(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路を説明する前に、一般的なフォールデッドカスコード増幅回路について説明する。
図1は、一般的な差動型のフォールデッドカスコード増幅回路の回路図である。
【0010】
この増幅回路は、入力段と、カスコード増幅段と、を有する。入力段は、3個のPMOSトランジスタPTr11, PTr12, PTr13を有する。PTr11は、ゲートにバイアス信号V
BP1が供給され、負荷として機能する。PTr12およびPTr13は、差動対を形成し、PTr12とPTr13のゲートに供給される入力信号V
IPおよびV
IMに応じた正相および逆相中間信号を出力する。PTr12のドレインに生成される信号は、PTr12のゲートに供給される正相の入力信号V
IPの逆相信号であり、PTr13のドレインに生成される信号は、PTr13のゲートに供給される逆相の入力信号V
IMの逆相、すなわち正相信号である。したがって、ここでは、PTr12のドレインに生成される信号を逆相中間信号、PTr13のドレインに生成される信号を正相中間信号と称する。
【0011】
カスコード増幅段は、4個のPMOSトランジスタPTr21, PTr22, PTr23, PTr24および4個のNMOSトランジスタNTr21, NTr22, NTr23, NTr24を有する。PTr21とPTr22、PTr23とPTr24、NTr21とNTr22およびNTr23とNTr24は、それぞれ差動対を形成する。PTr21, PTr23, NTr21およびNTr23は電源VDDとGND間に接続される。PTr22, PTr24, NTr22およびNTr24は電源VDDとGND間に接続される。PTr21とPTr22のゲートにはV
BP1が供給され、PTr23とPTr24のゲートにはV
BP2が供給される。NTr21とNTr22のゲートにはV
BN2が供給され、NTr23とNTr24のゲートにはV
BN1が供給される。逆相中間信号はNTr21とNTr23の接続ノードXに供給され、正相中間信号はNTr22とNTr24の接続ノードYに供給される。
【0012】
図1のフォールデッドカスコード増幅回路は、差動入力信号V
IPおよびV
IMを増幅して、差動出力信号V
OPおよびV
OMを出力する。ここでは、入力信号V
IPを正相入力信号、V
IMを逆相入力信号、出力信号V
OPを正相出力信号、V
OMを逆相出力信号、と称する。また、差動出力信号V
OPおよびV
OMが出力されるノードを、出力ノードと称する。
【0013】
図1のフォールデッドカスコード増幅回路は、広く知られているので、これ以上の説明は省略する。
図2は、増幅回路を使用する場合の一般的な回路構成を示す図である。
【0014】
図2に示すように、増幅回路(アンプ:A)10の出力と入力の間に帰還要素(β)11を接続して負帰還をかけることが行われる。負帰還をかける場合、位相が180度回る周波数で0dB以上の利得を有する場合、発振条件が満たされ、発振することが知られている。そのため、発振を防止するため、増幅回路では、位相が180度回る周波数で0dB以上の利得を持たないようにしている。
【0015】
図1のフォールデッドカスコード増幅回路は、高利得かつ高速な1段増幅器としてよく用いられる。
図1のフォールデッドカスコード増幅回路は、1段の増幅器であるが、折り返しノードXおよびYと出力ノードの近くに、周波数利得・位相特性の極を有し、高い利得を有する。
【0016】
そのため、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路を、
図2のように負帰還をかける形で使用し、帰還の負荷が小さいと、位相余裕が不足して発振する可能性がある。
【0017】
図3は、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路に、負帰還をかけて使用する場合の発振防止対策を施した時の回路図である。
図3の回路では、折り返しノードXおよびYとGNDの間に容量C2およびC1を接続して位相補償をすることにより、発振防止対策を行っている。容量はVDDとの間に接続することもできる。
【0018】
図4は、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路および
図2の発振防止対策を施した場合の周波数利得特性を示す図である。
図4において、Pは
図1のフォールデッドカスコード増幅回路の周波数利得特性を、Qは
図2の発振防止対策を施した場合の周波数利得特性を示す。
【0019】
例えば、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路を
図2のように負帰還をかけて使用する場合、位相が180°回る周波数で0dB以上の利得を持っているため場合には発振する。そこで
図2のように第一極であるXおよびYノードに大きな容量を付与することで極の位置を低周波側にずらし、Qで示すような特性を持たせることで、位相が180°回る周波数で0dB以上の利得を持たないようにする。
【0020】
しかし、
図3において、Pで示す特性をQで示す特性にシフトするには、大きな容量が必要である。
フォールデッドカスコード増幅回路は、個別のICとして提供され、回路基板等に搭載して使用されることが多く、回路基板に大きな値の容量素子を搭載して
図3の容量C1およびC2として使用していた。近年、フォールデッドカスコード増幅回路を、他の回路と一緒にLSIに搭載するようになっている。さらに、半導体素子の微細化・多機能化が進み、フォールデッドカスコード増幅回路はLSI内の回路の一部となっている。LSI内で容量を形成するには大きな面積を要する。そのため、LSIに搭載されたフォールデッドカスコード増幅回路に、
図3のように大きな容量を付加すると、面積が増加してしまうという問題がある。
【0021】
このような問題を解決するため、出力ノードと折り返しノードの間に、バッファ(ソースフォロア)と比較的小さな容量を直列に繋ぎ、位相の方を早めることで位相補償を実現することが提案されている。しかし、この提案は、バッファ(ソースフォロア)が必要となることから、電力及び面積が増加してしまうという問題がある。
【0022】
以上の通り、フォールデッドカスコード増幅回路は、位相補償を行うことが求められるが、位相補償だけのために、大きな面積を利用した容量を付与することは望ましくない。また上記のように別回路を付加することも、回路が複雑化し電力が増加するため望ましくない。
【0023】
そこで、付加する容量を減らしても、実質的に大きな容量を付加したのと同じ効果が得られるミラー効果を利用することを検討する。
図5は、ミラー効果を説明する図である。
【0024】
図5の(A)のように、利得Aの増幅器20とインピーダンスZ1を有するインピーダンス要素21が並列に接続された回路を考える。この回路は、
図5の(B)に示すように、増幅器20の入力とGNDの間に入力インピーダンスZiのインピーダンス要素22を接続し、増幅器20の出力とGNDの間に出力インピーダンスZoのインピーダンス要素23を接続した回路と等価である。ここで、増幅器20の入力インピーダンスが十分に高いとすると、Vout=AVinである。
【0025】
図5の(A)のように、インピーダンス要素21に流れる電流をiとすると、
i=(Vin−Vou)/Z1=(Vin−AVin)/Z1
である。したがって、この回路の入力インピーダンスZiは、
Zi=Vin/i=Z1/(1−A)
で表される。
また、回路の出力インピーダンスZoは、
Zo=(−Vout)/i=(−AVin)/i=(−AZ1)/(1−A)
=Z1/(1−1/A)
で表される。
【0026】
図6は、ミラー効果を説明する図であり、
図5のインピーダンス要素を容量で置き換えた場合を示す。
図6の(A)に示すように、インピーダンスZ1のインピーダンス要素21を容量C1で、利得Aの増幅器20を利得(−A)の増幅器25を置き換えた場合を考える。この場合、
図6の(B)に示すように、入力側から見える容量Ciは、以下の式で表される。
【0027】
Z1=1/(sC1)であるから、Zi=Z1/(1−A)=1/(sC1(1+A))
したがって、入力側から見える容量Ciは、C1の(1+A)倍に見える。これがミラー効果である。
【0028】
図7は、ミラー効果を利用した二段増幅回路の例を示す図である。
図7の回路では、容量C21およびC22を、2段目の入力と出力の間に接続して位相補償を行っている。この場合、ノードXおよびYがゲートに接続されるトランジスタPMOSが2段目の増幅段である。
図7の2段目の増幅器は、ソース接地であり利得は−A(A>0)であるため、
図6の(A)と同じ接続となるので、ノードXおよびYから出力ノードに繋がる容量は、ノードXおよびYからみると(1+A)倍されて見える。
【0029】
上記の構成を、フォールデッドカスコード増幅回路にも適用すれば、効果的に位相補償を行うことができると考えられる。
図8は、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路において、増幅段の増幅トランジスタNTr21のソースとドレイン間に容量C31を、NTr22のソースとドレイン間に容量C32を接続した回路を示す図である。
【0030】
しかし、
図8の回路では、NTr21およびNTr22がゲート接地であることから、利得A>0あり、ミラー効果は得られない。
そこで、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路において、どのようにすればミラー効果が得られるか検討する。
【0031】
ミラー効果が得られるには、増幅段において、利得が負となる関係にある入力と出力の間に容量を接続する。
図1のフォールデッドカスコード増幅回路は、差動型であり、差動の入力に対して差動の出力が存在する。増幅段の増幅トランジスタはゲート接地であり、利得は正であるが、一方の増幅トランジスタの入力と他方の増幅トランジスタの出力は逆位相であり、信号上は負の利得を有するのと等価である。
【0032】
そこで、実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路では、差動入力と差動出力の間で負の利得の関係を有する信号線の間に容量を接続して擬似的にミラー効果を得る。
【0033】
図9は、正の利得A、Bを持つ増幅器31、32の出力と、差動信号のように極性が逆の信号Vip, Vimを、容量を介して接続する構成を示す図である。ここで、Vim = -C * Vipとする(C>0)。Vipから見るとVomは Vom = -B * C * Vipと見なせ、またVimから見るとVopはVop = -A * (1/C) * Vimと見なせる。そのため、容量Cp, Cmを
図9のように交差させて接続することにより、疑似的にミラー効果を引き出すことができる。
【0034】
図10は、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の回路図である。
第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路は、
図1のフォールデッドカスコード増幅回路において、正相中間信号のノードと逆相出力信号ノードの間に容量C41を、逆相中間信号ノードと正相出力信号ノードの間に容量C42を接続した回路である。言い換えれば、容量C41は、ノードYと、逆相出力信号V
OMを出力する増幅段のトランジスタNTr23のドレインの間に接続される。容量C42は、ノードXと、正相出力信号V
OPを出力する増幅段のトランジスタNTr24のドレインの間に接続される。
【0035】
容量C41およびC42は、正の利得Aを有するNTr23およびNTr24が、擬似的に負の利得を示す信号線の間に接続され、擬似的ミラー効果により、出力から見た容量が(1+A)倍に見える。これにより、大きな容量を接続した時のように、回路の周波数位相特性を低周波側に大きくずらす。
【0036】
図11は、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の周波数位相特性を示す図である。
図11において、Rは容量を接続しない
図1のフォールデッドカスコード増幅回路の特性を示し、Sは第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の周波数位相特性を示す。図示のように、第1実施形態では、周波数位相特性が低周波側に大きくシフトする。
【0037】
図12は、第2実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の回路図である。
第2実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路は、第1実施形態1のフォールデッドカスコード増幅回路において、ノードYと容量C41の間に抵抗R1を、ノードXと容量C42の間に抵抗R2を、接続した回路である。第2実施形態では、第1実施形態よりさらに位相余裕を大きくできる。なお、抵抗R1は、逆相出力信号V
OMのノードと容量C41の間に接続しても、抵抗R2は、正相出力信号V
OPのノードと容量C42の間に接続してもよい。
【0038】
図13は、第3実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の回路図である。
第3実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路は、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の入力段をNMOSトランジスタ対とし、それに応じて増幅段を変更した回路である。説明は省略する。
【0039】
図14は、第4実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の回路図である。
第4実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路は、第2実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の入力段をNMOSトランジスタ対とし、それに応じて増幅段を変更した回路である。説明は省略する。
【0040】
図15は、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の効果を確かめるためAC解析をした結果を示す図であり、(A)は周波数利得特性を、(B)は周波数位相特性を、示す。
【0041】
図15において、Xは、
図1のように位相補償をしないフォールデッドカスコード増幅回路の特性を示す。この場合、位相余裕は無い。Yは、
図8のフォールデッドカスコード増幅回路のようにC31およびC32として、20fFの容量を付加した場合の特性を示す。位相は全く改善しておらず、位相余裕がないことが分かる。Zは、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路で、C51およびC52として、20fFの容量を付加した場合の特性を示す。第一極(ポール)が大きく移動し、位相余裕が改善され、31°の位相余裕が得られる。
【0042】
図16は、他の実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路の効果を確かめるためAC解析をした結果を示す図であり、(A)は周波数利得特性を、(B)は周波数位相特性を、示す。なお、
図15と一部重複して示している。
【0043】
図16において、Dは、
図1のように位相補償をしないフォールデッドカスコード増幅回路の特性を示す。この場合、位相余裕は無い。Eは、
図3のフォールデッドカスコード増幅回路のようにC1およびC2として、4.5pFの容量を付加した場合の特性を示す。大きな容量を付加したが、位相はあまり改善しておらず、位相余裕は7°である。Fは、第1実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路で、C51およびC52として、20fFの容量を付加した場合の特性を示す。位相余裕は31°である。Gは、第2実施形態のフォールデッドカスコード増幅回路で、C51およびC52として、20fFの容量を、抵抗R1およびR2として5kオームの抵抗を付加した場合の特性を示す。位相余裕はさらに改善して48°である。
【0044】
以上実施形態を説明したが、説明した疑似ミラー効果は一例であり、フォールデッドカスコード増幅回路に限ったものではない。
【0045】
以上、実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものである。特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではなく、明細書のそのような例の構成は発明の利点および欠点を示すものではない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。