【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記発光層が、前記有機エレクトロルミネッセンス用発光材料と自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物との混合物とを含有していることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子一対の電極と、前記一対の電極の間に、発光層を含む一又は複数の有機層が具備された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
該発光層は、金属原子と複数の配位子とからなる異性体混合金属錯体組成物であるリン光発光性の有機エレクトロルミネッセンス用発光材料を含有しており、
前記複数の配位子は、構造が同じ配位子又は異なる配位子であり、
前記異性体混合金属錯体組成物は、前記
複数の配位子の少なくとも1つが芳香族環を置換基として有し、当該芳香族環と前記配位子との結合軸の自由回転が前記金属原子と配位子との錯体形成により
、前記錯体分子内の他の配位子の影響で自由回転ができなくなることにより生じるアトロプ異性体
の混合物を含有していることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項
11までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0057】
さらに、本発明においては、前記アトロプ異性体が、前記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス用金属錯体組成物であることが好ましい。また、前記一般式(1)において、環Bm、環Bn、環Am、環Anが、イミダゾール環又はピラゾール環を表すことが好ましい。
【0058】
また前記一般式(1)において、環Anと環Bnとが結合して形成される配位子、若しくは環Amと環Bmとが結合して形成される配位子が、前記一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)又は一般式(6)のいずれかで表わされることが好ましい。またMが、イリジウム原子を表すことが、多くのアトロプ異性体及び/又はジアステレオマー異性体を含有させる上で好ましい。
【0060】
また、
前記発光層が、前記有機エレクトロルミネッセンス用
発光材料と自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物との混合物とを含有していることが好ましい。前記自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物が、ジベンゾフラン構造を有する化合物、カルバゾール構造を有する化合物又は無置換のフェニル基を有する化合物であることが好ましい。
【0061】
本発明の有機EL素子は、照明装置及び表示装置に好適に具備され得る。
【0062】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0064】
まず、エナンチオマー(鏡像異性体)とジアステレオマーについて詳細に説明する。
【0066】
上記したように、キラリティーを発現する主なタイプとして、最も一般的な炭素原子(又は不対電子を持つ、窒素、硫黄、リンなどの原子)に4つの異なる置換基を置換させてなる不斉炭素化合物(I)、オルト位に嵩高い置換基を持つビアリール基のような回転異性性を付与する結合軸(アトロプ異性軸)を有する分子、いわゆる軸不斉化合物(II)、芳香族環の面が固定又は自由回転できないことにより発現する面不斉化合物(III)、ヘリセンのようなねじれの方向が規定されるヘリシティー化合物(IV)、さらに図示していないが、錯体を形成することで鏡像において非対象性が発現する化合物も本発明の範疇に入る。
【0067】
エナンチオマーは別名、鏡像異性体と呼ばれるように、右手と左手の関係のように鏡に写したときに発現する異性体であり、これは不斉炭素化合物のみならず、下記のように[II]のタイプでも同様で、さらに[III]及び[IV]やその他のキラリティー発現物質でも同様に鏡像の関係にあるもの同士をいい、それぞれはエナンチオマーの関係ということもできる。
【0069】
一方で、ジアステレオマーは、キラリティーを発現する部位が2つ以上の時に発現する、鏡像関係にはないが平面的な分子構造を書いた時には同じ標記となる分子同士のことをいい、それぞれはジアステレオマーの関係ということもできる。以下に、不斉炭素を3つ有する化合物の具体例を示す。この分子では8種類の異性体が存在し、そのうち鏡像関係にある4対はエナンチオマー異性体で、それ以外はジアステレオマー異性体となる。実線の両矢印はエナンチオマーの関係を示す。点線の両矢印はジアステレオマーの関係を示す。
【0071】
さらに、軸不斉と不斉炭素をそれぞれ1つずつ有する化合物の具体例を以下に示した。このようにキラリティーのタイプは任意のタイプを組み合わせて使うことができる。実線の両矢印はエナンチオマーの関係を示す。点線の両矢印はジアステレオマーの関係を示す。
【0073】
また、3価6配位のイリジウム錯体のように、複数個の配位子を有する錯体では、一つの配位子にキラリティーがあれば、結果として複数個のキラリティーを持つ錯体となり、当然、それによりジアステレオマー異性体も発現する。
【0074】
キラリティーは発現する部位がn個存在すると、一般的には2
n個の異性体が存在する。キラリティーが発現する部位の種類は任意である。例えば、キラリティーが発現する部位が3個ある化合物からは8種の異性体が存在し、キラリティーが発現する部位が4個ある化合物からは16種の異性体が存在する。
【0075】
本発明におけるアトロプ異性体とは、金属錯体を形成する配位子において、金属錯体を形成する金属と結合している配位子骨格に置換しているアリール基と配位子骨格との同一錯体分子内の別の配位子による立体障害又は相互作用により、回転ができなくなり生成する立体異性体をいう。
【0076】
次にこの本発明の技術思想を説明する。
【0077】
下記スキーム1にオルトメタル化錯体の模式図として配位数4の金属原子に2座型の配位子が2つ配位したオルトメタル化錯体を示す。配位子は、連結基(L)を介するか、直接結合している2つの芳香環Ar−Aと芳香環Ar−Bからなる。
【0079】
次に本発明の錯体生成時にアトロプ異性を形成する錯体についてスキーム2を用いて説明する。スキーム2に示すように、本発明では、錯体を形成する前の配位子の状態では錯体を形成する部分構造である芳香環Ar−AとAr−Bにさらに自由回転可能な単結合を介して(Ar−C))が置換している。この配位子が金属イオンとの錯体形成により、配位子自身の影響ではなく、錯体分子を形成する他の配位子(スキーム中ではAr−A)の影響で自由回転ができなくなり、結果としてアトロプ異性軸を形成するというものである。
【0080】
この錯体ではAr−Cのπ平面がAr−Aの効果(立体的な遮蔽効果(斥力)及び/又はπーπスタックや双極子/双極子による会合効果(引力))により自由回転性を失うことで、少なくとも1面のπ平面は相互作用的に不活性化し、有効に凝集を防止できることがわかった。
【0081】
スキーム2中でAr−BとAr−C間の結合が錯体形成により自由回転が不可能となり、これがドライビングフォース(A)となり、アトロプ異性軸が形成されているが、芳香環Ar−Cが芳香環Ar−Aと結合しておりAr−BとAr−Cの間の結合が錯体形成により自由回転が不可能となり、アトロプ異性軸が形成されているものも本発明に含まれる。
【0083】
下記スキーム3を用いて、本発明の錯体で、体中心が4配位の金属で形成されるものについてさらに説明する。具体的には4配位の金属の場合のアトロプ異性軸により構成されるエナンチオマーとジアステレオマーについて説明する。スキーム3に示す本発明の錯体はAr−BとAr−C間の結合の自由回転が不可能となるため1つの配位子につき2種のエナンチオマーが生じる。これらのエナンチオマーはたがいに鏡像の関係にあり、重ね合わせることができない。一方の配位子の自由回転が不可能な結合軸C1に対して二種のエナンチオマーが生じる。これを1R体、1S体とする。同様にもう一方の配位子の自由回転が不可能な結合軸C2対しても二種のエナンチオマーが生じる。これを2R、2Sとする。各配位子に2種ずつのエナンチオマーが存在するので2×2=4種の立体異性体が存在することになる。このうち互いに鏡像の関係にあり重ね合わせることができないものがエナンチオマーであり、鏡像の関係ではなく、重ね合わせることができないものがジアステレオマーとなり、それぞれ2種ずつ存在する。実線の両矢印はエナンチオマーの関係を示す。点線の両矢印はジアステレオマーの関係を示す。
【0085】
配位数4の金属M(たとえばPt(II))を有する平面正方形錯体、二座の配位子が配位子した、一般組成M(A−B)
2(式中、A−Bは二座の配位子である)で表される錯体であるならば、「シス/トランス異性体」が存在する。
【0087】
シス異性とは、組成(A−B)
2の錯体において、2個のA基及び2個のB基はどちらも正方形の隣接する角にあることを意味し、トランス異性の場合の2個のA基及び2個のB基はどちらも、それぞれ正方形の2個の互いに対角線上に相対する角にある。平面正方形金属錯体におけるシス/トランス−異性体の定義に関しては、例えば、J.Huheey,E.Keiter,R,Keiter,Anorganische Chemie:Prinzipien von Struktur und Reaktivitaet,2nd,newly revised edition,translated into German and expanded by Ralf Steudel,Berlin;New York:de Gruyter,1995,pages 557 to 559にその説明が記載されている。
【0088】
一般にシス/トランス異性体は発光スペクトルや化合物の安定性等の物性が異なったり、また、電子状態も異なる場合が多いことが知られており、本発明の異性体混合金属錯体混合組成物の異性体の概念からは除外する。シス・トランス異性体の安定性は配位子の種類により異なり、4座正方形金属錯体においては本発明に該当する錯体はシス/トランスとどちらか一方のみであることを前提とする。
【0089】
次に本発明の錯体で体中心が6配位の金属で形成されるものについてさらに説明する。 配位数6の金属Mとの錯体(すなわち、八面体錯体)、例えばIr(III)錯体の場合、錯体が一般組成M(AB)
3(式中、ABは二座の配位子である)の錯体であるならば、フェイシャル体(fac−体)メリジオナル体(mer−体)であらわされる異性体が存在する。
【0091】
八面体金属錯体におけるシス/トランス異性体及びfac−/mer−異性体の定義に関しては、例えば、J.Huheey,E.Keiter,R.Keiter,Anorganische Chemie:Prinzipien von Structur und Reaktivitaet[Inorganic Chemistry:Principles of Structure and Reactivity],2nd,newly revised edition,translated into German and expanded by Ralf Steudel,Berlin;New York:de Gruyter,1995,pages 575to 576にその説明が記載されている。
【0092】
一般にフェイシャル/メリジオナル異性体は発光スペクトルや化合物の安定性等の物性が異なったり、また、電子状態も異なる場合が多いことが知られており、本発明の異性体錯体混合組成物の異性体の概念からは除外する。また、フェイシャル体の方が、メリジオナル体よりも熱力学的に安定であることから6座八面体金属錯体においては本発明に該当する錯体はすべてフェイシャル体であることを前提とする。
【0093】
さらに、正八面体型の錯体で2座の配位子が配位した錯体はΔ(デルタ)体、Λ(ラムダ)体という(右回りのプロペラと左回りのプロペラに相当する)鏡像の関係にあたるエナンチオマーが存在する。
【0095】
次に、下記スキーム4を用いて本発明の錯体で中心が6配位の金属からなる錯体についてさらに説明する。中心金属が6配位の金属錯体の場合、正八面体の中心に金属が存在し、各頂点に配位する原子が配置する立体構造を形成する。
【0096】
スキーム4では分かりにくいが、錯体を形成した際の配位子中のAr−C′平面は同一錯体分子内の他の配位子のAr−B平面に接近することにより、Ar−B′とAr−C′間の結合の自由回転ができなくなる。中心金属が4配位の錯体の時と同様に1個の配位子中の自由回転が不可能な結合につき、2種のジアステレオマーが存在する。中心が6配位の金属からなる錯体では配位子が3個あるので2×2×2=8種のジアステレオマー、エナンチオマーが存在する。
【0097】
さらに6配位の金属に2座配位子が配位した錯体に生じる、Λ(ラムダ)体、Δ(デルタ)体の2種の錯体が存在するため総異性体数は16個となり、4配位の金属錯体の場合より先述のエントロピーを増大させる効果が大きくなる、すなわち膜状態の安定化の効果が大きい。このため本発明の錯体は中心金属がIrであることが好ましい。実線の両矢印はエナンチオマーの関係を示す。
【0099】
本発明の技術思想及び基本原理は以上の通りであるため、アトロプ異性軸は2つよりは3つ、4つとある方が効果は大きくなり、また、イリジウム錯体のような6座配位の場合は3つの配位子のうち1つの化学構造が異なるヘテロレプティック錯体である場合も効果を出しやすくなる。
【0100】
一方、スキーム5に示す配位子及び錯体のように配位子の段階ですでにアトロプ異性軸を有する配位子を使った錯体はすでに知られている。たとえば、国際公開2007/097149号公報中の例示化合物(170)に用いられる配位子はイミダゾール環がAr−Bに、イミダゾール環の2−位のフェニル基がスキーム4のAr−Aに、イミダゾール環の1位に置換した2−フェニル−6−メチルフェニル基がAr−Dに相当する。この配位子においてはイミダゾールの1位及び1位上に置換したフェニル基の間の単結合が自由に回転できない状態であり、アトロプ異性体が存在する。しかしながらこの場合ではアトロプ異性を司るAr−Dは、そもそも配位子の段階から立体障害の効果によりAr−Bとの間で自由回転ができなくなっており、錯体を形成することにより自由回転が阻害されるようになったわけではないので、本発明とは異なる錯体である。
【0101】
このような錯体はAr−D面が錯体分子の中心から外側に張り出しており、他の錯体分子の芳香環を形成する平面と接近することが可能である。これでは前記のように錯体自体の凝集性を緩和させるには不十分であり、化学構造によってはむしろAr−Dの部分同士で積極的な相互作用、つまり凝集を助長してしまうことになり、膜状態の安定性、溶解性の面で本発明の錯体より大きく劣る。
【0103】
国際公開第2007/097149号に記載の例示化合物(170)に用いられた配位子を以下に示す。
【0105】
一方、本発明の錯体は錯体を形成する骨格配位子部分と置換基であるアリール基が接近していることにより、他の錯体分子との芳香環のπ平面による相互作用を抑えており、凝集を防止しつつ、かつ、エナンチオマーとジアステレオマーの混合物とすることにより膜状態の安定性、溶解性が優れている。
【0106】
なお、公知の特許文献や技術論文に、期せずして本発明の要件を満たす可能性のある錯体構造は記載されているのは事実である。例えば、特表2011−500644号公報などは、その化学構造からアトロプ異性軸が錯体形成時に構築され、かつその軸が2以上あり、該明細書中に具体的な記載は全くないとはいえ、異性体を含むことも連想はできるが、該化合物が記載された明細書中には、その錯体のエナンチオマー及びジアステレオマー混合物を積極的に活用する旨は一切記載されておらず、本発明の技術思想とは全く異なるものであると言える。
【0107】
また、該特許文献の発明内容は、紙面上に記載された化合物単体が有機EL素子において発光寿命や色調を改善できるものと解釈することができ、その観点からも本願とは全く異なる発明であることは明確である。
【0108】
また、特表2008−525995号公報に、炭素−炭素結合の自由回転が阻害されることにより生じるアトロプ異性体を用いた有機電子デバイスが開示されている。記載されているアトロプ異性体を形成する化合物についてはアントラセン、ピレン、クリセンを主骨格とした蛍光発光材料であり、本発明の燐光発光性の遷移金属錯体の開示はないこと、記載のアトロプ異性体(該特許文献ではシン形、アンチ形と記述されている)生成する異性体の物性が大きく異なり、好ましい異性体を過剰にするものであり、本発明と異なる技術思想であることは明らかである。
【0109】
本発明の錯体は錯体骨格に置換している芳香族環が対称軸を持たない芳香族環であることが必要である。
【0110】
対称軸を持たない芳香族環とは錯体骨格との結合軸にそって180度回転したとき、同一の形でないものを意味する。すなわち、2回回転対称軸を持たないことを意味する。
【0111】
以下に3−トリル基と3、5−キシリル基で説明する。3−トリル基の場合は錯体骨格との結合軸にそって180度回転したとき、同一の形ではないが、3、5−キシリル基の場合は錯体骨格との結合軸にそって180度回転したとき、同一の形となる。
【0112】
このように錯体形成により回転できなくなり、本発明のアトロプ異性を発現するためには対称軸を持たない芳香族環が必要な部分構造である。
【0114】
本発明の錯体形成時にアトロプ異性軸を形成するオルトメタル化錯体(異性体混合金属錯体組成物)としては、一般式(1)であらわされる構造のものが好ましい
【化19】
【0115】
式中、環Am、環An、環Bm及び環Bnは、5員の芳香族炭化水素環、若しくは5員または6員の芳香族複素環を表し、更に置換基
として、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基を有していても良い。環Am及びBm中のXm
1、Xm
2,Xm
3、Xm
4及びXm
5は、それぞれ、炭素原子又は窒素原子を表す。環An及び環Bn中のXn
1、Xn
2、Xn
3、Xn
4及びXn
5は、それぞれ、炭素原子又は窒素原子を表す。
Xm
1とM及びXn
1とMとがそれぞれ配位結合を形成する場合、Xm
4とM及びXn
4とMはそれぞれ共有結合を形成し、
Xm
1とM及びXn
1とMとがそれぞれ共有結合を形成する場合、Xm
4とM及びXn
4とMはそれぞれ配位結合を形成する。
ただし、Xn1とXn4又はXm1とXm4が同時に炭素原子になることはない。
【0116】
Ar
m、Ar
n、は、置換基との結合軸が対称軸を持たない芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、更に置換基
としてハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、アリールアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、非芳香族炭化水素基又は非芳香族複素環基を有していても良い。MはIr又はPtを表す。
【0117】
m及びnは0〜3の整数を表し、m+nは2又は3である。
【0118】
一般式(1)及び一般式(2)中、環Am、環An、環Bm、環Bnで表される5員の芳香族複素環6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環としては例えば、ベンゼン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ジアジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環等が挙げられる。
【0119】
以下、Am、An、環Bm、環Bnで表される5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の例を下記一般式A−1〜A−53、B−1〜B−13で示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0123】
一般式A−1〜A−53、B−1〜B−13において、*は、遷移金属元素Mと結合を形成する箇所を示している。
【0124】
上記、一般式A−1〜A−53において、RA
1、RA
2、RA
3及びRA
4は、各々水素原子又は置換基を表し、該置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト
基が挙げられる。
【0125】
また、一般式A−1〜A−53において、RA
1、RA
2、RA
3、RA
4のうち2つが互いに結合して、環を形成してもよい。
【0126】
一般式A−1〜A−53において、RA
1、RA
2、RA
3、RA
4のうち2つが結合することにより形成される環としては、ナフタレン環、テトラリン環、アントラセン環、フェナントレン環、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ベンゾトリアゾール等の環構造が挙げられる。
【0127】
一般式B−1〜B−13において、*は、遷移金属元素Mと結合を形成する箇所を示している。
【0128】
上記、一般式B−1〜B−13において、RB
1、RB
2、RB
3は、各々水素原子又は置換基を表し、該置換基としては、一般式A−1〜A−53におけるRA
1〜RA
4であらわされる置換基と同様のものを挙げることができる。
【0129】
また、一般式B−1〜B−13において、RB
1、RB
2、RB
3のうち2つが互いに結合して、環を形成してもよい。
【0130】
一般式B−1〜B−13において、RB
1、RB
2、RB
3のうち2つが結合することにより形成される環としては、一般式A−1〜A−53において、RA
1、RA
2、RA
3、のうち2つが結合して形成される環と同様のものが挙げられる。
【0131】
本発明の錯体で好ましいものは一般式(1)におけるBm、Bn又はで表される環がピラゾール環又はイミダゾール環であるものである。
【0132】
さらに一般式(1)において、環Anと環Bnとが結合して形成される配位子、若しくは環Amと環Bmとが結合して形成される配位子とが結合して形成される配位子が、下記一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)又は一般式(6)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0134】
一般式(2)及び一般式(3)中、R
5a1、R
5a2はそれぞれ独立にハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基
、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。pは0〜4の整数を表す。
【0135】
R
5b1及びR
5b2は、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。X
5a、X
5bは、それぞれ独立に、=C(R
5e)−、=N−を表す。R
5eは、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表す。
【0136】
Ar
51及びAr
52は、それぞれ独立に、一般式(4)で表される芳香族炭化水素環基を表す。
【0138】
R
81〜R
85は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基
、アリールアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。また、R
81〜R
85の隣接する二つの基が互いに結合して環を形成してもよい。ただし、R81=R85かつ、R82=R84となることはない。
【0139】
一般式(2)及び(3)中の*は金属原子と結合を形成する部位を表す。
【0141】
一般式(5)及び一般式(6)中、R
6a1及びR
6a2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基
、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。qは0〜4の整数を表す。
【0142】
R
6b1、R
6c1、R
6b2、R
6c2及びR
6d2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。X
6a、X
6bは,それぞれ独立に、=C(R
6e)−、=N−を表す。R
6eはアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表す。
【0143】
一般式(5)及び一般式(6)中の*はIr原子と結合を形成する部位を表す。Ar
61及びAr
62は一般式(2)及び一般式(3)におけるAr
51及びAr
52と同義であり、一般式(4)で表される芳香族炭化水素基を表す。一般式(5)及び一般式(6)中の*は金属原子と結合を形成する部位を表す。
【0144】
次に本発明に用いられる錯体の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0153】
《有機EL素子の構成》
本発明の有機EL素子は、一対の電極と、前記一対の電極の間に、一又は複数の有機層が具備された有機EL素子であることが好ましい。例えば、有機EL素子は(i)又は(ii)の層構造を有していてもよい。なお、本発明において、有機層とは有機化合物を含有する層をいう。
(i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極、又は電子輸送層及び正孔輸送層から注入される電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。発光層には、リン光発光性の有機EL用発光材料として、異性体混合金属錯体組成物を含有することが好ましい。また、発光層にはホスト化合物を含むことが好ましい。
【0154】
発光層の層厚の総和は特に制限はないが、膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜5μmの範囲に調整することが好ましく、さらに好ましくは2〜200nmの範囲に調整され、特に好ましくは、10〜100nmの範囲である。
【0155】
(従来公知のドーパントとの併用)
また、本発明に係る発光ドーパントは、複数種の化合物を併用して用いてもよく、構造の異なるリン光ドーパント同士の組み合わせや、リン光ドーパントと蛍光ドーパントを本発明の効果を損なわない範囲で組み合わせて用いてもよい。
【0156】
ここで、発光ドーパント(ドーパント化合物ともいう。)として、本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体化合物と併用して用いてもよい従来公知の発光ドーパントの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0164】
(2)ホスト化合物
本発明においてホスト化合物(発光ホストともいう。)は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であり、且つ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0165】
本発明に用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも1つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0166】
本発明に用いることができる公知のホスト化合物としては正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0167】
また、本発明においては、従来公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、前記リン光ドーパントとして用いられる本発明の金属錯体及び/または従来公知の化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0168】
また、本発明に用いられるホスト化合物としては、低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(重合性ホスト化合物)でもよく、このような化合物を一種または複数種用いても良い。
【0169】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物が挙げられる。 特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0170】
本発明の錯体はさらに、ホスト化合物と錯体が適切に相互作用することで、さらに錯体自体の凝集性を抑制することができる。この場合に用いられるホスト化合物は、錯体と積極的に相互作用できるものが好ましく、かつホスト化合物同士の凝集が抑えられた構造が相応しい。具体的には錯体分子のアリール基とπ平面を通じて相互作用可能な部分構造と、他のホスト化合物と相互作用を抑制する部分構造を有しているものが好ましい。
【0171】
化学構造として特定することは一概にできないが、好ましいホスト化合物の構造的特徴を列挙すると;
a.自由回転できるビアリール構造を有する
b.自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物が、ジベンゾフラン構造を有する
c.自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物が、カルバゾール構造を有する
d.自由回転できるビアリール構造を有するホスト化合物が、無置換のフェニル基を有する
という点が挙げられる。
【0172】
以下に本発明の錯体とともに用いることのできるホスト化合物として好ましいものの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0192】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層もしくは複数層を設けることができる。
【0193】
電子輸送層は陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、電子輸送層の構成材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択し併用することも可能である。
【0194】
電子輸送層に用いられる従来公知の材料(以下、電子輸送材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の多環芳香族炭化水素、複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボリン誘導体、または、該カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の少なくとも一つが窒素原子で置換されている環構造を有する誘導体、ヘキサアザトリフェニレン誘導体等が挙げられる。
【0195】
更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引性基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0196】
これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0197】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も電子輸送材料として用いることができる。
【0198】
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも電子輸送材料として用いることができる。また、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0199】
電子輸送層は電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett法)等を挙げることができる。))等により、薄膜化することにより形成することが好ましい。
【0200】
電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5000nm程度、好ましくは5nm〜200nmである。この電子輸送層は上記材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0201】
また、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントをドープして用いてもよい。
【0202】
以下、本発明の有機EL素子の電子輸送層の形成に好ましく用いられる従来公知の化合物(電子輸送材料)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0213】
これらの電子輸送材料は発光層のホスト化合物として使用することもできる。
【0214】
《陰極》
一方、陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0215】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0216】
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0217】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、後述する陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0218】
《注入層:電子注入層(陰極バッファー層)、正孔注入層》
注入層は、必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。 注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123頁〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファ層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0219】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、特表2003−519432や特開2006−135145等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体バッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体層等が挙げられる。
【0220】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウム、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウム、フッ化セシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0221】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0222】
正孔阻止層とは、広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0223】
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0224】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0225】
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げた、カルバゾール誘導体、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン環を構成する炭素原子のいずれかひとつが窒素原子で置き換わったものを示す)を含有することが好ましい。
【0226】
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。更には、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対しそのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
【0227】
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高占有分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法により求めることができる。
【0228】
(1)米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)として求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
【0229】
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−3」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
【0230】
一方、電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0231】
また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては、好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。
【0232】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0233】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0234】
また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
【0235】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0236】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0237】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0238】
また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0239】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
【0240】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
【0241】
正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmの範囲内である。この正孔輸送層は上記材料の一種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0242】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0243】
本発明においては、このようなp性の高い正孔輸送層を用いることが、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0244】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。
【0245】
また、IDIXO(In
2O
3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0246】
あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0247】
《支持基板》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等とも言う)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0248】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0249】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m
2・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10
−3cm
3/(m
2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10
−5g/(m
2・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0250】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0251】
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0252】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0253】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
【0254】
ここで、外部取り出し量子効率(%)=(有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数)×100である。
【0255】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0256】
《有機EL素子の作製方法》
有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層(電子注入層)/陰極からなる素子の作製方法について説明する。
【0257】
まず、適当な基体上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように形成させ、陽極を作製する。
【0258】
次に、この上に素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層等の有機化合物を含有する薄膜を形成させる。
【0259】
薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう。)等により成膜して形成することができる。
【0260】
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法等があるが、精密な薄膜が形成可能で、且つ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・ツー・ロール方式適性の高い方法が好ましい。また、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。
【0261】
本発明に係る有機EL素子材料を溶解または分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0262】
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0263】
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
【0264】
また、順序を逆にして、陰極、陰極バッファー層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0265】
本発明の有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0266】
《封止》
本発明に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0267】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0268】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。
【0269】
また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等から形成されたものを挙げることができる。
【0270】
金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0271】
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
【0272】
更には、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10
−3cm
3/(m
2・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10
−3g/(m
2・24h)以下のものであることが好ましい。
【0273】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0274】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0275】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0276】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0277】
更に、該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0278】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0279】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0280】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜、あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量且つ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0281】
《光取り出し》
有機EL素子は空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7〜2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げるためである。
【0282】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等がある。
【0283】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
【0284】
本発明はこれらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0285】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚みで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど外部への取り出し効率が高くなる。
【0286】
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。また、更に1.35以下であることが好ましい。
【0287】
また、低屈折率媒質の厚みは媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは低屈折率媒質の厚みが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0288】
全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は回折格子が1次の回折や2次の回折といった所謂ブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0289】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な1次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
【0290】
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0291】
回折格子を導入する位置としては前述の通り、いずれかの層間もしくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。 このとき、回折格子の周期は媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度が好ましい。
【0292】
回折格子の配列は正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、2次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0293】
《集光シート》
本発明の有機EL素子は基板の光取り出し側に、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
【0294】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10μm〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0295】
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。
【0296】
プリズムシートの形状としては、例えば、基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
【0297】
また、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0298】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0299】
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。 本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の
図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0300】
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合には、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/m
2でのCIE1931表色系における色
度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることを言う。
【0301】
《表示装置》
本発明の表示装置について説明する。本発明の表示装置は、本発明の有機EL素子を具備したものである。本発明の表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
【0302】
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
【0303】
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
【0304】
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
【0305】
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
【0306】
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2V〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0307】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
【0308】
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0309】
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0310】
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
【0311】
図2は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0312】
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0313】
制御部Bは表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0315】
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
【0316】
図3においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0317】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
【0318】
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
【0319】
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0320】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
図4は画素の回路図である。
【0321】
画素は有機EL素子10、スイッチングトランジスター11、駆動トランジスター12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0322】
図4において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスター11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスター11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスター11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスター12のゲートに伝達される。
【0323】
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスター12の駆動がオンする。駆動トランジスター12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0324】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスター11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスター11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスター12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスター12が駆動して有機EL素子10が発光する。
【0325】
即ち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスター11と駆動トランジスター12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0326】
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0327】
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0328】
図5はパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
図5において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0329】
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
【0330】
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
【0331】
《照明装置》
本発明の照明装置について説明する。本発明の照明装置は上記有機EL素子を有する。 本発明の有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよく、このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
【0332】
また、本発明の有機EL素子は照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
【0333】
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0334】
また、本発明の有機EL材料は照明装置として、実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0335】
また複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係る白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせ混合するだけでよい。
【0336】
発光層、正孔輸送層あるいは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよく、他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。
【0337】
この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
【0338】
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係る金属錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
【0339】
《本発明の照明装置の一態様》
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
【0340】
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚み300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、
図6、
図7に示すような照明装置を形成することができる。
【0341】
図6は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
【0342】
図7は、照明装置の断面図を示し、
図7において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【実施例】
【0343】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0344】
《例示化合物71の調製》
(中間体2の合成)
塩化イリジウム3.53gと6.56gの中間体1を窒素雰囲気下で1−プロパノール65mlと水13mlの混合溶媒中加熱還流を3時間行った。反応液を室温まで冷却し、析出した結晶をろ取し、メタノールで洗浄、乾燥し、6.44g(収率90%)の中間体2を得た。
【0345】
(例示化合物71の合成)
【化70】
【0346】
1.43gの中間体1と0.6gのトリフルオロ酢酸銀および0.9gの中間体3を酢酸フェニル14ml中で140℃で加熱しながら5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却したのち、不溶物を濾別し、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し例示化合物71を1.09g得た(収率50%)。
【0347】
上記の操作で得た例示化合物71をオクタデシル基で表面を修飾したシリカゲルを充填したカラム(ODS)を固定相とした高速液体クロマトグラフで分析したところ2種の成分の混合物であることが分かった。
【0348】
図8は高速液体クロマトグラフィの測定チャートである。
図8に例示化合物71の高速液体クロマトグラフィーの測定チャートを示す。保持時間13.2分(面積比57.3%)と13.7分(面積比42.4%)に例示化合物71のジアステレオマー成分に相当するピークが見られる。
【0349】
これはODSがアキラルなカラムであるため、分離された成分はエナンチオマーではなく、ジアステレオマーである。即ち、6配位八面体構造のIr錯体のΔ体、Λ体の光学異性と、3,4−ジメチルフェニル基とイミダゾール環の結合軸が錯体形成によりアトロプ異性体を発生させたことによる光学異性の2つのキラル中心からなるエナンチオマー及びジアステレオマーの4種の異性体錯体のうち、ジアステレオマーの関係にあるもの、つまり0Λ―1Rと0Δ―1Rが分離され、結局、0Λ―1R、0Δ―1Sの混合物と0Δ―1R、0Λ―1Sの混合物として分離されたものと考えることができる。さらに分取用HPLCで分離し各成分を分離し、例示化合物71のジアステレオマー分割されたエナンチオマー混合物成分である例示化合物71−A、71−Bとするをそれぞれ0.35g、0.29g得た。それぞれの立体配置は確認できなかったが核磁気共鳴スペクトル、マススペクトルから例示化合物71として妥当であることを確認した。
【0350】
[実施例1](蒸着系)
《有機EL素子1−1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nmの厚さで成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0351】
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。
【0352】
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPD(4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにCBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにド例示化合物71を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)を200mg入れ真空蒸着装置に取り付けた。
次いで真空槽を4×10
−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔注入層上に蒸着し30nmの正孔輸送層を設けた。
【0353】
更にCBPの入った前記加熱ボートと比較化合物1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し40nmの発光層を設けた。
【0354】
更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
【0355】
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
【0356】
《有機EL素子1−2〜1−3の作製》
有機EL素子1−1の作製において、例示化合物71の代わりに合成例で単離した例示化合物71のジアステレオマー成分である例示化合物71−A、71−Bに変更した以外は同様にして有機EL素子1−2〜1−3を作製した。
【0357】
《有機EL素子1−1〜1−3の評価》
得られた有機EL素子を評価するに際しては、作製後の各有機EL素子の非発光面をガラスカバーで覆い、ガラスカバーと有機EL素子が作製されたガラス基板とが接触するガラスカバー側の周囲にシール剤としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラクストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極側に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側から有機EL素子を除いた部分にUV光を照射して硬化させ、封止して、
図6、7に示すような照明装置を形成した。
【0358】
このようにして作製した各サンプルについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0359】
(1)外部取り出し量子効率(単に、効率ともいう)
有機EL素子を室温(約23〜25℃)、2.5mA/cm2の定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の発光輝度(L)[cd/m2]を測定することにより、外部取り出し量子効率(η)を算出した。
【0360】
ここで、発光輝度の測定はCS−1000(コニカミノルタセンシング製)を用いて行い、外部取り出し量子効率は有機EL素子1−1を100とする相対値で表した。
【0361】
(2)有機EL素子駆動前後の抵抗値の変化率
『薄膜の評価ハンドブック』テクノシステム社刊423ページ〜425ページに記載の測定方法を参考に、Solartron社製1260型インピーダンスアナライザ及び1296型誘電体インターフェイスを使って、作成した有機EL素子の発光層のバイアス電圧1Vにおける抵抗値の測定を行った。
【0362】
有機EL素子を室温(約23℃〜25℃)、2.5mA/cm
2の定電流条件下により1000時間駆動した後の駆動前後の発光層の抵抗値を各々測定し、測定結果を下記に示した計算式により計算し抵抗値の変化率を求めた。表1には有機EL素子1−1の抵抗値の変化率を100としたときの相対比率を記載した。
【0363】
駆動前後の抵抗値の変化率=|(駆動後の抵抗値/駆動前の抵抗値)−1|×100
値が0に近い方が駆動前後の変化率が小さいことを示す。
【0364】
【表1】
【0365】
表1に示す通り、本発明の錯体は性体数が2であるジアステレオマー分割した例示化合物71−A、71−Bでも異性体数が4個である各ジアステレオマー成分の混合物である例示化合物71でも効率に変動はないことから本発明の錯体のジアステレオマー間の発光性能は同等であり、同等の膜物性を有していることが分かる。
【0366】
一方、単一のジアステレオマー成分を用いて作製した素子1−2,1−3はジアステレオマー成分の混合を用いて作成した素子1−1より膜の抵抗値の変動が大きいことから、ジアステレオマー成分の混合物による膜状態の安定性が向上の効果が確認できた。
【0367】
他の例示化合物についても同様の単離操作を行い、各ジアステレオマー成分を単離し、目的の化合物であることを確認した。また単離したジアステレオマーと、ジアステレオマーの混合物を実施例1の素子1−1〜3と同様に素子を作製し、素子の性能を評価したところ、単離したジアステレオマーと、ジアステレオマーの混合物で同等の評価結果が得られた。
【0368】
[実施例2](蒸着系)
《有機EL素子2−1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nmの厚さで成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0369】
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。
【0370】
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにOC−30を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにドーパント化合物D−26を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCPを200mg入れ真空蒸着装置に取り付けた。
次いで真空槽を4×10
−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔注入層上に蒸着し30nmの正孔輸送層を設けた。
【0371】
更にOC−30の入った前記加熱ボートと比較化合物としてドーパント化合物D−26の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し40nmの発光層を設けた。
【0372】
更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
【0373】
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子2−1を作製した。
【0374】
《有機EL素子2−2〜2−75の作製》
有機EL素子1−1の作製において、D−26またはOC−30を表1に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子2−2〜2−75を作製した。
【0375】
比較化合物の構造を以下示す。
【0376】
【化71】
【0377】
《有機EL素子2−1〜2−75の評価》
得られた有機EL素子を評価するに際しては、作製後の各有機EL素子の非発光面をガラスカバーで覆い、ガラスカバーと有機EL素子が作製されたガラス基板とが接触するガラスカバー側の周囲にシール剤としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラクストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極側に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側から有機EL素子を除いた部分にUV光を照射して硬化させ、封止して、下記の
図6、
図7に示すような照明装置を形成して、インピーダンス分光測定装置よる発光層の抵抗値の測定及び有機EL素子の発光スペクトルの半値幅の変化率の測定を実施した。
【0378】
(1)有機EL素子駆動前後の抵抗値の変化率
『薄膜の評価ハンドブック』テクノシステム社刊423ページ〜425ページに記載の測定方法を参考に、Solartron社製1260型インピーダンスアナライザ及び1296型誘電体インターフェイスを使って、作成した有機EL素子の発光層のバイアス電圧1Vにおける抵抗値の測定を行った。
【0379】
有機EL素子を室温(約23℃〜25℃)、2.5mA/cm
2の定電流条件下により1000時間駆動した後の駆動前後の発光層の抵抗値を各々測定し、測定結果を下記に示した計算式により計算し抵抗値の変化率を求めた。表1には有機EL素子2−1の抵抗値の変化率を100としたときの相対比率を記載した。
【0380】
駆動前後の抵抗値の変化率=|(駆動後の抵抗値/駆動前の抵抗値)−1|×100
値が0に近い方が駆動前後の変化率が小さいことを示す。
【0381】
(2)有機EL素子駆動前後の発光スペクトルの半値幅の変化率
有機EL素子を室温(約23℃〜25℃)、2.5mA/cm
2の定電流条件下により1000時間駆動した後の駆動前後の発光スペクトルをCS−1000(コニカミノルタオプティクス社製)を用いて測定し、ピーク波長の半値幅の変化率を下記に示した計算式により算出した。表2〜表4には有機EL素子2−1の半値幅の変化率を100としたときの相対比率を記載した。
【0382】
駆動前後の半値幅の変化率=|(駆動後の半値幅/駆動前の半値幅)−1|×100
なお、値が0に近い方が駆動前後の変化率が小さいことを示す。
【0383】
【表2】
【0384】
【表3】
【0385】
【表4】
【0386】
表2〜表4から、抵抗値変化率と発光スペクトル半値幅変化率はほぼ相関することが分かる。即ち発光層の通電経時における低効率変化は有機EL素子においてその耐久性を評価するに当たっては基本となる物性値であると言える。次に表2〜表4中の各素子間のデータ比較本発明の有機EL素子2−10〜1−75は、比較例の有機EL素子2−1〜2−9に対して、発光層の抵抗値及び発光スペクトルの半値幅の変化率が小さいことが示されたことにより、発光層の薄膜の物性の変化が小さい有機EL素子を得ることができた。
また、本発明の錯体と共存させるホスト化合物において、より好ましい態様とすることで膜物性がより安定化することが分かる
また、本発明の例示化合物すべてにおいて、実際に異性体の数の存在比率を測定することはできなかったが、表2〜表4に記した理論上の異性体存在数が多いほど抵抗値変化率および発光スペクトル半値幅変化率が小さくなる傾向が明確に認められる。このことは本発明の技術思想の根幹をなすエントロピー増大効果による発光層薄膜の物性変化の抑制を裏付ける結果であり。錯体の配位子骨格によらず普遍的な安定化技術であることが確認できた。
【0387】
[実施例3](塗布系)
《有機EL素子3−1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nmの厚さで成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0388】
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。
【0389】
この基板を窒素雰囲気下に移し、前記第1正孔輸送層上に、50mgのADS254BE(American Dye Source, Inc製)を10mlのモノクロロベンゼンに溶解した溶液を用いて2500rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した。更に130℃で1時間真空乾燥し、第2正孔輸送層を形成した。
【0390】
この第2正孔輸送層上に、100mgのOC−30と13mgのドーパント化合物D−26とを10mlの酢酸ブチルに溶解した溶液を用いて1000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した。更に60℃で1時間真空乾燥し、膜厚約45nmの発光層とした。
【0391】
次に、この発光層上に、50mgのBCPを10mlのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した溶液を用いて1000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した。更に60℃で1時間真空乾燥し、膜厚約25nmの電子輸送層とした。
【0392】
続いて、この基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、真空槽を4×10
−4Paまで減圧した後、陰極バッファー層としてフッ化カリウム0.4nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子3−1を作製した。
【0393】
《有機EL素子3−2〜3−80の作製》
有機EL素子3−1の作製において、D−26またはOC−30を表5〜表7に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子3−2〜3−80を作製した。
【0394】
《有機EL素子3−1〜3−80の評価》
得られた有機EL素子を評価するに際しては、実施例2の有機EL素子2−1と同様に封止し、
図6、
図7に示すような照明装置を形成して評価した。
【0395】
このようにして作製した各サンプルに対し、実施例1と同様に発光層の抵抗値の変化率について評価を行った。評価結果を表5〜表7に示す。
【0396】
【表5】
【0397】
【表6】
【0398】
【表7】
【0399】
表5〜表7から、本発明の有機EL素子3−10〜3−80は、比較例の有機EL素子3−1〜3−9に対して、発光層の抵抗値及び発光スペクトルの半値幅の変化率が小さいことが示されたことにより、発光層の薄膜の物性の変化が小さい有機EL素子を得ることができた。
【0400】
また、本発明の錯体と共存させるホスト化合物において、より好ましい態様とすることで膜物性がより安定化することが分かる。また、本発明の例示化合物すべてにおいて、実際に異性体の数の存在比率を測定することはできなかったが、表5〜表7に記した理論上の異性体存在数が多いほど抵抗値変化率および発光スペクトル半値幅変化率が小さくなる傾向が明確に認められる。このことは本発明の技術思想の根幹をなすエントロピー増大効果による発光層薄膜の物性変化の抑制を裏付ける結果であり。錯体の配位子骨格によらず普遍的な安定化技術であることが確認できた。
【0401】
[実施例4](白色発光系)
《有機EL素子4−1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nmの厚さで成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0402】
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、モリブデン抵抗加熱ボートにTPD((4,4′−ビス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル))を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにCBPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにドーパント化合物D−9を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにドーパント化合物D−1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにドーパント化合物D−6を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCPを200mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
【0403】
次いで真空槽を4×10
−4Paまで減圧した後、TPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、透明支持基板に蒸着し10nmの正孔輸送層を設けた。
【0404】
更にCBPとD−9とD−1とD−6の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.025nm/秒、0.0007nm/秒、0.0002nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し60nmの発光層を設けた。
【0405】
更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記発光層上に蒸着し20nmの電子輸送層を設けた。
【0406】
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化カリウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子4−1を作製した。
【0407】
作製した有機EL素子4−1に通電したところほぼ白色の光が得られ、照明装置として使用出来ることが分かった。なお、本発明の有機EL素子4−2〜4−9の発光色を、2度視野角正面輝度測定した際に、1000cd/m
2でのCIE1931表色系における色度がx=0.40±0.07、y=0.40±0.1の領域内で白色光を呈することを確認した。
【0408】
《有機EL素子4−2〜4−9の作製》
有機EL素子3−1の作製において、D−9を表8に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子4−2〜4−9を作製した。
【0409】
《有機EL素子4−1〜4−9の評価》
実施例1と同様の方法により発光層の抵抗値の変化率を測定したとこ、本発明の有機EL素子は比較の半分以下の値となることを確認した。
【0410】
【表8】
【0411】
[実施例5](カラー)
《有機EL素子5−1の作製》
(青色発光素子の作製)
実施例2の有機EL素子2−55を青色発光素子として用いた。
【0412】
(緑色発光素子の作製)
実施例2の有機EL素子2−55において、例示化合物55をD−1に変更した以外は同様にして緑色発光素子を作製し、これを緑色発光素子として用いた。
【0413】
(赤色発光素子の作製)
実施例2の有機EL素子2−55において例示化合物55をD−6変更にした以外は同様にして、赤色発光素子を作製し、これを赤色発光素子として用いた。
【0414】
上記で作製した赤色、緑色、青色発光有機EL素子を同一基板上に並置し、
図2に記載のような形態を有するアクティブマトリクス方式フルカラー表示装置を作製した。
図3には、作製した前記表示装置の表示部Aの模式図のみを示した。
【0415】
即ち、同一基板上に複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と並置した複数の画素3(発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素等)とを有し、配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。
【0416】
前記複数画素3は、それぞれの発光色に対応した有機EL素子、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタと駆動トランジスタそれぞれが設けられたアクティブマトリクス方式で駆動されており、走査線5から走査信号が印加されるとデータ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。このように赤、緑、青の画素を適宜、並置することによって、フルカラー表示装置を作製した。
【0417】
このフルカラー表示装置は駆動することにより、輝度が高く、高耐久性を有し、且つ、鮮明なフルカラー動画表示が得られることが分かった。