【実施例】
【0014】
(実施例1)
実施例1では、本発明のマルチギャップ型回転電機
の参考例として、アキシャルギャップ型モー
タの事例を説明する。
実施例1のモータ1は、
図1に示す様に、シャフト2の外周に嵌合してシャフト2と一体に回転する円盤状のロータ3と、このロータ3の軸方向両側にそれぞれエアギャップを介して対向配置される第1のステータ4と第2のステータ5とを備える。
シャフト2は、一組のベアリング6を介してモータハウジング7に回転自在に支持されている。
ロータ3は、例えば、ロータ鉄心3aの両側面(ステータとの対向面)にそれぞれ突極構造を有する突極型ロータである。
【0015】
第1のステータ4と第2のステータ5は、それぞれ径方向の中央部が開口する円環状のステータ鉄心4a、5aと、このステータ鉄心4a、5aに巻装されるステータ巻線4b、5bとで構成され、ステータ鉄心4a、5aの反ロータ側端面がモータハウジング7に固定されている。
ステータ鉄心4a、5aは、ロータ3との対向面に複数のスロット(図示せず)が周方向等ピッチに形成され、周方向に隣り合うスロット同士の間に半径方向に沿って放射状に延びるティース(図示せず)が設けられている。
ステータ巻線4b、5bは、例えば、スター結線された三相コイルをステータ鉄心4a、5aに全節巻すると共に、第1のステータ4と第2のステータ5の各相コイル同士が直列に接続されて、三相端子が図示しないインバータに接続される。
【0016】
続いて
、実施例1の特徴を説明する。
第1のステータ4と第2のステータ5は、それぞれロータ3の極数と同数の磁極数を有し、且つ、互いのステータ巻線4b、5bにインバータより三相交流が供給されると、周方向の同位置でロータ3を挟んで軸方向に対向する互いの磁極同士が同一極性となるように起磁力を発生する。すなわち、ロータ3を挟んで互いの起磁力が対向関係にある。
また、ロータ鉄心3aとステータ鉄心4a、5aとの寸法関係は、以下に記載する条件(A)、条件(B)、条件(C)のいずれか一つの条件を満たしている。なお、両ステータ鉄心4a、5aの内径および外径は同一寸法である。
【0017】
条件(A)…ロータ鉄心3aの内径がステータ鉄心4a、5aの内径以下であり、且つロータ鉄心3aの外径がステータ鉄心4a、5aの外径より大きい。
条件(B)…ロータ鉄心3aの外径がステータ鉄心4a、5aの外径以上であり、且つロータ鉄心3aの内径がステータ鉄心4a、5aの内径より小さい。
条件(C)…ロータ鉄心3aの外径がステータ鉄心4a、5aの外径より大きく、且つロータ鉄心3aの内径がステータ鉄心4a、5aの内径より小さい。
図1に示す実施例1のモータ1は、条件(C)を満たす事例である。
【0018】
(実施例1の作用および効果)
実施例1のモータ1は、第1のステータ4の起磁力と第2のステータ5の起磁力とがロータ3を挟んで対向関係にある。すなわち、
図2に示す様に、第1のステータ4より発生する磁束ループと、第2のステータ5より発生する磁束ループとが互いに独立して並列に形成される。この場合、一つの磁束ループに関して言えば、磁束が通過するエアギャップが二箇所となるため、先の特許文献1に開示された従来技術と比較すると、磁気回路の磁気抵抗が小さくなる。その結果、出力密度を高めることが可能である。
また、実施例1のモータ1は、第1のステータ4および第2のステータ5において、ステータ巻線4b、5bが全節巻されるので、ステータ巻線4b、5bが作る磁界の磁極ピッチとロータ3の磁極ピッチとが一致することにより、リラクタンストルクを十分に活用できる。
【0019】
さらに、第1のステータ4および第2のステータ5は、それぞれ径方向の内外にステータ巻線4b、5bのコイルエンドが存在するため、そのコイルエンドの高さ分だけ、ロータ3の径方向寸法を大きくすることが可能である。そこで、実施例1のロータ3は、ロータ鉄心3aの外径がステータ鉄心4a、5aの外径より大きく、且つロータ鉄心3aの内径がステータ鉄心4a、5aの内径より小さく形成される。つまり、上記の条件(C)を満たしている。これにより、ロータ鉄心3aの内径側および外径側の両方で共に磁路断面積を増大できるので、周方向に流れる磁束の通り道をより多く確保できる。その結果、ロータ鉄心3aの磁気飽和を抑制でき、出力密度を高めることに寄与する。
【0020】
以下
、他の実施例(実施例2〜6)を説明する。
実施例1と同一名称を使用する部品、機能、形状等については、実施例1と同一番号を付与し、重複する説明は省略する。
(実施例2)
この実施例2は、
図4に示す様に、ロータ鉄心3aに永久磁石8を埋設した永久磁石型ロータ3を使用した事例であり、第1のステータ4および第2のステータ5の構成は実施例1と同じである。なお、以下の説明では、第1のステータ4に対向するロータ鉄心3aの軸方向一端側の表面を第1ロータ表面と呼び、第2のステータ5に対向するロータ鉄心3aの軸方向他端側の表面を第2ロータ表面と呼ぶ。
【0021】
ロータ3は、
図4に示す様に、ロータ鉄心3aの軸方向に所定の間隔を隔てて第1ロータ表面側と第2ロータ表面側とにそれぞれ同一の極対数(
図4では4極対)を有する複数の永久磁石8が埋設される。ここで、第1ロータ表面側に埋設される永久磁石8を第1磁石8aと呼び、第2ロータ表面側に埋設される永久磁石8を第2磁石8bと呼ぶ。
第1磁石8aと第2磁石8bは、
図4(a)に示す様に、それぞれ周方向に一定の間隔を有して配置され、且つ、互いの周方向位置が同一となる様に配置される。
【0022】
この第1磁石8aと第2磁石8bは、
図4(b)に示す様に、それぞれ軸方向に着磁されると共に、軸方向に対向する互いの磁極が同一極性を有し、且つ、同図(a)に示す様に、周方向に隣り合う磁石同士の極性が異なる。すなわち、複数の第1磁石8aおよび複数の第2磁石8bは、それぞれ、第1ロータ表面側および第2ロータ表面側の極性が周方向に交互に「S極」と「N極」とが配置される。
なお、第1磁石8aおよび第2磁石8bは、
図4(b)に示す様に、それぞれ軸方向外側の磁極面が第1ロータ表面および第2ロータ表面に露出した状態でロータ鉄心3aに埋設される、いわゆるインセット型と呼ばれる構造を採用している
。この実施例2では、上記のインセット型も含めて「埋設」と定義する。
【0023】
この実施例2のモータ1は、ロータ鉄心3aに永久磁石8を埋設しているので、リラクタンストルクに加えて永久磁石8によるマグネットトルクを利用できる。特に、第1磁石8aと第2磁石8bは、ロータ鉄心3aの軸方向に所定の間隔を隔てて配置される、つまり、第1磁石8aと第2磁石8bとの間に磁束の通り道が確保されている。これにより、第1磁石8aと第2磁石8bとの間をロータ鉄心3aの周方向に磁束が通ることができるため、
図3に示す様に、第1のステータ4により発生する磁束ループと第2のステータ5より発生する磁束ループの形成を阻害することなく、出力密度を高めることができる。
【0024】
(実施例3)
この実施例3は、ロータ鉄心3aに永久磁石8を埋設した他の第1事例である。
ロータ鉄心3aには、実施例2と同様に、軸方向に所定の間隔を隔てて第1ロータ表面側と第2ロータ表面側とにそれぞれ同一の極対数を有する複数の永久磁石8が埋設される〔
図5(b)参照〕。実施例2と異なる点は、
図5(a)に示す様に、第1ロータ表面側に埋設される第1磁石8aおよび第2ロータ表面側に埋設される第2磁石8bがそれぞれ周方向に着磁されていることである。
【0025】
また、第1磁石8aと第2磁石8bは、周方向に隣り合う磁石同士で周方向に対向する互いの磁極が同一極性であり、且つ、周方向の同位置に配置される磁石同士は、周方向の極性が互いに同一である。
この実施例3では、第1磁石8aおよび第2磁石8bが周方向に着磁され、且つ、周方向に対向する磁石同士の磁極が同一極性であるため、ロータ鉄心3aの漏れ磁束を低減でき、高効率化を図ることが可能である。また、第1磁石8aおよび第2磁石8bが周方向に着磁されることで、第1のステータ4および第2のステータ5からの反磁界を受ける力を弱められるため、減磁に耐え得る強力な磁石を大量に使用する必要がなく、コストを低く抑えることができる。
【0026】
(実施例4)
この実施例4は、ロータ鉄心3aに永久磁石8を埋設した他の第2事例である。
ロータ鉄心3aには、実施例2と同様に、軸方向に所定の間隔を隔てて第1ロータ表面側と第2ロータ表面側とにそれぞれ同一の極対数を有する複数の永久磁石8が埋設される〔
図6(b)参照〕。
以下、実施例2と異なる点を説明する。
この実施例4に示すロータ3は、
図6(a)に示す様に、周方向に隣り合う第1磁石8a同士の間および第2磁石8b同士の間に非磁性領域9が形成されている。非磁性領域9として、ロータ鉄心3aに空間を形成しても良いが、例えば、紙や樹脂あるいはアルミニウム等によって非磁性領域9を形成することもできる。
【0027】
第1磁石8aと第2磁石8bは、それぞれロータ鉄心3aの半径方向に所定の間隔を隔てて内径側に配置される内側磁石8ai、8biと外径側に配置される外側磁石8ao、8boとを有している。その内側磁石8ai、8biと外側磁石8ao、8boは、
図6(a)に示す様に、それぞれ径方向に着磁されると共に、その径方向に対向する互いの磁極が同一極性である。また、第1ロータ表面側と第2ロータ表面側とで周方向の同位置に配置される内側磁石8ai、8bi同士および外側磁石8ao、8bo同士は、それぞれ径方向の極性が同一である。
この実施例4の構成においても、ロータ鉄心3aの内径側と外径側とに内側磁石8ai、8biと外側磁石8ao、8boを配置し、且つ、その内側磁石8ai、8biおよび外側磁石8ao、8boの周方向両側に非磁性領域9を設けているので、実施例3と同様に、ロータ鉄心3aの漏れ磁束を低減でき、高効率化を図ることが可能である。
【0028】
(実施例5)
この実施例5は、
請求項1に係る発明の構成を具体的に説明するものであり、ロータ3の径方向外側に第3のステータ10を配置した事例である。
第3のステータ10は、
図7に示す様に、ロータ3の径方向外側にエアギャップを介して配置される。この第3のステータ10は、ステータ鉄心10aと、このステータ鉄心10aに巻装されるステータ巻線10bとを有する。
ステータ鉄心10aは、ステータ鉄心4aおよびステータ鉄心5aと連結されて一体に設けられ、ステータ鉄心4aおよびステータ鉄心5aに形成されたスロット同士を連通する複数のスロットが軸方向に沿って形成される。
ステータ巻線10bは、ステータ鉄心10aに全節巻され、かつ、ステータ巻線4b、5bと各相コイル同士が直列に接続される。
【0029】
ロータ3は、例えば、実施例1に記載したロータ3の外径面にも突極構造を設けた突極型ロータ、あるいは、実施例2〜4に記載した何れか一つのロータ3の外周面に永久磁石8を埋設した永久磁石型ロータを使用できる。
この実施例5の構成では、ロータ3の径方向外側に第3のステータ10を配置したことで、ロータ3の外周面にも力の作用点が生まれると共に、ステータ巻線4b、5bのコイルエンドが第1のステータ4および第2のステータ5の内径側だけに存在する。言い換えると、外径側のコイルエンドが無くなるため、出力密度をより高めることができる。
【0030】
なお、実施例5のモータ1は、ロータ3の径方向外側に第3のステータ10が配置されるので、ロータ鉄心3aの外径をステータ鉄心4a、5aの外径より大きくすることはできない。よって、
図7に示す様に、ロータ鉄心3aの内径をステータ鉄心4a、5aの内径より小さく形成することで、内径側の磁路断面積を増大できる。その結果、周方向に流れる磁束の通り道をより多く確保できるので、ロータ鉄心3aの磁気飽和を抑制でき、出力密度を高めることに寄与する。
【0031】
(実施例6)
この実施例6は、ステータ巻線4b、5bのコイルエンドに関する事例である。
例えば、
図10に示す様に、複数本の銅線を束ねた巻線を鉄心のスロット内に収納する従来の巻線方式では、異なる相の巻線同士が重なることでコイルエンド4be、5beの高さが大きくなる。この場合、
図11に示す様に、コイルエンド4be、5beを断面L字型に曲げることで、コイルエンド4be、5beの高さを抑えることが可能である。しかし、コイルエンド4be、5beをL字型に曲げると、軸方向への膨らみが大きくなるため、ロータ3と干渉する恐れが生じる。
【0032】
そこで、実施例6では、
図8に示す様に、コイルエンド4be、5beをクランク形状に曲げ加工したセグメント導体を使用することにより、同図(b)に示す様に、例えば、1スロットに2本のセグメント導体を整列して収納できるため、コイルエンド4be、5beの高さを低く抑えることができる。これにより、コイルエンド4be、5beをL字型に曲げる必要はなく、
図9に示す様に、軸方向ロータ側への膨らみを抑制できるので、ロータ3との干渉を防止できる。
なお、
図8および
図10は、ステータの内径側コイルエンド4be、5beを図示しているが、ステータの外径側にもコイルエンド4be、5beを有する実施例1〜4の事例では、外径側のコイルエンド4be、5beも内径側と同様にクランク形状に成形することで、ロータ3との干渉を防止できる。
【0033】
(変形例)
実施例1〜4に記載したモータ1は、ロータ鉄心3aの外径がステータ鉄心4a、5aの外径より大きく、且つロータ鉄心3aの内径がステータ鉄心4a、5aの内径より小さい条件(C)を満たす事例であるが、これに限定するものではない。つまり、実施例1に記載した条件(A)または条件(B)の関係を満たす構成であっても良い。
実施例2〜4に記載したロータ3は、ロータ鉄心3aに埋設される永久磁石8の表面が第1ロータ表面および第2ロータ表面に露出するインセット型を採用しているが、ロータ鉄心3aに磁石挿入孔を形成して、その磁石挿入孔に永久磁石8を挿入しても良い。つまり、永久磁石8の表面が第1ロータ表面および第2ロータ表面に露出しない磁石埋め込構造を採用することもできる。