(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、
前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面上に立設された脚部を備え、
前記可動楔は、該可動楔側の前記各傾斜面を形成する一対の楔体と、前記固定楔に押圧されて後退する前記各楔体の後端部側において該各楔体を接続する接続部と、を備えてなるとともに、
前記接続部は、前記脚部の立設方向に突出するアーチ形状を有すること、
を特徴とする車両ドアの固定装置。
車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、
前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面上に立設された脚部を備えるものであって、
前記固定楔は、前記他方側のパネル表面に固定されたベースブラケットと、該ベースブラケットに固定されることにより前記固定楔側の各傾斜面を形成する独立した一対の楔体と、を備えてなり、
前記可動楔は、該可動楔側の前記各傾斜面を形成する一対の楔体と、前記固定楔に押圧されて後退する前記各楔体の後端部側において該各楔体を接続する接続部と、を備えてなるとともに、前記接続部は、前記脚部の立設方向に突出するアーチ形状を有すること、
を特徴とする車両ドアの固定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車体パネル及びドアパネルの形状は、車種毎に異なる。例えば、一般に、車格が小さくなるほど、その車両ドアの厚みもまた薄くなる傾向がある。そして、このような車両にも適用可能な汎用性を確保するためには、その各楔部材を設置するために必要な領域の縮小、とりわけ、その車両ドアの開閉動作に基づいた相対移動方向における当該領域の縮小が望まれており、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、楔部材を設置するために必要な領域を縮小して、汎用性の高い車両ドアの固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面上に立設された脚部を備え、前記可動楔は、該可動楔側の前記各傾斜面を形成する一対の楔体と、前記固定楔に押圧されて後退する前記各楔体の後端部側において該各楔体を接続する接続部と、を備えてなるとともに、前記接続部は、前記脚部の立設方向に突出するアーチ形状を有すること、を要旨とする。
【0008】
即ち、両楔体の後端部側において当該各楔体を接続する接続部は、その一方側のパネル表面上に立設されたドアロックストライカの脚部の後方において、各楔体と一体に前後方向に移動(進退)することになる。また、多くの場合、そのドアロックストライカの脚部における基端部分には、例えば、その脚部の固定部や可動楔のガイド部等といった突出部位が形成される。そして、可動楔の前方移動時において、このような突出部位に接続部が干渉しないように可動楔の可動範囲を後方側に設定することによって、その一方側のパネル表面に可動楔を設置するために必要な領域が大きくなるという問題がある。
【0009】
しかしながら、上記構成によれば、可動楔の前方移動によっても、その接続部が、ドアロックストライカの脚部における基端部分に形成された突出部位に干渉し難くなる。そして、これを利用して可動楔の可動範囲を前方側に設定することによって、その可動楔を設置するために必要な領域を縮小することができる。その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記可動楔は、捩りコイルバネの弾性力に基づき前記固定楔に押し当てる方向に付勢されるものであって、前記捩りコイルバネは、前記脚部を挟む位置に離間して配置可能な一対の巻線部を有すること、を要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、付勢部材を構成する捩りコイルバネの配置も含めて、その可動楔を設置するために必要な領域を縮小することができる。その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記可動楔は、その前記後端部におけるパネル表面側が切り欠かれてなること、を要旨とする。
上記構成によれば、可動楔の後方移動時において、その後端部が、パネル表面に形成された段差等の突出部位に干渉し難くなる。そして、これにより、可動楔を設置するために必要な領域を縮小することができ、その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記可動楔は、前記一方側のパネル表面に固定されたベース部材上を摺動可能に設けられるものであって、前記ベース部材は、前記可動楔が後退することにより該可動楔に対向する後部表面を有するとともに、前記後部表面は、その後方側ほど前記一方側のパネル表面に近づくような傾斜を有すること、を要旨とする。
【0014】
即ち、可動楔は、その傾斜面に当接した固定楔に押圧されることにより、後端部側がベース部材に近接する方向に傾動する。そして、これにより、その後退する可動楔の後端部がベース部材に接触することによって、当該ベース部材の意匠面となる後部表面に傷を生じさせる、或いは引っ掛かりや異音等の問題が発生するおそれがある。
【0015】
しかしながら、上記構成によれば、その後退する可動楔の後端部がベース部材の後部表面に接触し難くなる。そして、これにより、上記のような問題の発生を抑制して、その商品性を向上させることができる。
【0018】
請求項
5に記載の発明は、車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面上に立設された脚部を備えるものであって、前記固定楔は、前記他方側のパネル表面に固定されたベースブラケットと、該ベースブラケットに固定されることにより前記固定楔側の各傾斜面を形成する独立した一対の楔体と、を備えてなり、前記可動楔は、該可動楔側の前記各傾斜面を形成する一対の楔体と、前記固定楔に押圧されて後退する前記各楔体の後端部側において該各楔体を接続する接続部と、を備えてなるとともに、前記接続部は、前記脚部の立設方向に突出するアーチ形状を有すること、を要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、可動楔及び固定楔を設置するために必要な領域を縮小して、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、楔部材を設置するために必要な領域を縮小して、その汎用性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両の側面を構成する車体パネル(サイドメンバーアウターパネル)1において、車両ドア2が取着されるドア開口部3の側端面3aには、そのパネル表面S1から略U字状の外形を有して突出するドアロックストライカ4が設けられている。また、車両ドア2を構成するドアパネル(ドアインナーパネル)5には、その車両ドア2の開閉動作に基づいて、上記ドアロックストライカ4が係脱(係合/脱離)する周知のラッチ機構6を備えたドアロックアッセンブリ7が設けられている。そして、本実施形態の車両ドア2は、そのラッチ機構6とドアロックストライカ4との係合により閉状態で固定されるようになっている。
【0023】
詳述すると、
図1に示される車両ドア2は、ドア開口部3における車両前方側(同図中、上側)の側端面に設けられたヒンジ部(図示略)を動作支点として開閉動作する車両右側のサイドドアである。そして、上記ドアロックストライカ4は、そのパネル表面S1に立設された二本の脚部8(8a,8b)が、上記車両ドア2の開閉動作に基づいたドアパネル5の移動方向(車両内外方向、同図中、左右方向)と略一致する直線上に配置されるように、ドア開口部3の側端面3aに固定されている。
【0024】
また、本実施形態のドアパネル5は、車両ドア2の閉動作によって、その車両後方側の側端面5aが上記ドア開口部3の側端面3aと対向する位置に配置されるようになっている。そして、ドアパネル5には、そのドアロックストライカ4に対する相対移動方向(
図1中、左右方向)に沿って延びるストライカ出入孔10が形成されている。
【0025】
即ち、本実施形態では、車両ドア2の開閉動作に基づいた相対移動によって、見かけ上、その車体パネル1側に設けられたドアロックストライカ4が、ドアパネル5のパネル表面S2に開口するストライカ出入孔10に出入りするようになっている。そして、ドアロックアッセンブリ7は、そのラッチ機構6がストライカ出入孔10に臨む位置に配置されるように、ドアパネル5の内側(パネル内)に固定されている。
【0026】
また、車体パネル1のパネル表面S1及びドアパネル5のパネル表面S2には、それぞれ、車両ドア2の閉動作に基づき互いの傾斜面11,12が当接する一対の楔部材20A,20Bが設けられている。そして、本実施形態では、これらの楔部材20A,20Bが互いを押し合う力に基づいて、その閉状態にある車両ドア2を当該車両ドア2の開閉方向に交差する方向、詳しくは、その可動支点となるヒンジ部が設けられた車両前方側(
図1中、上側)に押し付ける車両ドア固定装置21が形成されている。
【0027】
詳述すると、本実施形態では、ドアパネル5側の楔部材20Bは、その車両ドア2の閉動作方向(
図1中、左側)に傾斜面12を有してパネル表面S2に固定された固定楔22となっている。一方、車体パネル1側の楔部材20Aは、その車両ドア2の開閉動作に基づいた固定楔22の相対移動方向に移動可能な可動楔23として構成されている。そして、この可動楔23(楔部材20A)は、更に、その傾斜面11が固定楔22側の傾斜面12に押し当てられるように付勢されている。
【0028】
さらに詳述すると、
図2及び
図3に示すように、本実施形態のドアロックストライカ4は、車体パネル1のパネル表面S1に固定されたベースプレート25上に立設されている。具体的には、車体パネル1への固定状態において、ドアロックストライカ4の両脚部8(8a,8b)を結ぶ方向(
図2中、上下方向)をベースプレート25の「前後方向」とし、これに直交する方向(
図2中、左右方向)を「幅方向」とした場合、ドアロックストライカ4は、そのベースプレート25の幅方向中央部に設けられている。
【0029】
尚、
図4に示すように、ベースプレート25には、当該ベースプレート25を厚み方向に貫通する複数のボルト孔27が形成されている。そして、本実施形態のベースプレート25は、これらのボルト孔27に挿通されたボルト(図示略)の締結力に基づいて、その車体パネル1(のパネル表面S1)に締結されるようになっている。
【0030】
また、
図2及び
図3に示すように、本実施形態の可動楔23は、ベースプレート25の幅方向においてドアロックストライカ4を挟む位置に配置される一対の傾斜面11(11A,11B)を有している。そして、可動楔23は、その前後方向において摺動可能にベースプレート25上に設けられている。
【0031】
具体的には、本実施形態の可動楔23は、上記各傾斜面11(11A,11B)を形成する一対の楔体31(31A,31B)と、これら各楔体31の後端部31aにおいて当該各楔体31を接続する接続部32と、を備えて構成されている。尚、本実施形態では、この可動楔23は、これら各楔体31及び接続部32が金型を用いて一体に形成された樹脂成形品(射出成形品)となっている。そして、本実施形態の可動楔23は、その二つの楔体31の間にドアロックストライカ4を挟む態様で、ベースプレート25に取着されている。
【0032】
さらに詳述すると、
図5に示すように、本実施形態では、ベースプレート25の幅方向両端には、それぞれ、その前後方向に延びるガイドレール33が形成されている。また、可動楔23は、これらのガイドレール33に嵌合するガイド溝34を有してベースプレート25を幅方向に挟み込む一対の側壁部35を備えている。そして、本実施形態の可動楔23は、その両側壁部35に形成されたガイド溝34とベースプレート25側のガイドレール33との嵌合に基づいて、上記ドアロックストライカ4の立設方向に面したベースプレート25の平坦面25s(
図5中、上側の面)上を前後方向に摺動することが可能となっている。
【0033】
また、
図3及び
図6に示すように、本実施形態のベースプレート25において、その幅方向中央部分に設けられたドアロックストライカ4が立設される部分(立設部36)は、上記可動楔23(の各楔体31)の摺動面を構成する平坦面25sよりも、そのドアロックストライカ4の立設方向(
図6中、上側)に突出した形状を有している。そして、本実施形態では、これにより、そのドアロックストライカ4の立設部36が、可動楔23のガイド部として機能するようになっている。
【0034】
詳述すると、本実施形態では、ベースプレート25における上記立設部36は、当該ベースプレート25の前後方向(
図6中、左右方向)に延びる突条形状を有している。そして、ドアロックストライカ4は、その両脚部8(8a,8b)が、この立設部36を貫通する態様でベースプレート25に固定されている。
【0035】
具体的には、
図6に示すように、本実施形態では、立設部36とパネル表面S1との間には、隙間Xが形成されるようになっている。また、この立設部36には、ドアロックストライカ4の両脚部8(8a,8b)が挿入される貫通孔37が形成されている。更に、その貫通孔37に挿入された両脚部8(8a,8b)の基端部分には、その厚み方向(同図中)に立設部36を挟み込む二位置に、フランジ状をなす一対の大径部38a,38bが形成されている。そして、本実施形態のドアロックストライカ4は、これにより、ベースプレート25と一体に固定された状態で、車体パネル1に固定されるようになっている。
【0036】
ここで、
図2、
図3、
図6及び
図7に示すように、本実施形態では、上記のように各楔体31(31A,31B)の後端部31aを接続することにより当該各楔体31(31A,31B)とともに可動楔23を構成する接続部32は、ドアロックストライカ4の立設方向(
図6中、上側)に突出するアーチ形状を有している。尚、本実施形態では、この接続部32のアーチ形状は、略コ字状(段差形状)をなすものとなっている。そして、これにより、可動楔23の前方移動時において、その接続部32が、ベースプレート25における上記立設部36、及び当該立設部36から突出するドアロックストライカ4の脚部基端、詳しくは、その後方脚部8aの基端部分に形成された大径部38aに干渉しないようになっている。
【0037】
更に、本実施形態では、
図3及び
図5に示すように、可動楔23の後端部23a、詳しくは、その両側壁部35の後端部分(
図5中、右側の端部)には、そのパネル表面S1側(同図中、下側)に切欠き39が形成されている。そして、これにより、可動楔23の後方移動時において、その両側壁部35の後端部分が、パネル表面S1に形成された段差G等の突出部位に干渉しないようになっている。
【0038】
また、
図4に示すように、本実施形態の可動楔23は、捩りコイルバネ40の弾性力に基づいて、ベースプレート25の前方側(同図中、左側)、即ち車両ドア2の閉動作方向とは反対方向に向かって付勢されている。
【0039】
具体的には、本実施形態の捩りコイルバネ40は、中間線状部41を介して接続された一対の巻線部42(42a,42b)を有している。また、この捩りコイルバネ40は、その両巻線部42a,42bがドアロックストライカ4の後方脚部8aを幅方向(
図4中、上下方向)に挟む位置に離間して配置されるように、ベースプレート25に取着されている。尚、
図7に示すように、本実施形態では、これらの巻線部42(及び中間線状部41)は、ベースプレート25の幅方向中央部分に形成された収容凹部(収容孔)43内に収容されるようになっている。そして、
図4に示すように、本実施形態の捩りコイルバネ40は、これら各巻線部42a,42bから前方側に延びる両端部44a,44bが各楔体31(31A,31B)に当接されることにより、その弾性力に基づいて、可動楔23を前方側に向かって付勢するようになっている。
【0040】
尚、本実施形態では、ベースプレート25の幅方向両端には、それぞれ、その前端部分にストッパ部45が形成されている。そして、可動楔23は、このストッパ部45に当接する位置において、その捩りコイルバネ40の付勢力に基づいた前方移動が規制されるようになっている。
【0041】
また、
図2〜
図4、
図6及び
図7に示すように、本実施形態では、ベースプレート25の後端部25aには、上記収容凹部43内に収容された捩りコイルバネ40の両巻線部42(及び中間線状部41)を覆うコイルカバー46が取着されている。そして、本実施形態では、これらベースプレート25及びコイルカバー46によってベース部材が構成されている。
【0042】
ここで、本実施形態のコイルカバー46は、上記のようにベースプレート25の後端部25aに取着されることにより、上記捩りコイルバネ40の付勢力に抗して後退した可動楔23に対向する後部表面46sを有している。そして、
図7に示すように、本実施形態では、この後部表面46sは、その後方側(同図中、右側)ほど車体パネル1のパネル表面S1に近づくような傾斜を有するものとなっている。
【0043】
即ち、可動楔23は、その各傾斜面11(11A,11B)が固定楔22(の傾斜面12)に押圧されることによって、後端部23a側が車体パネル1に近接する方向(
図7中、下側)に傾動する。そして、これにより、その後退する可動楔23の後端部23a(各楔体31の後端部31a及び接続部32)が意匠面となる上記コイルカバー46の後部表面46sに接触することで、当該後部表面46sに傷を生じさせる、或いは引っ掛かりや異音等の問題が発生するおそれがある。
【0044】
特に、本実施形態の可動楔23は、金型による樹脂成形品であり、且つその射出成形時の樹脂注入部は、上記接続部32の裏面32s、即ちその後退によりコイルカバー46の後部表面46sに臨む部分に設定されている。尚、これは、金型の設計上及び製品としての意匠性を考慮したものであるが、結果として、その材料注入部(樹脂注入部)に「バリ」が形成されることによって、より一層、コイルカバー46の後部表面46sに接触しやすくなっている。
【0045】
この点を踏まえ、本実施形態では、そのコイルカバー46の後部表面46sに上記のような傾斜(傾斜角θ)が設定されている。そして、これにより、その後退する可動楔23の後端部23aとコイルカバー46の後部表面46sとの接触による問題の発生を回避するとともに、併せて、その樹脂注入部に形成される「バリ」の切削工程を廃する、又は簡略化によって、その製造工程の簡略化が図られている。
【0046】
また、本実施形態では、
図8に示すように、コイルカバー46の後部表面46sには、その可動楔23の後端部23aに摺接する摺接突部49が形成されている。具体的には、
図2に示すように、その可動楔23を構成する各楔体31(31A,31B)の後端部31aに対して摺接する二つの摺接突部49が形成されている。即ち、本実施形態では、可動楔23との接触部分をこれらの摺接突部49に限定することによって、その意匠面となるコイルカバー46の後部表面46sが傷付くことを回避する。そして、併せて、その接触面積を低減することによって、引っ掛かりや異音等の発生を抑制する構成になっている。
【0047】
一方、
図9に示すように、本実施形態の固定楔22は、車両ドア2の閉動作に基づいて、上記ドアロックストライカ4を挟む位置に移動する一対の傾斜面12(12A,12B)を有している。
【0048】
具体的には、本実施形態の固定楔22は、
図10及び
図11に示すように、ドアパネル5のパネル表面S2に固定されるベースブラケット50と、当該ベースブラケット50に固定されることにより上記各傾斜面12(12A,12B)を形成する独立した一対の楔体51(51A,51B)と、を備えて構成されている。
【0049】
図10に示すように、ドアパネル5への固定状態において、その車両ドア2の開閉動作に基づいた相対移動方向(同図中、上下方向)をベースブラケット50の前後方向とし、これに直交する方向(同図中、左右方向)を幅方向とした場合、ベースブラケット50は、その幅方向中央部分に、前方側(同図中、下側)に開口するスリット52を有している。そして、ベースブラケット50は、そのスリット52の内側に上記ストライカ出入孔10が配置されるように、ドアパネル5のパネル表面S2に固定されるようになっている。
【0050】
尚、本実施形態では、ベースブラケット50は、当該ベースブラケット50を厚み方向に貫通するボルト孔53に挿通された図示しないボルトによってドアパネル5に締結される。また、
図9に示すように、各楔体51は、ベースブラケット50に対し、それぞれ、その傾斜面12(12A,12B)を前方側(同図中、下側)、即ち車両ドア2の閉動作方向に向けた状態で幅方向に上記スリット52を挟む位置に固定される。そして、本実施形態では、これにより、上記のように車両ドア2の開閉動作に基づきストライカ出入孔10内に挿入されるドアロックストライカ4がスリット52の内側に相対移動することによって、そのドアロックストライカ4を挟む位置に、固定楔22の各傾斜面12(12A,12B)が配置されるようになっている。
【0051】
また、
図12に示すように、本実施形態のベースブラケット50は、そのドアパネル5のパネル表面S2からの突出長Lが、車両ドア2の閉動作に基づき上記車体パネル1側のベースプレート25に対向する位置に相対移動した場合におけるパネル表面S2とドアロックストライカ4の立設部36との対向距離D1よりも短くなるように設定されている。具体的には、見かけ上、そのドアロックストライカ4の各脚部8が相対移動する軌跡の延長線上に配置される部分、即ち両脚部8(8a,8b)を結ぶ線上に配置されるスリット後縁部50aの突出長L0が、上記の対向距離D1よりも短くなるように設定されている。そして、本実施形態では、これにより、その固定楔22が車両ドア2の閉動作に基づき上記車体パネル1側のベースプレート25に対向する位置に相対移動した場合においても、ドアロックストライカ4の立設部36に干渉しないようになっている。
【0052】
次に、上記のように構成された本実施形態の車両ドア固定装置の作用(動作)について説明する。
即ち、車両ドア2が閉動作することにより、そのドアパネル5に固定された固定楔22の各傾斜面12(12A,12B)が、車体パネル1側に設けられたドアロックストライカ4を挟む位置に相対移動し、ドアロックストライカ4とともに車体パネル1側に設けられた可動楔23の各傾斜面11(11A,11B)に当接する。そして、可動楔23は、固定楔22に押圧されることにより、その各傾斜面11を固定楔22側の各傾斜面12に押し付ける方向に同可動楔23を付勢する捩りコイルバネ40の付勢力に抗して後退する。
【0053】
本実施形態の車両ドア固定装置21は、このとき、その可動楔23側の各傾斜面11と固定楔22側の各傾斜面12との間に生ずる互いを押し合う力に基づいて、閉状態にある車両ドア2を当該車両ドア2の開閉方向と交差する方向、詳しくは、その図示しないヒンジ部が設けられた車両前方側(
図1参照、同図中、上側)に押し付ける。そして、これにより、車両ドア2のガタつきを抑えるとともに、その「ガタ詰め」によって、車両ドア2をドア開口部3の前後方向に延在する構造体(支持部材)として機能させることにより、車体剛性を高め、ひいては、その車両の旋回性能を向上させることが可能となっている。
【0054】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ドアロックストライカ4は、車体パネル1のパネル表面S1上に立設された脚部8(8a,8b)を備える。また、同じく車体パネル1側に設けられた可動楔23は、そのドアロックストライカ4を挟む位置にそれぞれ傾斜面11(11A,11B)を形成する一対の楔体31(31A,31B)と、これら各楔体31の後端部31aを接続する接続部32を備える。そして、この接続部32は、ドアロックストライカ4の各脚部8(8a,8b)が立設された方向に突出するアーチ形状を有する。
【0055】
即ち、両楔体31(31A,31B)の後端部31aを接続する接続部32は、パネル表面S1上に立設されたドアロックストライカ4の脚部8(後方脚部8a)の後方において、各楔体31(31A,31B)と一体に前後方向に移動(進退)することになる。また、多くの場合、そのドアロックストライカ4の脚部8(8a,8b)における基端部分には、例えば、その脚部8の固定部(フランジ状の大径部28a)や可動楔23のガイド部(立設部36)等といった突出部位が形成される。そして、可動楔23の前方移動時において、このような突出部位に接続部32が干渉しないように可動楔23の可動範囲を後方側に設定することによって、その車体パネル1に可動楔23を設置するために必要な領域が大きくなるという問題がある。
【0056】
しかしながら、上記構成によれば、可動楔23の前方移動によっても、その接続部32が、ドアロックストライカ4の脚部8(後方脚部8a)における基端部分に形成された突出部位(大径部28a及び立設部36)に干渉し難くなる。そして、これを利用して可動楔23の可動範囲を前方側に設定することによって、その可動楔23を設置するために必要な領域を縮小することができる。その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0057】
(2)可動楔23は、捩りコイルバネ40の弾性力に基づいて、その各傾斜面11(11A,11B)を固定楔22側の各傾斜面12(12A,12B)に押し当てる方向に付勢される。そして、捩りコイルバネ40は、ドアロックストライカ4の脚部8を挟む位置に離間して配置可能な一対の巻線部42を備える。
【0058】
上記構成によれば、付勢部材を構成する捩りコイルバネ40の配置も含めて、その可動楔23を設置するために必要な領域を縮小することができる。その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0059】
(3)可動楔23の後端部23a(両側壁部35の後端部分)には、そのパネル表面S1側に切欠き39が形成される。これにより、可動楔23の後方移動時において、その後端部23aが、パネル表面S1に形成された段差G等の突出部位に干渉し難くなる。そして、これにより、可動楔23を設置するために必要な領域を縮小することができ、その結果、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0060】
(4)可動楔23は、車体パネル1のパネル表面S1に固定されたベースプレート25上を摺動可能に設けられる。また、ベースプレート25の後端部25aには、捩りコイルバネ40の両巻線部42(及び中間線状部41)を覆うコイルカバー46が取着される。そして、その意匠面を構成する後部表面46sは、後方側(同図中、右側)ほど車体パネル1のパネル表面S1に近づくような傾斜を有するものとなっている。
【0061】
即ち、可動楔23は、その各傾斜面11が固定楔22(の傾斜面12)に押圧されることにより後端部23a側が車体パネル1に近接する方向に傾動する。そして、これにより、その後退する可動楔23の後端部23a(各楔体31の後端部31a及び接続部32)が意匠面となる上記コイルカバー46の後部表面46sに接触することで、当該後部表面46sに傷を生じさせる、或いは引っ掛かりや異音等の問題が発生するおそれがある。
【0062】
しかしながら、上記構成によれば、その後退する可動楔23の後端部23aがコイルカバー46の後部表面46sに接触し難くなる。そして、これにより、その接触により生ずる問題を回避することができる。
【0063】
(5)車両ドア2の閉動作に基づいて、上記ドアロックストライカ4を挟む位置に移動する一対の傾斜面12(12A,12B)を有している。そして、固定楔22は、ドアパネル5のパネル表面S2に固定されるベースブラケット50と、当該ベースブラケット50に固定されることにより上記各傾斜面12(12A,12B)を形成する独立した一対の楔体51(51A,51B)と、を備えてなる。
【0064】
上記構成によれば、見かけ上、そのドアロックストライカ4の各脚部8が相対移動する軌跡の延長線上に配置される部分、即ち両脚部8(8a,8b)を結ぶ線上に配置されるスリット後縁部50aの突出長L0を容易に縮めることができる。そして、これにより、そのスリット後縁部50aがドアロックストライカ4の脚部8(8a,8b)における基端部分に形成された突出部位(立設部36)に干渉し難くなることで、その相対移動方向における固定楔22の寸法を縮小することができる。その結果、固定楔22を設置するために必要な領域を縮小して、より多様な車種に適用可能な汎用性を確保することができる。
【0065】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、車体パネル1側にドアロックストライカ4及び可動楔23が設けられ、ドアパネル5側に固定楔22が設けられることとした。しかし、これに限らず、
図13に示すように、車体パネル1側に固定楔62が設けられ、ドアパネル5側に可動楔63及びドアロックストライカ64が設けられる構成であってもよい。
【0066】
・上記実施形態では、ヒンジ部を動作支点として開閉動作する車両ドア2、詳しくは車両右側のサイドドアに適用される車両ドア固定装置21に具体化した。しかし、これに限らず、本発明は、所謂スライドドアに適用してもよい。また、車両後端の開口部を開閉するバックドアに適用してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、可動楔23の後端部23aには、そのパネル表面S1側に切欠き39が形成されることとした。しかし、その切り欠かれた後端部23aの形状については、特に限定するものではない。例えば、上記実施形態では、両側壁部35の後端部分を切り欠くこととしたが、これ限らず、各楔体31(31A,31B)のパネル表面S1側を切り欠く構成等であってもよい。
【0068】
・上記実施形態では、ベースプレート25及びベースプレート25の後端部25aに取着されたコイルカバー46がベース部材を構成することとした。しかし、これに限らず、一の部材によってベース部材が形成される構成であってもよい。そして、このようなベース部材に関連しない事項については、当該ベース部材を有することなく、パネル表面S1に対して直接的にドアロックストライカ4が立設される構成についても、これを排除しない。
【0069】
・本実施形態では、コイルカバー46の後部表面46sには、可動楔23を構成する各楔体31(31A,31B)の後端部31aに対して摺接する二つの摺接突部49が形成されることとしたが、摺接突部49の数及びその配置については任意に変更してもよい。
【0070】
・上記実施形態では、可動楔23は、金型による樹脂成形品であり、且つその射出成形時の樹脂注入部は、上記接続部32の裏面32sに設定されることとした。しかし、これに限らず、例えばアルミダイキャストにより可動楔23を形成する等、必ずしも樹脂成形品でなくともよい。そして、その射出成形時の樹脂注入部についてもまた、これを限定しない。
【0071】
・上記実施形態では、接続部32のアーチ形状は、略コ字状(段差形状)をなすものであることとした。しかし、これに限らず、接続部32のアーチ形状は、任意に変更してもよい。例えば、弓形のような湾曲した形状であってもよい。
【0072】
・上記実施形態では、固定楔22を構成するベースブラケット50については、そのスリット後縁部50aの突出長L0が、パネル表面S2とドアロックストライカ4の立設部36との対向距離D1よりも短くなるように設定される。そして、これにより、その固定楔22が車両ドア2の閉動作に基づき上記車体パネル1側のベースプレート25に対向する位置に相対移動した場合においても、ドアロックストライカ4の立設部36に干渉しないようにされることとした。しかし、これに限らず、スリット後縁部50aの突出長L0を、立設部36から突出する前方脚部8bの大径部38aに干渉しないように設定してもよい。
【0073】
・また、固定楔22を構成する各楔体51(51A,51B)については、当該各楔体51が、そのベースブラケット50に対する固定軸を中心に回動可能な構成としてもよい。このような構成とすれば、固定楔22を構成する各楔体51の傾斜面12(12A,12B)が、車両ドア2の閉動作に基づき当接する可動楔23側の各楔体31の傾斜面11(11A,11B)に追従する。その結果、より有効に、その互いを押し合う力を利用して確実に車両ドア2を保持することができる。
【0074】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、前記可動楔は、前記一方側のパネル表面に固定されたベース部材上を摺動可能に設けられるものであって、前記ベース部材は、前記固定楔に押圧されて後退することにより該可動楔に対向する後部表面を有するとともに、前記後部表面は、その後方側ほど前記一方側のパネル表面に近づくような傾斜を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0075】
(ロ)上記(イ)に記載の車両ドアの固定装置において、前記可動楔は、金型による成形品であるとともに、その後退によって前記後部表面に臨む部分に成形時の材料注入部を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0076】
即ち、材料注入部に「バリ」が形成されることによって、より一層、そのベース部材の後部表面に臨む部分がベース部材の後部表面に接触しやすくなる。従って、このような構成を有するものに適用することで、より顕著な効果を得ることができる。そして、そのバリを切削する工程を廃する、又は簡略化によって、その製造工程を簡略化することができる。
【0077】
(ハ)上記(ロ)に記載の車両ドアの固定装置において、前記可動楔における前記材料注入部が形成された部分は、前記後部表面から離間する方向に突出したアーチ形状を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0078】
上記構成によれば、その成形時の材料注入部が形成された部分がベース部材の後部表面に接触し難くなる。そして、これにより、その接触により生ずる問題を抑えて、商品性の向上を図ることができる。
【0079】
(ニ)前記後部表面には、前記可動楔に摺接する摺接突部が形成されること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
上記構成によれば、可動楔との接触部分をその摺接突部に限定することができる。そして、これにより、意匠面となる後部表面が傷付くことを回避することができるとともに、併せて、その接触面積を低減することにより、引っ掛かりや異音等の発生を抑制することができる。
【0080】
(ホ)前記ドアロックストライカは、基端に大径部を有して立設された脚部を備え、前記接続部は、前記大径部との接触を回避可能な前記アーチ形状を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0081】
(へ)前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面に固定されたベース部材上に立設され、前記可動楔は、ベース部材上を摺動可能に設けられるとともに、前記ドアロックストライカの立設部は、前記可動楔の摺動面から突出して設けられるものであって、前記接続部は、前記ドアロックストライカの立設部との接触を回避可能な前記アーチ形状を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0082】
(ト)前記ベースブラケットは、前記他方側のパネル表面からの突出長が、前記他方側のパネル表面と前記ドアロックストライカの立設部との対向距離よりも小さく設定されてなること、を特徴とする車両ドアの固定装置。
【0083】
(チ)車両ドアの閉動作に基づき車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられたドアロックストライカを挟む位置に相対移動する一対の傾斜面を有して前記車体パネル及びドアパネルの他方側に固定された固定楔と、前記ドアロックストライカを挟む位置に配置される一対の傾斜面を有するとともに該各傾斜面が前記固定楔側の各傾斜面に押し当てられるように付勢された状態で前記車体パネル及びドアパネルの一方側に設けられる可動楔と、を備えた車両ドアの固定装置において、前記可動楔は、捩りコイルバネの弾性力に基づき前記固定楔に押し当てる方向に付勢されるものであって、前記ドアロックストライカは、前記一方側のパネル表面上に立設された脚部を備えるとともに、前記捩りコイルバネは、前記脚部を挟む位置に離間して配置可能な一対の巻線部を有すること、を特徴とする車両ドアの固定装置。