特許第6048395号(P6048395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048395ポリアクリロニトリル系重合体、および炭素繊維前駆体繊維ならびに炭素繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048395
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ポリアクリロニトリル系重合体、および炭素繊維前駆体繊維ならびに炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/44 20060101AFI20161212BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20161212BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C08F220/44
   D01F9/22
   D01F6/18 E
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-268553(P2013-268553)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124263(P2015-124263A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年3月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 知久
(72)【発明者】
【氏名】都築 正博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 史宜
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−087826(JP,A)
【文献】 特開昭48−061730(JP,A)
【文献】 特開2008−248219(JP,A)
【文献】 特開2012−017461(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015210(WO,A1)
【文献】 特開昭47−028220(JP,A)
【文献】 特開2012−082541(JP,A)
【文献】 特開昭62−231078(JP,A)
【文献】 特開昭63−035821(JP,A)
【文献】 特開昭49−094924(JP,A)
【文献】 特開平01−321913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00、301/00
C08C 19/00−19/44
D01F 1/00−6/96、9/00−9/04
D01F 9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、2−エトキシアクリロニトリル、3−エトキシアクリロニトリル、および2−アセトキシアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種の脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーを1〜30モル%、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の耐炎化促進成分を0.1〜1モル%、およびアクリロニトリルを含むアクリロニトリル系モノマー組成物を重合して得られるポリアクリロニトリル系重合体。
【請求項2】
ポリアクリロニトリル系重合体を空気雰囲気下で100分間加熱した際、加熱後のニトリル基残存率が35%となる温度をTc℃とした時、示差走査熱量計により、空気中で昇温速度10℃/分として測定されたTc℃での発熱速度が1.4J/g/s以下である、請求項1に記載のポリアクリロニトリル系重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系重合体を湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により紡糸する炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法により製造された炭素繊維前駆体繊維を、180〜300℃の温度の空気中において耐炎化する耐炎化工程と、該耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化する予備炭化工程と、該予備炭化工程で得られた繊維を1000〜3000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎化工程を高糸条密度化するのに好適なポリアクリロニトリル系重合体、およびそのポリアクリロニトリル系重合体を用いた炭素繊維前駆体繊維ならびに炭素繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されており、さらなる生産性の向上の要請が高い。
【0003】
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維(以下、前駆体繊維と略記することがある)を得た後、それを180〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、少なくとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって工業的に製造されている。
【0004】
炭素繊維の生産性や設備の小型化により設備費を抑制するためには、一度に焼成する繊維の密度を上げる方法があるが、発熱反応が進行する耐炎化工程において、限られた空間内に存在する繊維の密度が高すぎると糸切れや発火が起こるという問題がある。耐炎化中の糸束を除熱する方法について、現在までに様々な提案がなされてきている。例えば、流動床を用いて除熱効率を高める方法(特許文献1参照)、冷却用ローラーを用いて糸条の温度をコントロールする方法(特許文献2参照)、有機化合物の蒸発蒸気を含む雰囲気で耐炎化する方法(特許文献3参照)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03―33220号公報
【特許文献2】特開平04―108117号公報
【特許文献3】特開2001―248025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、流動床を用いる方法では、粒子が炉外に漏れだしたり、設備の面で従来の方法より高コストになったりするといった問題があった。また、冷却用ローラーを用いる方法では除熱効率を上げるためにローラー本数を多くする必要があり、その分高コストとなるといった問題があった。 さらに、有機化合物の蒸発蒸気を含む雰囲気で耐炎化する方法では、有機化合物の蒸発蒸気の可燃性や人体への影響など取扱いが難しいという問題があった。
【0007】
以上の問題点から、耐炎化工程においては実質的には限られた糸条数で緻密な温度制御の下で長時間処理するという製造方法が用いられている。この耐炎化工程での制約が炭素繊維の生産性向上の大きな障害の一つとなっていた。
【0008】
そこで本発明は、新たな設備を必要とせずに高密度に耐炎化可能な炭素繊維前駆体繊維の製造に必要なポリアクリロニトリル系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明は、次の構成を有するものである。すなわち、本発明のポリアクリロニトリル系重合体は、共重合成分として脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーを1〜30モル%耐炎化促進成分を0.1〜1モル%、およびアクリロニトリルを含むアクリロニトリル系モノマー組成物を重合して得られることを特徴とする。
【0010】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体の好ましい態様によれば、ポリアクリロニトリル系重合体を空気雰囲気下で100分間加熱した際、加熱後のニトリル基残存率が35%となる温度をTc℃とした時、示差走査熱量計により、空気中で昇温速度10℃/分として測定されたTc℃での発熱速度が1.4J/g/s以下である。
【0011】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体は、脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマー、下記の式(1)または式(2)で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられるが、本発明で用いられる化合物は、その中でも、2−エトキシアクリロニトリル、3−エトキシアクリロニトリル、および2−アセトキシアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを必須とする。さらに、本発明で用いられる耐炎化促進成分は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを必須とする
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、XはOR,OCOR,SO,NR,Cl,Br,Iのいずれかから選ばれる。ここで、RおよびRは水素またはアルキル基を表す。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)中、XはOR,OCOR,SO,NR,Cl,Br,Iのいずれかから選ばれる。ここで、RおよびRは水素またはアルキル基を表す。)
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、前記ポリアクリロニトリル系重合体を湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により紡糸する炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。
【0016】
本発明の炭素繊維の製造方法は、前記炭素繊維前駆体繊維を、180〜300℃の温度の空気中において耐炎化する耐炎化工程と、該耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化する予備炭化工程と、該予備炭化工程で得られた繊維を1000〜3000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化する炭化工程を順次経て得る炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭素繊維前駆体繊維の耐炎化工程での糸切れを抑制しつつ高糸条密度化を行うことが出来るため、炭素繊維の生産性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、耐炎化工程での糸切れを抑制しつつ高糸条密度化を行うことが可能な炭素繊維炭素繊維前駆体繊維を製造するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0019】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体は、共重合成分として脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーを1〜30モル%耐炎化促進成分0.1〜1モル%、およびアクリロニトリルを含むアクリロニトリル系モノマー組成物を重合して得られることを特徴とする。
【0020】
本発明において、脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーの含有量を1モル%より少なくすると、耐炎化工程での発熱量を十分に抑制しにくくなり、本発明の効果が得られなくなることがある。また、脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーの含有量が30モル%を超えると、共重合部分での熱分解による分子断裂が顕著となり、得られる炭素繊維の引張強度が大幅に低下するほか、耐炎化工程で溶融して繊維接着することが懸念される。かかる観点から、本発明においては脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマーの含有量は1〜30モル%である。好ましくは、3〜20モル%である。
【0021】
耐炎化促進成分の含有量を0.1モル%より少なくすると、耐炎化工程での反応を十分に進行させることが出来ず、炭化工程での収率が低下することがある。また、耐炎化促進成分の含有量が1モル%を超えると、耐炎化工程での反応が急激に進行し、耐炎化工程での発熱量を十分に抑制しにくくなることが懸念される。かかる観点から、本発明においては耐炎化促進成分の含有量は0.1〜1モル%である。好ましくは、0.3〜0.8モル%である。なお、本発明では、耐炎化促進成分として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられることを必須とする。本発明において、アクリロニトリル系モノマーに含有されるアミド基とカルボキシル基の数は、1つよりも2つ以上であるのがよく、その観点からは、耐炎化を促進するための共重合可能な成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸およびメサコン酸がよく、その中でも、イタコン酸およびメタクリル酸好ましい。
【0022】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体の好ましい態様によれば、ポリアクリロニトリル系重合体を空気雰囲気下で100分間加熱した際、加熱後のニトリル基残存率が35%となる温度をTc℃とした時、示差走査熱量計により、空気中で昇温速度10℃/分として測定されたTc℃での発熱速度が1.4J/g/s以下であるポリアクリロニトリル系重合体である。
【0023】
ここで言う「ニトリル基残存率」とは、耐炎化反応の進行度を表すパラメータであり、以下の方法により求めることが出来る。ポリアクリロニトリル系重合体の赤外吸収スペクトル測定において、加熱後のニトリル基の炭素−窒素三重結合に起因する吸収の吸光度をDa、加熱前のニトリル基の炭素−窒素三重結合に起因する吸収の吸光度をDbとした時、ニトリル基残存率Xは下記の式(3)によって求めることが出来る。
【0024】
X=Da/Db×100 ・・・・・(3)。
【0025】
本発明において、上記発熱速度が1.4J/g/s以下であれば、耐炎化を高密度な状態で行うことができ、炭素繊維の生産性を向上することができる。1.4J/g/sより大きな前駆体を用いて高密度に耐炎化を行うと、発熱、蓄熱が大きくなり、糸切れや発火の恐れがあるほか、酸化状態で過剰な温度にさらされることから機械特性を低下させるような欠陥を生じる可能性がある。
【0026】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体は、脱離基とニトリル基を有するビニル系モノマー、下記の式(1)または式(2)で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられるが、本発明で用いられる化合物は、その中でも、2−エトキシアクリロニトリル、3−エトキシアクリロニトリル、および2−アセトキシアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを必須とする。さらに、本発明で用いられる耐炎化促進成分は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを必須とする
【0027】
【化3】
【0028】
(式(1)中、XはOR,OCOR,SO,NR,Cl,Br,Iのいずれかから選ばれる。ここで、RおよびRは水素またはアルキル基を表す。)
【0029】
【化4】
【0030】
(式(2)中、XはOR,OCOR,SO,NR,Cl,Br,Iのいずれかから選ばれる。ここで、RおよびRは水素またはアルキル基を表す。)
本発明のポリアクリロニトリル系重合体の製造する方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など公知の重合方法を選択することができるが、共重合成分を均一に重合するという観点からは、溶液重合を用いることが好ましい。溶液重合で行う場合の溶液としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な有機溶媒を用いるのが一般的である。
【0031】
次に、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を用いる。通常、かかる重合体をジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリル可溶な溶媒に溶解し、紡糸原液とする。溶液重合を用いる場合、重合に用いる溶媒と紡糸原液に用いる溶媒を同じものにしておくと、再溶解する工程が不要となり好ましい。紡糸原液中の重合体の濃度は、原液安定性の観点から、10〜40質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明では、紡糸原液を、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により口金から紡出し、凝固浴に導入して繊維を凝固せしめる。本発明において、前記凝固浴には、紡糸原液に溶媒として用いた、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものが使用できる。具体的には、水を使用するのが好ましい。
【0034】
紡出された繊維は、通常、水洗工程で溶媒が除去された後、浴中延伸温度30〜98℃で約2〜6倍に浴中延伸されるが、本発明はこれに限定されない。水洗工程を省略して紡出後、すぐに浴中延伸を行ってから水洗処理しても良い。
【0035】
浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する意味から、油剤を付与することが好ましい。乾燥工程は、浴中延伸後の糸条をホットドラムなどで乾燥することによって行われるが、乾燥温度および時間等は適宜選択することができる。また、必要に応じて、乾燥緻密化後の糸条を加圧スチーム延伸することも行われる。
【0036】
得られる炭素繊維前駆体繊維は、通常、連続のマルチフィラメント(束)の形状であり、フィラメント数は好ましくは1,000〜3,000,000本である。
【0037】
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
【0038】
前記した方法により製造された炭素繊維前駆体繊維を、180〜300℃の温度の空気中において、好ましくは延伸比0.8〜2.5で延伸しながら、耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.5で延伸しながら予備炭化処理し、1000〜3000℃の最高温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.1で延伸しながら、炭化処理して炭素繊維を製造する。不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができ、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
【0039】
このようにして製造される炭素繊維は、新たな設備を必要とせずに耐炎化工程を高糸条密度化出来るため、スポーツ用途、航空・宇宙用途、ならびに自動車や土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途に好適な炭素繊維を生産性良く製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本実施例で用いた測定方法を次に説明する。
【0041】
<ニトリル基残存率の測定とTcの決定>
ニトリル基残存率Xは、以下のようにして測定した。まず、ポリアクリロニトリル系重合体溶液をガラス板上にキャストし、一定の厚みになるように塗布する。次に、重合体溶液を塗布したガラス板を、熱風乾燥機等を用いて空気中120℃で乾燥し、溶媒を蒸発させることで厚み20〜40μmのフィルムとする。
【0042】
得られたフィルムを、空気雰囲気において熱風乾燥機等を用いて特定の温度(180〜250℃、5℃刻み)で100分熱処理し、耐炎化処理を行う。このようにして得られた耐炎化処理前後のフィルムについて、それぞれ凍結粉砕を行い、粉末サンプルを得る。各粉末サンプル2mgと臭化カリウム300mgとを乳鉢にて粉砕混合したものを錠剤成型器にて加工した錠剤を用い、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定する。耐炎化処理前のサンプルのニトリル基の炭素−窒素三重結合に起因する吸収の吸光度をDb、耐炎化処理後のサンプルのニトリル基の炭素−窒素三重結合に起因する吸収の吸光度Daとして、式(3)を用いてニトリル基残存率Xを求めた。また、そのようにして求めたニトリル基残存率が35%となった温度をTcとして決定した。
【0043】
X=Da/Db×100 ・・・・・(3)。
【0044】
<ポリアクリロニトリル系重合体の発熱量の測定>
ポリアクリロニトリル系重合体の発熱量は、以下のようにして測定した。ポリアクリロニトリル系重合体溶液を高温熱水中で脱溶媒した後に凍結粉砕し、1mgをサンプルパンに入れた。続けて、ブルカーエイエックスエス社製のDSC3100SAを用いて、10℃/分の昇温速度、エアー供給量100mL/分の条件で室温から400℃まで測定した。
【0045】
<Tc+20℃での耐炎化テスト>
単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数6000の炭素繊維前駆体繊維を合糸して、フィラメント数24000とした後、炉内温度をTc+20℃に設定した耐炎化炉の中を通過させることで耐炎化テストを行った。糸切れや毛羽発生を起こすことなく通過させることが出来たものについては○、糸切れや毛羽発生が起こったものについては×として評価を行った。
【0046】
(実施例1〜7、比較例1〜5)
アクリロニトリルと、表1に示した共重合組成からなる共重合成分を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤としてラジカル重合し、濃度20質量%のポリアクリロニトリル系重合体溶液を得た。
【0047】
得られたポリアクリロニトリル系重合体溶液を、40℃の温度で、単孔の直径0.15mm、孔数6000の紡糸口金を用い、湿式紡糸法により凝固糸条とした。このようにして得られた凝固糸条を、常法により水洗した後、90℃の温水中で3倍に延伸し、さらにシリコーン系油剤を付与して浴中延伸糸を得た。この浴中延伸糸を、180℃の温度に加熱したローラーを用いて乾燥熱処理を行った後、加圧スチーム中で5倍に延伸することで、単繊維繊度が1.0dtex、フィラメント数が6000の炭素繊維前駆体繊維を得た。
【0048】
Tc+20℃での耐炎化結果は表1に記載の通りであり、実施例の範囲において糸切れや毛羽発生は見られなかった。
【0049】
【表1】