特許第6048201号(P6048201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048201
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20161212BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G03G9/08 325
   G03G9/08 365
   G03G9/08 331
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-29685(P2013-29685)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2013-242523(P2013-242523A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98559(P2012-98559)
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛
(72)【発明者】
【氏名】金野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】川村 貴生
【審査官】 高松 大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−006047(JP,A)
【文献】 特開平08−292601(JP,A)
【文献】 特開平08−044104(JP,A)
【文献】 特開平07−092731(JP,A)
【文献】 特開2003−262975(JP,A)
【文献】 特開2007−121473(JP,A)
【文献】 特開2005−275146(JP,A)
【文献】 特開2008−102390(JP,A)
【文献】 特開2003−050478(JP,A)
【文献】 特開2011−100104(JP,A)
【文献】 特開2011−070179(JP,A)
【文献】 特開2002−365843(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00377553(EP,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0212398(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂および結晶性エステル化合物を含有するトナー粒子からなり、
前記結晶性エステル化合物が直鎖構造を有し、かつ、
前記結着樹脂が、下記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位を含むスチレン−アクリル系樹脂を含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【化1】

〔一般式(1)中、R1 は水素原子またはメチル基を示し、R2 は水素原子、炭素数1〜16のアルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。mは2または3を示し、nは1〜25の整数を示す。〕
【請求項2】
前記スチレン−アクリル系樹脂における一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の含有割合が、2〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1 がメチル基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R2 がメチル基であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記一般式(1)において、mが2であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記一般式(1)において、nが2〜20の整数であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
前記トナー粒子中の前記結晶性エステル化合物の含有割合が、1〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
前記結晶性エステル化合物が、エステル結合を2つ以上有する化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項9】
前記結晶性エステル化合物が、エステル結合を4つ以上有する結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項10】
前記結晶性エステル化合物が、融点60℃以上90℃未満のものであることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項11】
前記結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )をSP(E)、前記結着樹脂の溶解度パラメーター値をSP(樹脂)としたときに、
0<SP(樹脂)−SP(E)≦2.0を満たすことを特徴とする請求項10に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項12】
前記トナー粒子が、その組成が前記結晶性エステル化合物と異なるワックスを含有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項13】
前記結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )をSP(E)、前記ワックスの溶解度パラメーター値をSP(W)としたときに、
SP(W)<SP(E)を満たすことを特徴とする請求項12に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項14】
前記結晶性エステル化合物の融点をTm(E)、前記ワックスの融点をTm(W)としたときに、
Tm(W)<Tm(E)を満たすことを特徴とする請求項12または請求項13に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置において一層の省エネルギー化を図るために、より低い温度で熱定着を行うことができる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が必要とされており、このようなトナーにおいてさらに優れた低温定着性および長期間にわたって高画質の画像を安定して形成することができるよう、帯電の長期安定性を満足するトナーが求められている。
例えば、定着助剤として結晶性の材料、具体的には結晶性ポリエステル樹脂や脂肪酸エステル化合物などの結晶性エステル化合物を含有させたトナーが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されたような定着助剤を含有するトナーにおいては、熱定着時の結晶性エステル化合物と結着樹脂との相溶性が高い場合は、熱定着前において結着樹脂の可塑化が進行してトナーの耐熱保管性に劣るという問題が生じ、一方で、相溶性が低い場合は、十分な低温定着性が得られないという問題や、結晶性エステル化合物が遊離してトナー粒子の表面に露出し、トナーの帯電性が低下することによって画像濃度の低下やカブリといった画像不良を生じる、という問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、結着樹脂と結晶性エステル化合物との相溶性を制御することにより、トナー粒子中においては結晶性エステル化合物を結晶化した状態で存在させ、当該結晶性エステル化合物と結着樹脂とを熱定着時に相溶させることによって、低温定着性と帯電の長期安定性とを両立して得ることが提案されている(特許文献2、3参照)。
【0005】
しかしながら、このようなトナーによっても、近年益々高まる低温定着性、耐熱保管性および帯電の長期安定性の要求を十分に満足することができないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−222138号公報
【特許文献2】特開2004−286842号公報
【特許文献3】特開2011−149999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、優れた低温定着性、耐熱保管性および帯電の長期安定性が得られる静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂および結晶性エステル化合物を含有するトナー粒子からなり、
前記結晶性エステル化合物が直鎖構造を有し、かつ、
前記結着樹脂が、下記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位を含むスチレン−アクリル系樹脂を含有することを特徴とする。
【0009】
【化1】
【0010】
〔一般式(1)中、R1 は水素原子またはメチル基を示し、R2 は水素原子、炭素数1〜16のアルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。mは2または3を示し、nは1〜25の整数を示す。〕
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記スチレン−アクリル系樹脂における一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位の含有割合が、2〜20質量%であることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記一般式(1)において、R1 がメチル基であることが好ましい。
また、前記一般式(1)において、R2 がメチル基であることが好ましい。
また、前記一般式(1)において、mが2であることが好ましい。
また、前記一般式(1)において、nが2〜20の整数であることが好ましい。
【0012】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子中の前記結晶性エステル化合物の含有割合が、1〜30質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性エステル化合物が、エステル結合を2つ以上有する化合物であることが好ましく、エステル結合を4つ以上有する結晶性ポリエステル樹脂であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性エステル化合物が、融点60℃以上90℃未満のものであることが好ましい。
【0015】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )をSP(E)、前記結着樹脂の溶解度パラメーター値をSP(樹脂)としたときに、
0<SP(樹脂)−SP(E)≦2.0を満たすことが好ましい。
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子が、その組成が前記結晶性エステル化合物と異なるワックスを含有することが好ましい。
【0017】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )をSP(E)、前記ワックスの溶解度パラメーター値をSP(W)としたときに、
SP(W)<SP(E)を満たすことが好ましい。
【0018】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性エステル化合物の融点をTm(E)、前記ワックスの融点をTm(W)としたときに、
Tm(W)<Tm(E)を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のトナーによれば、当該トナーが結着樹脂および結晶性エステル化合物を含有するトナー粒子からなり、結着樹脂を構成するスチレン−アクリル系樹脂に上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位が含まれていることによって、優れた低温定着性、耐熱保管性および帯電の長期安定性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0021】
〔トナー〕
本発明のトナーは、結着樹脂および結晶性エステル化合物を含有するトナー粒子からなり、結着樹脂が、上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル系単量体(以下、「エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体」ともいう。)に由来の構造単位(以下、「エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位」ともいう。)を含むスチレン−アクリル系樹脂(以下、「特定のスチレン−アクリル系樹脂」ともいう。)を含有し、かつ、結晶性エステル化合物が直鎖構造を有することを特徴とするものである。
【0022】
結着樹脂に特定のスチレン−アクリル系樹脂が含有されていることによって、優れた低温定着性、耐熱保管性および帯電の長期安定性が得られる。
これは、熱定着前のトナー粒子中においては結着樹脂中で結晶性エステル化合物が結晶化した状態で存在し、熱定着時に当該結晶性エステル化合物が結着樹脂中の特定のスチレン−アクリル系樹脂と相溶するためであると考えられる。
具体的には、特定のスチレン−アクリル系樹脂に導入されたエチレン(プロピレン)グリコール鎖は、結晶性エステル化合物のエステル結合部位に高い親和性を有している。
熱定着前のトナー粒子においては、当該結晶性エステル化合物が直鎖構造を有することから、結晶性エステル化合物の結晶部位にエチレン(プロピレン)グリコール鎖が進入したような構造が形成されて結晶化していると推測される。
従って、トナー粒子の内部において結晶性エステル化合物によるドメインが均一に分散された状態となって、結晶性エステル化合物を確実にトナー粒子の内部に結晶化した状態で存在させることができる。そのため当該結晶性エステル化合物が遊離してトナー粒子の表面に露出することが抑止され、その結果、耐熱保管性が得られると共に長期間にわたって帯電性の低下が抑止される。
一方、熱定着時には、結晶性エステル化合物の結晶部位にエチレン(プロピレン)グリコール鎖が進入したような構造がトナー中に均一に形成されているため、結晶性エステル化合物はその融点付近で溶融する際に、この部位がトリガーとなって結着樹脂の可塑化が迅速かつ均一に促進されることによって優れた低温定着性が得られるものと推測される。
【0023】
〔結着樹脂〕
本発明のトナーに係る結着樹脂は、特定のスチレン−アクリル系樹脂を含有するものであれば、その他の樹脂が含有されて構成されていてもよい。
【0024】
〔特定のスチレン−アクリル系樹脂〕
結着樹脂を構成する特定のスチレン−アクリル系樹脂は、上記一般式(1)に示すエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体に由来のエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位を含むものである。
特定のスチレン−アクリル系樹脂は、例えば、上記一般式(1)で表されるエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体とその他の単量体とによる共重合体よりなるスチレン−アクリル系樹脂であってもよく、また、エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体とその他の単量体とにより形成される共重合体と、エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体を含まない単量体により形成される(共)重合体との混合樹脂よりなるスチレン−アクリル系樹脂であってもよい。
【0025】
エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体を示す上記一般式(1)において、R1 は、水素原子またはメチル基を示し、特にメチル基であることが好ましい。
また、R2 は、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示し、特にメチル基であることが好ましい。
【0026】
また、上記一般式(1)において、mは2または3を示し、特にmは2であることが好ましい。
【0027】
また、エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体を示す上記一般式(1)において、nは1〜25の整数を示し、2〜20であることが好ましく、2〜15であることがより好ましく、5〜13であることが特に好ましい。
エチレン(プロピレン)グリコール鎖の鎖長を示す繰り返しが上記の範囲であることにより、当該エチレン(プロピレン)グリコール鎖と結晶性エステル化合物との相互作用が確実に得られる。
【0028】
特定のスチレン−アクリル系樹脂におけるエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位の含有割合、すなわちエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体の比率は、2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜15質量%である。
特定のスチレン−アクリル系樹脂におけるエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位の含有割合が上記範囲であることにより、結晶性エステル化合物が特定のスチレン−アクリル系樹脂に確実に高い親和性を示し、熱定着時にこれらが相溶し、結着樹脂の可塑化が促進される効果が確実に得られる。一方、特定のスチレン−アクリル系樹脂におけるエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位の含有割合が過大である場合は、結着樹脂のガラス転移点が低いものとなり、十分な耐熱保存性が得られないおそれがある。また、特定のスチレン−アクリル系樹脂におけるエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位の含有割合が過小である場合は、エチレン(プロピレン)グリコール鎖による可塑化の促進効果が十分に得られず、低温定着性が十分に得られないおそれがある。
【0029】
特定のスチレン−アクリル系樹脂の形成に使用されるその他の単量体としては、エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体と共重合してスチレン−アクリル系樹脂を形成することができるものであれば特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。
・スチレンおよびその誘導体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。これらの中でもスチレンが好ましい。
・メタクリル酸、メタクリル酸エステルおよびその誘導体
メタクリル酸、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
・アクリル酸、アクリル酸エステルおよびその誘導体
アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニルおよびこれらの誘導体など。これらの中でもアクリル酸n−ブチルが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下のビニル系の重合性単量体を用いることもできる。
・オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレンなど。
・ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
・ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
・ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
・N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
・その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0031】
また、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下の例えばカルボキシル基、リン酸基などのイオン性解離基を有する重合性単量体を使用することが好ましい。
・カルボキシ基を有する重合性単量体
アクリル酸、メタクリル酸、αーエチルアクリル酸、クロトン酸等の(メタ)アクリル酸、およびα−アルキル誘導体あるいはβ−アルキル誘導体;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;コハク酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、コハク酸モノアクリロイルオキシエチレンエステル、フタル酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノメタクリロイルオキシエチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステル誘導体など。
・リン酸基を有する重合性単量体
アシドホスホオキシエチルメタクリレートなど。
【0032】
さらに、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下の多官能性ビニル類を使用して結着樹脂を架橋構造のものとすることもできる。
・多官能性ビニル類
エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなど。
【0033】
特定のスチレン−アクリル系樹脂のガラス転移点は、30〜50℃であることが好ましく、より好ましくは35〜48℃である。
特定のスチレン−アクリル系樹脂のガラス転移点が上記範囲にあることにより、低温定着性が確実に得られる。
【0034】
特定のスチレン−アクリル系樹脂のガラス転移点は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定されるものである。
測定手順としては、試料(特定のスチレン−アクリル系樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃〜200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点として示す。
【0035】
また、特定のスチレン−アクリル系樹脂の軟化点は、トナーに低温定着性を得る観点から、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは90〜110℃である。
【0036】
特定のスチレン−アクリル系樹脂の軟化点は、下記に示すフローテスターによって測定されるものである。
具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、特定のスチレン−アクリル系樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、特定のスチレン−アクリル系樹脂の軟化点とされる。
【0037】
また、特定のスチレン−アクリル系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは25,000〜35,000である。
特定のスチレン−アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあることにより、低温定着性および定着分離性が確実に得られる。一方、特定のスチレン−アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が過大である場合においては、低温定着性が十分に得られないおそれがある。また、特定のスチレン−アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が過小である場合においては、定着分離性が十分に得られないおそれがある。
【0038】
特定のスチレン−アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるものである。
具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流し、試料(特定のスチレン−アクリル系樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにTHFに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出されるものである。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
【0039】
本発明のトナーに係る結着樹脂に含有されていてもよいその他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂などが好ましく、また、オレフィン系樹脂などのビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。その他の樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
その他の樹脂は、結着樹脂中0〜50質量%の割合で含有されることが好ましい。
【0040】
本発明のトナーに含有される結着樹脂の溶解度パラメーター値SP(樹脂)は、結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値SP(E)よりも大きいものを用いることが好ましく、0<SP(樹脂)−SP(E)≦2.0であるものを用いることが好ましい。両者の溶解度パラメーター値が近いことにより、結晶性エステル化合物とエチレン(プロピレン)グリコール鎖との高い親和性が得られ、結晶性エステル化合物による結着樹脂の可塑化を促進する作用が確実に得られて、極めて優れた低温定着性が得られる。結着樹脂の溶解度パラメーター値SP(樹脂)が結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値SP(E)以下である場合は、熱定着時に結晶性エステル化合物とエチレン(プロピレン)グリコール鎖との親和性が十分に得られないおそれがある。具体的には、結着樹脂の溶解度パラメーター値SP(樹脂)は10.1〜10.3であることが好ましい。
なお、本発明のトナーを構成するトナー粒子がコア粒子の表面がシェル層によって被覆されてなるコア−シェル構造を有するものである場合は、結晶性エステル化合物はコア粒子に含有されることが好ましく、この場合、結着樹脂の溶解度パラメーター値SP(樹脂)とは、コア粒子を構成する樹脂の溶解度パラメーター値をいう。
【0041】
本発明において、溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )とは、25℃における溶解度パラメーター値であって、物質に固有の値であり、物質の溶解性を予測するための一つの有用な尺度である。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。そして、2種の物質を混合する場合に、両者のSP値の差が小さいほど、溶解度が大きくなる。
結着樹脂のSP値は、結着樹脂を形成する各単量体のSP値とモル比との積として算出されるものである。例えば、結着樹脂がX、Yの2種類の単量体より形成されるものと仮定した場合、各単量体の質量比をx、y(質量%)、分子量をMx、My、SP値をSPx、SPyとすると、この結着樹脂のSP値は下記式(1)で表される。
式(1):SP={(x×SPx/Mx)+(y×SPy/My)}×{1/(x/Mx+y/My)}
単量体のSP値は、その単量体の分子構造中の原子または原子団に対して、Fedorsによって提案された「Polym.Eng.Sci.Voll14.p114(1974)」から蒸発エネルギー(Δei)およびモル体積(Δvi)を求め、下記式(2)から算出される。但し、重合時開裂する二重結合については、開裂した状態をその分子構造とする。
式(2):σ=(ΣΔei/ΣΔvi1/2
上記式(2)によって単量体のSP値を算出することができない場合は、具体的な値として、ポリマーハンドブック(ワイリー社刊)第4版等の文献または独立行政法人「物質・材料研究機構」提供のデータベース PolyInfo(http://polymer.nims.go.jp)に記載の溶解度パラメータの項目(http://polymer.nims.go.jp/guide/guide/p5110.html)を参照することができる。
【0042】
〔結晶性エステル化合物〕
本発明に係るトナー粒子に含有される結晶性エステル化合物は、特定のスチレン−アクリル系樹脂におけるエチレン(プロピレン)グリコール鎖との親和性の高さによって熱定着時に主として結着樹脂に対して可塑剤として作用し、低温定着性に寄与する定着助剤として機能するものである。
結晶性エステル化合物は、直鎖構造を有するものである。本発明において、直鎖構造を有する結晶性エステル化合物とは、すべての炭素鎖が直鎖状の構造を有するものをいう。
結晶性エステル化合物としては、エステル結合を2つ以上有するものを用いることが好ましく、具体的には、脂肪酸ジエステル化合物、エステル結合を3つ以上有する結晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、エステル結合の数が多く、従って特定のスチレン−アクリル系樹脂のエチレン(プロピレン)グリコール鎖との相互作用が強く得られ、熱定着時の相溶性が強く得られると考えられることから、エステル結合を4つ以上有する結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0043】
本発明において、結晶性エステル化合物とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する化合物をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0044】
モノエステル化合物の具体例としては、例えばステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘン酸ベヘニル、パルミチン酸ベヘニル、アラキジン酸ベヘニル、テトラコサン酸ステアリル、ヘキサコサン酸ステアリルなどが挙げられる。
脂肪族ジエステル化合物の具体例としては、例えばアジピン酸ジステアリル、エチレングリコールジステアレート、コハク酸ジベヘニル、コハク酸ジステアリル、アジピン酸ジベヘニル、セバシン酸ジステアリル、エチレングリコールジベヘネート、1,4−ブタンジオールジステアレート、1,4−ブタンジオールジベヘネート、1,6−ヘキサンジオールジステアレート、1,6−ヘキサンジオールジベヘネートなどが挙げられる。
【0045】
結晶性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とから生成させることができる。
ジカルボン酸成分としては、直鎖構造を有する脂肪族ジカルボン酸を用いる。ジカルボン酸成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、ジオール成分としては、直鎖構造を有する脂肪族ジオールを用い、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールを含有させてもよい。ジオール成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられ、また、これらの酸無水物を用いることもできる。
【0047】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールを用いることが好ましい。
【0048】
脂肪族ジオール以外のジオールとしては、二重結合を有するジオール、スルホン酸基を有するジオールなどが挙げられ、具体的には、二重結合を有するジオールとしては、例えば、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ヘキセン−1,6−ジオール、4−オクテン−1,8−ジオールなどが挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジオール成分としては、脂肪族ジオールの含有量が80構成モル%以上とされることが好ましく、より好ましくは90構成モル%以上である。ジオール成分における脂肪族ジオールの含有量が80構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができる。
【0049】
上記のジオール成分とジカルボン酸成分との使用比率は、ジオール成分のヒドロキシル基[OH]とジカルボン酸成分のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1〜1/1.5とされることが好ましく、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
ジオール成分とジカルボン酸成分との使用比率が上記の範囲にあることにより、所望の分子量を有する結晶性ポリエステル樹脂を確実に得ることができる。
【0050】
結晶性ポリエステル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000であることが好ましく、さらに好ましくは2,000〜30,000である。
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、測定試料として結晶性ポリエステル樹脂を用いて上記と同様にして測定されるものである。
【0051】
本発明に係る結晶性エステル化合物としては、用いる結着樹脂の種類によっても異なるが、その溶解度パラメーター値((cal/cm3 1/2 )をSP(E)としたときに、SP(E)が、8.5〜10.5であるものを用いることが好ましく、より好ましくは9.0〜10.2であるものを用いることが好ましい。
結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値SP(E)が上記のような範囲にあるものを用いることにより、当該結晶性エステル化合物とエチレン(プロピレン)グリコール鎖との高い親和性が得られ、熱定着時に結着樹脂の可塑化が促進される効果が確実に得られる。
【0052】
結晶性エステル化合物の融点をTm(E)としたとき、Tm(E)は50℃以上120℃未満であることが好ましく、60℃以上90℃未満であることがより好ましい。
結晶性エステル化合物の融点が上記の範囲にあることにより、低温定着性および定着分離性が確実に得られる。一方、結晶性エステル化合物の融点が過度に低い場合は、優れた定着分離性が満足に得られないおそれがあり、また、結晶性エステル化合物の融点が過度に高い場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0053】
結晶性エステル化合物の融点は、具体的には、示差走査熱量計として「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって測定されるものであり、この測定によって得られるDSC曲線に基づいて、第1昇温過程における結晶性エステル化合物に由来の吸熱ピークトップ温度を、融点とするものである。測定手順としては、結晶性エステル化合物3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ダイヤモンドDSCサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
【0054】
結晶性エステル化合物は、トナー粒子中において1〜30質量%の割合で含有されることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
結晶性エステル化合物の含有割合が上記範囲内であることにより、十分な低温定着性および耐熱保存性が確実に両立して得られる。結晶性エステルの含有割合が過多である場合は、結着樹脂が過度に柔らかくなるため、トナーの耐熱保存性が悪化するおそれがある。また、結晶性エステル化合物の含有割合が過少である場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0055】
〔ワックス〕
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂並びに結晶性エステル化合物の他に、その組成が当該結晶性エステル化合物と異なるワックスが内添剤として含有されていることが好ましい。
このワックスは、定着分離性などに寄与する離型剤として機能するものである。
【0056】
ワックスは、当該ワックスの溶解度パラメーター値((cal/cm3 1/2 )をSP(W)としたときに、SP(W)<SP(E)を満たすものであることが好ましく、具体的にはそれらの差が0.1以上であることが好ましい。
ワックスおよび結晶性エステル化合物が上記の関係を満たすことにより、ワックスによる離型性と、結晶性エステル化合物による結着樹脂の可塑化を促進する効果がそれぞれ確実に得られる。
【0057】
ワックスの溶解度パラメーター値SP(W)は、併用する結晶性エステル化合物の溶解度パラメーター値SP(E)によっても異なるが、具体的には8.1〜8.9であることが好ましく、より好ましくは8.1〜8.7である。ワックスの溶解度パラメーター値SP(W)が上記の範囲内にあることにより、熱定着時に良好な離型性を発揮させることができる。一方、ワックスの溶解度パラメーター値SP(W)が過度に低い場合は、結着樹脂中に保持することができずにブリードが生じることによって十分な耐熱保管性が得られないおそれや、機内汚染による画像不良が生じるおそれがあり、また、ワックスの溶解度パラメーター値SP(W)が過度に高い場合は、十分な離型性が得られず定着分離性が十分に得られないおそれがある。
【0058】
ワックスの融点をTm(W)としたとき、Tm(W)はTm(W)<Tm(E)を満たすものであることが好ましく、具体的には50℃以上120℃未満であることが好ましく、より好ましくは60℃以上90℃未満である。
Tm(W)<Tm(E)を満たすワックスを用いることにより、熱定着時にワックスが先行して浸み出し、その後、結晶性エステル化合物が溶解して結着樹脂の可塑化が促進されるので、優れた定着分離性および耐ホットオフセット性が得られる。
上記の範囲の融点を有するワックスを用いることにより、得られるトナーに耐熱保存性が確保されると共に、安定した低温定着性が得られる。一方、ワックスの融点が過度に低い場合は、ブリードが生じることによってトナーに十分な耐熱保管性が得られないおそれがあり、また、ワックスの融点が過度に高い場合は、ワックスを結晶性エステル化合物に十分に先行して溶融させることができず、優れた定着分離性が満足に得られないおそれがある。
ワックスの融点は、測定試料をワックスとして上述の通りに測定したものである。
【0059】
ワックスとしては、結晶性エステル化合物と異なるものであれば特に限定されずに用いることができ、具体的には、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス;モンタンワックス;ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘン酸ベヘニル、パルミチン酸ベヘニル、アラキジン酸ベヘニル、テトラコサン酸ステアリル、ヘキサコサン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、炭化水素系ワックスを用いることが好ましい。
【0060】
ワックスは、トナー粒子中において1〜30質量%の割合で含有されることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。ワックスの含有割合が上記範囲内であることにより定着分離性が十分に得られる。ワックスの含有割合が過多である場合は、トナー粒子が過度に柔らかくなってトナーの耐熱保存性が悪化するおそれがある。
【0061】
本発明に係るトナー粒子において、結晶性エステル化合物とワックスとの合計の含有量は、2〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
ワックスと結晶性エステル化合物との合計の含有量が過少である場合は、十分な離型性および低温定着性が得られないおそれがあり、また、ワックスと結晶性エステル化合物との合計の含有量が過多である場合は、ブリードが生じることによってトナーに十分な耐熱保管性が得られないおそれがある。
【0062】
また、ワックスと結晶性エステル化合物の質量比(ワックス/結晶性エステル化合物)は、30/70〜80/20であることが好ましく、より好ましくは40/60〜70/30である。
結晶性エステル化合物に対するワックスの質量比が過少である場合は、離型性を十分に得ることができないおそれがある。結晶性エステル化合物に対するワックスの質量比が過多である場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0063】
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂並びに結晶性エステル化合物の他に、さらに、必要に応じて着色剤や荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよい。
【0064】
〔着色剤〕
着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合としては、トナー粒子中に1〜10質量%とされることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。
【0065】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
トナー粒子中における荷電制御剤の含有割合としては、結着樹脂に対して通常0.1〜10質量%とされ、好ましくは0.5〜5質量%とされる。
【0066】
〔トナーの軟化点〕
トナーの軟化点は、トナーに低温定着性を得る観点から、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは90〜110℃である。
トナーの軟化点が上記範囲にあることにより、低温定着性および定着分離性が確実に得られる。
トナーの軟化点は、試料としてトナーを用いて上記と同様に測定されるものである。
【0067】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーは、平均粒径が、例えば体積基準のメジアン径で3〜9μmであることが好ましく、より好ましくは3〜8μmとされる。この粒径は、例えば後述する乳化凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成によって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
【0068】
トナーの体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。
具体的には、試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径が体積基準のメジアン径とされる。
【0069】
〔トナーの平均円形度〕
本発明のトナーは、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
【0070】
本発明において、トナーの平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)により、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(T)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出される。
式(T):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0071】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーを製造する方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、高画質化、帯電の高安定化に有利となる粒径の均一性、形状の制御性、コア−シェル構造形成の容易性の観点から、乳化凝集法を採用することが好ましい。
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された結着樹脂の微粒子(以下、「樹脂微粒子」ともいう。)の分散液を、必要に応じて着色剤の微粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒径となるまで凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する方法である。
ここで、樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
樹脂微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。樹脂微粒子に内添剤を含有させる場合には、中でもミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
トナー粒子中に内添剤を含有させる場合は、樹脂微粒子を内添剤を含有したものとしてもよく、また、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、当該内添剤微粒子を樹脂微粒子を凝集させる際に共に凝集させてもよい。
また、トナー粒子をコア−シェル構造を有するものとして構成する場合は、凝集時に組成の異なる樹脂微粒子を時間差で添加して凝集させればよい。
【0072】
本発明に係るトナー粒子中に、特定のスチレン−アクリル系樹脂を導入する方法について、以下具体的に説明する。
乳化凝集法においては、凝集する樹脂微粒子に特定のスチレン−アクリル系樹脂を導入すればよく、樹脂微粒子が2層以上の構成を有する複合粒子からなる場合は、当該特定のスチレン−アクリル系樹脂は複合粒子のいかなる層へ導入してもよい。
乳化凝集法においては、特定のスチレン−アクリル系樹脂が導入された樹脂微粒子と共に、特定のスチレン−アクリル系樹脂を含まない樹脂からなる樹脂微粒子を凝集させてもよい。また、凝集時の特定のスチレン−アクリル系樹脂が導入された樹脂微粒子の添加時期としては、凝集の初期から後期にわたるどのタイミングにおいて添加してもよく、また、複数回に分けて添加してもよい。
また、混練粉砕法においては、特定のスチレン−アクリル系樹脂を単独でもしくはその他の樹脂と共に混練すればよい。
【0073】
また、本発明に係るトナー粒子中に結晶性エステル化合物を導入する方法としては、例えば乳化凝集法を用いてトナーを製造する場合は、凝集する樹脂微粒子に結晶性エステル化合物を導入するミニエマルション重合法を用いればよく、樹脂微粒子が2層以上の構成を有する複合粒子からなる場合は、当該結晶性エステル化合物は複合粒子のいかなる層へ導入してもよい。
また、結晶性エステル化合物による微粒子を転相乳化法などで作製し、これを樹脂微粒子と共に凝集させることによってトナー粒子中に導入することもできる。
【0074】
〔外添剤〕
本発明に係るトナー粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することできる。
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどによる無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。
必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されていてもよい。
有機微粒子としては、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子を使用することができる。具体的には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子を使用することができる。
滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用されるものであって、滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。これらの外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
外添剤の添加量は、トナー粒子に対して0.1〜10.0質量%とされる。
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
【0075】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
トナーを二成分現像剤として使用する場合において、当該トナーのキャリアに対する混合量は、2〜10質量%であることが好ましい。
トナーとキャリアを混合する混合装置は、特に限定されるものではなく、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機などが挙げられる。
【0076】
キャリアは、平均粒径が体積基準のメジアン径で10〜60μmであることが好ましい。
本発明において、キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定されるものである。
【0077】
また、キャリアとしては、磁性体粒子を芯材(コア)とし、その表面を樹脂で被覆したコートキャリアを用いることが好ましい。芯材の被覆に用いられる樹脂としては、特に制限はなく、各種の樹脂を用いることができ、例えば正帯電性のものとして構成されたトナーに対しては、フッ素系樹脂、フッ素−アクリル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂などを用いることができ、特に縮合型のシリコーン系樹脂を用いることが好ましく、また例えば負帯電性のものとして構成されたトナーに対しては、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂とメラミン系樹脂の混合樹脂およびその硬化樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などを用いることができ、その中でも、スチレン−アクリル系樹脂とメラミン系樹脂の混合樹脂およびその硬化樹脂、並びに縮合型のシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。
【0078】
本発明のトナーが二成分現像剤として使用される場合には、トナーおよびキャリアに、さらに、必要に応じて、荷電制御剤、密着性向上剤、プライマー処理剤、抵抗制御剤などを添加して二成分現像剤を形成することもできる。
【0079】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して画像支持体に転写する転写手段と、画像支持体上のトナー像を熱定着させる定着手段を有するものを用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
【0080】
以上のようなトナーによれば、当該トナーが結着樹脂および結晶性エステル化合物を含有するトナー粒子からなり、当該トナーの結着樹脂を構成するスチレン−アクリル系樹脂にエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有構造単位が含まれていることによって、優れた低温定着性、耐熱保管性および帯電の長期安定性が得られる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
結晶性ポリエステル樹脂の分子量および融点は上記と同様にして測定した。
【0083】
〔結晶性エステル化合物〔A1〕の合成例〕
三ツ口フラスコに、1,10−デカンジオール300gと、1,10−デカンジカルボン酸250gと、触媒Ti(OBu)4 (カルボン酸成分に対し、0.014質量%)とを入れた後、減圧操作により容器内の空気を減圧した。さらに、窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械撹拌にて180℃で6時間還流を行った。その後、減圧蒸留にて未反応のモノマー成分を除去し、220℃まで徐々に昇温を行って12時間撹拌を行った。粘稠な状態となったところで冷却することにより、結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕は、重量平均分子量(Mw)が17,600であり、融点が82℃であった。
【0084】
〔結晶性エステル化合物〔A2〕〜〔A5〕の合成例〕
結晶性ポリエステル樹脂の合成例A1において、カルボン酸モノマーおよびアルコールモノマーとして下記表1に記載されたものを用いることの他は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔A2〕〜〔A5〕を得た。
これらの重量平均分子量(Mw)および融点、SP値を表1に示す。
【0085】
〔結晶性エステル化合物〔A6〕の合成例〕
冷却管、温度計、撹拌機、脱水装置および窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸64重量部、ステアリルアルコール236重量部および縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)0.5重量部を投入し、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら2時間反応させ、更に5〜20mmHgの減圧下に3時間反応させて、アジピン酸ジステアリル(結晶性エステル化合物〔A6〕)を得た。
【0086】
〔結晶性エステル化合物〔A7〕の合成例〕
冷却管、温度計、撹拌機、脱水装置および窒素導入管を備えた反応容器に、ステアリン酸248g、エチレングリコール27gおよび縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)0.5gを投入し、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら2時間反応させ、更に5〜20mmHgの減圧下に3時間反応させて、エチレングリコールジステアレート(結晶性エステル化合物〔A7〕)を得た。
【0087】
〔結晶性エステル化合物〔A8〕の合成例〕
冷却管、温度計、撹拌機、脱水装置及び窒素導入管を備えた反応容器に、ベヘン酸170g、ベヘニルアルコール163gおよび縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)0.5gを投入し、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら2時間反応させ、更に5〜20mmHgの減圧下に3時間反応させて、ベヘン酸ベヘニル(結晶性エステル化合物〔A8〕)を得た。
【0088】
〔結晶性エステル化合物〔A9〕の合成例〕
冷却管、温度計、撹拌機、脱水装置及び窒素導入管を備えた反応容器に、ステアリン酸500g、ペンタエリスリトール60gおよび縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)0.5gを投入し、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら2時間反応させ、更に5〜20mmHgの減圧下に3時間反応させて、ペンタエリスリトールテトラステアレート(結晶性エステル化合物〔A9〕)を得た。
【0089】
【表1】
【0090】
<実施例1:トナーの作製例1>
(1)コア用樹脂微粒子の分散液の調製
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム4gおよびイオン交換水3000gを仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させたものを添加し、液温75℃とし、
スチレン 568g
n−ブチルアクリレート 164g
メタクリル酸 68g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、75℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行うことにより、樹脂粒子〔b1〕の分散液を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム2gをイオン交換水3000gに溶解させた溶液を仕込み、80℃に加熱後、上記の樹脂粒子〔b1〕42g(固形分換算)、ワックス「HNP−0190」(日本精蝋社製)35gおよび上記の結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕70gを、
スチレン 195g
n−ブチルアクリレート 91g
メタクリル酸 20g
n−オクチルメルカプタン 3g
からなる単量体溶液に80℃にて溶解させた溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック社製)により、1時間混合分散させることにより、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100gに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃にて1時間にわたって加熱撹拌して重合を行うことにより、樹脂粒子〔b2〕の分散液を調製した。
(第3段重合)
上記の樹脂粒子〔b2〕の分散液に、さらに、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し、80℃の温度条件下に、
スチレン 315g
n−ブチルアクリレート 145g
エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体(1−1)(表2参照) 25g
メタクリル酸 64g
n−オクチルメルカプタン 6g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却することにより、コア用樹脂微粒子〔C1〕の分散液を得た。
【0091】
(2)シェル用樹脂微粒子の分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けた反応容器に、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム2.0gをイオン交換水3000gに溶解させた界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この溶液に、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた開始剤溶液を添加し、
スチレン 564g
n−ブチルアクリレート 140g
メタクリル酸 96g
n−オクチルメルカプタン 12g
からなる化合物を混合してなる重合性単量体混合液を3時間かけて滴下した。滴下後、この系を80℃にて1時間にわたって加熱、撹拌して重合を行うことにより、シェル用樹脂微粒子〔S1〕の分散液を得た。
【0092】
(3)着色剤微粒子分散液の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90gをイオン交換水1600gに撹拌溶解した。この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「リーガル330R」(キャボット社製)420gを徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック(株)製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の分散液〔Bk〕を調製した。
この着色剤微粒子の分散液〔Bk〕における着色剤微粒子の粒子径を、電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子社製)を用いて測定したところ、110nmであった。
【0093】
(4)トナー粒子の形成
(凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、コア用樹脂微粒子〔C1〕の分散液360g(固形分換算)と、イオン交換水1100gと、着色剤微粒子の分散液〔Bk〕200gとを仕込み、液温を30℃に調整した後、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した。次いで、塩化マグネシウム60gをイオン交換水60gに溶解した水溶液を、撹拌下、30℃にて10分間かけて添加した。3分間保持した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて85℃まで昇温し、85℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6μmになった時点で、塩化ナトリウム40gをイオン交換水160gに溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させ、さらに、熟成工程として液温度80℃にて1時間にわたって加熱撹拌することにより粒子間の融着を進行させ、これにより、コア粒子〔1〕を形成した。
(シェリング工程)
次いで、シェル用樹脂微粒子〔S1〕40g(固形分換算)を添加し、80℃にて1時間にわたって撹拌を継続し、コア粒子〔1〕の表面にシェル用樹脂微粒子〔S1〕を融着させてシェル層を形成させた。ここで、塩化ナトリウム150gをイオン交換水600gに溶解した水溶液を添加し80℃にて熟成処理を行い、所望の円形度になった時点で30℃に冷却した。
(洗浄・乾燥工程)
生成した粒子をバスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40」(松本機械(株)製)で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで40℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥することにより、トナー母体粒子〔1〕を得た。
(外添剤添加工程)
トナー母体粒子〔1〕に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%および疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔1〕を作製した。
【0094】
<実施例2〜12、比較例1〜4:トナーの作製例2〜16>
トナーの作製例1において、「エチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体(1−1)」の代わりに、表3に従って、表2に記載のエチレン(プロピレン)グリコール鎖含有単量体を用いると共に、結晶性エステル化合物として、表3に従って、表1に記載のものを用いたことの他は同様にして、トナー〔2〕〜〔16〕を作製した。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
〔現像剤の製造〕
トナー〔1〕〜〔16〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径35μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6%となるよう混合することにより、現像剤〔1〕〜〔16〕を調製した。
【0098】
〔評価1:低温定着性〕
複写機「bizhub PRO C6550」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を、加熱ローラの表面温度(定着温度)を120〜200℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙上に、トナー付着量10mg/cm2 のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を120℃から5℃刻みで増加させるように変更しながら200℃まで繰り返し行った。
目視で低温オフセットによる画像汚れが観察されない定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を、最低定着温度として評価した。結果を表4に示す。なお、下限定着温度が140℃以下であるものを合格と判断する。
【0099】
〔評価2:帯電の長期安定性〕
高温高湿環境(温度30℃、湿度85%RH)において印字率10%の文字画像を10万枚連続してプリントした後、白画像およびハーフトーン画像を含むテスト画像をプリントし、当該プリントにおけるカブリを観察すると共にハーフトーン画像の画像荒れを観察し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表4に示す。
−評価基準−
◎:画像濃度の低下およびカブリはいずれも目視で観察されない。
○:画像濃度の低下および/またはカブリが20倍のルーペで若干観察されるが、実用上問題のないレベル。
△:画像濃度の低下および/またはカブリが目視で観察されるが、実用上問題のないレベル。
×:画像濃度の低下およびカブリが目視で発生し、実用上問題があるレベル。
【0100】
〔評価3:耐熱保管性〕
上記のトナー〔1〕〜〔16〕について、それぞれ、トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めてタップデンサー「KYT−2000」(セイシン企業社製)で室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で温度55℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(日開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないよう注意しながら載せて、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存した残存トナー量を測定し、下記式(3)によりトナー凝集率を算出し、これにより評価した。結果を表4に示す。
式(3):トナー凝集率(質量%)={残存トナー量(g)/0.5(g)}×100
なお、トナー凝集率が15質量%未満である場合が優良、15質量%以上20質量%以下である場合が良好として判断され、20質量%を超える場合は、実用上使用不可であり、不合格と判断される。
【0101】
【表4】