ピストンリングを嵌合する溝9とを備える。
【0028】
この実施の形態では、ペントルーフ型の燃焼室5を例に説明するが、本発明は、半球型、バスタブ型、櫛型、及び多球型などの様々な形状にも適用することができる。また、この実施の形態では、燃焼室5aの底面と側面とが略垂直に形成されたトロイダル型を用いたが、本発明は、底面と側面とが垂直ではなく、口元部7が内側に窄められたリエントラント型にも適用することができる。
【0029】
ここでいう口元部7とは、ピストン1の燃焼室5に燃料が噴射されて、燃焼したときに、350℃以上の高温に曝され、ピストン1の部位の中でも強度や耐熱性を向上する必要がある部分であり、ピストン1の頂面4に凹設された燃焼室5aの口元の部分、つまり燃焼室5aの開口の周縁部のことである。
【0030】
上記のピストン1を鋳造する金型11は、図1に示すように、その口元部7以外を形成するピストン形成部12と、口元部7を形成する口元形成部13とを別々に備える。この金型11は、燃焼室5aが下向きの状態で鋳造するものであり、図示しないが、ピストン1のスカート部などを形成する部位なども有する。
【0031】
ピストン形成部12は、炭素鋼などの特殊鋼で、ピストン1の形状に合わせて形成される。この実施の形態では、燃焼室5aや溝9は鋳造後に切削などにより形成されるため、ピストン形成部12はそれらを形成する部位を備えないが、燃焼室5aや溝9を鋳造時に形成してもよい。
【0032】
口元形成部13は、金型11で口元部7に最も接近している部分であり、炭素鋼などの特殊鋼よりも高い熱伝導率を有する銅又は銅合金で口元部7の形状に合わせて形成されている。この実施の形態では、燃焼室5aの口元部7の形状からリング状(環状)の銅板に形成されているが、本発明はこの形状に限定せず、口元部7に合せて様々な形状に形成することができる。
【0033】
また、リング状の銅板の幅を制御することにより、銅板に接触しているアルミ合金の冷却速度及び冷却効果を発揮できる領域(大きさ)を制御することができ、確実に口元部7
の鋳造組織の微細化を図ることができる。
【0034】
なお、ピストン形成部12を形成する部材と口元形成部13を形成する部材については、上記の構成に限定しないが、金属の中でも熱伝導率が高いため、口元形成部13を形成する部材として銅又は銅合金を用いることが好ましい。
【0035】
この構成によれば、ピストン1の燃焼室5aの口元部7を形成する口元形成部13が、リング状の銅板で構成し、ピストン1の口元部7の冷却速度を、それ以外の部分の冷却速度よりも速くする。アルミニウム又はアルミニウム合金の結晶粒の大きさは冷却速度に依存し、冷却速度が速いほどその粒径は小さくなる。よって、口元部7の冷却速度を速くすることで、口元部7の鋳造組織の微細化が促進され、口元部7の強度と耐熱性の両方を向上することができる。
【0036】
上記のピストン1を備えるエンジン2は、ピストン1の燃焼室5aの口元部7の鋳造組織が微細化により、より高い燃焼温度と圧力でも耐えられるので、排ガス規制、高出力化、及び燃費向上などに貢献できる。特に、本発明は、直径が大きいピストン1でも容易に燃焼室5aの口元部7の強度と耐熱性の両方を向上するので、それを搭載するディーゼルエンジンなどの大型エンジンに好適である。
【0037】
図1に示すように、金型11を備えるピストン1の製造装置10は、周知の技術の構成に加えて、微細化促進手段14を備え、その微細化促進手段14が、ピストン形成部12を冷却する第1冷却装置15と、口元形成部13を急速に冷却する第2冷却装置16とを備えると共に、ピストン形成部12の温度を測定する第1温度センサS1と、口元形成部13の温度を測定する第2温度センサS2とに接続され、第1冷却装置15と第2冷却装置16を制御する制御装置17を備える。
【0038】
第1冷却装置15は、ピストン形成部12の一部、又は全部を第1冷却水W1で冷却するものであり、第2冷却装置16は、口元形成部13の一部、又は全部を第2冷却水W2で冷却するものである。これらは、ピストン形成部12、又は口元形成部13を別々に冷却することができればよく、その構成は限定しない。
【0039】
制御装置17は、口元形成部13での溶湯アルミニウムM1の冷却速度を、ピストン形成部12での溶湯アルミニウムM1の冷却速度よりも速くして、口元部7の鋳造組織を微細化するように、第1冷却装置15と第2冷却装置16とを制御する装置であり、例えば、第1冷却装置15に設けたポンプやバルブ、及び第2冷却装置16に設けたポンプやバルブを制御する装置である。
【0040】
また、制御装置17は、金型11に溶湯アルミニウムM1を注入し、金型11の全体を冷却して凝固するまでの間、ピストン形成部12を、溶湯アルミニウムM1が凝固せずにピストン形成部12の細部まで充填可能な第1温度T1に保つと共に、口元形成部13を第1温度T1よりも低く、溶湯アルミニウムM1が凝固して口元部7の鋳造組織を微細化可能な第2温度T2に保つように、第1冷却装置15と第2冷却装置16とを制御している。
【0041】
例えば、第2冷却装置16を第2冷却水W2が常時通水するように制御して、口元形成部13の温度を第2温度T2に保ち、第1冷却装置15をピストン1全体の凝固を開始するまでは、第1冷却水W1を通水せず、ピストン形成部12の温度を第1温度T1に保つ。
【0042】
この第1温度T1は、溶湯金属をピストン形成部12の細部まで充填可能な温度である
ことが望ましく、例えば、この実施の形態のように溶湯アルミニウムを用いた場合は、200℃以上、500℃以下の範囲に設定される。ピストン形成部12は、特に、溶湯アルミニウムをピストン形成部12の細部まで充填するためには、第1温度T1を200℃以上に保つ必要がある。
【0043】
また、第2温度T2は、第1温度T1よりも低く、ピストン1の口元部7の鋳造組織を微細化可能な温度であり、例えば、この実施の形態のように溶湯アルミニウムを用いた場合は、第2冷却装置16によって、0℃以上、150以下の範囲に設定される。
【0044】
なお、微細化促進手段14は、口元形成部13での溶湯アルミニウムM1の冷却速度を、ピストン形成部12での溶湯アルミニウムM1の冷却速度よりも速くできればよく、上記の構成に限定しないが、容易な制御で、且つ低コストで口元部7の鋳造組織を微細化することができるので、上記の構成が好ましい。
【0045】
次に、ピストン1の製造方法について、説明する。なお、本発明の製造方法は、金型11の冷却に特徴があり、それ以外は、周知の技術の製造方法を用いるため詳細な説明は省略する。
【0046】
予め、制御装置17が第2冷却装置16により口元形成部13を冷却し、口元形成部13を第2温度T2に保つ。この実施の形態では、第2冷却装置16に第2冷却水W2を常時通水し、口元形成部13を常に冷却する方法を用いたが、少なくともピストン形成部12が第1冷却装置15により冷却されるタイミングより早く、口元形成部13を第2冷却装置16で冷却することができればよく、本発明は、常時通水に限定しない。
【0047】
次に、鋳塊(インゴット)を溶解した溶湯アルミニウムを金型11に流し込む。次に、ピストン形成部12の上側部分(図示しない)から、あるいは充填用ピストン(図示しない)から圧力を掛けて、溶湯アルミニウムを金型11に充填していく。このとき、口元形成部13は、第2温度T2に冷却されているが、大面積(ピストン形成部12の総面積)での急冷ではないので、溶湯アルミニウムの細部への充填性(鋳造性)やピストン1そのものの凝固に影響することはない。また、制御装置17がピストン形成部12の温度が第1温度T1以下にならないように第1冷却装置15を制御する。
【0048】
次に、制御装置17が第1冷却装置15と第2冷却装置16の両方に通水させ、ピストン1の全体を冷却し、溶湯アルミニウムM1を凝固していく。次に、凝固した鋳物を金型11から取り出して、燃焼室5aやピストンリングの溝9などを切削加工してピストン1の製造は完了する。
【0049】
上記の方法によれば、ピストン1の口元部7の鋳造組織を、銅又は銅合金で形成された口元形成部13を第2冷却装置16で急速に冷却し、0℃以上、150℃以下の第2温度T2に保つことで、口元部7の冷却速度を、口元部7以外の冷却速度よりも速くして、口元部7の鋳造組織を微細化する。これにより、溶湯アルミニウムM1のピストン形成部12の細部への充填性や、ピストン1全体の凝固性を悪化させずに、ピストン1の口元部7における耐熱性と強度の両方を向上させることができる。
【0050】
また、上記の方法によれば、金型11の燃焼室5aの口元部7を形成する口元形成部13を銅又は銅合金で形成し、その口元形成部13を個別に冷却するだけで、燃焼室5aの口元部7の強度と耐熱性の両方を向上させたピストン1の製造することができ、コストを安くすると共に、製造工程を簡略化し、容易に製造することができる。
【0051】
加えて、連続でピストン1を製造しても、口元形成部13の温度を口元部7の鋳造組織
を微細化可能な第2温度T2に保つことができる。
【0052】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のエンジン2のピストン1の製造装置20について、図4及び図5を参照しながら説明する。この製造装置20は、図1の第1の実施の形態の金型11に替えて金型21を備え、この金型21は、ピストン形成部12と口元形成部13との間に、ピストン形成部12と口元形成部13との間の伝熱を抑制する断熱部材22及び23を介設して構成される。
【0053】
この断熱部材22は、図5に示すように、セラミックスの多孔質体又はセラミックス繊維でリング状(環状)に形成され、ピストン形成部12と口元形成部13の外側との界面に設けられる。また、断熱部材23も同様に、ラミックスの多孔質体又はセラミックス繊維でリング状に形成され、ピストン形成部12と口元形成部13の内側との界面に設けられる。
【0054】
上記の構成によれば、断熱部材22及び23が、ピストン形成部12から口元形成部13への伝熱を阻害し、口元形成部13の冷却効果を上げるので、確実にピストン1の口元部7を急速に冷却することができる。これにより、ピストン1の口元部7における耐熱性と強度の両方をより向上させることができる。
【0055】
次に、本発明に係る第3の実施の形態のエンジン2のピストン1の製造装置30について、図6を参照しながら説明する。この製造装置30に設けられた金型31は、燃焼室5aが上向きの状態で鋳造可能な金型であって、ピストン形成部32にピストン1の燃焼室5aと突起部8を形成する燃焼室形成部33を備えると共に、燃焼室5aの口元部7を形成する口元形成部34を備え、口元形成部34を、ピストン形成部32を形成する炭素鋼よりも熱伝導率の高い銅又は銅金属で形成して構成される。
【0056】
この口元形成部34は、第1の実施の形態と比べると口元部7との接触面が大きいため、より効率よく口元部7を急速に冷却することができるので、口元部7の鋳造組織の微細化を促進することができる。
【0057】
なお、この第3の実施の形態のような燃焼室5aを鋳造時に形成する燃焼室形成部33を、第1の実施の形態や第2の実施の形態の燃焼室5aを下向きの状態で形成する金型に設けてもよい。また、第1〜第3の実施の形態では、ピストン形成部12又は32を冷却する第1冷却装置15を備えたが、この第1冷却装置15は口元形成部13又は34を冷却する第2冷却装置16と異なり、必ずしも必要な構成ではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の内燃機関のピストンの製造方法は、ピストンの口元部の鋳造組織を微細化することにより、その他の部分の溶湯金属の細部への充填性や、ピストン全体の凝固性を悪化させずに、ピストンの口元部における耐熱性と強度の両方を向上させることができるので、特に直径の大きいピストンを備えるディーゼルエンジンなどの大型エンジンを搭載するトラックなどの車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 ピストン
4 頂面
5a 燃焼室
7 口元部
8 突起部
9 溝
10、20、30 製造装置
11、21、31 金型
12、32 ピストン形成部
13、34 口元形成部
14 微細化促進手段
15 第1冷却装置
16 第2冷却装置
17 制御装置
22、23 断熱部材
M1 溶湯アルミニウム(溶湯金属)
S1 第1温度センサ
S2 第2温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6