(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回生発電によって得られると予想される回生エネルギが前記所定量以下であって、かつ回生エネルギを蓄電する蓄電装置の蓄電残量が所定値よりも高い場合、前記第二の潤滑油供給モードを実行することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態]
図1から
図6を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、ハイブリッド車両用駆動装置に関する。
図1は、本発明の実施形態の制御に係るフローチャート、
図2は、実施形態に係る車両のスケルトン図、
図3は、実施形態に係る車両のEV走行時の共線図、
図4は、実施形態の第一の潤滑油供給モードに係る共線図、
図5は、実施形態の第二の潤滑油供給モードに係る共線図、
図6は、走行環境の説明図である。
【0014】
実施形態に係るトランスアクスル(T/A)は、動力分割機構(遊星歯車機構10)を有し、かつ同機構のエンジン反力を機械的に支持する構造(MG1ロック機構:ブレーキBK1)を有する。EV走行中など、エンジン1が駆動しないことによりオイルポンプ50が作動せず潤滑不足が発生するという問題がある。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行中の減速時にMG1ロックを行うことで強制的にエンジンブレーキによる減速を行い、その際同時にオイルポンプ50が駆動されるため必要部位への潤滑を行うことができる。これにより、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、潤滑性能を確保しつつエンジン始動頻度を低減させることができ、EV走行の航続距離を延ばし、燃費の低下を抑制することができる。
【0015】
本実施形態に係る車両100は、
図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。本実施形態では、車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両である。車両100は、エンジン1、遊星歯車機構10、第一回転機MG1、第二回転機MG2、駆動輪22、ECU30、オイルポンプ50およびブレーキBK1を含んで構成されている。
【0016】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1と、第一回転機MG1と、第二回転機MG2と、遊星歯車機構10と、オイルポンプ50と、ブレーキBK1とを含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、ECU30を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
【0017】
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギを出力軸1aの回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸1aは、ダンパ1bを介して入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、差動装置20等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸1aと同軸上かつ出力軸1aの延長線上に配置されている。入力軸2は、遊星歯車機構10のキャリア14と接続されている。
【0018】
本実施形態の遊星歯車機構10は、差動機構であり、エンジン1の動力を第一回転機MG1側と出力側とに分割する動力分割プラネタリとしての機能を有する。遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、サンギア11、ピニオンギア12、リングギア13およびキャリア14を有する。
【0019】
リングギア13は、サンギア11と同軸上であってかつサンギア11の径方向外側に配置されている。ピニオンギア12は、サンギア11とリングギア13との間に配置されており、サンギア11およびリングギア13とそれぞれ噛み合っている。ピニオンギア12は、キャリア14によって回転自在に支持されている。キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつキャリア14によって支持されてピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。キャリア14は、エンジン1に接続された第二回転要素に対応する。
【0020】
サンギア11には、第一回転機MG1のロータ軸33が接続されている。サンギア11は、第一回転機MG1に接続された第一回転要素に対応する。第一回転機MG1は、エンジン1の出力軸1aと同軸上に配置されており、遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と対向している。ロータ軸33は、入力軸2の径方向外側に配置されており、入力軸2に対して相対回転自在に支持されている。リングギア13には、カウンタドライブギア15が接続されている。円筒形状の部材の内周面にリングギア13が、外周面にカウンタドライブギア15が配置されている。
【0021】
カウンタドライブギア15は、カウンタドリブンギア16と噛み合っている。カウンタドリブンギア16は、カウンタシャフト17を介してドライブピニオンギア18と接続されている。カウンタドリブンギア16とドライブピニオンギア18とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア16には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2のロータ軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア16に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア16よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア16に伝達する。
【0022】
ドライブピニオンギア18は、差動装置20のデフリングギア19と噛み合っている。差動装置20は、左右の駆動軸21を介して駆動輪22と接続されている。リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア16、ドライブピニオンギア18、差動装置20および駆動軸21を介して駆動輪22と接続されている。また、第二回転機MG2は、リングギア13と駆動輪22との動力伝達経路に対して接続されており、リングギア13および駆動輪22に対してそれぞれ動力を伝達可能である。リングギア13は、第二回転機MG2および駆動輪22に接続された第三回転要素に対応する。
【0023】
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリ36と接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリ36から供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリ36に蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
【0024】
バッテリ36は、蓄電装置であり、回生エネルギを蓄電することができる。バッテリ36は、バッテリ36の電圧、充放電電流値、温度等を検出する監視装置を含んで構成されている。
【0025】
ブレーキBK1は、第一回転機MG1の回転軸であるロータ軸33の回転を規制する機能を有する。つまり、ブレーキBK1は、サンギア11の回転を規制する規制装置としての機能を有している。ブレーキBK1は、車体側とロータ軸33とを断接するクラッチ装置である。本実施形態のブレーキBK1は、摩擦係合式のものであり、供給される油圧(係合油圧)によって係合度合(トルク容量)を制御可能である。ブレーキBK1は、係合油圧に応じて、開放状態、半係合状態、完全係合状態に制御可能である。
【0026】
オイルポンプ50は、エンジン1の出力軸1aに接続され、被潤滑部に潤滑油を供給するものである。オイルポンプ50は、入力軸2におけるエンジン1側と反対側の端部に接続されている。オイルポンプ50は、例えば、トロコイド式のポンプとすることができる。オイルポンプ50は、入力軸2の回転によって駆動されて潤滑油を吐出する。オイルポンプ50によって吐出される潤滑油は、車両100の被潤滑部に供給される。被潤滑部は、例えば、遊星歯車機構10、第一回転機MG1、第二回転機MG2、エンジン1等である。遊星歯車機構10に対しては、入力軸2に形成された油路を介してオイルポンプ50から潤滑油が供給される。
【0027】
ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、車両100全体を統合制御する機能を有している。ECU30は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。ECU30は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。また、ECU30は、各回転機MG1,MG2に回生発電を行わせ、その発電量を調節して回生トルクを制御することができる。
【0028】
ECU30は、エンジン1を制御することができる。ECU30は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。ECU30は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
【0029】
ECU30には、図示しない車速センサ、アクセル開度センサ、ブレーキ操作量センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ等が接続されている。これらのセンサにより、ECU30は、車速、アクセル開度、ブレーキ操作量(ブレーキ踏力やストローク等)、第一回転機MG1の回転数(「MG1回転数」と称する。)、第二回転機MG2の回転数(「MG2回転数」と称する。)、動力伝達装置の出力軸の回転数等を取得することができる。また、ECU30は、バッテリ36と接続されており、バッテリ36の蓄電残量SOCを取得することができる。
【0030】
ECU30は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。ECU30は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。ECU30は、MG1トルクおよびMG2トルクの目標値を実現するように、第一回転機MG1および第二回転機MG2をそれぞれ制御する。また、ECU30は、エンジントルクの目標値を実現するようにエンジン1を制御する。
【0031】
ECU30は、ブレーキBK1と電気的に接続されており、ブレーキBK1を制御する。ECU30は、ブレーキBK1のアクチュエータに対して係合指令あるいは解放指令を出力し、ブレーキBK1を係合あるいは解放させる。
【0032】
カーナビゲーションシステム40は、車両100を所定の目的地に誘導する装置である。カーナビゲーションシステム40は、ECU30と双方向の通信が可能である。カーナビゲーションシステム40は、表示部を備えており、地図情報データベースに記憶されている情報や、GPSで取得した現在地(現在位置)の情報に基づいて、周辺の地図情報を表示部に表示する。また、カーナビゲーションシステム40は、地図情報データベースに記憶されている情報と、GPSで取得した現在地の情報と、運転者等により入力された目的地(目的位置)の情報とから目的地までの経路を検出し、検出した経路情報を表示部に表示させる。ECU30は、カーナビゲーションシステム40から案内経路に関する情報や地形情報を取得することができる。
【0033】
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。本実施形態に係る車両100は、HV走行モードとして、THS走行モードとMG1ロック走行モードを有する。
【0034】
THS走行モードでは、ブレーキBK1が解放され、第一回転機MG1のロータ軸33の回転が許容される。第一回転機MG1は、エンジントルクに対する反力トルク発生させて、エンジントルクをリングギア13から出力させる。THS走行モードでは、MG1回転数を変化させることができる。例えば、MG1回転数は、エンジン回転数をエンジン1の効率が良い回転数とするように制御される。THS走行モードは、キャリア14の回転数とリングギア13の回転数との変速比を連続的に可変に制御することができる電気CVTモードである。
【0035】
MG1ロック走行モードでは、ブレーキBK1が係合される。これにより、第一回転機MG1のロータ軸33の回転が規制される。MG1ロック走行モードは、例えば、高速走行時にTHSモードでは動力循環が発生する場合などに選択される。THS走行モードからMG1ロック走行モードへ移行する場合、ブレーキBK1が係合される。ブレーキBK1を係合するときに、第一回転機MG1の回転同期制御がなされてもよい。回転同期制御は、第一回転機MG1の回転数を0として、ブレーキBK1の第一回転機MG1側の係合要素の回転数を車体側の係合要素の回転数に同期するものである。回転同期制御によってMG1回転数が所定回転数以下に制御されてブレーキBK1が係合される。
【0036】
MG1ロック走行モードでは、ロータ軸33の回転が機械的にロックされる。MG1ロック走行モードでは、動力循環による効率低下を抑制できるなど、車両100の効率を向上させることができる。
【0037】
EV走行モードは、第二回転機MG2を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。EV走行モードでは、ブレーキBK1は解放される。EV走行モードの共線図は、
図3に示されている。
図3の共線図において、S軸はサンギア11および第一回転機MG1の回転数を示す軸、C軸はキャリア14、エンジン1およびオイルポンプ50の回転数を示す軸、R軸はリングギア13の回転数を示す軸である。R軸の回転数は、第二回転機MG2の回転数や駆動輪22(車軸)の回転数と比例する。
【0038】
EV走行モードでは、ブレーキBK1が開放していることにより、サンギア11の回転が許容されている。これにより、エンジン1は回転を停止し、サンギア11および第一回転機MG1は空転して負回転する。
【0039】
EV走行モードからHV走行モードへ移行する場合など、エンジン1を始動する場合、第一回転機MG1によってエンジン1のクランキングがなされる。第一回転機MG1は、エンジン回転数を上昇させる正回転方向のトルクを出力し、エンジン回転数を上昇させる。エンジン回転数が所定の回転数まで上昇すると、燃料の噴射および点火がなされてエンジン1の始動が完了する。
【0040】
ここで、EV走行モードで長時間や長距離の走行がなされると、被潤滑部の潤滑不足が発生する可能性がある。例えば、遊星歯車機構10では、EV走行時にキャリア14の回転が停止することから、潤滑不足が生じる可能性がある。
【0041】
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、被潤滑部に対する潤滑油の供給が必要と判断した場合、エンジン1を回転させ、オイルポンプ50を回転駆動して被潤滑部に潤滑油を供給する。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、被潤滑部に対して潤滑油を供給する供給モードとして、第一の潤滑油供給モードと第二の潤滑油供給モードを有する。
【0042】
第一の潤滑油供給モードは、第一回転機MG1の動力によってエンジン1を回転させてオイルポンプ50を回転駆動する供給モードである。ECU30は、第一の潤滑油供給モードを実行する場合、MG1トルクによってエンジン1を回転させてオイルポンプ50を回転駆動する。第一回転機MG1は、ECU30の指令により、
図4に示すように正トルクを出力する。正トルクは、エンジン1の運転時の回転方向と同方向のトルクである。正のMG1トルクにより、
図4に矢印Y1で示すように、エンジン回転数が上昇する。これにより、オイルポンプ50が回転駆動されて潤滑油を吐出する。
【0043】
第一の潤滑油供給モードでは、エンジン1を始動せずに、MG1トルクによってオイルポンプ50を回転駆動する(MG1駆動供給モード)ことも、エンジン1を自立運転させてエンジントルクによりオイルポンプ50を回転駆動する(エンジン始動供給モード)ことも可能である。MG1駆動供給モードあるいはエンジン始動供給モードの選択は、例えば、エンジン1を始動するのに適した運転条件であるか否かに基づいて行われる。車速、要求制駆動力、蓄電残量SOC等に基づいて、エンジン1を始動するのに適していると判定された場合、エンジン始動供給モードが選択される。一方、エンジン1を始動するのに適していると判定されない場合、MG1駆動供給モードが選択される。なお、MG1駆動供給モードあるいはエンジン始動供給モードの選択は、オイルポンプ50を回転駆動することによる損失の大きさに基づいてなされてもよい。ECU30は、オイルポンプ50を回転駆動することによる損失がより小さい供給モードを選択することが好ましい。
【0044】
MG1トルクによってエンジン1を回転させるときには、その反力として制動トルクが発生する。
図4に示すようにMG1トルク(正トルク)によってエンジン1を回転させると、リングギア13には、その反力として、負方向の反力トルクTmが作用する。反力トルクTmは、車両100を制動する制動トルクとして機能する。すなわち、MG1トルクによってエンジン1を回転させることで、車両100に制動力を発生させることが可能である。
【0045】
第一の潤滑油供給モードでは、要求減速度を実現するようにMG1トルクおよびMG2トルクが決定されてもよい。例えば、運転者の減速要求があるときに第一の潤滑油供給モードを実行する場合、MG1トルクによってエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクが要求減速度に相当する制動トルクを上回る場合、MG2トルクによって過剰な制動トルクを相殺することができる。一方、MG1トルクによってエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクが要求減速度に相当する制動トルクに対して不足する場合、MG2トルク(回生トルク)によって不足する制動トルクを補うことができる。
【0046】
減速要求がなされていない場合に第一の潤滑油供給モードを実行する場合、MG1トルクによってエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクを打ち消すように、MG2トルクが決定されてもよい。
【0047】
第二の潤滑油供給モードは、ブレーキBK1がサンギア11の回転を規制してエンジン1を回転させてオイルポンプ50を回転駆動する供給モードである。ECU30は、第二の潤滑油供給モードを実行する場合、ブレーキBK1を係合する。これにより、
図5に示すように、サンギア11の回転が規制される。その結果、矢印Y2で示すように、エンジン回転数は、サンギア11の回転数と、リングギア13の回転数とで決まる回転数まで上昇する。よって、オイルポンプ50が回転駆動されて、被潤滑部に潤滑油が供給される。ECU30は、第二の潤滑油供給モードを開始する場合、ブレーキBK1の油圧を調節することによってブレーキBK1の回転同期制御を行い、その後にブレーキBK1を完全係合させるようにしてもよい。また、第二の潤滑油供給モードを開始する場合、第一回転機MG1のトルクによるブレーキBK1の回転同期制御がなされてもよい。
【0048】
ブレーキBK1が係合し、サンギア11の回転を規制してエンジン1を回転させるときには、その反力として制動トルクが発生する。
図5に示すようにブレーキBK1を係合してエンジン1を回転させると、リングギア13には、その反力として、負方向の反力トルクTmが作用する。すなわち、ブレーキBK1を係合してエンジン1を回転させることで、車両100に制動力を発生させることが可能である。
【0049】
第二の潤滑油供給モードでは、ブレーキBK1を係合することでエンジン1を回転状態に維持することができる。よって、MG1トルクによってエンジン1を回転させる第一の潤滑油供給モードよりも、オイルポンプ50を回転駆動することによる消費電力を低減することが可能である。
【0050】
第二の潤滑油供給モードでは、要求減速度を実現するようにMG2トルクが決定されてもよい。例えば、運転者の減速要求があるときに第二の潤滑油供給モードを実行する場合、ブレーキBK1を係合してエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクが要求減速度に相当する制動トルクを上回る場合、MG2トルクによって過剰な制動トルクを相殺することができる。一方、ブレーキBK1を係合してエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクが要求減速度に相当する制動トルクに対して不足する場合、MG2トルクによって不足する制動トルクを補うことができる。
【0051】
減速要求がなされていない場合に第二の潤滑油供給モードを実行する場合、ブレーキBK1を係合してエンジン1を回転させることにより発生する制動トルクを打ち消すように、MG2トルクが決定されてもよい。
【0052】
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行中に被潤滑部に潤滑油を供給する際に、回生発電を実行可能と予想される走行環境が存在する場合、第二の潤滑油供給モードで被潤滑部に潤滑油を供給する。これにより、下り坂等の減速シーンを利用して長時間オイルポンプ50を駆動して十分な潤滑性能を確保することができる。回生発電を実行可能と予想される走行環境は、典型的には下り坂である。回生発電を実行可能と予想される走行環境が存在する場合に、第二の潤滑油供給モードを実行することで、減速度の発生と、被潤滑部に対する潤滑油の供給とを実現することができる。
【0053】
また、回生発電を実行可能と予想される走行環境が存在する場合に、運転者による減速要求の操作に応じて第二の潤滑油供給モードを実行するようにすれば、減速要求に応じて減速度を発生させつつ被潤滑部を潤滑することができる。
【0054】
図1を参照して、本実施形態の制御について説明する。
図1に示す制御フローは、例えば、EV走行中に実行されるものであり、アクセルOFFやブレーキONなどの減速要求の操作入力がなされているときに実行されるようにしてもよい。
【0055】
ステップS10では、ECU30により、EV走行中の連続無潤滑状態のチェックがなされる。無潤滑状態とは、オイルポンプ50による被潤滑部に対する潤滑油の供給を行っていない状態である。ECU30は、被潤滑部の連続無潤滑状態を示す所定パラメータを算出する。所定パラメータは、例えば、被潤滑部に対して潤滑油が供給されることなく走行した累計走行距離、被潤滑部に対して潤滑油が供給されることなく走行した累計走行時間、被潤滑部に対して潤滑油が供給されることなく経過した経過時間等である。ステップS10が実行されると、ステップS20に進む。
【0056】
ステップS20では、ECU30により、潤滑の必要があるか否かが判定される。ECU30は、ステップS10で算出した所定パラメータに基づいて、被潤滑部に潤滑油を供給する必要があるか否かを判定する。ECU30は、例えば、ステップS10で算出した所定パラメータが予め定められた閾値を超える場合にステップS20で肯定判定を行うことができる。ステップS20の判定の結果、潤滑の必要ありと判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)にはステップS10に移行する。
【0057】
ステップS30では、ECU30により、EV減速時に安定して車両から回生エネルギを得られやすい状況か否かが判定される。ステップS30では、下り坂を惰行するなど、長時間回生状態が続くことを期待できる状況か否かが判定される。ECU30は、例えば、地形情報等の走行環境に基づいて、ステップS30の判定を行う。地形情報は、カーナビゲーションシステム40から取得することが可能である。地形情報としては、例えば、
図6に示す路面勾配θと坂路の長さが挙げられる。路面が下り勾配である場合、回生発電を実行可能と予想することができる。また、降坂路が所定距離以上連続している場合、EV走行で減速するときに安定して回生エネルギを得られやすいと判定することができる。
【0058】
ECU30は、例えば、回生発電によって所定量よりも多く回生エネルギを得られると予想される場合に第二の潤滑油供給モードで被潤滑部に潤滑油を供給するようにしてもよい。言い換えると、ECU30は、地形情報に基づいて、EV走行で減速した場合に得られると予測される回生エネルギを算出し、算出された回生エネルギが所定量よりも多い場合、ステップS30で肯定判定を行うようにしてもよい。所定量は、例えば、許容される上限の蓄電残量SOCまでバッテリ36を充電することができるエネルギ量とすることができる。ステップS30の判定の結果、EV減速時に安定して車両から回生エネルギを得られやすい状況であると判定された場合(ステップS30−Y)にはステップS40に進み、そうでない場合(ステップS30−N)にはステップS50に進む。
【0059】
ステップS40では、ECU30により、MG1ロックによるオイルポンプ潤滑が実行される。ECU30は、ブレーキBK1を係合し、第二の潤滑油供給モードで被潤滑部に潤滑油を供給する。ステップS40が実行されると、本制御フローは終了する。
【0060】
ステップS50では、ECU30により、蓄電残量SOCの状態が判断される。ECU30は、蓄電残量SOCに基づいて、エネルギを回生可能か否かを判定する。ECU30は、例えば、蓄電残量SOCが所定値よりも高く、蓄電残量SOCに余裕がある場合、回生不可能と判断する。一方、ECU30は、蓄電残量SOCが所定値以下であり、蓄電残量SOCに余裕がない場合、回生可能と判断する。回生不可能な場合には、ブレーキBK1を係合して発生させるエンジンブレーキ力により減速度を発生させ、回生発電を抑制することが好ましい。このようにすれば、回生発電を抑制しながら長時間オイルポンプ50を回転駆動することができる。ステップS50の判定の結果、エネルギを回生可能と判定した場合(ステップS50−Y)にはステップS60に進み、そうでない場合(ステップS50−N)にはステップS40に進む。
【0061】
ステップS60では、ECU30により、エンジン始動/MG1駆動によるオイルポンプ駆動が実行される。ECU30は、第一の潤滑油供給モードで被潤滑部に潤滑油を供給する。ステップS60が実行されると、本制御フローは終了する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、被潤滑部に対する潤滑油の供給と効率低下の抑制とを両立することが可能である。安定して車両100から回生エネルギを得られやすい状況(ステップS30−Y)では、第二の潤滑油供給モードで被潤滑部に潤滑油が供給される。長時間や長距離の減速が予想される場合にブレーキBK1を係合することによる潤滑油の供給が優先されることにより、被潤滑部に対する潤滑油の供給と電力消費の低減とを両立することが可能となる。
【0063】
本実施形態の制御では、減速時のMG1ロックをかけ始めるタイミングやMG1ロックを継続する時間について、運転者の意図や車速や地形情報(傾斜角・坂道の長さ)、混雑状況、蓄電残量SOCに応じて判断することが好ましい。これにより、EV走行による燃費の向上と潤滑性能確保との最適なバランスを取ることが可能となる。
【0064】
例えば、運転者による減速要求の開始・終了に応じて第二の潤滑油供給モードを開始・終了するようにすれば、運転者の感覚に沿った減速制御を実行しつつ被潤滑部に対する潤滑油の供給を行うことができる。第二の潤滑油供給モードを利用することにより、エンジン1の始動頻度を低減させることが可能である。第二の潤滑油供給モードでは、運転者の要求する減速度を実現するように、MG2トルクにより減速度を調整するようにしてもよい。
【0065】
また、例えば、降坂路の傾斜角が所定角度以上である場合に、第二の潤滑油供給モードが実行されるようにしてもよい。勾配の大きな降坂路では、回生により得られるエネルギが大きいと予想できる。こうした状況で積極的に第二の潤滑油供給モードを実行することで、エンジン1の始動頻度を低減させることができる。
【0066】
また、例えば、短い降坂路では第二の潤滑油供給モードを実行しないようにすれば、一度係合したブレーキBK1をすぐに開放しなければならなくなるという状況の発生を抑制することができる。また、降坂路等の回生可能な地形であっても、混雑箇所や渋滞箇所では、第一の潤滑油供給モードに対して第二の潤滑油供給モードを優先しないようにしてもよい。また、蓄電残量SOCが十分である場合、例えばバッテリ36に蓄電する余地がない場合や、予想されるエネルギの回生量がバッテリ36に蓄電可能なエネルギ量を超える場合、第二の潤滑油供給モードを優先的に実行するようにしてもよい。
【0067】
なお、回生発電を実行可能と予想される走行環境は、下り坂には限定されない。例えば、自車両の前方にある一旦停止箇所や踏切、料金所、コーナー、赤信号(車両100が到着する前に赤信号となることが予測されるものを含む)等は、回生発電を実行可能と予想される走行環境に含まれる。
【0068】
[実施形態の第1変形例]
被潤滑部の連続無潤滑状態を示す所定パラメータは、走行距離や走行時間に加えて、負荷を含んでもよい。走行負荷が高い場合、走行負荷が低い場合よりも、短い走行距離や走行時間で被潤滑部の潤滑が必要であると判定されてもよい。
【0069】
上記実施形態の車両100は、プラグインハイブリッド車両であったが、これに限定されるものではない。車両100は、外部電源によってバッテリ36を充電するための受電設備を有しないハイブリッド車両であってもよい。上記実施形態では、サンギア11が第一回転要素、キャリア14が第二回転要素、リングギア13が第三回転要素であったが、対応関係はこれに限定されない。また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1の差動機構は、例示した遊星歯車機構10には限定されない。また、規制装置は、実施形態で例示したブレーキBK1には限定されない。規制装置は、例えば、噛み合い式のものであってもよい。
【0070】
上記実施形態の潤滑制御において、第一の潤滑油供給モードと第二の潤滑油供給モードとの間でモードの移行が実行されてもよい。例えば、蓄電残量SOCに応じて、第一の潤滑油供給モードから第二の潤滑油供給モードへ、あるいは第二の潤滑油供給モードから第一の潤滑油供給モードへ移行がなされてもよい。一例として、蓄電残量SOCが増加した場合には第一の潤滑油供給モードから第二の潤滑油供給モードへ移行し、蓄電残量SOCが減少した場合には第二の潤滑油供給モードから第一の潤滑油供給モードへ移行するようにしてもよい。
【0071】
[実施形態の第2変形例]
上記実施形態では、潤滑の必要がある(
図1のステップS20−Y)場合に第一の潤滑油供給モードあるいは第二の潤滑油供給モードが実行されたが、これに代えて、被潤滑部に対する潤滑油の供給が必要であるか否かにかかわらず、回生発電を実行可能と予想される走行環境が存在する場合に第二の潤滑油供給モードが実行されてもよい。このようにした場合、減速時に積極的に第二の潤滑油供給モードを実行し、被潤滑部の潤滑不足を未然に抑制することができる。その結果、第一の潤滑油供給モードが実行される機会を減少させ、エンジン1の始動頻度を低減することができる。
【0072】
また、無潤滑状態での走行時間や走行距離が増加するに従い、第二の潤滑油供給モードを優先する度合が変化してもよい。例えば、被潤滑部に対する潤滑油の供給を行わないままで走行した走行時間や走行距離が短い間は、被潤滑部に対して潤滑油を供給する必要性が最も低い。この場合、第一の潤滑油供給モードおよび第二の潤滑油供給モードのいずれも実行しないようにしてもよい。被潤滑部に対する潤滑油の供給を行わないままで走行した走行時間や走行距離がある程度長くなると、第二の潤滑油供給モードが優先される。第二の潤滑油供給モードを実行可能な走行環境であれば第二の潤滑油供給モードが実行され、そうでなければいずれの潤滑油供給モードも実行されない。
【0073】
被潤滑部に対する潤滑油の供給を行わないままで走行した走行時間や走行距離が更に長くなって所定値を超えると、第一の潤滑油供給モードあるいは第二の潤滑油供給モードによって強制的にオイルポンプ50が駆動される。このようにすれば、被潤滑部の潤滑不足が発生するまでに十分な余裕があるときにはEV走行中にオイルポンプ50を駆動する制御を実行せず、被潤滑部の連続無潤滑状態がある程度進行した場合には減速シーンを利用して第二の潤滑油供給モードによって被潤滑部に対して潤滑油を供給することができる。よって、第一の潤滑油供給モードが実行される機会が減少し、エンジン始動の頻度が低減する。
【0074】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。