(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048328
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】シールド導電体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/012 20060101AFI20161212BHJP
H01B 13/22 20060101ALI20161212BHJP
H01B 13/26 20060101ALI20161212BHJP
H02G 3/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
H01B13/00 513Z
H01B13/22 Z
H01B13/26 Z
H02G3/04 062
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-140913(P2013-140913)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-15824(P2015-15824A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 洋和
(72)【発明者】
【氏名】大平 雄貴
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−164699(JP,A)
【文献】
特開2012−178261(JP,A)
【文献】
特開2012−178943(JP,A)
【文献】
特開2006−164701(JP,A)
【文献】
特開2006−164702(JP,A)
【文献】
特開2006−164703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/012
H01B 13/22
H01B 13/26
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電線が挿通されるシールドパイプの端部と、このシールドパイプから導出された電線を挿通し金属素線を筒状に編組して形成された金属編組部の端部とを超音波溶着にて周方向に沿って溶着させる方法であって、
前記金属編組部の前記金属素線は銅あるいは銅合金製であり、表面にはメッキがされており、
前記シールドパイプと前記金属編組部とを超音波溶着するに先立ち、前記金属編組部側の溶着予定部位に前記メッキが施されず下地が露出された非メッキ部を形成しておき、この非メッキ部と前記シールドパイプとを超音波溶着させて接続することを特徴とするシールド導電体の製造方法。
【請求項2】
前記非メッキ部に対し、前記溶着後に防錆処理がなされることを特徴とする請求項1に記載のシールド導電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
シールド導電体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド自動車や電気自動車では、バッテリとインバータとの間やインバータとモータとの間等に配索されるワイヤハーネスを金属製のシールドパイプに挿通して配線する場合が多い。シールドパイプは自動車ボディの床下において前後方向に沿って配されている。このシールドパイプは電線に対するシールド機能と飛び石等からの保護の機能を有している。シールドパイプはエンジンルーム内に導入された後は、インバータ側と可撓性を有する金属編組部を介して接続され、ワイヤハーネスの配索方向の自由度を高めるようにしている。金属編組部は金属素線をメッシュ状に編組したものであり、金属製パイプの端部に被せ付けられ、一般的にはかしめリングにてかしめ付けることによって接続されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−311699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、シールドパイプと金属編組部とでシールド導電体を構成するにあたり、通常では、両者をかしめリングをかしめ付けて接続固定している。しかしながら、このようなかしめによる接続方法では、金属編組部とシールドパイプの外周面との接触状況を全周に亘って均一化することは困難であり、電気的接触信頼性の点で改善の余地がある。また、かしめリングを使用するため、部品点数が増加してしまう、という点も指摘される。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、金属編組部とシールドパイプとの電気的接触信頼性を高めることができる
シールド導電体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシールド導電体の製造方法は、内部に電線が挿通されるシールドパイプの端部と、
このシールドパイプから導出された電線を挿通し金属素線を筒状に編組して形成された金属編組部の端部とを超音波溶着にて周方向に沿って溶着させる方法であって、前記金属編組部の前記金属素線は銅あるいは銅合金製であり、表面にはメッキがされており、前記シールドパイプと前記金属編組部とを超音波溶着するに先立ち、前記金属編組部側の溶着予定部位に前記メッキが施されず下地が露出された非メッキ部を形成しておき、この非メッキ部と前記シールドパイプとを超音波溶着させて接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属編組部とシールドパイプとが周方向に沿って形成される溶着部位を介して接続されるようにしたため、従来のようなかしめリングを用いたかしめによって接続する場合に比較して、電気的接触信頼性が高く、また部品点数の削減も達成できる。
また、一般には、メッキが施されると超音波振動が十分に伝達されないことから、メッキが施された部材を超音波溶着するのは困難である。しかし、上記のように、溶着作業に先立って金属編組部の溶着予定部位を、メッキが施されず銅あるいは銅合金の下地が露出するようにしておけば、超音波振動が伝わり易くなり、金属編組部をシールドパイプに超音波溶着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係るシールドパイプと金属編組部との接続部位の周辺を示す断面図
【
図2】(A)〜(C)は金属編組部とシールドパイプとの接続工程図であり、(A)はシールドパイプに金属編組部を被せ付け、金属編組部における溶着予定部位から錫メッキを除去した状態を示す図、(B)は金属編組部を反転させている途上の状態を示す図、(C)は金属編組部とシールドパイプの接続作業が完了した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記非メッキ部に対し、超音波溶着後に防錆処理を行うことが好ましい。
このような方法によれば、溶着に際して錫メッキが施されなかった部位の防錆を図ることができる。
【0012】
次に、本発明を具体化した実施例1及び2について、図面を参照しつつ説明する。
<実施例1>
本発明のシールド導電体を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。本実施例ではハイブリッド自動車において、リア側の車室内に搭載されたバッテリとエンジンルーム内に搭載されたインバータとの間を接続するワイヤハーネスWHをシールドして配索するようにしたものである。
【0013】
ワイヤハーネスWHは、
図1に示すように、複数本の電線よりなる。ワイヤハーネスWHの一部は導電金属製のシールドパイプ1中に挿通される。シールドパイプ1はアルミニウムあるいはアルミニウム合金製であり、車両ボディの床下に配されている。
【0014】
シールドパイプ1の一端部には金属編組部2の一端側が接続されている。金属編組部2は、例えば、表面に錫メッキ加工を施した銅系金属素線をメッシュ状にかつ長尺の筒状に編組して形成したものである。この金属編組部2内にはシールドパイプ1から引き出された電線が挿通されている。金属編組部2の端部はシールドパイプ1の端部に後述する溶着方法によって接続固定されている。
【0015】
金属編組部2は、シールドパイプ1と接続される側の一部範囲を除いてコルゲートチューブ3内に挿通されており、金属編組部2の端部は図示しないインバータとの接続部にまで至っている。かくして、ワイヤハーネスWHはシールドパイプ1および金属編組部2が設けられた長さ範囲に亘ってシールド性が確保される。
【0016】
コルゲートチューブ3は合成樹脂材にて一体かつ長尺の筒状に形成されている。コルゲートチューブ3の周面は山部3Aと谷部3Bとが繰り返される蛇腹形状に形成され、良好な可撓性を有している。このコルゲートチューブ3とシールドパイプ1との間には、コルゲートチューブ3から露出した金属編組部2を収容するグロメットGが架け渡されるようにして装着されている。
【0017】
グロメットGはゴム質材(例えばEPDM)により一体に形成されている。このグロメットGの一端側にはパイプ側端部4が形成され、他端側にはコルゲート側端部5が形成されている。パイプ側端部4及びコルゲート側端部5は共に円筒形状に形成され、パイプ側端部4はシールドパイプ1の端部を内側へ挿通可能であり、コルゲート側端部5はコルゲートチューブ3の外周側へ挿通可能である。パイプ側端部4及びコルゲート側端部5の外周面は共に公知の結束バンド6によって緊締され、これによってコルゲート側端部5はコルゲートチューブ3に対してシール状態で接続固定され、パイプ側端部4はシールドパイプ1に対しシール状態で接続固定されている。
【0018】
次に、金属編組部2とシールドパイプ1との接続方法の一例について説明する(
図2(A)〜(C)参照)。
【0019】
前述したように、金属編組部2の各金属素線には錫メッキが施されていたが、溶着に先立って、予め、金属編組部2におけるシールドパイプ1との溶着が予定される部位(金属編組部2の長さ方向の一端部:
図2(A)中の「W」で示された範囲)に非メッキ部7を形成し、銅下地を露出させておく。その手法としては、金属編組部2に対するメッキ処理工程の際に溶着予定部位のみを除いて錫メッキを付着させる手法、あるいは溶着予定部位も含めて全体を錫メッキを施すが、その後に溶着予定部位に対して酸処理を行って当該部位のみ錫メッキを除去する手法、等が考えられる。
【0020】
このようにして溶着予定部位に錫メッキが施されてない非メッキ部7を形成した後、金属編組部2をシールドパイプ1の長手方向に沿いつつ全長さ範囲を被せ付け、非メッキ部7をシールドパイプ1の端部に位置させておく(
図2(A)状態)。このとき、金属編組部2の端末部がシールドパイプ1の端面から長手方向外方へ突出しないようにしておくことが望ましい。その理由は、シールドパイプ1から突出した金属編組部2の素線端末がワイヤハーネスWHを構成する電線の被覆を損傷させないようにするためである。
【0021】
このようにして、金属編組部2をシールドパイプ1に被せ付けた状態で、超音波溶着装置8にセットし、非メッキ部7とシールドパイプ1の端部外周面との密着部位に超音波振動を作用させる。これにより、非メッキ部7がシールドパイプ1の端部外周面に溶着される。こうして溶着が完了すれば、溶着部位9を中心にして金属編組部2をシールドパイプ1から抜き取るようにして反転させる(同図(B)参照)。金属編組部2がシールドパイプ1から完全に抜き取られれば、最後に、非メッキ部7に対する防錆処理がなされる。防錆処理としては、例えば、溶着部位を含め非メッキ部7全体にシリコン剤を塗布したり、あるいはテープ巻きすることが考えられる。かくして、シールドパイプ1と金属編組部2との接続作業が完了する(同図(C)状態)。
【0022】
上記のようにして製造された本実施例のシールド導電体によれば、従来のようなかしめリングを用いなくても金属編組部2とシールドパイプ1とを全周に亘って溶着によって接続させることができた。これに対し、従来のようなかしめリングで緊締しても、かしめ状態で必ずしもかしめリングの真円度が保持されず、両者が全周に亘って均一に密着せず、電気的接続信頼性の点で改善の余地があった。しかし、本実施例のように、金属編組部2とシールドパイプ1とを超音波溶着させるようにすれば、両者を全周に亘って密着させることができるため、電気的接続信頼性を高めることができ、接続品質のばらつきも抑制することができる。加えて、かしめリングを必要としないため、部品手数も削減することができる。
【0023】
また、本実施例では前述したように、金属編組部2の端部において内側に折り込まれて金属編組部2の端末が外部に露出しないため、金属編組部2の素線端末のばらけに対応した端末処理を行う必要もない。もっとも、本実施例のような超音波溶着による場合には、金属素線の端末も含めて溶着させることができるため、金属素線のばらけの問題は、もとより生じない。
【0024】
<実施例2>
図3は実施例2を示している。実施例1では金属編組部2とシールドパイプ1とを直接溶着させたが、実施例2では溶着作業に先立って溶着用の金属リング10(本発明の接続用の溶着部材に相当する)を金属編組部2の端部に嵌め付けておき、これを超音波溶着等の手段により溶融させることで金属編組部2とシールドパイプ1とを溶着させるようにしたものである。
【0025】
金属リング10の材質としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等、シールドパイプ1と溶着可能なものから選択することができる。この金属リング10は超音波溶着の工程で溶融し、金属編組部の網目の隙間を通して金属編組部とシールドパイプとの間に流れ込む。こうして溶融金属が固化すれば、金属編組部とシールドパイプとが接続固定される。
【0026】
なお、超音波溶着に際して実施例1で行っていた金属編組部における錫メッキの除去は必ずしも行う必要はないが、行うことを妨げるものではない。
以上、実施例2の溶着方法によっても、実施例1と同様の作用効果を発揮することができる。
【0028】
(2)超音波溶着に先立ち、シールドパイプ1の溶着予定箇所については、表面の酸化被膜を除去するようにしておくと、より溶着性が高まる。
(3)上記実施例では、金属編組部に錫メッキを施した場合について説明したが、ニッケルメッキでもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…シールドパイプ
2…金属編組部
7…非メッキ部
8…超音波溶着装置
9…溶着部位
WH…ワイヤハーネス