特許第6048316号(P6048316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048316
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20161212BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G03G9/08 311
   G03G9/08 325
   G03G9/08 331
   G03G9/08 365
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-118755(P2013-118755)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-235403(P2014-235403A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】奥山 奥士
(72)【発明者】
【氏名】北條 育子
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】今榮 麗仁
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−033233(JP,A)
【文献】 特開2005−173202(JP,A)
【文献】 特開2011−070179(JP,A)
【文献】 特開2013−011642(JP,A)
【文献】 特開2011−221269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 − 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル樹脂と、当該ビニル樹脂に相溶する、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(A)とよりなるコア粒子、および、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(B)よりなるシェル層からなるコア−シェル構造のトナー粒子よりなり、
前記非晶性樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaが40質量%以上65質量%以下であり、かつ、
当該非晶性樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaの、前記非晶性樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbに対する比Va/Vbが、1.0以上であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記比Va/Vbが、1.2〜4.0であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記非晶性樹脂(A)の含有割合が、前記トナー粒子を構成する全樹脂に対して5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記非晶性樹脂(A)のガラス転移点が35℃以上50℃以下であり、
前記非晶性樹脂(B)のガラス転移点が55℃以上65℃以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記トナー粒子が離型剤を含有するものであり、
当該離型剤が、コア粒子に含有されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成技術が向上しており、軽印刷分野に適用されている。これに伴い、現行の印刷機に対抗することができる、より高速で、かつ、より低エネルギーで高品質な画像を出力することが求められている。
【0003】
このような低エネルギーで画像を出力する要請に対して、トナーの耐熱保管性を損なわずに低温定着性を得る観点から、ビニル樹脂よりなるコア粒子と、これを被覆するポリエステル樹脂よりなるシェル層とからなるコア−シェル構造のトナーが検討されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このようなトナーにおいては、ビニル樹脂とポリエステル樹脂とが親和性に乏しいために、シェル層が均一なものとされることは困離である。その結果、このようなトナーにおいては、現像器内における撹拌によりシェル層の剥離が生じて、形成された画像に画像ノイズが生じる、という問題があった。
また、熱定着時にビニル樹脂とポリエステル樹脂との相溶性が低く、全体においてなじまない部分が生じるために、形成される画像に微小な画像光沢ムラが生じる、という問題もあった。
【0005】
このような問題を解決するため、コア粒子とシェル層との親和性を向上させる目的から、シェル層を構成する樹脂としてウレタン変性ポリエステル樹脂またはアクリル変性ポリエステル樹脂を用いたトナー(特許文献2)や、コア粒子を構成する樹脂としてスチレン−アクリル樹脂とスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とを用いると共に、シェル層を構成する樹脂としてスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を用いたトナー(特許文献3)などが提案されている。
【0006】
然るに、プロダクションプリンティング領域においては、画像形成装置の高速化、対応する紙種の拡大化、高画質化などが一層進んでいる。そして、このような高機能化が進んだ画像形成方法においては、上記のトナーを用いても、長期間にわたって耐熱保管性および低温定着性を両立して得ると共に、画像ノイズおよび画像光沢ムラの発生を抑止するという点では十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−338548号公報
【特許文献2】特開2005−173202号公報
【特許文献3】特開2013−33233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、高機能化された画像形成方法に用いた場合においても、低温定着性が得られると共に、長期間にわたって耐熱保管性および耐破砕性が得られ、さらに画像光沢ムラの発生を抑制することができる静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静電荷像現像用トナーは、ビニル樹脂と、当該ビニル樹脂に相溶する、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(A)とよりなるコア粒子、および、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(B)よりなるシェル層からなるコア−シェル構造のトナー粒子よりなり、
前記非晶性樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaが40質量%以上65質量%以下であり、かつ、
当該非晶性樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaの、前記非晶性樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbに対する比Va/Vbが、1.0以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記比Va/Vbが、1.2〜4.0であることが好ましい。
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記非晶性樹脂(A)の含有割合が、前記トナー粒子を構成する全樹脂に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記非晶性樹脂(A)のガラス転移点が35℃以上50℃以下であり、
前記非晶性樹脂(B)のガラス転移点が55℃以上65℃以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子が離型剤を含有するものであり、
当該離型剤が、コア粒子に含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の静電荷像現像用トナーによれば、ビニル樹脂とビニル重合セグメントの含有割合の高い非晶性樹脂(A)とが相溶してなるコア粒子、および、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントの含有割合の低い非晶性樹脂(B)によるシェル層からなるコア−シェル構造を有するので、高機能化された画像形成方法に用いた場合においても、低温定着性が得られると共に、長期間にわたって耐熱保管性および耐破砕性が得られ、さらに画像光沢ムラの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明のトナーは、ビニル樹脂をメイン樹脂とするものであり、メイン樹脂であるビニル樹脂および当該ビニル樹脂に相溶するビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(A)(以下、「ビニル変性ポリエステル樹脂(A)」ともいう。)によるコア粒子と、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる非晶性樹脂(B)(以下、「ビニル変性ポリエステル樹脂(B)」ともいう。)によるシェル層とからなるコア−シェル構造のトナー粒子よりなる。
詳細には、コア粒子を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaが40質量%以上65質量%以下であり、かつ、当該ビニル変性ポリエステル樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaの、シェル層を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbに対する比Va/Vb(以下、「ビニル重合セグメントの比Va/Vb」ともいう。)が、1.0以上、好ましくは1.2〜4.0であることを特徴とするものである。
【0017】
以上のようなトナーによれば、ビニル樹脂とビニル重合セグメントの含有割合の高いビニル変性ポリエステル樹脂(A)とが相溶してなるコア粒子、および、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントの含有割合の低いビニル変性ポリエステル樹脂(B)によるシェル層からなるコア−シェル構造を有するので、高速で出力する場合や、厚紙などへ出力する場合、あるいは高画質の画像を出力する場合などの、高機能化された画像形成方法に用いた場合においても、低温定着性が得られると共に、長期間にわたって耐熱保管性および耐破砕性が得られ、さらに画像光沢ムラの発生を抑制することができる。
この理由は、以下の通りであると考えられる。
すなわち、コア粒子のビニル変性ポリエステル樹脂(A)およびシェル層のビニル変性ポリエステル樹脂(B)のそれぞれにおけるポリエステル重合セグメントによって低温定着性が確保される。しかも、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)はビニル重合セグメントの含有割合Vaが高いものであるので、メイン樹脂であるビニル樹脂に対しての相溶性が高く、従って、当該ビニル変性ポリエステル樹脂(A)による低温定着性を極めて効率的に発揮することができる。また、ビニル変性ポリエステル樹脂(B)も、ビニル重合セグメントを有するためにメイン樹脂であるビニル樹脂に対して熱定着時に相溶性が得られて、当該ビニル変性ポリエステル樹脂(B)による低温定着性も発揮される。
また、上述のようにシェル層のビニル変性ポリエステル樹脂(B)が、コア粒子のビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)に対して、熱定着時に相溶性が得られるので、全体においてなじまない部分が生じることが抑制されて、形成される画像に微小な画像光沢ムラが生じることが抑止される。
また、シェル層のビニル変性ポリエステル樹脂(B)のビニル重合セグメントの含有割合Vbがコア粒子のビニル変性ポリエステル樹脂(A)のビニル重合セグメントの含有割合Vaよりも低くなるよう設計されているために、トナーの保管時にはコア粒子のビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)への相溶が防止されて耐熱保管性が得られる。一方、コア粒子を構成するビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)との親和性は十分に得られるために、シェル層が均一性が高くコア粒子への接着性が高いものとなって、前記の耐熱保管性を長期間にわたって得られると共に、長期間にわたって耐破砕性が得られ、現像器内における撹拌によりシェル層の剥離が生じることが抑制されて、画像ノイズの発生を抑止することができる。
【0018】
本発明において、ビニル重合セグメントの比Va/Vbは、メイン樹脂(ビニル樹脂)に対する親和性のバランスを示しており、当該ビニル重合セグメントの比Va/Vbが1.0以上であることにより、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のメイン樹脂に対する相溶状態が得られながら、ビニル変性ポリエステル樹脂(B)によるシェル層を形成することができる。ビニル重合セグメントの比Va/Vbが1.2以上であることにより、この効果が一層得られる。
ビニル重合セグメントの比Va/Vbが4.0以下であることにより、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)とビニル変性ポリエステル樹脂(B)との高い親和性が得られてコア粒子に対するシェル層の接着性を高めることができ、従って、優れた耐破砕性が確実に得られる。
一方、ビニル重合セグメントの比Va/Vbが1.0未満である場合には、ビニル樹脂に対する相溶性が、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)よりもビニル変性ポリエステル樹脂(B)の方が高くなるため、ビニル変性ポリエステル樹脂(B)がコア粒子と相溶してしまい、シェル層を形成することが困難となって十分な耐熱保管性が得られない、という不具合が生じてしまう。
【0019】
〔コア粒子〕
本発明に係るトナー粒子を構成するコア粒子には、ビニル樹脂およびビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなるビニル変性ポリエステル樹脂(A)が含有されており、このビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)は、互いに相溶状態とされている。
【0020】
〔ビニル樹脂〕
コア粒子を構成するビニル樹脂は、ビニル基を有する単量体(以下、「ビニル単量体」という。)を用いて形成されるものであり、具体的には、ビニル樹脂は、スチレン−アクリル共重合体、スチレン重合体、アクリル重合体などからなるものとすることができ、スチレン−アクリル共重合体からなることが好ましい。
【0021】
ビニル単量体としては、下記のものなどを用いることができる。ビニル単量体としては、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
(1)スチレン系単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
(2)(メタ)アクリル酸エステル系単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0022】
また、ビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルフォン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルフォン酸基を有する単量体としては、スチレンスルフォン酸、アリルスルフォコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有する単量体としてはアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0023】
さらに、ビニル単量体として、多官能性ビニル類を使用し、ビニル樹脂を、架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
ビニル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)が20,000〜60,000であることが好ましい。
ビニル樹脂の重量平均分子量(Mw)が20,000以上であることにより、当該ビニル樹脂とシェル層を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(B)との相溶が生じずに、十分な耐熱保管性が確実に得られる。また、ビニル樹脂の重量平均分子量(Mw)が60,000以下であることにより、十分な低温定着性が得られる。
【0025】
GPCによる分子量分布の測定は、以下のように行った。すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(ビニル樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×102 、2.1×103 、4×103 、1.75×104 、5.1×104 、1.1×105 、3.9×105 、8.6×105 、2×106 、4.48×106 のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0026】
〔ビニル樹脂のガラス転移点〕
ビニル樹脂のガラス転移点は35℃以上50℃以下であることが好ましい。
ビニル樹脂のガラス転移点が35℃以上であることによって、十分な耐熱保管性が確実に得られる。一方、ビニル樹脂のガラス転移点が50℃以下であることによって、十分な低温定着性が確実に得られる。
【0027】
ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。
測定手順としては、測定試料(ビニル樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃〜200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点とする。
【0028】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(A)〕
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)は、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなる樹脂である。
【0029】
ビニル重合セグメントは、ビニル単量体により形成され、このビニル単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなどのスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル単量体が挙げられ、これらの他、上記のビニル樹脂を形成するためのビニル単量体として例示したものを用いることができる。また、上記のビニル単量体は、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0030】
ビニル重合セグメントは、スチレン重合体、アクリル重合体、スチレン−アクリル共重合体などからなるものとすることができ、スチレン−アクリル共重合体からなることが好ましい。
【0031】
〔ポリエステル重合セグメント〕
ポリエステル重合セグメントは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する多価カルボン酸および1分子中に水酸基を2個以上含有する多価アルコールにより形成される非晶性のものであって、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において明確な吸熱ピークを有さないものをいう。
【0032】
多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イソドデセニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの3価以上のカルボン酸などを挙げることができる。
多価カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどの脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。
多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vaは、40質量%以上65質量%以下であり、好ましくは45質量%以上60質量%以下である。
ビニル重合セグメントの含有割合は、具体的には、ビニル変性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、ポリエステル重合セグメントとなる多価カルボン酸および多価アルコールと、ビニル重合セグメントとなるビニル単量体と、これらを結合させるための両反応性モノマーとを合計した全質量に対する、ビニル単量体の質量の割合である。
ビニル重合セグメントの含有割合Vaが65質量%以下であることによって、ポリエステル重合セグメントが所期の量で含有されることになり、低温定着性が得られる。一方、ビニル重合セグメントの含有割合Vaが40質量%以上であることによって、コア粒子を構成するメイン樹脂であるビニル樹脂との高い相溶性が得られ、低温定着性を確実に発揮することができる。
ビニル変性ポリエステル樹脂におけるビニル重合セグメントの含有割合は、当該ビニル変性ポリエステル樹脂を合成する際に反応させる単量体の量を調整することによって制御することができる。
【0035】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移点〕
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移点は、35℃以上50℃以下であることが好ましい。
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移点が35℃以上であることによって、得られるトナーが熱的強度の高いものとなって十分な耐熱保管性が得られる。一方、ガラス転移点が50℃以下であることによって、十分な低温定着性が得られる。
ビニル変性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、当該ビニル変性ポリエステル樹脂を合成する際に反応させる単量体の種類および使用量、並びに分子量を調整することによって制御することができる。
【0036】
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移点は、測定試料としてビニル変性ポリエステル樹脂(A)を用いたことの他は上記と同様にして測定される値である。
【0037】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(A)の分子量〕
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のGPCによって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)は7,000〜20,000であることが好ましい。
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)が7,000以上であることによって、シェル層を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(B)との非相溶性を確保することができ、その結果、耐熱保管性についての効果が確実に得られる。一方、重量平均分子量(Mw)が20,000以下であることによって、低温定着性についての効果が確実に得られる。
【0038】
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のGPCによる分子量分布測定は、測定試料としてビニル変性ポリエステル樹脂(A)を用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0039】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(A)の含有割合〕
トナー粒子を構成する全樹脂、すなわち結着樹脂に対するビニル変性ポリエステル樹脂(A)の含有割合は5質量%以上30質量%以下であり、好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
ビニル変性ポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上であることによって、十分な低温定着性が得られ、また、ビニル変性ポリエステル樹脂(B)との親和性が得られてシェル層を高い均一性で形成させることができる。一方、30質量%以下であることによって、耐熱保管性が損なわれることがない。
【0040】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂の製造方法〕
ビニル変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル重合セグメントとビニル重合セグメントとを両反応性モノマーを介して結合することにより製造することができる。詳細には、ビニル重合セグメントを形成するためのビニル単量体を付加重合させる工程の前、中および後の少なくともいずれかの時点で、ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸・多価アルコールを存在させて縮重合反応を行うことによって、製造することができる。
具体的には、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、以下の3つが挙げられる。
(1)ビニル重合セグメントを形成するためのビニル単量体の付加重合反応を行った後、ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸および多価アルコールの縮重合反応を行い、必要に応じて架橋剤となる3価以上のビニル単量体を反応系に添加し、縮重合反応をさらに進行させる方法。
(2)ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸および多価アルコールの縮重合反応を行った後、ビニル重合セグメントを形成するためのビニル単量体の付加重合反応を行い、その後、必要に応じて架橋剤となる3価以上のビニル単量体を反応系に添加し、縮重合反応に適した温度条件下で、縮重合反応をさらに進行させる方法。
(3)付加重合反応に適した温度条件下で、ビニル重合セグメントを形成するためのビニル単量体の付加重合反応、および、ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸および多価アルコールの縮重合反応を平行して行い、付加重合反応が終了した後、必要に応じて架橋剤となる3価以上のビニル単量体を反応系に添加し、縮重合反応に適した温度条件下で縮重合反応をさらに進行させる方法。
【0041】
両反応性モノマーは、多価カルボン酸・多価アルコールおよび/またはビニル単量体と共に添加する。
【0042】
両反応性モノマーは、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基および第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基および/またはカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物、すなわち、ビニル系カルボン酸であることが好ましい。両反応性モノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキル(炭素数1〜3)エステルであってもよいが、反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびフマル酸を用いることが好ましい。
また、両反応性モノマーとして、多価のビニル系カルボン酸よりも、一価のビニル系カルボン酸を用いることが、トナーの耐久性の観点から好ましい。これは、一価のビニル系カルボン酸とビニル単量体との反応性が高いため、ハイブリッド化し易いためと考えられる。一方、フマル酸などのジカルボン酸を両反応性モノマーとして用いた場合、トナーの耐久性がやや劣るものとなる。これは、ジカルボン酸とビニル単量体との反応性が低く、均一にハイブリッド化しにくいため、ドメイン構造をとるためと考えられる。
【0043】
両反応性モノマーの使用量は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性および耐久性を向上させる観点から、ビニル単量体の総量100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましく、多価カルボン酸および多価アルコールの総量100質量部に対して、0.3〜8質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
【0044】
付加重合反応は、例えば、ラジカル重合開始剤、架橋剤などの存在下、有機溶媒中または無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件は110〜200℃が好ましく、140〜180℃がより好ましい。ラジカル重合開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボン酸などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
縮重合反応は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、180〜250℃の温度条件で行うことができるが、エステル化触媒、重合禁止剤などの存在下で行うことが好ましい。エステル化触媒としては、ジブチル錫オキシド、チタン化合物、オクチル酸スズなどのSn−C結合を有していない錫(II)化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でまたは両者を組み合わせて用いることができる。
【0046】
〔シェル層〕
本発明に係るトナー粒子を構成するシェル層は、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが結合してなるビニル変性ポリエステル樹脂(B)を含有する。
このシェル層は、コア粒子を完全に被覆した構造を有することが好ましい。このような構造を有することによって、確実に耐熱保管性を得ることができる。
シェル層を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(B)は、トナーの保管時の温度範囲において、コア粒子を構成するビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)のいずれとの相溶性も低いものである。
【0047】
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)は、上述のコア粒子を構成するビニル変性ポリエステル樹脂(A)と同様にして形成されるものであって、これを形成するための単量体の種類および/または使用量が異なるものである。
【0048】
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbは、ビニル重合セグメントの比Va/Vbが1.0以上となる範囲であればよいが、特に、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上35質量%以下である。
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbが5質量%以上であることによって、シェル層を均一性が高くコア粒子への接着性の高いものとすることができて、高い耐破砕性を確実に得ることができる。一方、ビニル変性ポリエステル樹脂(B)におけるビニル重合セグメントの含有割合Vbが50質量%以下であることによって、トナーの保管時におけるコア粒子のビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)への相溶が防止されて高い耐熱保管性が得られる。
【0049】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点〕
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点は、55℃以上65℃以下であることが好ましい。
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点が上記の範囲にあることによって、トナーの保管時には十分な耐熱保管性を確保することができながら、熱定着時に十分な低温定着性が得られる。
【0050】
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点は、測定試料としてビニル変性ポリエステル樹脂(B)を用いたことの他は上記と同様にして測定される値である。
【0051】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(B)の分子量〕
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のGPCによって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)は10,000〜100,000であることが好ましい。
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であることによって、コア粒子を構成する樹脂との過度の相溶が抑制されて、コア粒子を完全に被覆したシェル層を形成することができ、その結果、耐熱保管性についての効果が確実に得られる。一方、重量平均分子量(Mw)が100,000以下であることによって、コア粒子との親和性が高くシェル層とコア粒子との接着性が高くなり、画像光沢ムラの発生を抑制する効果が確実に得られる。
【0052】
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)のGPCによる分子量分布測定は、測定試料としてビニル変性ポリエステル樹脂(B)を用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0053】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂(B)の含有割合〕
トナー粒子を構成する全樹脂、すなわち結着樹脂に対するビニル変性ポリエステル樹脂(B)の含有割合は5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
ビニル変性ポリエステル樹脂(B)の含有割合が上記の範囲にあることによって、シェル層がコア粒子の表面全域を覆うことができながら薄く均一性の高いものとなって、低温定着性と、耐熱保管性および耐破砕性とを確実に両立して得ることができる。
【0054】
〔トナー粒子におけるコア粒子とシェル層の比率〕
本発明に係るトナー粒子におけるコア粒子およびシェル層の質量比率(コア粒子:シェル層)は、85:15〜95:5の範囲にあることが好ましい。
トナー粒子におけるコア粒子の質量比率が95質量%以下であることにより、コア粒子がシェル層によって完全に被覆された構造のトナー粒子を得ることができ、その結果、耐熱保管性が確実に得られる。一方、トナー粒子におけるコア粒子の質量比率が85質量%以上であることにより、十分な低温定着性を確実に得られる。
【0055】
各樹脂に係る分子量分布、ガラス転移点および軟化点は、それぞれ、トナー粒子から抽出したビニル樹脂、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)およびビニル変性ポリエステル樹脂(B)を測定試料として使用して測定することができる。
【0056】
トナー粒子には、結着樹脂として、上記のビニル樹脂およびビニル変性ポリエステル樹脂(A)、またはビニル変性ポリエステル樹脂(B)と共に、これ以外の樹脂が含まれていてもよい。
【0057】
〔トナー粒子の構成〕
本発明に係るトナー粒子中には、コア粒子やシェル層を構成する樹脂(結着樹脂)の他に、必要に応じて着色剤や、離型剤、荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよい。
着色剤や離型剤、荷電制御剤は、それぞれ、コア粒子に含有されていてもよく、シェル層に含有されていてもよく、両方に含有されていてもよいが、離型剤はコア粒子に含有されていることが好ましい。
【0058】
〔着色剤〕
着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部である。
【0059】
〔離型剤〕
離型剤としては、特に限定されるものではなく公知の種々のワックスを用いることができ、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
離型剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して通常1〜30質量部とされ、より好ましくは5〜20質量部の範囲とされる。離型剤の含有割合が上記範囲内であることにより、十分な定着分離性が得られる。
【0060】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜5.0質量部とされる。
【0061】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜9μmであることが好ましく、更に好ましくは3〜8μmとされる。この粒径は、例えば後述する乳化重合凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成によって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
【0062】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0063】
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明のトナーは、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
【0064】
本発明において、トナー粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、試料(トナー粒子)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)により、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(T)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出される。
式(T):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0065】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーは、混練・粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、乳化重合凝集法、その他の公知の種々の方法によって製造することができるが、コア粒子の表面に均一にシェル層を形成させることができることから、乳化凝集法を用いることが好ましい。
具体的には、水系媒体に分散されたビニル樹脂の微粒子、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)の微粒子を凝集、融着させてコア粒子となる凝集粒子を形成し、当該コア粒子となる凝集粒子の表面にシェル層を形成すべきビニル変性ポリエステル樹脂(B)の微粒子を凝集、融着させることによりトナー粒子を得る乳化凝集法によって製造することが好ましい。
コア粒子となる凝集粒子は、水系媒体に分散された状態において、ビニル変性ポリエステル樹脂(A)のポリエステル重合セグメントがその極性の高さによって当該凝集粒子の表面側に配向する傾向がある。従って、乳化凝集法によってトナーを製造することによって、ポリエステル重合セグメントの含有割合が比較的高いビニル変性ポリエステル樹脂(B)によるシェル層を、極めて薄く均一性の高いものとすることができる。
【0066】
トナー粒子に着色剤や離型剤、荷電制御剤などを含有させる場合は、これらをコア粒子に含有させる場合においてはコア粒子となる凝集粒子を形成する際に着色剤微粒子を共に凝集させればよく、これらをシェル層に含有させる場合においてはビニル変性ポリエステル樹脂(B)の微粒子と同じタイミングで添加して凝集させればよい。
また、乳化重合凝集法を用いてトナーを製造する場合においては、ビニル樹脂の微粒子を形成する際に、予め、ビニル樹脂を形成するための単量体溶液に着色剤や離型剤、荷電制御剤などを溶解または分散させておくことによってこれらをトナー粒子中に導入することもできる。
【0067】
〔外添剤〕
上記のトナー粒子は、そのままで本発明のトナーを構成することができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加して本発明のトナーを構成してもよい。
【0068】
後処理剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などよりなる無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性の向上、環境安定性の向上のために、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0069】
これらの種々の外添剤の添加量は、その合計が、トナー100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部とされる。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0070】
本発明のトナーによれば、ビニル樹脂とビニル変性ポリエステル樹脂(A)とが相溶してなるコア粒子、および、当該コア粒子を被覆する、ビニル重合セグメントの含有割合の低いビニル変性ポリエステル樹脂(B)によるシェル層からなるコア−シェル構造を有するので、高機能化された画像形成方法に用いた場合においても、低温定着性が得られると共に、長期間にわたって耐熱保管性および耐破砕性が得られ、さらに画像光沢ムラの発生を抑制することができる。
【0071】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
キャリアとしては、体積平均粒径が15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0072】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を加熱定着させる定着手段を有するものを用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
また、本発明のトナーは、高速で出力する場合や、転写材として厚紙などへ出力する場合、あるいは高画質の画像を出力する場合などの、高機能化された画像形成方法に好適に用いることができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製例1〕
(1)ビニル変性ポリエステル樹脂の合成
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物(BPA−PO) 389g
・テレフタル酸(TPA) 86g
・フマル酸(FA) 51g
・エステル化触媒(オクチル酸スズ) 2g
を入れ、230℃で8時間縮重合反応させ、さらに、8kPaで1時間反応させ、160℃まで冷却した後、
・アクリル酸(AA) 25g
・スチレン(St) 310g
・ブチルアクリレート(BA) 139g
・重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 100g
の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下し、滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を継続させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持し、その後、未反応のアクリル酸、スチレン、ブチルアクリレートを除去することにより、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが化学的に結合されてなるビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。ビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕のガラス転移点は43℃であった。
(2)ビニル変性ポリエステル樹脂微粒子の作製
得られたビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(徳寿工作所社製)で粉砕し、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)を用いてV−LEVEL、300μAで30分間超音波分散することにより、体積基準のメジアン径が180nmであるビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕の微粒子が分散されたビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。
【0076】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製例2〜10〕
ビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製例1において、下記表1の単量体処方に従ったことの他は同様にして、ビニル重合セグメントとポリエステル重合セグメントとが化学的に結合されてなるビニル変性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔10〕を得、これを用いて同様にして水系媒体中にビニル変性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔10〕の微粒子が分散されたビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕〜〔10〕を調製した。
【0077】
【表1】
【0078】
〔ビニル樹脂微粒子分散液の調製例1〕
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム4gとイオン交換水3000gとを仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
昇温後、過硫酸カリウム(KPS)10gをイオン交換水200gに溶解させたものを添加し、液温を75℃とした後、
・スチレン 568g
・n−ブチルアクリレート 164g
・メタクリル酸 68g
からなる単量体混合液〔a〕を1時間かけて滴下し、滴下終了後、75℃において2時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第1段重合)を行い、これにより樹脂微粒子〔a〕の分散液を作製した。
【0079】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム2gをイオン交換水3000gに溶解させた溶液を仕込み、80℃に加熱後、上記の樹脂微粒子〔a〕を固形分換算で42gと、
・スチレン 195g
・n−ブチルアクリレート 91g
・メタクリル酸 20g
・n−オクチルメルカプタン 3g
からなる単量体混合液に
・ワックス:ベヘン酸ベヘニル 70g
を80℃において溶解させた単量体混合液〔b〕とを添加し、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により、1時間混合、分散させて、乳化粒子(油滴)を含有する分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100gに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃において1時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第2段重合)を行い、これにより樹脂微粒子〔b〕の分散液を得た。
【0080】
(3)第3段重合
上記の樹脂微粒子〔b〕の分散液に、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた開始剤溶液を添加し、80℃の温度条件下において、
・スチレン 315g
・n−ブチルアクリレート 145g
・メタクリル酸 32g
・n−オクチルメルカプタン 6g
からなる単量体混合液〔c〕を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第3段重合)を行い、その後、28℃まで冷却することにより、水系媒体中にビニル樹脂微粒子〔C〕が分散されたビニル樹脂微粒子分散液〔C〕を調製した。
【0081】
〔着色剤微粒子分散液の作製例Bk〕
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子〔Bk〕が分散されてなる着色剤微粒子分散液〔Bk〕を調製した。着色剤微粒子分散液〔Bk〕における着色剤微粒子〔Bk〕の体積基準のメジアン径をマイクロトラック粒度分布測定装置「UPA−150」(日機装社製)を用いて測定したところ、117nmであった。
【0082】
〔実施例1:トナーの製造例1〕
(凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、コア粒子を形成するためのビニル樹脂微粒子分散液〔C〕280g(固形分換算)、同じくコア粒子を形成するためのビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕80g(固形分換算)およびイオン交換水2000gを投入後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
次いで、着色剤微粒子分散液〔Bk〕40g(固形分換算)を投入し、さらに、塩化マグネシウム60gをイオン交換水60gに溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになった時点で、シェル層を形成するためのビニル変性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔6〕40g(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190gをイオン交換水760gに溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)測定した平均円形度が0.945になった時点で30℃に冷却して、トナー粒子〔1〕の分散液を得た。
(洗浄・乾燥工程)
このトナー粒子〔1〕の分散液を、遠心分離機で固液分離してトナー粒子のウェットケーキを得、これを遠心分離機を用いて濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥した。
(外添剤添加工程)
乾燥させたトナー粒子〔1〕に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%および疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔1〕を得た。
【0083】
〔実施例2〜7、比較例1〜3:トナーの製造例2〜10〕
トナーの製造例1において、表2の処方に従ったことの他は同様にして、トナー〔2〕〜〔10〕を作製した。
【0084】
【表2】
【0085】
〔現像剤の製造例1〜10〕
(1)キャリアの作製
フェライトコア100質量部とシクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート(共重合比5/5)の共重合体樹脂粒子5質量部とを、撹拌羽根付き高速混合機に投入し、120℃で30分間撹拌混合して機械的衝撃力の作用でフェライトコアの表面に樹脂コート層を形成させることにより、体積基準のメジアン径が50μmであるキャリアを得た。
キャリアの体積基準のメジアン径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック社製)により測定した。
【0086】
(2)トナーとキャリアの混合
トナー〔1〕〜〔10〕の各々に対して、上記のキャリアをトナー濃度が6質量%となるように添加し、ミクロ型V型混合機(筒井理化学器株式会社製)によって回転速度45rpmで30分間混合することにより、現像剤〔1〕〜〔10〕を製造した。
【0087】
以上の現像剤〔1〕〜〔10〕を用いて、厚紙に対する低温定着性、画像光沢ムラ、画像ノイズおよび耐熱保管性について評価した。
【0088】
(1)厚紙に対する低温定着性
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)において、定着温度を、定着上ベルトの定着温度を150〜200℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、上記の現像剤を装填して、厚紙「mondi Color Copy 350g/m2 」(mondi社製)上にトナー付着量は8g/m2 のベタ画像を出力する定着実験を、設定される定着温度を150℃から5℃刻みで増加させるように変更しながら200℃まで繰り返し行った。定着速度は620mm/secとし、定着下ローラの温度は定着上ベルトの定着温度よりも20℃低く設定した。
そして、コールドオフセットが発生しない定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を、定着下限温度として評価した。結果を表3に示す。なお、この定着下限温度が低ければ低いほど、低温定着性に優れると言える。本発明においては、定着下限温度が165℃未満であるものを合格と判断する。
【0089】
(2)画像光沢ムラ
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)を用い、上記の現像剤を装填して、「POD128gグロスコート(128g/m2 )」(王子製紙社製)上にトナー付着量は4g/m2 のベタ画像を出力した。定着速度は620mm/secとし、定着上ベルトの定着温度を200℃とし、定着下ローラの温度は定着上ベルトの定着温度よりも20℃低く設定した。
得られたベタ画像について目視およびルーペによって観察を行い、下記の評価基準に従って評価した。結果を表3に示す。
−評価基準−
◎:目視でもルーペでも画像光沢ムラがまったく検知されない(合格)
○:目視では画像光沢ムラがまったく検知されず、ルーペで拡大すると画像光沢ムラが検知される(合格)
×:目視でドメイン状の画像光沢ムラが検知される(不合格)
【0090】
(3)画像ノイズ(カブリ濃度)
「CFペーパー(80g/m2 )」(コニカミノルタ社製)について、まず印字されていない白紙についてマクベス反射濃度計「RD−918」(マクベス社製)を用いて20ヶ所の絶対画像濃度を測定して平均し、白紙濃度とした。次に、印字率5%の帯状ベタ画像を形成する印刷を10万枚行った。10万枚目のベタ画像の白地部分について、同様に20ヶ所の絶対画像濃度を測定して平均し、この平均濃度から白紙濃度を引いた値をカブリ濃度として評価した。結果を表3に示す。カブリ濃度が0.010未満であるものを実用的に問題ないものと判断した。
【0091】
(4)耐熱保管性
トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めて、タップデンサー「KYT−2000」(セイシン企業社製)を用いて室温で600回振とうした後、蓋を取った状態で温度50℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物が解砕しないよう注意しながらのせて、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調節し、10秒間振動を加えた後、篩上に残存した残存トナー量を測定し、下記式(1)により残存トナー量の比率であるトナー凝集率を算出した。なお、20質量%以下であれば実用上問題なく、合格と判断される。結果を表3に示す。
式(1):トナー凝集率(%)={残存トナー量(g)/0.5(g)}×100
【0092】
【表3】