(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1から
図6を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、ハイブリッド車両用駆動装置に関する。
図1は、本発明の実施形態の制御に係るフローチャート、
図2は、実施形態に係る車両のスケルトン図、
図3は、実施形態に係る係合装置および切り離しクラッチを示す図、
図4は、切り離しクラッチの解放状態を示す図、
図5は、第一方向のトルクが入力された切り離しクラッチを示す図、
図6は、第二方向のトルクが入力された切り離しクラッチを示す図である。
【0013】
本実施形態の車両100は、動力分割プラネタリとしての遊星歯車機構10と、第一回転機MG1のロータ軸33をロックする係合装置40とを有する。係合装置40と第一回転機MG1との間には、ボールカム式の切り離しクラッチ50が設けられている。切り離しクラッチ50は、入力トルクが一定値を超えると切り離される。本実施形態では、切り離しクラッチ50の解放トルクが第一回転機MG1の最大トルク(エンジンクランキングトルク)に設定されている。これにより、係合装置40がフェールして解放不能となった場合であっても第一回転機MG1のトルクによって係合装置40を切り離し、THS走行モードに復帰することが可能となる。
【0014】
本実施形態に係る車両100は、
図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。車両100は、エンジン1、遊星歯車機構10、第一回転機MG1、第二回転機MG2、駆動輪22、ECU30、係合装置40および切り離しクラッチ50を含んで構成されている。
【0015】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1、第一回転機MG1、第二回転機MG2、遊星歯車機構10、駆動輪22、係合装置40および切り離しクラッチ50を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、ECU30を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
【0016】
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸1aの回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸1aは、ダンパ1bを介して入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、差動装置20等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸1aと同軸上かつ出力軸1aの延長線上に配置されている。入力軸2は、遊星歯車機構10のキャリア14と接続されている。
【0017】
本実施形態の遊星歯車機構10は、エンジン1の動力を第一回転機MG1側と出力側とに分割する動力分割プラネタリとしての機能を有する。遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、サンギア11、ピニオンギア12、リングギア13およびキャリア14を有する。
【0018】
リングギア13は、サンギア11と同軸上であってかつサンギア11の径方向外側に配置されている。ピニオンギア12は、サンギア11とリングギア13との間に配置されており、サンギア11およびリングギア13とそれぞれ噛み合っている。ピニオンギア12は、キャリア14によって回転自在に支持されている。キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつキャリア14によって支持されてピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
【0019】
サンギア11には、第一回転機MG1のロータ軸33が接続されている。第一回転機MG1は、エンジン1の出力軸1aと同軸上に配置されており、遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と対向している。リングギア13には、カウンタドライブギア15が接続されている。円筒形状の部材の内周面にリングギア13が、外周面にカウンタドライブギア15が配置されている。
【0020】
カウンタドライブギア15は、カウンタドリブンギア16と噛み合っている。カウンタドリブンギア16は、カウンタシャフト17を介してドライブピニオンギア18と接続されている。カウンタドリブンギア16とドライブピニオンギア18とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア16には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2のロータ軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア16に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア16よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア16に伝達する。
【0021】
ドライブピニオンギア18は、差動装置20のデフリングギア19と噛み合っている。差動装置20は、左右の駆動軸21を介して駆動輪22と接続されている。リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア16、ドライブピニオンギア18、差動装置20および駆動軸21を介して駆動輪22と接続されている。また、第二回転機MG2は、リングギア13と駆動輪22との動力伝達経路に対して接続されており、リングギア13および駆動輪22に対してそれぞれ動力を伝達可能である。
【0022】
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
【0023】
係合装置40は、第一回転機MG1の回転軸であるロータ軸33の回転を規制することができる。係合装置40は、車体側とロータ軸33とを断接するクラッチ装置である。係合装置40は、
図3に示すように、スプライン歯44と、スリーブ41と、ドグ歯43と、図示しないアクチュエータとを含んで構成されている。
【0024】
スリーブ41は、円筒形状の部材であり、内周面に形成されたドグ歯42と、外周面に形成されたスプライン歯45とを有する。ドグ歯42およびスプライン歯45は、それぞれスリーブ41の軸方向に延在している。第一回転機MG1を収容するケースの内周面には、ロータ軸33の軸方向に延在するスプライン歯44が形成されている。スリーブ41のスプライン歯45は、スプライン歯44と噛み合っている。従って、スリーブ41は、スプライン歯44によって軸方向に移動自在かつ車体に対して相対回転不能に支持されている。
【0025】
スリーブ41は、図示しない付勢部材によって、解放方向、すなわちエンジン側と反対側に向けて付勢されている。係合装置40のアクチュエータは、例えばソレノイドであり、スリーブ41を係合方向、すなわちエンジン側へ向かう方向に駆動する駆動力を発生させる。アクチュエータの駆動力によって係合方向に駆動されたスリーブ41は、付勢部材の付勢力に抗して係合方向に移動する。これにより、スリーブ41のドグ歯42が、ソケット51に形成されたドグ歯43と係合する。スリーブ41は、アクチュエータが停止して駆動力が作用しなくなると、付勢部材の付勢力によって解放方向に移動する。これにより、スリーブ41のドグ歯42とソケット51のドグ歯43との係合状態が解消される。
【0026】
切り離しクラッチ50は、係合装置40と第一回転機MG1のロータ軸33との間に配置されたボールカム式のクラッチ装置である。切り離しクラッチ50は、ソケット51と、ボール52と、移動リング53と、皿ばね54とを含んで構成されている。
【0027】
ソケット51は、円環形状の第一カム部材であり、ロータ軸33の中心軸線Xと同軸上に配置されている。ソケット51の軸芯部分の貫通孔にロータ軸33が挿入されている。ソケット51は、ボール56を介してロータ軸33によって支持されており、ロータ軸33に対して相対回転自在である。ソケット51は、ロータ軸33に対する軸方向の相対移動が規制されている。ドグ歯43は、ソケット51の外周面に形成されている。
【0028】
移動リング53は、円環形状の第二カム部材であり、ロータ軸33の中心軸線Xと同軸上に配置されている。移動リング53の軸心部分の貫通孔にロータ軸33が挿入されている。移動リング53とロータ軸33とは、スプライン係合しており、軸方向に相対移動自在かつ相対回転不能である。すなわち、移動リング53は、ロータ軸33に対して軸方向の相対移動が許容されるが、ロータ軸33に対する相対回転が規制されており、ロータ軸33と一体回転する。移動リング53は、ソケット51に対してエンジン側に配置されている。移動リング53は、ボール52を挟んでソケット51と軸方向において対向している。ボール52は、ソケット51のカム溝51aと、移動リング53のカム溝53aとによって保持されている。カム溝51a,53aは、それぞれ周方向の端部へ向かうに従い溝深さが浅くなっている。
【0029】
皿ばね54は、移動リング53をソケット51側に向けて付勢する付勢部材である。皿ばね54は、弾性変形可能な円盤状の部材であり、径方向の内側へ向かうに従い軸方向のエンジン側へ向かうテーパ形状をなしている。皿ばね54の外周側の端部54aは、移動リング53の係合溝55と係合している。移動リング53の外周部には、エンジン側に向けて突出する円筒形状の突出部53bが形成されている。係合溝55は、突出部53bの内周面に形成され、径方向の外側に向けて凹む溝である。
【0030】
皿ばね54の内周側の端部54bは、ロータ軸33の係合溝36と係合している。係合溝36は、ロータ軸33の外周面に形成され、径方向の内側に向けて凹む溝である。皿ばね54は、内周側の端部54bが外周側の端部54aよりも軸方向においてエンジン側に位置しており、移動リング53をソケット51に向けて軸方向に押圧している。
【0031】
図3に示すように係合装置40が係合している場合、ソケット51は車体側と連結されており、回転が規制される。すなわち、係合装置40が係合している場合、ソケット51とロータ軸33との相対回転が規制される。この場合、ソケット51と、ボール52と、移動リング53からなるボールカムは、入力されるトルクに応じた力で移動リング53を軸方向に駆動する。切り離しクラッチ50にトルクが入力されると、ボール52を介してソケット51と移動リング53とが互いに押圧し合い、移動リング53には軸方向のエンジン側に向かう駆動力Fが作用する。皿ばね54は、この駆動力Fに応じた付勢力を発生させて移動リング53をソケット51側に向けて押圧する。これにより、ソケット51と移動リング53との相対回転が規制され、ロータ軸33の回転が規制されることとなる。
【0032】
図2に戻り、ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、車両100全体を統合制御する機能を有している。ECU30は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。ECU30は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。また、ECU30は、各回転機MG1,MG2に回生発電を行わせ、その発電量を調節して回生トルクを制御することができる。
【0033】
ECU30は、エンジン1を制御することができる。ECU30は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。ECU30は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
【0034】
ECU30には、図示しない車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、ECU30は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数(「MG1回転数」と称する。)、第二回転機MG2の回転数(「MG2回転数」と称する。)、動力伝達装置の出力軸の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。
【0035】
ECU30は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。ECU30は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。ECU30は、MG1トルクおよびMG2トルクの目標値を実現するように、第一回転機MG1および第二回転機MG2をそれぞれ制御する。また、ECU30は、エンジントルクの目標値を実現するようにエンジン1を制御する。
【0036】
ECU30は、係合装置40と電気的に接続されており、係合装置40を制御する。ECU30は、係合装置40のアクチュエータに対して係合指令あるいは解放指令を出力し、係合装置40を係合あるいは解放させる。
【0037】
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。本実施形態に係る車両100は、HV走行モードとして、THS走行モードとMG1ロック走行モードを有する。
【0038】
THS走行モードでは、係合装置40が解放され、第一回転機MG1のロータ軸33の回転が許容される。第一回転機MG1は、エンジントルクに対する反力トルクを発生させて、エンジントルクをリングギア13から出力させる。THS走行モードでは、MG1回転数を変化させることができる。例えば、MG1回転数は、エンジン回転数をエンジン1の効率が良い回転数とするように制御される。THS走行モードは、キャリア14の回転数とリングギア13の回転数との変速比を連続的に可変に制御することができる電気CVTモードである。
【0039】
MG1ロック走行モードでは、係合装置40が係合される。これにより、第一回転機MG1のロータ軸33の回転が規制される。MG1ロック走行モードは、例えば、高速走行時にTHSモードでは動力循環が発生する場合などに選択される。THS走行モードからMG1ロック走行モードへ移行する場合、第一回転機MG1の回転同期制御がなされて係合装置40が係合される。第一回転機MG1の回転同期制御は、係合装置40のスリーブ41とソケット51の回転数を同期させる制御である。回転同期制御では、MG1回転数が所定回転数以下に制御されて係合装置40が係合される。
【0040】
MG1ロック走行モードでは、ロータ軸33の回転が機械的にロックされる。MG1ロック走行モードでは、動力循環による効率低下を抑制できるなど、車両100の効率を向上させることができる。
【0041】
EV走行モードは、第二回転機MG2を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。EV走行モードでは、係合装置40は解放される。EV走行モードからHV走行モードへ移行する場合など、エンジン1を始動する場合、第一回転機MG1によってエンジン1のクランキングがなされる。第一回転機MG1は、エンジン回転数を上昇させる回転方向のトルクを出力し、エンジン回転数を上昇させる。エンジン回転数が所定の回転数まで上昇すると、燃料の噴射および点火がなされてエンジン1の始動が完了する。
【0042】
ここで、MG1ロック走行モードで係合装置40が係合された状態から、故障等により係合装置40が解放しなくなる可能性がある。例えば、係合装置40のフェールにより、アクチュエータを停止させてもスリーブ41が解放方向に移動せず、係合状態のままとなることが考えられる。係合装置40が係合したままであると、キャリア14の回転数とリングギア13の回転数との変速比が固定され、エンジン1と駆動軸21とが直結した状態となる。これにより、例えば車速が低下した場合にエンジン回転数が低下しすぎてしまうなどの問題が発生し得る。
【0043】
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、係合装置40と第一回転機MG1のロータ軸33との間に配置されたボールカム式の切り離しクラッチ50を有する。これにより、ロータ軸33の回転が規制されたままとなることを抑制することができる。
【0044】
切り離しクラッチ50は、
図3に示す駆動力Fが一定以上となると、
図4に示すように、駆動力Fによって皿ばね54がバックリングする。バックリングした皿ばね54は、外周側の端部54aが内周側の端部54bよりも軸方向のエンジン側に位置する反転状態となり、移動リング53をソケット51から離間させて動力の伝達を遮断する。すなわち、バックリングした皿ばね54は、ボール52を介した動力の伝達がなされない位置まで移動リング53をソケット51に対して軸方向に離間させ、その位置で移動リング53を保持する。皿ばね54がバックリングすると、切り離しクラッチ50は解放状態となり、係合装置40とロータ軸33とを遮断する。また、一度バックリングした皿ばね54は、トルクの入力がなくなったとしても元の形状には戻らず、反転状態を維持する。
【0045】
つまり、切り離しクラッチ50は、皿ばね54を反転させるトルクである解放トルク以上のトルクが入力されることにより不可逆的に解放して係合装置40とロータ軸33とを遮断する。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、係合装置40が故障等の不具合により解放しなくなった場合に第一回転機MG1がトルクTgを出力して切り離しクラッチ50を解放させる。これにより、係合装置40が解放不能となった場合であっても、第一回転機MG1を車体側から切り離し、第一回転機MG1を回転可能とすることができる。
【0046】
図1を参照して、本実施形態に係る制御について説明する。
図1に示す制御フローは、例えば、車両100の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
【0047】
ステップS10では、ECU30により、MG1ロック中であるか否かが判定される。MG1ロック走行モードが選択されている場合、ステップS10で肯定判定がなされる。ステップS10でMG1ロック中であると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローは終了する。
【0048】
ステップS20では、ECU30により、MG1ロック解放指令がONであるか否かが判定される。例えば、MG1ロック走行モードからTHS走行モードへの移行判定がなされた場合など、係合装置40を解放する指令が出力されている場合、ステップS20で肯定判定がなされる。ステップS20でMG1ロック解放指令がONであると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)には本制御フローは終了する。
【0049】
ステップS30では、ECU30により、MG1ロックの解放が完了したか否かが判定される。ステップS30では、係合装置40がフェール状態であるか否かが判定される。ECU30は、例えば、係合装置40のスリーブ41の軸方向の移動量を検出するストロークセンサの検出結果に基づいてステップS30の判定を行う。スリーブ41のストロークが、係合装置40の係合状態を示す値である場合、ステップS30で否定判定がなされる。ステップS30の判定の結果、MG1ロックの解放が完了したと判定された場合(ステップS30−Y)には本制御フローは終了し、そうでない場合(ステップS30−N)にはステップS40に進む。
【0050】
ステップS40では、ECU30により、一定時間第一回転機MG1の最大トルクを発生させる制御が実行される。ECU30は、第一回転機MG1に対して、予め定められた最大トルクを発生させる指令を行う。このときのMG1トルクの指令値は、例えば、エンジン1の始動時にクランキングするときのMG1トルクの指令値と同じものとすることができる。第一回転機MG1に連続して最大トルクを発生させ続ける時間には上限が設けられている。これは、例えば、所謂単相ロックによる過負荷を抑制する観点から定められるものである。なお、第一回転機MG1に最大トルクを発生させている間は、切り離しクラッチ50が解放したときのエンジン回転数の吹き上がりを抑制できるように、エンジントルクが低減されてもよい。
【0051】
次に、ステップS50では、ECU30により、第一回転機MG1が回転しているか否かが判定される。ECU30は、MG1回転数センサの検出結果に基づいてステップS50の判定を行うことができる。第一回転機MG1が回転している場合、切り離しクラッチ50が解放したと推定することができる。ステップS50の判定の結果、第一回転機MG1が回転していると判定された場合(ステップS50−Y)にはステップS60に進み、そうでない場合(ステップS50−N)にはステップS40に移行する。つまり、最大のMG1トルクを発生させ続ける時間が一定時間に達する前であっても、第一回転機MG1が回転を開始すれば、ステップS60に進む。
【0052】
ステップS60では、ECU30により、THS走行モードへの移行が実行される。切り離しクラッチ50が解放したことにより、MG1ロック走行モードを除く各走行モードが実行可能である。本実施形態のECU30は、切り離しクラッチ50が解放するとTHS走行モードを実行し、車両100に対する駆動要求に基づいて決定したエンジントルク、MG1トルク、MG2トルクに基づいてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御する。なお、ステップS60において、THS走行モードに代えて他の走行モード、例えばEV走行モードが実行されてもよい。ステップS60が実行されると、ステップS70に進む。
【0053】
ステップS70では、ECU30により、MG1ロックフェールダイアグがONとされる。ECU30は、係合装置40の不具合を示すMG1ロックフェールダイアグをONとする。MG1ロックフェールダイアグがONとされた場合、表示装置等により運転者に対してMG1ロックの不具合が生じていることを知らせることが好ましい。ステップS70が実行されると、本制御フローは終了する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、係合装置40が解放しなくなった場合であっても切り離しクラッチ50を解放して第一回転機MG1のロータ軸33のロック(MG1ロック)を解除することができる。よって、係合装置40が解放不能となった場合の走行制限が抑制される。遊星歯車機構10のサンギア11、キャリア14、リングギア13の3つの回転要素を回転可能な状態とできることで、THS走行モードが選択可能となり、ロータ軸33の回転が規制されたままの状態に対してフェールランクが低下する。
【0055】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、以下に説明するように、意図しない切り離しクラッチ50の解放が生じないように構成されている。
【0056】
図5は、
図3のA視図であり、径方向の外側から見た切り離しクラッチ50の断面図である。
図5に示すように、ソケット51のカム溝51aは、第一カム面57と第二カム面58とを有する。また、移動リング53のカム溝53aは、第一カム面59と第二カム面60とを有する。ソケット51の第一カム面57と移動リング53の第一カム面59とはボール52を挟んで互いに対向している。第一カム面57と第一カム面59とは、平行である。ソケット51の第二カム面58と移動リング53の第二カム面60とはボール52を挟んで互いに対向している。第二カム面58と第二カム面60とは、平行である。
【0057】
本実施形態では、第一カム面57,59の角度(以下、「第一カム角度」と称する。)α1と、第二カム面58,60の角度(以下、「第二カム角度」と称する。)α2とが異なる。第一カム角度α1は、径方向視において第一カム面57,59と軸方向とがなす角度である。第一カム角度α1が0°である場合、第一カム面57,59は軸方向と平行であり、周方向と直交する。第二カム角度α2は、径方向視において第二カム面58,60と軸方向とがなす角度である。第二カム角度α2が0°である場合、第二カム面58,60は軸方向と平行であり、周方向と直交する。
【0058】
図5に示すように、切り離しクラッチ50に第一方向のトルクT1が入力された場合、第一カム面57,59を介してトルクが伝達される。第一方向のトルクT1は、第一カム面57,59が回転方向前方を向く相対回転方向のトルクであり、第一カム面57,59がボール52を介して互いに押圧し合う方向のトルクである。第一方向のトルクT1が入力されると、ソケット51の第一カム面57および移動リング53の第一カム面59がそれぞれボール52に当接する。第一カム面59がボール52から受ける力N1の軸方向成分が、移動リング53を軸方向に駆動する駆動力F1である。
【0059】
図6に示すように、切り離しクラッチ50に第二方向のトルクT2が入力された場合、第二カム面58,60を介してトルクが伝達される。第二方向のトルクT2は、第二カム面58,60が回転方向前方を向く相対回転方向のトルクであり、第二カム面58,60がボール52を介して互いに押圧し合う方向のトルクである。第二方向のトルクT2が入力されると、ソケット51の第二カム面58および移動リング53の第二カム面60がそれぞれボール52に当接する。第二カム面60がボール52から受ける力N2の軸方向成分が、移動リング53を軸方向に駆動する駆動力F2である。
【0060】
本実施形態では、第一カム角度α1が第二カム角度α2よりも小さい。従って、切り離しクラッチ50に対して同じ大きさのトルクが入力される場合、第一方向のトルクT1として入力される場合の駆動力F1は、第二方向のトルクT2として入力される場合の駆動力F2よりも小さな駆動力となる。よって、第一方向のトルクT1で切り離しクラッチ50を解放させるために必要なトルク(第一方向の解放トルク)T1rは、第二方向のトルクT2で切り離しクラッチ50を解放させるために必要なトルク(第二方向の解放トルク)T2rよりも大きい。
【0061】
第一方向の解放トルクT1rおよび第二方向の解放トルクT2rの大きさは、それぞれHV走行モード(例えば、MG1ロック走行モード)の最大エンジントルクに相当するトルクの大きさよりも大きい。つまり、切り離しクラッチ50の解放トルクT1r,T2rの大きさは、HV走行モードで走行するときにエンジン1側から切り離しクラッチ50に入力される最大トルクの大きさよりも大きい。従って、MG1ロック走行モードにおいてエンジン1が最大トルクを出力したとしても、切り離しクラッチ50が解放しないようにされている。
【0062】
本実施形態では、係合装置40のフェール時に第一回転機MG1が第二方向のトルクT2を出力して切り離しクラッチ50を解放させる。第二方向のトルクT2は、MG1ロック走行モードにおいてエンジン反力を受ける方向のトルクである。MG1ロック走行モードでは、エンジントルクをリングギア13から出力させるときに、切り離しクラッチ50に第二方向のトルクT2が入力される。第二方向の解放トルクT2rの大きさは、第一回転機MG1の最大トルクの大きさに設定されている。つまり、切り離しクラッチ50は、第一回転機MG1が指令可能なトルク範囲のうちで最大のトルクを出力することにより解放する。第一回転機MG1の最大トルクは、例えば、第一回転機MG1がエンジン1のクランキングを行うときに出力するトルクであり、最大エンジントルクに相当するトルクよりも大きなトルクである。第二方向の解放トルクT2rがこのように定められていることにより、切り離しクラッチ50は、MG1ロック走行モードにおいて遊星歯車機構10を介してエンジン側から入力されるトルクでは解放せず、第一回転機MG1がクランキングトルクに相当する最大トルクを出力することで解放する。
【0063】
また、係合装置40を係合するときにショックトルク(衝撃トルク)が発生することがある。係合時にショックトルクが発生しても切り離しクラッチ50が誤解放しないことが望ましい。本実施形態では、係合装置40の係合時に切り離しクラッチ50に第一方向のトルクT1が入力されるように係合制御がなされる。これにより、係合装置40の係合時に切り離しクラッチ50が解放してしまうことが抑制される。
【0064】
ECU30は、係合装置40を係合する際に、移動リング53の第一カム面59が回転方向の前方を向くようにロータ軸33を低回転で回転させながら係合装置40を係合する。これにより、係合装置40が係合してソケット51の回転が規制されると、
図5に示すように切り離しクラッチ50に第一方向のトルクT1が入力される。本実施形態では、第一カム角度α1が第二カム角度α2よりも小さいことから、第一方向の解放トルクT1rが第二方向の解放トルクT2rよりも大きい。従って、係合装置40の係合時に最大のMG1トルクに相当するショックトルクが発生したとしても、切り離しクラッチ50が解放しない。第一カム角度α1は、係合装置40の係合時に想定される最大のショックトルクに対して切り離しクラッチ50が解放しない角度とされている。従って、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、係合装置40を係合するときの切り離しクラッチ50の誤解放を抑制することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、係合装置40を係合するときの係合ショックが軽減される。係合装置40が係合するときに切り離しクラッチ50にトルクが入力されると、皿ばね54が撓んでショックを吸収する。よって、係合装置40を係合するときのショックが低減され、ドライバビリティが向上する。
【0066】
なお、本実施形態では、車両100に機関としてエンジン1が搭載されたが、これに限定されるものではなく、エンジン1に代えて他の機関が車両100の動力源として搭載されてもよい。
【0067】
[実施形態の第1変形例]
係合装置40の構成は、上記実施形態に例示したものには限定されない。例えば、係合装置40は、上記実施形態に例示した構成と異なる構成のドグクラッチであってもよく、ドグクラッチ以外の機械的なロック機構であってもよい。また、上記実施形態の係合装置40は、アクチュエータが作動することにより係合するものであったが、これに代えて、アクチュエータが作動することにより解放するものであってもよい。
【0068】
切り離しクラッチ50の構成は、上記実施形態に例示したものには限定されない。例えば、移動リング53の第一カム角度α1と第二カム角度α2とが同じとされてもよい。この場合、第一方向の解放トルクT1rと第二方向の解放トルクT2rとが同じ大きさのトルクとなる。
【0069】
切り離しクラッチ50において、解放トルク以上のトルクが入力されたときに係合装置40とロータ軸33とを切り離す機構は、上記実施形態で例示したものには限定されない。
【0070】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。