(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モノマー単位としてアクリロニトリルを含み、且つカルボキシル基を有するアクリル系共重合体と、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートからなるブロック共重合体と、を含んでなり、
前記アクリル系共重合体が、重量平均分子量45〜65万の範囲を有するものであり、 前記ブロック共重合体が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して6.0〜22.5質量部の割合で含まれてなることを特徴とする、粘着剤組成物。
一対のトリアセチルセルロース樹脂フィルムを前記粘着剤組成物を介して貼り合わせ際の、25℃50%Rh雰囲気下における、剥離強度が1.5〜10N/25mmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
第1離型紙と、粘着剤層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる粘着シートであって、前記粘着剤層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物からなる、粘着シート。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置には、位相差フィルムや偏光フィルム等の種々の光学フィルムが組み込まれているが、これら光学フィルムは、粘着剤を介して液晶セルに貼り合わされている。光学フィルムを貼り合わせる粘着剤としては、透明性や粘着強度に加え、リワーク作業の際に粘着剤の一部が被着体に残留しない特性(以下、リワーク性ともいう)も要求される。このような粘着剤として、例えば特開2009−173772号公報(特許文献1)には、アクリル系粘着剤に、シランカップリング剤とイソシアネート系架橋剤とを添加し、それら添加剤の配合量を調整することにより、粘着力とリワーク性に優れた粘着剤が実現できることが提案されている。
【0003】
ところで、光学フィルムとして、透明性や光学異方性等の観点から基材としてトリアセチルセルロース樹脂からなるフィルム(TAC)が使用されている。トリアセチルセルロース樹脂フィルムは加熱条件下や加湿条件下での伸縮が大きいため、光学フィルムをガラス基板に貼り合わせた後に浮きや剥がれが生じ易いといった問題がある。特に、光学フィルムどうしを粘着剤を介して貼り合わせた場合に浮きや剥がれが生じ易くなる。このような問題に対して、国際公開WO2010/024103号(特許文献2)には、粘着剤として、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系共重合体にイソシアネート化合物を含有させたもの使用することにより、浮きや剥がれに起因するいわゆる白ヌケを防止し、接着強度等の耐久性にも優れる光学フィルムが得られることが開示されている。しかしながら、イソシアネート化合物を含有するアクリル系粘着剤を使用すると、粘着剤で貼り合わせた光学フィルムの使用環境下によっては粘着剤が黄変する場合があり、イソシアネートを含有しないアクリル系粘着剤が求められていた。
【0004】
上記したような浮きや剥がれの問題は、光学フィルムの伸縮に追従できるような軟質の粘着剤を使用することによって解消できるが、軟質の粘着剤では、粘着剤を塗布した光学フィルムを所望の形状に裁断する際に、裁断機の刃に粘着剤が付着したり、また、粘着剤を塗布した光学フィルムを取り扱う際に、手に粘着剤が付着するなど、作業性が低下するといった問題がある。また、軟質の粘着剤では、上記したようなリワーク性が劣ってしまう。このような問題に対して、例えば特開2012−141620号公報(特許文献2)には、特定の環境下での引っ張り弾性率が所定範囲にある水酸基含有モノマー単位を含むアクリル系共重合ポリマーを用いることにより、粘着力やリワーク性に加え、浮きや剥がれが生じにくい粘着剤を実現できることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは今般、モノマー単位としてアクリロニトリルを含み、且つカルボキシル基を有するアクリル系共重合体からなる粘着剤において、アクリル系共重合体の質量平均分子量が45〜65万の範囲とし、該アクリル系共重合体に、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートからなるトリブロックコポリマーを所定の割合で添加することにより、粘着強度およびリワーク性が優れるとともに、浮きや剥がれが生じにくく、作業性にも優れる粘着剤を実現できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、粘着強度およびリワーク性が優れるとともに、浮きや剥がれが生じにくく、作業性にも優れる粘着剤を実現できる粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による粘着剤組成物は、モノマー単位としてアクリロニトリルを含み、且つカルボキシル基を有するアクリル系共重合体と、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートからなるトリブロック共重合体と、を含んでなり、
前記アクリル系共重合体が、重量平均分子量45〜65万の範囲を有するものであり、
前記トリブロック共重合体が、前記アクリル系共重合体に対して6.0〜22.5質量部の割合で含まれてなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の実施態様においては、前記アクリル系共重合体が、さらに水酸基を有してなることが好ましい。
【0010】
また、本発明の実施態様においては、前記トリブロック共重合体が、モノマー単位としてブチルアクリレートを60〜80モル%含んでなることが好ましい。
【0011】
また、本発明の実施態様においては、エポキシ系架橋剤をさらに含んでなることが好ましい。
【0012】
また、本発明の実施態様においては、一対のトリアセチルセルロース樹脂フィルムを前記粘着剤組成物を介して貼り合わせ際の、25℃50%Rh雰囲気下における、剥離強度が1.5〜10N/25mmであることが好ましい。
【0013】
本発明の別の態様による粘着シートは、第1離型紙と、粘着剤層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる粘着シートであって、前記粘着剤層が、上記粘着剤組成物からなるものである。
【0014】
また、本発明の別の態様による貼合体の製造方法は、上記粘着シートを用いて貼合体を製造する方法であって、
前記粘着シートから、第1離型紙を剥離し除去して粘着剤層を露出させ、
被着体であるポリカーボネート樹脂フィルムに粘着剤層を貼り合わせ、
前記粘着シートから、第2離型紙を剥離して、他方の被着体と粘着剤層とを貼り合わせて、ポリカーボネート樹脂フィルムと前記他方の被着体とを接着する、
ことを含んでなるものである。
【0015】
また、本発明の実施態様においては、他方の被着体がトリアセチルセルロース樹脂フィルムであってもよい。
【0016】
また、本発明においては、上記製造方法により得られた貼合体も提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着剤組成物によれば、光学フィルムを貼り合わせた際にも、光学フィルムの伸縮に粘着剤が追従するため、浮きや剥がれを有効に抑制できるとともに、貼り合わせた光学フィルムを高温多湿環境下で使用した場合であっても、粘着剤の黄変を抑制することができる。また、本発明の粘着剤組成物によれば、光学フィルムを表示装置に貼り合わせる組立工程においても、粘着剤を塗布した光学フィルムを所望の形状に裁断する際に、裁断機の刃に粘着剤が付着したり、また、粘着剤を塗布した光学フィルムを取り扱う際に、手に粘着剤が付着したりすることもなく作業性に優れるとともに、リワーク性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<粘着剤組成物>
本発明による粘着剤組成物は、アクリル系共重合体と、特定のトリブロック共重合体とを必須成分として含む。以下、粘着剤組成物を構成する各成分について説明する。
【0020】
<アクリル系共重合体>
本発明による粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体は、モノマー単位としてアクリロニトリルを含み、且つカルボキシル基を有するモノマー単位を含む単量体を、共重合させて得られるものである。カルボキシル基を有するモノマー単位としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体は1種または2種以上含まれていてもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいうものとする。
【0021】
上記したようなアクリロニトリルを含み、且つカルボキシル基を有するアクリル系共重合体と、後記するトリブロック共重合体とを併用することにより、粘着剤の粘着強度を適切にコントロールすることができる。そのため、光学フィルムを貼り合わせた際にも、浮きや剥がれを有効に抑制できるとともに、光学フィルムを表示装置に貼り合わせる組立工程においても、粘着剤を塗布した光学フィルムを所望の形状に裁断する際に、裁断機の刃に粘着剤が付着したり、また、粘着剤を塗布した光学フィルムを取り扱う際に、手に粘着剤が付着したりすることもなく作業性やリワーク性に優れる。アクリル系共重合体にアクリロニトリルが含まれない場合、粘着強度が低くなりすぎて耐久性やリワーク性を維持できなくなる。
【0022】
上記したアクリル系共重合体は、他のモノマー単位が含まれていてもよく、例えば(メタ)アクリル酸エステルを好適に使用することができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等を使用することができる。これらアクリル酸エステルは1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0023】
上記したアクリロニトリルおよびカルボキシル基含有(メタ)アクリレートは、アクリル系粘着剤の接着性およびリワーク性を考慮して、(メタ)アクリル酸エステルに添加することができる。(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位に対して、質量基準においてアクリロニトリルを1.0〜15.0%添加することが好ましく、また、(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位に対して、質量基準においてカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体を0.1〜10%添加することが好ましい。
【0024】
本発明に使用されるアクリル系共重合体は、任意のモノマー単位として、上記した(メタ)アクリル酸エステルに加えて、水酸基含有(メタ)アクリレートが含まれていてもよい。水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、メタリルアルコール等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリレートは1種または2種以上含まれていてもよい。上記したような水酸基含有(メタ)アクリレートのなかでも、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく使用でき、これら水酸基含有(メタ)アクリレートが含まれることにより、ガラス転移温度が高くなり、粘着剤組成物を塗布した際の塗布膜を硬くすることができるため、アクリル系粘着剤のリワーク性を向上させることができる。
【0025】
上記した水酸基含有(メタ)アクリレートは、アクリル系粘着剤の接着性およびリワーク性を考慮して、(メタ)アクリル酸エステルに添加することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して、質量基準において水酸基含有(メタ)アクリレート単量体を10〜75%添加することが好ましい。
【0026】
また、本発明においては、上記したモノマー単位以外にも、適宜、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート単量体や、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリレート単量体が含まれていてもよい。
【0027】
本発明において使用されるアクリル系共重合体は、上記したモノマー単位を、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合等の方法により重合させることにより得ることができるが、上記アクリル系共重合体が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記アクリル系共重合体が溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。
【0028】
溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル系共重合体の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0029】
本発明に使用されるアクリル系共重合体は、質量平均分子量が45万〜65万の範囲にある。この範囲のものを使用することにより、粘着剤の接着力とリワーク性とを兼ね備えた粘着剤とすることができる。質量平均分子量が45万〜65万の範囲外にあるアクリル系共重合体を使用した場合、粘着力と硬さのバランスとを兼ね備えることが困難となり、リワーク性、作業性、浮きや剥がれへの耐性のいずれをも兼ね備えた粘着剤組成物を実現することが困難となる。なお、アクリル系共重合体の好ましい質量平均分子量の範囲は、50万〜60万である。なお、質量平均分子量は、ポリスチレン標準試料を用いてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定することができる。上記したようなアクリル系粘着剤としては、市販のものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテックス株式会社のWS−023、SG−790等を好適に使用することができる。
【0030】
<トリブロック共重合体>
次に、本発明による粘着剤組成物に含まれるトリブロック共重合体について説明する。本発明による粘着剤組成物は、上記したアクリル系共重合体に加えて、トリブロック共重合体として、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレート(以下、MMA−BA−MMAと表記する場合がある。)からなるトリブロック共重合体を含む。上記したMMA−BA−MMAブロック共重合体は、MMA単位が「硬い」セグメントとなり、BA単位が「柔らかい」セグメントとなる。上記のような「硬い」セグメントと「柔らかい」セグメントとを併せ持つアクリル系トリブロック共重合体を含有することにより、適度な接着強度とリワーク性を両立させながら、浮きや剥がれを有効に抑制することができる。
【0031】
上記したアクリル系トリブロック共重合体は、一般的なリビングラジカル重合を用いて製造することができる。このうち、重合反応の制御の容易さの点などから、原始移動ラジカル重合によって好適に製造することができる。原子移動ラジカル重合法は、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、金属錯体を触媒とする重合法である。リビングラジカル重合法によりMMA−BA−MMAブロック共重合体を製造する場合、モノマー単位を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次の重合体ブロックを重合する方法、別々に重合した重合体ブロックを反応により結合する方法などが挙げられるが、モノマー単位の逐次添加による方法によってMMA−BA−MMAブロック共重合体を製造することが好ましい。
【0032】
モノマー単位の逐次添加によりMMA−BA−MMAブロック共重合体を製造する場合、MMAブロックを構成するメタアクリル酸エステルと、BAブロックを構成するアクリル酸ブチルとの添加順序について、先にメタアクリル酸エステルモノマーを重合した後にアクリル酸ブチルモノマーを追加する方法と、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合した後にメタアクリル酸エステルモノマーを追加する方法が挙げられるが、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合して、BAブロックの重合末端からMMAブロックを重合させる方が、重合制御が容易である。MMAとBAとの比率は、リビングラジカル重合反応させる際のモノマーの投入量によって制御することができる。MMA−BA−MMAブロック共重合体におけるMMAブロックとBAブロックとの割合は、BAブロックの割合が増加すると、柔軟性が向上し、一方、MMAブロックの割合が増加すると、粘着剤のガラス転移温度が高くなることから、本発明においては、粘着剤としての接着力とリワーク性の観点から、BAブロックが60〜80モル%以上含まれることが好ましい。
【0033】
粘着剤組成物に含まれるトリブロック共重合体の含有量は、上記したアクリル系共重合体100質量部に対して、6.0〜22.5質量部である。トリブロック共重合体の含有量が7.5質量部未満となると、リワーク性は維持できるものの、粘着剤の接着強度が不十分となり、浮きや剥がれの問題が生じる。一方、トリブロック共重合体の含有量が225質量部を超えると、アクリル系共重合体とトリブロック共重合体とが相溶しにくくなり、粘着剤としての機能が損なわれる。好ましいトリブロック共重合体の含有量は7.5〜20.0質量部である。
【0034】
<架橋剤>
本発明による粘着剤組成物は、架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤を添加することにより、接着強度を維持しながらベタつきを改善することができる。架橋剤としては、従来公知のものを使用することができるが、上記したようにイソシアネート系架橋剤を使用すると、高温多湿環境下で粘着剤を使用した場合に黄変する場合がある。そのため、本発明においては、エポキシ系架橋剤を使用することが好ましい。エポキシ系架橋剤としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の多官能エポキシ系化合物が挙げられる。これらエポキシ系架橋剤は1種または2種以上含まれていてもよい。
【0035】
架橋剤の含有量は、粘着剤の接着力やリワーク性を考慮して適宜調整することができ、例えば、アクリル系共重合体100質量部に対して、0.001〜10質量部とすることができる。架橋剤の含有量が10質量部を超えると、粘着剤としての性能である接着力が劣り、その結果、浮きや剥がれを抑制できなくなる場合がある。
【0036】
本発明による粘着剤組成物は、紫外線吸収剤や酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾエート系等の有機系紫外線吸収剤や、無機系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0037】
また、粘着剤組成物に酸化防止剤を含ませることにより、可視光領域の色変化および近赤外領域の色変化をより抑制し、透明性を維持することができる。紫外線や温度により、粘着剤組成物(アクリル系粘着剤)が劣化してしまう恐れがあり、酸化防止剤によりアクリル系粘着剤の酸化を抑制することができるため、透明性を維持することができる。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系の酸化防止剤が挙げられる。
【0038】
さらに、粘着剤組成物には、必要に応じて、例えば、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度、その他等を改良、改質する目的で、例えば、滑剤、可塑剤、充填剤、フィラー、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、架橋剤、光安定剤、染料、顔料等の着色剤、その他等を添加してもよい。また、必要に応じて、さらにシラン系、チタン系、アルミニウム系などのカップリング剤を含むことができる。
【0039】
本発明による粘着剤組成物は、上記した各成分を混合し、必要に応じて混練、分散して、調製することができる。混合ないし分散方法は、特に限定されるものではなく、通常の混練分散機、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ペブルミル、トロンミル、ツェグバリ(Szegvari)アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、デスパー、高速ミキサー、リボンブレンダー、コニーダー、インテンシブミキサー、タンブラー、ブレンダー、デスパーザー、ホモジナイザー、および超音波分散機などが適用できる。また、粘着剤塗工液の粘度調整のため、希釈溶剤を加えて各成分を混合してもよい。
【0040】
上記のようにして得られる粘着剤組成物は、一対のトリアセチルセルロース樹脂フィルムを粘着剤組成物を介して貼り合わせ際の、25℃50%Rh雰囲気下における、剥離強度が1.5〜10N/25mmであることが好ましい。このような剥離強度を有することにより、トリアセチルセルロース樹脂フィルムを基材する光学フィルムを他の部材に貼り合わせる際に優れた作業性やリワーク性を実現できるとともに、浮きや剥がれを有効に抑制することができる。
【0041】
<粘着シート>
本発明による粘着シートは、
図1に示すように、上記した粘着剤組成物からなる粘着剤層の両面に第1離型紙および第2離型紙が設けられている層構成を有する。
図1には、なお、本明細書では、粘着剤層の両面に離型紙が設けられた実施形態を図示したが、粘着剤層のいずれか一方の面にのみ離型紙を設けてもよい。なお、第1離型紙21Aと第2離型紙21Bとを合わせて離型紙21と呼称する。
【0042】
後記する第1離型紙21に、上記した粘着剤組成物を塗布し乾燥させた後、塗布面に第2離型紙21Bを貼り合わせることにより、粘着シート1が得られる。粘着剤層の厚みは、10μm〜100μm程度であることが好ましい。粘着剤層の厚み(粘着剤組成物の塗布量)が薄すぎると、接着剤層の凝集力や粘着力が不足し、浮きや剥がれが発生する場合がある。一方、厚みが200μmを超えても浮きや剥がれの抑制効果はそれ以上は向上せず、コストの上昇を招く。
【0043】
離型紙への粘着剤組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ−ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートなどが適用できる。粘着剤組成物を、第1離型紙21Aの離型面へ、上記のコーティング法で塗布して、乾燥した後に、第2離型紙21Bを貼り合わせればよい。
【0044】
第1離型紙21Aと第2離型紙21Bは同じものでも異なったものを用いてもよい。離型紙21としては、離型フィルム、セパレート紙、セパレートフィルム、セパ紙、剥離フィルム、剥離紙等の従来公知のものを好適に使用できる。また、上質紙、コート紙、含浸紙、プラスチックフィルムなどの離型紙用基材の片面または両面に離型層を形成したものを用いてもよい。離型層としては、離型性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、有機樹脂変性シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アミノアルキド樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などがある。これらの樹脂は、エマルジョン型、溶剤型または無溶剤型のいずれもが使用できる。
【0045】
離形層は、離形層成分を分散および/または溶解した塗液を、離型紙用基材フィルムの片面に塗布し、加熱乾燥および/または硬化させて形成する。塗液の塗布方法としては、公知で任意の塗布法が適用でき、例えば、ロールコート、グラビアコート、スプレーコートなどである。また、離形層は、必要に応じて、基材フィルムの少なくとも片面の、全面または一部に形成してもよい。
【0046】
第一および第二離型紙の剥離力は、粘着シートに対し、1〜2000mN/cm程度、さらに10〜1000mN/cmであることが好ましい。離形層の剥離力が1mN/cm未満の場合は、粘着シートや被着材との剥離力が弱く、剥がれたり部分的に浮いたりする。また、2000mN/cmより大きい場合は、離形層の剥離力が強く、剥離しにくい。安定した離形性や加工性の点で、ポリジメチルシロキサンを主成分とする付加および/または重縮合型の剥離紙用硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
【0047】
本発明によれば、
図2に示すように、上記した粘着シート1を用いて、トリアセチルセルロース樹脂フィルムからなる被着体30を他の被着体40に粘着剤層11を介して貼り合わせることができる。得られた貼合体は、粘着剤層が、トリアセチルセルロース樹脂フィルムの伸縮に追従できるため、浮きや剥がれの発生がなく、特に、他の被着体40としてトリアセチルセルロース樹脂フィルムを用いたような場合であっても、良好な貼合体とすることができる。
【実施例】
【0048】
本発明を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0049】
<粘着剤組成物の調製>
モノマー単位としてアクリロニトリルを含むアクリル系共重合体として、下記の4種のアクリル系共重合体を使用した。
・テイサンレジンWS−023(固形分23%、質量平均分子量50万、官能基としてカルボキシル基および水酸基を有するアクリル共重合体、ナガセケムテックス社製)
・テイサンレジンSG−790(固形分23%、質量平均分子量50万、官能基として水酸基を有するアクリル共重合体、ナガセケムテックス社製)
・テイサンレジンSG708−6 (固形分20%、質量平均分子量70万、官能基としてカルボキシル基および水酸基を有するアクリル共重合体、ナガセケムテックス社製)
・テイサンレジンSG−700AS (固形分20%、質量平均分子量40万、官能基としてカルボキシル基および水酸基を有するアクリル共重合体、ナガセケムテックス社製)
【0050】
また、ブロック共重合体として、下記の3種のブロック共重合体を使用した。
・クラリティLA2140(MMA−BA−MMA型のトリブロックエラストマー、MMA/BA=23/77、質量平均分子量約8万、クラレ製)
・クラリティLA4285(MMA−BA−MMA型のトリブロックエラストマー、MMA/BA=50/50、質量平均分子量約7万、クラレ製)
・クラリティLA1114(MMA−BA型のジブロックエラストマー、MMA/BA=10/90、質量平均分子量約8.5万、クラレ製)
【0051】
さらに、硬化剤として、下記の2種を使用した。
・TETRAD−X(固形分100%、エポキシ系硬化剤、三菱ガス化学製)
・D110N(固形分75%、シアネート系硬化剤、三井化学性製)
【0052】
また、可塑剤として、DOA(固形分100%、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジェイ・プラス製)を使用した。
【0053】
上記した各成分を下記の表1〜4に示す割合で配合し、粘度調整用の希釈溶剤として酢酸エチル(製品名酢酸エチル:DICグラフィクス製)4質量部の割合で配合し、攪拌機により混合することにより粘着剤組成物を得た。なお、表中の数値は質量部を表す。また、アクリル系共重合体の配合量(100質量部)は、固形分以外の溶剤も含めた配合量である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
<評価サンプルの作製>
上記のようにして得られた粘着剤組成物を乾燥して厚さが25μmになるようにシリコーン剥離処理した厚み38μmのPET製キャリアフィルム(製品名POL382031:リンテック製)に、アプリケーターにて塗布し、100℃で2分乾燥を行い粘着剤層を形成し、シリコーン剥離処理した厚み38μmのPET製キャリアフィルム(製品名POL381031:リンテック製)をゴムローラーにて貼り合わせた後、40℃環境で3日間エージング処理を行うことにより粘着シートを得た。次いで、PET製キャリアフィルム(製品名POL381031:リンテック製)を剥がした後、粘着シートの粘着剤層の面を、位相差フィルム(VA−TACフィルム、コニカミノルタ社製)に貼り合わせ、位粘着剤層付きの位相差フィルムを作製した。
【0059】
得られた粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルム(製品名POL382031:リンテック製)を剥離し、剥離面を、厚み60μmのTACフィルム(フジタックTD60UL、富士フィルム製)に貼り合わせ、ラミネートローラーを用いて2kg荷重で2往復させることにより、位相差フィルムとTACフィルムとを貼り合わせ、25℃50%Rhの環境下で24時間放置したものを剥離強度測定用サンプルとした。
【0060】
<粘着強度の評価>
上記のようにして得られたサンプルを所定の大きさに裁断し、引張り試験機(RTF−1150−H、エー・アンド・デイ社製)を用いて、室温にて、引張速度=300mm/分、剥離角=180°(JIS Z0237に準拠)の条件にて剥離強度(N/25mm)の測定を行った。評価結果は下記の表5〜8に示される通りであった。
【0061】
<浮き・剥がれの評価>
粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルムを剥離し、剥離面を、粘着付偏光板(HLC2−5618S:サンリッツ製)の粘着層が形成されていない面にゴムロールを用いて貼り合わせた。次いで、粘着付偏光板の粘着層が形成されている面に、0.7mm厚のガラス(ゴリラガラス:コーニング製)を貼り合わせ、ゴムロールで荷重をかけることにより、粘着剤層付きの位相差フィルムと粘着付偏光板とが積層された貼合体を得た。貼合体をオートクレーブ装置にて0.5MPa、50℃、30分の条件で熱処理を行ったものを、再度、温度60℃湿度90%Rhのオーブンへ投入し、1時間放置したものを評価サンプルとした。評価サンプルを目視にて観察し、浮きまたは剥がれが確認されたものを×、浮きまたは剥がれが確認できなかったものを○とした。評価結果は下記の表5〜8に示される通りであった。
【0062】
<作業性(ベタつき)の評価>
粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルムを剥離し、剥離面を、粘着付偏光板(HLC2−5618S:サンリッツ製)の粘着層が形成されていない面にゴムロールを用いて貼り合わせ、オートクレーブ装置にて0.5MPa、50℃、30分の条件で熱処理を行った。得られた貼合体を、カッター刃にて20m/分の速度で210mm×300mmの寸法となるように裁断して一枚のサンプルを作製し、これを100枚重ね合わせた。100枚重ね合わせたものの裁断面に、ゴム手袋を付着させ、300mm/分の速度で剥がした際に粘着層がゴム手袋に付着しているか否かを目視にて観察した。ゴム手袋に粘着層が付着していなければ○、粘着層が付着している場合は×とした。評価結果は下記の表5〜8に示される通りであった。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】