特許第6048394号(P6048394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000002
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000003
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000004
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000005
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000006
  • 特許6048394-トロイダル式無段変速機 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048394
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】トロイダル式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   F16H15/38
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-266420(P2013-266420)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-121298(P2015-121298A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敏成
(72)【発明者】
【氏名】富田 充朗
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−063136(JP,A)
【文献】 特開平11−294550(JP,A)
【文献】 特開2002−295619(JP,A)
【文献】 特開2005−016576(JP,A)
【文献】 特開平11−141635(JP,A)
【文献】 特開2003−343673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のディスクにおける回転中心軸線方向で対向する面がトロイダル面に形成されかつ該一対のディスクにより形成されたキャビティを2つ有するとともに、それらのディスクに挟み付けられてそれらのディスクの間でトルクを伝達する2つのローラがそれぞれトラニオンによって回転自在に保持され、それらのトラニオンに設けられているトラニオン軸同士がリンク機構によって連結されているトロイダル式無段変速機において、
前記リンク機構は、前記各キャビティに設けられたローラを保持するトラニオン同士を、該キャビティから抜け出す方向の移動を阻止しかつトラニオン軸の軸線方向に相対的に移動するように連結する第1リンク部と、一方のキャビティに配置された第1ローラを保持する第1トラニオンおよび前記トラニオン軸の軸線方向において前記第1ローラと同一方向に移動する前記他方のキャビティに配置された第2ローラを保持する第2トラニオンを、前記トラニオン軸の軸線方向で同一方向に移動させるように連結する第2リンク部とを備え、
前記第2リンク部は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとの前記トラニオン軸の軸線方向における相対位置のずれを許容するずれ吸収機構を有している
ことを特徴とするトロイダル式無段変速機。
【請求項2】
前記ずれ吸収機構は、前記第2リンク部の少なくとも一部に設けられた弾性変形部によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項3】
前記ずれ吸収機構は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとの少なくとも一方のトラニオンと前記第2リンク部との間に設けられた隙間によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項4】
前記第1リンク部は、該第1リンク部によって連結されたトラニオン同士が前記トラニオン軸の軸線方向で反対側に移動することができるように、前記トラニオン同士の間で揺動可能にかつ前記トラニオン軸の軸線方向への移動を規制されて保持されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項5】
前記第2リンク部は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとを、それぞれ回転可能に保持するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のトロイダル式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力ディスクと出力ディスクとの間にトラニオンで保持されたローラを挟み込んで、入力ディスクから出力ディスクにローラを介してトルクを伝達するように構成されたトロイダル式無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トロイダル型無段変速機は、互いに対向する面をトロイダル面とした入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み付け、そのパワーローラが傾転することにより変速が生じるように構成されている。そのパワーローラは、トラニオン軸の軸線方向に前後動しかつその軸線を中心に回転するトラニオンによって保持されており、そのトラニオンを軸線方向に前後動させるアクチュエータが各トラニオンごとに設けられ、トラニオン軸はそのアクチュエータに対して中心軸線を中心にして回転できるように連結されている。トロイダル面同士の間隔がディスクの外周側で次第に広くなるように構成されてハーフトロイダル型の無段変速機では、各ディスクがパワーローラを挟み付けることによる荷重によってパワーローラをディスクの外周側に向けて押し出す力が生じる。その力に対抗してパワーローラを各ディスクの間(すなわちキャビティの内部)に保持するために、各トラニオンはリンクによって連結されている。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、2対のディスクを備えたいわゆるダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機が記載されている。各キャビティは、同一の軸線上に並んで配置され、各キャビティにおける一方のディスク(例えば出力ディスク)が互いに背合わせに配置され、他方のディスク(例えば入力ディスク)は前記一方のディスクにそれぞれ対向するように軸線方向での両端部側に配置され、各キャビティごとにそれぞれのディスクの間に一対のパワーローラが配置されている。各キャビティごとのパワーローラは上述したようにそれぞれトラニオンによって保持されており、またそのトラニオン同士がリンクによって連結されている。これと同様に、一方のキャビティにおけるトラニオンと他方のキャビティにおけるトラニオンとが連結されている。このように各キャビティに亘ってトラニオンを連結する部材として、特許文献1には、各キャビティにおけるトラニオン同士を連結するリンクと同様の構成のリンクが記載されている。また、特許文献2には、一方のキャビティにおけるリンクに、そのリンクから他方のキャビティに向けて延びた連結部を一体に形成し、その連結部に他方のキャビティにおけるリンクをボルトなどの締結部材によって締結した構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−294550号公報
【特許文献2】特開2000−230622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された構成は、結局、4本のリンクを矩形状もしくは井桁状に組み、それぞれのリンクの交差部にトラニオン軸を軸受を介して連結した構成になっている。したがって、各それぞれのキャビティにおけるトラニオン同士が互いに反対方向(トラニオン軸の軸線方向で反対方向)に相対移動でき、そればかりか、異なるキャビティのトラニオンであって互いに隣接するトラニオンであってもそれぞれのトラニオン軸の軸線方向に相対的に移動することができる。これらのトラニオンおよびそのトラニオンで保持されているパワーローラは、各キャビティで同一の変速動作をする必要があるのであるから、同期して軸線方向に移動する必要があり、特許文献1に記載された構成では、これに反して上記の互いに隣接するトラニオンおよびこれによって保持されているパワーローラが異なる動作を行ってしまい、その結果、ダブルキャビティ型トロイダル式無段変速機の全体としての動力伝達効率や最大トラクション係数などが悪化する可能性がある。
【0006】
これに対して特許文献2に記載された構成は、従来矩形枠状に形成されていたリンクを、組み付け性を考慮して2部品化したものであり、したがって上記の連結部に他方のキャビティのリンクを連結した状態では、矩形枠状のリンクが形成される。すなわち、キャビティを亘ってトラニオンを連結している上記の連結部は、結局は、各キャビティにおけるトラニオン同士を連結しているリンクと同様に機能する。そのため、これらのトラニオンの軸線方向への移動を同期させることができるが、その反面、いずれか一方のトラニオンに位置のずれがあると、連結部は、そのずれと同様なずれを他方のトラニオンに生じさせるように機能してしまう。言い換えれば、連結部によって連結されているトラニオン同士のずれをも連結部が同期させてしまうことになり、しかもそのようなずれを是正する機能がないので、結局は、ダブルキャビティ型トロイダル式無段変速機の全体としての動力伝達効率や最大トラクション係数などが悪化する可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目して成されたものであり、異なるキャビティに配置されているトラニオン同士のトラニオン軸の軸線方向に対する移動を同期させるとともに、それらのトラニオンのうちの一方のトラニオンの位置のずれが他方のトラニオンの位置に影響することを抑制することのできるトロイダル式無段変速機を提供することを目的とするものである。。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、一対のディスクにおける回転中心軸線方向で対向する面がトロイダル面に形成されかつ該一対のディスクにより形成されたキャビティを2つ有するとともに、それらのディスクに挟み付けられてそれらのディスクの間でトルクを伝達する2つのローラがそれぞれトラニオンによって回転自在に保持され、それらのトラニオンに設けられているトラニオン軸同士がリンク機構によって連結されているトロイダル式無段変速機において、前記リンク機構は、前記各キャビティに設けられたローラを保持するトラニオン同士を、該キャビティから抜け出す方向の移動を阻止しかつトラニオン軸の軸線方向に相対的に移動するように連結する第1リンク部と、一方のキャビティに配置された第1ローラを保持する第1トラニオンおよび前記トラニオン軸の軸線方向において前記第1ローラと同一方向に移動する前記他方のキャビティに配置された第2ローラを保持する第2トラニオンを、前記トラニオン軸の軸線方向で同一方向に移動させるように連結する第2リンク部とを備え、前記第2リンク部は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとの前記トラニオン軸の軸線方向における相対位置のずれを許容するずれ吸収機構を有していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ずれ吸収機構は、前記第2リンク部の少なくとも一部に設けられた弾性変形部によって構成されていることを特徴とするトロイダル式無段変速機である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記ずれ吸収機構は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとの少なくとも一方のトラニオンと前記第2リンク部との間に設けられた隙間によって構成されていることを特徴とするトロイダル式無段変速機である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記第1リンク部は、該第1リンク部によって連結されたトラニオン同士が前記トラニオン軸の軸線方向で反対側に移動することができるように、前記トラニオン同士の間で揺動可能にかつ前記トラニオン軸の軸線方向への移動を規制されて保持されていることを特徴とするトロイダル式無段変速機である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記第2リンク部は、前記第1トラニオンと前記第2トラニオンとを、それぞれ回転可能に保持するように構成されていることを特徴とするトロイダル式無段変速機である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、一方のキャビティに設けられたローラを保持するトラニオン同士が第1リンク部によりトラニオン軸の軸線方向に相対的に移動するように連結されている。また、一方のキャビティに配置された第1ローラを保持する第1トラニオンと、他方のキャビティに配置された第2ローラを保持する第2トラニオンとが第2リンク部によりトラニオン軸の軸線方向で同一方向に移動するように連結されている。したがって、第1リンク部に連結されたトラニオンおよび第2リンク部に連結されたトラニオンが同期してトラニオン軸の軸線方向に移動することができる。さらに、第2リンク部は、トラニオン軸の軸線方向における第1トラニオンと第2トラニオンとの相対位置のずれを許容するずれ吸収機構を有している。したがって、第1トラニオンと第2トラニオンとのいずれか一方がトラニオン軸の軸線方向において位置がずれている場合であっても、そのトラニオンの位置のずれが他方のトラニオンの位置に影響することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明に係るトロイダル式無段変速機に設けられたアッパーリンクの構成を説明するための正面図である。
図2図1におけるII-II線に沿う断面図である。
図3】アッパーリンクの他の構成を説明するための正面図である。
図4図3におけるIV-IV線に沿う断面図である。
図5】この発明の対象とするトロイダル式無段変速機の構成の一例を説明するための断面図である。
図6図5におけるVI-VI線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るトロイダル式無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとに挟まれたパワーローラを回転自在に保持するトラニオンを備え、そのトラニオンを連結するリンクに特徴を有するものであり、それら各ディスク、パワーローラ、トラニオン、各ディスクを押圧する推力発生機構、変速するための制御装置などは、従来知られているトロイダル式無段変速機に使用されているものと同様に構成されている。その一例が、特開2012−237370号公報に記載されている。その構成を図5および図6を参照して簡単に説明する。図5に示す例では、回転軸1と一体に回転するように嵌合させられた2つの入力ディスク2,3と、その入力ディスク2,3の間に配置されかつ回転軸1と相対回転可能に回転軸1に嵌合させられた2つの出力ディスク4,5とを備えている。したがって、回転軸1の一方の端部(図5における左側の端部)に嵌合させられた第1入力ディスク2とその第1入力ディスク2に対向して配置された第1出力ディスク4とにより第1キャビティ6が形成されている。同様に、回転軸1の他方の端部(図5における右側の端部)に嵌合させられた第2入力ディスク3とその第2入力ディスク3に対向して配置された第2出力ディスク5とにより第2キャビティ7が形成されている。すなわち、図5に示すトロイダル式無段変速機は、ダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機である。なお、第1出力ディスク4における第1入力ディスク2に対向した面とは反対側の面と、第2出力ディスク5における第2入力ディスク3に対向した面とは反対側の面との間には、出力ギヤ35が挟み込まれて配置されている。
【0016】
また、第1入力ディスク2と第1出力ディスク4とが対向した面、および第2入力ディスク3と第2出力ディスク5とが対向した面がトロイダル面に形成されており、そのトロイダル面の曲率中心が、各ディスク2,3,4,5の外周縁の近辺またはその外側にある。すなわち、図5に示すトロイダル式無段変速機は、トロイダル面同士の間隔がディスクの外周側で次第に広くなるように構成されたハーフトロイダル式無段変速機である。さらに、第1入力ディスク2と第1出力ディスク4とには、2つのパワーローラ8,9が挟まれて設けられ、第2入力ディスク3と第2出力ディスク5とには、2つのパワーローラ10,11が挟まれて設けられている。
【0017】
上述したように構成されたトロイダル式無段変速機は、ディスクとパワーローラとの間に介在するオイルの剪断力によりトルクを伝達するものであり、したがって、各ディスク2,3,4,5を押圧する推力発生機構12を備えている。図5に示す例では、油圧シリンダ13に供給される油圧に基づいて各ディスク2,3,4,5を押圧するように構成された推力発生機構を示しているが、カム機構やねじ機構など他の機構によって推力を発生させることもできる。
【0018】
各対ディスク2,4(3,5)にパワーローラ8,9(10,11)を挟み付ける構成では、パワーローラ8,9,10,11の回転中心軸線に沿って回転軸1の半径方向における外側にパワーローラ8,9,10,11が押圧される。そのため、パワーローラ8,9,10,11は回転軸1の半径方向における外周側に移動することが抑制されている。その状態で、各パワーローラ8,9,10,11は、鉛直方向に配置されたトラニオン14,15,16,17により回転自在に保持されている。なお、各パワーローラ8,9,10,11を保持するトラニオン14,15,16,17の構成はほぼ同一なので、第1キャビティ6に設けられたパワーローラ8,9を保持するトラニオン14,15の構成のみを説明する。
【0019】
図6は、そのトラニオン14,15の構成を説明するための断面図である。図6に示すようにトラニオン14は、鉛直方向におけるパワーローラ8の上下および第1キャビティ6の外周側の側面を囲うように形成された本体部14aと、その本体部14aから鉛直方向における上下方向に突出した第1トラニオン軸14bを備えている。同様に第2トラニオン15は、鉛直方向におけるパワーローラ9の上下および第1キャビティ6の外周側の側面を囲うように形成された本体部15aと、その本体部15aから鉛直方向における上下方に突出した第2トラニオン軸15bを備えている。そして、それら各トラニオン軸14b,15bは後述するアッパーリンク20とロアーリンク21とに回転自在に保持されている。したがって、各トラニオン軸14b,15bは、上述したように回転軸1の半径方向の外側にパワーローラ8,9が押圧されて第1キャビティ6から抜け出すことを抑制している。
【0020】
このトラニオン14,15は、上述したように各パワーローラ8,9が第1キャビティ6から抜け出すことを抑制する機能に加えて、パワーローラ8,9を鉛直方向に移動させて変速させる機能を有している。したがって、トラニオン14,15を上下動させるための油圧アクチュエータ18,19が、トラニオン軸14b,15bの下方側の端部に連結されている。この油圧アクチュエータ18,19によりトラニオン14,15が上下方向に押圧されて移動すると、パワーローラ8,9が各ディスク2,4に接触する部分でのパワーローラ8,9の接線方向と各ディスク2,4の回転方向とが異なる。そのため、パワーローラ8,9にはサイドスリップが生じてトラニオン軸14b,15bの中心軸線X1 ,X2 を中心にパワーローラ8,9とトラニオン14,15とが回転する。その結果、入力ディスク2とパワーローラ8,9とが接触する位置から回転軸1の中心軸線までの距離と、出力ディスク4とパワーローラ8,9とが接触する位置から回転軸1の中心軸線までの距離とが変化して変速させられる。
【0021】
なお、そのように変速する場合には、第1キャビティ6に設けられた一方のパワーローラ(以下、第1パワーローラ8と記す。)と第1キャビティ6に設けられた他方のパワーローラ(以下、第2パワーローラ9と記す。)とが上下方向で反対方向(ディスク2,3,4,5の回転方向では同一方向)に移動させられる。同様に第2キャビティ7に設けられた一方のパワーローラ(以下、第3パワーローラ10と記す。)と第2キャビティ7に設けられた他方のパワーローラ(以下、第4パワーローラ11と記す。)とが上下方向で反対方向に移動させられる。さらに、出力ギヤ35を挟んで第1パワーローラ8と反対側に設けられた第3パワーローラ10は、第1パワーローラ8と上下方向で同一方向に移動させられ、同様に出力ギヤ35を挟んで第2パワーローラ9と反対側に設けられた第4パワーローラ11は、第2パワーローラ9と上下方向で同一方向に移動させられる。また、変速した後には、上下方向に移動させられたトラニオン14,15が元の位置に戻される。言い換えると、各パワーローラ8,9とディスク2,4との接触部でのパワーローラ8,9の接線方向とディスク2,4の回転方向とが一致する位置にトラニオン14,15が移動させられる。以下の説明では、その位置を中立点と表記する。
【0022】
上述したように各パワーローラ8,9は、各ディスク2,4に押圧されて回転軸1の半径方向における外側に向けた荷重を受ける。また、変速比が「1」のときには、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9との回転中心軸線が同一の直線上に一致する。そのため、上記のように各ディスク2,4が各パワーローラ8,9を挟み付けた場合には、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とが回転中心軸線方向に互いに離隔する方向に荷重を受ける。なお、第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とも同様に回転中心軸線方向で互いに離隔する方向に荷重を受ける。
【0023】
一方、変速比が「1」以外のときには、第1パワーローラ8の回転中心軸線と第2パワーローラ9の回転軸とが交差するように傾転する。同様に、第3パワーローラ10の回転中心軸線と第4パワーローラ11の回転中心軸線とが交差するように傾転する。そのため、上述したように第1入力ディスク2および第1出力ディスク4から第1パワーローラ8および第2パワーローラ9が荷重を受ける場合には、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とが回転中心軸線方向で互いに離隔する方向の荷重成分と、回転軸1の中心軸線に平行な方向の荷重成分とが生じる。同様に、第2入力ディスク3および第2出力ディスク5から第3パワーローラ10および第4パワーローラ11が荷重を受ける場合には、第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とが回転中心軸線方向に互いに離隔する方向の荷重成分と、回転軸1の中心軸線に平行な方向の荷重成分とが生じる。その回転軸1の中心軸線に平行な方向の荷重成分は、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とが同一方向となり、同様に第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とが同一方向となる。また、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とが受ける荷重の向きと、第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とが受ける荷重の向きが反対方向となる。
【0024】
そのため、この発明に係るトロイダル式無段変速機は、上記した各トラニオン14,15,16,17を連結して圧縮応力または引っ張り応力として各パワーローラ8,9,10,11に作用する荷重を受け持つようにアパ−リンク20とロアーリンク21とを備えている。なお、アッパーリンク20とロアーリンク21とは同一の構成にすることができるので、以下の説明では、アッパーリンク20を例に挙げて説明する。また、これらアッパーリンク20およびロアーリンク21がこの発明におけるリンク機構に相当する。図1には、そのアッパーリンク20の構成の一例を示してある。図1に示すアッパーリンク20は、第1パワーローラ8を保持する第1トラニオン14と、第2パワーローラ9を保持する第2トラニオン15とを連結する第1リンク部材22と、第3パワーローラ10を保持する第3トラニオン16と、第4パワーローラ11を保持する第4トラニオン17とを連結する第2リンク部材23と、第1トラニオン14と第3トラニオン16とを連結する第3リンク部材24と、第2トラニオン15と第4トラニオン17とを連結する第4リンク部材25とによって構成されている。なお、第1リンク部材22および第2リンク部材23が、この発明における第1リンク部に相当し、第3リンク部材24および第4リンク部材25が、この発明における第2リンク部に相当する。
【0025】
また、第3リンク部材24と第4リンク部材25とは、厚み方向に撓み変形することができるように構成されている。具体的には、比較的剛性(ヤング率)の低い材料により形成され、あるいは各リンク部材24,25の長手方向における中央部の断面二次モーメントが比較的小さくなるように形成されている。なお、第1リンク部材22および第2リンク部材23は、厚み方向へ撓み変形することがないように、第3リンク部材24および第4リンク部材25よりも剛性の高い材料により形成され、あるいは第3リンク部材24および第4リンク部材25よりも断面二次モーメントが大きく形成されている。
【0026】
上述した各リンク部材22,23,24,25には、各トラニオン14,15,16,17が嵌合されている。より具体的には、各トラニオン14,15,16,17のトラニオン軸14b,15b,16b,17bが嵌合されている。その構成の一例を説明するための断面図を図2に示してある。図2に示す例では、第1リンク部材22と第3リンク部材23とが嵌合された状態を示している。なお、他のリンク部材も同様に構成することができるので、以下では、第1リンク部材22と第3リンク部材23とが嵌合されている状態を例に挙げて説明する。図2に示す例では、第1リンク部材22の一方の端部に板厚方向に貫通した第1貫通孔26が形成されている。また、第3リンク部材24の一方の端部には、下面側に突出した円筒部27が形成されているとともに、その円筒部27と同一軸線上に第2貫通孔28が形成されている。この円筒部27および第2貫通孔28は、第1トラニオン軸14bの上端部が挿入されるように構成されているので、その半径は、第1トラニオン軸14bの上端部の半径以上に形成されている。上述したように第1トラニオン14は、第1トラニオン軸14bの中心軸線を中心として回転するものであるので、円筒部27と第1トラニオン軸14bとの間にはニードル軸受29が設けられている。
【0027】
一方、第1リンク部材22には、長手方向における中間部に幅方向に貫通した第3貫通孔30が形成され、その第3貫通孔30に図示しないケースなどの固定部に連結されたピンが挿入されている。すなわち、第1リンク部材22は、第3貫通孔30を中心に揺動することができるように構成されている。なお、第2リンク部材23も同様に図示しないピンにより揺動可能に保持されている。したがって、第1リンク部材22の長軸と第1トラニオン軸14bの中心軸線とが傾斜する場合がある。そのため、円筒部27の外側には、外周面の断面形状が円弧状に形成された円筒部材31が嵌合されている。すなわち、第1リンク部材14の長軸が第1トラニオン軸14bの中心軸線と傾斜するように第1リンク部材14が傾斜したときであっても、常時、第1貫通孔26の内壁面と円筒部材31の外周面とが接触するように構成されている。
【0028】
円筒部27および円筒部材31の下端面と第1トラニオン14との上下方向における隙間に第1ワッシャ32が設けられ、また第3リンク部材24の上面に第2ワッシャ33が設けられている。そして、第2ワッシャ33の上面に接触して、第2ワッシャ33が上方に移動することを規制するようにスナップリングなどの固定部材34が第1トラニオン軸14bの上端部に軸線方向に係合して設けられている。すなわち、第1トラニオン14が第3リンク部材24に上下方向で一体化されている。
【0029】
つぎに、上述したように構成されたアッパーリンク20の作用について説明する。上述したように第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とがそれらの回転中心軸線に沿って回転軸1の半径方向の外側に向けて離隔する荷重が第1リンク部材22に作用する。その第1リンク22に作用する荷重は、第1リンク部材22の長手方向にそれぞれ対抗して作用する。そのため、第1リンク部材22は、引っ張り応力としてその荷重を受け持つ。同様に第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とがそれらの回転中心軸線に沿って回転軸1の半径方向の外側に向けて離隔する荷重が第2リンク部材23に作用する。そのため、第2リンク部材23は引っ張り応力としてその荷重を受け持つ。また、第1パワーローラ8と第2パワーローラ9とが回転軸1の中心軸線に平行な方向に受ける荷重および第3パワーローラ10と第4パワーローラ11とが回転軸1の中心軸線に平行な方向に受ける荷重が第3リンク部材24および第4リンク部材25に作用する。その第3リンク部材24および第4リンク部材25に作用する荷重も、同様に第3リンク部材24および第4リンク部材25の長手方向にそれぞれ対抗して作用する。この第3リンク部材24および第4リンク部材25に作用する荷重は、変速比に応じて圧縮方向と引っ張り方向とが異なる。したがって、第3リンク部材24と第4リンク部材25とは、圧縮応力または引っ張り応力としてその荷重を受け持つ。
【0030】
また、上記のように各リンク部材22,23,24,25が各トラニオン軸14b,15b,16b,17bから荷重を受けることにより、第1貫通孔26の内壁面と円筒部材31の外周面とには摩擦力が生じる。そのため、第2トラニオン15が上下動すると、第1リンク部材22が第3貫通孔30を中心に揺動し、第1トラニオン14を上下動させる。上述したように第1トラニオン14と第2トラニオン15とはそれぞれ上下方向において反対方向に移動するものであり、したがって、第1トラニオン14と第2トラニオン15とが同期して上下動することができる。すなわち、第1トラニオン14の移動量と第2トラニオン15の移動量とを一致させることができる。さらに、第1トラニオン14と第3トラニオン16とが第3リンク部材24により上下方向に一体化されている。そのため、第1トラニオン14が上下動すると、第3トラニオン16も一体となって上下動する。上述したように第1トラニオン14と第3トラニオン16とはそれぞれ上下方向において同一方向に移動するものであり、したがって、第1トラニオン15と第3トラニオン16とが同期して上下動することができる。すなわち、第1トラニオン15と第3トラニオン16との移動量を一致させることができる。
【0031】
変速しない定常状態においては、第1入力ディスク2からパワーローラ8に伝達されたトルクを、第1出力ディスク4に伝達するために、第1トラニオン14が反力として機能する。そのため、その第1トラニオン14を上下動させる油圧アクチュエータ18の油圧は、伝達されるトルクに応じた推力を生じるように制御される。言い換えると、伝達されるトルクに基づいて第1トラニオン14に作用する上下方向の荷重と、油圧アクチュエータ18の油圧に基づいて第1トラニオン14に作用する上下方向の荷重とがバランスすることにより、第1トラニオン14を中立点に維持する。
【0032】
一方、上述したように第1トラニオン軸14bと第1リンク部材22とには摩擦力が作用するので、第1トラニオン14が中立点からわずかにずれる場合がある。具体的には、通常、各構成部材には加工精度や組み付け精度などによる不可避的な誤差があり、その誤差に基づいて第1トラニオン14と第3トラニオン16との位置が異なる場合がある。一方、上述したように第1トラニオン軸14bと第1リンク部材22とに生じる摩擦力に応じて上記第1トラニオン14と第3トラニオンとの位置が、上記のように加工上または組み付け上の不可避的な誤差に基づく位置の相違以上にずれる可能性がある。なお、以下の説明では、上述したように加工精度や組み付け精度に基づく各トラニオン同士の位置の相違量以上に各トラニオン同士の位置が相違することをずれという。
【0033】
そのように第1トラニオン14が中立点からわずかにずれる場合には、第3リンク部材24が厚み方向に撓み変形する。したがって、第1トラニオン14と一体に第3トラニオン16が上下動してしまうことを抑制することができる。そのため、第3トラニオン16に保持された第3パワーローラ10の上下方向の位置がずれることを抑制することやトルクを伝達するための反力が低下することを抑制することができる。その結果、第3パワーローラ10と第2入力ディスク3および第2出力ディスク5とに滑りが生じることを抑制することができるので、トロイダル式無段変速機全体としての動力伝達効率が低下しまたは最大トラクション係数が低下することを抑制することができる。言い換えると、いずれか一つのトラニオンの位置のずれが他のトラニオンの位置に影響することを抑制することができる。すなわち、いずれかのトラニオンの位置のずれを許容することができる。
【0034】
したがって、第3リンク部材24および第4リンク部材25における弾性変形する部分は、トラニオンの位置のずれを吸収するものであり、この発明におけるずれ吸収機構に相当する。なお、第3リンク部材24および第4リンク部材25の長手方向に作用する荷重は比較的小さいので、上述したように剛性の低い材料により形成した場合であっても、第1トラニオン14と第3トラニオン16とが離隔するように、あるいは第2トラニオン15と第4トラニオン17とが離隔するように変位することがない。
【0035】
上述したように第3リンク部材24あるいは第4リンク部材25を弾性変形させていずれかのトラニオンの位置のずれを許容する場合には、その位置がずれているトラニオンを是正するように第3リンク部材24または第4リンク部材25により弾性力を作用させることができる。
【0036】
なお、上述では、第1リンク部材22の上面に第3リンク部材24を接触させて配置した例を挙げて説明したが、図3および図4に示すように第1リンク部材22の下面に第3リンク部材24を接触させて配置してもよい。具体的には、第3リンク部材24の上面側に円筒部27を形成し、その円筒部27の上端面にワッシャ33を配置するように構成していてもよい。
【0037】
また、この発明に係るトロイダル式無段変速機は、要は、2つのキャビティに設けられたトラニオン同士をリンク部材によって連結させて、トラニオン軸の軸線方向で同一方向に移動させるとともに、トラニオン軸の軸線方向においてトラニオン同士の相対位置のずれを許容することができればよい。したがって、上述したように弾性変形するものに限らず、トラニオンの本体部とリンク部材との間に所定の隙間を空けて形成していてもよい。具体的には、リンク部材により保持されたトラニオン同士の少なくともいずれか一方のトラニオンとリンク部材とに隙間を形成していてもよい。なお、ここでの所定の隙間とは、加工精度や組み付け精度などの誤差により生じる誤差以上の隙間であって、例えば、一つのリンク部材により保持されるトラニオン同士に許容されるずれ量に基づいて定めることができる。
【0038】
そのように隙間を形成することにより、リンク部材により連結されたトラニオン同士が、トラニオン軸の軸線方向に相対的にずれた場合には、まず、隙間を詰めるようにトラニオンが移動し、その後に、各トラニオンが一体に移動するように、位置がずれているトラニオンに荷重を作用させることができる。その結果、トラニオン軸の軸線方向におけるトラニオン同士の相対位置のずれを許容するとともに、そのトラニオン同士を同期させるように荷重を作用させることができる。なお、上記トラニオンとリンク部材との隙間が、この発明におけるずれ吸収機構に相当する。
【0039】
なお、この発明におけるリンク機構は、複数の部材を組み合わせて構成したものであってもよく、一体に形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
2,3…入力ディスク、 4,5…出力ディスク、 6,7…キャビティ、 8,9,10,11…パワーローラ、 14,15,16,17…トラニオン、 14b,15b,16b,17b…トラニオン軸、 20…アッパーリンク、 21…ロアーリンク、 22,23,24,25…リンク部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6