(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、被測温物から放射される熱エネルギを検知し、これを温度に変換して被測温物の温度として表示する放射温度計が用いられている。放射温度計は、被測温物に非接触かつ比較的高い温度の測定が可能であるため、熱処理操作を行う各種の産業分野において、温度管理に用いられている。
例えば、製鉄工場内では、コークス炉で燃焼されたコークス(略950℃から1050℃)を概ね200℃以下に冷却した後、ベルトコンベヤ等を用いて次の工程が施される設備へ搬送する。この冷却処理を施されたコークス(以下「冷却処理後コークス」という)が搬送中に再び昇温すると、発火の可能性が高まる。そこで製鉄工場では、搬送中の冷却処理後コークスのくすぶりの発生を監視するため、ベルトコンベヤ毎に、コンベヤベルトの上面に対して温度センサが対向するように放射温度計が設置され、コンベヤベルト上を流れる冷却処理後コークスの温度が管理される。
【0003】
ここで、放射温度計に対しては、操業停止の時間帯等を用いて定期的に測定温度の校正が行われる。また定期的な校正以外に、操業上の必要性から臨時的に校正が行われる場合もある。こうした校正の際、本来の作業である測定温度の校正以外に、複数の付随する作業が発生する。付随作業としては、例えば放射温度計の設置現場からの取り外し、付属機器(ケーブル、変換機等)の取り外し、設置現場から校正作業を行う検査室へ放射温度計及び付属機器の輸送、検査室から設置現場への輸送、放射温度計の再取り付け及び動作の再調整といったものがある。そして、上記したような製鉄工場内に設置される放射温度計は、通常、防水・防塵・防熱のため、その外装が堅牢とされることが多く、一般に、その重量が比較的重い(10kg程度)、現場据え置き型であることが多い。そのため、校正においては、上記したような付随作業にかかる手間や時間の負担が大きいという問題がある。特に放射温度計が、踏み台を用いなければ手の届かない高さ位置に設置されている場合、踏み台を準備する手間や転倒時の備えといった負担の問題もさらに付加される。
【0004】
こうした問題を解決する技術として、
図4に示すように、放射温度計7が測温する被測温物20に熱電対21を接触配置し、熱電対21によって測定された温度と放射温度計7によって測定された温度とを比較して、放射温度計7を校正する技術(先行技術1)がある。また
図5に示すように、校正装置を操作する作業者12(以下「校正装置側作業者」という)が、把持部23aと放熱部23bとを有する黒体炉23を、放射温度計7の設置現場に持ち込む方法もある。この場合、所定の温度に設定した黒体炉23の放熱部23bの放熱面23cを放射温度計7の温度センサ7bに離間させて対向させ、黒体炉23の設定温度と放射温度計7の温度とを比較する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、熱電対21を被測温物20に接触配置するため、接触に起因する測温上の問題が生じる。すなわち、被測温物20の熱容量による温度変化分を考慮する必要や、測定温度が安定するまで比較的時間がかかることや、接触によって熱電対21の素子が高温に晒され劣化するという問題がある。また特許文献1の場合、
図4に示すように、被測温物20の外壁に閉端管21が形成されているので、この閉端管21の内面に熱電対21を接触配置できるが、被測温物が冷却処理後コークスのように後工程で処理が施される材料である場合、熱電対を被測温物に接触配置することは容易ではない。
【0007】
また、上記した黒体炉を放射温度計の設置現場に持ち込む方法では、放熱部の放熱面を温度センサに離間させて対向させる位置(以下「校正位置」という)が、立位状態の校正装置側作業者の足元(例えば膝より下方)にある場合、校正装置側作業者は足元にしゃがみこみ、把持した放熱部を校正位置の高さまで降下させる必要が生じる。なぜなら、
図5に示すように、上記黒体炉23は、放熱部23bが把持部23aと同軸上に固定され、かつ把持部23aの軸線と放熱面23cとが平行とされている。そのため、校正位置が校正装置側作業者の手元より低い場合、把持部23aを校正位置の高さに配置しなければ、放熱面23cを温度センサに対向させることができない。そのため、校正装置側作業者は立位状態を保持したまま校正を実行できず、しゃがみこむ等の動作が必要となり、作業の負担になるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記した問題を解決するために案出されたものであって、放射温度計を校正する際、放射温度計を設置現場から取り外す等の付随作業を発生させることなく、被測温物に接触させる測温計を用いることなく、校正位置が校正装置側作業者の手元より低い場合であっても、放熱部を校正位置に配置する際に、校正装置側作業者の負担を軽減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様に係る放射温度計の校正装置は、
防護用の外装を備えてコークスの搬送現場に据置され、前記コークスのくすぶりの発生を監視する放射温度計の温度センサに対向させる放熱面を有するヒータ板と、ヒータ板を加熱する加熱装置と、加熱装置に接続され、ヒータ板の温度を予め設定された温度に保持するように構成された制御装置と、その一端が放射温度計の校正作業者によって把持されるとともに、他端が前記ヒータ板に連結される
0.9m以上3.0m以下の長さの柄部材と、を有し、柄部材とヒータ板とを
、前記放熱面を前記温度センサに対向させたときに前記柄部材が前記温度センサ及び前記放熱面の間に存在しないように、前記ヒータ板の端部において、前記ヒータ板の表面と前記柄部材との角度が変化する方向に互いに回動自在に連結し、
前記搬送現場に外部から持ち込んで、前記放射温度計を校正することとした。
【0010】
また、前記柄部材を伸縮自在に構成してもよい。また、前記放熱面には予め設定された放射率を有する膜が形成されてもよい。また、前記ヒータ板と前記柄部材とを着脱自在に構成してもよい。
また、本発明のある態様に係る放射温度計の校正方法は、放射温度計の校正装置を用いて放射温度計を校正する方法であって、
前記放射温度計の校正装置を前記搬送現場に外部から持ち込み、前記ヒータ板と前記柄部材との間の角度を、前記放射温度計
の校正装置を把持する作業者の手元の位置から前記放熱面を前記温度センサに対向させる位置までの垂直方向距離に応じて設定
し、設定した前記角度で前記ヒータ板及び前記柄部材を固定し、前記柄部材が前記温度センサ及び前記放熱面の間に存在しない状態で、前記放熱面を前記温度センサに対向させて前記放射温度計を校正することとした。
【発明の効果】
【0011】
従って本発明に係る放射温度計の校正装置によれば、放射温度計の設置現場で、加熱したヒータ板の放熱面を設定された温度に保持しつつ放射温度計の温度センサに対向させて、放射温度計に測温させる。そのため、被測温物に接触させる測温計を用いる必要がないとともに、放射温度計を設置現場から取り外す等の付随作業が発生しない。
また、校正装置側作業者が把持する柄部材と、放熱部であるヒータ板とが互いに回動自在に連結される。これにより、校正位置が校正装置側作業者の手元より低い場合であっても、校正装置側作業者は柄部材とヒータ板の放熱面との間の角度を設定することにより、ヒータ板を柄部材で支持しつつ、しゃがみこむことなくヒータ板の放熱面を温度センサに対向させる。よって柄部材を校正位置の高さまで降下させる必要がなく、柄部材を把持する手元の高さを適宜変更できるので、作業の負担を軽減できる。
【0012】
また、本発明に係る放射温度計の校正装置は、放熱部であるヒータ板が従来の黒体炉のようなブロック状ではなく板状に構成されているので、比較的嵩張ることがない。よって校正位置が比較的狭い領域にある場合でも、ヒータ板を配置する作業が容易となる。
また、本発明に係る放射温度計の校正装置は、比較的少ない部材数で簡易に構成することができるので、製造性がよいとともに耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る放射温度計の校正装置(以下単に「校正装置」ともいう)は、製鉄工場内において、冷却処理後コークスのくすぶりを監視する放射温度計の設置現場に持ち込まれ、その放射温度計の温度の校正に用いられるものである。放射温度計は、冷却処理後コークスを搬送するベルトコンベヤの上方に配設されている。以下、その構成を、図面を参照して説明する。なお、図中に示された校正装置を構成する各部材の形状、大きさ又は比率は適宜簡略化及び誇張して示されている。
【0015】
(構成)
本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、
図1(a)に示すように、放射温度計の温度センサに離間して対向させる放熱面2aを有するヒータ板2と、ヒータ板2を加熱する加熱装置3と、加熱装置3に接続された制御装置4とを備える。また校正装置1は、校正装置側作業者によって把持される把持部5aと、ヒータ板2側に連結される連結部5cと、把持部5aと連結部5cとの間に配設された中央部5bと、を有する柄部材5を備える。すなわち、柄部材5の一端が把持部5aであり、他端が連結部5cとなる。また校正装置1は、柄部材5とヒータ板2とを連結する連結具6を備える。
【0016】
ヒータ板2は、全体が略正方形状の板状とされ、金属等により構成される。ヒータ板2は、ヒータ板本体2bと、ヒータ板本体2bを一端で支持するヒータ板枠2cとを有する。ヒータ板本体2bの表面及び裏面には放熱面2aが形成され、放熱面2aには放射率が略1、すなわち黒体放射となるように、予め設定された放射率を有する膜が、黒体塗料によって形成されている。ヒータ板枠2c内には、ヒータ板用温度センサ(不図示)が設けられており、ヒータ板用温度センサは、ヒータ板本体2bの温度を信号に変えて、逐次的に制御装置4に出力する。またヒータ板枠2cのヒータ板本体2bの反対側の端部には、連結具6に固着される連結凸部2dが形成されている。
【0017】
加熱装置3は、
図1(a)、
図1(b)中の破線で示すように、ヒータ板枠2c内に配設され、ヒータ板本体2bに接続されている。加熱装置3は、電源(不図示)に接続されるとともに、制御装置4からの信号に基づいてヒータ板本体2bを加熱する。これにより、ヒータ板2の放熱面2aから、放射温度計の温度センサに対して熱が放出されることとなる。尚、冷却処理後コークスは通常、200℃以上となるとくすぶり始める。よって、加熱装置3は、校正用の温度として少なくとも200℃以上の温度にヒータ板2を加熱できる能力を有することが好ましい。本実施形態に係る加熱装置3は、最高温度が350℃程度に構成されている。
【0018】
制御装置4は、ヒータ板2の温度を予め校正用に設定された温度に保持するものであり、ヒータ板用温度センサから出力されたヒータ板本体2bの温度に基づいて、上記温度を保持するように加熱装置3を制御する。具体的には、PID制御等の方法が用いられる。
柄部材5の把持部5a及び中央部5bはともに略円筒状とされ、同軸で連結されるとともに、ヒータ板2側の各々の端部はヒータ板2側に縮径形成されている。把持部5aの内径は中央部5bの外径よりも大きく構成されるとともに、把持部5aの内周面と中央部5bの外周面とは、互いに滑らかに摺動するように構成されている。これにより、把持部5a及び中央部5bは、
図1(a)中の二点鎖線で示すように、軸方向に相対変位可能とされ、中央部5bは把持部5の内部に収納可能となる。
【0019】
中央部5bの外周面上には、軸方向の所定の位置に凸部(不図示)が形成されるとともに、把持部5aの内周面上には、軸方向の所定の位置に上記凸部に対応して嵌合可能な形状とされた凹部(不図示)が形成されている。これにより、凸部と凹部とを嵌合させた位置では静止摩擦力が増大するので、把持部5aと中央部5bとの相対変位が抑制され、校正装置側作業者が柄部材5を把持して校正を行う場合には両者の長さを固定できる。
連結部5cは棒状とされ、一端は中央部5bと同軸で連結されるとともに、他端は連結部5cの中央ヒータ板2側寄りの位置で縮径し、連結具6と連結されている。連結部5cの他端には軸方向に垂直方向に孔部5dが貫通形成され、孔部5dに連結具6のボルト6c(後述)が挿通固定されることにより柄部材5と連結具6とが連結される。
【0020】
中央部5bの内径は連結部5cの外径よりも小さく構成されるとともに、中央部5bの内周面と連結部5cの外周面とは、互いに滑らかに摺動するように構成されている。これにより、中央部5b及び連結部5cは、
図1(a)中の一点鎖線で示すように、軸方向に相対変位可能とされ、連結部5cは中央部5bの内部に収納可能となる。また、連結部5cの外周面上には、軸方向の所定の位置に凸部(不図示)が形成されるとともに、中央部5bの内周面上には、軸方向の所定の位置に上記凸部に対応して嵌合可能な凹部(不図示)が形成されている。これにより、把持部5aと中央部5bの場合と同様に、中央部5bと連結部5cとの相対変位が抑制される。
【0021】
柄部材5は、上記した3つの部材(把持部5a、中央部5b及び連結部5c)により、伸縮自在に構成される。柄部材5の長さを調節したい場合には、これら3つの部材のうち、2つの部材を適宜選択した上で、その2つの部材を軸方向に相対変位させ、その2つの部材間の凸部と凹部との嵌合状態を一旦解除する。そして、上記2つの部材を互いに軸方向に変位させ、別の位置で凸部と凹部とを嵌合させる。この動作を組み合わせることで、柄部材5の長さを調節することができる。
【0022】
本実施形態に係る柄部材5の長さは、最も短縮したときに略0.9mであり、最も伸長したときに略3.0mである。柄部材5は、0.9m〜3.0mの範囲内で長さ調節可能とされている。長さの下限が0.9mとされるのは、立位状態の校正装置側作業者が腕を下垂させたときの床面からの手の高さ位置が、測定上平均0.9mであったからである。また長さの上限が3.0mとされるのは、柄部材5がこれより長い場合、立位状態の校正装置側作業者がヒータ板2を水平方向に突出して安定させることが難しいからである。
【0023】
連結具6は、2枚の側板6a、6aと、ねじ頭6bを有するボルト6cと、蝶ねじ6dとを備える。また連結具6は。一方の側板6aとねじ頭6bとの間、及び他方の側板6aと蝶ねじ6dとの間に、各々ワッシャー(不図示)を備える。2枚の側板6a、6aには、連結部5cの回動位置を案内する案内溝6e、6eが各々形成されている。案内溝6eは、中心角が略90度の円弧状の長孔とされている。
【0024】
2枚の側板6a、6aは、互いに対向配置され、両者間にヒータ板枠2cの連結凸部2dと、柄部材5の連結部5cとを挟み込んでいる。2枚の側板6a、6aの一端側では、2枚の側板6a、6aと連結凸部2dとは溶接等により固着されており、連結具6とヒータ板2とが一体化されている。また2枚の側板6a、6aの他端側では、2枚の側板6a、6aと連結部5cとが、連結部5cの孔部5dと2枚の側板6a、6aの各々の案内溝6e、6eとを同時に挿通するボルト6cによって連結されている。そして、ボルト6cと蝶ねじ6dとによって締結されている。
【0025】
ボルト6cと蝶ねじ6dとが緊結されているときは、2枚の側板6a、6aと連結部5cとは互いに相対変位せず固定されている。蝶ねじ6dを緩め、連結部5cと2枚の側板6a、6aとの間に隙間が形成されると、連結部5cは、
図2の双方向矢印で示すように、案内溝6eに導かれることにより、連結具6に対して0度から略90度の間で回動可能となる。これにより、連結部5cを有する柄部材5と、連結具6と一体化されたヒータ板2とが、互いに回動自在に連結されている。
【0026】
また、蝶ねじ6dをさらに緩めてボルト6cから分離することもできる。そして、ボルト6cを連結部5cと2枚の側板6a、6aとの間から抜き取れば、柄部材5と連結具6との連結が解除される。このように、本実施形態に係る校正装置1は、ヒータ板2と柄部材5とが着脱自在に構成されている。
【0027】
(校正作業)
次に、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1を用いた放射温度計の校正作業を説明する。本実施形態に係る校正方法は、製鉄工場内における放射温度計の設置現場で、放射温度計を設置現場から取り外すことなく、放射温度計7を校正するものである。
まず校正作業の説明に先立ち、放射温度計について
図3(a)を用いて説明する。
放射温度計7は、冷却処理後コークス(不図示)を搬送するベルトコンベヤCの上方で、校正装置側作業者12の歩行用に設けられたデッキ9の床面上に配設されている。放射温度計7は、放射温度計本体7aと温度センサ7bとを有し、デッキ9の床面上で放射温度計7を支持するとともに防水・防塵用の外装を兼ねる支持ケース8内に収容されている。放射温度計7は、支持ケース8内で、温度センサ7bを冷却処理後コークス側(図中下方)に向けて配設されている。温度センサ7bの下端の高さは、デッキ9の床面の高さ位置から上方に離間した位置である。
【0028】
支持ケース8の下部には、デッキ9の床面位置から上方に切欠き形成された2つの孔部8a、8aが形成され、孔部8a、8aは、冷却処理後コークスが搬送されている通常操業時には、支持ケース8の内部を確認するための覗き窓として用いられる。孔部8a、8aの上縁の高さは温度センサ7bの下端の高さと略同じとされるとともに、孔部8a、8aの幅(図中、紙面に垂直方向の長さ)は、ヒータ板2の幅より長い長さである。
【0029】
放射温度計が測定した温度を表示する表示装置(不図示)は、放射温度計の設置現場から離れた電気室内に配設されている。そのため校正作業は、校正装置側作業者と、電気室において放射温度計が測定した温度を確認する作業者(電気室側作業者)との協働によって行われる。放射温度計7は、通常操業時、ベルトコンベヤC上の冷却処理後コークスを測温し、その温度を電気室内の表示装置に出力している。
【0030】
次に、校正作業を説明する。校正装置側作業者12は、防熱、防塵及び安全性の点から、ヘルメット、ゴーグル、作業服、グローブ等を着用して作業を行う。
まず、校正装置側作業者12は、分離されていた柄部材5と連結具6とを連結して校正装置1を組み立てるとともに、ヒータ板2と柄部材5とを回動させて両者間の角度を所望の角度に設定し固定する。また柄部材5を適宜伸縮させて、柄部材5全体の長さを設定し固定する。このとき、ヒータ板2と柄部材5との間の角度の設定と、柄部材5の長さの設定とは、
図3(a)に示すように、校正装置側作業者12の手元の位置から校正位置までの水平方向距離D及び垂直方向距離Hに対応させて行われる。
【0031】
次に、校正装置側作業者12は、制御装置4に校正用に設定された温度を入力する。これにより、制御装置4は、ヒータ板2の温度が校正用の温度となるように加熱装置3に制御信号を出力するとともに、ヒータ板2が設定された温度に至った後も続けてヒータ板2の温度制御を行い、設定温度を保持する。
次に、校正装置側作業者12は、柄部材5の把持部5aを把持し、ヒータ板2を放射温度計7側へ送り出し、校正用の設定温度とされたヒータ板2の放熱面2aを校正位置に配置する。このとき、放射温度計7は、対向する放熱面2aからの赤外線を感知し、感知した熱エネルギに基づく温度を、冷却処理後コークスの温度として測定する。測定された温度は電気室内の表示装置に表示される。
【0032】
そして、校正装置側作業者12は、ヒータ板が校正位置に配置されたこと及び設定温度を、無線等を用いて放射温度計7の設置現場から離れている電気室側作業者(不図示)に伝達する。次に、電気室側作業者は電気室内の表示装置を視認し、伝達された設定温度と、表示装置に表示された温度とを比較する。
上記したプロセスを所定の回数行って、ヒータ板2の設定温度と放射温度計7が測定した温度との差異を計測し、計測結果に基づき、放射温度計7を適宜校正する。このようにして、本実施形態に係る校正装置1を用いた校正方法が構成される。
【0033】
また、放射温度計7が、デッキ9上に立設された防護柵10に支持された支持ケース8内に収納されている場合の校正の状態を、
図3(b)に示す。この場合の校正方法も、上記した
図3(a)の場合と同様のプロセスが行われる。
この場合、放射温度計7の温度センサ7bの直下の空間と、校正装置側作業者12との間には、防護柵10に配設された水平棒10aがあり、校正装置側作業者12の視界が一部遮られる。そこで、校正装置側作業者12は、水平方向距離D´及び垂直方向距離H´となる位置に立位する。この水平方向距離D´及び垂直方向距離H´は、
図3(a)の場合における水平方向距離D及び垂直方向距離Hと異なっている。そして、水平方向距離D´及び垂直方向距離H´に応じて、ヒータ板2と柄部材5との間の角度及び柄部材5の長さを設定する。これにより、校正装置側作業者12は視界を確保した位置に立位しつつ、放熱板2aが適切に温度センサ7bに対向するように、ヒータ板2を校正位置に配置させることができる。
【0034】
図3(b)に示す放射温度計7の設置現場において、従来の校正方法では、上記した付随作業(放射温度計7の設置現場からの取り外し、付属機器の取り外し等)を含めた校正作業に、約7時間30分かかっていた。しかし、本実施形態に係る校正装置1を用いることにより、校正装置1の組立及び校正後の片づけを含めて校正作業全体を約1時間で完了することができた。
【0035】
(効果)
本実施形態に係る放射温度計の校正装置1によれば、放射温度計7の設置現場で、加熱したヒータ板2の放熱面2aを設定された温度に保持しつつ放射温度計7の温度センサ7bに対向させて、放射温度計7に測温させる。そのため、冷却処理後コークスに接触させる測温計を用いる必要がないとともに、放射温度計7を設置現場から取り外す等の付随作業が発生しない。
【0036】
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1によれば、校正装置側作業者12が把持する柄部材5とヒータ板2とが互いに回動自在に連結される。これにより、校正位置が校正装置側作業者12の手元より低い場合であっても、校正装置側作業者12は柄部材5とヒータ板2の放熱面2aとの間の角度を設定することにより、ヒータ板2を柄部材5で支持しつつ、しゃがみこむことなくヒータ板2の放熱面2aを温度センサ7bに対向させる。よって柄部材5を校正位置の高さまで降下させる必要がなく、柄部材5を把持する手元の高さを適宜変更できるので、作業の負担を軽減できる。
【0037】
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、ヒータ板2が従来の黒体炉のようなブロック状ではなく板状に構成されているので、比較的嵩張ることがない。よって校正位置1が比較的狭い領域内にある場合でも、ヒータ板2の配置作業が容易となる。
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、比較的少ない部材数で簡易に構成することができるので、製造性がよいとともに耐久性に優れる。特に、本実施形態に係る校正装置1は、製鉄工場内において200℃前後の比較的高温の熱が発生するとともに、製鉄作業に伴う各種の粉塵の飛散量が比較的多い、冷却処理後コークスの温度管理に用いる放射温度計の校正に好適な校正装置とすることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、柄部材5が伸縮自在に構成されているので、ヒータ板2を校正装置側作業者12の手元から離間させて配置できる範囲を拡大できる。
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、ヒータ板2の放熱面2aに、予め設定された放射率を有する塗料による塗膜処理が施されているので、放熱面2aからの熱エネルギの放射率が一定となる。これにより、放射温度計7で測定される温度のぶれの発生を抑制するので、校正精度を向上できる。
また、本実施形態に係る放射温度計の校正装置1は、柄部材5とヒータ板2とが着脱自在に構成されているので、校正装置1を分解して運搬又は保管できる。これにより、校正装置の取り扱い性及び保全性を向上できる。
【0039】
(その他)
尚、本実施形態に係るヒータ板2の放熱面2aには、黒体塗料によって塗膜が形成されているが、このような塗膜を形成する方法は黒体塗料に限定されるものでなく、黒体テープ等他の方法であってもよい。ヒータ板2は、ヒータ板本体2bをヒータ板枠2cに取り付け、このヒータ板枠2c内に加熱装置3が配設される構成であるが、加熱装置3の配設場所はこれに限定されるものではなく、ヒータ板2と分離した構成でもよい。
【0040】
また、本実施形態に係る柄部材5は、3つの円筒状の部材の組み合わせで構成されるが、柄部材5を伸縮自在に構成するに際しては、本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、端部に雄ねじ部又は雌ねじ部が形成された複数の部材とし、これらの端部を螺合させる形態等、他の構成とされてもよい。また柄部材5の形状及び数も、本実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、組み合わされる部材が板状でも箱状でもよい。また柄部材5が伸縮しない一本の棒状部材であってもよい。
また、本発明に係る連結具は、本実施形態で説明した構成に限定されることなく、例えば、ヒンジを用いる等他の方法を用いてヒータ板2と柄部材5とを互いに回動自在に構成してもよい。また、柄部材5とヒータ板2との間の角度が調節可能な構成であれば、柄部材5とヒータ板2との間にさらに複数の柄部材5又は複数の連結具6を介設してもよい。
【0041】
また、本実施形態に係る校正装置1は、製鉄工場内の冷却処理後コークスの温度を管理する放射温度計7の校正に用いられるものであるが、本発明に係る校正装置が適用される放射温度計はこれに限定されるものではない。例えば、スラブや鋼板等他の被測温物の温度を管理する放射温度計に用いられてもよい。さらに放射温度計は、製鉄工場内の放射温度計に限定されるものではなく、自動車組立工場、食品製造工場等他の設備において、温度管理に用いられる放射温度計であってよい。
また、本実施形態に係る校正方法は、放熱面を温度センサに適切に対向させるための目視確認に有利なため校正位置が手元より低い高さ位置である場合を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、校正位置が手元より高い位置の場合に用いることを妨げるものではない。
1 校正装置
2 ヒータ板
2a 放熱面
3 加熱装置
4 制御装置
5 柄部材
5a 把持部
5c 連結部
6 連結具