(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のピストンでは、耐摩環を構成する材料の比重が、ピストン本体を構成する材料よりも大きいため、ピストンに耐摩環を設けることによって、ピストン全体の重量が重くなってしまう。
【0005】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピストン全体の重量が重くなることを抑制しつつ、リング溝の摩耗を抑制することができるピストン及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するためのピストンは、ピストン本体と、同ピストン本体を構成する材料よりも比重
が大き
く同ピストン本体を構成する材料よりも熱伝導率が低い材料からなり、リング溝の側面を構成する一対の対向壁と同一対の対向壁を連結して前記リング溝の底面を構成する底壁とを有する耐摩環とを備える。このピストンでは、前記耐摩環の一対の対向壁のうちピストン頂面側に位置する対向壁の外径が、前記リング溝に収容されるピストンリングの内径よりも大きいものの前記ピストン本体の外径よりも小さく
、前記リング溝においてピストン頂面側に位置する側面が、前記ピストン本体と前記耐摩環とで構成される。
【0007】
上記構成によれば、ピストン本体を構成する材料よりも比重の大きい材料からなる耐摩環の対向壁のうちピストン頂面側に位置する対向壁が、ピストンの外周面まで届かない短いものにされている。そのため、ピストン頂面側に位置する対向壁がピストンの外周面に届く長いものであり、リング溝の側面のうちピストン頂面側に位置する側面の全面が耐摩環によって形成されている構成と比べて、ピストンを軽量化することができる。なお、ピストンリングには、リング溝から飛び出している外周側部分に燃焼室側から高圧の燃焼ガスが作用する。そのため、この燃焼ガスの作用によってリング溝内に収容されているピストンリングにねじれが生じ、ピストンリングの内周側端面がリング溝のピストン頂面側の側面に当接することがある。これに対して上記構成では、耐摩環のピストン頂面側に位置する対向壁がピストンリングの内周端部よりも径方向外側まで延びている。そのため、ピストン頂面側に位置するリング溝の側面のうち、高圧の燃焼ガスの圧力がピストンリングに作用するときにピストンリングが当接しやすい部位は、耐摩環の対向壁で構成されることになる。
【0008】
したがって、上記構成によれば、摩耗が生じやすい部位に耐摩環を配設し、ピストンの軽量化を図りつつ、リング溝の摩耗を抑制することができる。
また、上記構成によれば、ピストン頂面側の側面の一部が耐摩環を構成する材料よりも熱伝導率の高いピストン本体を構成する材料で構成されることになる。そのため、ピストン頂面側の側面の全面が耐摩環によって形成されている構成と比べて、ピストン全体のうち熱伝導率が低い材料からなる耐摩環の割合を小さくすることができる。その結果、ピストン全体の放熱性を向上させることができる。
なお、上記ピストンは、前記耐摩環の一対の対向壁のうちピストン頂面側に位置する対向壁を第1の対向壁とし、他方の対向壁を第2の対向壁としたとき、前記耐摩環の前記第2の対向壁の外径が前記ピストン本体の外径と等しい一方で、前記第1の対向壁の外径が前記リング溝に収容されるピストンリングの内径よりも大きいものの前記ピストン本体の外径よりも小さいという態様で具現化することが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、第1の対向壁が第2の対向壁よりも短くされており、ピストン頂面側の側面の一部が耐摩環を構成する材料よりも比重の小さいピストン本体を構成する材料で構成されることになる。そのため、第1の対向壁が第2の対向壁と等しい長さに形成され、リング溝の全面が耐摩環によって形成されている構成と比べて、ピストンを軽量化することができる。
【0010】
上述したように、ピストンリングには、リング溝から飛び出している外周側部分に燃焼室側から高圧の燃焼ガスが作用する。そのため、この燃焼ガスの作用によってリング溝内に収容されているピストンリングにねじれが生じ、ピストンリングの内周側端面がリング溝のピストン頂面側の側面に当接することがある。また、ピストンリングには、高圧の燃焼ガスの圧力が、同ピストンリングをピストン頂面側から第2の対向壁に押圧するように作用する。したがって、高圧の燃焼ガスの圧力がピストンリングに作用するときには、リング溝の側面のうちピストン頂面とは反対側に位置する側面の全体と、ピストン頂面側の側面におけるピストン径方向内側の部位とにおいてピストンリングが当接しやすい。
【0011】
上記構成によれば、耐摩環の第2の対向壁がピストン外周面まで延びており、第1の対向壁がピストンリングの内周端部よりも径方向外側まで延びている。そのため、リング溝の側面のうち高圧の燃焼ガスの圧力がピストンリングに作用するときにピストンリングが当接しやすい部位は、耐摩環の対向壁で構成されることになる。
【0012】
したがって、上記構成によれば、摩耗が生じやすい部位に耐摩環を配設し、ピストンの軽量化を図りつつ、リング溝の摩耗を抑制することができる。
上記ピストンにおいては、前記耐摩環は、上面及び下面と、ピストン中心軸側に位置する内周面とが交わる内周縁部の少なくとも一方が面取り形状となっていることが好ましい。
【0013】
耐用期間の間に生じる摩耗によるリング溝の変形を所定の範囲内に抑えるために必要となる一定の厚さだけ耐摩環を設けるようにすれば、耐摩環を構成する材料の比率を極力少なくして、ピストンの軽量化を図ることができる。これに対して、耐摩環の上面及び下面とピストン中心軸側に位置する耐摩環の内周面とをそのまま直角に交わらせたままにした場合には、内周縁部における厚さが対向壁や底壁の厚さよりも厚くなる。この点、上記構成によれば、内周縁部を面取り形状とすることで、内周縁部の厚さが厚くなることを抑制することができるため、ピストンをより軽量化することができる。
【0015】
上記各ピストンにおいては、前記ピストン本体は、アルミニウム系の材料からなり、前記耐摩環は、鉄系の材料からなるといった態様を採用することができる。
また、上記課題を解決するための内燃機関は、上記各態様の何れかのピストンを備えている。
【0016】
また、内燃機関においては、シリンダブロックが、前記耐摩環と主成分が同じ金属材料からなるといった態様を採用することができる。
主成分が同じ金属材料からなる部材同士が摺動した場合、主成分が異なる金属材料からなる部材同士が摺動した場合に比べて部材同士が焼き付きやすい。この点、上記内燃機関では、耐摩環の一対の対向壁のうちピストン頂面側の対向壁の外径がピストン本体の外径よりも小さくされている。そのため、上記リング溝の側面のうちピストン頂面側に位置する側面の一部はピストン本体を構成する材料で構成されており、リング溝よりもピストン頂面側に位置するピストン外周面はピストン本体を構成する材料で構成されている。したがって、リング溝よりもピストン頂面側に位置するピストン外周面がシリンダ内周面と摺動したとしても、主成分が異なる金属材料からなる部材同士が摺動することになるため、焼き付きにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、ピストン及び内燃機関の第1実施形態を、
図1及び2を参照して詳細に説明する。本実施形態の内燃機関は過給機を備えるガソリン機関である。
【0019】
図1に示すように、内燃機関10の吸気通路11には、スロットルバルブ12が設けられている。内燃機関10では、スロットルバルブ12の開度調節を通じて、燃焼室15内に吸入される空気の量が調節される。
【0020】
内燃機関10のシリンダブロック14は鋳鉄製であり、シリンダブロック14には複数のシリンダ14Aが形成されている。各シリンダ14A内には、ピストン30が設けられている。ピストン30には、ピストン頂面35側から順に、トップリング溝32、セカンドリング溝33、オイルリング溝34が形成されている。トップリング溝32にはトップリング41が装着され、セカンドリング溝33にはセカンドリング42が装着され、オイルリング溝34にはオイルリング43が装着されている。
【0021】
図2に示すように、ピストン30のトップリング溝32には、耐摩環50が設けられている。耐摩環50は、ピストン本体31よりも耐摩耗性に優れた材料で形成されている。詳細には、耐摩環50は鋳鉄製であり、ピストン本体31はアルミニウム合金からなる。耐摩環50は、同耐摩環50をアルミニウム合金の溶湯で鋳込むことにより、ピストン本体31に固定される。なお、ピストン30及び耐摩環50の構成については、後に詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、内燃機関10には、燃焼室15に臨むように燃料噴射弁13が設けられている。燃料噴射弁13は、その開弁駆動に伴って燃焼室15内に燃料を噴射する。シリンダヘッド16には、燃焼室15に臨むように点火プラグ17が設けられている。内燃機関10では、燃料噴射弁13から噴射された燃料が燃焼室15内において燃焼することによってピストン30が往復移動してクランクシャフト18が回転する。そして、燃焼後のガスは排気として燃焼室15から排気通路19に送り出される。吸気通路11と燃焼室15とは吸気バルブ21の開閉により連通・遮断され、排気通路19と燃焼室15とは排気バルブ22の開閉により連通・遮断される。
【0023】
内燃機関10には吸気通路11内の吸入空気を圧送する過給機25が設けられている。詳細には、吸気通路11におけるスロットルバルブ12の上流側の部分には、過給機25のコンプレッサ26が取り付けられている。また、内燃機関10の排気通路19には過給機25のタービン27が取り付けられている。なお過給機25は、コンプレッサ26の内部に設けられたコンプレッサホイール26Aとタービン27の内部に設けられたタービンホイール27Aとが連結された排気駆動式のものである。排気通路19において、タービン27の上流側と下流側とはバイパス通路28で接続されており、バイパス通路28にはウエイストゲートバルブ29が設けられている。ウエイストゲートバルブ29の開度が調整されることにより、タービンホイール27Aに吹き付けられる排気の流量が変更されて、過給機25による過給圧が調節される。
【0024】
ところで、上記の通り、耐摩環50は鋳鉄製であり、ピストン本体31はアルミニウム合金からなる。したがって、耐摩環50を構成する材料の比重が、ピストン本体31を構成する材料よりも大きい。また、耐摩環50を構成する材料の熱伝導率が、ピストン本体31を構成する材料の熱伝導率よりも
低い。そのため、ピストン30に耐摩環50を設けることによって、ピストン30全体の重量が重くなるとともに、放熱性が低下してしまう。
【0025】
そこで、本実施形態では、耐摩環50を以下のように形成することで、ピストン30の軽量化を図るとともに、放熱性が低下することを抑制するようにしている。以下、
図2を参照して、耐摩環50の構成について、より詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、耐摩環50は、トップリング溝32の側面32A,32Bを構成する一対の対向壁51,52と同一対の対向壁51,52を連結してトップリング溝32の底面32Cを構成する底壁53とを有している。耐摩環50では、各対向壁51,52及び底壁53の厚さが、同じ厚さD1である。なお、この厚さD1は、一定の耐用期間に亘る内燃機関10の使用を想定して設定されている。すなわち、厚さD1は、トップリング41がトップリング溝32の側面32A,32Bに幾度も当接し、同側面32A、32Bの摩耗が進行したとしても耐用期間の間に生じる摩耗によっては耐摩環50が全てすり減ってしまうことがないように設定されている。耐用期間の間に耐摩環50が全てすり減ってしまい、ピストン本体31にトップリング41が直接当接するようになった場合には、摩耗の進行が早くなるため、摩耗によるトップリング溝32の変形を所定の範囲内に抑えることはできなくなってしまう。これに対して上記のように耐用期間の間に生じる摩耗によって耐摩環50が全てすり減ってしまうことがないように厚さD1を設定すれば、耐用期間の間に生じる摩耗によるトップリング溝32の変形を所定の範囲内に抑えることができる。
【0027】
また、耐摩環50の一対の対向壁51,52のうち、ピストン頂面35側に位置する第1の対向壁51は、外径R1がトップリング41の内径R2よりも大きいもののピストン本体31の外径R3よりも小さい。したがって、第1の対向壁51の外周端51Aは、ピストン径方向においてトップリング41の内周面41Aとピストン本体31の外周面30Aとの間に位置している。なお、トップリング溝32のピストン頂面35側に位置する側面32Aと底面32Cとが交差する角部32Dから第1の対向壁51の外周端51Aまでの長さ、すなわち、第1の対向壁51のピストン径方向の長さは、トップリング溝32の深さ(側面32Aのピストン径方向の長さ)の略1/2となっている。ここで、一般的に、トップリング溝32にトップリング41を収容した場合、トップリング41が同トップリング溝32の深さの1/2の深さよりも奥まで収容される。したがって、第1の対向壁51のピストン径方向の長さをトップリング溝32の深さの略1/2の長さに設定することで、第1の対向壁51の外周端51Aを、ピストン径方向においてトップリング41の内周面41Aよりもピストン径方向の外側に位置させることができる。また、トップリング溝32においてピストン頂面35側に位置する側面32Aは、ピストン30の外周面30A側の部位がピストン本体31と一体となっており、同ピストン本体31を構成するアルミニウム合金で構成されている。したがって、ピストン30のトップランドの外周面36Aは全領域がピストン本体31を構成するアルミニウム合金で構成されている。
【0028】
一方、耐摩環50の一対の対向壁51,52のうち、トップリング溝32においてピストン頂面35とは反対側に位置する第2の対向壁52は、外径がピストン本体31の外径R3と等しい。したがって、第2の対向壁52の外周端52Aは、ピストン30の外周面30Aの一部を構成している。
【0029】
また、本実施形態では、耐摩環50の上面55とピストン中心軸C側に位置する内周面56とが交わる上側内周縁部58は、面取り形状となっている。ここで、トップリング溝32の上記角部32Dから耐摩環50の上面55に垂直に下ろした仮想面S1が上面55と交わる部位を上面内周端55Aとし、角部32Dから耐摩環50の内周面56に垂直に下ろした仮想面S2が内周面56と交わる部位を内周面上端56Aとすると、上側内周縁部58は、上面内周端55Aと内周面上端56Aとを結ぶ傾斜面となっている。したがって、上側内周縁部58における厚さD2は、各対向壁51,52及び底壁53の厚さD1よりも薄くなっている。一方、耐摩環50の下面57と内周面56とが交わる下側内周縁部59は、下面57と内周面56とが直角に交差する角部となっている。したがって、下側内周縁部59における厚さD3は、各対向壁51,52及び底壁53の厚さD1よりも厚くなっている。
【0030】
次に、本実施形態の作用を説明する。
内燃機関10においては、燃料噴射弁13から燃焼室15内に燃料が噴射され、点火プラグ17により燃料と吸気との混合気に点火がなされることにより、混合気が燃焼して高圧の燃焼ガスが発生する。また、内燃機関10においては、ノッキングやプレイグニッションなどの異常燃焼が発生することもあり、こうした異常燃焼時には、通常の燃焼時よりも高い圧力の燃焼ガスが発生する。トップリング41は、外周側の部位がトップリング溝32から露出しているため、通常燃焼又は異常燃焼により発生した高圧の燃焼ガスが、トップリング41の外周側の部位に作用する。そのため、この燃焼ガスの作用によってトップリング41がねじれ、トップリング41の内周側端面がトップリング溝32のピストン頂面35側の側面32Aに当接することがある。また、トップリング41には、高圧の燃焼ガスの圧力が、トップリング41をピストン頂面35側から第2の対向壁52に押圧するように作用する。したがって、高圧の燃焼ガスの圧力がトップリング41に作用するときには、トップリング溝32においてピストン頂面35とは反対側に位置する側面32Bの全体と、ピストン頂面35側の側面32Aにおけるピストン径方向内側の部位とにおいてトップリング41が当接しやすくなる。
【0031】
本実施形態では、耐摩環50の第2の対向壁52がピストン外周面30Aまで延びており、第1の対向壁51がトップリング41の内周面41Aよりも径方向外側まで延びている。そのため、トップリング溝32の側面32A,32Bのうち高圧の燃焼ガスの圧力がトップリング41に作用するときにトップリング41が当接しやすい部位は、耐摩環50の対向壁51,52で構成されることになる。したがって、摩耗が生じやすい部位に耐摩環50の対向壁51,52が位置しているため、トップリング溝32の摩耗が抑制される。
【0032】
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態の内燃機関10のピストン30は、ピストン本体31と耐摩環50とを備えている。ピストン本体31は、アルミニウム合金からなり、耐摩環50は、アルミニウム合金よりも比重が大きい鋳鉄からなる。また、耐摩環50はピストン頂面35とは反対側に位置する第2の対向壁52の外径がピストン本体31の外径R3と等しい一方で第1の対向壁51の外径R1がトップリング41の内径R2よりも大きいもののピストン本体31の外径R3よりも小さい。また、トップリング溝32においてピストン頂面35側に位置する側面32Aの一部がピストン本体31を構成するアルミニウム合金で構成されている。
【0033】
本実施形態では、このように第1の対向壁51が第2の対向壁52よりも短くされており、ピストン頂面35側の側面32Aの一部が耐摩環50を構成する材料よりも比重の小さいピストン本体31を構成する材料で構成されることになる。そのため、第1の対向壁が第2の対向壁と等しい長さに形成され、トップリング溝の全面が耐摩環によって形成されている構成と比べて、ピストン30を軽量化することができる。
【0034】
また、耐摩環50の第2の対向壁52がピストン外周面30Aまで延びており、第1の対向壁51がトップリング41の内周面41Aよりも径方向外側まで延びている。そのため、トップリング溝32の側面32A,32Bのうち高圧の燃焼ガスの圧力がトップリング41に作用するときにトップリング41が当接しやすい部位は、耐摩環50の対向壁51,52で構成されている。したがって、摩耗が生じやすい部位に耐摩環50を配設し、ピストン30の軽量化を図りつつ、トップリング溝32の摩耗を抑制することができる。
【0035】
(2)本実施形態のピストン30では、耐摩環50は、上面55と内周面56とが交わる上側内周縁部58が面取り形状となっている。耐用期間の間に生じる摩耗によるトップリング溝32の変形を所定の範囲内に抑えるために必要となる一定の厚さだけ耐摩環50を設けるようにすれば、耐摩環50を構成する材料の比率を極力少なくして、ピストン30の軽量化を図ることができる。これに対して、耐摩環の上面と内周面とをそのまま直角に交わらせた形状とした場合には、内周縁部における厚さが対向壁や底壁の厚さよりも厚くなる。この点、本実施形態では、上側内周縁部58を面取り形状とすることで、上側内周縁部58の厚さが厚くなることを抑制することができるため、ピストン30を軽量化することができる。
【0036】
(3)本実施形態のピストン30は、耐摩環50が、ピストン本体31を構成するアルミニウム合金よりも熱伝導率の低い鋳鉄で構成されている。本実施形態では、第1の対向壁51が第2の対向壁52と等しい長さに形成され、トップリング溝32の全面が耐摩環50によって形成されている構成と比べて、ピストン30全体に占める耐摩環50の割合を小さくすることができるため、ピストン30全体のうち熱伝導率が低い鋳鉄からなる部分の割合を小さくすることができる。したがって、ピストン30全体としての放熱性を向上させることができる。
【0037】
(4)本実施形態の内燃機関10は、シリンダブロック14が鋳鉄製であり、耐摩環50を構成する材料と主成分が同じである。ここで、主成分が同じ金属材料からなる部材同士が摺動した場合、主成分が異なる金属材料からなる部材同士が摺動した場合に比べて部材同士が焼き付きやすい。この点、トップリング溝32におけるピストン頂面35側に位置する側面32Aの一部はピストン本体31を構成するアルミニウム合金で構成されているため、トップランドの外周面36Aの全領域はピストン本体31を構成する材料、すなわちアルミニウム合金で構成されている。したがって、ピストン30のトップランドの外周面36Aがシリンダ14Aの内周面と摺動したとしても、主成分が異なる金属材料からなる部材同士が摺動することになるため、焼き付きにくくなる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、ピストン及び内燃機関の第2実施形態を、
図3を参照して説明する。本実施形態の内燃機関には、
図3に示すピストン60が設けられている。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。なお、特に説明しない構成については、第1実施形態と同様である。
【0039】
図3に示すように、ピストン60は、ピストン本体61と耐摩環63とを備えている。耐摩環63は、ピストン60のトップリング溝62の側面62A,62B及び底面62Cを構成している。
【0040】
耐摩環63においては、上面67と内周面68とが交わる上側内周縁部69が、上面内周端67Aと内周面上端68Aとを結ぶ断面視円弧状の曲面となっている。また、上側内周縁部69の厚さは、各対向壁64,65及び底壁66の厚さD1と同じ厚さD1となっている。
【0041】
本実施形態では、上記第1実施形態における(1)〜(4)と同様の効果を奏することができる。
(第3実施形態)
次に、ピストン及び内燃機関の第3実施形態を、
図4を参照して説明する。本実施形態の内燃機関には、
図4に示すピストン70が設けられている。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。なお、特に説明しない構成については、第1実施形態と同様である。
【0042】
図4に示すように、ピストン70は、ピストン本体71と耐摩環73とを備えている。耐摩環73は、ピストン70のトップリング溝72の側面72A,72B及び底面72Cを構成している。
【0043】
耐摩環73の上側内周縁部77は、上記第1実施形態と同様に傾斜面となっている。一方、下側内周縁部80は、次のような構成となっている。まず、トップリング溝72のピストン頂面35とは反対側に位置する側面72Aと底面72Cとが交差する角部72Dから耐摩環73の下面78に垂直に下ろした仮想面S3が下面78と交わる部位を下面内周端78Aとする。また、角部72Dから耐摩環73の内周面79に垂直に下ろした仮想面S4が内周面79と交わる部位を内周面下端79Aとする。下側内周縁部80は、下面内周端78Aと内周面下端79Aとを結ぶ傾斜面となっている。したがって、下側内周縁部80の厚さは、上側内周縁部77の厚さと同じ厚さD2であり、各対向壁74,75及び底壁76の厚さD1よりも薄くなっている。
【0044】
本実施形態では、上記第1実施形態における上記(1)、(3)及び(4)と同様の効果と、以下の(5)の効果を奏することができる。
(5)本実施形態では、上側内周縁部77と下側内周縁部80との双方を面取り形状としている。したがって、双方の内周縁部77、80の厚さが厚くなることを抑制することができるため、ピストン70をより軽量化することができる。
【0045】
(第4実施形態)
次に、ピストン及び内燃機関の第4実施形態を、
図5を参照して説明する。本実施形態の内燃機関は、
図5に示すピストン90が設けられている。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。なお、特に説明しない構成については、第1実施形態と同様である。
【0046】
図5に示すように、ピストン90は、ピストン本体91と耐摩環93とを備えている。耐摩環93は、ピストン90のトップリング溝92の側面92A,92B及び底面92Cを構成している。
【0047】
耐摩環93では、上面97と内周面98とが交わる上側内周縁部99が、上面97と内周面98とが直角に交差する角部となっている。一方、下側内周縁部100は、上記第1実施形態と同様に角部となっている。したがって、各内周縁部99,100の厚さD3は、各対向壁94,95及び底壁96の厚さD1よりも厚くなっている。
【0048】
本実施形態では、上記第1実施形態における上記(1)、(3)及び(4)と同様の効果を奏することができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように適宜変更するようにしてもよい。
【0049】
・上記第3実施形態では、上側内周縁部と下側内周縁部との面取り形状を傾斜面としているが、上側内周縁部と下側内周縁部とを断面視円弧状の曲面としてもよい。また、何れか一方を傾斜面とし、他方を円弧状の曲面としてもよい。また、第1及び第2実施形態では、上側内周縁部を面取り形状とし、下側内周縁部を角部としているが、上側内周縁部を角部とし、下側内周縁部を面取り形状としてもよい。また、各内周縁部の何れかを面取り形状を形成する場合には、上記各実施形態に示す態様よりも深い又は浅い面取り形状を形成するようにしてもよい。
【0050】
・上記各実施形態では、第1の対向壁のピストン径方向の長さを、トップリング溝の深さの略1/2としている。しかしながら、第1の対向壁のピストン径方向の長さは、第1の対向壁の外径がトップリング溝に収容されるピストンリングの内径よりも大きいもののピストン本体の外径よりも小さければよく、トップリング溝の側面のピストン径方向の長さの1/2よりも長くても、短くてもよい。
【0051】
・上記各実施形態では、耐摩環の各対向壁及び底壁の厚さを同じ厚さとしている。しかしながら、各対向壁と底壁の厚さは同じ厚さでなくてもよく、第1の対向壁と第2の対向壁の厚さも異なる厚さであってもよい。なお、そのような場合であっても、各対向壁の厚さは、トップリング溝の各側面に生じる摩耗によるトップリング溝の変形を所定の範囲内に抑えるために適した厚さに設定することが望ましい。
【0052】
・上記各実施形態では、ピストンのトップリング溝に対応して耐摩環を設けるようにしているが、その他のリング溝に対応して、上記各実施形態と同様の構成の耐摩環を設けるようにしてもよい。
【0053】
・上記各実施形態では、ピストン本体をアルミニウム合金で構成し、シリンダブロックと耐摩環を鋳鉄製としている。しかしながら、ピストン本体とシリンダブロック及び耐摩環を構成する材料は、これらの材料に限定されない。
【0054】
要するに、ピストン本体よりも比重の大きな材料で構成される耐摩環を小さくすることにより、ピストン全体に占める耐摩環を構成する材料の割合を少なくして、ピストンを軽量化することができればよい。したがって、例えば、シリンダブロックと耐摩環とを主成分が同じ金属材料で構成し、ピストン本体は、耐摩環よりも比重が小さい材料で構成するようにしてもよいし、さらに、ピストン本体を耐摩環を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料で構成してもよい。また、シリンダブロックと耐摩環とを主成分の異なる金属材料で構成し、ピストン本体は、耐摩環よりも比重が小さい材料で構成するようにしてもよい。さらに、ピストン本体を耐摩環を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料で構成してもよい。
【0055】
・上記各実施形態では、第2の対向壁の外径をピストン本体の外径と等しくした構成を例示したが、第1の対向壁の外径がリング溝に収容されるピストンリングの内径よりも大きく、且つピストン本体の外径よりも小さくなっていれば、リング溝の側面のうちピストン頂面側の側面の摩耗が生じやすい部位に耐摩環を配設し、ピストンの軽量化を図りつつ、リング溝の摩耗を抑制することができる。そのため、第2の対向壁の外径は、ピストン本体の外径よりも小さくされていてもよい。例えば、第2の対向壁の外径をピストン本体の外径よりも小さく、且つ第1の対向壁の外径よりも大きくする構成を採用することもできる。また、第1の対向壁の外径と第2の対向壁の外径とを等しくする構成や、第2の対向壁の外径を第1の対向壁の外径よりも小さくする構成を採用することもできる。