(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2異常判定部は、前記後輪転舵システムから異常検出信号を受信すると、前記後輪転舵システムの異常を判定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
前記第2異常判定部は、車両の旋回状態がアンダーステア状態およびオーバーステア状態でない場合であって、且つ、後輪検出舵角と後輪推定舵角との差分が所定の閾値より大きいときに、前記後輪転舵システムの異常を判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の操舵制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで後輪転舵システムであるARSシステムを搭載した車両において、ARSシステムに異常が発生すると、異常の種類によっては、後輪が転舵された状態で固定されることがある。運転者は、後輪の舵角がロックされた状態で車両の直進状態を維持しようとすると、操舵ハンドルを操作して前輪の舵角を後輪の舵角に合わせることになる。
【0006】
EPSシステムは運転者の操舵をアシストするため、操舵制御装置としての重要度は高く、可能な限り操舵アシスト制御を実施することが好ましい。しかしながら不要なアシスト力を生成することは好ましくなく、たとえば車両が直進走行しているような状態においてアシスト力を生成することは好ましくない。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、不要なアシスト力の生成を禁止または制限する操舵制御技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の操舵制御装置は、操舵部材に加えられた操舵トルクを検出するトルク検出部と、検出された操舵トルクに基づいた第1操舵アシスト制御を実施する第1制御部と、トルク検出部の異常を判定する第1異常判定部と、トルク検出部の異常発生時に、車両が旋回していることを示す状態量に基づいた第2操舵アシスト制御を実施する第2制御部と、車両後輪を転舵可能な後輪転舵システムと、
後輪舵角を検出する後輪舵角検出部と、車輪速度を検出する速度検出部と、後輪舵角検出部により検出された後輪検出舵角と、速度検出部により検出された後輪速度から算出される後輪推定舵角との差分が所定の閾値より大きいときに後輪転舵システムの異常を判定する第2異常判定部とを備え、第2制御部は、後輪転舵システムの異常発生時に、第2操舵アシスト制御を禁止または制限する。
【0009】
この態様によると、後輪転舵システムに異常が発生したことを契機として、第2操舵アシスト制御を禁止または制限するため、不適切なアシスト力の生成を回避することが可能となる。なお第2操舵アシスト制御を制限するとは、車両が旋回していることを示す状態量に基づいて算出されるアシスト力よりも小さいアシスト力を生成することを意味する。
第2異常判定部が、車両の状態量から後輪転舵システムの異常を推定することで、第2制御部が、第2操舵アシスト制御を好適に禁止または制限することが可能となる。
【0010】
第2異常判定部は、後輪転舵システムから異常検出信号を受信すると、後輪転舵システムの異常を判定してもよい。後輪転舵システムが自身の異常を検出し、その異常を示す信号を第2異常判定部が受信することで、第2異常判定部は、後輪転舵システムの異常を正確に判定することが可能となる。
【0012】
操舵制御装置は、速度検出部の出力補正が行われたことを示す情報を取得する補正情報取得部をさらに備えてもよい。第2異常判定部は、速度検出部の出力補正が行われている場合に差分と比較する閾値を、出力補正が行われていない場合に差分と比較する閾値よりも小さくしてもよい。これにより出力補正が行われている場合に、第2異常判定部は早期に後輪転舵システムの異常を推定することが可能となる。
【0013】
第2異常判定部は、車両の旋回状態がアンダーステア状態およびオーバーステア状態でない場合であって、且つ、後輪検出舵角と後輪推定舵角との差分が所定の閾値より大きいときに、後輪転舵システムの異常を判定してもよい。これにより第2異常判定部は、後輪転舵システムの異常判定精度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不要なアシスト力の生成を禁止または制限する操舵制御技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、車両操舵制御装置1が搭載された車両を概略的に示す。車両操舵制御装置1は、運転者によって回動操作される操舵部材である操舵ハンドル10を備える。操舵ハンドル10は、操舵軸11の上端に固定される。操舵軸11には操舵角検出部である操舵角センサ13が設けられ、操舵角センサ13は、運転者により回動操作される操舵ハンドル10の操舵角を検出する。なお操舵角検出部は、後述するEPSモータの回転角を検出する回転角センサとして構成されてもよい。また操舵軸11にはトルク検出部であるトルクセンサ14が設けられ、トルクセンサ14は、操舵ハンドル10に加えられた操舵トルクを検出する。
【0017】
車両操舵制御装置1は、操舵軸11の下端に接続された前輪側転舵機構である前輪転舵ユニット40を備えている。前輪転舵ユニット40は、例えば、ラックアンドピニオン式を採用したギアユニットであり、操舵軸11の下端に一体的に組み付けられたピニオンギアの回転がラックバーに伝達されるようになっている。また、前輪転舵ユニット40には、運転者によって操舵ハンドル10に入力される操舵トルクをアシストするためのEPSアクチュエータ51が設けられている。EPSアクチュエータ51は電動モータであるEPSモータを有し、EPSモータの発生するトルク(所謂、アシスト力)がラックバーに伝達されるようになっている。
【0018】
この構成により、操舵軸11の回転力がピニオンギアを介してラックバーに伝達されるとともに、EPSアクチュエータ51のアシスト力がラックバーに伝達される。これによりラックバーは、ピニオンギアからの回転力およびEPSアクチュエータ51のアシスト力によって軸線方向に変位し、ラックバーの両端に接続された左右前輪FW1,FW2が左右に転舵されるようになっている。
【0019】
また車両操舵制御装置1は、左右前輪FW1,FW2の転舵に応じて左右後輪RW1,RW2を転舵させることができる。このため車両操舵制御装置1は、左右後輪RW1,RW2を転舵させるための後輪転舵ユニット41を備えている。後輪転舵ユニット41は、左右後輪RW1,RW2を転舵させる回転駆動力を発生するARSアクチュエータ31を備え、ARSアクチュエータ31は電動モータであるARSモータを有している。後輪転舵ユニット41は周知のギア機構を有していて、ARSモータの回転を減速するとともに、減速した回転運動を軸線方向運動に変換し、左右後輪RW1,RW2に伝達する。
【0020】
この構成により、運転者による操舵ハンドル10の回動操作に応じて、すなわち、左右前輪FW1,FW2の転舵に合わせてARSモータが回転駆動し、ギア機構によって減速された回転が軸線方向運動に変換される。そして、この軸線方向運動が左右後輪RW1,RW2に伝達されて、左右後輪RW1,RW2が左右に転舵されるようになっている。
【0021】
後輪舵角検出部である後輪舵角センサ33は、転舵される左右後輪RW1,RW2の転舵角を検出する。たとえば後輪舵角センサ33は、後輪舵角に対応するARSモータの回転角を検出してもよく、また左右後輪RW1,RW2の転舵角を直接検出するものであってもよい。
【0022】
また車両操舵制御装置1は、ブレーキを制御するためのブレーキ制御システムを備えている。各車輪FW1,FW2,RW1,RW2には車両速度検出部である車輪速センサ61a,61b,61c,61d(以下、特に区別しない場合には、「車輪速センサ61」という)が設けられ、各車輪速センサ61は、BRK(ブレーキ)制御装置(以下、「BRK−ECU60」という)に、検出した車輪速度を供給する。BRK−ECU60は、ブレーキペダルの踏み込み量や車両速度に応じてブレーキ機構(図示せず)を制御して、各車輪FW1,FW2,RW1,RW2に必要な制動力を付与する。
【0023】
車両操舵制御装置1において、EPS制御装置(以下、「EPS−ECU50」という)が、EPSアクチュエータ51の動作を制御し、具体的にはEPSモータの回転を制御して、運転者の操舵ハンドル10の操舵に対するアシスト力を提供する。EPS−ECU50およびEPSアクチュエータ51は、EPSシステム52を構成する。またARS制御装置(以下、「ARS−ECU30」という)が、ARSアクチュエータ31の動作を制御し、具体的にはARSモータの回転を制御して、後輪RW1,RW2に対して転舵角を与える。ARS−ECU30およびARSアクチュエータ31は、ARSシステム32を構成する。またBRK−ECU60がブレーキ機構(図示せず)を制御して、各車輪FW1,FW2,RW1,RW2に制動力を付与する。
【0024】
EPS−ECU50、ARS−ECU30、BRK−ECU60は、CAN(Controller Area Network)などのネットワーク2に接続して、互いに通信可能とされる。各ECUはCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備えている。
【0025】
車両操舵制御装置1において、EPSシステム52は、トルクセンサ14により検出される操舵トルクに基づいた操舵アシスト制御を実施する。以下、このアシスト制御を「第1操舵アシスト制御」と呼ぶ。トルクセンサ14に何らかの異常が発生すると、EPSシステム52は、トルクセンサ14の検出値の代わりに、車両が旋回していることを示す状態量、たとえば操舵角センサ13により検出される操舵角、操舵角速度および車輪速センサ61により検出される車速に基づいた操舵アシスト制御を実施する。以下、トルクセンサ14の検出値を使用しないアシスト制御を「第2操舵アシスト制御」と呼ぶ。このようにEPSシステム52は、トルクセンサ14が正常に動作していれば第1操舵アシスト制御を実施し、一方でトルクセンサ14の動作に異常が発生すると、第2操舵アシスト制御を実施するように構成されている。
【0026】
図2は、本実施例の車両操舵制御装置1の機能ブロックを示す図である。制御部100は、主としてEPS−ECU50により構成されるが、制御部100の機能の一部が他のECU、たとえばARS−ECU30またはBRK−ECU60などにより構成されてもよい。制御部100において、アシスト制御部110が操舵アシスト力を生成する機能を有し、具体的には第1制御部112が、トルクセンサ14の検出値に基づいた第1操舵アシスト制御を、第2制御部114が、車両が旋回していることを示す状態量に基づいた第2操舵アシスト制御を実施する。
【0027】
<第1操舵アシスト制御>
第1制御部112は、トルクセンサ14により検出される操舵トルクと、車輪速センサ61により検出される車速とに基づいて、EPSアクチュエータ51のEPSモータを駆動する。第1制御部112は、操舵トルクおよび車速に対するアシスト力を定めたアシストマップを記憶部(図示せず)に保持しており、このアシストマップを参照して、検出される操舵トルクと車速に対応するEPSモータのアシスト力を決定して、対応する電流をEPSモータに印加する。これによりEPSモータはアシスト力を発生し、運転者による操舵ハンドル10の操作負荷を軽減する。なお車両操舵制御装置1において、車輪速センサ61の検出値はBRK−ECU60に出力されており、第1制御部112は、車輪速センサ61の検出値をネットワーク2を介してBRK−ECU60から取得する。
【0028】
第1制御部112による第1操舵アシスト制御は、トルクセンサ14が正常に動作していることを前提として実施される。そのためトルクセンサ14が故障して、トルクセンサ異常判定部102がトルクセンサ14の異常を判定すると、第1制御部112は、第1操舵アシスト制御を中止する。このときアシスト制御部110は、操舵アシスト制御の切り替え処理を行い、具体的には第2制御部114が、第2操舵アシスト制御を開始する。
【0029】
<第2操舵アシスト制御>
第2制御部114は、車両が旋回していることを示す状態量に基づいた第2操舵アシスト制御を実施する。本実施例では第2制御部114が、車両が旋回していることを示す状態量として、操舵角および操舵角速度を利用する場合について説明するが、それ以外にも、たとえばヨーレートセンサや横加速度センサなどの検出値が利用されてもよい。
【0030】
第2制御部114は、操舵角センサ13により検出される操舵角θstr、操舵角センサ13の検出値θstrから導出される操舵角速度dθstr/dt、および車輪速センサ61により検出される車速Vとに基づいて、EPSアクチュエータ51のEPSモータを駆動する。第2制御部114は、操舵角θstrおよび車速Vに対するアシスト力を定めた第1アシストマップと、操舵角速度dθstr/dtおよび車速Vに対するアシスト力を定めた第2アシストマップとを記憶部(図示せず)に保持している。
【0031】
図3(a)は、操舵角θstrおよび車速Vに対するアシスト力を定めた第1アシストマップの一例を示す。第1アシストマップでは、ある操舵角に対して車速が大きいほど、付与するべきアシスト力が大きくなることが定義されている。なお
図3(a)は第1アシストマップを示しているが、操舵角速度dθstr/dtおよび車速Vに対するアシスト力を定めた第2アシストマップは、ある操舵角速度に対して車速が大きいほど、付与するべきアシスト力が小さくなる特性を有している。第2制御部114は、第1アシストマップを参照して、検出された操舵角θstrおよび車速Vに対する第1アシスト力を求め、また第2アシストマップを参照して、検出された操舵角速度dθstr/dtおよび車速Vに対する第2アシスト力を求め、第1アシスト力と第2アシスト力の加算値(以下、「アシスト力Tbase」とよぶ)を導出する。
【0032】
このような第2操舵アシスト制御によると、車両旋回状態量をもとにアシスト力Tbaseを導出しているため、低摩擦路など路面反力が少ない走行路面では、アシスト力Tbaseが過剰となることがある。そこで第2制御部114は、路面反力の低下をタイヤスリップ状態量によって検出して、タイヤスリップ状態量に応じたアシスト力の補正ゲインCを求め、アシスト力Tbaseに補正ゲインCを乗算することでアシスト力を制限する。
【0033】
スリップ状態量Δθは、車輪速度の左右差から求められる推定舵角θwhlと、操舵角θstrの差分の絶対値として導出される。第2制御部114は既知の関数を用いて、前輪側の車輪速センサ61a、61bの検出値をもとに前輪の推定舵角θf-whlを算出し、また後輪側の車輪速センサ61c、61dの検出値をもとに後輪の推定舵角θr-whlを算出する。第2制御部114は前後輪の推定舵角θf-whl、θr-whlを算出すると、それぞれの推定舵角と操舵角θstrの差分の絶対値Δθを算出する。
【0034】
図3(b)は、スリップ状態量Δθと補正ゲインCとの対応表を示す。この対応表に示されるように、スリップ状態量Δθが0から所定の範囲において、車輪速センサ61のセンサばらつき等を吸収するべく不感帯が設定されている。第2制御部114は、前後輪それぞれのスリップ状態量Δθに対応する補正ゲインCを導出し、そのうち小さい方の補正ゲインCを、アシスト力Tbaseに乗算することで、付与するべきアシスト力(Tbaes×C)を決定する。以上が、第2操舵アシスト制御の説明である。
【0035】
本実施例の車両操舵制御装置1は、車両後輪を転舵可能なARSシステム32を搭載している。ARSシステム32は後輪RW1およびRW2の転舵角を制御するものであり、ARS−ECU30は、車両の走行状態、たとえば車速や旋回状態に応じて、前輪FW1およびFW2の転舵角と同位相あるいは逆位相で、後輪RW1およびRW2の転舵制御を行っている。
【0036】
このARSシステム32に異常が発生すると、異常の種類によっては後輪RW1およびRW2が、異常発生時の転舵角でロックされることがある。たとえばARSアクチュエータ31におけるARSモータが故障したり、またARSモータへの印加電流が過大となるような場合、ARSシステム32は異常の発生を検知して、ARSモータの駆動を停止する。このような場合、後輪RW1およびRW2が、異常発生時の転舵角で固定される。
【0037】
図4(a)は、後輪RW1およびRW2が転舵された状態で固定された様子を示す。
図4(a)に示す状態で後輪RW1およびRW2の舵角がロックされると、車両の直進状態を維持するためには、運転者が操舵ハンドル10を操作して、後輪RW1およびRW2と同じ転舵角だけ前輪FW1およびFW2を転舵する必要がある。
【0038】
図4(b)は、前輪FW1およびFW2を転舵して車両が直進している様子を示す。運転者は操舵ハンドル10を操作して、後輪RW1およびRW2の転舵角に前輪FW1およびFW2の転舵角を合わせることで、全ての車輪が同じ方向を向くようになり、車両は進行方向に対して斜めを向きつつ、直進走行が維持されている。
【0039】
図4(b)に示す車両状態において、第2操舵アシスト制御を実施する場合、操舵ハンドル10が操作されて、操舵角センサ13は操舵角θstrを検出するために、アシスト力が算出される。しかしながら、
図4(b)に示す車両状態は直進走行を維持している状態にあり、EPSアクチュエータ51がアシスト力を発生することは好ましくない。
【0040】
なお既述したように、第2操舵アシスト制御では、スリップ状態量に応じた補正ゲインCによってアシスト力Tbaseを制限している。直進走行時には、前輪FW1およびFW2の車輪速度、また後輪RW1およびRW2の車輪速度は同じであるため、前輪の推定舵角θf-whlおよび後輪の推定舵角θr-whlは、ともに0と算出される。したがってスリップ状態量Δθは操舵角θstrに等しくなり、
図3(b)に示す対応表に基づいて補正ゲインCが導出されるが、操舵角θstrがΔθmaxよりも小さければ、補正ゲインCが0より大きい値をとり、アシスト力(Tbase×C)が生成されることになる。特に操舵角θstrが不感帯にあるような場合には、補正ゲインCが1であるため、アシスト力Tbaseがそのまま発生される。このようにARSシステム32の異常発生時に第2操舵アシスト制御を継続すると、直進走行中であってもアシスト力が生成される可能性があるため、本実施例の車両操舵制御装置1は、ARSシステム32に異常が発生したときには、第2操舵アシスト制御を禁止または制限するように動作する。
【0041】
図2に戻って、ARS異常判定部104は、ARSシステム32が正常に動作しているか、または異常が発生しているかを判定する。ARS−ECU30は、ARSシステム32の異常を自律的に検出する機能を有している。ARS−ECU30は、後輪舵角センサ33および/またはARSアクチュエータ31の異常を検出すると、異常検出信号を制御部100に送信する。ARS異常判定部104は、ARS−ECU30から異常検出信号を受信することで、ARSシステム32の異常を判定することができる。なおARS−ECU30は、後輪舵角センサ33および/またはARSアクチュエータ31が異常か否かを示す状態信号を定期的に制御部100に送信してもよく、ARS異常判定部104は、異常であることを示す状態信号を異常検出信号として受信することで、ARSシステム32の異常を判定してもよい。
【0042】
ARS異常判定部104がARSシステム32の異常を判定すると、第2制御部114は第2操舵アシスト制御を禁止または制限する。なお、第2操舵アシスト制御を禁止するとは、実施中の制御を停止することを意味し、また第2操舵アシスト制御を制限するとは、算出されるアシスト力(Tbase×C)よりも小さいアシスト力を生成することを意味する。このように第2制御部114が、ARSシステム32の異常発生時に第2操舵アシスト制御を禁止または制限することにより、不要なアシスト力の生成を回避する。なお第1制御部112が第1操舵アシスト制御の実行中に、ARS異常判定部104がARSシステム32の異常を判定すると、その後、トルクセンサ14に異常が発生した場合であっても、第2制御部114による第2操舵アシスト制御への移行が禁止される。
【0043】
以上はARS異常判定部104が、ARSシステム32から送信される異常検出信号に基づいてARSシステム32の異常を判定する例であるが、ARS異常判定部104は、車両の状態を示す情報から、ARSシステム32の異常発生を推定する機能を有する。具体的にARS異常判定部104は、後輪検出舵角と後輪推定舵角θr-whlとの差分が所定の閾値より大きいときに、ARSシステム32の異常を判定する。
【0044】
ARS異常判定部104は、ARS−ECU30から、後輪舵角センサ33により検出された後輪舵角を受信する。この受信した後輪検出舵角と、後輪2輪の速度の左右差から算出される後輪推定舵角θr-whlとの差分(以下、「後輪舵角誤差」という)が所定の閾値より大きいときに、ARS異常判定部104は、ARSシステム32に異常が生じていることを推定する。
【0045】
なお後輪舵角誤差は、車両の旋回状態がアンダーステア状態およびオーバーステア状態である場合に大きくなる傾向がある。たとえば車両がアンダーステア状態にあるとき、タイヤがスリップすることで車両旋回軌跡が大きくなり、2つの後輪速度の左右差は小さくなる。そのため後輪推定舵角θr-whlは後輪検出舵角に対して小さく算出されることになり、したがって後輪舵角誤差は大きくなる。ARS異常判定部104は、後輪舵角誤差が大きくなっている要因が、車両がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるためなのか、またはARSシステム32に異常が生じているためなのかを区別することが好ましい。
【0046】
そのためARS異常判定部104は、車両の旋回状態がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるか否かを示す情報を取得する。アンダーステア状態/オーバーステア状態の判定は、周知の手法に基づいてBRK−ECU60によって行われ、ARS異常判定部104は、BRK−ECU60から車両の旋回状態を示す情報を受信する。なおARS異常判定部104は、車両に設けられた各種センサの情報から、車両の旋回状態がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるか否かを判定してもよい。
【0047】
以上のようにARS異常判定部104は、車両の旋回状態を把握することで、車両がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるのか否かを判定する。これによりARS異常判定部104は、車両の旋回状態がアンダーステア状態およびオーバーステア状態でない場合であって、且つ、後輪舵角誤差が所定の閾値より大きいときに、ARSシステム32の異常を判定することが可能となる。ARS異常判定部104がARSシステム32の異常を判定すると、第2制御部114は第2操舵アシスト制御を禁止または制限して、不要なアシスト力の生成を回避する。なお第1制御部112が第1操舵アシスト制御の実行中に、ARS異常判定部104がARSシステム32の異常を判定すると、その後、トルクセンサ14に異常が発生した場合であっても、第2制御部114による第2操舵アシスト制御への移行が禁止される。なおARS異常判定部104は、車両の旋回状態がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にある場合には、ARSシステム32が異常であるとは判定しない。アンダーステア状態またはオーバーステア状態は、運転者による操舵ハンドル10の操作状況により改善が見込まれるため、第2制御部114は、アンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるときは第2操舵アシスト制御を制限し、アンダーステア状態またはオーバーステア状態が解消されたら速やかに第2操舵アシスト制御を再開することが好ましい。
【0048】
なお車輪速センサ61が検出する車輪速度には、センサ誤差が含まれるため、車両が直進走行している場合でも、検出される車輪速度に左右差が生じることがある。そのためBRK−ECU60は、直進走行中に車輪速度差が生じる場合に、車輪速センサ61間のセンサ誤差を吸収するべく、車輪速センサ61の出力値を補正する機能を有している。BRK−ECU60は、車輪速センサ61の出力補正が行われたか否かを示す情報を制御部100に送信する。この情報は、定期的に送信されてもよいが、BRK−ECU60は、車輪速センサ61の出力補正を行ったときに、出力補正を行ったことを示す情報を制御部100に送信してもよい。
【0049】
補正情報取得部106が、車輪速センサ61の出力補正が行われたことを示す情報を取得すると、ARS異常判定部104は、車輪速センサ61の出力補正が行われている場合に後輪舵角誤差と比較する閾値を、出力補正が行われていない場合に後輪舵角誤差と比較する閾値よりも小さくする。車輪速センサ61の出力補正が行われると、車輪速センサ61の検出値の精度が高くなるため、車輪速センサ61の出力補正が行われている場合に後輪舵角誤差と比較する閾値を小さくすることで、ARS異常判定部104は、より早くARSシステム32の異常状態を正確に推定することが可能となる。
【0050】
図5は、実施例における操舵制御のフローチャートを示す。トルクセンサ異常判定部102は、トルクセンサ14が正常に動作しているか否かを判定する(S10)。トルクセンサ14が正常に動作していれば(S10のY)、第1制御部112が、トルクセンサ14が検出する操舵トルクに基づいて第1操舵アシスト制御を実施する(S12)。一方、トルクセンサ14の動作に異常が生じていれば(S10のN)、第2制御部114が、車両が旋回していることを示す状態量に基づいて第2操舵アシスト制御を実施する(S14)。
【0051】
第2操舵アシスト制御の実施中、ARS異常判定部104がARS−ECU30から異常検出信号を受信すると(S16のY)、ARSシステム32に異常が生じていることを判定し、第2制御部114が、第2操舵アシスト制御を禁止または制限する(S20)。またARS異常判定部104は、異常検出信号を受信しなくても(S16のN)、後輪検出舵角と後輪推定舵角との差分が所定の閾値より大きければ、ARSシステム32に異常が生じていることを推定し(S18のY)、第2制御部114が、第2操舵アシスト制御を禁止または制限する(S20)。なおS18において、ARS異常判定部104は、車両の旋回状態がアンダーステア状態およびオーバーステア状態でないことを条件として、ARSシステム32の異常を推定してもよい。ARSシステム32に異常が生じていなければ(S18のN)、トルクセンサ14の異常が解消しない限り(S10のN)、第2操舵アシスト制御が継続して実施される。
【0052】
以上、実施例をもとに本発明を説明した。実施例はあくまでも例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0053】
実施例においてARS異常判定部104が、車両に設けられた各種センサの情報から、車両の旋回状態がアンダーステア状態またはオーバーステア状態にあるか否かを判定してもよいことを説明したが、具体的には以下の手法を用いてよい。
【0054】
(1)車両の操舵角および車速から求められる理想的な横加速度(またはヨーレート)と、横加速度センサ(またはヨーレートセンサ)の出力から得られる実際の横加速度(またはヨーレート)との差分から車両の旋回状態を推定する手法。
(2)車両の操舵角および車速から求められる理想的な横加速度(またはヨーレート)と、車輪速センサ61の前輪または後輪の左右差から求められる旋回横加速度(もしくはヨーレート)の推定値との差分から車両の旋回状態を推定する手法。
(3)車輪速センサ61の前輪2輪の左右差から求められる横加速度(またはヨーレート)の推定値と、車輪速センサ61の後輪2輪の左右差から求められる横加速度(またはヨーレート)の推定値との差分から車両の旋回状態を推定する手法。
【0055】
また実施例において補正情報取得部106がBRK−ECU60から、車輪速センサ61の出力補正が行われたことを示す情報を取得することを説明したが、補正情報取得部106は、BRK−ECU60から提供される車輪速センサ61の出力を、独自に補正することも可能である。たとえば補正情報取得部106は、車両が一定速度で直進走行をしている場合に、車輪速センサ61の出力値にばらつきが生じていれば、各車輪速センサ61の出力値を合わせるように補正する。なお補正情報取得部106は、車輪速センサ61の出力値を補正すると、その補正した出力値をアシスト制御部110に提供するとともに、出力補正済みであることを示す情報もアシスト制御部110に提供する。なお車両が一定速度で直進走行している状態を判定するためには、車輪加速度が一定値以下であること、横加速度が一定値以下であること、ヨーレートが一定値以下であること、などの情報を用いてもよい。