特許第6048358号(P6048358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048358
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20161212BHJP
   G06F 17/50 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01L1/00 M
   G01N3/00 K
   G06F17/50 612H
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-211369(P2013-211369)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-75383(P2015-75383A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】ファン ビン ロン
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4852626(JP,B2)
【文献】 特許第4594043(JP,B2)
【文献】 特許第3466583(JP,B2)
【文献】 特許第3466584(JP,B2)
【文献】 特許第3466585(JP,B2)
【文献】 特開2014−10047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/
G01N 3/
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性要素と粘弾性要素とが並列配置された非線形粘弾性材料構成則に基づいて、粘弾性材料の応力−ひずみ特性を解析する装置であって、
節点を境界とする有限数の要素に分割された粘弾性材料モデルに条件を設定して前記節点の変位量を計算する第1計算部と、
前記変位量を用いて前記節点におけるひずみ速度を計算する第2計算部と、
前記ひずみ速度を底とする冪乗の値に比例する値を前記粘弾性要素の緩和時間として計算する第3計算部と、
前記ひずみ速度より計算された緩和時間を用いて前記節点における応力を計算する第4計算部と、
を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記緩和時間を得るために解析対象とする粘弾性材料に応じて定められる定数として、前記ひずみ速度を底とする冪数miと、前記冪乗の値に掛け合わされる比例定数1/Aiと、を記憶する記憶部をさらに備え、
前記第3計算部は、前記記憶部に記憶される冪数mi及び比例定数1/Aiを読み出して前記緩和時間を計算することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記記憶部は、
解析対象とする粘弾性材料を用いた調和振動試験における絶対弾性率Gと振幅εの測定結果を入力として以下の(1)式により得られる冪数miを記憶し、
前記調和振動試験における加振周波数ωと振幅εの測定結果および前記冪数miの値を入力として以下の(2)式により得られる比例定数1/Aiを記憶することを特徴とする請求項2に記載の解析装置。
【数41】
【請求項4】
弾性要素と粘弾性要素とが並列配置された非線形粘弾性材料構成則に基づいて、粘弾性材料の応力−ひずみ特性を得るためのプログラムであって、
コンピュータに、
節点を境界とする有限数の要素に分割された粘弾性材料モデルに条件を設定して前記節点の変位量を計算する機能と、
前記変位量を用いて前記節点におけるひずみ速度を計算する機能と、
前記ひずみ速度を底とする冪乗の値に比例する値を前記粘弾性要素の緩和時間として計算する機能と、
前記ひずみ速度より計算された緩和時間を用いて前記節点における応力を計算する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置に関し、特に、有限要素法により粘弾性材料の特性を解析する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料などの粘弾性材料の特性を解析するためのモデルとして、弾性要素と粘弾性要素を並列配置した粘弾性材料構成則が用いられる。例えば、特許文献1や非特許文献1では、粘弾性要素の減衰特性を示す緩和時間を定数とすることにより、ゴム弾性および粘弾性を加味した応力とひずみの相関関係を解析する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−256293号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.C. Simo and T.J.R Hughes著「Computational Inelasticity」 Interdisciplinary Applied Mathematics volume 7, Springer Verlag(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ゴム材料に対する調和振動試験では加振する振幅の大きさによって応力とひずみの相関関係が変化することとなるため、振幅依存性を再現することのできる解析モデルを用いることが望ましい。
【0006】
本発明は、こうした状況に鑑みなされたものであり、振幅依存性に対する再現性を高めた粘弾性材料の解析技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の解析装置は、弾性要素と粘弾性要素とが並列配置された非線形粘弾性材料構成則に基づいて、粘弾性材料の応力−ひずみ特性を解析する装置であって、節点を境界とする有限数の要素に分割された粘弾性材料モデルに条件を設定して節点の変位量を計算する第1計算部と、変位量を用いて節点におけるひずみ速度を計算する第2計算部と、ひずみ速度を底とする冪乗の値に比例する値を粘弾性要素の緩和時間として計算する第3計算部と、ひずみ速度より計算された緩和時間を用いて節点における応力を計算する第4計算部と、を備える。
【0008】
この態様によると、解析装置は、ひずみ速度の冪関数として表される緩和時間を用いて粘弾性材料の応力−ひずみ特性を解析することができる。これにより、粘弾性材料に加振される振幅量に応じた応力−ひずみ特性の再現性を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粘弾性要素の緩和時間として、ひずみ速度を底とする冪乗の値を用いることにより、振幅依存性に対する再現性を高めた解析技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る粘弾性材料構成則を模式的に示す図である。
図2】調和振動試験における試験条件を示す図である。
図3】冪数の算出方法を模式的に示すグラフである。
図4】応力緩和試験における応力緩和曲線を模式的に示す図である。
図5】入力ひずみを変化させた場合における応力緩和曲線を示す図である。
図6】ひずみと応力の静特性曲線を示す図である。
図7】一定ひずみ速度試験におけるひずみと応力の関係曲線および静特性曲線を示す図である。
図8】実施の形態に係る解析装置の機能構成を示すブロック図である。
図9】解析装置により得られる応力−ひずみ曲線の一例を示すグラフである。
図10】解析装置により得られる応力緩和曲線の一例を示すグラフである。
図11】解析装置により得られる周波数特性の一例を示すグラフである。
図12】解析装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る粘弾性材料構成則を模式的に示す図である。本図に示す粘弾性材料モデルでは、弾性率G0の弾性要素と、弾性率Gi(i=1〜N、Nは自然数)の弾性要素と粘性係数ηiの粘性要素とが直列接続された複数の粘弾性要素とが並列接続される。弾性要素と粘弾性要素とを組み合わせた本モデルは、タイヤやゴムブッシュなどのゴム部品の動特性を表すためのモデルとして用いられる。
【0013】
ここで、並列接続される弾性要素および粘弾性要素における剛性割合をγi(i=0〜N)、粘弾性要素における緩和時間をτi=ηi/Giとすると、この粘弾性材料モデルにおける時刻tでの応力Sは、下記の式(1)、(2)により表される。
【0014】
【数1】
【0015】
式(1)において、Sは、第2Piola−Kirchhoff応力を示し、上付き記号を有するS○は、粘性力成分を除去した弾性成分のみの応力であることを示す。Jは、粘弾性材料の体積変化率を示す。体積変化率Jは、ある物質点における変形前と変形後の位置の線形変換の関係を示す変形勾配テンソルFのデターミナント(det)を用いて、J=det[F]により表される。演算子DEVは、右Cauchy−GreenテンソルC=FT・Fを用いて、下記式(3)で表される。なお、式(3)における[・]は、演算子DEVの演算対象となる変数を表す。
【0016】
【数2】
【0017】
また、Qiは、それぞれの粘弾性要素における粘性力を示し、式(1)におけるQiは式(2)に示す発展方程式により表される。式(2)において、
【0018】
【数3】
【0019】
は、超弾性体におけるひずみポテンシャルエネルギーの偏差成分を表す。また、
【0020】
【数4】
【0021】
は、体積成分を除去した修正右Cauchy−Greenテンソルであり、式(4)で表される。
【0022】
【数5】
【0023】
上記の式(1)、(2)により表される第2Piola−Kirchhoff応力Sは、積分因子exp(t/τi)を用いた畳み込み積分形式を積分することで、下記の式(5)に示す積分形で表すことができる。
【0024】
【数6】
【0025】
なお、式(5)における
【0026】
【数7】
【0027】
は、ひずみポテンシャルエネルギーの体積成分である。また、g(t)は、緩和関数であり、上記の式(6)により表される。
【0028】
ここで、時間tの関数として表される式(5)を下記の式(7)に変形することで、時刻tn+1における第2Piola−Kirchhoff応力Sn+1を得ることができる。なお、計算ステップnにおける関数を(・)n、計算ステップn+1における関数を(・)n+1と表記している。
【0029】
【数8】
【0030】
式(7)における
【0031】
【数9】
【0032】
は、中点定理を用いて[tn,tn+1]の時間間隔で積分した近似解として得られる中間関数であり、下記式(8)で表される。
【0033】
【数10】
【0034】
ここで、
【0035】
【数11】
【0036】
は、下記式(9)、(10)で定義される。
【0037】
【数12】
【0038】
なお、式(9)は、Kirchhoff弾性応力
【0039】
【数13】
【0040】
を、下記式(11)
【0041】
【数14】
【0042】
により定義することにより、下記式(12)により表すこともできる。
【0043】
【数15】
【0044】
また、Kirchhoff応力テンソル
【0045】
【数16】
【0046】
は、第2Piola−Kirchhoff応力Sn+1を用いて下記の式(13)により表すことができる。
【0047】
【数17】
【0048】
したがって、式(7)、(13)より、Kirchhoff応力テンソルを下記の式(14)により表すことができる。
【0049】
【数18】
【0050】
なお、式(14)における演算子devは、下記の式(15)により定義される。なお、式(15)における(・)は、演算子DEVの演算対象となる変数を表す。
【0051】
【数19】
【0052】
また、式(14)における緩和関数gは、下記の式(16)により定義される。
【0053】
【数20】
【0054】
以上より、中間関数として
【0055】
【数21】
【0056】
を計算ステップ毎に保持することにより、Kirchhoff応力テンソルの値を数値解析により得ることができる。なお、上述の式変形の詳細については、例えば、非特許文献1に記載される。
【0057】
本実施の形態では、図1に示す粘弾性モデルにおいて、粘弾性要素の減衰特性を表す緩和時間τiをひずみ速度に依存した変数とすることにより、振幅依存性の再現性を高めた粘弾性材料の解析方法を示す。一方、非特許文献1などに示される粘弾性モデル(Simoモデル)では、緩和時間τiを定数として計算することにより、ゴム材料における様々な動特性を表すことができるものの、調和振動試験などで見られる振幅依存性の予測精度が高くないという課題があった。本発明者は、振幅依存性の精度を高める手法として、緩和時間τiをひずみ速度の冪関数とすることが有効であることを見出した。本実施の形態では、下記式(17)に示す関係式を満たす緩和時間τiを用いることにより、振幅依存性の再現性を高めた解析手法を提案する。
【0058】
【数22】
【0059】
式(17)において、
【0060】
【数23】
【0061】
は、偏差成分を除去したGreen−Lagrangeひずみテンソルであり、修正右Cauchy−Greenテンソル
【0062】
【数24】
【0063】
を用いて下記の式(18)で表される。
【0064】
【数25】
【0065】
また、
【0066】
【数26】
【0067】
は、ひずみ速度であり、ひずみテンソルの時間微分値を表す。また、
【0068】
【数27】
【0069】
は、ひずみ速度の大きさを表し、3次元のひずみテンソルを用いる場合には、下記式(19)により表される。
【0070】
【数28】
【0071】
なお、冪数miおよび比例定数1/Aiは、本実施の形態で導入する値であり、調和振動試験の試験結果を用いて後述する関係式により導出される。
【0072】
つづいて、式(17)に示す緩和時間τiの導入に際し、数値解析上必要となる式の変形について述べる。上述の式(14)を用いてKirchhoff応力を算出するためには、緩和時間τiを含む式を変形する必要がある。具体的には、式(8)を下記の式(18)に、式(9)を下記の式(19)に変形すればよい。
【0073】
【数29】
【0074】
ここで、緩和時間τiの関数は、下記の式(20)、(21)により定義される。
【数30】
【0075】
なお、式(18)の右辺第2項および式(19)における緩和時間τiとして式(21)を用いるのは、中点定理を用いて[tn,tn+1]の時間間隔で積分した近似解を用いたためである。
【0076】
次に、本実施の形態に示す粘弾性材料モデルにおける材料定数の同定方法について述べる。まず、冪数miおよび比例定数1/Aiの同定方法について示した後に、並列配置される弾性要素の剛性割合γ0および弾性率G0の同定方法を示し、最後に粘弾性要素の剛性割合γiの同定方法を示す。
【0077】
図2は、調和振動試験における試験条件を示す図である。本図は、横軸を時間tとして、予ひずみEpre、振幅ε、周波数ωのとした場合における粘弾性材料の試験体に加振されるひずみE=Epre+εsin(ωt)のグラフを示す。このようなひずみEを加振した場合における試験体の動的弾性率Gを測定することにより、下記式(22)の関係を用いて冪数miを導出することができる。
【0078】
【数31】
【0079】
なお、式(22)は、図2に示す調和振動試験の入力に対して、式(2)に式(17)を代入した発展方程式である下記式(23)を解くことにより得られる。
【0080】
【数32】
【0081】
図3は、冪数miの算出方法を模式的に示すグラフである。本図は、調和振動試験において加振する振幅εの対数値log(ε)を横軸として、予ひずみEpreおよび周波数ωを変化させたときの試験結果値である動的弾性率Gの対数値log(G)をプロットしたものである。グラフ上の近似線L1は、予ひずみEpre1と周波数ω1に対して、振幅の値ε1〜ε3を変化させたときのプロット値に対応する傾きl1の近似線である。同様に、近似線L2、L3は、予ひずみEpre2、Epre3と周波数ω2、ω3に対して、振幅の値ε1〜ε3を変化させたときのプロット値に対応する傾きl2、l3の近似線である。式(22)の両辺に対数をとることにより、下記式(24)を得ることができることから、この傾きliから冪数miを得ることができる。
【0082】
【数33】
【0083】
式(24)より、冪数はmi=−1−liの関係式により得ることができる。なお、式(24)におけるαは、図3に示す近似線の切片を示す。これにより、調和振動試験における加振周波数ωiに対応する冪数miを得ることができる。なお、図3に示す振幅εの値は例示であり、冪数miを得るために4以上の振幅εの値を用いてもよいし、振幅εの値を2としてよい。
【0084】
なお、冪数miの値が加振周波数ωiによってそれほど変化しない場合には、それぞれの周波数に対応するmiを得る代わりに、それぞれのmiの平均値として得られる共通の冪数mを用いることとしてもよい。共通の冪数mを用いることにより、周波数ごとに異なる冪数miを用いる場合と比べて、計算負荷を減らすことができる。
【0085】
また、比例定数1/Aiは、上記方法で得られた冪数miを用いて、下記式(25)の関係から得ることができる。上述の冪数miにおける導出方法と同様、式(25)における周波数ωiは、調和振動試験における加振周波数であり、この周波数を変化させることにより周波数成分ωiが異なるそれぞれの粘弾性要素に対応する比例定数1/Aiを得ることができる。
【0086】
【数34】
【0087】
つづいて、弾性要素の剛性割合をγ0の算出方法について述べる。図4は、応力緩和試験における応力緩和曲線を模式的に示す図である。本図は、入力ひずみEpreを一定にした場合における応力Qの時間変化を測定した試験結果を示している。この試験結果に示す時刻t=0の瞬間応力Q0と、時刻t=∞における緩和応力Q∞とから、弾性要素の剛性割合をγ0=Q∞/Q0により得ることができる。
【0088】
つづいて、弾性要素の弾性率G0の算出方法について述べる。本実施の形態では、超弾性の材料モデルであるYeoh材料モデルに定められる超弾性係数C10、C20、C30を定めることにより弾性要素の弾性率を決定する。これらの超弾性係数は、図4に示した応力緩和試験において、複数の入力ひずみEpreに対して緩和応力Q∞を得ることにより導出することができる。
【0089】
図5は、入力ひずみEkを変化させた場合における応力緩和曲線を示す図である。図6は、ひずみEと応力Qの静特性曲線QRを示す図である。図5に示すように、値の異なる複数の負荷ひずみE1〜ENに対して応力緩和試験を実施し、各負荷ひずみEkに対応する緩和応力QR(E1)〜QR(EN)を得る。この関係式をひずみ−応力曲線としてグラフ化することにより、図6に示す静特性曲線QRが得られる。この静特性曲線を近似することのできる超弾性係数C10、C20、C30を公知の技術を用いて定めることにより、弾性要素の弾性率を決定することができる。
【0090】
最後に、粘弾性要素の剛性割合γiの算出方法について述べる。図7は、一定ひずみ速度試験におけるひずみEと応力Qの関係曲線Qiおよび静特性曲線QRを示す図である。静特性曲線QRは、図6に示す静特性曲線と同じである。関係曲線Q1〜QNは、一定ひずみ速度試験においてひずみ速度ViをV1〜VNに変化させた場合に対応するひずみEと応力Qの試験結果を示す。ここで、i番目の関係曲線Qiは、i番目の粘弾性要素の動特性に対応し、加振周波数ωiから算出した比例定数1/Aiの粘弾性要素に対応する。このような対応関係とするためには、調和振動試験における加振周波数ωiと振幅εを用いて、ひずみ速度Vi=ωiεの関係を満たす値を定めればよい。
【0091】
このとき、各粘弾性要素の剛性割合γiは、図6に示すひずみEと応力Qの関係曲線Qiにより囲まれる面積Ziから得ることができる。静特性曲線QRにより囲まれる面積をZ0とし、i−1番目からi番目にひずみ速度が増加することによる面積の増加分をZiとすると、剛性割合はγi=γ0×Zi/Z0により同定される。
【0092】
以上の方法により、本実施の形態の粘弾性材料モデルにおける材料定数mi、Ai、γ0、G0、γiを同定することができる。つまり、本実施の形態においては、材料試験の結果から材料定数を一意に決めることができる。
【0093】
なお、その他の材料定数の同定方法として、最適化計算による同定方法が挙げられるが、最適化計算による同定方法では計算が収束せず解が得られない、得られた最適解が局所解であるために再現精度が低下するなどの課題があった。一方、本実施の形態では、最適化計算を必要としないため、解が得られないという課題を解消することができる。また、材料試験の結果から材料定数を同定するため、解析の再現精度を高めることができる。
【0094】
次に、上述の式(23)に示す発展方程式を利用した有限要素解析法について述べる。図8は、実施の形態に係る解析装置100の機能構成を示すブロック図である。解析装置100は、構築部10と、計算部20と、記憶部30と、出力部40を備える。
【0095】
本明細書のブロック図において示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0096】
構築部10は、解析しようとする粘弾性材料を有限個の小さな要素に置き換えて、計算部20の計算対象となる粘弾性材料モデルを構築する。粘弾性材料モデルを構成する各要素は数値解析が可能に定義され、具体的には、各要素について、座標系における節点座標値、要素形状、材料特性などが定義される。2次元モデルを対象とする場合には、各要素として三角形状を有する3節点要素や、四角形状を有する4節点要素を用いればよい。また、3次元モデルを対象とする場合には、四面体形状を有する4節点要素や、六面体形状を有する6節点要素などを用いればよい。構築部10は、例えば、プリプロセッサと呼ばれる公知の技術に基づいた汎用ソフトウェアを用いることにより実現することができる。
【0097】
記憶部30は、計算部20による処理に必要な入力値を記憶するとともに、計算部20より計算された各計算ステップにおける出力値を記憶する。記憶部30は、入力値として粘弾性材料モデルの材料定数である冪数mi、比例定数1/Ai、剛性割合γ0、γi、弾性要素における超弾性係数C10、C20、C30を少なくとも記憶する。これらの材料定数は、解析対象とする粘弾性材料の特性に応じて、上述の材料定数同定方法により設定される値である。記憶部30には、例えば、複数種類の粘弾性材料の解析を可能とするために複数種類の材料定数が記憶されており、解析対象とする粘弾性材料の種類に応じて、対応する材料定数が計算部20により読み出される。
【0098】
計算部20は、構築部10により構築された粘弾性材料モデルを用いて、各要素の節点における変位量、ひずみ量、応力などの値を計算ステップ毎に算出する。計算部20は、所定の計算終了条件を満たすまで計算処理を繰り返し実行し、得られた値を記憶部30に記憶させる。計算部20は、第1計算部21と、第2計算部22と、第3計算部23と、第4計算部24を有する。
【0099】
第1計算部21は、有限数の要素に分割された粘弾性材料モデルに境界条件を設定し、計算ステップ毎の入力条件から各要素における節点の変位量Uを計算する。第1計算部21は、各要素における剛性方程式を解くための剛性マトリックスを作成した後、粘弾性材料モデルの全体構造を表す全体構成マトリックスを作成する。全体剛性マトリックスに対して、入力条件となる既知節点の変位量および節点力を導入して解析処理を施すことにより、未知節点の変位量Uが計算される。なお、第1計算部21は、例えば、ソルバーと呼ばれる公知の技術に基づいた汎用ソフトウェアを用いることにより実現することができる。
【0100】
第2計算部22は、第1計算部21により得られた変位量Uを入力値として各要素の節点におけるひずみ速度を計算する。なお、第2計算部22は、計算ステップnにおいて得られたひずみ量を用いることにより、次の計算ステップであるステップn+1におけるひずみ速度を算出する。
【0101】
第2計算部22は、計算ステップnにおける節点の全変位量ψnと、第1計算部21により得られた変位量Uから、計算ステップn+1における全変位量をψn+1=ψn+Uにより算出する。この全変位量ψn+1を用いて、下記の式(26)−(31)の関係により、計算ステップn+1における変形勾配テンソルFn+1、体積変化率(ヤコビアン)Jn+1、右Cauchy−GreenテンソルCn+1、偏差成分を除去した修正変形勾配テンソル
【0102】
【数35】
【0103】
及び修正右Cauchy−Greenテンソル
【0104】
【数36】
【0105】
を計算する。
【0106】
【数37】
【0107】
なお、式(27)におけるDは、変形勾配テンソルFを得るための微分演算子である。
【0108】
式(31)により得られた修正右Cauchy−Greenテンソルと、計算ステップnにおけるひずみ量から、下記の式(32)、(33)により計算ステップn+1におけるひずみ量とひずみ速度を得ることができる。なお、式(18)におけるΔtnは、各計算ステップに対応して離散化された時間ステップである。
【0109】
【数38】
【0110】
第3計算部23は、第2計算部22により得られたひずみ速度から、応力の計算に必要となる緩和時間τiを算出する。第3計算部23は、記憶部30に記憶される冪数miおよび比例定数1/Aiを読み出し、上述の式(20)、(21)により緩和時間τiを計算する。
【0111】
第4計算部24は、ひずみ速度より計算された緩和時間τiを用いて節点におけるKirchhoff応力を求める。第4計算部24は、まず、式(11)を用いて計算ステップn+1におけるKirchhoff弾性応力を求める。次に、式(12)、(18)を用いて中間変数を求める。最後に、式(14)、(19)を用いてKirchhoff応力を得る。なお、第4計算部24は、各計算ステップで得られた中間変数および応力の値を記憶部30に記憶する。
【0112】
出力部40は、計算部20により得られた計算結果を出力する。出力部40は、計算結果として、粘弾性材料モデルにおける応力−ひずみ曲線や応力緩和曲線などを得るための数値データを出力する。
【0113】
図9は、解析装置100により得られる応力−ひずみ曲線の一例を示すグラフであり、一定ひずみ速度試験の試験結果に対応する。なお、本図では、出力部40からの出力結果である「計算値」とともに、対応する一定ひずみ速度試験で得られた「試験値」を示している。計算値C1〜C4は、それぞれ異なるひずみ速度に対応する計算結果であり、試験値T1〜T4は、計算の条件と同じひずみ速度にて一定ひずみ速度試験を行った場合の試験結果である。本実施の形態の解析装置を用いることにより、図示されるように、一定ひずみ速度試験の結果を精度良く再現する計算結果を得ることができる。
【0114】
図10は、解析装置100により得られる応力緩和曲線の一例を示すグラフである。なお、本図においても、出力部40からの出力結果である「計算値」を示す実線とともに、応力緩和試験で得られた「試験値」を破線で示している。それぞれの応力緩和曲線は、異なる瞬間応力を加えた場合における計算値および試験値を示している。本実施の形態の解析装置を用いることにより、図示されるように、応力緩和試験の結果を精度良く再現する計算結果を得ることができる。
【0115】
図11は、解析装置100により得られる周波数特性の一例を示すグラフである。本図は、調和振動試験において加振周波数ωと振幅εを変化させた場合における絶対弾性率の値を求めた結果を示す。本図では、調和振動試験における振幅εの大きさを予ひずみに対して0.2%とした場合と、2.0%とした場合の計算結果を示している。本図に示すように、加振周波数の変化による絶対弾性率の変化を表すとともに、振幅の増大に伴う絶対弾性率の減少を表すことができた。一般に、ゴム材料などの粘弾性材料では、振幅が大きくなると絶対弾性率が減少することが知られていることから、本実施の形態における解析装置100によれば、粘弾性材料における振幅依存性を再現できる。
【0116】
以上の構成による解析装置100の動作を説明する。
図12は、監視装置2の動作を示すフローチャートである。まず、解析対象とする粘弾性材料モデルを構築し(S10)、解析対象の粘弾性材料モデルに対応した材料定数を設定する(S12)。次に、入力条件に基づいて粘弾性材料モデルを構成する各要素の節点変位量を計算ステップ毎に算出する(S14)。得られた設定変位量からひずみ速度を算出するとともに(S16)、ひずみ速度から緩和時間を算出し(S18)、ひずみ速度から得られる緩和時間を用いて応力を算出する(S20)。計算の終了条件を満たしていない場合には、S14〜S20のステップを繰り返して計算ステップ毎の応力を算出する(S22のN)。終了条件を満たした場合には(S22のY)、得られた計算結果を出力する(S24)。
【0117】
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0118】
上述の実施の形態では、調和振動試験の結果から式(25)の関係式を用いて比例定数1/Aiを同定する方法を述べた。変形例においては、一定ひずみ速度試験の結果から比例定数1/Aiを同定することとしてもよい。以下、変形例における比例定数1/Aiの同定方法について述べる。
【0119】
上述の式(25)の左辺を変形することにより、下記式(34)が得られる。
【0120】
【数39】
【0121】
ここで、分母のωiεは調和振動試験における最大ひずみ速度であることから、一定ひずみ速度試験におけるひずみ速度Vnomに対応付けることができる。また、分子の振幅εは調和振動試験における最大ひずみ量であることから、一定ひずみ速度試験における測定ひずみE*に対応付けることができる。したがって、一定ひずみ速度試験におけるひずみ速度Vnomと測定ひずみE*を用いて、式(34)は、下記式(35)のように書き換えることができる。
【0122】
【数40】
【0123】
したがって、変形例においては、式(35)を用いて一定ひずみ速度試験における試験結果より比例定数1/Aiを同定することができる。
【符号の説明】
【0124】
10…構築部、20…計算部、21…第1計算部、22…第2計算部、23…第3計算部、24…第4計算部、30…記憶部、100…解析装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12