(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体的な実施形態について、半導体発光素子を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、これらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体発光素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みは、概念的に示したものであり、実際の厚みの比とは異なっている場合が有る。
【0032】
1.半導体発光素子
本実施形態に係る発光素子100の概略構成を
図3に示す。発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。
図3に示すように、発光素子100は、サファイア基板110と、低温バッファ層120と、下地層130と、n型半導体層140と、発光層150と、p型半導体層160と、透明電極170と、nパッド電極N1と、pパッド電極P1と、を有している。
【0033】
サファイア基板110は、MOCVD法により、主面上に各半導体層を形成するための成長基板である。サファイア基板110の主面には、凹凸形状部111が形成されている。この凹凸形状部111については、後述する。
【0034】
低温バッファ層120は、サファイア基板110の凹凸形状部111の上に形成されている。低温バッファ層120は、凹凸形状部111に沿って凹凸形状に形成されている。低温バッファ層120は、サファイア基板110に高密度の結晶核を形成するためのものである。低温バッファ層120の材質は、例えばAlNである。もしくはGaNであってもよい。低温バッファ層120の厚みは、10Å以上1000Å以下の範囲内である。
【0035】
下地層130は、低温バッファ層120の上に形成されている。下地層130は、サファイア基板110の凹凸形状部111の凹凸の高さの一部を部分的に埋め込む第1の半導体層である。そのため、下地層130は、凹凸形状部111の底面と、凹凸形状部111の傾斜面の一部と、を覆っている。そして、下地層130は、凹凸形状部111の傾斜面の残部と、凹凸形状部111の頂部とを、覆っていない。ただし、実際には、下地層130とサファイア基板110との間には、低温バッファ層120がある。下地層130におけるn型半導体層140の側、すなわちサファイア基板110の反対側の面131aの少なくとも一部は平坦である。下地層130は、GaNから成る層である。
【0036】
n型半導体層140は、下地層130の上に形成されている。n型半導体層140は、下地層130の側から順に形成された、n型コンタクト層と、n型ESD層と、n型超格子層と、を有している。n型半導体層140におけるサファイア基板110の側の面は、ある程度の凹凸形状が形成されている。つまり、n型半導体層140は、下地層130の表面のある程度の凹凸を埋め込んでいる。一方、n型半導体層140におけるサファイア基板110の反対側の面、すなわち発光層150の側の面は、平坦である。n型コンタクト層は、n電極N1と接触している。これらはあくまで例であり、これ以外の積層構造であってももちろん構わない。
【0037】
発光層150は、n型半導体層の上に形成されている。発光層150は、電子と正孔とが再結合することにより発光する層である。発光層150は、n型半導体層140の上に形成されている。発光層は、井戸層と、障壁層とを有している。
【0038】
p型半導体層160は、発光層150の上に形成されている。p型半導体層160は、発光層150の側から順に形成された、p型クラッド層と、p型コンタクト層と、を有している。これらはあくまで例であり、これ以外の積層構造であってももちろん構わない。
【0039】
透明電極170は、p型半導体層160の上に形成されている。透明電極170は、p型半導体層160のp型コンタクト層とオーミック接触している。透明電極170の材質は、ITOである。また、その他に、ICO、IZO、ZnO、TiO
2 、NbTiO
2 、TaTiO
2 の透明な導電性酸化物を用いることができる。
【0040】
p電極P1は、透明電極170の上に形成されたpパッド電極である。p電極P1は、透明電極170の側から、V、Alを順に形成したものである。また、Ti、Alを順に形成してもよい。また、Ti、Auを順に形成してもよい。
【0041】
n電極N1は、n型半導体層140のn型コンタクト層の上に形成されたnパッド電極である。n電極N1は、n型コンタクト層とオーミック接触している。n電極N1は、n型コンタクト層の側から、V、Alを順に形成したものである。また、Ti、Alを順に形成してもよい。また、Ti、Auを順に形成してもよい。
【0042】
2.サファイア基板の凹凸形状部
図4にサファイア基板110の断面を拡大した拡大図を示す。
図4に示すように、サファイア基板110の主面は、凹凸形状部111を有している。そして、サファイア基板110は、底面111aと、複数の凸部112と、を有している。凸部112は、円錐台形状をしている。そして、凸部112は、上面112aと、斜面112bと、を有している。また、凸部112は、サファイア基板110の凹凸形状部111にわたってハニカム状に配置されている。
【0043】
凸部112の高さh、すなわち、底面111aと上面112aとの間の距離は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲内である。斜面112bと底面111aとの間の角度θは、40°以上60°以下の範囲内である。隣り合う凸部112同士の幅、すなわち、ピッチ幅W1は、1.0μm以上3.0μm以下の範囲内である。凸部112の幅W2は、2μm以上4μm以下の範囲内である。凸部112同士の間隔W3は、0.1μm以上1μm以下の範囲内である。
【0044】
サファイア基板110に形成される低温バッファ層120は、底面111aと、上面112aと、斜面112bと、を覆うこととなる。そして、下地層130は、底面111aと、上面112aと、斜面112bと、に形成された低温バッファ層120から成長することとなる。そのため、底面111aと、上面112aとに形成された低温バッファ層120から、平坦な半導体層が形成される。一方、斜面112bに形成された低温バッファ層120から成長する半導体層は、斜めに成長する。そのため、斜面112bから成長する半導体層は、平坦ではない。
【0045】
したがって、斜面112b側から成長する半導体層の成長を抑制しつつ、底面111aと、上面112aと、から成長する半導体層の成長を促進することとすればよい。
【0046】
3.原料ガスの分圧
本実施形態では、サファイア基板110の平坦な部分の面積比に応じて、供給する原料ガスの分圧を調整することに特徴がある。この原料ガスの分圧については、例えば、マスフローコントローラーを用いることでガスの供給量を制御することができる。なお、ガスの分圧は、ガスの供給量等から容易に計算することができる。本実施形態における原料ガスの分圧について説明する前に、従来の凹凸がない基板における原料ガスの分圧について説明する。
【0047】
3−1.凹凸形状がない基板(従来)
まず、凹凸形状部がない基板を用いた場合について説明する。その場合には、次式を満たす分圧の比Yで、原料ガスをMOCVD炉に供給すればよい。
1000 ≦ Y ≦ 1200 ………(1)
Y=PR1/PR2
Y:III 族元素を有する原料ガスに対するV族元素を有する原料ガスの分圧比
PR1:アンモニアガスの分圧(V族元素を含む原料ガス)
PR2:トリメチルガリウムの分圧(III 族元素を含む原料ガス)
なお、分圧の比については、MOCVD炉に供給する供給弁におけるガスの供給量の測定値から算出される。
【0048】
式(1)の条件を、凹凸形状部がない基板に半導体層を形成する場合に、用いることができる。そして、式(1)の条件を、凹凸形状部がある基板であって、底面および上面の合計の面積比が大きい場合(R>0.5)にも、用いることができる。
【0049】
3−2.凹凸形状がある基板(本実施形態)
本実施形態では、次式を満たす分圧の比Yで、原料ガスをMOCVD炉に供給する。
1000 ≦ Y/(2×R) ≦ 1200 ………(2)
Y=PR1/PR2
0.1≦R<0.5
R = S/K
Y:III 族元素を有する原料ガスに対するV族元素を有する原料ガスの分圧比
R:サファイア基板の全面積に対するサファイア基板の平坦面の面積の比
S:サファイア基板の主面側の平坦面の面積
K:サファイア基板の全面積
PR1:アンモニアガスの分圧(V族元素を含む原料ガス)
PR2:トリメチルガリウムの分圧(III 族元素を含む原料ガス)
【0050】
ここで、面積Kは、サファイア基板110の板面の全面積である。つまり、面積Kは、サファイア基板110に凹凸基板がなかった場合におけるサファイア基板110の主面の面積と同じである。面積Sは、サファイア基板110における平坦面の面積である。ここで、平坦面とは、サファイア基板110の主面を含むとともに、その主面となす角の角度が10°以下の面を含む。つまり、主面と、主面に平行な面と、主面からわずかに傾いた面と、の合計の面積である。したがって、
図4に示すように、サファイア基板110の平坦面の面積Sは、底面111aの面積と、上面112aの面積と、の和である。面積比Rは、サファイア基板110の全面積Kに占める底面111aおよび上面112aの合計の面積の割合である。
【0051】
なお、式(2)でRを0.5とすると、式(2)は、式(1)と一致する。例えば、R=0.25とすると、式(2)は、次式のようになる。
500 ≦ Y ≦ 600
つまり、トリメチルガリウムの分圧に対するアンモニアガスの分圧の比Yは、通常の場合の式(1)に比べて、半分程度になる。つまり、アンモニアガスの供給量が相対的に小さくなる。
【0052】
4.下地層
4−1.下地層の平坦性
このように、本実施形態では、低温バッファ層120の上に形成する下地層130を形成する際に、III 族元素を含む原料ガスの分圧に対するV族元素を含む原料ガスの分圧の比Yを、サファイア基板110の平坦面(底面111aおよび上面112a)の面積比に応じて小さくするのである。これにより、後述するように、サファイア基板110の底面111aから主に成長する下地層130を形成することができる。
【0053】
4−2.断面形状
図5は、本実施形態の発光素子100におけるサファイア基板110および下地層130周辺の断面を示す概念図である。このような、断面は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することができる。場合によっては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することもできる。
【0054】
図5に示すように、下地層130は、平面成長層131、132と、斜面成長層133と、を有している。平面成長層131は、低温バッファ層120の平面部分121から成長した半導体層である。平面成長層132は、低温バッファ層120の上面部分122から成長した半導体層である。斜面成長層133は、低温バッファ層120の斜面部分123から成長した半導体層である。平面部分121から成長する平面成長層131と、上面部分122から成長する平面成長層132とは、同じ結晶方位である。そのため、これらの半導体層の上にn型半導体層を形成する際に、これらの半導体層が合流して平坦になりやすい。なお、上面部分122がない場合、もちろん、上面部分から半導体層が成長することはない。
【0055】
図5に示すように、平面成長層132の成長が支配的であり、斜面成長層133の厚みは抑制されている。このように、本実施形態では、斜面成長層133の厚みt1は十分に薄い。ここで、斜面成長層133の厚みt1は、斜面成長層133のうちで、最も厚みの厚い箇所の厚みである。そして、厚みt1は、
図5に示すように、斜面112bから斜面112bに垂直な向きに測定することとする。斜面成長層133の厚みt1は、0.05μm以上0.5μm以下の範囲内である。
【0056】
4−3.斜面側からの半導体層の成長
このように、本実施形態では、平面成長層132の成長が支配的であり、斜面成長層133の厚みは抑制されている。これは、前述の式(2)を満たすように、原料ガスを供給したためであると考えられる。
【0057】
式(2)を用いず、式(1)を用いた場合には、
図2で示したように、V族元素であるN原子を含むアンモニアの供給量が多い過飽和状態が実現していると考えられる。このようにアンモニアの供給過剰により、低温バッファ層120の斜面部分123でAlNおよびサファイアの窒化が進行する。これにより、半導体層の成長しやすい成長核が斜面部分123に形成されると考えられる。または、アンモニアの分圧が高い場合、すなわち、III 族元素を有する原料ガスに対するV族元素を有する原料ガスの分圧比Yが高い場合には、原料のマイグレーションが促進される。その結果、斜面部分123で半導体が成長しやすい。したがって、アンモニアの供給量を抑えることにより、斜面部分123からの半導体層の成長を抑制できると考えられる。
【0058】
5.半導体発光素子の製造方法
ここで、本実施形態に係る発光素子100の製造方法について説明する。有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。発光素子100の製造方法は、n型半導体層を形成するn型半導体層形成工程と、n型半導体層の上に発光層を形成する発光層形成工程と、発光層の上にp型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、を有する。
【0059】
5−1.サファイア基板準備工程
まず、サファイア基板のc面を加工して凹凸形状部111を形成する。具体的には、フォトレジストをマスクとして形成する。そして、ドライエッチングを実施して、主面に凹凸形状部111の形成されたサファイア基板110を準備する。もちろん、凹凸形状部111を形成済みのサファイア基板110を購入してもよい。
【0060】
5−2.低温バッファ層形成工程
次に、サファイア基板110をMOCVD炉の内部に入れる。この後、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により半導体層を形成する。そして、H
2 によるクリーニングを実施した後に、サファイア基板110の凹凸形状部111の上に低温バッファ層120を形成する。これにより、
図6に示すように、サファイア基板110の底面111aと、上面112aと、斜面112bと、の上に低温バッファ層120が形成される。低温バッファ層120は十分に薄いので、サファイア基板110の凹凸形状部111が埋まることはない。
【0061】
なお、ここで用いるキャリアガスは、水素(H
2 )もしくは窒素(N
2 )もしくは水素と窒素との混合気体(H
2 +N
2 )である。窒素源として、アンモニアガス(NH
3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 :以下、「TMG」という)を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 :以下、「TMI」という)を用いる。Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 :以下、「TMA」という)を用いる。n型ドーパントガスとして、シラン(SiH
4 )を用いる。p型ドーパントガスとして、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 )を用いる。
【0062】
5−3.下地層形成工程(第1の半導体層形成工程)
続いて、
図7に示すように、低温バッファ層120の上に下地層130を形成する。III 族元素を含む原料ガスの分圧に対するV族元素を含む原料ガスの分圧の比Yを、前述の式(2)を満たすようにして、ガスを供給する。また、下地層形成工程における成長温度は、次に説明するn型半導体層形成工程における成長温度よりも20℃以上80℃以下の範囲内で低い。下地層の成長速度は、200Å/min以上2000Å/min以下の範囲内である。これにより、サファイア基板110の凹凸形状部111を部分的に埋め込んで、面131aを有する下地層130が形成される。
【0063】
5−4.n型半導体層形成工程
次に、平坦な下地層130の上に、n型半導体層140を形成する。そして、n型コンタクト層を形成する。このときの基板温度は、1000℃以上1200℃以下の範囲内である。この工程でドープするSi濃度は1×10
18/cm
3 以上である。前述のように、n型半導体層140の成長温度は、下地層130の成長温度より高い。そのため、この工程における横方向の成長速度が速い。そのため、下地層130が部分的に埋め込んだ凹凸の残部を、n型半導体層140が埋め込むことは容易である。このように、下地層130における部分的に残留する凹凸を埋め込む。そのため、n型半導体層140の上面は平坦である。また、n型コンタクト層の上に、n型ESD層やn側超格子層を形成することとしてもよい。なお、この工程以降の半導体層形成工程でも、式(2)を用いることとする。
【0064】
5−5.発光層形成工程
次に、n型半導体層140の上に発光層150を形成する。このときの基板温度を、700℃以上950℃以下の範囲内とする。
【0065】
5−6.p型半導体層形成工程
次に、発光層150の上にp型半導体層160を形成する。例えば、発光層150の上にp側超格子層を形成し、その上にp型コンタクト層を形成する。p型コンタクト層を形成する際の基板温度を、900℃以上1050℃以下の範囲内とする。これにより、サファイア基板110に
図8に示す各半導体層が積層されることなる。また、
図9に示すように、n電極N1を形成するための凹部141を形成する。
【0066】
5−7.透明電極形成工程
次に、
図10に示すように、p型半導体層160のp型コンタクト層の上に透明電極170を形成する。
【0067】
5−8.電極形成工程
次に、透明電極170の上にp電極P1を形成する。そして、レーザーもしくはエッチングにより、p型コンタクト層の側から半導体層の一部を抉ってn型コンタクト層を露出させる。そして、その露出箇所に、n電極N1を形成する。p電極P1の形成工程とn電極N1の形成工程は、いずれを先に行ってもよい。また、電極材料が同じであれば、同時に形成してもよい。
【0068】
5−9.その他の工程
また、上記の工程の他、絶縁膜で素子を覆う工程や熱処理工程等、その他の工程を実施してもよい。以上により、
図3に示した発光素子100が製造される。
【0069】
なお、下地層形成工程からp型半導体層形成工程にかけての工程は、低温バッファ層120の上にIII 族窒化物半導体から成る半導体層を成長させる半導体層形成工程である。
【0070】
6.実験
6−1.実験条件
ここでは、次のサファイア基板を用いた。
ピッチ間隔(W1) 4.0μm
上面(112a) 0.0μm
深さ(h) 2.1μm
角度(θ) 48°
凸部の幅(W2) 3.9μm
間隔(W3) 0.1μm
凸部の配置 ハニカム構造
凸部の形状 円
錐形状
そして、平坦な面がサファイア基板全体の面積に占める割合(R)は、14%である。
【0071】
低温バッファ層の材質は、AlNである。その厚みは、100Åであった。そして、分圧Yとして、実施例では400を用い、比較例では1200を用いた。
【0072】
6−2.実施例
図11は、本実施形態の実施例を示す図である。
図11では、凹凸の側面から、すなわち、斜面112bに形成された低温バッファ層120からの半導体層の成長が抑制されている。そして、底面111aに形成された低温バッファ層120からの半導体層の成長が促進されている。すなわち、平坦面からの半導体層の成長が支配的であり、凹凸の側面からの半導体層の成長は抑制されている。
【0073】
そして、底面111a側から成長した半導体層と、斜面112b側から成長した半導体層と、の間の境界面については、前述のように、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等による断面写真により判別することができる。
【0074】
このように、斜面112bに形成された低温バッファ層120から、半導体層がそれほど成長しない。つまり、V族元素を含む原料ガスの供給を減少させることにより、斜面112b側からの半導体層の成長を抑制することができることを意味している。
【0075】
6−3.比較例
図12は、比較例を示す図である。
図12では、凸部112の斜面112bの側、すなわち、斜面112bの上に形成された低温バッファ層120から半導体層がよく成長している。凸部112の側面からの半導体層の成長が支配的であるため、その上に形成される半導体層、すなわち、下地層130より上層、すなわち、サファイア基板110の反対側の半導体層では、その表面が平坦になりにくい。平坦な下地層130が実現されないため、その上に結晶性に優れた半導体層を形成することは困難である。
【0076】
7.変形例
7−1.下地層
7−1−1.下地層の材質
下地層130の材質として、GaNの代わりにn型GaNを形成することとしてもよい。また、GaNの代わりに、AlGaNやInGaNを形成することとしてもよい。Al
X In
Y Ga
(1-X-Y) N(0≦X,0≦Y,X+Y<1)であってもよい。ただし、その場合のAl組成比は、0.2以下である。In組成比は、0.2以下である。
【0077】
7−1−2.下地層の原料ガス
その場合には、トリメチルインジウムやトリメチルアルミニウムを供給する。このとき、式(1)や式(2)におけるIII 族元素を有する原料ガスの分圧は、これらのTMI、TMA、TMGのガスの分圧の和である。
【0078】
7−2.半導体層における原料ガスの分圧
n型半導体層140と、発光層150と、p型半導体層160とにおける原料ガスの分圧については、式(1)の条件を用いてもよい。下地層130を形成した後には、傾斜面からの半導体層の成長は、ほとんどないからである。
【0079】
7−3.フリップチップ
本実施形態では、フェイスアップ型の半導体発光素子について適用した。しかし、もちろん、その他の半導体発光素子についても適用することができる。例えば、
図13に示すような、基板側に光取り出し面を有するフリップチップの半導体発光素子200についても、当然に適用することができる。そのため、光取り出し面201は、サファイア基板210にある。
【0080】
7−4.凸部の形状
本実施形態では、凸部112の形状を円錐台形状とした。しかし、円錐形状や、六角錐形状、六角錐台形状であってもよい。もちろん、その他の多角錐形状や多角錐台形状であってもよい。その場合であっても、最大傾斜面と底面とのなす角の角度は、40°以上60°以下の範囲内である。
【0081】
7−5.凸部の配置
凸部112の頂部を結ぶ線の方向を、下地層130のa軸方向とするとよい。底面111aからより好適に成長するからである。
【0082】
7−6.埋め込み層
図14に示すように、低温バッファ層120の上に形成する下地層により、凹凸形状部111の凹凸の高さの全てを埋め込むこととしてもよい。その場合には、埋め込み層330が低温バッファ層120の上に形成される。また、この埋め込み層330がn型GaN層であってもよい。その場合には、埋め込み層330が第1のn型半導体層であり、n型半導体層340が第2のn型半導体層である。このように、下地層130および埋め込み層330は、サファイア基板110の凹凸形状部111の凹凸の高さの少なくとも一部を埋め込む第1の半導体層である。埋め込み層330は、斜面部分123からの半導体の成長を抑制する役割を担う層である。
【0083】
7−7.基板における平坦面の面積比
式(2)では、面積比Rを10%以上50%未満とした。
図2から示唆されるように、面積比Rが小さいほど、領域R1に供給ガスが溜まりやすい。そのため、面積比Rが小さいほど、本実施形態の効果は高い。そのため、供給するガスの分圧の比を変えることによる効果は大きい。つまり、面積比Rが次式を満たす場合に、より効果は高い。
0.1≦R≦0.3
R:サファイア基板の全面積に対するサファイア基板の平坦面の面積の比
すなわち、面積比Rが10%以上30%以下の範囲内の場合である。
【0084】
7−8.凹部の形成
本実施形態では、凹凸形状部111に凸部112をハニカム状に配置したサファイア基板110を用いた。しかし、凹凸形状部に凹部をハニカム状に配置したサファイア基板を用いてもよい。
【0085】
7−9.サファイア基板
本実施形態では、c面サファイア基板に凹凸加工を施すこととした。しかし、c面サファイア基板以外のサファイア基板を用いてもよい。例えば、a面サファイア基板を用いることができる。
【0086】
8.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の発光素子100では、サファイア基板110の凹凸形状部111に向けて供給するアンモニアとトリメチルガリウムとの分圧を調整することとした。つまり、凹凸形状部111に、サファイア基板110の底面もしくはこれに平行な面の面積が十分に小さい場合に、アンモニアの供給量を減少させるのである。これにより、サファイア基板110の斜面側からの半導体層の成長を抑制し、サファイア基板110の凹凸形状部111を埋め込んで、平坦な下地層を形成することができる。これにより、結晶品質がよく光取り出し効率の高い発光素子100が実現されている。
【0087】
なお、以上に説明した実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。積層体の積層構造については、必ずしも図に示したものに限らない。積層構造等、任意に選択してよい。また、有機金属気相成長法(MOCVD法)に限らない。キャリアガスを用いて結晶を成長させる方法であれば、他の方法を用いてもよい。例えば、ハイドライド気相成長法を用いてもよい。