特許第6048308号(P6048308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048308
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】冷却器
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20161212BHJP
   F01B 29/12 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   F28D15/02 102E
   F28D15/02 L
   F01B29/12
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-104049(P2013-104049)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-224647(P2014-224647A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 和樹
(72)【発明者】
【氏名】村松 憲志郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−161888(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/099057(WO,A1)
【文献】 特開2003−302180(JP,A)
【文献】 特開平08−078588(JP,A)
【文献】 特開2007−247592(JP,A)
【文献】 特開昭49−098583(JP,A)
【文献】 特開平03−283454(JP,A)
【文献】 特開2000−205769(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300654(US,A1)
【文献】 特開2014−216380(JP,A)
【文献】 特開2014−214907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F01B 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒流体が封入された冷媒封入空間(24)の一部を構成する加熱部空間(241)と熱を発する発熱面(121a)を有し前記加熱部空間内に収容された発熱体(121)とを有し、前記発熱面からの熱により前記加熱部空間内の前記冷媒流体を加熱し気化させる加熱部(141)と、
前記冷媒封入空間の一部を構成し前記加熱部空間に接続された冷却部空間(242)を有し、前記加熱部で気化された前記冷媒流体を冷却して液化させる冷却部(142)とを備え、
前記加熱部および前記冷却部は、前記冷媒流体に気化と液化とを繰り返させることにより、前記冷媒封入空間内で前記冷媒流体を自励振動させ、
前記発熱体は、前記冷媒流体が前記冷却部空間から前記加熱部空間内へ流入する冷媒流れの方向(DRin)に対して前記発熱面が傾斜して対向するように配置されており、
前記加熱部は、前記冷媒流れの方向に対して前記発熱面が傾斜して対向するように配置されている前記発熱体としての第1の発熱体(121)に加え、前記加熱部空間内に収容され熱を発する第2の発熱体(122)を有し、
該第2の発熱体の少なくとも一部が前記第1の発熱体に対し鉛直下方に位置することで、前記第1の発熱体から前記冷媒流体が前記第2の発熱体へ滴下し供給されることを特徴とする冷却器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を用いて発熱体を冷却する冷却器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体が封入された流体容器内の流体を加熱する加熱部と、その加熱部により加熱され気化した蒸気を冷却する冷却部とを有する蒸気エンジンが、特許文献1に開示されている。その特許文献1の蒸気エンジンは、蒸気の膨脹圧力により液体を流動変位させて機械的エネルギを出力するとともに、蒸気を冷却部にて冷却して液化することにより流体容器内の流体を自励振動変位させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4411829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の蒸気エンジンは、上述のように機械的エネルギを出力するものであるが、機械的エネルギを得ることとは別の目的に活用することができる。例えば、発明者らは、加熱部から冷却部への熱移動が流体容器内での流体の自励振動変位により促進されるので、冷却すべき発熱体で加熱部を構成したとすれば、特許文献1の蒸気エンジンを、その発熱体を冷却する冷却器として活用することが可能であると考えた。
【0005】
しかし、特許文献1の蒸気エンジンを冷却器として活用する場合には、加熱部において冷媒としての流体へ発熱体からの熱伝達が良好に行われる必要があるが、特許文献1には、その発熱体と流体との間の熱伝達率が悪化しないようにする構成が開示されていなかった。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、流体の自励振動変位を伴い発熱体を冷却する冷却器であって、その発熱体と流体との間における熱伝達率の悪化を防止できる冷却器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る冷却器では、冷媒流体が封入された冷媒封入空間(24)の一部を構成する加熱部空間(241)と熱を発する発熱面(121a)を有し加熱部空間内に収容された発熱体(121)とを有し、発熱面からの熱により加熱部空間内の冷媒流体を加熱し気化させる加熱部(141)と、
冷媒封入空間の一部を構成し加熱部空間に接続された冷却部空間(242)を有し、加熱部で気化された冷媒流体を冷却して液化させる冷却部(142)とを備え、
加熱部および冷却部は、冷媒流体に気化と液化とを繰り返させることにより、冷媒封入空間内で冷媒流体を自励振動させ、
発熱体は、冷媒流体が冷却部空間から加熱部空間内へ流入する冷媒流れの方向(DRin)に対して発熱面が傾斜して対向するように配置されており、
加熱部は、冷媒流れの方向に対して発熱面が傾斜して対向するように配置されている発熱体としての第1の発熱体(121)に加え、加熱部空間内に収容され熱を発する第2の発熱体(122)を有し、
その第2の発熱体の少なくとも一部が第1の発熱体に対し鉛直下方に位置することで、第1の発熱体から冷媒流体が第2の発熱体へ滴下し供給されることを特徴とする。
【0008】
上述の発明によれば、発熱体は、冷媒流体が冷却部空間から加熱部空間内へ流入する冷媒流れの方向に対してその発熱体の発熱面が傾斜して対向するように配置されているので、その加熱部空間内へ流入する液体の冷媒流体はその慣性により発熱面に押し付けられつつその発熱面上を移動することになる。そのため、発熱体と冷媒流体との間における熱伝達率の悪化を防止することが可能である。
【0009】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した括弧内の各符号は、後述する実施形態に記載した各符号に対応したものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用された冷却器10の全体構成を示す断面図である。
図2図1の傾斜角度θを0°とした比較例の冷却器と対比して図1の冷却器10の効果を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る冷却器10の全体構成を示す図であり、断面図示されている。冷却器10は、その冷却器10内に封入された冷媒を利用して、複数の発熱体121、122すなわち第1発熱体121及び第2発熱体122を冷却する。なお、第1発熱体121と第2発熱体122とを特に区別する必要がない場合には、単に発熱体121、122と呼ぶものとする。また、第1発熱体121は本発明における第1の発熱体に対応し、第2発熱体122は本発明における第2の発熱体に対応する。
【0013】
図1に示すように、冷却器10は、冷媒容器14と駆動補助装置16と2つの発熱体121、122とを備えている。冷却器10の冷媒は、常温では液体で、発熱体121、122により加熱されることにより沸騰する流体である。
【0014】
第1発熱体121および第2発熱体122は何れも、冷却器10により冷却される部材であり、具体的には、冷却が必要な半導体素子などである。一例を挙げれば、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載されるインバータのパワーカードである。例えば、第1発熱体121は平板状の直方体を成しており、一面側と他面側とのそれぞれに熱を発する発熱面121a、121bを有している。すなわち、冷媒容器14から突き出た第1発熱体121の電気端子13に通電されることにより、第1発熱体121は発熱面121a、121bから発熱する。また、第2発熱体122も第1発熱体121と同じ物であり、一面側と他面側とのそれぞれに熱を発する発熱面122a、122bを有している。
【0015】
冷媒容器14の内部には、冷媒が収容される管状の管状空間22が形成されている。その管状空間22の一端は閉塞されているが、他端は、駆動補助装置16に形成された伸縮空間28aに連通している。すなわち、その管状空間22と伸縮空間28aとが一体となって、冷媒が封入された管状の冷媒封入空間24を形成している。
【0016】
また、冷却器10は、機能的に見ると、冷媒を加熱する加熱部141と、冷媒を冷却する冷却部142と、機械的に運動する駆動部161とから構成されている。その加熱部141と冷却部142と駆動部161とは、冷媒封入空間24に沿ってその冷媒封入空間24の一端側すなわち管状空間22の上記一端側から並んで配置されている。そして、駆動部161は、冷媒封入空間24の最も他端側に位置しており、駆動補助装置16から構成されている。
【0017】
加熱部141は、冷媒封入空間24の一端側の部位である加熱部空間241と、2つの発熱体121、122とを備えている。その2つの発熱体121、122は、加熱部空間241内に収容されている。このような構成から、加熱部141は、発熱体121、122の発熱面121a、121b、122a、122bからの熱により、加熱部空間241内の冷媒を沸騰させ気化させる。
【0018】
冷却部142は、冷媒封入空間24の一部を構成し加熱部空間241に接続された冷却部空間242と、冷媒を冷却するための冷却装置142aとを備えている。その冷却装置142aは、具体的には、冷却部空間242の周りに設けられた多数の冷却フィンから構成されており、冷却部空間242内の冷媒を、外気と熱交換させることにより冷却する。
【0019】
また、冷却部空間242は、その長手方向に直交する管路断面積が極めて小さい管路で構成されている。そのため、冷却部空間242内に冷媒の気液界面26が存在する場合には、その気液界面26は、重力方向に拘わらず冷媒の表面張力により、冷却部空間242の長手方向に直交する方向を向くように維持される。
【0020】
すなわち、冷却部空間242の長手方向において、気液界面26を境に加熱部141側には気体冷媒が存在し、その反対側には液体冷媒が存在する。図1は、気液界面26を境に、その気液界面26の上側の空間が気体冷媒で満たされており、気液界面26の下側の空間が液体冷媒で満たされている状態を表している。
【0021】
例えば、冷媒が加熱部141で加熱されることにより気体冷媒の体積が増すほど、気液界面26は冷媒封入空間24の他端方向すなわち図1の下方向に移動する。そうすると、冷却部142は、液体冷媒も冷却するが、それと共に、加熱部141で気化された気体冷媒も冷却し凝縮させる。
【0022】
駆動部161すなわち駆動補助装置16は、伸縮空間28aが形成された伸縮部28と、錘30とを備えている。伸縮部28は、例えば蛇腹等で構成されており、重力方向の上下に伸縮する。伸縮部28が上下に伸縮すると、それに伴い、伸縮空間28aも上下に伸縮する。伸縮空間28a内は、伸縮部28の伸縮過程における何れの状態でも、液体の冷媒で満たされている。また、伸縮部28はその下端において冷媒容器14に固定されており、伸縮部28の上端には錘30が固定されている。
【0023】
また、伸縮空間28aの上端は閉塞されており、伸縮空間28aの下端は、前述したように管状空間22の他端に連通している。従って、管状空間22内の冷媒が伸縮空間28a内に流入すると、伸縮空間28aが伸びて伸縮部28の上端が上昇する。逆に、伸縮空間28a内の冷媒が管状空間22内へ流出すると、伸縮空間28aが縮んで伸縮部28の上端が下降する。
【0024】
錘30は、伸縮部28が上下に伸縮する際の慣性を増すために設けられている。
【0025】
また、図1に示すように、冷却器10はU字状の形状をしており、冷却部空間242は鉛直方向に延びている。そして、冷却部空間242は、その冷却部空間242の上端において加熱部空間241の下端に連通しており、冷却部空間242の下端において、管状空間22のうち最も伸縮空間28a寄りの部位である接続空間32を介し伸縮空間28aの下端に連通している。
【0026】
また、2つの発熱体121、122の何れにも通電されずそれらの発熱体121、122が発熱していない場合には、冷媒の全部または略全部が液体になる。そして、冷却器10は、発熱体121、122が発熱していない場合に発熱体121、122の全体が液体冷媒に浸るように構成されている。
【0027】
このように構成された冷却器10では、加熱部空間241内の液体冷媒が発熱体121、122により加熱され沸騰させられると冷媒の気体部分が増し、それと共に冷媒全体の体積が増加し伸縮部28の上端が上昇する。冷媒の気体部分がある程度増し例えば気液界面26が図1のように冷却部空間242内に入ると、冷却部142が、その冷媒の気体部分を冷却し凝縮させる。
【0028】
冷媒の気体部分が凝縮することにより気体部分が少なくなると、それと共に冷媒全体の体積が減少し伸縮部28の上端が下降する。そして、発熱体121、122の一部または全部が液体冷媒に浸かるようになる。発熱体121、122が液体冷媒に浸かると、上述したように再び加熱部空間241内の液体冷媒が沸騰し蒸発する。
【0029】
このように、冷却器10において加熱部141および冷却部142は、冷媒に蒸発と凝縮とを繰り返させることにより、冷媒封入空間24内で冷媒の気液界面26を自励振動させる。要するに、冷媒封入空間24内で冷媒を自励振動させる。
【0030】
また、伸縮部28は、冷媒の自励振動に伴う冷媒全体の体積変化を吸収するように伸縮するので、その冷媒全体の体積変化を吸収する振動吸収部として機能する。更に、伸縮部28は、所定のばね定数を持っているので、その伸縮部28の伸縮方向における釣合い点に向って伸縮量に応じた反力を生じ、冷媒の自励振動を補助する役割を果たす。
【0031】
そして、この気液界面26の自励振動すなわち冷媒の自励振動に伴い冷媒が蒸発と凝縮とを繰り返すことで、発熱体121、122から冷媒を介し外気に至る熱伝達経路において高い熱伝達率を得つつ、発熱体121、122の熱を、冷却部142にて外気へ放出させることができる。また、気液界面26から離れた部位の液体冷媒はサブクール状態になっており、そのサブクール状態の液体冷媒が、伸縮部28の上端が下降すると共に加熱部空間241内に流れ込むので、発熱体121、122を冷却する高い冷却性能を得ることができる。
【0032】
また、発熱体121、122まわりで冷媒が沸騰する際にその冷媒の沸騰が膜沸騰になると、冷媒の蒸気膜により発熱体121、122から冷媒への熱伝達が妨げられるので、発熱体121、122は、加熱部空間241内において、冷媒の沸騰が膜沸騰になり難いように配置されている。
【0033】
具体的には、第1発熱体121は、冷媒がその自励振動中において冷却部空間242から加熱部空間241内へ流入する冷媒流れの方向DRinすなわち冷媒流入方向DRinに対して一方の発熱面121aが傾斜して対向するように配置されている。図1では、その第1発熱体121の発熱面121aは、冷媒流入方向DRinに対して傾斜角度θだけ傾斜している。そして、その発熱面121aの傾斜は下向きの傾斜であるので、その発熱面121aは上向きの冷媒流入方向DRinに対向している。図1の傾斜角度θは、例えば、冷媒の蒸気膜が冷媒沸騰時において第1発熱体121の発熱面121a上に形成され難いように実験的に定められている。
【0034】
また、第2発熱体122は第1発熱体121と平行に配置されている。更に、第2発熱体122は、その第2発熱体122の一部、詳細には第2発熱体122の発熱面122bの一部が第1発熱体121の上記発熱面121aに対し鉛直下方に位置するように設けられている。図1では、矢印AR1で示す横方向範囲内において第2発熱体122の一部が第1発熱体121の上記発熱面121aに対し鉛直下方に位置している。
【0035】
このように発熱体121、122が配置されることにより、冷却部空間242から加熱部空間241へ流入した液体冷媒は、その慣性により第1発熱体121の発熱面121aに押し付けられ張り付くようにしてその発熱面121a上を上昇することになる。そのため、冷媒が沸騰した場合に、発熱面121a上で蒸気膜の形成が妨げられ膜沸騰が抑制される。言い換えれば、核沸騰が継続し易くなる。
【0036】
また、上述したように冷却部空間242の管路断面積は極めて小さいので、冷却部空間242からの液体冷媒は冷媒流入方向DRinに沿って飛沫状に第1発熱体121の発熱面121aに吹き付けられる。これによっても、発熱面121a上で蒸気膜の形成が妨げられ膜沸騰が抑制される。
【0037】
更に、第1発熱体121の発熱面121a上で蒸発せずに液体のままその発熱面121aから離れる冷媒は、その発熱面121aの鉛直下方に位置する第2発熱体122の発熱面122b上に滴下する。これにより、その第2発熱体122の発熱面122b上でも、冷媒が沸騰した場合に蒸気膜の形成が妨げられ膜沸騰が抑制される。
【0038】
次に、本実施形態と発熱体121、122の傾斜角度θを0°とした比較例とを対比する図2のタイムチャートについて説明する。図2のタイムチャートは、上から順に、冷媒の自励振動に伴う錘30の移動方向、比較例における発熱体121、122の状態および発熱体121、122からの放熱量、本実施形態における発熱体121、122の状態および発熱体121、122からの放熱量をそれぞれ示している。なお、その放熱量とは、発熱体121、122から冷媒に伝達される単位時間当たりの熱量である。図2では、簡潔な表示とするために、2つ発熱体121、122の両方から冷媒に伝達される放熱量を2とし、その一方から冷媒に伝達される放熱量を1として表示されている。
【0039】
図2では、t1時点からt6時点までの間が、冷媒の自励振動の1サイクルすなわち錘30の往復運動の1サイクルを表している。また、液体冷媒が第1発熱体121に接触しそれにより第1発熱体121から液体冷媒へ放熱されている期間は、右下がりのハッチングで表示されている。その一方で、液体冷媒が第2発熱体122に接触しそれにより第2発熱体122から液体冷媒へ放熱されている期間は、右上がりのハッチングで表示されている。
【0040】
t2時点は、錘30が上昇から下降に転じる時点を示している。すなわち、t2時点では、錘30が往復運動における上死点に位置している。その一方で、t5時点は、錘30が下降から上昇に転じる時点を示している。すなわち、t5時点では、錘30が往復運動における下死点に位置している。このようなt2時点からt5時点までの時間は、液体冷媒が冷却部空間242から加熱部空間241へ流れる液冷媒供給時間と言える。なお、錘30がその往復運動において下死点から上死点に至る過程では、発熱体121、122からの放熱量において本実施形態は比較例に対し殆ど差異がないので、図2では、その下死点から上死点に至る過程は省略して図示されている。
【0041】
比較例では、第1発熱体121の傾斜角度θが0°であるので、冷却部空間242から加熱部空間241へ流入した液体冷媒がその慣性により第1発熱体121の発熱面121aへ押し付けられる作用は生じない。そのため、t2時点直後においては、発熱体121、122の何れに対しても液体冷媒が接触し供給されるが、t3時点以降では、発熱体121、122の何れのまわりでも冷媒の膜沸騰が頻発している。図2の二点鎖線L01で囲んだ部分には、膜沸騰により液体冷媒が発熱体121、122の発熱面121a、121b、122a、122bに間欠的にしか接触せず、発熱体121、122全体からの放熱量が小さくなっていることが示されている。
【0042】
その一方で、本実施形態では、冷却部空間242から加熱部空間241へ流入する液体冷媒がその慣性により第1発熱体121の発熱面121aに押し付けられるので、その液体冷媒は、t3時点以降においても暫く発熱面121aに接触し続ける。言い換えれば、第1発熱体121に供給され続ける。
【0043】
そして、図2では、t4時点において液体冷媒は第1発熱体121に接触しなくなるが、その第1発熱体121の発熱面121a上で蒸発せずに液体のまま残った液体冷媒は、第2発熱体122の発熱面122b上に滴下し、その発熱面122bに張り付くことになる。そのため、t4時点以降では、液体冷媒は、第2発熱体122の発熱面122bに接触し続ける。言い換えれば、第2発熱体122に供給され続ける。
【0044】
このように加熱部空間241へ流入した液体冷媒は、本実施形態においては上述の比較例よりも2つの発熱体121、122の一方または両方に接触し易いので、図2最下段のタイムチャートのように、本実施形態では発熱体121、122全体からの放熱量が、上述の比較例と比較して安定して大きくなっている。
【0045】
上述したように、本実施形態によれば、第1発熱体121は、液体冷媒が冷却部空間242から加熱部空間241内へ流入する冷媒流れの方向DRinに対してその第1発熱体121の発熱面121aが傾斜して対向するように配置されているので、加熱部空間241内へ流入する液体冷媒はその慣性により上記発熱面121aに押し付けられつつその発熱面121a上を移動することになる。そのため、第1発熱体121と冷媒との間における熱伝達率の悪化を防止することが可能である。例えば、液体冷媒が第1発熱体121の発熱面121aに押し付けられることによって、冷媒の沸騰による蒸気膜の形成が妨げられるので、第1発熱体121の発熱面121aと冷媒との間において膜沸騰に起因した熱伝達率の悪化を防止することが可能である。
【0046】
また、本実施形態によれば、第2発熱体122は、その第2発熱体122の一部が第1発熱体121に対し鉛直下方に位置するように設けられているので、第1発熱体121の発熱面121a上で冷媒が蒸発せずに液体のまま残れば、その残った液体冷媒は第2発熱体122の発熱面122b上に滴下する。これにより、第2発熱体122の発熱面122b上でも蒸気膜の形成を妨げることができ、第2発熱体122の発熱面122bと冷媒との間において膜沸騰に起因した熱伝達率の悪化を防止することが可能である。
【0047】
(他の実施形態)
(1)上述の実施形態において、加熱部空間241内に第1発熱体121と共に第2発熱体122が設けられているが、その第2発熱体122は無くても差し支えない。或いは、それらの発熱体121、122に加えて更に発熱体が設けられていても差し支えない。
【0048】
(2)上述の実施形態において、第2発熱体122は第1発熱体121と平行に配設されているが、第1発熱体121と平行でなくても差し支えない。
【0049】
(3)上述の実施形態において、第2発熱体122は第1発熱体121と同じ物であるが、第1発熱体121とは異なる物であっても差し支えない。
【0050】
(4)上述の実施形態において、発熱体121、122は、冷却が必要な半導体素子などであるが、電気部品である必要はない。
【0051】
(5)上述の実施形態において、第2発熱体122の一部が第1発熱体121に対し鉛直下方に位置しているが、その第2発熱体122の全部が第1発熱体121に対し鉛直下方に位置していても差し支えない。
【0052】
(6)上述の実施形態において、第1発熱体121および第2発熱体122は、例えば平板状の直方体であるが、その形状に限定は無く、例えば円柱形状を成していても差し支えない。
【0053】
(7)上述の実施形態において、冷却器10はU字状の形状をしており、冷却部空間242は上下方向に延びる空間であるが、その冷却器10の形状に限定は無く、例えば、冷却部空間242が水平方向に延びる空間であっても差し支えない。
【0054】
(8)上述の実施形態において、冷却部142は、1つの冷却部空間242を備えているが、例えば並列して複数設けられた冷却部空間242を備えていても差し支えない。
【0055】
(9)上述の実施形態において、図1に示す傾斜角度θは、第1発熱体121の発熱面121a上に冷媒沸騰時の蒸気膜が形成され難いように実験的に定められるが、それに限定されず、その傾斜角度θは、例えば「0°<θ<90°」の範囲内にあればよい。
【0056】
(10)上述の実施形態において、発熱体121、122からの発熱が止まると、発熱体121、122全体が液体冷媒に浸るが、発熱体121、122の一部分が液体冷媒に浸るのでも差し支えない。
【0057】
(11)上述の実施形態において、冷却部142は、冷却部空間242内の冷媒を外気と熱交換させることにより冷却するが、冷却部142まわりに冷却水が流れる配管を設け、冷媒を、その冷却水と熱交換させることにより冷却しても差し支えない。
【0058】
(12)上述の実施形態において、駆動補助装置16は錘30を備えているが、錘30は無くても差し支えない。或いは、錘30が、冷媒の振動を助長するように慣性力を付加する他の部品又は装置に置き換わっていても差し支えない。
【0059】
(13)上述の実施形態において、伸縮部28は蛇腹等で構成され上下に伸縮するが、冷媒の振動を吸収できれば伸縮しない構成であっても差し支えない。
【0060】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
10 冷却器
24 冷媒封入空間
121 第1発熱体(第1の発熱体)
121a 第1発熱体の発熱面
122 第2発熱体(第2の発熱体)
141 加熱部
142 冷却部
241 加熱部空間
242 冷却部空間
図1
図2