特許第6048211号(P6048211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048211
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】顔料捺染インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20161212BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20161212BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161212BHJP
   D06P 3/60 20060101ALI20161212BHJP
   D06P 5/20 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   D06P5/00 111A
   C09D11/00
   B41M5/00 A
   B41M5/00 E
   D06P3/60 Z
   D06P5/00 113
   D06P5/20 C
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-36776(P2013-36776)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-163021(P2014-163021A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164633
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】篠田 知紀
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正和
(72)【発明者】
【氏名】上林 将史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 吉祥
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−031402(JP,A)
【文献】 特開平10−264365(JP,A)
【文献】 特開2002−127418(JP,A)
【文献】 特開平07−119048(JP,A)
【文献】 特開平07−026478(JP,A)
【文献】 特開平06−055831(JP,A)
【文献】 特開平08−281934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/00
B41M 5/00
C09D 11/00
D06P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材として顔料を含む顔料捺染インク組成物を、インク滴のインク量が1〜9ngであるインク滴として、ノズル開口から布帛の方向の0.5mm〜1.0mmの距離における平均吐出速度Vが5〜15m/sとして、前記ノズル開口から吐出し、前記顔料捺染インク組成物を前記布帛へ付着させ、
前記顔料捺染インク組成物の前記布帛への付着後に、前記顔料捺染インク組成物が付着した前記布帛をヒートプレスにより加熱処理をする、
顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記ノズル開口と前記布帛との距離が2.0〜5.0mmである、請求項1に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インク滴のインク量が、5〜9ngであり、
前記平均吐出速度Vが、5〜10m/sである、
請求項1又は2に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項4】
前記顔料捺染インク組成物は、固形分含有量が8質量%以上である、請求項1〜3いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項5】
前記顔料捺染インク組成物は、顔料、及び樹脂分散体を含む、請求項1〜4いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項6】
前記布帛は、綿又は綿混紡を含む、請求項1〜5いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項7】
前記加熱処理における加熱温度が150℃以上である、請求項1〜6に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項8】
前記布帛への前記顔料捺染インク組成物の付着量が10〜70mg/inchである、請求項1〜いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項9】
前記布帛上の前記顔料捺染インク組成物のドット形成密度が、720dpi以上×720dpi以上である、請求項1〜いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項10】
前記顔料捺染インク組成物は、顔料として少なくともカラー顔料を含むカラーインクと顔料として少なくともカーボンブラック顔料を含むブラックインクのいずれかである、請求項1〜いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法により印刷を行うインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料捺染インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙などの被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されている。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインク組成物を吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インク組成物を効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
【0003】
近年、インクジェット記録方式を布帛の染色(捺染)に適用することが検討されている。例えば、洗濯に対する耐久性及び色堅牢度をインクジェット印刷された織物に提供するために、水性ビヒクル、着色剤及び架橋済みポリウレタン分散体を含むインクジェットインキ組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、プリント布の乾燥条件の変動に対し安定な画像が得られるインクジェット捺染インクセットを提供するために、少なくとも分散染料、分散剤、水及び水溶性有機溶媒を含有するイエロー、マゼンタ、シアンもしくはブルー及びブラックの各色インクジェット捺染インクから構成されるインクジェット捺染インクセットが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、分散染料で染色可能な繊維を主体として構成される布帛に、インクジェットプリントする際に、オレンジからスカーレットにかけての色再現範囲が格段に広いプリント物を得ることができ、更に、加熱による染着処理条件が多少変化しても、安定な画像を得ることができるインクジェットプリント方法を提供するために、少なくともオレンジ及びレッドの2色のインクを、インクジェット方式によって、布帛上に付与してプリントを行う方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、荷電量偏向型インクジェットなどの連続式インクジェット方式で布帛にプリントする場合において、インクの飛び散りを抑制し、汚染のない高品位のプリントを可能にするインクジェットプリント方法を提供するために、インクに圧力をかけてノズルからインク滴として連続的に吐出し、布帛にプリントする方法において、前記ノズルからのインク液滴の吐出速度と、該インク滴の質量が、所定の関係を満足するようにプリントするインクジェットプリント方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−522285号公報
【特許文献2】特開2005−263837号公報
【特許文献3】特許第2952133号
【特許文献4】特開平7−119048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術では、より高解像度、高画質な画像を得るため、又は乾燥速度をより速めるために、インク滴のインク量を小さくすると、布帛の毛羽立ち(以下、単に「ケバ」という。)にインク滴が残りやすく、ヒートプレス時に、ケバが倒れて布帛の基体部分と接触することで、毛羽に残ったインク滴が布帛の基体部分に付着して汚してしまい、凝集ムラや、滲みになるという問題がある。また、染料捺染インク組成物の場合は、ケバの表面に付着したインクの色材がケバの内部に浸透しやすいため、ケバが倒れても布帛の基体部分にインクが付着し難いが、顔料捺染インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)の場合は、ケバの表面に付着した顔料がケバの内部に浸透しにくいので、ケバが倒れた時にケバの表面に残存したインクが布帛の基体部分に付着し汚しやすいという問題もある。
【0009】
また、インク滴がケバに付着して布帛の基体部分にまで届かない場合には画像の隠蔽性も悪くなるという問題もある。
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、布帛の汚れが抑制され、得られる画像の隠蔽性及び乾燥速度に優れた顔料捺染インクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。顔料捺染インク組成物の布帛へのインクジェット捺染印刷において、1インク滴当たりのインク量を小さくして印刷を行う場合、高解像度の画像にして画像を高画質にできたり、乾燥速度を速くできたりするという利点がある。その反面、インク滴当たりのインク量が大きい場合と比べて、インク滴が布帛のケバに付着して布帛の基体部分まで届かない傾向があり、インク付与後、ヒートプレスの際等に、ケバが倒れることで画質が劣化しやすいという問題がある。本発明者らは、インク滴の量を所定の量とし、かつ速度を所定の速度とすることにより、インク滴がケバに付着することを抑制しつつ、インク滴を布帛の基体部分まで到達させることができ、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
少なくとも色材として顔料を含む顔料捺染インク組成物を、インク滴のインク量が9ng以下であるインク滴として、ノズル開口から布帛の方向の0.5mm〜1.0mmの距離における平均吐出速度Vが5m/s以上として、前記ノズル開口から吐出し、前記顔料捺染インク組成物を前記布帛へ付着させる、
顔料捺染インクジェット記録方法。
〔2〕
前記ノズル開口と前記布帛との距離が2.0〜5.0mmである、前項〔1〕に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔3〕
前記インク滴のインク量が、5〜9ngであり、
前記平均吐出速度Vが、5〜10m/sである、
前項〔1〕又は〔2〕に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔4〕
前記顔料捺染インク組成物は、固形分含有量が8質量%以上である、前項〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔5〕
前記顔料捺染インク組成物は、顔料、樹脂分散体を含む、前項〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔6〕
前記布帛は、綿又は綿混紡を含む、前項〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔7〕
前記顔料捺染インク組成物の前記布帛への付着後に、前記顔料捺染インク組成物が付着した前記布帛をヒートプレスにより加熱処理をする、前項〔1〕〜〔6〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔8〕
前記加熱処理における加熱温度が150℃以上である、前項〔7〕に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔9〕
前記布帛への前記顔料捺染インク組成物の付着量が10〜100mg/inchである、前項〔1〕〜〔8〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔10〕
前記布帛上の前記顔料捺染インク組成物のドット形成密度が、720dpi以上×720dpi以上である、前項〔1〕〜〔9〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔11〕
前記顔料捺染インク組成物は、少なくともカラー顔料を含むカラーインクと顔料として少なくともカーボンブラック顔料を含むブラックインクのいずれかである、前項〔1〕〜〔10〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法。
〔12〕
前項〔1〕〜〔11〕いずれか1項に記載の顔料捺染インクジェット記録方法により印刷を行うインクジェット記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ノズル開口から吐出されたインク滴が布帛に付着するまでの経過を示した模式図である。
図2】ヘッドを駆動させるための駆動信号の波形の一例を示す図である。
図3】インクジェット記録装置(全体)の全体構成のブロック図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
[1.顔料捺染インクジェット記録方法]
本実施形態の顔料捺染インクジェット記録方法は、少なくとも色材として顔料を含む顔料捺染インク組成物を、インク滴のインク量が9ng以下であるインク滴として、ノズル開口から布帛の方向の0.5mm〜1.0mmの距離における平均吐出速度Vが5m/s以上として、前記ノズル開口から吐出し、顔料捺染インク組成物を布帛へ付着させる。
【0016】
〔1.吐出方法〕
図1にノズル開口から吐出されたインク滴が布帛に付着するまでの経過を示す。ノズル開口1から吐出されたインク滴2はケバ4に付着せず布帛の基体部分3に到達するのが望ましい(インク滴2a)。しかしながら、従来は、インク滴2がケバ4の表面に付着して布帛の基体部分3にまで届かない場合(インク滴2b)や、ケバ4の表面に付着したインク2bがケバ4が倒れた時に布帛の基体部分3に付着し汚す場合がある(インク滴2c)。本実施形態の顔料捺染インクジェット記録方法はノズル開口1から吐出されたインク滴2はケバ4の表面に付着せず布帛の基体部分3まで到達するよう、以下のような構成を有する。
【0017】
ノズル開口から突出される顔料捺染インク組成物のインク滴の量は、9ng以下であり、1〜9ngであることが好ましく、5〜9ngであることがより好ましい。インク滴の量が上記範囲であることにより、得られる画像が高解像度となり、乾燥速度が速く、吐出安定性にも優れる。顔料捺染インク組成物のインク滴の量は、後述する吐出機構により制御することができる。
【0018】
ノズル開口から布帛の方向へ0.5mm〜1.0mmの距離における顔料捺染インク組成物のインク滴の平均吐出速度Vは、5m/s以上であり、5〜15m/sであることが好ましく、5〜10m/sであることがより好ましい。平均吐出速度Vが上記範囲であることにより、布帛の汚れが防止され、吐出安定性に優れる。平均吐出速度Vは、後述する吐出機構により制御することができる。なお、平均吐出速度Vは、図1に示すようにノズル開口1から吐出されたインク滴2がノズル開口1から布帛の方向へ0.5mm〜1.0mmの距離を通過するまで、ノズル面の側方からカメラ又はビデオカメラで撮影し、ノズル開口1から布帛の方向へ0.5mm〜1.0mmの距離を何秒で通過するかを測定し、その測定値から算出して求めることができる。
【0019】
また、インク滴のインク量が5〜9ng以下であり、かつ平均吐出速度Vが5〜10m/sであることが好ましい。布帛へインク滴が着弾する時点の吐出速度は、吐出時よりも空気抵抗により遅くなっている可能性もあるものの、少なくとも、インク滴のインク量と平均吐出速度Vとが上記範囲であることにより、布帛の汚れを防止できる。
【0020】
ノズル開口と布帛の距離は、0.5〜10mmであることが好ましく、2.0〜5.0mmであることがより好ましく、2.0〜4.0mmであることがさらに好ましく、2.5〜4.0mmであることが一層好ましい。ノズル開口と布帛の距離が上記範囲であることにより、ノズル開口と布帛の距離が上記範囲以上であることにより、印刷中にインク組成物を吸った布帛が膨張した場合でもノズル面と接触することが抑制され、布帛の汚れも防止される傾向にある。また、ノズル開口と布帛の距離が上記範囲以下であることにより、インク滴の着弾位置の狙いに対するズレ巾が小さくなり画像に乱れが生じないことや、インク滴が布帛まで届きやすくなりミストを低減することが可能となる。
【0021】
ここで、「ノズル開口と布帛の距離」とは、記録の開始前のものであり、図1に示すように布帛の基体部分3(ケバ4を除く布帛自体)の表面とノズル開口1との間の距離である。一方、印刷のインク付着量が特に多かった場合などに印刷に伴い布帛がノズル面に対して膨張した場合でも、膨張量は最大で2mm程度である。
【0022】
(吐出機構)
インクジェット記録装置は、ヘッドを主走査方向に沿って移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク滴を吐出させることにより、布帛上に画像を記録する。このインク滴の吐出は、例えば、ノズル開口に連通した圧力発生室を膨張及び収縮させることで行われる。
【0023】
圧力発生室の膨張及び収縮は、例えば、圧電振動子の変形を利用して行われる。このようなヘッドでは、供給される駆動パルスに応じて圧電振動子が変形し、これにより圧力室の容積が変化し、この容積変化によって圧力室内のインク組成物に圧力変動が生じて、ノズル開口からインク滴が吐出される。
【0024】
このようなインクジェット記録装置では、複数の駆動パルスを一連に接続してなる駆動信号が生成される。一方、階調情報を含む印字データがヘッドに送信される。そして、当該送信された印字データに基づいて、必要な駆動パルスのみが上記駆動信号から選択されて圧電振動子に供給される。これにより、ノズル開口から吐出させるインク滴の量を、階調情報に応じて変化させている。
【0025】
より具体的には、例えば、非記録の印字データ、小ドットの印字データ、中ドットの印字データ、及び、大ドットの印字データからなる4階調を設定したインクジェット記録装置においては、それぞれの階調に応じて、インク量の異なるインク滴が吐出される。
【0026】
上記のような任意の階調の記録を実現するためには、例えば図2に示すような駆動信号が用いられ得る。図2に示すように、駆動信号Aは、期間T1に配置された電位上昇波形RWと、期間T2に配置された第1パルス波形PW1と、期間T3に配置された第2パルス波形PW2と、期間T4に配置された第3パルス波形PW3と、期間T5に配置された電位下降波形FWと、を一連に接続してあり、記録周期TAで繰り返し発生するパルス列波形信号である。
【0027】
電位上昇波形RWは、ベース電位VBから第1駆動電位VM1まで電位を勾配θRで直線的に上昇させる波形である。ベース電位VBは、グランド電位である。パルス波形PW1,2,3は、駆動電位VM1,2,3から勾配θ11,21,31に沿ってベース電位VBまで電位を下降する放電要素P11,21,31と、このベース電位VBを短い時間維持するホールド要素P12,22,32と、ベース電位VBから急勾配θ12,22,32に沿って最高電位VH1,2,3まで短時間で電位を上昇させる充電要素P13,23,33と、最高電位を維持するホールド要素P14,24,34と、最高電位VH1,2,3から勾配θ13,23,33に沿って電位VM2,3,4まで電位を下降させる放電要素P15,25,35と、を有している。
【0028】
これらのパルス波形PW1,2,3は、それぞれ単独でインク滴を吐出可能な信号である。これらの各パルス波形が圧電振動子に供給されると、小ドットを形成し得る量のイン
ク滴がノズル開口から吐出される。
【0029】
この場合、圧電振動子に供給する駆動パルスの数を増減することによって、階調制御を行うことができる。例えば、駆動パルスを1つ供給することで小ドットの記録を行い、駆動パルスを2つ供給することで中ドットの記録を行い、駆動パルスを3つ供給することで大ドットの記録を行うことができる。
【0030】
ここで、図2に示す中間電位VMは、バイアス電圧と呼ばれるものである。圧電振動子の電位は、最低電位VLと最高電位VHと中間電位VMとのいずれかの状態に保たれている。このような中間状態を駆動開始時の状態としておくことにより、容積変化を膨張側にも収縮側にも生じさせることが可能である。
【0031】
充電要素P13,23,33の電位差を調整することで1インク滴あたりのインク量の調整が可能である。なお、1記録周期は記録解像度に対応するものであり、1画素に対し1記録周期で記録する。また、駆動パルスPW1,2,3の充電要素P13,23,33の勾配θ12,22,32を変えることで吐出速度の調整をすることができる。
【0032】
さらに、例えば、1記録周期において6個の駆動パルスを圧電素子に印加することで6個のインク滴を吐出させることができる。この場合、1記録周期の駆動周波数を7.2kHzとすると、この場合の吐出周波数は43.2kHzとなる。また、1記録周期の駆動周波数が7.2kHzである場合に、吐出周波数を21.6kHzとしたいときは、6つの駆動パルスPAPSのうちから1個おきに3個の駆動パルスのみを圧電素子に印加することでインク組成物を吐出すればよい。同様に、吐出周波数を14.4kHzとしたいときは、6個の駆動パルスから2個おきに2個のパルスのみを圧電素子に印加することでインク組成物を吐出すればよい。このようにして、吐出周波数の制御を行なうこともできる。
【0033】
(プリンター)
図3は本実施形態のインクジェット記録方法で記録を行うインクジェット記録装置(全体)の全体構成のブロック図の一例である。インクジェットプリンター10は、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、センサ群50、コントローラー60を有する。表示装置120を有するコンピュータ110から印刷信号PRTを受信したインクジェットプリンター10は、コントローラー60によって各ユニットを制御し被記録媒体に記録を行う。コントローラー60は、ユニット制御回路64、CPU62、メモリ63、インターフェース部61を有する。ヘッドユニット40は前述のヘッド、吐出機構を有し、記録の際の吐出速度、吐出周波数、インク量などは、コントローラー60によるヘッドユニット40の制御により行われる。キャリッジユニットはヘッドを主走査方向に沿って移動させる。搬送ユニットは被記録媒体を搬送方向へ搬送する。
【0034】
〔2.付着・加熱処理〕
本実施形態のインクジェット記録方法では、吐出された顔料捺染インク組成物を布帛へ付着させ画像を形成する。顔料捺染インク組成物の布帛への付着後に、顔料捺染インク組成物が付着した布帛をヒートプレスにより加熱処理する乾燥工程を行うことが好ましい。この加熱処理により、インク組成物に含まれ得る樹脂(ポリマー)を布帛の表面に融着させ、かつ、水分を蒸発させることができる。これにより、得られる画像が耐擦性により優れる傾向にある。なお、この場合にケバによる汚れが発生しやすいが、本実施形態による方法であれば、インク滴が布帛の基体部分まで届き、ケバに留まらないので布帛が汚れることが抑制される。
【0035】
上記加熱処理としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、特に限定されないが、例えば赤外線(ランプ)が挙げられる。また、加熱処理時の温度は、インク組成物に含まれ得る樹脂(ポリマー)を融着し、かつ、水分を蒸発させることができればよく、150℃以上であることが好ましく、150〜200℃程度であることがより好ましい。加熱処理時の温度が上記範囲であることにより、より耐擦性が得られる傾向にある。
【0036】
上記加熱工程後は、布帛を水洗し、乾燥してもよい。このとき、必要に応じてソーピング処理、即ち未固着の顔料を熱石鹸液などで洗い落とす処理を行ってもよい。
【0037】
このようにして、布帛上に、上記実施形態のインク組成物に由来する画像が形成された記録物を得ることができる。当該記録物は、ひび割れ、凹凸、及び汚れ等の発生を防ぐことができるため発色性に優れ、かつ、インク組成物の定着性(密着性)が良好なため、耐擦性にも優れるものとなる。
【0038】
(インク組成物の付着量)
布帛に対する顔料捺染インク組成物の付着量の下限は、10mg/inch以上であることが好ましく20mg/inch以上であることがより好ましい。上限は、100mg/inch以下であることが好ましく、70mg/inch以下であることがより好ましく50mg/inchであることがさらに好ましい。インク組成物の付着量が上記範囲であることにより、特にカラーインクにより所望の色を有する画像を作成しやすく、乾燥速度も良好にできる。
【0039】
(ドット形成密度)
「ドット形成密度」とは、吐き出される1つ1つのインク滴の被記録媒体上への形成密度をいい、被記録媒体の横方向(主走査方向、幅方向)×被記録媒体の縦方向(副走査方向、搬送方向)(各dpi)で表される。一方で、「記録解像度」とは、印刷データに基づいて階調の制御が可能な最小記録単位(画素)の密度をいう。ドット形成密度は記録解像度と同じ場合もあるが必ずしも同じではない。布帛上の顔料捺染インク組成物のドット形成密度は、両方向とも600dpi以上であることが好ましく、1200dpi以上であることがより好ましく、1400dpi以上であることがさらに好ましい。本実施形態の顔料捺染インクジェット記録方法であれば、このような高ドット形成密度で印刷が可能となる。
【0040】
[2.布帛]
次に、本実施形態に用いる布帛について説明する。布帛としては、特に限定されないが、例えば、絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の天然繊維又は合成繊維が挙げられる。これらのうち、肌触りの点で、布帛は綿又は綿混紡を含むことが好ましい。また、綿又は綿混紡の場合には特に布帛表面にケバが立っており、ケバによってインク滴がトラップされて布帛表面に届くことが困難となる傾向にある。そのため、綿又は綿混紡の場合には、特に本発明を適用して問題を解決する必要性が大きい。綿混紡は、綿を10質量%以上100質量%未満含むものが好ましく、30質量%以上100質量%未満含むものがより好ましく、52質量%以上100質量%未満含むものがさらに好ましい。綿混紡の割合が上記範囲であることにより肌触りがよくなる傾向にある。また、混合される他の繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステルなどが使用可能である。
【0041】
[3.顔料捺染インク組成物]
本実施形態に用いるインク組成物は、顔料捺染インク組成物であり、水性顔料捺染インク組成物も油性顔料捺染インク組成物も用いることができる。インクが顔料捺染インク組成物の場合、ケバの表面に付着した顔料がケバの内部に浸透しにくいので、ケバが倒れた時にケバの表面に残存したインクが布帛の基体部分に付着し汚しやすい。一方、インク組成物が染料捺染インク組成物の場合は、ケバの内部にインク組成物の色材が浸透しやすいため、ケバが倒れても布帛の基体部分にインクが付着し難い。一方で、染料捺染インク組成物は定着のための薬品処理や蒸気加熱処理が必要で、生地の種類により染料を変更する必要があるのに対し、顔料捺染インク組成物は、定着樹脂により顔料が定着されるため、ヒートプレスのような後処理でよく、生地の種類を問わず簡単に印刷が可能であるという利点がある。本実施形態では、顔料捺染インク組成物の利点を生かしつつも、さらに布帛の汚れを抑制することができる。
【0042】
顔料捺染インク組成物としては、特に限定されないが、顔料、樹脂エマルジョンを含むことが好ましく、さらに水溶性溶剤を含むことがより好ましい。顔料の定着性がより向上する傾向にある。また、インク組成物が顔料と樹脂エマルジョンを含むことにより、ケバにインクがより浸透しにくくなる傾向にあり、このような場合に本発明が特に有用である。さらに、樹脂エマルジョンは水溶性樹脂も使用可能であり、その場合にも、ケバにインクがより浸透しにくくなる傾向にあり本発明が特に有用である。以下、上記インク組成物に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)について詳細に説明する。
【0043】
顔料捺染インク組成物は、固形分含有量の上限が5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。固形分含有量の下限は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲であることにより、得られる画像の隠蔽性、耐擦性、保存安定性、吐出安定性に優れる傾向にある。固形分はインクに含まれインクの乾燥によって揮発せず、インクの乾燥後、常温で固体として記録媒体に長期にわたり残る成分であり、水、有機溶剤などを除く成分であって、主に色材、樹脂などが該当する。
【0044】
顔料捺染インク組成物は、顔料を0.5〜15質量%含むことが好ましく、1〜10質量%含むことがより好ましく、1〜5質量%含むことがさらに好ましい。顔料の含有量が上記範囲であることにより、画像の発色、隠蔽性が得られやすい傾向にある。
【0045】
〔1.色材〕
カラーインクのように布帛へのインクの付着量が少ない場合、ケバが倒れると汚れが目立ちやすい傾向にある。また、印刷前に布帛に前処理液を付与しない場合には、ヒートプレスした際、ケバ倒れによる汚れがでやすい傾向にある。そこで、特に限定されないが、前処理液を使用しない場合や、インク付着量の少ない場合(白布帛にカラーインクにより画像を形成する場合など)に、本発明が特に有用である。
【0046】
本実施形態で用いる顔料捺染インク組成物には、以下に例示する色材を用いることができる。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)が挙げられる。また、カーボンブラックの市販品として、例えば、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上全て商品名、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250(以上全て商品名、デグサ社(Degussa AG)製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700(以上全て商品名、コロンビアカーボン社(Columbian Carbon Japan Ltd)製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12(以上全て商品名、キャボット社(Cabot Corporation)製)等が挙げられる。無機顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料等が挙げられる。有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0048】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4のうち少なくともいずれかが好ましい。
【0049】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0050】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213等が挙げられる。中でもC.I.ピグメントイエロー74、155、及び213からなる群から選択される一種以上が好ましい。 なお、グリーンインクやオレンジインク等、上記以外の色のインクに用いられる顔料としては、従来公知のものが挙げられる。
【0051】
白色顔料としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び酸化ジルコニウム等の白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0052】
白色顔料のカラーインデックス(C.I.)としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Pigment White 1(塩基性炭酸鉛)、4(酸化亜鉛)、5(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)、6(酸化チタン)、6:1(他の金属酸化物を含有する酸化チタン)、7(硫化亜鉛)、18(炭酸カルシウム)、19(クレー)、20(雲母チタン)、21(硫酸バリウム)、22(天然硫酸バリウム)、23(グロスホワイト)、24(アルミナホワイト)、25(石膏)、26(酸化マグネシウム・酸化ケイ素)、27(シリカ)、28(無水ケイ酸カルシウム)が挙げられる。
【0053】
上記の顔料のうち、顔料としてカラー顔料、カーボンブラック顔料の少なくとも何れかを含むカラーインク、黒色インクとする場合、白色の布帛等の色の薄い布帛へ、カラー画像、黒色画像を記録することができる。一般に、布帛へインクを付着させる際、インクが布帛に浸透して画像の発色が低下することがあるが、色の薄い布帛へ記録する場合が、布帛へインクが浸透しても画像の発色の低下が比較的少ないため、例えばインクの成分と反応して成分を凝集させ布帛へのインクの浸透を防止するような前処理剤を記録前に布帛へ付与しておくようなことが不要である。そのような場合、前処理剤を乾燥させるための前処理剤の付与後のヒートプレス(布帛へのインクの付着前のヒートプレス)を行うようなこともしないため、布帛の表面のケバが特に多く、本発明が特に有用である。
【0054】
〔2.顔料分散体〕
上記の顔料は、インク組成物中で分散された状態として、即ち顔料分散体として存在するとよい。ここで、本明細書における顔料分散体は、顔料分散液、及び顔料のスラリー(低粘度水性分散体)を包含する意味である。
【0055】
白色顔料の分散体のD50は、100〜600nmがより好ましく、200〜500nmがさらに好ましい。当該D50が100nm以上であると、隠蔽性及び発色性が共に良好なものとなる傾向にある。当該D50が1μm以下であると、インクの定着性及び吐出安定性が共に良好となる傾向にある。
【0056】
顔料分散体としては、特に限定されないが、例えば、自己分散型顔料及びポリマー分散型顔料が挙げられる。
【0057】
(2−1.自己分散型顔料)
上記の自己分散型顔料は、分散剤なしに水性媒体中に分散又は溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散又は溶解する」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、水性媒体中に安定に存在している状態を言う。そのため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く、吐出安定性に優れるインクが調製しやすい傾向にある。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる等、取り扱いが容易となる傾向にある。
【0058】
上記の親水基は、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO32、−SO2NHCOR、−NH3、及び−NR3からなる群から選択される一以上の親水基であることが好ましい。
【0059】
なお、これらの化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。また、上記のM及びRは、それぞれ互いに独立して選択される。
【0060】
自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記親水基を顔料の表面に結合(グラフト)させることにより製造される。当該物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また、当該化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0061】
(2−2.ポリマー分散型顔料)
上記のポリマー分散型顔料は、ポリマー分散によって分散可能とした顔料である。ポリマー分散型顔料に用いられるポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、顔料の分散に用いられる分散ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、55℃以下であることが好ましく、50℃以下がより好ましい。当該Tgが55℃以下であると、インクの定着性を良好なものとすることができる傾向にある。
【0062】
また、上記ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量は、10,000以上200,000以下であることが好ましい。これにより、インクの保存安定性が一層良好となる傾向にある。ここで、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、日立製作所社(Hitachi, Ltd.)製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量として測定することができる。
【0063】
上記ポリマーとしては、その構成成分のうち70質量%以上が(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸の共重合によるポリマーが好ましい。これにより、インクの定着性及び光沢性に一層優れる傾向にある。炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート及び炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が70質量%以上のモノマー成分から重合されたものであることが好ましい。当該モノマー成分の具体例としては、特に限定されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、その他の重合用モノマー成分として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、並びにエポキシ(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0064】
(2−3.ポリマーに被覆された顔料)
また、上記ポリマー分散型顔料の中でもポリマーに被覆された顔料、即ちマイクロカプセル化顔料が好適に用いられる。これにより、インクの定着性、光沢性、及び色再現性に優れる傾向にある。
【0065】
当該ポリマーに被覆された顔料は、転相乳化法により得られるものである。つまり、上記のポリマーをメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びジブチルエーテル等の有機溶媒に溶解させる。得られた溶液に顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練・分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整する。そして、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体としてポリマーに被覆された顔料を得ることができる。混練・分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、及び高速攪拌型分散機などを用いることができる。
【0066】
中和剤としては、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアンモニア等が好ましい。得られる水分散体のpHは6〜10であることが好ましい。
【0067】
顔料を被覆するポリマーとしては、GPCによる重量平均分子量が10,000〜150,000程度のものが、顔料を安定的に分散させる傾向にあるため好ましい。
【0068】
ポリマーに被覆された顔料の中でも、ポリマーに被覆されたカラー顔料が好ましい。このカラー顔料を用いることで、記録物の発色性が優れる傾向にある。
【0069】
〔3.樹脂分散体〕
本実施形態で用いるインク組成物は、樹脂分散体をさらに含むことが好ましい。当該樹脂分散体は、インクの乾燥に伴い、樹脂同士と、樹脂及び顔料と、がそれぞれ互いに融着して顔料を布帛に固着させるため、記録物の画像部分の耐擦性及び洗濯堅牢性を一層良好にすることができる傾向にある。樹脂分散体は、樹脂が微粒子として分散媒中に分散されたものであればよい。樹脂分散体としてはディスパージョン、サスペンジョン、エマルジョンなどが使用できる。以下、樹脂分散体の一例としてエマルジョン(樹脂エマルジョン)について説明するが、樹脂エマルジョンに限られるものではなく、樹脂エマルジョンを樹脂分散体としてもよい。樹脂エマルジョンの中でもウレタン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョンが好ましくウレタン樹脂エマルジョンがより好ましい。これにより、インクの定着性が優れたものとなるため、記録物の耐擦性及び洗濯堅牢性が共に優れる傾向にある。
【0070】
樹脂エマルジョンがインク組成物に含まれる場合、当該樹脂エマルジョンは、布帛上に樹脂被膜を形成することで、インク組成物を布帛上に十分定着させて記録物の耐擦性を優れたものとする。そのため、樹脂エマルジョンは熱可塑性樹脂であることが好ましい。特に、ウレタン樹脂エマルジョンは、設計の自由度が高いため、所望の被膜物性を得やすい。
【0071】
上記のウレタン樹脂エマルジョンは、分子中にウレタン結合を有する樹脂エマルジョンである。さらに、ウレタン樹脂エマルジョンとしては、上記のウレタン結合に加えて、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂なども使用可能である。
【0072】
以下、樹脂エマルジョンの好ましい物性について説明する。一般的にインクジェット記録が行われる温度範囲(15〜35℃)において、当該樹脂エマルジョンは造膜性を有することが好ましい。そのため、そのTgは、−10℃以下であることが好ましく、−15℃以下であることがより好ましい。樹脂エマルジョンのTgが上記範囲内である場合、記録物に付着したインクの定着性が一層優れたものとなる結果、記録物の耐擦性が一層優れたものとなる傾向にある。なお、Tgの下限は特に限定されないが、−50℃以上であるとよい。
【0073】
また、樹脂エマルジョンの酸価は、10〜100mgKOH/gであることが好ましく、15〜50mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が100mgKOH/g以下であると、記録物の洗濯堅牢性を良好に維持することができる傾向にある。また、酸価が10mgKOH/g以上であると、インクの保存安定性、並びに布帛上でのインクの発色性及び定着性が優れたものとなる傾向にある。なお、本明細書における酸価は、京都電子工業社(Kyoto Electronics Manufacturing Co.,Ltd.)製のAT610を用いて測定を行い、以下の数式に数値をあてはめて算出した値を採用するものとする。
【0074】
酸価(mg/g)=(EP1−BL1)×FA1×C1×K1/SIZE
上記の数式中、EP1は滴定量(mL)、BL1はブランク値(0.0mL)、FA1は滴定液のファクター(1.00)、C1は濃度換算値(5.611mg/mL)(0.1mo1/L KOH 1mLの水酸化カリウム相当量)、K1は係数(1)、SIZEは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
【0075】
また、樹脂エマルジョンは、破断点伸度が500〜1200%、弾性率が20〜400MPaであることが好ましい。破断点伸度及び弾性率が上記範囲であることにより、布帛の中でも伸縮しやすい布帛に対して印刷した場合でも、画像、即ちインク層の破断やひび割れを抑制できる傾向にあり、記録物の洗濯堅牢性及び耐擦性が優れたものとなる傾向にある。
【0076】
ここで、本明細書における破断点伸度は、約60μmの厚さのフィルムを作成し、引張試験ゲージ長20mm及び引っ張り速度100mm/分の条件下で測定することができる。また、本明細書における弾性率は、約60μmの厚さのフィルムを作成し、平行部幅10mm及び長さ40mmの引張試験ダンベルに成形し、JIS K7161:1994に準拠して引張試験を行い、引っ張り弾性率を測定することができる。
【0077】
なお、上記JIS K7161:1994について具体的に説明すると、対応国際規格がISO 527−1:1993であり、標題がプラスチック−引張特性の試験方法であり、かつ、規格の概要は、定められた条件下でのプラスチック及びプラスチック複合材の引張特性を測定するための一般原則について規定したものである。
【0078】
樹脂エマルジョンのD50は、30〜300nmが好ましく、80〜300nmがより好ましい。D50が上記範囲内であると、インク組成物中で樹脂エマルジョン粒子を均一に分散させることができる。D50の下限値は100nmであるとさらに好ましい。D50が上記範囲であることにより、記録物の耐擦性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0079】
以上で説明した樹脂エマルジョンの物性の観点より、上記ウレタン樹脂エマルジョンの市販品として、特に限定されないが、例えば、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社(The Lubrizol Corporation)製商品名)、パーマリンUA−150(三洋化成工業社(Sanyo Chemical Industries, Ltd.)製商品名)、スーパーフレックス 460,470,610,700(以上、第一工業製薬社(Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd.)製商品名)、NeoRez R−9660,R−9637,R−940(以上、楠本化成社(Kusumoto Chemicals,Ltd.)製商品名)、アデカボンタイター HUX−380,290K(以上、アデカ(Adeka)社製商品名)、タケラック(登録商標) W−605,W−635,WS−6021(以上、三井化学社(Mitsui Chemicals, Inc.)商品名)、ポリエーテル(大成ファインケミカル社(TAISEI FINECHEMICAL CO.,LTD)商品名、Tg=20℃)が好ましく挙げられる。
【0080】
ウレタン樹脂エマルジョンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
また、本実施形態で用いるインク組成物は、ウレタン樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンを含んでもよい。そのような樹脂エマルジョンの中でも、樹脂の凝集を効果的に防止できるため、アニオン性の樹脂エマルジョンが好ましい。当該アニオン性の樹脂エマルジョンとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体、フッ素樹脂、及び天然樹脂が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂及びスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル系樹脂及びスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかがより好ましく、スチレン−アクリル酸共重合体系樹脂がさらに好ましい。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。
【0082】
ウレタン樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンとしては、公知の材料及び製造方法により得られるものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。当該市販品としては、特に限定されないが、例えば、モビニール966A(日本合成化学社(Nippon Synthetic Chemical Industry Co., Ltd.)製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント社(Nippon Paint Co., Ltd)製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、DIC社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン社(Zeon Corporation)製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学社(SAIDEN CHEMICAL INDUSTRY CO.,LTD.)製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASF社製)、NKバインダー R−5HN(新中村化学社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン、固形分44%)が挙げられる。これらの中でも、上述した樹脂エマルジョンの好ましい物性を十分に満たすため、アクリル樹脂エマルジョンであるモビニール966Aが好ましい。
【0083】
ウレタン樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
ここで、樹脂エマルジョンの樹脂の含有量について説明する。樹脂エマルジョンの樹脂の含有量の下限は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。上限は15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲内であると、記録物の洗濯堅牢性及び耐擦性が優れたものとなる傾向にあり、インク組成物の長期安定性に優れ、特にインク組成物を低粘度化することができる傾向にある。
【0085】
〔4.環状アミド化合物〕
本実施形態で用いるインク組成物は、環状アミド化合物をさらに含むことが好ましい。当該環状アミド化合物は、乳酸エステル化合物の水への溶解性を良好にする機能を有する。そこで、インク組成物が乳酸エステル化合物と共に環状アミド化合物も含むことにより、ウレタン樹脂(エマルジョン)の溶解力が一層強くなり、保存安定性、特に高温下での保存安定性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0086】
また、環状アミド化合物は、保湿性能も有するため、ウレタン樹脂(エマルジョン)その他の樹脂(ポリマー)及び顔料などの水分がインクの保管時に蒸発し得ることに起因して、凝集し固化するのを防止することができる。これにより、インクジェット記録時にヘッドのノズル近傍における目詰まりを防止し、インク組成物の吐出安定性が良好なものとなる傾向にある。
【0087】
環状アミド化合物の具体例としては、特に限定されないが、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びN−エチル−2−ピロリドンが挙げられる。中でも、樹脂(ポリマー)に対する溶解力がさらに一層強くなり、保存安定性、特に高温下での保存安定性がさらに一層優れたものとなるため、2−ピロリドンが好ましい。
【0088】
環状アミド化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
環状アミド化合物の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、0.5〜5質量%であることが好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インクの長期保存安定性及び吐出安定性、並びにインクの優れた定着性に起因する記録物の耐擦性及び洗濯堅牢性が、いずれも一層優れたものとなる傾向にある。
【0090】
〔5.水溶性溶剤〕
本実施形態で用いるインク組成物は、水溶性溶剤を含むことができ、水を含むことが好ましい。当該水性溶媒としては、水及び水溶性有機溶剤が挙げられる。水としては、特に制限されることなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。水の含有量は、特に制限されることなく必要に応じて適宜決定すればよいが、インク組成物の粘度を好適な範囲に調整するため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して20〜80質量%含まれているとよい。
なお、以下で説明する各種の添加剤(成分)は、重複を避けるため、上述した化合物を含まないものとする。
【0091】
〔6.浸透剤〕
本実施形態で用いるインク組成物は、その構成成分である水性溶媒が布帛に浸透することを一層促進するため、浸透剤をさらに含有するとよい。上記水性溶媒が布帛に素早く浸透することによって、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる傾向にある。
【0092】
このような浸透剤としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類)及び1、2−アルキルジオールが好ましく挙げられる。当該グリコールエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエー
テル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。また、上記1、2−アルキルジオールとしては、特に限定されないが、例えば、1、2−ペンタンジオール及び1、2−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの他に、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、1、7−ヘプタンジオール、及び1、8−オクタンジオール等の直鎖炭化水素のジオール類も挙げることができる。
【0093】
浸透剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
浸透剤の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。含有量が0.1質量%以上であると、インク組成物の布帛への浸透度を増大させることができる傾向にある。一方、含有量が20質量%以下であると、画像に滲みが発生することを防止でき、またインク組成物の粘度が高くならないようにすることができる傾向にある。
【0095】
〔7.保湿剤〕
本実施形態で用いるインク組成物は、保湿剤(湿潤剤)をさらに含んでもよい。保湿剤としては、一般にインクジェットインクに用いられるものであれば特に制限されることなく使用可能である。好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上の沸点を有する高沸点の保湿剤を用いるとよい。沸点が上記範囲内である場合、インク組成物に良好な保水性及び湿潤性を付与することができる傾向にある。
【0096】
高沸点の保湿剤の具体例として、特に限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1、4−ジオール、2−エチル−1、3−ヘキサンジオール、2−メチル−2、4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、数平均分子量2000以下のポリエチレングリコール、1、3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、及びペンタエリスリトールが挙げられる。
【0097】
保湿剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。インク組成物が高沸点の保湿剤を含むことにより、開放状態で顔料インクが空気に触れている状態で放置しても、流動性及び再分散性を長時間維持できる傾向にある。さらに、このようなインク組成物は、インクジェット記録装置を用いた捺染の途中又は中断後の再起動時に、ノズルの目詰まりが生じにくくなるため、インク組成物の吐出安定性が優れたものとなる傾向にある。上記保湿剤の含有量は特に限定されず、必要に応じて適宜決定すればよい。
【0098】
なお、上述のとおり、インク組成物が環状アミド化合物を含む場合、環状アミド化合物は保湿性能を有するため、環状アミド化合物を保湿剤として用いればよい。
【0099】
〔8.界面活性剤〕
本実施形態で用いるインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。当該界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、及びポリシロキサン系界面活性剤のうち少なくともいずれかが好ましい。インク組成物がこれらの界面活性剤を含むことにより、布帛に付着したインク組成物の乾燥性が一層良好となり、かつ、高速印刷が可能となる傾向にある。
【0100】
これらの中でも、インクへの溶解度が大きくなり異物が一層発生し難くなるため、ポリシロキサン系界面活性剤がより好ましい。
【0101】
上記のアセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。これらは、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)等の市販品として入手可能である。
【0102】
また、ポリシロキサン系界面活性剤としては、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)などが挙げられる。
【0103】
上記の界面活性剤は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.1〜3質量%であることが好ましい。
【0104】
〔9.その他の成分〕
本実施形態で用いるインク組成物は、その保存安定性及びヘッドからの吐出安定性を良好に維持するため、目詰まり改善のため、又はインクの劣化を防止するため、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤などの、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
【0105】
[4.インクジェット記録装置]
本実施形態のインクジェット記録装置は、上記顔料捺染インクジェット記録方法により印刷を行うものであれば特に限定されず、上述の構成を有する他は、従来と同様の構成であってもよい。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0107】
[1.インク組成物用の材料]
下記の実施例、比較例、及び参考例において使用したインク組成物用の主な材料は、以下の通りである。
〔色材〕
・シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3 クラリアント製)
・シアン染料(C.I.ディスパーズブルー60 ダイスター社製)
〔樹脂エマルジョン〕
・タケラックWS−6021(三井化学ポリウレタン社製製品名、固形分30%、ウレタン樹脂エマルジョン)
〔分散剤〕
・デモールNL(花王ケミカル社製製品名、固形分41%)
〔有機溶剤〕
・グリセリン
・トリエチレングリコール
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル
〔シリコン系界面活性剤〕
・BYK−348(BYK社製商品名)
【0108】
[2.インク組成物の調製]
各材料を下記の表1に示す組成(質量%)で混合し、十分に撹拌し、インク組成物1〜3を得た。
【0109】
【表1】
【0110】
[3.布帛]
綿100%の布帛としては、hanes社製Tシャツの生地(白色、5オンス)を用いた。また、綿ポリエステル混紡の布帛としては、hanes社製Tシャツの生地、白色、混紡(綿75%、ポリエステル25%)を用いた。さらに、ポリエステル100%の布帛としては、ポリエステル製Tシャツの生地(ポリエステル100%、白色、4.1オンス)を用いた。
【0111】
[4.インクジェット記録装置]
プリンターSC−S30650(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製)を改造したもの(以下、「SC−S30650改造機」という。)を用いた。改造部分は、以下の吐出機構を備えた点、布帛製の被記録媒体を支持、搬送可能とした点である。
【0112】
印刷時のヘッドは、1ノズル列のノズル密度360dpiのものを用いた。また、吐出機構において、駆動パルスは、図2のような駆動パルスを用い、ノズルごとに設けられた圧電素子を印加しノズルからインクを吐出させた。1記録周期(周波数)は7.2kHzとし、1記録周期の3個の駆動パルスPW1〜3を全て圧電素子に印加させたときの吐出の周波数を21.6kHz(平均)とした。また、キャリッジ速度を調整することで各例の主走査方向のドット形成密度にした。さらに、駆動パルスPW1,2,3の充電要素P13,23,33の勾配θ12,22,32を変えることで吐出速度の調整をした。また、充電要素P13,23,33の電位差を調整することによりインク滴の吐出量を調整した。
【0113】
ノズル開口から布帛までの距離は被記録媒体支持部の位置を上下させることにより調整した。また、平均吐出速度Vは、ノズル面の側方から高速カメラで撮影し、ノズル開口から布帛の方向へ0.5mm〜1.0mmの距離を何秒で通過するかを測定し、その測定値から算出して求めた。
【0114】
[5.インクジェット記録方法(実施例1〜10、比較例1〜8、参考例1〜2)]
SC−S30650改造機を用いて、上記で調製したインク組成物1〜3のいずれかを表2に示す各例の印刷条件でインクジェット法により吐出し、A4サイズにした布帛に20×20cmのパターンを付着させた。
【0115】
インク組成物が付着した布帛を、ヒートプレス機を用いて160℃で1分間加熱処理を行い、インク組成物を布帛に定着させた。また、比較例7においては、ヒートプレスを用いずに160℃のオーブンに5分間入れて乾燥させた。このようにして、布帛に画像が形成された(インクが印捺された)記録物を製造した。このとき、得られた記録物に対して、以下の評価をした。
【0116】
[6.評価]
〔インク付着量(mg/inch)〕
インク付着量は、下記式に従い、ドット形成密度から求めた。(実施例8、比較例6除く)
インク付着量(mg/inch)=インク滴のインク量(ng)×横方向のドット形成密度(dpi)×縦方向のドット形成密度(dpi)×10−6
【0117】
〔布帛の汚れ〕
上記のように作製したパターンを目視で観察した。布帛の汚れについて、以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
○:倒れたケバからインクが布帛の基体部分に移ったと思われる汚れが観察されなかった。
△:倒れたケバからインクが布帛の基体部分に移ったと思われる汚れが若干観察された。
×:倒れたケバからインクが布帛の基体部分に移ったと思われる汚れが多く観察された。
【0118】
〔画像の隠蔽性〕
布帛の汚れの評価で作製したサンプルのパターンを目視で観察した。画像の隠蔽性について、以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
○:パターンの上から観察し、白い生地が透けて見えない。
△:パターンの上から観察し、白い生地が若干透けて見える。
×:パターンの上から観察し、白い生地が明らかに見える。
【0119】
〔印刷速度〕
実施例1と比べ他の例の1枚の印刷に要する時間を測定した。印刷速度について、以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
○:2倍未満であった。
×:2倍以上かかった。
【0120】
〔乾燥速度〕
布帛の汚れ評価と同じ方法でパターンを印刷した後、ヒートプレスによる定着をせずに、マゼンタインクを用いてパターンの内側に10×10cmのベタ画像(インク滴5ng、ドット密度2880×1440dpi)をさらに印刷した。シアンインク印刷と、マゼンタインク印刷の間隔は、30秒〜1分以内とした。印刷後のシアンパターンとマゼンタパターンの境界の滲みを目視で観察した。なお、乾燥速度について、以下の評価基準で評価した。マゼンタインクは、インク組成物1におけるシアン顔料を用いないで、その代わりにマゼンタ顔料ピグメントレッド122(クラリアント製)を5%使用したものを調整して、用いた。
(評価基準)
○:滲みなし
△:若干滲みあり
×:滲みあり
【0121】
【表2】
【0122】
上記結果より本発明の構成要件を満たす顔料捺染インクジェット記録方法を用いた実施例1〜10は、少なくとも、布帛の汚れが生じにくく、画像の隠蔽性に優れ、乾燥速度も速いことが示された。
【0123】
実施例のうち、ノズル面と布帛の距離を4mmとした実施例6は、布帛の汚れが若干劣ったが、これはインク滴が飛行する距離が長くなったことによりインク滴が空気抵抗を受け布帛の基体部分まで着弾できないインク滴が増大したためと推測する。これに対し、実施例4は、実施例6とノズル面と布帛の距離を同じとしたが、布帛の汚れは実施例1と同様であり、画像の隠蔽性が若干劣った。これは、実施例4が、インクNo.1よりインクの固形分の少ないインクNo.2を用いたため、布帛の汚れとなるインクの成分が少なかったためと推測する。
【0124】
実施例8、比較例6は、パス数を増やしてインク付着量を多くした例であるが、布帛の同じ位置に数回ドットを形成することでインク付着量を多くしているため見かけのドット形成密度は実施例1と同じになっている。
【0125】
実施例7、8、比較例8は、ノズル面と布帛の距離を1mmとしたが、このうち実施例8は、インク付着量が多い為、印刷中に布帛がインクの付着に伴い膨張し、ヘッドとの接触が発生したが、ケバの倒れによる布帛の汚れはないため布帛の汚れの評価では良好となっている。
【0126】
実施例10は、布帛の種類としてポリエステル100%のものを用いた例であるが、布帛表面のケバが少なく、ケバの倒れによる布帛の汚れは発生し難い感があったが、布帛がポリエステルである実施例10よりも、実施例1〜9の方が手触りの点で優れるものであった。一方、布帛として綿/ポリエステル混紡のものを用いた比較例7は、布帛の汚れが発生した。
【0127】
染料を含むインク組成物3は染料の定着のために薬品処理や蒸気加熱処理が必要であるが、参考例1〜2では印刷後処理としてヒートプレスしか行なっていないため洗濯によって色落ちをした。また、隠蔽性にも劣ることが分かった。
【0128】
一方、平均吐出速度が遅い比較例1,2,7,8は、布帛の汚れが生じることが分かった。また、平均吐出速度が遅く、インク滴量が多い比較例4は乾燥速度が遅く、平均吐出速度が遅く、インク付着量が多い比較例6は印刷速度、乾燥速度ともに遅くなることが分かった。さらに、インク滴量が多い比較例3は、乾燥速度が遅く、インク滴量が多くドット形成密度が低い比較例5は、画像の隠蔽性が悪いことが示された。
【0129】
実施例9は布帛の汚れは良好であったが、記録物の画像を記録した部分の布帛の表面にケバが立っておりケバにも色多少が付いていることが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のインクジェット記録方法は、布帛に対して、インク組成物を記録する方法として産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0131】
1…ノズル開口、2,2a,2b,2c…インク滴、3…基体部分、4…ケバ、10…インクジェットプリンター、20…搬送ユニット、30…キャリッジユニット、40…ヘッドユニット、50…センサ群、60…コントローラー、61…インターフェース部、62…CPU、63…メモリ、64…ユニット制御回路、110…コンピュータ、120…表示装置
図1
図2
図3