(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼板などの帯状製品の製造ラインでは、加工中および搬送中に帯状製品がロールから繰り返し接触を受ける。これらのロールに疵があったり、ロール表面に異物が付着していたりした場合、帯状製品の表面に疵が転写されることとなる。このように発生する帯状製品の疵は、周期疵と呼ばれている。また、搬送中の帯状製品が搬送ロール等の設備装置に連続的に接触していることにより、スリ疵と呼ばれる疵が発生することもある。
【0003】
これらの周期疵およびスリ疵は、周期性・連続性・散発性を有し、複数の製造単位(鋼板の場合、一般にコイルと呼ばれる)に亘って発生することが多い。これらの周期疵およびスリ疵は、帯状製品の全長に及ぶ欠陥であり、全長性欠陥と呼ばれている。
【0004】
この全長性欠陥は、通常の品質検査において自動判定することには困難が伴う。なぜならば、この全長性欠陥は、周期性・連続性・散発性により群発するが故に疵の存在が顕在化するものであり、個々の疵自体は微小なものだからである。
【0005】
従来技術の品質検査では、検査対象を単位長さ当たりに分割した領域内における欠陥混入率を用いて自動判定を行う方法や、単位面積に分割した領域内における欠陥混入率を用いて欠陥判定を行う方法が用いられている(例えば特許文献1参照)。これら分割した領域内における欠陥混入率を用いて欠陥判定を行う方法は、検査領域を細分化することによって判定精度を向上させる方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記説明したような従来技術の品質検査では、過検出の問題が発生してしまう。すなわち、検査領域を細分化することによって判定精度を向上させる方法の場合、細分化された検査領域における閾値を、周期疵およびスリ疵における個々の微小疵に合わせて設定する必要がある。その結果、厳しい設定がされた閾値により、欠陥の過検出が発生してしまうのである。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、欠陥の過検出を抑制しながらも全長性欠陥の判定精度を向上させることができる欠陥判定装置および欠陥判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の欠陥判定装置は、複数の被検査体についての検査データを取得する検査データ取得手段と、前記複数の被検査体についての検査データを単位幅に分割した各領域についての欠陥の混入率を求め、少なくとも1つの領域についての欠陥の混入率が閾値を超えた場合に前記被検査体が擬欠陥であると判定する第1判定手段と、前記擬欠陥と判定された被検査体における前記欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が、複数の被検査体において同一である場合に全長性欠陥が発生していると判定する第2判定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の欠陥判定方法は、複数の被検査体についての検査データを取得する検査データ取得ステップと、前記複数の被検査体についての検査データを単位幅に分割した各領域についての欠陥の混入率を求め、少なくとも1つの領域についての欠陥の混入率が閾値を超えた場合に前記被検査体が擬欠陥であると判定する第1判定ステップと、前記擬欠陥と判定された被検査体における前記欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が、複数の被検査体において同一である場合に全長性欠陥が発生していると判定する第2判定ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる欠陥判定装置および欠陥判定方法は、欠陥の過検出を抑制しながらも全長性欠陥の判定精度を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態にかかる欠陥判定装置および欠陥判定方法の図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
〔欠陥判定装置〕
図1は、本発明の実施形態にかかる欠陥判定装置10の機能を説明するブロック図である。
図1に示されるように、本発明の実施形態にかかる欠陥判定装置10は、検査データ取得手段11と、検査データ記憶手段12と、第1判定手段13と、擬正常記憶手段14と、擬欠陥記憶手段15と、第2判定手段16とを備える。
【0015】
検査データ取得手段11は、検査装置20を用いて被検査体Sの検査データを取得する手段である。検査装置20は、ラインセンサカメラまたはエリアセンサカメラであり、搬送中の被検査体Sの表面を撮像する装置である。被検査体Sは、例えば鋼板であるが、本発明の実施はこの例に限らず、帯状製品の製品一般に対して適用し得る。
【0016】
検査データ取得手段11は、検査装置20が撮像した被検査体Sの表面の画像を分析可能なデータ形式に変換する。例えば、検査装置20としてラインセンサカメラを用いた場合、被検査体Sの表面を走査することにより被検査体Sの全体の表面の検査データが構成される。例えば、検査装置20としてエリアセンサカメラを用いた場合、撮像データを組合わせて被検査体Sの全体の表面の検査データが構成される。また、検査データ取得手段11は、分析を容易にするため、ADコンバータにより検査データをデジタル化する。
【0017】
検査データ記憶手段12は、検査データ取得手段11が取得した複数の被検査体Sの表面全体に対する検査データを記憶する手段である。検査データ記憶手段12は、例えばハードディスクデバイスなどの記憶装置により実現される。検査データ記憶手段12は、例えば装置交換の1期間分の被検査体Sの検査データを記憶しておける容量を有している。
【0018】
第1判定手段13は、検査データ記憶手段12に記憶されている被検査体Sの検査データについて、擬正常と擬欠陥との分別をする第1の判定を行う。擬正常であると判定された被検査体Sの検査データは、擬正常記憶手段14に記憶され、擬欠陥であると判定された被検査体Sの検査データは、擬欠陥記憶手段15に記憶される。なお、擬正常記憶手段14および擬欠陥記憶手段15は、検査データ記憶手段12と物理的に同一の記憶装置により実現することができる。例えば、検査データ記憶手段12に記憶されている被検査体Sの検査データに対して、擬正常を示すフラグまたは擬欠陥を示すフラグを付与することにより、擬正常記憶手段14および擬欠陥記憶手段15が物理的に同一の記憶装置により実現され得る。
【0019】
第1判定手段13による第1の判定は以下のように行われる。
【0020】
第1判定手段13は、検査データ記憶手段12に記憶されている被検査体Sの検査データを単位幅に分割し、この分割された単位幅×全長の領域についての欠陥の混入率を求める。第1判定手段13は、少なくとも一つの領域についての欠陥の混入率が製品ごとに定められた閾値を超えた場合に、その被検査体Sに全長性欠陥が発生している懸念があるとして、この被検査体Sを擬欠陥として判定する。一方、第1判定手段13は、全ての領域についての欠陥の混入率が製品ごとに定められた閾値を超えない場合、全長性欠陥の懸念が少ないとして、この被検査体Sを擬正常として判定する。
【0021】
なお、第1判定手段13により擬欠陥判定が行われた被検査体Sの検査データには、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の位置が付加される。第1判定手段13による判定では、被検査体Sの幅が全長に亘り分割されるので、分割された幅の番号を付加することにより欠陥の混入率が閾値を超えた領域の位置を特定することができる。また、明らかに欠陥であることを判定できる被検査体Sについては、後の判定を待たずに第1判定手段13が欠陥判定を確定することにより、処理の負担を軽減することもできる。
【0022】
第2判定手段16は、擬正常記憶手段14と擬欠陥記憶手段15とに記憶された被検査体Sの検査データについて、第2の判定を行う。
【0023】
第2判定手段16による第2の判定は以下のように行われる。
【0024】
第2判定手段16は、擬欠陥記憶手段15に記憶されている複数の被検査体Sの検査データについて、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が同一であるか否かを判定する。
図2は、第2判定手段16による判定方法を説明する図である。
【0025】
例えば、
図2の(a)のように、第i番目の被検査体S
iにおける第n番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えており、第j番目の被検査体S
jにおける第m番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えている場合を考える。この場合、閾値を超えた領域が第n番目と第m番目とで異なるので、複数の被検査体Sにおいて欠陥の混入率が閾値を超えていても、全長性欠陥に起因するものではない。
【0026】
一方、
図2の(b)のように、第i番目の被検査体S
iにおける第n番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えており、第j番目の被検査体S
jにおける第m番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えている場合を考える。この場合、複数の被検査体Sに亘る同一位置で欠陥の混入率が閾値を超えており、全長性欠陥に起因する可能性が高い。
【0027】
上記のように、第2判定手段16は、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が同一であるか否かに基づき、全長性欠陥を判定する。上記例では、第i番目の被検査体S
iと第j番目の被検査体S
jとの二つの被検査体Sを用いた判定を説明したが、本発明の実施形態は二つの被検査体Sを用いた判定に限定されない。例えば、同一位置で欠陥の混入率が閾値を超えた領域が、所定の閾値以上の被検査体Sで検出された場合に、全長性欠陥が発生していると判定する方法も考えられる。また、同一位置で欠陥の混入率が閾値を超えた被検査体S間の距離に応じて重みを加えた値が所定の閾値以上となる場合に、全長性欠陥が発生していると判定する方法も考えられる。
【0028】
さらに、第2判定手段16は、擬正常記憶手段14に記憶されている被検査体Sの検査データについて、被検査体Sが正常であるか否かの再判定を行う。
【0029】
例えば、第i−1番目の被検査体S
i−1における第n番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えており、第i+1番目の被検査体S
i+1における第n番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えている場合を考える。この場合、たとえ第i番目の被検査体S
iにおける第n番目の領域において欠陥の混入率が閾値を超えていなくても、第i−1番目の被検査体S
i−1および第i+1番目の被検査体S
i+1のみならず、間に挟まれた第i番目の被検査体S
iにも、全長性欠陥が発生している可能性が高い。
【0030】
そこで、第2判定手段16は、第1判定手段13により擬正常と判定された被検査体Sについて正常であるか否かの判定を行う。
【0031】
例えば、第2判定手段16は、全長性欠陥が発生していると判定されている被検査体Sに挟まれた被検査体Sについても全長性欠陥が発生していると判定する方法が考えられる。また、例えば、第2判定手段16は、全長性欠陥が発生していると判定されている被検査体Sの間の距離に応じて重みを加えた値が所定の閾値以上となる場合に、それらの間に挟まれた被検査体Sについても全長性欠陥が発生していると判定する方法も考えられる。なお、第2判定手段16は、第1判定手段13により擬正常と判定された被検査体Sについて判定が覆された場合、被検査体Sを直ちに廃棄等せずに、再検査を行うことも可能である。
【0032】
以上のように、第2判定手段16は、擬正常記憶手段14と擬欠陥記憶手段15とに記憶された被検査体Sの検査データについて第2の判定を行い、全長性欠陥が発生しているか否かの判定を確定する。欠陥判定装置10により全長性欠陥が発生しているか否かの判定がなされた被検査体Sの検査データは、欠陥判定装置10の後段の出力装置に出力され、または、後段の記憶装置に記憶される。
【0033】
〔欠陥判定方法〕
以下、本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法について説明する。なお、以下の説明では、
図1に示した構成を参照しながら本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法について説明するが、本発明の実施形態は
図1に示した構成に限定されるものではない。
【0034】
図3は、本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法の手順を示すフローチャートである。
図3に示されるように、本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法では、最初に、複数の被検査体Sについての検査データが取得される(ステップS1)。検査データの取得は、例えばラインセンサカメラまたはエリアセンサカメラを用いて搬送中の被検査体Sの表面を撮像することにより行われる。ラインセンサカメラを用いた場合、被検査体Sの表面を走査することにより被検査体Sの全体の表面の検査データが構成され、エリアセンサカメラを用いた場合、撮像データを組合わせて被検査体Sの全体の表面の検査データが構成される。
【0035】
ステップS1にて取得された複数の被検査体Sについての検査データは、例えばハードディスクデバイスなどの記憶装置により実現された検査データ記憶手段12に記憶される。検査データ記憶手段12は、例えば装置交換の1期間分の被検査体Sの検査データを記憶しておける容量を有している。
【0036】
次に、本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法では、第1の判定が行われる(ステップS2)。第1の判定は、被検査体Sの検査データについて、擬正常と擬欠陥との分別をする判定である。第1の判定では、検査データ記憶手段12に記憶されている被検査体Sの検査データが単位幅に分割され、この分割された単位幅×全長の領域についての欠陥の混入率を求められる。この少なくとも一つの領域についての欠陥の混入率が製品ごとに定められた閾値を超えた場合に全長性欠陥の懸念があるとして、この被検査体Sは擬欠陥判定がなされる。一方、全ての領域についての欠陥の混入率が製品ごとに定められた閾値を超えない場合、全長性欠陥の懸念が少ないとして、この被検査体Sは擬正常判定がなされる。
【0037】
第1の判定により擬欠陥判定が行われた被検査体Sの検査データには、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の位置が付加される。第1の判定では、被検査体Sの幅が全長に亘り分割されるので、分割された幅の番号を付加することにより欠陥の混入率が閾値を超えた領域の位置を特定することができる。
【0038】
なお、擬正常であると判定された被検査体Sの検査データは、擬正常記憶手段14に記憶され、擬欠陥であると判定された被検査体Sの検査データは、擬欠陥記憶手段15に記憶される。なお、擬正常記憶手段14および擬欠陥記憶手段15は、検査データ記憶手段12と物理的に同一の記憶装置により実現することができる。例えば、検査データ記憶手段12に記憶されている被検査体Sの検査データに対して、擬正常を示すフラグまたは擬欠陥を示すフラグを付与することにより、擬正常記憶手段14および擬欠陥記憶手段15が物理的に同一の記憶装置により実現され得る。
【0039】
次に、本発明の実施形態にかかる欠陥判定方法では、第2の判定が行われる(ステップS3)。第2の判定では、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が同一であるか否かに基づき、全長性欠陥が発生しているか否かの判定が行われる。
【0040】
したがって、第2の判定では、擬欠陥判定がなされた被検査体Sの検査データについて、欠陥の混入率が閾値を超えた領域の幅方向の位置が同一であるか否かが判定される。そして、同一位置で欠陥の混入率が閾値を超えた領域が、所定の閾値以上の被検査体Sで検出された場合に、全長性欠陥が発生していると判定される。ここで、所定の閾値とは、2とすることもでき、それ以上の整数とすることもできる。
【0041】
一方、第2の判定では、擬正常判定がなされた被検査体Sの検査データについて、被検査体Sが正常であるか否かの判定も行なわれる。例えば、全長性欠陥が発生していると判定されている被検査体Sに挟まれた被検査体Sについても全長性欠陥が発生していると判定する方法が考えられる。
【0042】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる欠陥判定装置および欠陥判定方法では、第1の判定と第2の判定とにより全長性欠陥を判定することにより、欠陥の過検出を抑制しながらも全長性欠陥の誤判定を抑制することができる。