(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フロントウインド部材を下方から支持し、該フロントウインド部材が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部と、該膨出部から下方に延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から車両前方に延びる下面部とを有するカウルパネルを備えた車両の前部車体構造であって、
上記膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、
上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、
上記補強部は、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合された
車両の前部車体構造。
フロントウインド部材を下方から支持し、該フロントウインド部材が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部と、該膨出部から下方に延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から車両前方に延びる下面部とを有するカウルパネルを備えた車両の前部車体構造であって、
上記膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、
上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、
上記補強部は、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合され、
上記補強部のうち最上部の補強部は、上記膨出部の少なくとも一部を縦壁部方向または下面部方向へ屈曲形成された
車両の前部車体構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、軽量かつ簡易な構造でフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による車両の前部車体構造は、フロントウインド部材を下方から支持し、該フロントウインド部材が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部と、該膨出部から下方に延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から車両前方に延びる下面部とを有するカウルパネルを備えた車両の前部車体構造であって、上記膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、上記補強部は、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
上述の振動減衰部材としては、温度が20℃で、かつ、加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の粘弾性部材を用いることができる。
【0007】
上記構成によれば、少なくとも1つの補強体でカウルパネルの膨出部と縦壁部とをつなぐ、または、カウルパネルの膨出部と下面部とをつなぐので、カウルパネルの剛性を確保しつつ、カウルパネルの揺動を抑制することができる。
しかも、補強体の板厚を増加することなく、2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、該重合部の少なくとも一部に振動減衰部材を介設したので、この振動減衰部材により、効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
また、カウルパネルとしては膨出部と縦壁部と下面部とを有する所謂S字カウルを用いるので、膨出部により、カウルパネルの後方スペースを広く確保することで、インテリアデザインの自由度を向上させつつ、膨出部の前方張り出し構造により、フロントウインド部材の支持剛性の確保ができ、衝突荷重の入力時には、その第1段階(変形初期)で膨出部が変形してエネルギを吸収し、その後の第2段階(変形後期)で縦壁部が後方かつ下方に倒れてエネルギを吸収し、これにより、歩行者保護性能を確保することができる。
【0008】
この発明の一実施態様においては、上記補強体は、上記膨出部に結合されて上記縦壁部または上記下面部方向に延びる第1補強部と、上記縦壁部または上記下面部に結合されて上記膨出部方向に延びる第2補強部と、を備え、上記第1補強部と第2補強部とは重合部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
【0009】
上記構成によれば、補強体は第1補強部と第2補強部とを備えているので、必要最小限の補強部で補強体を構成することができ、部品点数および組付け工数の削減を図りつつ、軽量かつ簡易な構造でフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0010】
この発明による車両の前部車体構造は、また、フロントウインド部材を下方から支持し、該フロントウインド部材が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部と、該膨出部から下方に延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から車両前方に延びる下面部とを有するカウルパネルを備えた車両の前部車体構造であって、上記膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、上記補強部は、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合され、上記補強部のうち最上部の補強部は、上記膨出部の少なくとも一部を縦壁部方向または下面部方向へ
屈曲形成されたものである。
【0011】
上記構成によれば、車両最上部の補強部がカウルパネルの膨出部と一体形成されており、部品点数および組付け工数の削減を図りつつ、重合部に介設した振動減衰部材により、フロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記補強体は、上記膨出部の後端部の少なくとも一部を上記縦壁部の後面方向へ
屈曲形成された第1補強部と、上記縦壁部の後面に結合されて上記膨出部方向に延びる第2補強部と、を備え、上記第1補強部と第2補強部とは重合部を有し、上記第1補強部と上記第2補強部とが上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものである。
【0013】
上記構成によれば、補強体は膨出部と一体の第1補強部と、別体の第2補強部とを備えているので、必要最小限の補強部で補強体を構成することができ、部品点数および組付け工数のさらなる削減を図りつつ、軽量かつ簡易な構造でフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記補強体は、少なくともカウルパネルの車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位に配設されたものである。
【0015】
上記構成によれば、車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位は、2次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹の近傍に相当するので、重合部に介設した振動減衰部材により効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記補強体は、少なくともカウルパネルの車幅方向の略中央部に配設されたものである。
【0017】
上記構成によれば、カウルパネルの車幅方向の略中央部は、1次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹の近傍に相当するので、振動減衰部材により効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記第1補強部が上記膨出部の後面に結合され、上記第2補強部が上記縦壁部の後面に結合されたものである。
【0019】
上記構成によれば、第1補強部を膨出部の後面に結合し、第2補強部を縦壁部の後面に結合する簡易な構造でありながら、振動減衰部材により、より一層効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、上記2以上の補強部のうち最上部に位置する補強部が、フロントウインド部材の接合部の下方に結合されたものである。
【0021】
上記構成によれば、上記最上部に位置する補強部をフロントウインド部材の接合部の下方に結合したので、フロントウインド部材の支持剛性がさらに高まり、これにより振動減衰部材でさらに効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、上記補強体がカウルパネルの前側に設けられており、該カウルパネルの上記下面部の下部にダッシュパネルの上端部が結合され、該上端部の近傍において上記2以上の補強部のうち最下部に位置する補強部が上記下面部に結合されたものである。
【0023】
上記構成によれば、ダッシュパネルの上端部近傍において、カウルパネルの下面部に、最下部に位置する補強部を結合したので、ダッシュパネルの支持力も有効利用することができ、よって、フロントウインド部材のパネル振動をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、カウルパネルの膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、上記補強部は、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されたものであるから、軽量かつ簡易な構造でありながら、上記振動減衰部材により、効果的にフロントウインド部材のパネル振動を低減することができる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
軽量かつ簡易な構造で、フロントウインド部材のパネル振動を低減するという目的を、フロントウインド部材を下方から支持し、該フロントウインド部材が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部と、該膨出部から下方に延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から車両前方に延びる下面部とを有するカウルパネルを備えた車両の前部車体構造において、上記膨出部と、上記縦壁部または上記下面部とをつなぐ少なくとも1つの補強体を備え、上記補強体が2以上の補強部と、補強部間の重合部とを備え、上記補強部が、上記重合部の少なくとも一部において振動減衰部材を介して結合されるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0027】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、
図1は当該前部車体構造、車室内部から前方を見た状態で示す斜視図、
図2は
図1のA−A線矢視断面図である。
図1,
図2において、左右のヒンジピラー1,1(但し、図面では車両右側のヒンジピラーのみを示す)間にはダッシュパネルとしてのダッシュロアパネル2を接合固定し、このダッシュロアパネル2でエンジンルーム3とその後方の車室4とを前後方向に仕切っている。
また、上述のヒンジピラー1の上部には、前部が低く、後部が高くなるようにフロントピラー5を接合固定している。
さらに、上述のダッシュロアパネル2の下部後端部には、フロアパネル6を接合固定している。このフロアパネル6は後方に向けて略水平に延び、車室4の底面を構成するパネルであって、このフロアパネル6の車幅方向中央部には、車室4内に突出し、かつ車両の前後方向に延びるトンネル部7が一体または一体的に形成されている。
上述のトンネル部7の上部には、フロア剛性および車体剛性の向上を図る強度部材としてのトンネルメンバ8を取付けている。
【0028】
一方、ヒンジピラー1の下部から車両側部において車両の前後方向に延びる閉断面構造の左右一対のサイドシル9,9(但し、図面では車両右側のサイドシルのみを示す)を設けると共に、トンネル部7と左右の各サイドシル9,9との間には、車幅方向に延びる断面ハット形状のフロアクロスメンバ10,10を張架して、該フロアクロスメンバ10とフロアパネル6との間には、車幅方向に延びる閉断面を形成している。
【0029】
また、トンネル部7とサイドシル9との車幅方向の中間部には、フロアパネル6とダッシュロアパネル2の下部との両者にわたるように断面ハット形状のフロアフレーム11,11を接合固定し、該フロアフレーム11と各パネル2,6との間には、前後方向に延びる閉断面を形成して、下部車体剛性の向上を図るように構成している。
さらに、左右のヒンジピラー1,1間には、その両端にブラケット12,12を介して車幅方向に延びるインパネメンバ13を横架している。このインパネメンバ13は金属製パイプ部材で形成されており
、その助手席側の外径に対して運転席側の外径が大となるように形成されており、このインパネメンバ13の運転席側には
、複数のブラケットを介してステアリングシャフト14を支持させており、該ステアリングシャフト14にはステアリングホイール15を取付けている。
【0030】
図示実施例では左ハンドル車を例示しているので、左側が運転席、右側が助手席となる。
図1において、16はダッシュロアパネル2の直後部において車幅方向中央に配設された空調ユニットであり、17はダッシュロアパネル2の直後部において助手席側に配設されたブロアユニットである。
また、
図1,
図2に示すように、上述のダッシュロアパネル2の上部車室側には、車幅方向に延びる断面ハット形状のダッシュクロスメンバ18を接合固定し、ダッシュロアパネル2とダッシュクロスメンバ18との間には、車幅方向に延びるダッシュクロス閉断面19を形成して、ダッシュパネル剛性の向上を図るように構成している。
【0031】
図2に示すように、ウインドラバー20を介してフロントウインド部材21(いわゆるフロントウインドガラス)を、その車幅方向の略全幅にわたって下方から支持するカウルパネル22を設けている。
このカウルパネル22は、フロントウインド部材21の傾斜下部における車幅方向の長さと略同等の車幅方向長さを有するもので、該カウルパネル22は、ウインドラバー20を介してフロントウインド部材21が接合されると共に、車両前方に円弧状に膨出する側面視略C字形状の膨出部22Aと、この膨出部22Aの下部に該膨出部22Aの下部のコーナアール部22Rを介して、該コーナアール部22Rから下方に延びる縦壁部22Bと、この縦壁部22Bの下端から車両前方へ略水平方向に延びる下面部22Cとを有して、全体として側面視略S字形状に構成されている。
上述の膨出部22A、縦壁部22B、下面部22Cを有する所謂S字カウルを、カウルパネル22として採用することで、膨出部22Aにより、カウルパネル22の後方スペースを広く確保することができ、これによりインテリアデザインの自由度を向上させつつ、膨出部22Aの前方張り出し構造により、フロントウインド部材21の支持剛性の確保が図れ、衝突荷重の入力時には、その第1段階(変形初期)で膨出部22Aが変形してエネルギを吸収し、その後の第2段階(変形後期)で縦壁部22Bが後方かつ下方に倒れてエネルギを吸収し、これにより、歩行者保護性能を確保すべく構成している。
【0032】
図2に示すように、上述のカウルパネル22における下面部22Cの前端部に、その後端部23aが接合されて前方に延びるカウルフロントパネル23を設け、このカウルフロントパネル23の前側縦壁部23bとの間に、車幅方向に延びる閉断面24を形成すべく、該カウルフロントパネル23の前部上側にはカウルクロスメンバ25を取付けている。
そして、上述のカウルパネル22と、カウルフロントパネル23と、カウルクロスメンバ25とにより、車幅方向に延びる所謂オープンカウル構造のカウルボックス26を形成している。
ここで、上述のダッシュロアパネル2の上端折曲片2aは、カウルパネル22の下面部22Cの下面に接合固定されている。
【0033】
図1において、22Dはカウルパネル22の助手席側に設けられた外気導入用の開口部であり、
図2において、27はエンジンルーム3の上方を開閉可能に覆うボンネットであり、このボンネット27は、ボンネットアウタパネル28と、ボンネットインナパネル29とで構成されている。
なお、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0034】
図1,
図2に示すように、カウルパネル22の膨出部22Aと縦壁部22Bとを上下につなぐ車幅方向において少なくとも1つの補強体30を設け、この補強体30は、それぞれ幅が一定で、かつ帯状の2以上の補強部31,32と、補強部31,32間の重合部33とを備えており、補強体30は、上述の重合部33の少なくとも一部(この実施例では全部)において振動減衰部材34を介して結合されている。
【0035】
図1に示すように、この実施例では、上記補強体30は、カウルパネル22(いわゆるS字カウル)の車室4側に設けられており、該補強体30は、少なくともカウルパネル22の車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位に合計2つ配設されている。つまり、車幅方向の左右両端部と車幅方向中央部との間の部位は、
図10に示すフロントウインド部材21の2次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹X,Yの近傍に相当するものである。なお、
図10に示す2次振幅モードでは、フロントウインド部材21の左部と右部とが逆相に振動する。また、
図10においては振動レベルの差異を、図示の便宜上、ハッチング密度の大小(疎密)にて示している。
【0036】
詳しくは、
図2に示すように、補強体30は、カウルパネル22の膨出部22Aの後面に結合されて縦壁部22B方向に向けて下方に延びる第1補強部31と、縦壁部22Bの後面に結合されて上述の膨出部22A方向に向けて上方に延びる第2補強部32と、を備え、第1補強部31の下部と第2補強部32の上部とを略前後方向にオーバラップさせて重合部33(重ね合せ部)を形成し、第1補強部31と第2補強部32とが重合部33の少なくとも一部(この実施例では重合部33の全部)において振動減衰部材34を介して結合されたものである。
また、上述の第1補強部31はその上端に接合片31aが一体形成されると共に、第2補強部32はその下端に接合片32aが一体形成されている。そして、
図2に示すように、上述の接合片31aが膨出部22Aの後面に結合され、上述の接合片32aが縦壁部22Bの後面に結合されたものである。
【0037】
さらに、上述の2以上の補強部のうち車両最上部に位置する補強部つまり第1補強部31は、フロントウインド部材21の接合部の下方に結合されている。すなわち、上述の第1補強部31の上端部は、ウインドラバー20の充填部位と対応すべくカウルパネル22の膨出部22A後面に結合されたものであり、これにより、フロントウインド部材21の支持剛性をさらに高め、かつ振動減衰部材34で効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減すべく構成している。
ここで、上述の振動減衰部材34としては、温度が20℃で、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の粘弾性部材を用いている。
この振動減衰部材34は、該振動減衰部材34にせん断方向の力が加わった時、振動減衰効果が最も高くなるので、
図2に示すように、フロントウインド部材21に対して補強体30なかんずく振動減衰部材34の配設方向が可及的垂直な方向であるので、充分な振動減衰効果が確保できる。
【0038】
このように、
図1,
図2で示した実施例1の車両の前部車体構造は、フロントウインド部材21を下方から支持し、該フロントウインド部材21が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部22Aと、該膨出部22Aから下方に延びる縦壁部22Bと、該縦壁部22Bの下端から車両前方に延びる下面部22Cとを有するカウルパネル22を備えた車両の前部車体構造であって、上記膨出部22Aと、上記縦壁部22Bとをつなぐ少なくとも1つの補強体30(この実施例では車両方向において合計2つの補強体30,30)を備え、上記補強体30が2以上の補強部31,32と、補強部31,32間の重合部33とを備え、上記補強部30は、上記重合部33の少なくとも一部(この実施例では重合部33の全体)において振動減衰部材34を介して結合されたものである(
図2参照)。
【0039】
この構成によれば、少なくとも1つの補強体30でカウルパネル22の膨出部22Aと縦壁部22Bとをつなぐので、カウルパネル22の剛性を確保しつつ、カウルパネル22の揺動を抑制することができる。
しかも、補強体30の板厚を増加することなく、2以上の補強部31,32と、補強部31,32間の重合部33とを備え、該重合部33の少なくとも一部に振動減衰部材34を介設したので、この振動減衰部材34により、効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
また、カウルパネル22としては膨出部22Aと縦壁部22Bと下面部22Cとを有する所謂S字カウルを用いるので、膨出部22Aにより、カウルパネル22の後方スペースを広く確保することで、インテリアデザインの自由度を向上させつつ、膨出部22Aの前方張り出し構造により、フロントウインド部材21の支持剛性の確保ができ、衝突荷重の入力時には、その第1段階(変形初期)で膨出部22Aが変形してエネルギを吸収し、その後の第2段階(変形後期)で縦壁部22Bが後方かつ下方に倒れてエネルギを吸収し、これにより、歩行者保護性能を確保することができる。
また、上記補強体30は、上記膨出部22Aに結合されて上記縦壁部22B方向(詳しくは縦壁部22Bの後面方向)に延びる第1補強部31と、上記縦壁部22Bに結合されて上記膨出部22A方向に延びる第2補強部32と、を備え、上記第1補強部31と第2補強部32とは重合部33を有し、上記第1補強部31と上記第2補強部32とが上記重合部33の少なくとも一部(この実施例では重合部33の全体)において振動減衰部材34を介して結合されたものである(
図2参照)。
【0040】
この構成によれば、補強体30は第1補強部31と第2補強部32とを備えているので、必要最小限の補強部31,32で補強体30を構成することができ、部品点数および組付け工数の削減を図りつつ、軽量かつ簡易な構造でフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
さらに、上記補強体30は、車幅方向において少なくともカウルパネル22の車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位に配設されたものである(
図1参照)。
【0041】
この構成によれば、車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位は、2次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹X,Y(
図10参照)の近傍に相当するので、重合部33に介設した振動減衰部材34により効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
さらにまた、上記第1補強部31が上記膨出部22Aの後面に結合され、上記第2補強部32が上記縦壁部22Bの後面に結合されたものである(
図2参照)。
【0042】
この構成によれば、第1補強部31を膨出部22Aの後面に結合し、第2補強部32を縦壁部22Bの後面に結合する簡易な構造でありながら、振動減衰部材34により、より一層効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
加えて、上記2以上の補強部31,32のうち最上部に位置する補強部(第1補強部31参照)が、フロントウインド部材21の接合部(ウインドラバー20の充填位置参照)の下方に結合されたものである(
図2参照)。
【0043】
この構成によれば、上記最上部に位置する補強部(第1補強部31)をフロントウインド部材21の接合部の下方に結合したので、フロントウインド部材21の支持剛性がさらに高まり、これにより振動減衰部材34でさらに効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
【実施例2】
【0044】
図3は車両の前部車体構造の他の実施例を示す側面図である。なお、
図3において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
図2で示した実施例においては、補強体30が2つの補強部31,32と、補強部31,32間の1つの重合部33とを備えていたが、
図3に示す実施例2においては、補強体40が上下方向に延びる3つの補強部41,42,43と、補強部41,42間、42,43間において略前後方向に重なり合う2つの重合部44,45とを備え、各補強部41,42および各補強部42,43は、上述の重合部44,45において振動減衰部材46,46を介して結合されたものである。
また、最上部に位置する補強部41の上端には接合片41aが一体形成されると共に、最下部に位置する補強部43の下端には接合片43aが一体形成されている。
そして、上述の接合片41aが膨出部22Aの後面に結合され、上述の接合片43aが縦壁部22Bの後面に結合されたものである。
上述の振動減衰部材46も実施例1のものと同様に、温度が20℃で、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の粘弾性部材を用いる。
【0045】
図3で示した実施例2の車両の前部車体構造は、フロントウインド部材21を下方から支持し、該フロントウインド部材21が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部22Aと、該膨出部22Aから下方に延びる縦壁部22Bと、該縦壁部22Bの下端から車両前方に延びる下面部22Cとを有するカウルパネル22を備えた車両の前部車体構造であって、上記膨出部22Aと、上記縦壁部22Bとをつなぐ少なくとも1つの補強体40(この実施例では
図1で示したように車幅方向において合計2つの補強体40,40)を備え、上記補強体40が2以上の補強部41,42,43と、補強部41,42間、42,43間の重合部44,45とを備え、上記補強部41,42,43は、上記重合部44,45の少なくとも一部(この実施例では、重合部44,45の全部)において振動減衰部材46,46を介して結合されたものである(
図3参照)。
【0046】
上記構成によれば、補強体40の板厚を増加することなく、2以上の補強部41,42,43と、補強部間の重合部44,45とを備え、該重合部44,45に振動減衰部材46,46を介設したので、この振動減衰部材46,46により、効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
【0047】
図3で示した実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図3において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、補強部は4以上であってもよい。
【実施例3】
【0048】
図4は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す側面図である。
先の実施例1,2においては補強体30,40を構成する補強部31,41を、カウルパネル22と別部材にて構成したが、
図4に示すこの実施例3においては、補強体30を構成する第1補強部31Aを、カウルパネル22と一体形成したものである。
すなわち、
図4に示すように、補強部31A,32のうち車両最上部の補強部である第1補強部31Aは、カウルパネル22の膨出部22Aの後端部の少なくとも一部を縦壁部22Bの後面方向(つまり、斜め後方下方)へ屈曲して該膨出部22Aと一体形成したものである。
この場合、板取りを考慮して、第1補強部31Aの前後長を、第2補強部32の前後長に対して充分短く設定し、カウルパネル22の材料歩留りが悪化しないように構成している。
【0049】
また、上述の第2補強部32は重合部33を形成する上片部32bを有し、この上片部32bが前高後低形状のスラント形状に形成されると共に、上片部32bの後端からカウルパネル22の縦壁部22B後面に向けて斜め前方下方に延びる補強部本体32cを設け、この補強部本体32cの下端部には接合片32dが連続して一体形成されている。
そして、上述の接合片32dが縦壁部22Bの後面に結合されたものである。
【0050】
このように、
図4で示した実施例3の車両の前部車体構造は、フロントウインド部材21を下方から支持し、該フロントウインド部材21が接合されると共に、車両前方に膨出する膨出部22Aと、該膨出部22Aから下方に延びる縦壁部22Bと、該縦壁部22Bの下端から車両前方に延びる下面部22Cとを有するカウルパネル22を備えた車両の前部車体構造であって、上記膨出部22Aと、上記縦壁部22Bとをつなぐ少なくとも1つの補強体30(この実施例では
図1で示したように車幅方向において合計2つの補強体30,30)を備え、上記補強体30が2以上の補強部31A,32と、補強部31A,32間の重合部33とを備え、上記補強部31A,32は、上記重合部33の少なくとも一部(この実施例では重合部33の全部)において振動減衰部材34を介して結合され、上記補強部31A,32のうち最上部の補強部31Aは、上記膨出部22Aの少なくとも一部を縦壁部22B方向へ屈曲して形成されたものである(
図4参照)。
【0051】
この構成によれば、車両最上部の補強部31Aがカウルパネル22の膨出部22Aと一体形成されており、部品点数および組付け工数の削減を図りつつ、重合部33に介設した振動減衰部材34により、フロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
また、上記補強体30は、上記膨出部22Aの後端部の少なくとも一部を上記縦壁部22Bの後面方向へ屈曲して形成された第1補強部31Aと、上記縦壁部22Bの後面に結合されて上記膨出部22Aの上部後端方向に延びる第2補強部32と、を備え、上記第1補強部31Aと第2補強部32とは重合部33を有し、上記第1補強部31Aと上記第2補強部32とが上記重合部33の少なくとも一部(この実施例では重合部の全体)において振動減衰部材34を介して結合されたものである(
図4参照)。
【0052】
この構成によれば、補強体30は膨出部22Aと一体の第1補強部31Aと、第2補強部32とを備えているので、必要最小限の補強部31A,32で補強体30を構成することができ、部品点数および組付け工数のさらなる削減を図りつつ、軽量かつ簡易な構造でフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
【0053】
図4で示したこの実施例3においても、その他の構成、作用、効果については先の各実施例とほぼ同様であるから、
図4において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例4】
【0054】
図5は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
前述の各実施例1〜3においては補強体30,40を、カウルパネル22の車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位に合計2つ配設したが、
図5に示すこの実施例4では上述の補強体30を、カウルパネル22の車幅方向の略中央部に合計1つ配設している。つまり、カウルパネル22の車幅方向の略中央部は、
図9に示すフロントウインド部材21の1次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹Zの近傍に相当するものである。この1次振動モードにおいては、フロントウインド部材21の下部中央が大きく振動する。また、
図9においては振動レベルの差異を、図示の便宜上、ハッチング密度の大小(疎密)にして示している。
【0055】
また、この実施例4においても、補強体30は、カウルパネル22の膨出部22Aの後面に結合されて縦壁部22B方向に延びる第1補強部材31と、縦壁部22Bの後面に結合されて上述の膨出部22A方向に延びる第2補強部32と、を備えており、第1補強部31と第2補強部32とは前後方向に重なり合う重合部33を有し、第1補強部31の下部と第2補強部32の上部とが重合部33において振動減衰部材34(前図参照)を介して結合されたものである。
さらに、この実施例4においても、振動減衰部材34としては、温度が20℃で、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の粘弾性部材を用いている。
【0056】
このように、
図5で示した実施例4においては、上記補強体30は、少なくともカウルパネル22の車幅方向の略中央部に配設されたものである(
図5参照)。
この構成によれば、カウルパネル22の車幅方向の略中央部は、1次振動モードの振幅レベルが大きくなる所謂振動の腹Z(
図9参照)の近傍に相当するので、振動減衰部材34(前図参照)により効果的にフロントウインド部材21のパネル振動を低減することができる。
【実施例5】
【0057】
図6,
図7は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示すものである。
図6は補強体の取付け構造を示す要部の斜視図、
図7は
図6のB−B線矢視断面図である。
この実施例5においては、補強体50をカウルパネル22の前側に設けている。また、補強体50は、フロントウインド部材21の2次振動モードの振動の腹X,Y(
図10参照)に対応すべく、カウルパネル22の車幅方向の左右両端部22LE,22RIと中央部との間の部位に合計2つ配設されている。
詳しくは、上述の補強体50はカウルパネル22の膨出部22A前側に結合されて下面部22C方向に延びる第1補強部51と、下面部22Cに結合されて膨出部22Aの前側方向に延びる第2補強部52とを備えており、第1補強部51の下部と第2補強部52の上部とは、前後方向に重ね合わされて重合部53を形成しており、第1補強部51と第2補強部52とが重合部53において振動減衰部材54を介して接合されたものである。
【0058】
この実施例5においても、振動減衰部材54としては、温度が20℃で、かつ、加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の粘弾性部材を用いる。
上述の第1補強部51はその上端に前低後高状に傾斜する接合片51aが一体形成されると共に、第2補強部52はその下端に車両前方へ延びる接合片52aが一体形成されており、接合片51aが膨出部22A前面に結合され、接合片52aが下面部22Cの上面に結合されている。
【0059】
図7に示すように、上述のカウルパネル22の下面部22Cの下部には、ダッシュパネルとしてのダッシュロアパネル2の上端部(上端折曲片2a)が結合されており、ダッシュロアパネル2の上端部の近傍(この実施例では上端折曲片2aの直上部)において2以上の補強部51,52のうち最下部に位置する補強部である第2補強部52が上記下面部22Cに結合されたものである。
【0060】
このように、
図6,
図7で示した実施例5においては、上記補強体50がカウルパネル22の前側に設けられており、該カウルパネル22の上記下面部22Cの下部にダッシュパネル(ダッシュロアパネル2参照)の上端折曲片2aが結合され、該上端折曲片2aの近傍において上記2以上の補強部51,52のうち最下部に位置する補強部(第2補強部52参照)が上記下面部22Cに結合されたものである(
図7参照)。
この構成によれば、ダッシュパネル(ダッシュロアパネル2)の上端部近傍において、カウルパネル22の下面部22Cに、最下部に位置する補強部(第2補強部52)を結合したので、ダッシュパネル(ダッシュロアパネル2)の支持力も有効利用することができ、よって、フロントウインド部材21のパネル振動をより一層抑制することができる。
【0061】
図6,
図7で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様の作用、効果を奏するので、
図6,
図7において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。なお、
図6において矢印Fは車両の前方を示し、矢印Rは車両の後方を示し、矢印UPは車両の上方を示す。
【実施例6】
【0062】
図8は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
この実施例6においても、先の実施例5と同様に補強体50をカウルパネル22の前側に設けている。
図8で示す実施例6においては、補強体50は、フロントウインド部材21の1次振動モードの振動の腹Z(
図9参照)に対応すべく、カウルパネル22の車幅方向の略中央部に配設している。
この実施例6において、その他の点については、
図6,
図7で示した実施例5と同様である。このため、該実施例6においても、ダッシュロアパネル2の支持力をも有効利用することができるので、フロントウインド部材21のパネル振動をより一層抑制することができる。
なお、
図8において
図6と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
[解析評価]
図11は、比較例品のものと、
図8で示した実施例6のものと、
図6で示した実施例5のものと、
図5で示した実施例4のものと、
図1で示した実施例1のものと、に対してフロントウインド部材21の振動レベルの低減効果を解析評価した特性図である。
比較例のものは、実施例1の車体構造から補強体30を全て取外したもので、実施例6のものは、
図8で示したように、カウルパネル22の前側において車幅方向略中央に1つの補強体50を設けたもので、実施例5のものは、
図6で示したように、カウルパネル22の前側において車幅方向の左右両端部22LE,22RIと中央部との間の部位に合計2つの補強体50,50を設けたもので、実施例4のものは、
図5で示したように、カウルパネル22の後側において車幅方向略中央に1つの補強体30を設けたもので、実施例1のものは、
図1で示したように、カウルパネル22の後側において車幅方向の左右両端部と中央部との間の部位に合計2つの補強体30,30を設けたものである。
【0063】
解析評価方法としては、加振位置としてのフロントサスペンション取付部を加振し、フロントウインド部材21のパネル振動レベルを評価した。
図11は目標値を0(ゼロ以下であるならば目標が達成)とした場合の、比較例と実施例6,5,4,1のフロントウインド部材21の1次振動モード(
図11において多点を施して示すグラフ参照)と2次振動モード(
図11においてハッチングを施して示すグラフ参照)との振動レベルを示したものである。
上述の1次振動モードはフロントウインド部材21の振動の主要因(NVHの主要因)となり、2次振動モードはフロントウインド部材21の振動の副要因となる。
図11から明らかなように、比較例のものは1次振動モードおよび2次振動モードの何れにおいても振動レベルが目標値よりも大きく効果がないことが判明した。
【0064】
実施例6,5,4,1のものは振動の主要因である1次振動モードにおいて振動レベルが目標値の0以下となり、振動レベルが低減でき、目標を達成したことが判明した。
【0065】
特に、実施例1のものは、振動の主要因である1次振動モード、並びに、振動の副要因である2次振動モードの両方において、振動レベルが何れも目標値のゼロまたは0以下となり、振動レベルがより一層低減できて、目標を充分に達成したことが判明した。
【0066】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュパネルは、実施例のダッシュロアパネル2に対応し、
以下同様に、
ダッシュパネルの上端部は、上端折曲片2aに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例1(
図1参照)と実施例6(
図8参照)とを組合せてもよく、または、上記実施例4(
図5参照)と実施例5(
図6参照)とを組合せてもよく、あるいは他の組合せ構造を採用してもよい。