(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記通路形成部材(35)の軸方向断面において、前記通路形成部材(35)のうち前記ノズル通路(13a)の出口部を形成する部位(C3)における接線(Ld3)と前記ボデー(30)のうち前記吸引用通路(13b)の出口部の外周側を形成する部位における接線(Ls)が前記ボデー(30)のうち前記吸引用通路(13b)の内周側を形成する部位を挟む側に形成する角度をθ1としたときに、
θ1≦θ2/2
となっていることを特徴とする請求項1に記載のエジェクタ。
前記通路形成部材(35)を変位させて、前記ノズル通路(13a)の冷媒通路面積を変化させる駆動手段(37)を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のエジェクタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1のエジェクタでは、例えば、エジェクタ式冷凍サイクルの熱負荷が低くなり、サイクルの高圧側冷媒の圧力と低圧側冷媒の圧力との圧力差(高低圧差)が縮小してしまうと、第1ノズルにて高低圧差分の減圧がなされてしまい、第2ノズルでは殆ど冷媒が減圧されなくなってしまうことがある。
【0010】
このような場合、第2ノズルへ気液二相冷媒を流入させることによるノズル効率向上効果を得られなくなってしまい、ディフューザ部にて冷媒を充分に昇圧させることができなくなってしまうことがある。
【0011】
これに対して、特許文献1のエジェクタに特許文献2に開示されている比較的小さい広がり角度のディフューザ部を適用し、エジェクタ効率を向上させることによって、エジェクタ式冷凍サイクルの低負荷時にもディフューザ部にて冷媒を充分に昇圧させる手段が考えられる。
【0012】
しかしながら、このようなディフューザ部を適用すると、エジェクタ全体としてノズル部の軸線方向の長さが長くなってしまうので、エジェクタ式冷凍サイクルの通常負荷時においてはエジェクタの体格が不必要に大きくなってしまうことが問題となる。
【0013】
そこで、本発明者らは、先に、特願2012−184950号(以下、先願例という。)にて、
エジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタであって、
放熱器から流出した冷媒を旋回させる旋回空間、この旋回空間から流出した冷媒を減圧させる減圧用空間、減圧用空間の冷媒流れ下流側に連通して蒸発器から流出した冷媒を吸引する吸引用通路、および減圧用空間から噴射された噴射冷媒と吸引用通路から吸引された吸引冷媒とを混合して昇圧させる昇圧用空間が形成されたボデーと、
少なくとも一部が減圧用空間の内部および昇圧用空間の内部に配置されて、減圧用空間から離れるに伴って断面積が拡大する円錐状に形成された通路形成部材とを備え、
ボデーのうち減圧用空間を形成する部位の内周面と通路形成部材の外周面との間に形成される冷媒通路が、旋回空間から流出した冷媒を減圧させて噴射するノズルとして機能するノズル通路を形成し、
ボデーのうち昇圧用空間を形成する部位の内周面と通路形成部材の外周面との間に形成される冷媒通路が、噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒を昇圧させるディフューザとして機能するディフューザ通路を形成し、
さらに、通路形成部材を変位させることによって、ノズル通路の冷媒通路面積を変化させる駆動手段を備えるエジェクタを提案している。
【0014】
この先願例のエジェクタでは、旋回空間にて冷媒を旋回させることで、旋回空間内の旋回中心側の冷媒圧力を、飽和液相冷媒となる圧力あるいは冷媒が減圧沸騰する(キャビテーションを生じる)圧力まで低下させることができる。これにより、旋回中心軸の外周側よりも内周側に気相冷媒が多く存在するようにして、旋回空間内の旋回中心線近傍はガス単相、その周りは液単相の二相分離状態とすることができる。
【0015】
そして、二相分離状態の冷媒は、ノズル通路へ流入して壁面沸騰および界面沸騰によって沸騰が促進されるので、ノズル通路の最小流路面積部近傍では、気相と液相が均質に混合した気液混合状態となる。さらに、ノズル通路の最小流路面積部近傍にて気液混合状態となった冷媒に閉塞(チョーキング)が生じ、気液混合状態の冷媒の流速が二相音速となるまで加速する。
【0016】
このように二相音速まで加速した冷媒は、ノズル通路の最小流路面積部から下流側にて、均質に混合された理想的な二相噴霧流れとなって、その流速をさらに増大させることができる。その結果、ノズル通路にて冷媒の圧力エネルギを運動エネルギへ変換する際のエネルギ変換効率(従来技術のノズル効率に相当)を向上させることができる。
【0017】
さらに、先願例のエジェクタでは、通路形成部材として円錐状に形成されたものを採用し、ディフューザ通路の形状を減圧用空間から離れるに伴って通路形成部材の外周に沿って広がる形状としている。これにより、ディフューザ通路の軸方向寸法が拡大してしまうことを抑制して、エジェクタ全体としての体格の大型化を抑制することができる。
【0018】
さらに、先願例のエジェクタでは、駆動手段を備えているので、エジェクタ式冷凍サイクルの負荷変動に応じて、ノズル通路の冷媒通路面積を適切に調整することができる。従って、先願例のエジェクタによれば、体格の大型化を招くことなく、エジェクタ式冷凍サイクルの負荷変動が生じても、ノズル通路におけるエネルギ変換効率(従来技術のノズル効率に相当)の低下を抑制することができる。
【0019】
ところが、本発明者らがエジェクタの更なるエネルギ変換効率の向上のために、先願例のエジェクタについて検討を進めたところ、先願例のエジェクタでは、ノズル通路におけるエネルギ変換効率の低下については抑制できるものの、エジェクタ全体としてのエネルギ変換効率(エジェクタ効率)が所望の値よりも低くなってしまうことがあった。
【0020】
そこで、本発明者らがその原因について調査したところ、先願例のエジェクタでは、円錐状に形成された通路形成部材の外周側に冷媒通路が形成されるため、通路形成部材の軸方向断面において、ノズル通路から噴射された噴射冷媒の主流の流れ方向と噴射冷媒に合流する吸引冷媒の主流の流れ方向が比較的大きな角度(具体的には、60°以上)で交わっていることが原因であると判った。
【0021】
その理由は、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向が比較的大きな角度で交わっていると、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失(混合損失)が大きくなってしまい、ディフューザ通路にて圧力エネルギへ変換される混合冷媒の運動エネルギが減少してしまうからである。
【0022】
このような混合損失を低減させる手段としては、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向との交わり角度を小さくする手段が有効である。具体的には、通路形成部材の軸方向断面において、噴射冷媒は通路形成部材の外周側面に沿って流れるので、噴射冷媒に合流する吸引冷媒についても、通路形成部材の外周側面に沿って流れるように案内する案内部材(ガイド部材)等を追加する手段が考えられる。
【0023】
しかしながら、このような案内部材は、通路形成部材の外周側面に沿って外周側に広がる形状に形成されるとともに、ノズル通路の出口側と吸引用通路の出口側との間に配置されるので、エジェクタ全体として通路形成部材の径方向の体格の大型化を招く原因となる。さらに、先願例のエジェクタのように、複数の構成部材を組み合わせてボデーを構成する場合には、案内部材を追加することでボデーの組み付け性を悪化させてしまう。
【0024】
また、エジェクタの径方向の体格の大型化を招くことなく、上述の混合損失を低減させる手段としては、通路形成部材の軸方向断面における通路形成部材の拡がり角度を縮小させて、噴射冷媒の主流の流れ方向および吸引冷媒の主流の流れ方向の双方を通路形成部材の軸方向に近づける手段が考えられる。
【0025】
しかしながら、先願例のエジェクタでは、ノズル通路へ旋回空間の旋回中心側の二相分離状態の冷媒を流入させることによって、ノズル通路におけるエネルギ変換効率を向上させているので、通路形成部材の頂部(先端部)の外周側にノズル通路を形成しなければならない。
【0026】
このため、通路形成部材の拡がり角度を縮小させてしまうと、駆動手段が通路形成部材を変位させた際の通路形成部材の変位量(ストローク量)に対するノズル通路の冷媒通路面積の変化度合が小さくなってしまい、ノズル通路の冷媒通路面積を適切に調整するために必要な通路形成部材の最大変位量が増加してしまう。その結果、エジェクタ全体として通路形成部材の軸方向の体格の大型化を招いてしまう。
【0027】
本発明は、上記点に鑑み、通路形成部材の外周側に冷媒通路が形成されるエジェクタにおいて、体格の大型化を招くことなくエジェクタ効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたもので、請求項1に記載の発明では、蒸気圧縮式の冷凍サイクル装置(10)に適用されるエジェクタであって、
冷媒流入口(31a)から流入した冷媒を旋回させる旋回空間(30a)、旋回空間(30a)から流出した冷媒を減圧させる減圧用空間(30b)、減圧用空間(30b)の冷媒流れ下流側に連通して外部から冷媒を吸引する吸引用通路(13b)、減圧用空間(30b)から噴射された噴射冷媒と吸引用通路(13b)から吸引された吸引冷媒とを流入させる昇圧用空間(30e)が形成されたボデー(30)と、少なくとも一部が減圧用空間(30b)の内部および昇圧用空間(30e)の内部に配置されており、減圧用空間(30b)から離れるに伴って断面積が拡大する円錐状に形成された通路形成部材(35)とを備え、
ボデー(30)のうち減圧用空間(30b)を形成する部位の内周面と通路形成部材(35)の外周面との間に形成される冷媒通路は、旋回空間(30a)から流出した冷媒を減圧させて噴射するノズルとして機能するノズル通路(13a)であり、ボデー(30)のうち昇圧用空間(30e)を形成する部位の内周面と通路形成部材(35)の外周面との間に形成される冷媒通路は、噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギへ変換するディフューザとして機能するディフューザ通路(13c)であり、
通路形成部材(35)の軸方向断面において、通路形成部材(35)のうちノズル通路(13a)を形成する部位が描く曲線は、冷媒流れ下流側に向かって、通路形成部材(35)の中心軸からの距離(L)の増加度合が徐々に小さくなっており、通路形成部材(35)の軸方向断面において、通路形成部材(35)を軸方向に変位させた際にボデー(30)に当接する部位を当接部位(C2)とし、当接部位(C2)における接線(Ld2)と中心軸が通路形成部材(35)を挟む側に形成する角度をθ2とし、さらに、通路形成部材(35)のうちノズル通路(13a)の出口部を形成する部位(C3)における接線(Ld3)と中心軸が前記通路形成部材(35)を挟む側に形成する角度をθ3としたときに、
θ2≧θ3
となっていることを特徴とする。
【0029】
これによれば、通路形成部材(35)の軸方向断面において、接線(Ld2)と中心軸が形成する角度(θ2)が、接線(Ld3)と中心軸が形成する角度(θ3)よりも大きくなっているので、通路形成部材(35)のうちノズル通路(13a)の出口側を形成する部位の拡がり角度を、通路形成部材(35)のうちノズル通路(13a)の入口側を形成する部位の拡がり角度よりも小さくすることができる。
【0030】
つまり、通路形成部材(35)のうちノズル通路(13a)の入口側を形成する部位の拡がり角度によらず、ノズル通路(13a)の出口側を形成する部位の拡がり角度を比較的小さな値に設定することができ、ノズル通路(13a)から噴射される噴射冷媒の主流の流れ方向を、通路形成部材(35)の軸方向に近づけることができる。
【0031】
さらに、吸引用通路(13b)から流出して噴射冷媒と合流する吸引冷媒の主流の流れ方向を軸方向に近づけることによって、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向との交わり角度を小さくすることができる。従って、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失(混合損失)を抑制でき、エジェクタ効率の低下を抑制できる。
【0032】
この際、吸引用通路(13b)から流出して噴射冷媒と合流する吸引冷媒の主流の流れ方向を軸方向に近づけるための案内部材等を設けたとしても、案内部材を径方向に広がる形状に形成する必要がない。従って、エジェクタ全体として通路形成部材(35)の径方向の体格の大型化を抑制できる。
【0033】
さらに、通路形成部材(35)の軸方向断面において、通路形成部材(35)のノズル通路(13a)の出口側を形成する部位の拡がり角度を比較的小さな値に設定しても、ノズル通路(13a)の入口側を形成する部位の拡がり角度については、適切な値に設定することができる。
【0034】
従って、通路形成部材(35)を変位させてノズル通路(13a)の冷媒通路面積を変化させる構成とした際に、通路形成部材(35)の変位量(ストローク量)に対するノズル通路(13a)の入口側の冷媒通路面積の変化度合が小さくなってしまうことを抑制できる。
【0035】
これにより、ノズル通路(13a)の入口側の冷媒通路面積を適切に調整するために通路形成部材(35)の最大変位量を増加させる必要がなく、エジェクタ全体として通路形成部材(35)の軸方向の体格の大型化を抑制できる。
【0036】
つまり、本請求項に記載の発明によれば、通路形成部材(35)の外周側に冷媒通路が形成されるエジェクタにおいて、体格の大型化を招くことなく噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向とを近づけることができるので、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失を抑制して、エジェクタ効率の低下を抑制できる。
【0037】
なお、上記の如く、本請求項に記載された通路形成部材(35)は、厳密に減圧用空間(30b)から離れるに伴って断面積が拡大する形状のみから形成されているものに限定されず、少なくとも一部に減圧用空間(30b)から離れるに伴って断面積が拡大する形状を含んでいることによって、ディフューザ通路(13c)の形状を減圧用空間(30b)から離れるに伴って外側へ広がる形状とすることができるものを含む。
【0038】
さらに、「円錐状に形成された」とは、通路形成部材(35)が完全な円錐形状に形成されているという意味に限定されない。つまり、軸方向断面形状が二等辺三角形となるものに限定されず、頂点を挟む二辺が内周側に凸となる形状、頂点を挟む二辺が外周側に凸となる形状、さらに断面形状が半円形状、これらを組み合わせた形状を含む意味である。
【0039】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1〜
図5を用いて、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態のエジェクタ13は、
図1に示すように、冷媒減圧手段としてエジェクタを備える蒸気圧縮式の冷凍サイクル装置、すなわち、エジェクタ式冷凍サイクル10に適用されている。さらに、このエジェクタ式冷凍サイクル10は、車両用空調装置に適用され、空調対象空間である車室内へ送風される送風空気を冷却する機能を果たす。
【0042】
また、このエジェクタ式冷凍サイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。もちろん、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)等を採用してもよい。さらに、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0043】
エジェクタ式冷凍サイクル10において、圧縮機11は、冷媒を吸入して高圧冷媒となるまで昇圧して吐出するものである。具体的には、本実施形態の圧縮機11は、1つのハウジング内に固定容量型の圧縮機構11a、および圧縮機構11aを駆動する電動モータ11bを収容して構成された電動圧縮機である。
【0044】
この圧縮機構11aとしては、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。また、電動モータ11bは、後述する制御装置から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。
【0045】
また、圧縮機11は、プーリ、ベルト等を介して車両走行用エンジンから伝達された回転駆動力によって駆動されるエンジン駆動式の圧縮機であってもよい。この種のエンジン駆動式の圧縮機としては、吐出容量の変化により冷媒吐出能力を調整できる可変容量型圧縮機、あるいは電磁クラッチの断続により圧縮機の稼働率を変化させて冷媒吐出能力を調整する固定容量型圧縮機を採用することができる。
【0046】
圧縮機11の吐出口には、放熱器12の凝縮部12aの冷媒入口側が接続されている。放熱器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と冷却ファン12dにより送風される車室外空気(外気)を熱交換させることによって、高圧冷媒を放熱させて冷却する放熱用熱交換器である。
【0047】
より具体的には、この放熱器12は、圧縮機11から吐出された高圧気相冷媒と冷却ファン12dから送風された外気とを熱交換させ、高圧気相冷媒を放熱させて凝縮させる凝縮部12a、凝縮部12aから流出した冷媒の気液を分離して余剰液相冷媒を蓄えるレシーバ部12b、およびレシーバ部12bから流出した液相冷媒と冷却ファン12dから送風される外気とを熱交換させ、液相冷媒を過冷却する過冷却部12cを有して構成される、いわゆるサブクール型の凝縮器である。
【0048】
また、冷却ファン12dは、制御装置から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。放熱器12の過冷却部12cの冷媒出口側には、エジェクタ13の冷媒流入口31aが接続されている。
【0049】
エジェクタ13は、放熱器12から流出した過冷却状態の高圧液相冷媒を減圧させて下流側へ流出させる冷媒減圧手段としての機能を果たすとともに、高速度で噴射される冷媒流の吸引作用によって後述する蒸発器14から流出した冷媒を吸引(輸送)して循環させる冷媒循環手段(冷媒輸送手段)としての機能を果たす。さらに、本実施形態のエジェクタ13は、減圧させた冷媒の気液を分離する気液分離手段としての機能も果たす。
【0050】
エジェクタ13の具体的構成については、
図2〜
図4を用いて説明する。なお、
図2における上下の各矢印は、エジェクタ式冷凍サイクル10を車両用空調装置に搭載した状態における上下の各方向を示している。また、
図3、
図4は、エジェクタ13の各冷媒通路の機能を説明するための模式的な断面図であって、
図2と同一の機能を果たす部分には同一の符号を付している。
【0051】
まず、本実施形態のエジェクタ13は、
図2に示すように、複数の構成部材を組み合わせることによって構成されたボデー30を備えている。具体的には、このボデー30は、角柱状あるいは円柱状の金属もしくは樹脂等にて形成されてエジェクタ13の外殻を形成するハウジングボデー31を有し、このハウジングボデー31の内部に、ノズルボデー32、ミドルボデー33、ロワーボデー34等を固定して構成されたものである。
【0052】
ハウジングボデー31には、放熱器12から流出した冷媒を内部へ流入させる冷媒流入口31a、蒸発器14から流出した冷媒を吸引する冷媒吸引口31b、ボデー30の内部に形成された気液分離空間30fにて分離された液相冷媒を蒸発器14の冷媒入口側へ流出させる液相冷媒流出口31c、および気液分離空間30fにて分離された気相冷媒を圧縮機11の吸入側へ流出させる気相冷媒流出口31d等が形成されている。
【0053】
ノズルボデー32は、冷媒流れ方向に先細る略円錐形状の金属部材等で形成されており、軸方向が鉛直方向(
図2の上下方向)と平行になるように、ハウジングボデー31の内部に圧入等の手段によって固定されている。ノズルボデー32の上方側とハウジングボデー31との間には、冷媒流入口31aから流入した冷媒を旋回させる旋回空間30aが形成されている。
【0054】
旋回空間30aは、回転体形状に形成され、
図2の一点鎖線で示す中心軸が鉛直方向に延びている。なお、回転体形状とは、平面図形を同一平面上の1つの直線(中心軸)の周りに回転させた際に形成される立体形状である。より具体的には、本実施形態の旋回空間30aは、略円柱状に形成されている。もちろん、円錐あるいは円錐台と円柱とを結合させた形状等に形成されていてもよい。
【0055】
さらに、冷媒流入口31aと旋回空間30aとを接続する冷媒流入通路31eは、旋回空間30aの中心軸方向から見たときに、ボデー30のうち旋回空間30aを形成する部位の内周壁面の接線方向に延びている。これにより、冷媒流入通路31eから旋回空間30aへ流入した冷媒は、ボデー30のうち旋回空間30aを形成する部位の内周壁面に沿って流れ、旋回空間30a内を旋回する。
【0056】
なお、冷媒流入通路31eは、旋回空間30aの中心軸方向から見たときに、旋回空間30aの接線方向と完全に一致するように形成されている必要はなく、少なくとも旋回空間30aの接線方向の成分を含んでいれば、その他の方向の成分(例えば、旋回空間30aの軸方向の成分)を含んで形成されていてもよい。
【0057】
ここで、旋回空間30a内で旋回する冷媒には遠心力が作用するので、旋回空間30a内では中心軸側の冷媒圧力が外周側の冷媒圧力よりも低下する。そこで、本実施形態では、エジェクタ式冷凍サイクル10の通常運転時に、旋回空間30a内の中心軸側の冷媒圧力を、飽和液相冷媒となる圧力、あるいは、冷媒が減圧沸騰する(キャビテーションを生じる)圧力まで低下させるようにしている。
【0058】
このような旋回空間30a内の中心軸側の冷媒圧力の調整は、旋回空間30a内で旋回する冷媒の旋回流速を調整することによって実現することができる。さらに、旋回流速の調整は、例えば、冷媒流入通路31eの通路断面積と旋回空間30aの軸方向垂直断面積との面積比を調整すること等によって行うことができる。なお、本実施形態の旋回流速とは、旋回空間30aの最外周部近傍における冷媒の旋回方向の流速を意味している。
【0059】
また、ノズルボデー32の内部には、旋回空間30aから流出した冷媒を減圧させて下流側へ流出させる減圧用空間30bが形成されている。この減圧用空間30bは、円柱状空間とこの円柱状空間の下方側から連続して冷媒流れ方向に向かって徐々に広がる円錐台形状空間とを結合させた回転体形状に形成されており、減圧用空間30bの中心軸は旋回空間30aの中心軸と同軸上に配置されている。
【0060】
さらに、減圧用空間30bの内部には、減圧用空間30b内に冷媒通路面積が最も縮小した最小通路面積部30mを形成するとともに、最小通路面積部30mの通路面積を変化させる通路形成部材35が配置されている。この通路形成部材35は、冷媒流れ下流側に向かって徐々に広がる略円錐形状に形成されており、その中心軸が減圧用空間30bの中心軸と同軸上に配置されている。換言すると、通路形成部材35は、減圧用空間30bから離れるに伴って断面積が拡大する円錐状に形成されている。
【0061】
そして、ノズルボデー32の減圧用空間30bを形成する部位の内周面と通路形成部材35の上方側の外周面との間に形成される冷媒通路としては、
図3に示すように、最小通路面積部30mよりも冷媒流れ上流側に形成されて最小通路面積部30mに至るまでの冷媒通路面積が徐々に縮小する先細部131、および最小通路面積部30mから冷媒流れ下流側に形成されて冷媒通路面積が徐々に拡大する末広部132が形成される。
【0062】
先細部131の下流側および末広部132では、径方向から見たときに減圧用空間30bと通路形成部材35が重合(オーバーラップ)しているので、冷媒通路の軸方向垂直断面の形状が円環状(大径の円形状から同軸上に配置された小径の円形状を除いたドーナツ形状)となる。
【0063】
さらに、本実施形態では、末広部132における冷媒通路面積が、冷媒流れ下流側に向かって徐々に拡大するように、ノズルボデー32の減圧用空間30bを形成する部位の内周面および通路形成部材35の外周面が形成されている。
【0064】
本実施形態では、この通路形状によって減圧用空間30bの内周面と通路形成部材35の頂部側の外周面との間に形成される冷媒通路をノズルとして機能するノズル通路13aとしている。さらに、このノズル通路13aでは、冷媒を減圧させて、気液二相状態の冷媒の流速を二相音速より高い値となるように増速させて噴射している。
【0065】
なお、本実施形態における減圧用空間30bの内周面と通路形成部材35の頂部側の外周面との間に形成される冷媒通路とは、
図3に示すように、通路形成部材35の外周面から法線方向に延びる線分がノズルボデー32のうち減圧用空間30bを形成する部位と交わる範囲を含んで形成される冷媒通路である。
【0066】
また、ノズル通路13aへ流入する冷媒は旋回空間30aにて旋回しているので、ノズル通路13aを流通する冷媒およびノズル通路13aから噴射される噴射冷媒も、旋回空間30aにて旋回する冷媒と同方向に旋回する方向の速度成分を有している。
【0067】
次に、ミドルボデー33は、
図2に示すように、その中心部に表裏を貫通する回転体形状の貫通穴が設けられているとともに、この貫通穴の外周側に通路形成部材35を変位させる駆動手段37を収容した金属製円板状部材で形成されている。なお、ミドルボデー33の貫通穴の中心軸は旋回空間30aおよび減圧用空間30bの中心軸と同軸上に配置されている。また、ミドルボデー33は、ハウジングボデー31の内部であって、かつ、ノズルボデー32の下方側に圧入等の手段によって固定されている。
【0068】
さらに、ミドルボデー33の上面とこれに対向するハウジングボデー31の内壁面との間には、冷媒吸引口31bから流入した冷媒を滞留させる流入空間30cが形成されている。本実施形態では、ノズルボデー32の下方側の先細先端部32aがミドルボデー33の貫通穴の内部に位置付けられるため、流入空間30cは、旋回空間30aおよび減圧用空間30bの中心軸方向からみたときに、断面円環状に形成される。
【0069】
また、冷媒吸引口31bと流入空間30cとを接続する吸引冷媒流入通路は、流入空間30cの中心軸方向から見たときに、流入空間30cの内周壁面の接線方向に延びている。これにより、本実施形態では、冷媒吸引口31bから吸引冷媒流入通路を介して流入空間30c内へ流入した冷媒を、旋回空間30a内の冷媒と同方向に旋回させるようにしている。
【0070】
さらに、ミドルボデー33の貫通穴のうち、ノズルボデー32の下方側が挿入される範囲、すなわち軸線に垂直な径方向から見たときにミドルボデー33とノズルボデー32が重合する範囲では、ノズルボデー32の先細先端部32aの外周形状に適合するように冷媒通路面積が冷媒流れ方向に向かって徐々に縮小している。
【0071】
これにより、貫通穴の内周面とノズルボデー32の下方側の先細先端部32aの外周面との間には、流入空間30cと減圧用空間30bの冷媒流れ下流側とを連通させる吸引通路30dが形成される。つまり、本実施形態では、冷媒吸引口31bと流入空間30cとを接続する吸引冷媒流入通路、流入空間30cおよび吸引通路30dによって、外部から冷媒を吸引する吸引用通路13bが形成されている。
【0072】
この吸引通路30dの中心軸垂直断面も円環状に形成されており、吸引通路30dを流れる冷媒も、旋回空間30aにて旋回する冷媒と同方向に旋回する方向の速度成分を有している。さらに、吸引用通路13bの冷媒出口(具体的には、吸引通路30dの冷媒出口)は、ノズル通路13aの冷媒出口(冷媒噴射口)の外周側に、円環状に開口している。
【0073】
また、ミドルボデー33の貫通穴のうち、吸引通路30dの冷媒流れ下流側には、略円柱状あるいは略円錐台状に形成された混合用空間30hが形成されている。この混合用空間30hは、上述した減圧用空間30b(具体的には、ノズル通路13a)から噴射される噴射冷媒と吸引用通路13b(具体的には、吸引通路30d)から吸引された吸引冷媒とを合流させる空間である。
【0074】
混合用空間30hの内部には、前述した通路形成部材35の上下方向中間部が配置されており、
図3、
図4に示すように、ミドルボデー33の貫通穴のうち混合用空間30hを形成する部位の内周面と通路形成部材35の外周面との間に形成される冷媒通路は、噴射冷媒と吸引冷媒との混合を促進させる混合通路13dを構成している。
【0075】
なお、本実施形態における混合用空間30hの内周面と通路形成部材35の外周面との間に形成される冷媒通路とは、
図3に示すように、通路形成部材35の外周面から法線方向に延びる線分がミドルボデー33のうち混合用空間30hを形成する部位と交わる範囲を含んで形成される冷媒通路である。
【0076】
ここで、
図4を用いて、ノズル通路13a、吸引用通路13b、および混合通路13dの形状について説明する。
図4に示すように、通路形成部材35の軸方向断面において、通路形成部材35のうちノズル通路13aを形成する部位が描く曲線は、冷媒流れ下流側に向かって、中心軸からの距離Lの増加度合が徐々に小さくなっている。
【0077】
さらに、通路形成部材35の軸方向断面において、通路形成部材35を軸方向(上方側)に変位させた際にノズルボデー32に当接する部位を当接部位C2とし、この当接部位C2における接線Ld2と中心軸が通路形成部材35を鋭角的に挟む側に形成する角度をθ2とし、さらに、通路形成部材35のうちノズル通路13aの出口部を形成する部位C3における接線Ld3と中心軸が通路形成部材35を鋭角的に挟む側に形成する角度をθ3としたときに、θ2、θ3が以下数式F1を満たすように設定されている。
【0078】
θ2≧θ3…(F1)
なお、通路形成部材35の軸方向断面において、θ2を2倍した角度は、通路形成部材35のうちノズル通路13aの入口側の拡がり角度に相当し、θ3を2倍した角度は、通路形成部材35のうちノズル通路13aの出口側の拡がり角度に相当する。
【0079】
従って、上記数式F1を満たすことで、通路形成部材35のノズル通路13aの出口側を形成する部位の拡がり角度が、ノズル通路13aの入口側を形成する部位の拡がり角度よりも小さくなる。そこで、本実施形態では、θ3の値を比較的小さな値(本実施形態では、15°以下)に設定して、ノズル通路13aから混合通路13dへ流入する噴射冷媒の主流の流れ方向が鉛直方向に近づくように、ノズル通路13aを形成している。
【0080】
また、通路形成部材35の軸方向断面において、ミドルボデー33のうち吸引用通路13b(具体的には、吸引通路30d)の出口部の外周側を形成する部位C1における接線Lsとし、接線Ld3と接線Lsがノズルボデー32の先細先端部(吸引用通路13bの内周側を形成する部位)32aを挟む側に形成する角度をθ1としたときに、θ1が以下数式F2を満たすように設定されている。
【0081】
θ1≦θ2/2…(F2)
なお、
図4から明らかなように、θ1が小さくなるに伴って、接線Ld3と吸引用通路13bの出口部の外周側における接線Lsが平行に近づくことになる。そこで、本実施形態では、θ1の値を比較的小さな値(本実施形態では、30°以下)に設定して、吸引用通路13bから混合通路13dへ流入する吸引冷媒の主流の流れ方向が鉛直方向に近づくように、吸引用通路13bを形成している。
【0082】
また、混合通路13dは、冷媒流れ下流側に向かって、通路断面積が徐々に縮小する形状に形成されている。ここで、混合通路13dの通路断面積とは、通路形成部材35の外周面から法線方向に延びてミドルボデー33の混合用空間30hの内周面へ至る線分を、軸周りに回転させた際に形成される円錐台形状の外周側面の面積として定義することができる。
【0083】
さらに、「冷媒流れ下流側に向かって」とは、「通路形成部材35の軸方向断面において、通路形成部材35の外周面に沿って上方側から下流側へ向かって」という意味に定義することができる。
【0084】
また、混合通路13dの軸方向垂直断面形状も円環状に形成されており、混合通路13dを流れる冷媒も、ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒の有する旋回方向の速度成分および吸引用通路13bから吸引された吸引冷媒の有する旋回方向の速度成分によって、旋回空間30aにて旋回する冷媒と同方向に旋回する方向の速度成分を有している。
【0085】
また、
図2に示すように、ミドルボデー33の貫通穴のうち、混合用通路空間の冷媒流れ下流側には、冷媒流れ方向に向かって徐々に広がる略円錐台形状に形成された昇圧用空間30eが形成されている。この昇圧用空間30eは、混合用空間30h(具体的には、混合通路13d)から流出した冷媒を流入させる空間である。
【0086】
昇圧用空間30eの内部には、前述した通路形成部材35の下方部が配置されている。さらに、昇圧用空間30e内の通路形成部材35の円錐状側面の広がり角度は、昇圧用空間30eの円錐台形状空間の広がり角度よりも小さくなっているので、この冷媒通路の冷媒通路面積は冷媒流れ下流側に向かって徐々に拡大する。
【0087】
本実施形態では、このように冷媒通路面積を拡大させることによって、
図3に示すように、昇圧用空間30eを形成するミドルボデー33の内周面と通路形成部材35の下方側の外周面との間に形成される冷媒通路をディフューザとして機能するディフューザ通路13cとしている。そして、このディフューザ通路13cにて、混合通路13dにて混合された混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギに変換させている。
【0088】
さらに、ディフューザ通路13cの軸方向垂直断面形状も円環状に形成されており、ディフューザ通路13cを流れる冷媒も、ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒の有する旋回方向の速度成分および吸引用通路13bから吸引された吸引冷媒の有する旋回方向の速度成分によって、旋回空間30aにて旋回する冷媒と同方向に旋回する方向の速度成分を有している。
【0089】
次に、ミドルボデー33の内部に配置されて、通路形成部材35を変位させる駆動手段37について説明する。この駆動手段37は、圧力応動部材である円形薄板状のダイヤフラム37aを有して構成されている。より具体的には、
図2に示すように、ダイヤフラム37aはミドルボデー33の外周側に形成された円柱状の空間を上下の2つの空間に仕切るように、溶接等の手段によって固定されている。
【0090】
ダイヤフラム37aによって仕切られた2つの空間のうち上方側(流入空間30c側)の空間は、蒸発器14流出冷媒の温度に応じて圧力変化する感温媒体が封入される封入空間37bを構成している。この封入空間37bには、エジェクタ式冷凍サイクル10を循環する冷媒と同一組成の感温媒体が予め定めた密度となるように封入されている。従って、本実施形態における感温媒体は、R134aとなる。
【0091】
一方、ダイヤフラム37aによって仕切られた2つの空間のうち下方側の空間は、図示しない連通路を介して、蒸発器14流出冷媒を導入させる導入空間37cを構成している。従って、封入空間37bに封入された感温媒体には、流入空間30cと封入空間37bとを仕切る蓋部材37dおよびダイヤフラム37a等を介して、蒸発器14流出冷媒の温度が伝達される。
【0092】
ここで、
図2、
図3から明らかなように、本実施形態のミドルボデー33の上方側には吸引用通路13bが配置され、ミドルボデー33の下方側にはディフューザ通路13cが配置されている。従って、駆動手段37の少なくとも一部は、軸線の径方向から見たときに吸引用通路13bおよびディフューザ通路13cによって上下方向から挟まれる位置に配置されることになる。
【0093】
より詳細には、駆動手段37の封入空間37bは、旋回空間30aや通路形成部材35等の中心軸方向から見たときに、吸引用通路13bおよびディフューザ通路13cと重合する位置であって、吸引用通路13bおよびディフューザ通路13cによって囲まれる位置に配置されている。これにより、封入空間37bに蒸発器14流出冷媒の温度が伝達され、封入空間37bの内圧は、蒸発器14流出冷媒の温度に応じた圧力となる。
【0094】
さらに、ダイヤフラム37aは、封入空間37bの内圧と導入空間37cへ流入した蒸発器14流出冷媒の圧力との差圧に応じて変形する。このため、ダイヤフラム37aは弾性に富み、かつ熱伝導が良好で、強靱な材質にて形成することが好ましく、例えば、ステンレス(SUS304)等の金属薄板にて形成されることが望ましい。
【0095】
また、ダイヤフラム37aの中心部には、円柱状の作動棒37eの上端側が溶接等の手段によって接合され、作動棒37eの下端側には通路形成部材35の最下方側(底部)の外周側が固定されている。これにより、ダイヤフラム37aと通路形成部材35が連結され、ダイヤフラム37aの変位に伴って通路形成部材35が変位し、ノズル通路13aの冷媒通路面積(最小通路面積部30mにおける通路断面積)が調整される。
【0096】
具体的には、蒸発器14流出冷媒の温度(過熱度)が上昇すると、封入空間37bに封入された感温媒体の飽和圧力が上昇し、封入空間37bの内圧から導入空間37cの圧力を差し引いた差圧が大きくなる。これにより、ダイヤフラム37aは、最小通路面積部30mにおける通路断面積を拡大させる方向(鉛直方向下方側)に通路形成部材35を変位させる。
【0097】
一方、蒸発器14流出冷媒の温度(過熱度)が低下すると、封入空間37bに封入された感温媒体の飽和圧力が低下して、封入空間37bの内圧から導入空間37cの圧力を差し引いた差圧が小さくなる。これにより、ダイヤフラム37aは、最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小させる方向(鉛直方向上方側)に通路形成部材35を変位させる。
【0098】
このように蒸発器14流出冷媒の過熱度に応じてダイヤフラム37aが、通路形成部材35を上下方向に変位させることによって、蒸発器14流出冷媒の過熱度が予め定めた所定値に近づくように、最小通路面積部30mにおける通路断面積を調整することができる。なお、作動棒37eとミドルボデー33との隙間は、図示しないO−リング等のシール部材によってシールされており、作動棒37eが変位してもこの隙間から冷媒が漏れることはない。
【0099】
また、通路形成部材35の底面は、ロワーボデー34に固定されたコイルバネ40の荷重を受けている。コイルバネ40は、通路形成部材35に対して、最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小する側(
図2では、上方側)に付勢する荷重をかけており、この荷重を調整することで、通路形成部材35の開弁圧を変更して、狙いの過熱度を変更することもできる。
【0100】
さらに、本実施形態では、ミドルボデー33の外周側に複数(具体的には、2つ)の円柱状の空間を設け、この空間の内部にそれぞれ円形薄板状のダイヤフラム37aを固定して2つの駆動手段37を構成しているが、駆動手段37の数はこれに限定されない。なお、駆動手段37を複数箇所に設ける場合は、それぞれ中心軸に対して等角度間隔で配置されていることが望ましい。
【0101】
また、軸方向からみたときに円環状に形成される空間内に、円環状の薄板で形成されたダイヤフラムを固定し、複数の作動棒でこのダイヤフラムと通路形成部材35とを連結する構成としてもよい。
【0102】
次に、ロワーボデー34は、円柱状の金属部材等で形成されており、ハウジングボデー31の底面を閉塞するように、ハウジングボデー31内にネジ止め等の手段によって固定されている。そして、ハウジングボデー31の内部空間のうち、ロワーボデー34の上面側とミドルボデー33の底面側との間には、ディフューザ通路13cから流出した冷媒の気液を分離する気液分離空間30fが形成されている。
【0103】
この気液分離空間30fは、略円柱状の回転体形状の空間として形成されており、気液分離空間30fの中心軸も、旋回空間30a、減圧用空間30bおよび通路形成部材35等の中心軸と同軸上に配置されている。
【0104】
さらに、前述の如く、ディフューザ通路13cから流出して気液分離空間30fへ流入する冷媒は、旋回空間30aにて旋回する冷媒と同方向に旋回する方向の速度成分を有している。従って、この気液分離空間30f内では遠心力の作用によって冷媒の気液が分離されることになる。
【0105】
ロワーボデー34の中心部には、気液分離空間30fに同軸上に配置されて、上方側へ向かって延びる円筒状のパイプ34aが設けられている。そして、気液分離空間30fにて分離された液相冷媒は、パイプ34aの外周側に貯留される。また、パイプ34aの内部には、気液分離空間30fにて分離された気相冷媒を気相冷媒流出口31dへ導く気相冷媒流出通路34bが形成されている。
【0106】
さらに、パイプ34aの上端部には、前述したコイルバネ40が固定されている。なお、コイルバネ40は、冷媒が減圧される際の圧力脈動に起因する通路形成部材35の振動を減衰させる振動緩衝部材としての機能も果たしている。また、パイプ34aの根本部(最下方部)には、液相冷媒中の冷凍機油を気相冷媒流出通路34bを介して圧縮機11内へ戻すオイル戻し穴34cが形成されている。
【0107】
エジェクタ13の液相冷媒流出口31cには、
図1に示すように、蒸発器14の入口側が接続されている。蒸発器14は、エジェクタ13にて減圧された低圧冷媒と送風ファン14aから車室内へ送風される送風空気とを熱交換させることによって、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる吸熱用熱交換器である。
【0108】
送風ファン14aは、制御装置から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。蒸発器14の出口側には、エジェクタ13の冷媒吸引口31bが接続されている。さらに、エジェクタ13の気相冷媒流出口31dには圧縮機11の吸入側が接続されている。
【0109】
次に、図示しない制御装置は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。この制御装置は、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行って、上述の各種電気式のアクチュエータ11b、12d、14a等の作動を制御する。
【0110】
また、制御装置には、車室内温度を検出する内気温センサ、外気温を検出する外気温センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、蒸発器14の吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度センサ、放熱器12出口側冷媒の温度を検出する出口側温度センサおよび放熱器12出口側冷媒の圧力を検出する出口側圧力センサ等の空調制御用のセンサ群が接続され、これらのセンサ群の検出値が入力される。
【0111】
さらに、制御装置の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種操作スイッチからの操作信号が制御装置へ入力される。操作パネルに設けられた各種操作スイッチとしては、車室内空調を行うことを要求する空調作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ等が設けられている。
【0112】
なお、本実施形態の制御装置は、その出力側に接続された各種の制御対象機器の作動を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、制御装置のうち、各制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御対象機器の制御手段を構成している。例えば、本実施形態では、圧縮機11の電動モータ11bの作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が吐出能力制御手段を構成している。
【0113】
次に、上記構成における本実施形態の作動を
図5のモリエル線図を用いて説明する。なお、このモリエル線図の縦軸には、
図3のP0、P1、P2に対応する圧力が示されている。まず、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)されると、制御装置が圧縮機11の電動モータ11b、冷却ファン12d、送風ファン14a等を作動させる。これにより、圧縮機11が冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。
【0114】
圧縮機11から吐出された高温高圧状態の気相冷媒(
図5のa5点)は、放熱器12の凝縮部12aへ流入し、冷却ファン12dから送風された送風空気(外気)と熱交換し、放熱して凝縮する。凝縮部12aにて放熱した冷媒は、レシーバ部12bにて気液分離される。レシーバ部12bにて気液分離された液相冷媒は、過冷却部12cにて冷却ファン12dから送風された送風空気と熱交換し、さらに放熱して過冷却液相冷媒となる(
図5のa5点→b5点)。
【0115】
放熱器12の過冷却部12cから流出した過冷却液相冷媒は、エジェクタ13の減圧用空間30bの内周面と通路形成部材35の外周面との間に形成されるノズル通路13aにて等エントロピ的に減圧されて噴射される(
図5のb5点→c5点)。この際、減圧用空間30bの最小通路面積部30mにおける冷媒通路面積は、蒸発器14出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定値に近づくように調整される。
【0116】
そして、ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒の吸引作用によって、蒸発器14から流出した冷媒が冷媒吸引口31bおよび吸引用通路13b(より詳細には、流入空間30cおよび吸引通路30d)を介して吸引される。さらに、ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒と吸引用通路13b等を介して吸引された吸引冷媒は、混合通路13dへ流入して混合される(
図5のc5点→d5点、h5点→d5点)。
【0117】
混合通路13dで混合された混合冷媒は、ディフューザ通路13cへ流入する。ディフューザ通路13cでは冷媒通路面積の拡大により、冷媒の運動エネルギが圧力エネルギに変換される。これにより、噴射冷媒と吸引冷媒が混合されながら混合冷媒の圧力が上昇する(
図5のd5点→e5点)。ディフューザ通路13cから流出した冷媒は気液分離空間30fにて気液分離される(
図5のe5点→f5点、e5点→g5点)。
【0118】
気液分離空間30fにて分離された液相冷媒は液相冷媒流出口31cから流出して、蒸発器14へ流入する。蒸発器14へ流入した冷媒は、送風ファン14aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発し、送風空気が冷却される(
図5のg5点→h5点)。一方、気液分離空間30fにて分離された気相冷媒は気相冷媒流出口31dから流出して、圧縮機11へ吸入され再び圧縮される(
図5のf5点→a5点)。
【0119】
本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10は、以上の如く作動して、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。さらに、このエジェクタ式冷凍サイクル10では、ディフューザ通路13cにて昇圧された冷媒を圧縮機11に吸入させるので、圧縮機11の駆動動力を低減させて、サイクル効率(COP)を向上させることができる。
【0120】
さらに、本実施形態のエジェクタ13によれば、旋回空間30aにて冷媒を旋回させることで、旋回空間30a内の旋回中心側の冷媒圧力を、飽和液相冷媒となる圧力、あるいは、冷媒が減圧沸騰する(キャビテーションを生じる)圧力まで低下させることができる。これにより、旋回中心軸の外周側よりも内周側に気相冷媒が多く存在するようにして、旋回空間30a内の旋回中心線近傍はガス単相、その周りは液単相の二相分離状態とすることができる。
【0121】
このように二相分離状態となった冷媒がノズル通路13aへ流入することで、ノズル通路13aの先細部131では、円環状の冷媒通路の外周側壁面から冷媒が剥離する際に生じる壁面沸騰および円環状の冷媒通路の中心軸側の冷媒のキャビテーションによって生じた沸騰核による界面沸騰によって冷媒の沸騰が促進される。これにより、ノズル通路13aの最小通路面積部30mへ流入する冷媒が、気相と液相が均質に混合した気液混合状態に近づく。
【0122】
そして、最小通路面積部30mの近傍で気液混合状態の冷媒の流れに閉塞(チョーキング)が生じ、このチョーキングによって音速に到達した気液混合状態の冷媒が末広部132にて加速されて噴射される。このように、壁面沸騰および界面沸騰の双方による沸騰促進によって、気液混合状態の冷媒を音速となるまで効率よく加速できることで、ノズル通路13aにおけるエネルギ変換効率(従来技術のノズル効率に相当)を向上させることができる。
【0123】
さらに、本実施形態のエジェクタ13では、通路形成部材35として減圧用空間30bから離れるに伴って断面積が拡大する円錐状に形成されたものを採用して、ディフューザ通路13cの断面形状を円環状に形成しているので、ディフューザ通路13cの形状を減圧用空間30bから離れるに伴って通路形成部材35の外周に沿って広がる形状とすることができる。
【0124】
これにより、従来技術に対して、ディフューザ通路13cの軸方向(通路形成部材35の軸方向)の寸法が拡大してしまうことを抑制できる。その結果、エジェクタ13全体としての体格の大型化を抑制できる。
【0125】
さらに、本実施形態のエジェクタ13によれば、駆動手段37を備えているので、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動に応じて通路形成部材35を変位させ、ノズル通路13aおよびディフューザ通路13cの冷媒通路面積を調整することができる。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動に応じてエジェクタ13を適切に作動させることができる。
【0126】
ここで、本実施形態のエジェクタ13のように、通路形成部材35の外周側にノズル通路13aが配置される構成では、ノズル通路13aから噴射される噴射冷媒が、通路形成部材35の外周側に沿って流れる。
【0127】
さらに、通路形成部材35を変位させてノズル通路13aの冷媒通路面積(最小通路面積部30mにおける通路断面積)を調整する構成では、ノズル通路13aの冷媒通路面積を適切に調整するために、通路形成部材35の軸方向断面における拡がり角度を比較的大きく(例えば、60°以上)に設定しておく必要がある。
【0128】
このため、通路形成部材35を、軸方向断面形状が単なる二等辺三角形となる円錐形状に形成してしまうと、ノズル通路13aから流出して混合通路13dへ流入する噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引用通路13bから流出して混合通路13dへ流入する吸引冷媒の主流の流れ方向との交わり角度が大きくなってしまいやすい。
【0129】
さらに、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向が比較的大きな角度で交わってしまうと、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失(混合損失)が大きくなってしまい、ディフューザ通路にて圧力エネルギへ変換される混合冷媒の運動エネルギが減少してしまうので、エジェクタ効率を低下させてしまう原因となる。
【0130】
これに対して、本実施形態のエジェクタ13によれば、上述した数式F1を満たすように、θ2およびθ3が設定されているので、通路形成部材35の軸方向断面において、通路形成部材35のうちノズル通路13aの出口側を形成する部位の拡がり角度(
図4のθ3×2に相当)を、通路形成部材35のうちノズル通路13aの入口側を形成する部位の拡がり角度(
図4のθ2×2に相当)よりも小さくすることができる。
【0131】
つまり、通路形成部材35のうちノズル通路13aの入口側を形成する部位の拡がり角度によらず、通路形成部材35のうちノズル通路13aの出口側を形成する部位の拡がり角度を小さく設定することができ、ノズル通路13aから噴射される噴射冷媒の主流の流れ方向を、通路形成部材35の軸方向に近づけることができる。
【0132】
さらに、吸引用通路13bから流出して噴射冷媒と合流する吸引冷媒の主流の流れ方向を軸方向に近づけることによって、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向との交わり角度を小さくすることができる。従って、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失(混合損失)を抑制でき、エジェクタ効率の低下を抑制できる。
【0133】
この際、
図2〜
図4に示すように、吸引冷媒の主流の流れ方向を軸方向に近づけるための案内部として機能するノズルボデー32の先細先端部32aを軸方向に延びる形状とすることができ、径方向に広がる形状に形成する必要がない。従って、エジェクタ13全体として通路形成部材35の径方向の体格の大型化を抑制できる。
【0134】
さらに、通路形成部材35の軸方向断面において、通路形成部材35のうちノズル通路13aの出口側を形成する部位の拡がり角度を比較的小さな値に設定しても、通路形成部材35のうちノズル通路13aの入口側を形成する部位の拡がり角度を適切な値に設定することができる。従って、通路形成部材35の変位量(ストローク量)に対するノズル通路13aの入口側の冷媒通路面積の変化度合が小さくなってしまうことを抑制できる。
【0135】
これにより、ノズル通路13aの入口側の冷媒通路面積を適切に調整するために通路形成部材35の最大変位量を増加させる必要がないので、エジェクタ13全体として通路形成部材35の軸方向の体格の大型化を抑制できる。
【0136】
つまり、本実施形態のエジェクタ13によれば、通路形成部材35の外周側に冷媒通路が形成されるエジェクタ13であっても、体格の大型化を招くことなく噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向とを近づけることができ、噴射冷媒と吸引冷媒が合流する際のエネルギ損失を抑制して、エジェクタ効率の低下を抑制できる。
【0137】
また、本実施形態のエジェクタ13によれば、上述した数式F2を満たすように、θ1が設定されているので、エジェクタ効率の低下を効果的に抑制できる。ここで、本発明者の検討によれば、θ1がθ2/2より大きくなってしまうと、θ1が0°になっている場合(すなわち、噴射冷媒の主流の流れ方向と吸引冷媒の主流の流れ方向が略平行になっている場合)に対して、24%以上のエジェクタ効率の低下が確認されている。
【0138】
また、本実施形態のエジェクタ13によれば、混合通路13dが、冷媒流れ下流側に向かって、通路断面積が徐々に縮小する形状に形成されているので、混合通路13dへ流入した噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒を加速させることができる。これにより、混合通路13dでは出口側へ向かって混合冷媒の圧力を徐々に低下させることができる。
【0139】
さらに、混合通路13dへ流入した噴射冷媒および吸引冷媒は圧力の低い出口側へ向かって流れるので、噴射冷媒の流れが通路形成部材35の外周面側やミドルボデー33のうち混合用空間30hを形成する部位の内周面側に偏流してしまうことを抑制できる。
【0140】
従って、噴射冷媒中の液滴(液相冷媒の粒)が通路形成部材35の外周面やミドルボデー33のうち混合用空間30hを形成する部位の内周面に付着してしまうことを抑制でき、混合通路13dにて、噴射冷媒中の液滴、噴射冷媒中の気相冷媒および吸引冷媒(気相冷媒)を充分に混合させることができる。そして、噴射冷媒中の液滴の有する速度エネルギを、混合冷媒中の気相冷媒に有効に伝達することができる。
【0141】
その結果、ディフューザ通路13cにて圧力エネルギへ変換される混合冷媒の運動エネルギが減少してしまうことを抑制でき、ディフューザ通路13cにおける昇圧量の低下を抑制できるので、エジェクタ効率の低下を抑制することができる。
【0142】
ここで、本発明者らの検討によれば、混合通路13dが、冷媒流れ下流側に向かって、通路断面積が一定となる形状に形成されていても、混合通路13dの出口側の圧力を充分に低下させることができ、混合通路13dにて、噴射冷媒中の液滴、噴射冷媒中の気相冷媒および吸引冷媒(気相冷媒)を充分に混合可能であることが判っている。
【0143】
また、本実施形態のエジェクタ13のボデー30には、ディフューザ通路13cから流出した冷媒の気液を分離する気液分離空間30fが形成されているので、エジェクタ13とは別に気液分離手段を設ける場合に対して、気液分離空間30fの容積を効果的に小さくすることができる。
【0144】
つまり、本実施形態の気液分離空間30fでは、断面円環状に形成されたディフューザ通路13cから流出する冷媒が既に旋回方向の速度成分を有しているので気液分離空間30f内で冷媒の旋回流れを発生させるための空間を設ける必要がない。従って、エジェクタ13とは別に気液分離手段を設ける場合に対して、気液分離空間30fの容積を効果的に小さくすることができる。
【0145】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0146】
(1)上述の実施形態では、通路形成部材35を変位させる駆動手段37として、温度変化に伴って圧力変化する感温媒体が封入された封入空間37bおよび封入空間37b内の感温媒体の圧力に応じて変位するダイヤフラム37aを有して構成されたものを採用した例を説明したが、駆動手段はこれに限定されない。
【0147】
例えば、感温媒体として温度によって体積変化するサーモワックスを採用してもよいし、駆動手段として形状記憶合金性の弾性部材を有して構成されたものを採用してもよいし、さらに、駆動手段として電動モータやソレノイド等の電気的機構によって通路形成部材35を変位させるものを採用してもよい。
【0148】
(2)上述の実施形態では、エジェクタ13の液相冷媒流出口31cの詳細について説明していないが、液相冷媒流出口31cに冷媒を減圧させる減圧手段(例えば、オリフィスやキャピラリチューブからなる側固定絞り)を配置してもよい。
【0149】
(3)上述の実施形態では、本発明のエジェクタ13、53を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10、50を、車両用空調装置に適用した例を説明したが、本発明のエジェクタ13、53を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10、50の適用はこれに限定されない。例えば、据置型空調装置、冷温保存庫、自動販売機用冷却加熱装置等に適用してもよい。
【0150】
また、上述の実施形態では、放熱器12を冷媒と外気とを熱交換させる室外側熱交換器とし、蒸発器14を送風空気を冷却する利用側熱交換器として用いているが、逆に、蒸発器14を外気等の熱源から吸熱する室外側熱交換器として構成し、放熱器12を空気あるいは水等の被加熱流体を加熱する室内側熱交換器として構成するヒートポンプサイクルに本発明のエジェクタ13、53を適用してもよい。
【0151】
(4)上述の実施形態では、放熱器12として、サブクール型の熱交換器を採用した例を説明したが、凝縮部12aのみからなる通常の放熱器を採用してもよい。また、上述の実施形態では、エジェクタ13、53のボデー30、通路形成部材35等の構成部材を金属で形成した例を説明したが、それぞれの構成部材の機能を発揮可能であれば材質は限定されない。従って、これらの構成部材を樹脂にて形成してもよい。