(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ポンプを動力源に用いたパワーステアリング装置は、エンジンの駆動損失の点で問題がある。その問題を解決するものとして、電動モータを動力源とする電動パワーステアリング装置(Electric Power Steering、以下EPSと記すことがある)が知られている。EPSには、電動モータの電源に車載バッテリを用いるために直接的なエンジンの駆動損失が無く、電動モータが操舵アシスト時にのみに起動されるために走行燃費の低下も抑えられる他、電子制御が極めて容易に行える等の特長がある。
【0003】
EPSでは、ステアリングホイールに印加された操舵トルクに対応して、電動モータから補助操舵トルクを発生して、動力伝達機構(減速機)により減速して操舵機構の出力軸に伝達するようになっている。
【0004】
この動力伝達機構(減速機)として、ウォームギヤ機構を用いたEPSでは、電動モータの駆動軸側のウォームに、ウォームホイールが噛合してあり、このウォームホイールは、操舵機構の出力軸(例えば、ピニオン軸、コラム軸)に嵌合してある。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置の一形式においては、ステアリングホイールに連結される入力軸と、操舵機構に連結される出力軸とにそれぞれ連結されたトーションバーを用いて、操舵トルクの検出を行うようになっている。より具体的には、トーションバーは、ステアリングホイールに付与された操舵トルクに応じて変形するので、かかる変形量を検出することにより、操舵トルクを正確に検出することができる。操舵トルクを正確に検出できれば、適切な操舵補助トルクを出力することが可能となる。
【0006】
このような検出装置として、例えば、特許文献1に開示されているものがある。特許文献1に開示されている装置では、付与された操舵トルクに応じて、ハウジングに設けたコイルのインピーダンスを変化させ、それに基づき操舵トルクを検出する。
【0007】
なお、トルクセンサの出力値についてオフセット調整を行う技術が特許文献2に記載されている。特許文献2に開示の技術では、可変抵抗を調整することによって、オフセット調整を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置(以下、EPSコラムと略称することがある)に組み込まれているトルクセンサについて、オフセット調整を行う必要がある。特許文献2に記載されている技術によれば、可変抵抗を調整することによってオフセット調整を行える。しかしながら、EPSコラムに組み込まれているトルクセンサについてオフセット調整を正しく行うことができない。また、特許文献1には、オフセット調整に関する技術は記載されていない。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、EPSコラムに組み込まれているトルクセンサについて、オフセット調整を適切に行うことのできる電動パワーステアリング装置のトルクセンサのオフセット調整装置、電動パワーステアリング装置のセンサ調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様によるオフセット調整装置は、電動パワーステアリング装置に備えられたトルクセンサについてオフセット調整するオフセット調整装置であって、前記トルクセンサによって、互いに異なる第1の回転方向及び第2の回転方向それぞれについてのフリクション値を取得するフリクション取得部と、前記第1の回転方向及び前記第2の回転方向それぞれによる前記トルクセンサの第1の出力値及び第2の出力値を、前記フリクション取得部が取得したフリクション値によって、それぞれ補正する補正部と、前記トルクセンサの出力値の零点を、前記補正部が補正した前記第1の出力値と前記第2の出力値との平均値に一致させるように調整するオフセット調整部と、を備えたことを特徴とする。この構成によれば、EPSコラムに組み込まれているトルクセンサについて、オフセット調整を適切に行うことができる。
【0012】
前記補正部は、前記第1の回転方向のフリクション値の平均値を用いて、前記第1の出力値を補正し、前記第2の回転方向のフリクション値の平均値を用いて、前記第2の出力値を補正することが望ましい。フリクション値の平均値を用いることにより、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【0013】
また、前記電動パワーステアリング装置に回転駆動力を与える駆動部と、前記電動パワーステアリング装置を介して、前記駆動部による回転駆動力が伝達される従動部と、をさらに備え、前記フリクション取得部が、前記従動部を固定しないフリーの状態において、前記第1の回転方向及び第2の回転方向それぞれについてのフリクション値を取得することが望ましい。従動側を固定しない状態でフリクション値を取得することにより、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【0014】
なお、前記従動部は、固定端との接続状態を制御するクラッチを含んでいることが好ましい。クラッチによって固定端との接続状態を制御することにより、従動部を固定しない状態でフリクション値を取得し、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【0015】
本発明のある態様による電動パワーステアリング装置のセンサ調整方法は、電動パワーステアリング装置に備えられたトルクセンサについてオフセット調整するセンサ調整方法であって、前記トルクセンサによって、互いに異なる第1の回転方向及び第2の回転方向それぞれについてのフリクション値を取得する工程と、前記第1の回転方向及び前記第2の回転方向それぞれによる前記トルクセンサの第1の出力値及び第2の出力値を前記フリクション値によってそれぞれ補正する工程と、前記トルクセンサの出力値の零点を、前記フリクション値によってそれぞれ補正された前記第1の出力値と前記第2の出力値との平均値に一致させるように、オフセット調整する工程と、を含むことを特徴とする。この方法によれば、EPSコラムに組み込まれているトルクセンサについて、オフセット調整を適切に行うことができる。
【0016】
前記補正する工程においては、前記第1の回転方向のフリクション値の平均値を用いて、前記第1の出力値を補正し、前記第2の回転方向のフリクション値の平均値を用いて、前記第2の出力値を補正することが望ましい。フリクション値の平均値を用いることにより、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【0017】
前記フリクション値を取得する工程では、前記電動パワーステアリング装置の駆動側に回転駆動力を与え、前記電動パワーステアリング装置を介して前記回転駆動力が伝達される従動側を固定しないフリーの状態において、前記第1の回転方向及び前記第2の回転方向それぞれについてのフリクション値を取得することが望ましい。従動部を固定しない状態でフリクション値を取得することにより、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【0018】
前記フリクション値を取得する工程では、前記従動側と固定端との接続状態を制御することが望ましい。固定端との接続状態を制御することにより、従動部を固定しない状態でフリクション値を取得し、より適切に、オフセット調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、EPSコラムに組み込まれているトルクセンサについて、オフセット調整を適切に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかるオフセット調整装置、電動パワーステアリング装置のセンサ調整方法の実施の一形態について詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(EPSを有する車両の構成例)
まず、EPSを備えた車両の構成例について、
図1を参照して説明する。
図1は、EPSを有する車両の概略構成例を示すブロック図である。車両1は、電動パワーステアリング装置2と、操舵機構3と、コントロールユニット4と、イグニッションスイッチ5と、バッテリ6と、車速センサ7とを有する。なお、車両1は、
図1に示す構成要素以外にも、エンジン、車輪等、車両として通常有する各種構成要素を有する。
【0023】
電動パワーステアリング装置2は、操作者に操作されるステアリングホイール11と、ステアリングホイール11から入力される回転を伝達するステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12に入力されるトルクとステアリングシャフトの回転角とを検出するトルクセンサ13と、トルクセンサ13により検出されたトルクに基づいて、ステアリングシャフト12の回転を補助する補助操舵機構14と有する。電動パワーステアリング装置2は、ステアリングホイール11が操作されることでステアリングシャフト12に発生する操舵トルクをトルクセンサ13で検出する。さらに、電動パワーステアリング装置2は、その検出信号Tに基づいて、コントロールユニット4により電動モータ16を駆動制御して補助操舵トルクを発生させてステアリングホイール11の操舵力を補助する。
【0024】
ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12は、運転者の操舵力が作用する入力軸12aと出力軸12bとを有し、入力軸12aと出力軸12bとの間にトルクセンサ13及び減速ギヤボックス15が介装されている。ステアリングシャフト12の出力軸12bに伝達された操舵力は、操舵機構3に伝達される。
【0025】
トルクセンサ13は、ステアリングホイール11を介して入力軸12aに伝達された操舵力を操舵トルクとして検出するものである。
【0026】
補助操舵機構14は、ステアリングシャフト12の出力軸12bに連結され、出力軸12bに補助操舵トルクを伝達する。補助操舵機構14は、出力軸12bに連結された減速ギヤボックス15と、減速ギヤボックス15に連結されかつ補助操舵トルクを発生させる電動モータ16と、を有している。なお、ステアリングシャフト12、トルクセンサ13及び減速ギヤボックス15によりコラムが構成されており、電動モータ16は、コラムの出力軸12bに補助操舵トルクを与える。すなわち、
図1に示す電動パワーステアリング装置は、コラムアシスト式となっている。
【0027】
操舵機構3は、ユニバーサルジョイント20と、ロアシャフト21と、ユニバーサルジョイント22と、ピニオンシャフト23と、ステアリングギヤ24と、タイロッド25とを有する。電動パワーステアリング装置2から操舵機構3に伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント20を介してロアシャフト21に伝達され、さらにユニバーサルジョイント22を介してピニオンシャフト23に伝達され、ピニオンシャフト23に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ24を介してタイロッド25に伝達され、図示していない転舵輪を転舵させる。ステアリングギヤ24は、ピニオンシャフト23に連結されたピニオン24aと、ピニオン24aに噛合するラック24bと、を有するラックアンドピニオン形式として構成され、ピニオン24aに伝達された回転運動をラック24bで直進運動に変換している。
【0028】
コントロールユニット(ECU、Electronic Control Unit)4は、電動モータ16、エンジン等、車両1の種々の部分の駆動を制御する。コントロールユニット4には、イグニッションスイッチ5がオンの状態のときに、バッテリ6から電力が供給される。コントロールユニット4は、トルクセンサ13で検出された操舵トルクT及び車速センサ7で検出された走行速度Vに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出し、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ16への供給電流値を制御する。
【0029】
(電動パワーステアリング装置の例)
図2は、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置(以下、EPSコラムと略称することがある)の例を示す縦断面図である。
【0030】
電動パワーステアリング装置2では、ステアリングコラムのロアコラム200に、アッパーコラム100がテレスコピック摺動自在に嵌合してある。これらアッパーコラム100、ロアコラム200内に、テレスコピック摺動自在にスプライン嵌合した中空のアッパーシャフト300と中実のロアシャフト40(入力軸)とが回転自在に支持してある。
【0031】
ロアシャフト40(入力軸)の車両前方側には、出力軸50が連結してある。この出力軸50の車両前方側には、自在継手(図示略)を介して中間シャフト(図示略)が連結してある。
【0032】
ロアシャフト40(入力軸)の車両前方側には、トーションバー60の基端が圧入固定してある。このトーションバー60は、中空に形成した出力軸50の内部を延在して、その先端が出力軸50の端部に固定してある。
【0033】
出力軸50の車両後方側には、トルクセンサ部TSが設けてある。即ち、出力軸50の車両後方側には、トルクセンサ部TSの検出用溝70が形成してあり、これらの溝70の径方向外方には、トルクセンサ部TSのスリーブ80が配置してある。このスリーブ80は、その車両後方側端部がロアシャフト40(入力軸)の車両前方側端部に加締め等により固定してある。スリーブ80の径方向外方には、コイル90や基板等が設けてある。
【0034】
トルクが入力されていない状態から、運転者がステアリングホイール11を回転させることによってロアシャフト40にトルクが入力されると、トーションバー60の入力側は、ステアリングホイール11と同様に回転するとともにトーションバー60自体に入力トルクに応じた捩れが発生する。トルクセンサ部TSは、トーションバー60に発生した捩れを検出する。
【0035】
出力軸50には、電動モータ(図示略)の駆動軸に連結したウォーム110に噛合したウォームホイール120が取付けてある。これらウォーム110及びウォームホイール120は、後方側ハウジング130(ギヤハウジング)と、前方側ハウジング140(カバー)とに収納してある。
【0036】
この構成において、運転者がステアリングホイール11を操舵することにより発生した操舵力は、ロアシャフト40、トーションバー60、出力軸50、及びラックアンドピニオン式ステアリング装置を介して、図示しない転舵輪に伝達される。また、電動モータ(図示略)の回転力は、そのウォーム110及びウォームホイール120を介して出力軸50に伝達されるようになっている。電動モータ(図示略)の回転力及び回転方向を適宜制御することにより、出力軸50に適切な操舵補助トルクを付与できるようになっている。
【0037】
(トルクセンサのオフセット調整)
トルクセンサのオフセット調整は、EPSコラムに組み込んだ状態で実施する必要がある。EPSコラムをオフセット調整装置に接続してトルクセンサのオフセットを調整すると、EPSコラムをオフセット調整装置から外したときに調整がずれてしまう可能性が考えられる。
【0038】
以下、この点について説明する。オフセット調整装置は、後述するように、EPSコラムの入力側もしくは出力側に接続され、EPSコラムを回転駆動する装置駆動側の構成と、EPSコラムの出力側もしくは入力側に接続される装置従動側の構成とを備えている。装置従動側を接続したままオフセット調整した方が、工程のサイクルタイムを短縮できるため、装置従動側を接続した状態でオフセット調整を行いたいという要望があると考えられる。ただし、装置従動側を接続したままオフセット調整を行うと、オフセット調整装置のフリクション量(摩擦量)を含んだ状態でオフセット調整することになり、オフセット調整装置からEPSコラムを外した際に調整したオフセットがずれてしまう可能性がある。
【0039】
そのため、本実施形態では、装置従動側のフリクションを予め測定しておいて、測定値から差し引けば、オフセット調整装置から外した際もオフセットがずれることを抑制できる。ここで、オフセット調整とは、トルクセンサの出力値の零点を、ステアリングホイールをCW(clockwise)方向に回転させた場合のトルクセンサの出力値と、CCW(counterclockwise)方向に回転させた場合のトルクセンサの出力値との平均値に一致させるように、調整することをいう。
【0040】
(オフセット調整装置)
図3は、本実施形態にかかるオフセット調整装置の構成例を示す図である。
図3において、オフセット調整装置400は、電動パワーステアリング装置2を着脱できるように構成されている。
【0041】
オフセット調整装置400は、電動パワーステアリング装置2が装着された状態において、電動パワーステアリング装置2に組み込まれているトルクセンサの出力のオフセットを調整する装置である。オフセット調整装置400は、サーボモータ30と、エンコーダ31と、継手32aと、軸受33a及び33bと、継手32bと、軸受33c及び33dと、トルク計34と、クラッチ35とを備えている。
【0042】
サーボモータ30は、電動パワーステアリング装置2に回転駆動力を与えることにより、電動パワーステアリング装置2を、CW方向(矢印Yの逆方向)又はCCW方向(矢印Yの方向)に回転させる動力源である。
エンコーダ31は、CW方向又はCCW方向への回転角度を検出する機能を有している。エンコーダ31の出力によって、サーボモータ30が一周(回転角度=360度)回転したことを検出できる。
【0043】
継手32aは、サーボモータ30によるCW方向又はCCW方向への回転力を、電動パワーステアリング装置2に伝達するために設けられている。継手32bは、電動パワーステアリング装置2に伝達された、サーボモータ30によるCW方向又はCCW方向への回転力を、トルク計34と、クラッチ35とに伝達するために設けられている。トルク計34は、CW方向又はCCW方向への回転力を計測するために設けられている。
【0044】
クラッチ35は、固定端36とサーボモータ30からクラッチ35に至る回動軸との接続状態を制御するものである。すなわち、クラッチ35は、係合と解放とが切り替えられることによって、サーボモータ30からのCW方向又はCCW方向への回転力を、固定端36へ伝達する状態(すなわち、固定の状態)と、伝達しない状態(すなわち、フリーの状態)とを切り替えるために設けられている。クラッチ35は図示しない制御信号によって、固定端36との接続状態が制御される。
【0045】
以下、サーボモータ30と、エンコーダ31と、継手32aと、軸受33a及び33bとを、駆動側と呼ぶことがある。また、継手32bと、軸受33c及び33dと、トルク計34と、クラッチ35とを従動側と呼ぶことがある。駆動側は、電動パワーステアリング装置2に回転駆動力を与え、電動パワーステアリング装置2を介して従動側へ、回転駆動力が伝達される。つまり、駆動系は、駆動側にサーボモータ30が、従動側にクラッチ35が配置されているので、EPSコラム2の回転軸の両端を接続したままでオフセット調整を行うことができる。
【0046】
オフセット調整装置400は、フリクション取得部41と、補正部42と、オフセット調整部43と、を備えている。フリクション取得部41は、トルクセンサTSによって、互いに異なるCW方向及びCCW方向それぞれについてのフリクション値を取得する。
【0047】
補正部42は、CW方向及びCCW方向それぞれによるトルクセンサTSの第1の出力値及び第2の出力値を、フリクション取得部41が取得したフリクション値によって、それぞれ補正する。オフセット調整部43は、補正部42が補正した、トルクセンサTSの第1の出力値と第2の出力値との平均値を、トルクセンサTSの出力値の零点に一致するように調整する。
【0048】
オフセット調整装置400は、下記の2点を実行できる装置構成になっている。
(1)従動側をフリーの状態とし、駆動側を回転させた際の一周のセンサ出力のキャリブレーションの実施とその後のセンサ特性の取得。
(2)従動側を固定の状態で駆動側を捩った際の、センサ特性の取得(EPSコラムの剛性の取得)。
【0049】
また、オフセット調整装置400が、上記(1)と(2)とを実行する場合、従動側をフリーの状態または固定の状態にする必要がある。従動側をフリーの状態または固定の状態にする切り替えには以下の方法が考えられる。
a.従動側の固定端36をフリー回転とする場合は、EPSコラム2をオフセット調整装置400から外し、剛性を測定するときは接続する。
b.EPSコラム2の従動側軸を常にオフセット調整装置400に接続した状態でクラッチ35を切り替える。
【0050】
作業の状態工程のサイクルタイムを考えると、上記b.の方法が効率的である。しかしながら、フリーの状態での回転(オフセット調整)のとき、従動側に接続したオフセット調整装置400側のフリクション(軸受33c及び33d、トルク計34及びクラッチ35)が余分な負荷としてセンサの出力に上乗せされることになる。このため、本実施形態では、装置従動側のフリクションを予め測定しておき、その測定値をトルクセンサTSの出力値から差し引く。この装置従動側のフリクションを差し引いた、トルクセンサTSの出力値についてオフセット調整することによって、オフセット調整装置400から外したEPSコラム2のオフセットがずれることを抑制できる。
【0051】
(センサ調整方法)
上記のオフセット調整装置400を用いたセンサ調整方法は、以下のように行う。すなわち、クラッチ35を制御して固定端36と接続しない従動側フリーの状態で、駆動側をサーボモータ30でCW方向とCCW方向とに一周ずつ回転させる。そのときのトルクセンサTSの出力値を用いて、電気的にオフセットを調整する。
【0052】
EPSコラム2のトルクセンサTSは、トーションバー60の一端部と他端部との間の捩れ量を検出する。トルクセンサTSは、検出した捩れ量(deg)と既知のトーションバーのばねレート(Nm/deg)とに基づき、トルク(Nm)を算出する。トルクセンサTSは、算出したトルクTをECU4に渡すことで、トルクTの値に応じたアシストを行うことができる。
【0053】
上記のトルクセンサTSをEPSコラム2に組み込んだ際、トルクセンサTSの出力値の零点(ゼロ点)とEPSコラム2の中立位置とが一致していない、すなわちオフセットがずれている場合がある。その場合、オフセットがずれているままEPSコラム2を用いると、静止状態でトーションバー60は捩れていないのに、トルクセンサTSは捩れを検知することになり、結果として不必要なアシストがされる可能性がある。また、オフセットがずれていれば、実際にトーションバー60が捩れた際に所望のアシストが得られなくなることになる。そのため、EPSコラム2への組み込み状態でトルクセンサTSのオフセットを調整することが重要である。
【0054】
EPSコラム2の内部には軸受け及びシール部材などの摩擦要素が存在している。トルクセンサTSをEPSコラムに組み込んだ状態でオフセットを調整する際、前述した摩擦要素によって、従動側をフリーで回転させたとしてもトーションバー60に多少の捩れが発生する。このため、
図4に示すように、CW方向及びCCW方向のセンサ出力は、ヒステリシスを持った形で出力される。そのため、オフセットを調整するには、CW方向の出力(図中の実線)の平均値CW−Ave(図中の破線)と、CCW方向の出力(図中の実線)の平均値CCW−Ave(図中の破線)との平均{(CW−Ave)+(CCW−Ave)}/2を算出して、その値を、矢印Y2のように零点に一致させる。
図5は、オフセット調整後の状態を示している。このように、CW方向の出力とCCW方向の出力との平均を算出し、その値を、トルクセンサの出力値の零点に一致するように、電気的に調整する。なお、
図4及び
図5において、縦軸はトルクセンサTSの出力、横軸は回転角度である。
【0055】
(フリクションの左右方向の差)
オフセット調整を行う際に問題となるのが、オフセット調整装置400側のフリクションの左右差である。フリクションの左右差とは、CW方向のフリクションとCCW方向のフリクションとの差である。例えば、
図6において、破線は従動側を接続した状態でのCW方向及びCCW方向のトルクセンサTSの出力値であり、実線はオフセット調整装置400から外した場合のCW方向及びCCW方向のトルクセンサTSの出力値である。
【0056】
図6に示すように、CW方向のフリクションの影響による捩れ減少量(矢印Y3)と、CCW方向のフリクションの影響による捩れ減少量(矢印Y4)とが異なるため、オフセット調整装置400側のフリクションの左右差が大きい場合がある。このような場合、従動側接続時はオフセットが調整できているように見えても、オフセット調整装置400からEPSコラム2を取り外した時に左右のヒステリシスの減り方が異なるため、結果としてオフセットがずれてしまう可能性がある。
【0057】
機械要素によるフリクションの左右差を完全に無くすことは困難である。このため、本実施形態では、オフセット調整装置400の従動側のCW方向及びCCW方向のフリクションを予め測定しておく。そして、トルクセンサTS出力値からそのフリクション分を差し引いた状態の波形に対してオフセットを調整する。このようにオフセットを調整することで、オフセット調整装置400からEPSコラム2を取り外した際にオフセットが変動することを抑制する。
【0058】
(オフセット調整の具体例)
オフセットを調整するにあたり、まず、装置従動側のフリクションを予め測定しておく。フリクションの測定方法及び使用機器などは問わない。本実施形態では、CW回転方向のフリクションをA(Nm)、CCW方向のフリクションをB(Nm)とする。
【0059】
トーションバーの剛性は既知であり、その剛性をC(Nm/deg)とする。すると、A÷C(deg)又はB÷C(deg)で、装置従動側のフリクションの影響による捩れ角を検出することができる。この捩れ角を、トルクセンサTSの出力値から差し引いておけば、従動側を接続しない状態の出力値となるため、その値に対してオフセットを修正すればよい。例えば、
図7に示すように、CW方向のフリクションの影響による捩れ減少量(矢印Y3)と、CCW方向のフリクションの影響による捩れ減少量(矢印Y4)とが異なる場合には、実線で示すオフセット修正後の出力値の平均値(図中の破線)に一致させるように、零点を、矢印Y5のように調整する。
【0060】
上記のような方法を実施することで、オフセット調整装置からEPSコラムを取り外した際のオフセットを補償することができるため、性能の安定したEPSコラムを提供することができる。また、演算による処理でオフセットを調整しているため、電動パワーステアリング装置に対するコストを抑制することが可能となる。さらに、従動側も接続した状態で測定できるため、量産工程のサイクルタイム短縮にも貢献することができる。
【0061】
なお、本実施形態で用いるトルクセンサTSは、トーションバーの捩れを検出する方式のセンサであれば、特に検出原理やセンサ出力方式などに限定されるものではない。
【0062】
以上のように、本実施形態は、電動パワーステアリング装置のトルクセンサにおいて、コラム従動側を接続したままオフセット調整を実施する際、装置側のフリクションを予め測定し、センサ出力から差し引くことで、装置から取り外した際もオフセットが変動しない。装置従動側のフリクションを予め測定しておき、演算処理で対策を行う。このため、オフセット調整装置に新たなハードウェアを追加するなどが不要になるため、トルクセンサを備えた電動パワーステアリング装置を製造する際のコストの増加を抑制できる。