(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048164
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】過電流保護回路
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20161212BHJP
【FI】
H02M1/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-11271(P2013-11271)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-143852(P2014-143852A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 拓生
【審査官】
尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−197724(JP,A)
【文献】
特開2008−017557(JP,A)
【文献】
特開平07−153951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00− 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGBT(10)の過電流保護回路であって、
前記IGBTの駆動回路(50)と、
前記IGBTに印加される電圧が、前記駆動回路に直接印加されることを防止する電圧保護素子(30)と、を有し、
前記電圧保護素子は、前記IGBTのコレクタ端子と前記駆動回路との間に設けられたMOSFETであり、
前記駆動回路は、オン状態における前記電圧保護素子を介した前記IGBTのコレクタ電圧が、所定値よりも大きい場合、前記IGBTを遮断することを特徴とする過電流保護回路。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記電圧保護素子を介した電圧によって開閉されるスイッチ(58)と、前記IGBTに駆動信号を出力する信号生成部(53)と、を有し、
前記IGBTのゲート電極と前記信号生成部の出力端子とを接続する出力配線(54)とグランドとを接続する第1グランド配線(59)に、前記スイッチが設けられており、
前記駆動回路は、前記電圧保護素子と前記IGBTのエミッタ端子の間に直列接続されたツェナーダイオード(55)と抵抗(56)を有し、
前記ツェナーダイオードのカソード電極が、前記電圧保護素子の一端に接続され、
前記ツェナーダイオードのアノード電極が、前記抵抗の一端に接続され、
前記ツェナーダイオードと前記抵抗との間の中点が、前記スイッチの制御電極に接続されており、
前記所定値が、前記ツェナーダイオードの降伏電圧であり、
オン状態における前記電圧保護素子を介した前記IGBTのコレクタ電圧が、前記降伏電圧以下の場合、前記スイッチがオフ状態になり、前記降伏電圧よりも大きい場合、前記スイッチがオン状態になることを特徴とする請求項1に記載の過電流保護回路。
【請求項3】
前記電圧保護素子は、Nチャネル型MOSFETであり、
前記電圧保護素子のゲート電極が電源(70)に接続され、ドレイン端子が前記IGBTのコレクタ端子に接続され、ソース端子が抵抗(71)を介して電源に接続されており、
前記ソース端子が前記駆動回路に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の過電流保護回路。
【請求項4】
前記電圧保護素子は、Nチャネル型MOSFETであり、
前記電圧保護素子のゲート電極が電源(70)に接続され、ドレイン端子が前記IGBTのコレクタ端子に接続され、ソース端子が直列接続された2つの抵抗(71,72)を介して前記電源に接続されており、
直列接続された2つの前記抵抗の中点が前記駆動回路に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の過電流保護回路。
【請求項5】
前記電圧保護素子は、Nチャネル型MOSFETであり、
前記IGBTがオフ状態であれば、前記電圧保護素子のゲート電極を制御してオフ状態とすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の過電流保護回路。
【請求項6】
前記電圧保護素子の降伏電圧が、前記IGBTの降伏電圧よりも高いことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の過電流保護回路。
【請求項7】
前記電圧保護素子と、前記IGBTが同一のチップに形成されていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の過電流保護回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBTの過電流保護回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、IGBTの短絡保護回路が提案されている。この短絡保護回路は、IGBTを駆動するためのゲート駆動回路とIGBTのコレクタ端子との間に、コレクタ側にカソード電極が接続されたダイオードを有する。また、短絡保護回路は、ダイオードのアノード側の電圧を検出する検出回路と,検出回路の検出値が所定値以上となった場合にIGBTを強制的にオフさせる遮断回路と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−288416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献1に示されるIGBTの短絡保護回路では、IGBTのコレクタ電圧を、ダイオードを介して検出している。そのため、検出される値は、コレクタ電圧から、ダイオードの順方向電圧Vfを減算した値となる。ところで、Vf(室温で0.7V程度)の値は、ダイオードの温度特性及び製造ばらつきのために、0.5Vオーダーで誤差がある。そのため、ダイオードを介して検出されるコレクタ電圧も、0.5Vオーダーで誤差があり、高精度にIGBTを制御することができず、IGBTの耐量を過大に取る必要があるためチップサイズが増大し、コストが高くなる課題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、IGBTを高精度に保護する過電流保護回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、IGBT(10)の過電流保護回路であって、IGBTの駆動回路(50)と、IGBTに印加される電圧が、駆動回路に直接印加されることを防止する電圧保護素子(30)と、を有し、電圧保護素子は、IGBTのコレクタ端子と駆動回路との間に設けられたMOSFETであり、駆動回路は、オン状態における電圧保護素子を介したIGBTのコレクタ電圧が、所定値よりも大きい場合、IGBTを遮断することを特徴とする。
【0007】
このように本発明によれば、IGBT(10)のコレクタ電圧が、MOSFETである電圧保護素子(30)を介して検出される。そのため、検出される値は、コレクタ電圧から、MOSFETのオン抵抗分だけ電圧降下した値となるが、オン抵抗による電圧降下はダイオードVfと比較して極めて小さいため、その誤差は、0.001V程度のオーダーである。そのため、本発明に記載の構成は、ダイオードを介して検出されるコレクタ電圧(0.5Vオーダーの誤差があるコレクタ電圧)に基づいて、IGBT(10)を制御する構成と比べて、高精度にIGBT(10)を保護することができる。また、IGBT(10)の耐量を過大に取る必要がなくなるので、IGBT(10)のチップサイズを低減でき、コストの増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る過電流保護回路の概略構成を示す回路図である。
【
図2】過電流保護回路の変形例を示す回路図である。
【
図3】過電流保護回路の変形例を示す回路図である。
【
図4】過電流保護回路の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1に基づいて、本実施形態に係る過電流保護回路を説明する。過電流保護回路100は、IGBT10に過電流が流れることを防止するものであり、電圧保護素子30と、駆動回路50と、を有する。
図1に示すように、駆動回路50は、電圧保護素子30を介してIGBT10のコレクタ電圧を検出している。駆動回路50は、IGBT10がオン状態のときに、コレクタ電圧が所定値(後述する過電流閾値電圧)より大きいと、IGBT10に過電流が流れている状態(過電流通電状態)と判断して、IGBT10を遮断する。なお、IGBT10には、還流ダイオード11が逆並列接続されている。
【0010】
電圧保護素子30は、IGBT10に印加される高電圧が、駆動回路50に直接印加されることを防止するものである。電圧保護素子30は、Nチャネル型MOSFETであり、IGBT10のコレクタ端子と駆動回路50との間に設けられている。詳しく言えば、電圧保護素子30のゲート電極が電源70に接続され、ドレイン端子がIGBT10のコレクタ端子に接続されている。そして、電圧保護素子30のソース端子が、抵抗71を介して電源70にプルアップ接続されている。これにより、IGBT10のコレクタ電圧(コレクターエミッタ間電圧)が、電源70の電圧から電圧保護素子30の閾値を減算した値よりも低い場合、ゲート電極とソース端子との電圧差がゲート閾値電圧以上となるので、電圧保護素子30は、オン状態となる。逆に言えば、IGBT10のコレクタ電圧が、電源70の電圧から電圧保護素子30のゲート閾値電圧を減算した値よりも高い場合、電圧保護素子30は、オフ状態になる。電圧保護素子30がオフ状態になると、駆動回路50に印可される電圧が、電源70の電圧以下になる。なお、電圧保護素子30には、寄生ダイオード31が逆並列接続されている。
【0011】
駆動回路50は、駆動指令信号、及び、電圧保護素子30を介したIGBT10のコレクタ電圧(以下、単にコレクタ電圧と示す)に基づいて、IGBT10の駆動を制御するものである。駆動回路50は、過電流閾値電圧を生成する電圧生成部51と、コレクタ電圧と過電流閾値電圧とを比較する比較部52と、比較部52の出力信号に基づいて、IGBT10に駆動信号を出力する信号生成部53と、を有する。
【0012】
信号生成部53は、IGBT10のゲート電極を駆動し、オン、オフ状態を制御するものである。信号生成部53は、比較部52で、IGBT10に過電流が通電されていないと判断した場合、IGBT10へ通電の駆動信号を出力する。これとは異なり、比較部52で、IGBT10に過電流が通電されていると判断した場合、信号生成部53は、IGBT10を強制的に遮断してオフ状態にする。
【0013】
次に、本実施形態に係る過電流保護回路100の作用効果を説明する。上記したように、IGBT10のコレクタ電圧が、MOSFETである電圧保護素子10を介して検出される。そのため、検出される値は、IGBT10のコレクタ電圧から、MOSFETのオン抵抗分だけ電圧降下した値となるが、オン抵抗による電圧降下はダイオードVfと比較して極めて小さいため、その誤差は、0.001V程度のオーダーである。そのため、本実施形態に記載の構成は、ダイオードを介して検出されるコレクタ電圧(0.5Vオーダーの誤差があるコレクタ電圧)に基づいて、IGBT10を制御する構成と比べて、高精度にIGBT10を保護することができる。また、IGBT10の耐量を過大に取る必要がなくなるので、IGBT10のチップサイズを低減でき、コストの増大が抑制される。
【0014】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0015】
本実施形態では、電圧保護素子30のソース端子が、抵抗71を介して電源70に接続され、ソース端子が駆動回路50に接続された例を示した。しかしながら、
図2に示すように、電圧保護素子30のソース端子が、2つの抵抗71,72を介して電源70に接続され、直列接続された2つの抵抗71,72の中点が駆動回路50に接続された構成を採用することができる。これによれば、還流ダイオード11に電流が流れ、IGBT10のコレクタ電圧が、グランドよりも低くなった(負になった)としても、比較部52に入力される電圧(2つの抵抗71,72の中点電圧)が、グランドよりも高くなる。そのため、IGBT10のコレクタ電圧が負になったとしても、比較部52で、還流ダイオード11の通電状態を判定して、IGBT10の駆動状態を制御することができる。抵抗71,72それぞれの抵抗値は、電圧保護素子30のオン抵抗よりも高い値となっている。
【0016】
本実施形態では、駆動回路50が、電圧生成部51と比較部52を有する例を示した。しかしながら、
図3に示すように、駆動回路50が、電圧生成部51と比較部52に代えて、ツェナーダイオード55と、抵抗56,57と、スイッチ58と、を有する構成を採用することもできる。スイッチ58は、電圧保護素子30を介した電圧によって開閉される。コレクタ電圧が、降伏電圧以下の場合、スイッチ58がオフ状態になり、降伏電圧よりも大きい場合、スイッチ58がオン状態になる。
【0017】
IGBT10のゲート電極と信号生成部51の出力端子とを接続する出力配線54に抵抗57が設けられ、抵抗57とIGBT10のゲート電極との間の中点とグランドとを接続する第1グランド配線59に、Nチャネル型MOSFETであるスイッチ58が設けられている。そして、電圧保護素子30のソース端子とグランドとを接続する第2グランド配線60に、ツェナーダイオード55と抵抗56が直列接続され、ツェナーダイオード55のカソード電極が、電圧保護素子30の一端(ソース端子)に接続されている。また、ツェナーダイオード55のアノード電極が、抵抗56及びスイッチ58の制御電極に接続されている。これにより、コレクタ電圧が、降伏電圧以下の場合、スイッチ58はオフ状態であるが、ツェナーダイオード55の降伏電圧を超えると、スイッチ58がオン状態に移行する。そして、IGBT10のゲート電極とエミッタ端子が短絡されて、オフ状態になる。以上示したように、この変形例では、ツェナーダイオード55の降伏電圧が、本実施形態に記載の過電流閾値電圧としての機能を果たす。
【0018】
上記したように、本実施形態では、電圧保護素子30のゲート端子を電源70に接続した例を示した。このとき、電圧保護素子30は、コレクタ電圧が電源70の電圧から電圧保護素子30のゲート閾値電圧を減算した値よりも高くなることでオフされる。しかしながら、
図4に示すように、電圧保護素子30のゲート電極が、バッファ61を介して出力配線54に電気的に接続された構成とすることで、IGBT10がオフ状態のときに、電圧保護素子30をオフするようそのゲート電極を制御することもできる。この構成は、確実に電圧保護素子30のオフ状態を維持することができ、電圧保護素子30の誤動作(誤オン)による駆動回路50への高電圧印可を防止できる。
【0019】
本実施形態では、特に、電圧保護素子30の耐圧について言及しなかった。しかしながら、電圧保護素子30の故障を抑制するために、電圧保護素子30の降伏電圧を、IGBT10よりも高く設定してもよい。
【0020】
本実施形態では、特に、電圧保護素子30とIGBT10が形成されるチップについて言及しなかった。しかしながら、電圧保護素子30とIGBT10とを同一のチップに形成してもよいし、別のチップに形成してもよい。更に言えば、過電流保護回路100とIGBT10とを同一のチップに形成してもよいし、別のチップに形成してもよい。
【符号の説明】
【0021】
10・・・IGBT
30・・・電圧保護素子
50・・・駆動回路
100・・・過電流保護回路