特許第6048378号(P6048378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048378圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048378
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20161212BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20161212BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20161212BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20161212BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20161212BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20161212BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F1/33
   H01F41/02 D
   B22F1/02 E
   C22C38/00 303T
   B22F1/00 Y
   B22F3/00 B
   C22C33/02 N
   B22F3/24 B
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-245728(P2013-245728)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2015-103770(P2015-103770A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坪 将士
(72)【発明者】
【氏名】服部 毅
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−189323(JP,A)
【文献】 特開平05−109520(JP,A)
【文献】 特開2009−088502(JP,A)
【文献】 特開2011−181624(JP,A)
【文献】 特開2004−253787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
H01F 1/33
H01F 41/02
B22F 1/00− 1/02
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄合金からなる軟磁性粒子と、
該軟磁性粒子の表面を被覆する酸化アルミニウムからなる第1被覆層と、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)からなり該第1被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する第2被覆層とをし、
前記鉄合金は、該鉄合金全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、
Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部、
からなることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
記Aは1.5〜3%である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記酸化アルミニウムは、α−Al を含む請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記低融点ガラスは、硼珪酸塩系ガラスを含む請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記硼珪酸塩系ガラスは、さらにZnを含む請求項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記低融点ガラスは、圧粉磁心全体を100質量%としたときに0.5〜5質量%含まれる請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
鉄合金からなる軟磁性粒子と、
酸化アルミニウムからなり該軟磁性粒子の表面を被覆する絶縁層と、
該絶縁層上に付着していると共に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)とからなり、
前記鉄合金は、該鉄合金全体を100%としたときに、
Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部からなり、
請求項1に記載の圧粉磁心の製造に用いられることを特徴とする磁心用粉末。
【請求項8】
前記低融点ガラスは、前記軟磁性粒子よりも粒径が小さいガラス微粒子からなる請求項に記載の磁心用粉末。
【請求項9】
請求項またはに記載の磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、
該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、
該成形工程後に得られた成形体を焼鈍する焼鈍工程と、
備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
鉄合金からなる軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
該絶縁層の表面に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)を付着させるガラス付着工程とを備え
前記鉄合金は、該鉄合金全体を100%としたときに、
Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部からなり、
前記絶縁層形成工程は、前記軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄が生成された酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより前記絶縁層で被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程であることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。
【請求項11】
前記低融点ガラスは、軟化点が500℃以上である請求項10に記載の磁心用粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積比抵抗値(以下単に「比抵抗」という。)および強度に優れる圧粉磁心、その圧粉磁心が得られる磁心用粉末およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等、我々の周囲には電磁気を利用した製品が多々ある。これらの製品は交番磁界を利用したものが多く、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るために、通常、磁心(軟磁石)をその交番磁界中に設けている。
【0003】
この磁心には、交番磁界中における高磁気特性のみならず、交番磁界中で使用したときの高周波損失(以下、磁心の材質に拘らず単に「鉄損」という。)が少ないことが求められる。この鉄損には、渦電流損失、ヒステリシス損失および残留損失があるが、中でも交番磁界の周波数が高くなる程に高くなる渦電流損失の低減が重要である。
【0004】
このような磁心として、絶縁被膜で被覆された軟磁性粒子(磁心用粉末の構成粒子)を加圧成形した圧粉磁心の開発、研究が行われている。このような圧粉磁心は、各軟磁性粒子間に介在する絶縁被膜の存在により、高比抵抗で低鉄損であり、また形状自由度も高いため、種々の電磁機器に用いられる。さらに最近では、圧粉磁心の用途を拡大する上で、その比抵抗と共に強度の向上も重視されており、このような圧粉磁心に関する記載が下記の特許文献等にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−181624号公報
【特許文献2】特開2012−49203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、Mg−Fe−O系酸化物堆積膜により絶縁被覆された軟磁性粒子と、それらの粒界に形成された低融点ガラスからなる境界層と、からなる圧粉磁心を提案している。また特許文献2は、軟磁性粒子と、その表面を絶縁被覆する加熱硬化型シリコーン樹脂からなる第1被覆層と、さらに第1被覆層の表面を被覆する低融点ガラスからなる第2被覆層と、からなる圧粉磁心を提案している。
【0007】
これらの圧粉磁心は、Mg−Fe−O系酸化物堆積またはシリコーン樹脂からなる第1層と、低融点ガラスからなる第2層とを組み合わせることにより、圧粉磁心の高比抵抗化と高強度化の両立を意図している。しかし、本発明者が調査したところ、軟磁性粒子の表面が酸化物等で被覆されていても、圧粉磁心の焼鈍を行うことにより、粒界層を構成する低融点ガラスの成分(例えば遷移金属元素)が軟磁性粒子側へ拡散する場合があることが明らかとなった。また、このような拡散現象により、軟磁性粒子間の粒界層が変質する結果、圧粉磁心の比抵抗や強度が却って低下し得ることもわかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、軟磁性粒子間の粒界形成に低融点ガラスを用いた場合でも、比抵抗や強度の向上を安定的に図れる圧粉磁心を提供することを目的とする。また、そのような圧粉磁心の製造方法と、その圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末およびその製造方法も併せて提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、酸化アルミニウムからなる第1被覆層と低融点ガラスからなる第2被覆層を粒界に有する軟磁性粒子からなる圧粉磁心が、従来よりも優れた比抵抗および強度を安定的に発現することを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《圧粉磁心》
本発明の圧粉磁心は、鉄合金からなる軟磁性粒子と、該軟磁性粒子の表面を被覆する酸化アルミニウムからなる第1被覆層と、該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)からなり該第1被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する第2被覆層とをし、前記鉄合金は、該鉄合金全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部、からなることを特徴とする。
【0011】
圧粉磁心は、通常、磁心用粉末を所望形状に加圧成形して得られ、その際に軟磁性粒子内に導入された残留歪み等を除去するために熱処理(焼鈍)が行われる。これにより、圧粉磁心の保磁力の低減ひいてはヒステリシス損失の低減が図られる。この際、焼鈍温度が高いほど、短時間で残留歪み等を除去でき、ヒステリシス損失の少ない圧粉磁心を効率的に得ることができる。もっとも、従来の圧粉磁心の場合、高温焼鈍を行うと軟磁性粒子の表面や粒界に形成された絶縁層が破壊または変質するため、焼鈍温度を高めることは容易ではなかった。
【0012】
ところが、本発明の圧粉磁心は、高温焼鈍(例えば焼鈍温度650℃以上)がなされても、従来よりも遙かに高い比抵抗および強度を安定的に発揮する。このような優れた特性が発揮される詳細なメカニズムは必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0013】
本発明者が鋭意研究したところ、軟磁性粒子の表面に形成された絶縁層が酸化アルミニウム以外の場合、焼鈍時に、低融点ガラスと軟磁性粒子の間で構成元素の拡散が絶縁層を透過して生じ得ることが明らかとなった。具体的にいうと、低融点ガラス側の構成元素(例えばZnなどの遷移金属元素)が絶縁層を透過して軟磁性粒子側へ拡散し得る。同様に、軟磁性粒子側の構成元素(Fe等)も絶縁層を透過して低融点ガラス側へ拡散し得る。いずれにしても、このような拡散現象に伴い、絶縁層や低融点ガラスは変質し得る。その結果、軟磁性粒子の粒界に、低抵抗値(さらには導電性)の物質(例えばFe化合物)が生じたり、破壊起点となる微細な欠陥が生じたりして、圧粉磁心の比抵抗や強度が当初予定したレベルよりも低下することが起こり得る。そして、そのような傾向は、ヒステリシス損失を低減するために焼鈍温度を高くするほど顕著となる。
【0014】
一方、軟磁性粒子の表面に形成された絶縁層(第1被覆層)が酸化アルミニウムからなる場合、理由は定かではないが、圧粉磁心を高温焼鈍しても、上述したような拡散現象は殆ど生じなかった。つまり、軟磁性粒子と低融点ガラス(第2被覆層)の間に介在する酸化アルミニウム(第1被覆層)が、まるで、軟磁性粒子と低融点ガラスの間の拡散を抑止するバリヤー層として機能することが明らかとなった(図1参照)。このため本発明の圧粉磁心の場合、高温焼鈍がなされても、低融点ガラスからなる第2被覆層は勿論のこと、酸化アルミニウムからなる第1被覆層も変質したり欠陥を生じたりしない。その結果、本発明に係る第1被覆層および第2被覆層は、本来想定される高い絶縁性や結合力をほぼ発揮し得る。
【0015】
さらに、酸化アルミニウムからなる第1被覆層に対して、低融点ガラスの濡れ性は良好である。このため焼鈍時に軟化または溶融した低融点ガラスは、その第1被覆層上を均一的に濡れ拡がり、さらには、軟磁性粒子間の微細な隙間(三重点等)にも流入して、破壊起点となる空隙を低減させ得る。そして焼鈍後の低融点ガラスは、そのような状態が維持されたまま固化する。こうして本発明の圧粉磁心は、第1被覆層と第2被覆層が相乗的に作用する結果、高温焼鈍された場合でも従来よりも優れた比抵抗と強度を高次元で両立し得る。
【0016】
《磁心用粉末》
本発明は、上述した圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末としても把握できる。つまり本発明は、鉄合金からなる軟磁性粒子と、酸化アルミニウムからなり該軟磁性粒子の表面を被覆する絶縁層と、該絶縁層上に付着していると共に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)とからなり、前記鉄合金は、該鉄合金全体を100%としたときに、Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部からなり、上述した圧粉磁心の製造に用いられることを特徴とする磁心用粉末でもよい。
【0017】
なお本明細書では、酸化アルミニウムからなる絶縁層により被覆され、その絶縁層上に低融点ガラスが付着している軟磁性粒子を適宜「磁心用粒子」という。この磁心用粒子の集合体が本発明の磁心用粉末となる。また、磁心用粒子中の低融点ガラスは、その存在形態を問わない。例えば、軟磁性粒子よりも粒径の小さいガラス微粒子として絶縁層上に付着していてもよいし、その絶縁層を被覆する膜状または層状として付着していてもよい。これらのことは磁心用粉末の製造方法についても同様である。
【0018】
いずれにしても、磁心用粉末の成形体(圧粉磁心)を焼鈍した際に、その低融点ガラスが軟化さらには溶融して、各軟磁性粒子を被覆する酸化アルミニウムからなる第1被覆層と、その第1被覆層上に低融点ガラスからなる第2被覆層が形成されれば足る。
【0019】
《圧粉磁心の製造方法》
本発明は、上述した圧粉磁心としてのみならず、その製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、上述した磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた成形体を焼鈍する焼鈍工程と備え、比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法でもよい。
【0020】
《磁心用粉末の製造方法》
さらに本発明は、その磁心用粉末の製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、鉄合金からなる軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、該絶縁層の表面に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス(PbOを含まない。)を付着させるガラス付着工程とを備え、前記鉄合金は、該鉄合金全体を100%としたときに、Al:1〜4%、Si:1〜6%、Fe:残部からなり、前記絶縁層形成工程は、前記軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄が生成された酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより前記絶縁層で被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程であることを特徴とする磁心用粉末の製造方法でもよい。
【0021】
《その他》
(1)本発明でいう「軟磁性粒子の焼鈍温度」とは、具体的には、磁心用粉末の加圧成形体から残留歪みや残留応力を除去するためになされる焼鈍工程の加熱温度である。焼鈍温度は、選択した低融点ガラスの軟化点より大きければ、その具体的な温度を問わないが、例えば、650℃以上、700℃以上さらには800℃以上とすると好ましい。
【0022】
なお、本発明でいう「軟化点」は、加熱された低融点ガラスの粘度が、温度上昇の過程で1.0x107.5dPa・sとなる温度である。従って本発明でいう軟化点は、一般的にいわれるガラス転移点(Tg)とは必ずしも一致しない。ちなみにガラスの軟化点はJIS R3103−1 ガラスの粘性および粘性定点−第1部:軟化点の測定方法− により特定される。
【0023】
(2)本発明に係る酸化アルミニウムは、その具体的な組成を問わず、また、単種からなる酸化アルミニウムでも複数種の酸化アルミニウムが混在したものでもよい。例えば、Alで表される酸化アルミニウム(III)の他、AlOで表される酸化アルミニウム(I)、AlOで表される酸化アルミニウム(II)も、本発明でいう酸化アルミニウムに含まれる。また、その酸化アルミニウム(III)は、結晶構造の異なるスピネル型酸化アルミニウム(γ−Al)またはコランダム型酸化アルミニウム(α−Al)のいずれでもよい。但し、通常、本発明に係る酸化アルミニウムの主成分はα−Alになると考えられる。
【0024】
なお、本発明に係る第1被覆層または絶縁層の抵抗値は、軟磁性粒子自体よりも大きければよく、その具体的な抵抗値までは問わない。また、それらの層中に主成分である酸化アルミニウム以外の酸化物(酸化ケイ素、酸化鉄等)が微量に混在していてもよい。また、本発明に係る酸化アルミニウムは、完全な結晶構造からなる場合の他、結晶構造の一部に酸素欠損が生じた不完全な結晶構造からなる場合でも、さらには、それらが混在している場合でもよく、その具体的な結晶構造を問わない。要するに、本発明に係る第1被覆層または絶縁層を構成する酸化アルミニウムは、軟磁性粒子と低融点ガラスの間における構成元素の拡散を抑止する拡散バリヤー性と絶縁性が確保されるものであれば、その具体的な組成や構造を問わない。なお、本発明に係る絶縁層、第1被覆層または第2被覆層は、全軟磁性粒子の外表面に均一的または均質的に存在していると好ましいが、一部に被覆されていない部分や不均一または不均質な部分が存在してもよい。
【0025】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値や数値範囲内に含まれる数値を任意に組み合わせて「a〜b」のような新たな数値範囲を構成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の圧粉磁心を構成する軟磁性粒子間の粒界近傍を示す模式図である。
図2】各試料に係る圧粉磁心の比抵抗と曲げ強度の関係を示す分散図である。
図3】試料2の圧粉磁心に係る粒界近傍を観察したEPMA像である。
図4】試料C2の圧粉磁心に係る粒界近傍を観察したEPMA像である。
図5A】酸化処理される軟磁性粒子の表面近傍を示す模式図である。
図5B】軟磁性粒子の表面に酸化物が生成された酸化粒子の表面近傍を示す模式図である。
図5C】その酸化粒子が非酸化処理されることにより、その粒子表面近傍に酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成される様子を示す模式図である。
図6A】Si含有軟磁性粒子(処理前)の表面近傍における組成分布の一例を示すオージェ電子分光分析(AES)図である。
図6B】Si含有軟磁性粒子を酸化処理した酸化粒子の表面近傍に係るAES図である。
図6C】その酸化粒子をN中で非酸化処理した絶縁被覆粒子の表面近傍に係るAES図である。
図7】Si非含有軟磁性粒子を酸化処理および非酸化処理した粒子の表面近傍に係るAES図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明に係る圧粉磁心のみならず、それに用いられる磁心用粉末やそれらの製造方法等にも適宜適用され得る。従って、上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。この際、製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0028】
《軟磁性粒子(軟磁性粉末)》
軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、取扱性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。鉄合金は、Alを含む鉄合金(Al含有鉄合金)であると、酸化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)の形成が容易となり好ましい。さらに鉄合金は、Siを含むと、軟磁性粒子の電気抵抗率の向上、圧粉磁心の比抵抗の向上(渦電流損失の低減)または強度向上等も図れて好ましい。特に鉄合金中にAlと共にSiが含まれていると、酸化アルミニウムからなる絶縁層がより形成され易くなり好ましい。
【0029】
鉄合金中のAlやSiの具体的な組成は問わない。もっとも、圧粉磁心の磁気特性、磁心用粉末の成形性、酸化アルミニウムを含む絶縁層の形成性等を考慮して、軟磁性粒子を構成する鉄合金は、全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、Al:0.5〜5%、1〜4%さらには1.5〜3%、Si:0.5〜9%、1〜8%さらには3〜7%であると好ましい。AlまたはSiは、過少なら上述した効果が乏しく、過多なら圧粉磁心の磁気特性や成形性の低下、コストの増大等を招き好ましくない。
【0030】
なお、本発明に係る鉄合金は、主たる残部はFeであるが、Feおよび不可避不純物以外の残部として、圧粉磁心の磁気特性や比抵抗、磁心用粉末の成形性、酸化アルミニウムの生成性等を改善し得る改質元素を一種以上含有し得る。このような改質元素として、例えばMn、Cr、Mo、Ti、Ni等が考えられる。通常、改質元素量は微量であり、その合計量は3%以下さらには1%以下であると好ましい。
【0031】
軟磁性粒子の粒径は問わないが、通常、10〜300μmさらには50〜250μmであると好ましい。粒径が過大になると比抵抗の低下または渦電流損失の増加を招き、粒径が過小になるとヒステリシス損失の増加等を招くため、好ましくない。なお、本明細書でいう粉末の粒径は、特に断らない限り、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分法で定まる粒度で規定する。
【0032】
軟磁性粉末は、その製法を問わず、アトマイズ粉でも粉砕粉でもよい。アトマイズ粉は、水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉、ガス水アトマイズ粉のいずれでもよい。擬球状をした粒子からなるアトマイズ粉を用いると、粒子相互間の攻撃性が低くなり、絶縁層の破壊等による比抵抗値の低下等を抑制し得る。なお、本発明に係る軟磁性粉末は、単種の粉末からなる場合のほか、粒度、製法、組成の異なる複数種の粉末を混合したものでもよい。
【0033】
《低融点ガラス》
本発明に係る低融点ガラスは、前述した軟化点を有するガラスである限り、その種類や組成を問わない。焼鈍温度を考慮して、適切な組成からなる低融点ガラスが選択されると好ましい。また本発明に係る低融点ガラスは、硼珪酸鉛系ガラスより環境負荷の小さい組成からなる低融点ガラス、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス、リン酸塩系ガラス等が好ましい。
【0034】
より具体的にいうと、珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−ZnO、SiO−LiO、SiO−NaO、SiO−CaO、SiO−MgO、SiO−Al等を主成分とするものがある。ビスマス珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−Bi−ZnO、SiO−Bi−LiO、SiO−Bi−NaO、SiO−Bi−CaO等を主成分とするものがある。硼酸塩系ガラスには、例えば、B−ZnO、B−LiO、B−NaO、B−CaO、B−MgO、B−Al等を主成分とするものがある。硼珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−B−ZnO、SiO−B−LiO、SiO−B−NaO、SiO−B−CaO等を主成分とするものがある。酸化バナジウム系ガラスには、例えば、V−B、V−B−SiO、V−P、V−B−P 等を主成分とするものがある。リン酸塩系ガラスには、例えば、P−LiO、P−NaO、P−CaO、P−MgO、P−Al 等を主成分とするものがある。これら低融点ガラスは、上述した成分以外に、SiO、ZnO、NaO、B、LiO、SnO、BaO、CaO、Al等の1種以上を適宜含有し得る。
【0035】
低融点ガラスは、磁心用粉末全体または圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.1〜5質量%さらには1〜4質量%含まれると好ましい。低融点ガラスが過少では十分な第2被覆層が形成されず高強度の圧粉磁心が得られない。一方、それが過多では圧粉磁心の磁気特性が低下し得る。
【0036】
ところで低融点ガラスは、圧粉磁心中で、軟磁性粒子の第1被覆層を包囲する第2被覆層となるが、磁心用粉末の段階では軟磁性粒子の絶縁層を包囲している必要は必ずしもない。つまり低融点ガラスは、軟磁性粒子よりも粒径の小さな微粒子となって軟磁性粒子の絶縁層の表面に点在している状態でもよい。このような低融点ガラス(ガラス微粒子)の粒径は、軟磁性粒子の粒径にも依るが、0.1〜100μmさらには0.5〜50μmとするとよい。ガラス微粒子は、粒径が過小になるとその製造や取扱性が困難となり、粒径が過大になると均一な第2被覆層の形成が困難となる。ちなみにガラス微粒子の粒径の特定方法には、湿式法、乾式法、照射したレーザ光の散乱パターンから求める方法、沈降速度の相違から求める方法、画像解析により求める方法等がある。本明細書では主に、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析によりガラス微粒子の粒径を特定した。
【0037】
《絶縁層形成工程》
(1)絶縁層形成工程は、軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層を形成する工程である。このような絶縁層の形成方法は種々考えられ、本発明はその形成方法を限定するものではない。もっとも本発明者は、薄くても高絶縁性で低融点ガラスとの密着性(濡れ性)にも優れる酸化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)の形成方法も確立している。例えば、本発明に係る絶縁層形成工程は、AlおよびSiを含む鉄合金からなる軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄が生成された酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより絶縁層で被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程であると好適である。
【0038】
ここでいう酸化鉄は、その具体的な組成を問わず、また、単種からなる酸化物でも複数種の酸化物が混在したものでもよい。例えば、FeOで表される酸化鉄(II)、Feで表される酸化鉄(II、III)、Fe(α型、β型等を含む)で表される酸化鉄(III)などの他、FeOOH(α型、β型等を含む)などのオキシ水酸化物、Fe(OH)、Fe(OH)などの水酸化鉄等の一種以上であればよい。もっとも通常は、FeO、FeまたはFeのいずれか一種以上である。
【0039】
また、非酸化雰囲気は、酸素が実質的に存在しない雰囲気であれば、不活性ガス雰囲気でも真空雰囲気でもよい。不活性ガスはN、He、Ar等のいずれでもよい。非酸化雰囲気の露点は−40℃以下さらには−50℃以下であると好ましい。このときの加熱温度は、650〜1000℃さらには700〜950℃とするとよい。加熱時間は0.3〜2時間さらには0.5〜1.5時間とすると効率的である。
【0040】
ところで、酸化粒子に非酸化処理工程を行うことにより酸化アルミニウムを含む絶縁層が形成される理由は必ずしも定かではないが、次のように考えられる。先ず、相応に酸素(O)が存在する酸化雰囲気中におかれた軟磁性粒子の表面には、Oが付着または吸着し(図5A参照)、自然にまたは加熱されることにより、その粒子表面には軟磁性粒子の主成分であるFeと反応した酸化鉄(Fe、Fe、FeO等)が多く生成され得る(図5B参照)。この際、酸化鉄以外にAlやSiの酸化物も軟磁性粒子の表面近傍に一部生成されてもよい。
【0041】
次に、このような酸化鉄を表面に有する軟磁性粒子が、実質的にOが存在しない非酸化雰囲気中におかれ、Oが欠乏した状態で加熱されると、Feよりも酸化物生成エネルギーが低いAlが、軟磁性粒子の表面近傍に存在していた酸化鉄からOを奪い、酸化鉄よりも安定な酸化アルミニウムを生成するようになる(図5C)。こうして生成された酸化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)は、高耐熱性で高比抵抗を発揮する。
【0042】
軟磁性粒子の表面近傍で生じる酸化鉄から酸化アルミニウムへの変化は、基粒子である軟磁性粒子がSiを含有する鉄合金(適宜、Fe−Al−Si系合金という。)からなる場合に生じ易く、その軟磁性粒子がSiを含有していない鉄合金(適宜、Fe−Al系合金という。)からなる場合には生じ難いこともわかっている。従って、軟磁性粒子中のSiは、酸化鉄から酸化アルミニウムへの変化を促進する触媒のように作用していると考えられる。
【0043】
(2)非酸化処理工程の前提として、軟磁性粒子の表面に酸化鉄を有する酸化粒子の存在が必要となる(酸化処理工程)。このような酸化粒子(酸化粉末)は、その生成過程または生成方法をとわないが、例えば、軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程により得られる。これにより軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムに変化する十分な酸化鉄が安定的に生成される。
【0044】
酸化雰囲気は、適度な酸素(特にO)を含む環境であれば、混合ガス雰囲気でも真空雰囲気でもよい。例えば、Oと不活性ガス(N、Ar等)の混合ガス(気流)を用いる場合なら、O量は0.1〜30体積%さらには0.5〜25体積%とするとよい。
【0045】
さらに酸化処理工程は大気中で行うことも可能であるが、そのときの酸化雰囲気の露点は−40℃以下さらには−50℃以下とすると好ましい。軟磁性粉末の加熱温度は、酸化雰囲気中のガス組成(特に酸素濃度)にも依るが、800〜1100℃さらには850〜1050℃とするとよい。加熱時間は、酸化雰囲気中の酸素濃度や加熱温度にも依るが、0.5〜10時間さらには1〜3時間とすると効率的である。
【0046】
なお、軟磁性粒子中のAlが過多になると、酸化アルミニウムが当初から軟磁性粒子の表面に生成され易くなり、もはや、非酸化処理工程を行っても、酸化鉄から酸化アルミニウムへの変化は生じ難い。
【0047】
ちなみに、酸化アルミニウムからなる絶縁層は、上述したように粉末段階から予め形成される場合の他、酸化粒子からなる粉末の加圧成形体を、非酸化雰囲気で高温加熱(例えば焼鈍)することによっても形成可能である。すなわち、AlおよびSiを含む鉄合金からなる軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子へ低融点ガラスを付着させてなる磁心用粉末を加圧成形し、その成形体を非酸化雰囲気で加熱することにより、軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)が形成されるようにしてもよい。この際、第1被覆層と第2被覆層の形成が並行して進行することになる。
【0048】
《ガラス付着工程》
ガラス付着工程は、軟磁性粒子の表面に形成された絶縁層上に低融点ガラスを付着させる工程である。例えば、低融点ガラスからなる微粒子(ガラス微粒子)を付着させる場合なら、ガラス付着工程は湿式で行っても乾式で行ってもよい。例えば湿式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と絶縁層形成工程後の軟磁性粒子とを分散媒中で混合した後、それを乾燥させる湿式付着工程とすることができる。また乾式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と絶縁層形成工程後の軟磁性粒子とを分散媒を介さずに混合する乾式付着工程とすることができる。湿式であればガラス微粒子を軟磁性粒子の絶縁層表面に均一に付着させ易い。乾式の場合、乾燥工程を省略できて効率的である。
【0049】
低融点ガラスは、磁心用粉末の成形体(本明細書では適宜、この成形体も含めて「圧粉磁心」という。)を焼鈍する際に軟化または溶融する。このため磁心用粉末の調製段階で低融点ガラスは軟化または溶融される必要はない。但し、本発明は、磁心用粉末の調製段階で低融点ガラスが加熱される場合を除くものではない。
【0050】
《圧粉磁心の製造》
本発明の圧粉磁心は、所望形状のキャビティを有する金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、その磁心用粉末を加圧成形して成形体とする成形工程と、その成形体を焼鈍する焼鈍工程とを経て得られる。ここでは成形工程と焼鈍工程について説明する。
【0051】
(1)成形工程
成形工程で軟磁性粉末に印加される成形圧力は問わないが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。このような高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法がある。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ前記磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と金型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。
【0052】
ここで「温間」とは、表面被膜(または絶縁被膜)への影響や高級脂肪酸系潤滑剤の変質などを考慮して、例えば、成形温度を70℃〜200℃さらには100〜180℃とすることをいう。この金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多の公報に詳細が記載されている。この金型潤滑温間高圧成形法によれば、金型寿命を延しつつも超高圧成形が可能となり、高密度な圧粉磁心を容易に得ることが可能となる。
【0053】
(2)焼鈍工程
磁心用粉末の成形体中に残留した歪みや応力を除去して、圧粉磁心の保磁力やヒステリシス損失の低減を図るために、焼鈍工程がなされる。このときの焼鈍温度は、軟磁性粒子や低融点ガラスの種類に応じて適宜選択され得るが、400℃以上、500℃以上、650℃以上、700℃以上さらには800℃以上であると好ましい。なお、本発明に係る絶縁層は耐熱性に優れるため、高温焼鈍しても絶縁層の高絶縁性と高バリヤー性は維持される。従って、本発明の圧粉磁心では、ヒステリシス損失の大幅な低減と併せて圧粉磁心の高比抵抗化および高強度化を図れる。もっとも、効率化の観点から、焼鈍温度は1000℃以下、950℃以下さらには920℃以下であると好ましい。加熱時間は、例えば0.1〜5時間さらには0.5〜2時間であれば十分であり、加熱雰囲気は不活性雰囲気とすると好ましい。
【0054】
《圧粉磁心》
(1)被覆層
本発明に係る第1被覆層または第2被覆層は、層厚(膜厚)を問わないが、それらが過小では圧粉磁心の比抵抗や強度の向上を十分に図れず、過大では圧粉磁心の磁気特性の低下を招来する。
【0055】
第1被覆層の厚さは、その形成方法にも依るが、軟磁性粒子を酸化処理したり、その酸化処理後に非酸化処理する場合なら、0.1〜3μmさらには0.5〜1.5μmであると好ましい。また第2被覆層の厚さも、その形成方法にも依るが、0.3〜10μmさらには0.8〜5μmであると好ましい。なお、各層(被覆層)は軟磁性粒子の一粒毎に形成されていることが理想的であるが、部分的に数個の粒子からなる塊状物に対して各被覆層が形成されていてもよい。
【0056】
(2)本発明の圧粉磁心は、その詳細な特性を問わないが、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ)に対する圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ)が90%以上、95%以上さらには97%以上であると、高磁気特性が得られて好ましい。
【0057】
圧粉磁心の比抵抗は、形状に依存しない圧粉磁心ごとの固有値であり、例えば、25μΩ・m以上、50μΩ・m以上、10μΩ・m以上、10μΩ・m以上さらには10μΩ・m以上であると好ましい。また圧粉磁心は、高強度であるほどその用途が拡大するため、例えば、曲げ強度が40MPa以上、70MPa以上さらには100MPa以上であると好ましい。
【0058】
(3)用途
本発明の圧粉磁心は、その形態を問わず、各種の電磁機器、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等に利用され得る。具体的には、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心に本発明の圧粉磁心は好適である。ちなみに駆動用モータは自動車等に用いられる。
【実施例】
【0059】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本実施例では、先ず、表面が絶縁層で被覆された軟磁性粒子からなる粉末(絶縁被覆粉末)を製造した後(絶縁層形成工程)、その絶縁層上に低融点ガラスを付着させた粒子からなる磁心用粉末を製造した(ガラス付着工程)。次に、この磁心用粉末を加圧成形し(成形工程)、得られた成形体を焼鈍した(焼鈍工程)。こうして得られた各圧粉磁心について、その比抵抗および曲げ強度を測定し、評価した。具体的には以下のようにして行った。
【0060】
《絶縁被覆粉末の製造》
[軟磁性粉末(原料粉末)]
軟磁性粉末として、表1に示す組成の鉄合金からなるガス水アトマイズ粉を用意した。各軟磁性粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。こうして得られた各軟磁性粉末の粒度を、表1に併せて示した。なお、本明細書でいう粉末粒度「x−y」は、篩目開きがx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。同様に、粉末粒度「−y」は、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。ちなみに、いずれの軟磁性粉末にも、粒度が5μm未満である軟磁性粒子が含まれていないことはSEMにより確認している。
【0061】
[絶縁層形成工程](試料1〜15および試料C1)
(1)酸化処理工程
各原料粉末を回転炉に入れ、表1に示す酸素濃度(残部は窒素ガス)の雰囲気ガスが0.5L/minの割合で流れる酸化雰囲気中で、表1に示す条件下(温度と時間)で加熱した。なお、表1に示す大気には、露点が−60℃のものを用いた。こうして表面が酸化された軟磁性粒子(酸化粒子)からなる酸化粉末を得た。
【0062】
(2)非酸化処理工程
同じ回転炉を用いて、窒素ガス(露点:−60℃)が0.5L/minの割合で流れる非酸化雰囲気中で、各酸化粉末をさらに900℃×1時間加熱した。こうして軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成された絶縁被覆粒子からなる粉末を得た。なお、本明細書では、適宜、表面に絶縁層が形成された粉末を絶縁被覆粉末という。
【0063】
[比較試料]
(1)試料C2、C3
表面に酸化ケイ素からなる絶縁層が形成された軟磁性粒子からなる絶縁被覆粉末も用意した。用いた各原料粉末の組成および粒度は表1に併せて示した。この絶縁層は、各原料粉末を、酸素ポテンシャルを調整した雰囲気にて熱処理を行なった。具体的には900℃×3時間、水素中で熱処理して形成されたものである。
【0064】
(2)試料C4
表面に酸化鉄からなる絶縁層が形成された軟磁性粒子からなる絶縁被覆粉末も用意した。用いた原料粉末の組成および粒度は表1に併せて示した。この絶縁層は、原料粉末を、750℃×1時間、酸素濃度10vol%で熱処理を行なって形成されたものである。
(3)試料C5
表面にシリコーン樹脂からなる絶縁層が形成された軟磁性粒子からなる絶縁被覆粉末も用意した。用いた原料粉末の組成および粒度は表1に併せて示した。この絶縁層は、市販のシリコーン樹脂(MOMENTIVE社製、「YR3370」)を原料粉末に対して0.2質量%溶解させたコーティング樹脂液に原料粉末を投入し、エタノールを揮発させた後、250℃でシリコーン樹脂を硬化させて形成されたものである。
【0065】
《磁心用粉末の製造/ガラス付着工程》
試料C1を除き、上述した各絶縁被覆粉末の各粒子に、表2に示した低融点ガラス群から抽出した表1に示す各低融点ガラスを、以下のようにして付着させた磁心用粉末を製造した。なお、表2には、低融点ガラスの組成に加えて本明細書でいう軟化点も併せて示した。
【0066】
(1)ガラス微粒子の調製
低融点ガラスとして、表2に示す各組成を有する市販のガラスフリット(日本琺瑯釉薬社製)を用意した。各ガラスフリットを湿式粉砕機(ダイノーミル:シンマルエンタープライズ社製)のチャンバーへ投入し、攪拌用プロペラを作動させて、各ガラスフリットを微粉砕した。この微粉砕したものを回収して乾燥させた。こうして各種の低融点ガラスからなるガラス微粒子の粉末を得た。得られたガラス微粒子の粒径(粒度)は、いずれも軟磁性粒子よりも小さく、最大粒径が約5μmであった。なお、この粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析によって特定した。
【0067】
(2)乾式コーティング
絶縁被覆粉末とガラス微粒子粉末とを回転ボールミルで攪拌した。攪拌後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして表面にガラス微粒子が付着した絶縁被覆粒子からなる磁心用粉末を得た。なお、ガラス微粒子粉末(低融点ガラス)の添加量は、磁心用粉末全体を100質量%として表1に併せて示した。
【0068】
《圧粉磁心の製造》
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、金型潤滑温間高圧成形法により、円板状(外径:φ23mm×厚さ2〜3mm)の成形体を得た。この際、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。具体的には次のようにして各粉末を成形した。
【0069】
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。
【0070】
加熱した金型の内周面に、ステアリン酸リチウム(1%)の水分散液をスプレーガンにて10cm/分程度の割合で均一に塗布した。なお、この水分散液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。その他の詳細は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報等に記載に沿って行った。
【0071】
各磁心用粉末をステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ充填し(充填工程)、金型を130℃に保持したまま1568MPaで温間成形した(成形工程)。なお、この温間成形時、いずれの成形体も金型とかじり等を生じることはなく、低い抜圧で金型からの取り出しが可能であった。
【0072】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスが0.5L/minの割合で流れる非酸化雰囲気中で1時間加熱した。そのときの加熱温度(焼鈍温度)は表1に併せて示した。こうして表1に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0073】
《圧粉磁心の測定・観察》
(1)各圧粉磁心の比抵抗および曲げ強度を求めた。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した電気抵抗と、各試料を実際に採寸して求めた体積とから算出した。曲げ強度は、円板状の試料に対して3点曲げ強度試験より算出した。これらの結果を表1に併せて示した。また、各試料の比抵抗と曲げ強度の関係を図2に示した。なお、表1中にある比抵抗欄に示した「>10」は、測定試料の比抵抗が大きくて、測定限界を超えたこと(オーバーレンジ)を示す。
【0074】
(2)試料2と試料C2の圧粉磁心について、隣接する軟磁性粒子間(隣接する軟磁性粒子の粒界部)を、電子プローブマイクロアナライザ (EPMA)により観察した。これにより得られた各EPMA像(反射電子像(BSE像)と各元素の分布像)を図3(試料2)と図4(試料C2)にそれぞれ示した。
【0075】
《圧粉磁心の評価》
(1)特性
表1および図2から明らかなように、軟磁性粒子の表面が酸化アルミニウムからなる絶縁層で被覆されていると共にその粒界に低融点ガラスが存在する圧粉磁心(試料1〜10)では、十分な比抵抗および曲げ強度が発揮されていることがわかる。
【0076】
また、酸化処理中の酸素濃度を低くした磁心用粉末を用いても、十分な比抵抗が得られていることもわかった(試料8、9)。なお、粒度の小さい軟磁性粉末を用いた圧粉磁心ほど、比抵抗が増加する傾向にあることもわかった(試料6〜9)。
【0077】
但し、軟磁性粒子の表面が酸化アルミニウムからなる絶縁層で被覆されていても、粒界に低融点ガラスを含まない圧粉磁心の場合(試料C1)、比抵抗および強度が必ずしも十分ではなかった。逆に、粒界に低融点ガラスが含まれていても、軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成されていない場合、比抵抗が大幅に低下したり(試料C2〜C4)、強度が不十分となることもわかった(試料C5)。
【0078】
(2)粒界構造
図3図4および表1から次のことがわかる。酸化アルミニウムの絶縁層で被覆された軟磁性粒子からなる圧粉磁心の場合(試料2)、軟磁性粒子の表面にはAlとOが濃化した酸化アルミニウム層(第1被覆層)が形成されており、隣接する軟磁性粒子の粒界にはSi、Zn、O等が濃化した低融点ガラス層(第2被覆層)が形成されている。そして、軟磁性粒子の主成分であるFeは粒界側に拡散していないと共に、低融点ガラスの主成分であるSi、Zn、Oも軟磁性粒子側へ拡散していない。従って、軟磁性粒子の表面を覆う酸化アルミニウム層が、それらの拡散を抑制するバリヤー層として機能していることが確認できた。
【0079】
一方、酸化ケイ素の絶縁層で被覆された軟磁性粒子からなる圧粉磁心の場合(試料C2)、低融点ガラスの主成分の一つであるZnが酸化ケイ素の絶縁層を通過して軟磁性粒子側へ拡散していることがわかる。逆にいえば、軟磁性粒子中のFeも酸化ケイ素の絶縁層を通過して低融点ガラス側へ拡散することが推察される。
【0080】
そして、試料C2の比抵抗が試料2の比抵抗に対して極端に低くなっているのは、そのような拡散現象に依ると考えられる。つまり、試料C2の場合、軟磁性粒子と低融点ガラスの間で生じる拡散現象により、隣接する軟磁性粒子の粒界に抵抗値の低い導電性物質が生成され、これにより圧粉磁心の比抵抗が低下したと考えられる。逆に、試料2では、軟磁性粒子の表面を覆う酸化アルミニウムの絶縁層(第1被覆層)がバリヤ−層となって拡散現象を抑制する結果、第1被覆層および第2被覆層が本来の絶縁性を発揮し、高比抵抗な圧粉磁心が得られたと考えられる。
【0081】
《絶縁層》
上述した試料1〜C1に係る絶縁層が、酸化アルミニウムからなることは次のことからわかる。
【0082】
(1)試料の製造
軟磁性粉末として、Si含有鉄合金(Fe−6%Si−2%Al/合金組成は特に断らない限り質量%とする。)からなるガス水アトマイズ粉(Si含有粉末)と、Si非含有鉄合金(Fe−3%Al)からなるガス水アトマイズ粉(Si非含有粉末)とを用意した。
【0083】
これら各粉末に、試料1と同様な酸化処理と非酸化処理を施した。各粉末から任意に抽出した粉末粒子について、オージェ電子分光分析(AES)を行い、各粒子の表面近傍(最表面から2000nmの深さまでの範囲)の成分組成を調べた(図6C図7)。なお、Si含有粉末については、処理前の原料粉末および酸化処理後の粉末(酸化粉末)についても同様に成分組成を調べた(図6Aおよび図6B)。
【0084】
(2)評価
Si含有粉末の場合、図6Aおよび図6Bからわかるように、原料粉末に酸化処理を行うことにより、その粒子表面の近傍で、Al量が増加する一方、Fe量およびSi量は減少している。これは、粉末粒子の表面でAlの一部が酸化されて濃化した結果、FeおよびSiがその分、希釈されたためと考えられる。但し、この段階では、いずれの元素量もさほど大きく変動はしていないことから、酸化粉末の粒子表面近傍は、Fe、Al等の複数種の酸化物が混在した状態になっていると考えられる。
【0085】
この酸化粉末に非酸化処理を行うと、図6Cからわかるように、粒子表面近傍において、O量は殆ど変動せず、Fe量が急減する一方でAl量が急増している。しかも、O量とAl量は表面から奥深くまでほぼ同組成となっている。これらのことから、非酸化処理によって、粒子表面近傍に存在していた酸化物(Fe、Al等)の大部分が、酸化アルミニウムに収束したと考えられる。つまり、非酸化処理により、粒子表面に存在していた酸化鉄中のOが、Feから離れてAlと新たに結合し、酸化アルミニウムを生成するに至ったと考えられる(図5A図5C参照)。
【0086】
一方、Si非含有粉末の場合、Si含有粉末と同様な酸化処理および非酸化処理を行っても、図7からわかるように、粒子表面にあるO量およびAl量は僅かであり、粒子表面に酸化アルミニウムは殆ど生成されないと考えられる。従って、原料粉末中にAlおよびSiが含まれる場合に、粒子表面に酸化アルミニウムからなる絶縁層が安定的に形成され易いことがわかった。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
図1
図2
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図3
図4