(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体本体と、集電体本体の表面に配置されるコート層と、コート層の集電体本体側の表面とは相対する表面に配置され、負極活物質を含む負極活物質層と、を有する。
【0021】
集電体本体は、非水電解質二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体本体に用いることのできる材料として、例えば、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂を挙げることができる。また集電体本体は、箔、シート、フィルムなどの形態をとることができる。そのため、集電体本体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。
【0022】
集電体本体は、その膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。
【0023】
負極活物質層は、負極活物質、結着剤を含み、必要に応じて導電助剤を含む。
【0024】
負極活物質としては、Si、Si化合物、Sn及びSn化合物の群から選択される少なくとも一つを含む。
【0025】
Si化合物としては、例えば、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SnSiO
3、LiSiO、SiO
v(0<v≦2)が使用できる。特にSi化合物は、SiO
x(0.5≦x≦1.5)であることが好ましい。
【0026】
Sn化合物としては、例えば、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSnO、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が使用できる。
【0027】
負極活物質は、Si、Si化合物、Sn及びSn化合物の群から選択される少なくとも一つに加えてさらに他の負極活物質を用いてもいい。
【0028】
他の負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物、あるいは高分子材料などを用いることができる。
【0029】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が挙げられる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0030】
リチウムと合金化可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ge、Pb、Sb、Biの少なくとも1種を有するとよい。
【0031】
リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物としては、例えば、ZnLiAl、AlSbなどが使用できる。
【0032】
高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリピロールなどが使用できる。
【0033】
負極活物質は粉末形状であることが好ましい。負極活物質が粉末形状の場合、負極活物質の平均粒径D
50は0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。負極活物質の平均粒径D
50が0.1μmより小さいと、負極活物質の粉末の比表面積が大きくなり、負極活物質の粉末と電解液との接触面が多くなって、電解液の分解が進んでしまい、サイクル特性が悪くなる。また、負極活物質であるSi、Si化合物、Sn、Sn化合物はいずれも導電性が悪いので、負極活物質の平均粒径D
50が30μmより大きいと、電極全体の導電性が不均一になり、充放電特性が低下する。平均粒径D
50は、粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。つまり、平均粒径D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を指す。
【0034】
結着剤は、上記負極活物質及び導電助剤を集電体本体に繋ぎ止める役割を果たす。結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0035】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために必要に応じて負極活物質層に添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、負極に含有される活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0036】
コート層は、コート層用バインダーと導電性材料とを含む。
【0037】
コート層用バインダーは、有機溶媒に耐性がある樹脂が好ましく、還元性雰囲気になっても耐久性のあるものが好ましい。またコート層用バインダーは集電体本体と接着性の良いものが好ましい。コート層用バインダーとして、例えば、フッ素含有樹脂、ゴム、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が使用できる。
【0038】
フッ素含有樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)が挙げられる。
【0039】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル樹脂が挙げられる。
【0042】
コート層用バインダーとしては、フッ素含有樹脂が好ましい。フッ素含有樹脂は、有機溶媒耐性が高く、電解液に膨潤しにくく、形状を保ちやすい。そのため、負極活物質が膨張、または収縮しても、コート層用バインダーの形状が変わりにくく、集電体本体と負極活物質層とを剥離させにくい。
【0043】
導電性材料の形状は特に制限はなく、粉末状、繊維状、板状、扁平状、塊状、布状及びメッシュ状などの公知の形状を適宜選択することができる。特に粉末状の導電性材料を使用することが好ましい。形状に一定の方向性がない粉末状の導電性材料のほうが、繊維状などの一定の方向性を有する導電性材料よりも、コート層に導電性を偏在させることなく、コート層になるべく均一に導電性を付与できる。
【0044】
また導電性材料の大きさについては、コート層の厚み及び導電性材料の形状に応じて様々な大きさの導電性材料を使用することができる。例えば導電性材料が粉末状の場合は、平均粒径D
50が10nm〜500nmのものが使用できる。導電性材料の平均粒径D
50が10nm以上あれば、適切な導電性をコート層に持たせることができる。導電性材料の平均粒径D
50が500nmより大きいと、コート層の膜厚が厚くなりすぎるため好ましくない。
【0045】
導電性材料は、導電性を有すれば導電性の程度は特に限定されない。例えば導電性材料が粉末状の場合、導電性材料は粉体比抵抗が1E+3Ωcm以下であることが好ましい。粉体比抵抗は試料である粉体を試料台に入れて一定の圧力をかけて比抵抗を算出することによって求められる。
【0046】
導電性材料は、導電性が高い材料を用いれば少量でコート層の導電性を高くできる。またコート層の厚みが薄い場合は、導電性がそれほど高くない導電性材料を用いてもかまわないし、コート層に入れる導電性材料の量をより少なくできる。
【0047】
導電性材料として用いる材質も、特に限定されない。導電性材料として、例えば、炭素材料、金属材料、酸化物半導体材料が使用できる。
【0048】
炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)が挙げられる。
【0049】
金属材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Zn、Ni、Cr、Ti、Sn及びFeからなる群の金属から選ばれた少なくとも一種の金属または合金の粉末が挙げられる。
【0050】
酸化物半導体材料としては、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化亜鉛(ZnO)、過酸化亜鉛(ZnO
2)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO
2)、酸化錫(VI)(SnO
3)、二酸化チタン(TiO
2)、三酸化二チタン(Ti
2O
3)、酸化ルテニウム(RuO
2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タンタル(Ta
2O
3)、酸化タングステン(III)(W
2O
3)、酸化タングステン(IV)(WO
2)、酸化タングステン(VI)(WO
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)、二酸化バナジウム(VO
2)、酸化銅(II)(CuO)、酸化銀(I)(Ag
2O)、酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)、酸化インジウム(In
2O
3)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化錫(IV)(SnO
2)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの及び二酸化チタン(TiO
2)にNb元素を添加したものから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0051】
酸化インジウム(In
2O
3)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもののうち、酸化インジウム(In
2O
3)にZn元素あるいはSn元素を添加したものが好ましい。酸化インジウム(In
2O
3)にZn元素を添加したものとして、インジウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化インジウム(In
2O
3)にSn元素を添加したものとして、インジウム錫酸化物が挙げられる。インジウム亜鉛酸化物としてIn
2O
3−ZnO(IZO)が好ましく、インジウム錫酸化物としてIn
2O
3−SnO
2(ITO)が好ましい。
【0052】
酸化錫(IV)(SnO
2)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもののうち、酸化錫(IV)(SnO
2)に、F元素、Sb元素、Ta元素あるいはP元素を添加したものが好ましい。酸化錫(IV)(SnO
2)にF元素を添加したものとして、フッ素錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO
2)にSb元素を添加したものとして、アンチモン錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO
2)にTa元素を添加したものとして、タンタル錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO
2)にP元素を添加したものとして、リン錫酸化物が挙げられる。フッ素錫酸化物としてフッ素添加酸化錫(FTO)が好ましく、アンチモン錫酸化物としてアンチモン添加酸化錫(ATO)が好ましく、タンタル錫酸化物としてタンタル添加酸化錫(TaTO)が好ましく、リン錫酸化物としてリン添加酸化錫(PTO)が好ましい。
【0053】
酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもののうち、酸化亜鉛(ZnO)にGa元素を添加したものとして、ガリウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化亜鉛(ZnO)にAl元素を添加したものとして、アルミニウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化亜鉛(ZnO)にB元素を添加したものとして、ホウ素亜鉛酸化物が挙げられる。ガリウム亜鉛酸化物としてガリウム添加酸化亜鉛(GZO)が好ましく、アルミニウム亜鉛酸化物としてアルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)が好ましく、ホウ素亜鉛酸化物としてホウ素添加酸化亜鉛(BZO)が好ましい。
【0054】
二酸化チタン(TiO
2)にNb元素を添加したものとして、チタンニオブ酸化物が挙げられる。チタンニオブ酸化物としてTiO
2;Nbが好ましい。
【0055】
導電性材料として、TiO
2、SnO
2、ZnO、NiO、VO
2、In
2O
3、CuO、Ag
2O、SnO、及びNb
2O
5からなる群より選ばれる少なくとも一つの酸化物若しくはこれらの酸化物を含有する複合酸化物からなる酸化物半導体であることが好ましい。
【0056】
また導電性材料として、特にSnO
2が好ましい。SnO
2はLiとの反応性を有し、同時に十分な導電性を保持する材料である。SnO
2は初期充電時にLiと反応して膨張する。そのため初期充電時に、SnO
2は負極活物質の膨張に追従できる。負極活物質の膨張は初期が最も大きくなるため、SnO
2が初期充電時に負極活物質の膨張に追従するように形状が変化することで、集電体と負極活物質層がはがれにくくなり、導電パスを保つことができる。
【0057】
SnO
2として、平均粒径D
50が10nm〜100nmの粉末を用いることが好ましい。SnO
2は平均粒径D
50によって初期充電時における体積変化の度合いを調整できる。また平均粒径D
50がこの範囲にあると、コート層の厚みを薄くしたい場合に使用するのに適している。
【0058】
コート層におけるコート層用バインダーの含有量は、コート層の全体を100質量%としたときに、40質量%より多く99質量%以下である。コート層用バインダーの含有量は、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。このときの質量%は、それぞれの材料の混合時の比(質量)である。
【0059】
コート層用バインダーの含有量が40質量%より多いと、コート層と集電体本体との間及びコート層と負極活物質層との間の密着性が増すため、負極活物質の膨張収縮によりコート層と負極活物質層及びコート層と集電体本体とが剥離するのが抑制される。コート層用バインダーの含有量が99質量%以下であれば、コート層の導電性材料の含有量が1質量%より多くなり、コート層に導電性を付与できる。
【0060】
またこの含有量を体積%でみると、コート層の全体を100体積%としたときに、コート層用バインダーの含有量は20体積%より多く99体積%以下である。コート層用バインダーの含有量は、30体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。
【0061】
このときの体積%で示す含有量は、コート層の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)画像で観察した場合の導電性材料とコート層用バインダーの面積比から算出した。
【0062】
コート層において、コート層用バインダーが上記範囲内で含まれることによって、コート層に導電性を持たせながら、コート層が集電体本体と負極活物質層とを良好に密着させることができる。コート層によって集電体本体と負極活物質層とが良好に密着していると、負極活物質がLiの吸蔵及び放出に伴って膨張、収縮しても、集電体本体から負極活物質層が剥離しにくい。実施例において説明するが、コート層において、コート層用バインダーが上記範囲内で含まれることによって、リチウムイオン二次電池の保存特性を向上させることができる。コート層は密着性が強いので、負極活物質がLiの吸蔵及び放出に伴って膨張、収縮して集電体本体から剥離していくのをコート層が抑制できる。負極活物質層が集電体本体から剥離すると負極の抵抗が高くなり、充放電容量が低下し、保存特性が悪くなる。
【0063】
コート層の厚みは0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましく、100nm〜300nmであることがより好ましい。コート層の厚みが0.05μm以上であれば、そのコート層によって集電体本体と負極活物質層との間の密着性を高めることができる。コート層の厚みが0.5μm以下であれば、コート層を配置しても負極の抵抗をあまり高くしなくてすむ。またコート層の厚みが0.5μm以下であれば、電池に占める厚みが少なく、容量低下を最小限に抑えることができる。
【0064】
コート層における導電性材料とコート層用バインダーの配置は、特に限定されない。例えば、導電性材料のコート層における配置状態は、複数の導電性材料がお互いに接触せずにコート層の中に分散していても良いし、コート層の集電体本体側の表面から負極活物質層側の表面まで複数の導電性材料がお互いに適宜接触して配置されていてもよい。またコート層の厚みと同等の大きさを有する導電性材料がコート層の厚み方向に一個存在すれば、一個の導電性材料によってコート層の集電体本体側の表面から負極活物質層側の表面まで電子が伝達される。
【0065】
コート層においてコート層用バインダーの形状は、一定の大きさを有する粒子状であることが好ましい。コート層用バインダーの形状が粒子状になっていると、負極活物質層の膨張収縮に追従する形で、コート層用バインダーが追従し、さらに密着性を保つことができる。
【0066】
図1に本発明のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式断面図を示す。
図1において、コート層2は集電体本体1の表面に配置され、負極活物質層3はコート層2の表面に配置されている。つまりコート層2は集電体本体1と負極活物質層3とに挟まれている。コート層2内において、導電性材料22はコート層用バインダー21内に分散して配置されている。コート層2に導電性材料22が含まれていることによって、コート層2の抵抗を低くできる。
図1においてコート層用バインダー21は膜状に記載されているが、複数の粒子の集合体であってもよい。
【0067】
集電体本体へコート層を配置する方法は、特に限定されないが、以下の方法で形成できる。
【0068】
導電性材料とコート層用バインダーとを有機溶媒又は水に分散させてペースト状にして、粘度調整されたコート層形成用ペーストとする。コート層形成用ペーストを集電体本体に塗布する。
【0069】
コート層形成用ペーストの塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0070】
有機溶媒としては、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、エチレングリコール、イソプロパノール(IPA)などが使用可能である。水は蒸留水やイオン交換水など、不純物を取り除いたものが好ましい。コート層形成用ペーストに使用する溶媒は、負極活物質層形成時に使用される溶媒とは異なる種類の溶媒を使用することが好ましい。同じ種類の溶媒を使用すると、負極活物質層形成時にコート層の組成物が負極活物質層中に溶出することがある。
【0071】
負極の作成は以下のように行うことができる。負極活物質および結着剤、並びに必要に応じて導電助剤を含む負極活物質層形成用組成物を調製し、さらにこの組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にして、負極活物質層形成用ペーストを作製する。コート層形成用ペーストを塗布した集電体本体のコート層形成用ペーストを塗布した表面に負極活物質層形成用ペーストを塗布する。塗布後の集電体本体を乾燥する。負極は必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。塗布後の乾燥は、コート層形成用ペーストを塗布後に、一旦乾燥し、乾燥後に負極活物質層形成用ペーストを塗布し、再度乾燥させる方が好ましい。またコート層用形成用ペーストを塗布した後、連続して負極活物質形成用ペーストを塗布し、その後乾燥してもよい。その場合、コート層形成用ペーストに使用する溶媒は、負極活物質層形成時に使用される溶媒とは異なる種類の溶媒を使用することが好ましい。
【0072】
負極活物質層形成用ペーストの塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0073】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0074】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする。上記リチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池は、優れた保存特性を有する。
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、上記したリチウムイオン二次電池用負極に加えて、正極、セパレータ、電解液を有する。
【0076】
正極は、集電体本体と、集電体本体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は、正極活物質、結着剤を含み、必要に応じて導電助剤を含む。集電体本体、結着剤、導電助剤はリチウムイオン二次電池用負極で説明したものと同様である。
【0077】
正極活物質としては、リチウム含有化合物あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式: Li
aCo
pNi
qMn
rD
sO
x (Dはドープ成分であり、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe、Naからなる成分であり、必要に応じて添加される、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPO
4で示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MPO
4Fで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MSiO
4で示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)を用いることができる。また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。
【0078】
また正極活物質は、化学式:LiMO
2(MはNi、Co及びMnから選択される少なくとも1つである)で表されるリチウム含有酸化物よりなることが好ましく、さらに一般式: Li
aCo
pNi
qMn
rD
sO
x (Dはドープ成分であり、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe、Naからなる成分であり、必要に応じて添加される、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0079】
リチウム含有酸化物としては、例えば、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiCoO
2、LiNi
0.8Co
0.2O
2、LiCoMnO
2を用いることができる。中でもLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2は、熱安定性の点で好ましい。
【0080】
正極活物質はその平均粒径D
50が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質の平均粒径D
50が1μmより小さいと正極活物質の比表面積が大きくなり正極活物質と電解液との反応面積が増える。正極活物質の平均粒径D
50が20μmより大きいとリチウムイオン二次電池の抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の出力特性が下がる。
【0081】
セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。
【0082】
電解液はリチウムイオン二次電池用に用いることのできる電解液が使用できる。電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0083】
例えば溶媒として環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等が使用できる。鎖状エステル類として、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等が使用できる。エーテル類として、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等が使用できる。
【0084】
また上記電解液に溶解させる電解質として、例えばLiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を使用することができる。
【0085】
例えば、電解液として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0086】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。上記リチウムイオン二次電池は、優れたサイクル性能を有するため、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は、寿命、出力の面で高性能となる。
【0087】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0088】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0090】
<集電体本体へのコート層形成>
集電体本体として厚み20μmの銅箔を準備した。
【0091】
導電性材料として、平均粒径D
50が20nmのSnO
2粉末と、コート層用バインダーとしてPTFEを準備した。また粘度調整溶媒としてイオン交換水及びイソプロパノール(IPA)を準備した。
【0092】
(集電体A)
SnO
2:PTFEの質量比を25:75とし、イオン交換水及びIPAを加えてスラリー状のコート層形成用ペーストを作成した。上記コート層形成用ペーストを銅箔にのせ、ドクターブレードを用いてスラリーの膜厚が200nmとなるように塗布した。その後空気中で、コート層形成用ペーストを塗布した銅箔を120℃、10分間加熱し、水分及びIPAを揮発させた。これを集電体Aとした。
【0093】
(集電体B)
SnO
2:PTFEの質量比を10:90とした以外は集電体Aと同様にして集電体Bを作製した。
【0094】
(集電体C)
SnO
2:PTFEの質量比を50:50とした以外は集電体Aと同様にして集電体Cを作製した。
【0095】
(集電体D)
SnO
2:PTFEの質量比を80:20とした以外は集電体Aと同様にして集電体Dを作製した。
【0096】
(集電体E)
コート層を形成せず、銅箔そのものを集電体Eとした。
【0097】
<ラミネート型リチウムイオン二次電池作製>
(実施例1)
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0098】
(負極の作製)
負極活物質として、平均粒子径D
50が4μmのSiO(アルドリッチ社製)及び黒鉛(平均粒子径D
50が20μmの天然黒鉛(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてアルコキシ基含有シラン変性ポリアミドイミド樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセラン、品番H900−2、溶剤組成:N-メチルピロリドン(NMP)/キシレン(Xyl)、硬化残分30%、粘度8000mPa・s、硬化残分中のシリカ、4wt%、硬化残分とは樹脂硬化させ揮発性成分を除いた固形分を意味する)を準備した。導電助剤としてケッチェンブラックインターナショナル社製のKB(ケッチェンブラック)を準備した。
【0099】
上記負極活物質、導電助剤及びバインダー樹脂を、SiO:黒鉛:導電助剤:バインダー樹脂=32:50:3:15の質量比で混合した。上記混合物に、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量入れて調整してスラリーとし、負極活物質層用スラリートした。
【0100】
集電体Aに上記負極活物質層用スラリーをのせて、ドクターブレードを用いて膜状に塗布した。集電体Aに負極活物質層用スラリーを塗布したものを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、密着接合させた。この時、負極活物質層の密度は1.6g/cm
2となるようにした。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、負極活物質層の厚さが20μmの負極とした。
【0101】
(正極の作成)
正極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2と導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部を混合し、この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、正極活物質層用スラリーを作製した。
【0102】
正極の集電体として20μmのアルミニウム箔を用意し、アルミニウム箔に正極活物質層用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。正極活物質層用スラリーを塗布後のアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、密着接合させた。この時、正極活物質層の密度は3.2g/cm
2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0103】
上記の正極および負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)をEC:EMC:DMC=3:3:4(体積比)で混合した溶媒に1モルのLiPF
6を溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
(実施例2)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Bを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
(実施例3)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Cを用いた以外は実施例1と同様にして実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0106】
(比較例1)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Dを用いた以外は実施例1と同様にして比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0107】
(比較例2)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Eを用いた以外は実施例1と同様にして比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0108】
<初期容量測定>
実施例1、実施例2,実施例3、比較例1及び比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期容量を測定した。充電の際は、25℃において0.33Cレート、電圧4.5VまでCC充電(定電流定電圧充電)をした。CV充電は、電圧4.5Vにて2.5時間保持した。放電の際は2.5Vまで、0.33CレートでCC放電(定電流放電)を行った。総充放電時間は8.5時間であった。この時の放電容量を測定し、初期容量とした。
【0109】
<セル抵抗評価>
実施例1〜3および比較例1〜2のラミネート型リチウムイオン二次電池のセル抵抗を測定した。セル抵抗(Ω)は、SOC(State of charge)20%時の電圧(3.6V)にて3Cレート、10秒放電にて測定した。セル抵抗の測定値が小さい方がリチウムイオン二次電池の内部損失が少ないことを示す。またセル抵抗は3Cレートで測定されているので、このセル抵抗の測定値は高レート特性を示す指標ともなる。
【0110】
<60℃保存試験>
実施例1〜3および比較例1〜2のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存試験を行った。これは実施例1〜3および比較例1〜2のラミネート型リチウムイオン二次電池を以下の条件で充放電試験を一回行い、再度充電した電池を60℃で1週間放置した。充電は60℃においてSOC(State of charge)90%時の電圧(4.3V)で、1CレートでCCCV充電(定電流定電圧充電)をした。電圧は一時間保持した。放電の際は2.5V、0.33CレートでCC放電(定電流放電)を行った。
【0111】
ここで保存試験は充電した状態で保存されるので、負極活物質に含まれるSiは膨張した状態のまま保存されることになる。このような状態におかれるとラミネート型リチウムイオン二次電池は電解液と活物質との間で副反応を起こし、自己放電しやすい。
【0112】
この保存試験後の放電容量とセル抵抗を上記測定方法で測定し、それぞれ保存後容量、保存後抵抗とした。
【0113】
結果を表1に示す。なお容量維持率(%)は保存試験後の放電容量/初期容量×100の式で計算した。抵抗変化率(%)は保存後抵抗/初期抵抗×100の式で計算した。
【0114】
【表1】
【0115】
表1からわかるように、コート層におけるPTFEの含有量が質量%で50質量%〜90質量%、体積%で30体積%〜70体積%ある負極を用いた実施例1、実施例2及び実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池は保存後抵抗が、比較例1、比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池と比べて大幅に低くなっており、実施例1、実施例2及び実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率も比較例1、比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率と比べて大幅に高くなった。コート層におけるコート層用バインダーの含有量が質量%で20質量%、体積%で10体積%である負極を用いた比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池は保存後抵抗が高くなってしまい、保存後容量も下がることがわかった。
【0116】
また抵抗に関しては、抵抗が低いことは負極活物質層と集電体本体とがコート層によって密着していて剥離していないことを示す。従って実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池の保存後抵抗に比べて比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の保存後抵抗は急激に上がっており、60℃、1週間、高電圧使用環境下である条件の保存試験によって比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の負極の負極活物質層がコート層から剥離したことを意味していると考える。
【0117】
つまりコート層におけるコート層用バインダーの含有量が質量%で20質量%より高い負極、好ましくはコート層用バインダーの含有量が質量%で50質量%〜90質量%ある負極を用いれば、高電圧使用環境下でも負極活物質層がコート層より剥離しにくく負極の抵抗があがるのを抑制できるため、保存後容量の低下を抑制できることがわかった。