(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記薄膜形成部材は、板状に形成されており、前記投入口の鉛直方向下方と前記引出口との間に配置され、下端部が前記底壁に当接されるとともに側端部が前記側壁に当接され、上端部に溶融ガラスを通過させる上部通過部を備えることを特徴とする請求項1に記載のガラス溶融装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の技術は、以下のような問題がある。
【0009】
特許文献1に記載の技術では、精製により気泡を表面に上昇させることができるものの、これは、脱泡の仕組みを工夫しているのではなく、単に高温にすることによるものや、別途精製剤を添加することによるものであるため、一般的な清澄効果を凌駕するものではない。また、特許文献1に記載の技術では、スカル坩堝の内部が単純な構造であるため、スカル坩堝における溶融ガラスの滞留時間が短く、溶融ガラスの均質化及び清澄を十分に行えない。また、特許文献1に記載の技術では、冷却パイプによりスカル坩堝を積極的に冷却するため、スカル坩堝内で温度が低くなる部分が発生する。このため、失透(溶融ガラスが結晶化して不透明になること)の発生を招いて品質が低下する危険性が高くなり、しかも、熱効率が悪い。
【0010】
特許文献2に記載の技術では、コイル機構の影響は最小限に抑えられるものの、脱泡を促進する特段の工夫を行っていないため、清澄効果が十分ではない。また、特許文献2に記載の技術では、スカル坩堝内での対流を促進させているが、スカル坩堝の内部は単純な構造であるため、スカル坩堝における溶融ガラスの滞留時間が短く、溶融ガラスの均質化及び清澄が十分に行えない。また、特許文献2に記載の技術では、冷却ブリッジによりスカル坩堝を積極的に冷却するため、スカル坩堝内で温度が低くなる部分が発生する。このため、失透の発生を招いて品質が低下する危険性が高くなり、しかも、熱効率が悪い。
【0011】
特許文献3に記載の技術では、溶融ガラスが外界から閉ざされて、気泡の周囲を厚く溶融ガラスが囲むため、溶融ガラスの粘度が低くても、効率的に気泡を除去することができない。また、特許文献3に記載の技術では、溶融容器内での滞留時間を確保するために、溶融ガラスを溶融容器内に一時的に閉じ込めているため、連続的な溶融を行うことができずに効率が悪い。
【0012】
特許文献4に記載された技術のうち、溶融体を水平の流路に流して脱泡を行う技術では、溶融体の厚みを5〜10cmとするため、依然、溶融体の厚みが厚い。このため、気泡が溶融体の表面に到達するまでに時間がかかってしまい、十分な脱泡効果を得ることができない。また、特許文献4に記載された技術のうち、溶融体内に導管を浸漬させる技術では、導管内の気泡が常に溶融ガラスに包まれた状態となるため、溶融体の粘度を低くしても、効率的に気泡を除去することができない。しかも、特許文献4に記載の技術では、いずれも1500℃を最高温度とするため、難溶融性のガラスを溶融することができず、また、溶融可能であっても、溶融時間が長くなるため、溶融ガラスの均質化や清澄にも多大な時間がかかってしまう。
【0013】
そこで、本発明は、高温溶融した場合に溶融ガラスの清澄及び均質化を効果的に行うことができるガラス溶融装置、ガラス繊維製造装置及びガラス繊維製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るガラス溶融装置は、底壁と側壁とを備え、溶融ガラスを引き出す引出口が形成されたガラス溶融炉と、ガラス溶融炉の上方に配置されてガラス原料が投入される投入口と、ガラス溶融炉内に差し込まれて通電によりガラス溶融炉に投入されたガラス原料を加熱する加熱用電極と、投入口と引出口との間の底壁に立設されて、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスを堰き止め、溢れ出た溶融ガラスを下降させて引き延ばすことにより薄膜状に形成する薄膜形成面が形成された薄膜形成部材と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るガラス溶融装置では、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスは、薄膜形成板により堰き止められ、薄膜形成板から溢れ出た溶融ガラスは、引出口側の薄膜形成面に沿って降下することにより薄く引き延ばされて薄膜状に形成され、その後、引出口に導出される。このように、溶融ガラスが薄膜化されると、気泡がその形状を保持できなくなって破泡するため、非常に優れた清澄効果を得ることができる。また、溶融ガラスが薄膜化されると、溶融ガラスへの伝熱効率が高くなるため、未溶融物の溶融が促進されて溶融ガラスの均質化が図られる。
【0016】
また、ガラス溶融炉に挿入された加熱用電極を通電することで、ガラス溶融炉の溶融ガラスを直接加熱することができるとともに、ガラス溶融炉の任意の位置で溶融ガラスを加熱することができる。このため、ガラス溶融炉の形状、大きさ、素材などに関わらず、溶融ガラスを効率的に加熱することができ、特に、大型のガラス溶融炉にも適用することができる。
【0017】
そして、薄膜形成部材は、板状に形成されており、投入口の鉛直方向下方と引出口との間に配置され、下端部が底壁に当接されるとともに側端部が側壁に当接され、上端部に溶融ガラスを通過させる上部通過部を備えるものとすることができる。このように薄膜形成部材を構成すると、薄膜形成部材が投入口の鉛直方向下方と引出口との間に配置されているため、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスは、直接引出口に導出されずに薄膜形成部材により堰き止められる。そして、ガラス原料の投入量を調整するなどしてガラス溶融炉における溶融ガラスの液位を上部通過部よりも僅かに高い位置に調整すると、薄膜形成部材から溢れ出した溶融ガラスが薄膜形成部材の薄膜形成面を伝って下降することで薄膜状に形成される。これにより、溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。
【0018】
この場合、薄膜形成部材は、投入口側に向けて傾斜していることが好ましい。このように板状の薄膜形成部材を傾斜させることで、上部通過部を通過した溶融ガラスが薄膜形成部材から離れることなく薄膜形成部材の薄膜形成面を滑り落ちるため、スムーズに溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。
【0019】
一方で、薄膜形成部材は、下端部が底壁に当接されて、引出口を囲う管状に形成することもできる。このように薄膜形成部材を構成すると、薄膜形成部材により引出口が覆われ、薄膜形成部材の内側に薄膜形成板が形成される。すると、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスは、直接引出口に導出されずに薄膜形成部材により堰き止められ、ガラス原料の投入量を調整するなどしてガラス溶融炉における溶融ガラスの液位を薄膜形成部材の上端部よりも僅かに高い位置に調整すると、薄膜形成部材から溢れ出した溶融ガラスが薄膜形成部材の内側に配置される薄膜形成面を伝って下降することで薄膜状に形成される。これにより、溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。
【0020】
この場合、薄膜形成部材は、薄膜形成面が鉛直方向上部から鉛直方向下部に向けて小さく窄まる形状であることが好ましい。このように管状の薄膜形成部材を形成することで、薄膜形成部材から溢れ出た溶融ガラスが、薄膜形成部材から離れることなく薄膜形成部材の薄膜形成面を滑り落ちるため、スムーズに溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。
【0021】
また、ガラス溶融炉は、イリジウム又はイリジウム基合金からなることが好ましい。このようにガラス溶融炉をイリジウム又はイリジウム基合金で構成することで、シリカの融点以上の高温でガラス原料を溶融することができるため、ガラス原料の溶融時間を劇的に短縮することができる。また、イリジウムは、溶融ガラスと接触しても溶融ガラスからシリコンを発生させないため、溶融ガラス中のシリコン粒子が低減して、溶融ガラスの品質を向上させることができる。
【0022】
また、ガラス溶融炉を覆うケーシングと、ケーシング内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、を更に有することが好ましい。このように構成することで、ガラス溶融炉全体が不活性ガス雰囲気となって大気から隔離されるため、ガラス溶融炉や加熱用電極が酸化して昇華するのを抑制することができる。このため、溶融ガラスを高温に加熱しても、ガラス溶融装置の耐用年数が低下するのを抑制することができる。
【0023】
また、投入口の鉛直方向下方と薄膜形成部材との間に配置され、ガラス溶融炉の炉内底部から溶融ガラスを通過させる下部通過部を備える上部仕切板を更に有することが好ましい。このようにガラス溶融炉内に上部仕切板を配置することで、溶融ガラスの表層の早流れに乗って未溶融物が引出口から引き出されるのを防止できるとともに、ガラス溶融炉内における溶融ガラスの移動経路を延ばすことができる。これにより、ガラス溶融炉内における溶融ガラスの滞留時間が長くなるため、脱泡が促進されて溶融ガラスの清澄効果が高まり、また、未溶融物の溶融が促進されて溶融ガラスの均一化が図られる。しかも、上部仕切板と薄膜形成部材との間に溶融ガラスを上方に向けて流す流路が形成されるため、溶融ガラスに含まれる気泡を上方に押し上げて溶融ガラスの液面にて破泡させることができる。これにより、溶融ガラスの清澄効果を更に高めることができる。
【0024】
本発明に係るガラス繊維製造装置は、上記の何れかのガラス溶融装置と、ガラス溶融炉の下方に配置されて引出口から引き出された溶融ガラスが導入される貯留槽と、貯留槽に導入された溶融ガラスを繊維化して紡糸する繊維化装置と、を有することを特徴とする。本発明に係るガラス繊維製造装置によれば、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスを、薄膜形成部材により清澄及び均質化した後に繊維化するため、高品質なガラス繊維を製造することができる。
【0025】
本発明に係るガラス繊維製造方法は、上記のガラス繊維製造装置を用いたガラス繊維の製造方法であって、ガラス原料を投入口からガラス溶融炉内に投入し、加熱用電極を通電してガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融し、薄膜形成部材により溶融ガラスを薄膜状に形成した後、引出口から溶融ガラスを引き出して貯留槽に導入し、貯留槽に導入された溶融ガラスを繊維化装置により繊維化してガラス繊維を製造することを特徴とする。本発明に係るガラス繊維製造方法によれば、加熱用電極の加熱により溶融された溶融ガラスを、薄膜形成部材により清澄及び均質化した後に繊維化するため、高品質なガラス繊維を製造することができる。
【0026】
この場合、ガラス溶融装置は、ガラス溶融炉を覆うケーシングを有しており、ケーシング内を不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。このように、ケーシング内を不活性ガス雰囲気とすることで、ガラス溶融炉全体を大気から隔離することができるため、ガラス溶融炉や加熱用電極が酸化して昇華するのを抑制することができる。このため、溶融ガラスを高温に加熱しても、ガラス溶融装置の耐用年数が低下するのを抑制することができる。
【0027】
そして、加熱用電極の通電により、溶融ガラスを1700〜2000℃に加熱することが好ましい。このように溶融ガラスを1700〜2000℃に加熱することで、ガラスの主成分であるシリカ単体で溶融されるため、ガラス原料の溶融時間を飛躍的に短縮することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高温溶融した場合に溶融ガラスの清澄及び均質化を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明に係るガラス溶融装置、ガラス繊維製造装置及びガラス繊維製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るガラス繊維製造装置の模式図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係るガラス繊維製造装置1は、床2に載置されるガラス溶融装置10と、床2の下方に配置される繊維化設備30と、を備える。
【0032】
ガラス溶融装置10は、ガラス原料粉末やガラス塊などのガラス原料を溶融するガラス溶融炉11と、ガラス溶融炉11を覆うケーシング18と、を備える。ガラス原料粉末は、シリカやアルミナなどの金属酸化物の粉末を混合したガラス原料であり、ガラス塊は、ガラス原料粉末を一旦溶融した後に冷却したマーブル状のガラス原料や、このマーブル状のガラス原料を粉砕したカレット状のガラス原料である。なお、溶融ガラスの均質性を高めたい場合は、カレット状のガラス原料を用いることが好ましい。ガラス原料としては特に限定されないが、Eガラス、Tガラス、シリカファイバ、窒化物ガラス製造用途のガラス原料を好適に用いることができる。
【0033】
ガラス溶融炉11は、底壁12と、底壁12に立設された側壁13とにより、上方に開口された箱状に形成されている。ガラス溶融炉11は、底壁12と側壁13を有する形状であれは、上面視円形や上面視多角形など、如何なる形状であってもよい。
【0034】
底壁12及び側壁13は、溶融ガラスとの反応性が低く溶融ガラスによる侵食を受けにくい白金族金属で構成されており、その中でも、融点が2447℃で高温における機械的強度に優れたイリジウム(Ir)又はイリジウム基合金で構成されることが好ましい。イリジウム基合金としては、イリジウムを50%以上含有することが好ましく、イリジウムを60%以上含有することが更に好ましい。なお、ガラス溶融炉11は、レンガなどの一般的な炉材の表面に、イリジウム(Ir)及びイリジウム基合金などの白金族金属を被覆して構成してもよい。
【0035】
このようなガラス溶融炉11は、上部仕切板16により、内部が第一領域Aと第二領域Bとに仕切られている。第一領域Aは、ガラス原料が投入される投入口19の鉛直方向下方に配置されて、ガラス溶融炉11に投入されたガラス原料を溶融するための領域である。第二領域Bは、溶融ガラスの清澄を行うとともに、底壁12に溶融ガラスを引き出す引出口15が形成された領域である。
【0036】
ガラス溶融炉11の第一領域Aには、上方から複数本の加熱用電極14が差し込まれている。この加熱用電極14は、モリブデンやタングステンなどの高温に耐えうる素材(高温耐熱素材)で構成されており、電気を供給する電源17が接続されている。なお、加熱用電極14は、ガラス溶融装置10に対する挿抜性の観点から円柱形が好ましいが、特に制限されることなく様々な形状に変形させることができる。そして、この加熱用電極14により溶融ガラスに直接通電し、ガラス溶融炉11に投入されたガラス原料を加熱して溶融することが可能となっている。ガラス溶融装置10のヒートアップ時(起動時)は、ガラス溶融炉11内に溶融ガラスが満たされていないことから加熱用電極14が通電され難いため、他の加熱手段を併用してガラス溶融炉11に投入されたガラス原料を溶融することが好ましい。そして、ガラス原料がある程度溶融されると、加熱用電極14による通電により、溶融ガラスを1700〜2000℃に加熱してガラス原料を溶融する。これにより、ガラス原料に含まれるシリカの溶融が促進されて、ガラス原料が迅速に溶融され、溶融ガラスの均質化が図られる。なお、このガラス溶融炉11は、ガラス溶融炉11内に挿入された加熱用電極14により加熱することからブースティング炉とも呼ばれ、主に、ガラス原料粉末を溶融するダイレクトメルト法(DM法)に用いられる。但し、このガラス溶融炉11を、ガラス魂のガラス原料を溶融するマーブルメルト法(MM法)などに用いてもよい。
【0037】
加熱用電極14は、2本以上あれば、その数や配置は任意に選定することができる。但し、加熱用電極14に囲まれた領域が最も加熱されることに鑑みて、上面視において加熱用電極14が投入口19を囲むように選定することが好ましい。
図2は、
図1に示すガラス溶融炉の上面図(平面図)である。例えば、
図2(a)に示すように、第一領域Aにおいて投入口19を挟む位置に2本の加熱用電極14を配置してもよく、
図2(b)に示すように、第一領域Aにおいて投入口19を囲む位置に3本の加熱用電極14を配置してもよい。このように、投入口19を挟む位置に加熱用電極14を配置することで、投入口19からガラス溶融炉11に投入されたガラス原料を効率的に加熱溶融することができる。
【0038】
ところで、加熱用電極14によりガラス原料をシリカの溶融温度以上の高温で加熱すると、ガラス溶融炉11に投入されたガラス原料は僅かな時間で溶融する。しかしながら、加熱温度が低い場合は、暫くの間、ガラス原料が溶融されずに滞留する。そこで、加熱用電極14は、その先端部において電気が流れ易い性質を有するため、ガラス原料をシリカの溶融温度未満の低温で溶融する場合は、加熱用電極14の先端部を、投入されたガラス原料が溜まる位置に配置することが好ましい。例えば、ガラス原料粉末のガラス原料は溶融ガラスの液面付近に溜まるため、加熱用電極14の先端部を溶融ガラスの液面付近に配置することが好ましく、ガラス魂のガラス原料はガラス溶融炉11の炉内底部に沈むため、加熱用電極14の先端部をガラス溶融炉11の炉内底部に配置することが好ましい。
【0039】
また、ガラス溶融炉11の第一領域Aには、バブラー24が挿入されている。バブラー24は、ガラス原料の溶融を促進させるために、溶融ガラス中に不活性ガスを噴出するチューブ状の部材である。バブラー24の噴出口は、第一領域Aの底部付近であって、投入口19の鉛直方向下方付近に配置されることが好ましい。バブラー24から噴出される不活性ガスは、如何なる種類の不活性ガスであってもよいが、溶融ガラスの酸化を防止する点で非酸化性ガスであることが好ましく、その中でも、低コストで連続的に安定供給できる点で窒素ガスが最も好ましい。なお、バブラー24は、如何なる位置からガラス溶融炉11の第一領域Aに挿入してもよいが、バブラー24をガラス溶融炉11の第一領域Aの上方から挿入するようにすれば、ガラス溶融炉11の構造を簡略化することができる。
【0040】
上部仕切板16は、平板状に形成されており、第一領域Aの溶融ガラスをガラス溶融炉11の炉内底部からのみ第二領域Bに通過させるものである。
【0041】
上部仕切板16の両側端部は、対向する一対の側壁13に当接されて、これらの側壁13との間を封鎖している。上部仕切板16の上端部は、溶融ガラスの表層を堰き止めるように、溶融ガラスの液面より高い位置に配置されている。なお、ガラス溶融炉11の上端部は、第一領域Aにおける溶融ガラスの表層を堰き止めることができれば、如何なる位置に配置されていてもよく、例えば、ガラス溶融炉11の上面まで延ばしてもよい。上部仕切板16の下端部には、ガラス溶融炉11の炉内底部付近から溶融ガラスを通過させる通過口16aが形成されている。このため、第一領域Aで溶融された溶融ガラスは、上部仕切板16に形成された通過口16aを潜ることによってのみ、第二領域Bに移動することが可能となっている。通過口16aは、溶融ガラスが通過できればどのような形状、構成であってもよい。例えば、上部仕切板16の下端部を底壁12から離間させることにより通過口16aを形成してもよく、上部仕切板16の下端部に貫通孔を形成することにより通過口16aを形成してもよい。なお、通過口16aは、少なくとも、ガラス溶融炉11の高さ(深さ)の半分よりも下方に位置させることが好ましい。
【0042】
このように構成される上部仕切板16の立設方向は、水平方向に対して垂直な方向であってもよく、水平方向に対して垂直な方向から投入口19側に傾倒した方向であってもよい。また、上部仕切板16は、途中で立設方向を変えてもよく、例えば、溶融ガラスに浸かる下部を、水平方向に対して垂直な方向から投入口19側に傾倒した方向に向け、溶融ガラスに浸からない上部を、水平方向に対して垂直な方向に向けてもよい。
【0043】
この上部仕切板16は、ガラス溶融炉11の底壁12及び側壁13と同様に白金族金属で構成されており、その中でも、イリジウム(Ir)又はイリジウム基合金で構成されることが好ましい。なお、上部仕切板16は、レンガなどの一般的な炉材の表面に、イリジウム(Ir)及びイリジウム基合金などの白金族金属を被覆して構成してもよい。
【0044】
ガラス溶融炉11の第二領域Bには、上部仕切板16と引出口15との間に、平板状の薄膜形成部材25が配置されている。薄膜形成部材25は、底壁12に立設されており、第一領域Aで溶融された溶融ガラスを堰き止め、上部仕切板16との間に溶融ガラスを下方から上方に流す流路を形成するとともに、溢れ出た溶融ガラスを引出口15側の薄膜形成面25bに沿って降下させることにより引出口15に導出するものである。
【0045】
図3は、
図1に示すガラス溶融炉の断面斜視図である。
図1及び
図3に示すように、薄膜形成部材25は板状に形成されている。この薄膜形成部材25の両側端部は、対向する一対の側壁13に当接されて、これらの側壁13との間を封鎖している。薄膜形成部材25の下端部は、底壁12に当接されて、底壁12との間を封鎖している。
【0046】
薄膜形成部材25の上端部には、第一領域Aで溶融された溶融ガラスを通過させる上部通過部25aが形成されている。上部通過部25aは、例えば、薄膜形成部材25の上端面により形成してもよく、薄膜形成部材25に形成した貫通口や切り欠きにより形成してもよい。この上部通過部25aは、溶融ガラスを均一な厚さの薄膜状に形成するために、溶融ガラスの液面よりも僅かに低くなる位置において、水平面状に形成されている。
【0047】
薄膜形成部材25の引出口15側には、上部通過部25aを通過した溶融ガラスを下降させて引き延ばすことにより薄膜状に形成する薄膜形成面25bが形成されている。この薄膜形成面25bは、薄膜化された溶融ガラスの厚みを均一化するために、平面状に形成されている。但し、溶融ガラスを薄膜状に形成することができれば、薄膜形成面25bを垂直方向又は水平方向に湾曲した曲面状に形成してもよい。
【0048】
なお、第1の実施形態では、薄膜形成部材が板状であるものとして説明するが、溢れ出た溶融ガラスが薄膜形成部材の薄膜形成面に沿って薄膜形成部材から離れることなく降下させることができれば、如何なる形状であってもよい。例えば、後述する第2の実施形態のように、薄膜形成部材が管状であってもよい。また、薄膜形成部材が板状である場合は、湾曲した曲面状や段状などであってもよく、薄膜形成部材が管状である場合は、すり鉢状や段状などであってもよい。
【0049】
この薄膜形成部材25は、ガラス溶融炉11の底壁12及び側壁13と同様に白金族金属で構成されており、その中でも、イリジウム(Ir)又はイリジウム基合金で構成されることが好ましい。なお、薄膜形成部材25は、レンガなどの一般的な炉材の表面に、イリジウム(Ir)及びイリジウム基合金などの白金族金属を被覆して構成してもよい。
【0050】
このように構成される薄膜形成部材25の立設方向は、水平方向に対して垂直な方向であってもよく、水平方向に対して垂直な方向から投入口19側に傾倒した方向であってもよい。但し、上部通過部25aから通過した溶融ガラスが、薄膜形成面25bを滑り降りながら薄膜状に形成されるように、水平方向に対して垂直な方向から投入口19側に傾倒した方向に向けることが好ましい。この場合、薄膜形成部材25の立設角度は、水平方向に対して30〜85
°であることが好ましく、35〜80
°が更に好ましく、40〜70
°が最も好ましい。また、上部通過部25aの上端面は、上部通過部25aを通過した溶融ガラスを薄膜形成面25bにスムーズに案内するべく、薄膜形成面25b側を面取りした曲面状に形成することが好ましい。なお、上部仕切板16と薄膜形成部材25との間に形成される流路の最短距離を長くして、当該流路における溶融ガラスの滞留時間を長くするためには、上部仕切板16と薄膜形成部材25とを立設方向を平行に配置することが好ましい。
【0051】
なお、このように構成されるガラス溶融炉11の第二領域Bには、溶融ガラスを加熱する加熱ヒータなどの加熱手段を設けることが好ましい。これにより、第一領域Aとは別に、第二領域Bにおいても溶融ガラスの加熱温度を細かく調整することができるため、引出口15から引き出す溶融ガラスの引出量を調整することができる。
【0052】
また、ガラス溶融炉11における第一領域Aの底壁12には、溶融するガラス品種の切替時に薄膜形成部材25により堰き止められている溶融ガラスを引き出すためのドレン29が形成されている。ガラス品種を切替する際は、ガラス溶融炉11内から溶融ガラスを全て引き出す必要がある。このとき、薄膜形成部材25を超えた溶融ガラスは、引出口15から引き出すことができるが、薄膜形成部材25に堰き止められている溶融ガラスは、ガラス溶融炉11を引っくり返さないとガラス溶融炉11から引き出すことができない。そこで、溶融するガラス品種の切替時は、第一領域Aの底壁12に形成されたドレン29を開放することで、薄膜形成部材25により堰き止められている溶融ガラスを引き出すことが可能となる。
【0053】
このドレン29は、様々な手法により開閉可能となっている。例えば、ドレン29を空冷又は水冷してドレン29内の溶融ガラスを硬化させることで、ドレン29を封鎖することができ、ドレン29を加熱してドレン29内の硬化したガラスを溶融させることで、ドレン29を開放することができる。また、蓋部材を用いてドレン29に栓をすることで、ドレン29を封鎖することができ、ドレン29から栓を外すことで、ドレン29を開放することができる。
【0054】
図1に示すように、ケーシング18は、床2に載置されており、ガラス溶融炉11の鉛直方向上方に配置されてケーシング18の天井となる天壁18aと、ガラス溶融炉11の周囲を覆う側壁18bと、ガラス溶融炉11の鉛直方向下方に配置される底壁18cとにより、箱状に形成されている。
【0055】
天壁18aは、ガラス溶融炉11内に差し込まれる複数の加熱用電極14を保持しており、天壁18aを取り替えることで、加熱用電極14の数及び配置を容易に変更することができる。
【0056】
この天壁18aには、ガラス溶融炉11における第一領域Aの鉛直方向上方に、ガラス原料をガラス溶融炉11に投入するための投入口19が形成されている。そして、この投入口19には、ガラス溶融炉11に投入するガラス原料を供給するスクリューチャージャー20が連結されている。
【0057】
側壁18bには、ケーシング18内に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入口21が形成されている。そして、この不活性ガス導入口21には、ケーシング18内に導入する不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置22が連結されている。なお、不活性ガス供給装置22から供給されるガスは、如何なる種類の不活性ガスであってもよいが、溶融ガラスの酸化を防止する点で非酸化性ガスであることが好ましく、その中でも、低コストで連続的に安定供給できる点で窒素ガスが最も好ましい。
【0058】
底壁18cには、ガラス溶融炉11の引出口15の鉛直方向下方に、引出口15から引き出された溶融ガラスを排出するための排出口23が形成されている。また、排出口23は、溶融ガラスの排出と同時に、不活性ガスを排出することもできる。
【0059】
このように構成されるケーシング18は、ガラス溶融炉11全体を覆い、気密性を確保できれば、如何なる形状、如何なる素材であってもよいが、機械的物性、加工性、価格、耐熱性、気密性を考慮すると、金属製の容器であることが好ましい。
【0060】
ケーシング18内には、ガラス溶融炉11を保温断熱する耐火煉瓦や耐熱ボードなどの断熱材が挿入されている。この断熱材は、最内層がイリジウムと合金化しない素材を配置し、その外層には、アルミナ系耐熱ボードと耐熱煉瓦を適宜組み合わせて構成する。そして、断熱材は、少なくとも最外層の表面温度が300℃以下になるように配置することが好ましく、少なくとも最外層の表面温度が100℃以下になるように配置することが更に好ましい。
【0061】
そして、床2には、ガラス溶融炉11の引出口15から引き出された溶融ガラスを繊維化設備30に導入するための床穴3が形成されている。
【0062】
繊維化設備30は、ガラス溶融炉11の引出口15から引き出された溶融ガラスを繊維化する設備である。この繊維化設備30は、引出口15から引き出された溶融ガラスが導入されるフォアハース31と、フォアハース31内の溶融ガラスから多数本のフィラメントを形成するブッシング32と、ブッシング32からフィラメントを引き出して高速で巻き取る回転ドラム33と、ブッシング32から引き出された各フィラメントに集束剤を塗布するアプリケータ37と、各フィラメントを集束する集束ローラ34と、を備えている。
【0063】
フォアハース31は、引出口15から引き出された溶融ガラスが導入されるとともに、溶融ガラスの温度を調節して溶融ガラスを繊維化しやすい粘度に調整する貯留槽である。そして、フォアハース31は、床穴3の鉛直方向下方に配置されており、引出口15から引き出された溶融ガラスが導入される上部開口35が形成されている。なお、フォアハース31は、この上部開口35により大気開放されている。また、フォアハース31は、溶融ガラスの温度を調節するための加熱手段を備えている。この加熱手段は、例えば、フォアハース31の天井面に吊り下げられた電気ヒータ36でよく、また、電気ヒータ36の代わりにガスバーナ等の溶融ガラスの温度を調節できる加熱手段であればどのようなものを用いてもよい。
【0064】
ブッシング32は、フォアハース31の底部に設けられており、紡糸のための多数(例えば、100〜4000程度)のノズル(不図示)が形成されている。このブッシング32は、溶融ガラスの温度を調節するための加熱手段(不図示)を備えている。この加熱手段は、通電により抵抗発熱させるものである。このため、ブッシング32は通電により発熱する電熱部材で形成されており、例えば白金や白金合金から構成されている。
【0065】
次に、
図4も参照しながら、本実施形態に係るガラス繊維製造装置1によりガラス繊維を製造する方法について説明する。
図4は、ガラス溶融炉における溶融ガラスの流れを示す断面図である。なお、
図4では、便宜上、バブラー24を省略している。
【0066】
図1、
図3及び
図4に示すように、まず、真空ポンプでケーシング18内を真空状態もしくは少なくとも減圧状態にしてケーシング18内に存在する酸素を排除した後、不活性ガス供給装置22から供給される不活性ガスを不活性ガス導入口21からケーシング18内に導入する操作をケーシング18内の酸素濃度が少なくとも1%以下になるまで数回繰り返して、ケーシング18内を不活性ガス雰囲気とする。なお、不活性ガスを導入する前にケーシング18内に充満していた気体やケーシング18内に導入された不活性ガスは、排出口23から排出される。
【0067】
次に、スクリューチャージャー20からガラス原料を供給して、投入口19からガラス溶融炉11の第一領域Aにガラス原料を投入し、電源17から電気を供給して加熱用電極14を通電して、第一領域Aに投入されたガラス原料を加熱溶融する。
【0068】
なお、繊維化設備30のフォアハース31及びブッシング32も加熱して、製造するガラス繊維のガラス組成に応じて溶融ガラスが繊維化しやすい温度となるように、適宜フォアハース31及びブッシング32の加熱温度を調整しておく。
【0069】
そして、ガラス溶融炉11に投入するガラス原料を調整して、ガラス溶融炉11内における溶融ガラスの液位を薄膜形成部材25の上部通過部25aよりも僅かに高くする。このとき、第二領域Bに設けた加熱手段で溶融ガラスの粘度を調整し、引出口15から引き出される溶融ガラスの引出量を調整することで、ガラス溶融炉11内における溶融ガラスの液位を薄膜形成部材25の上部通過部25aよりも僅かに高くしてもよい。
【0070】
すると、第一領域Aで溶融された溶融ガラスは、炉内底部に形成された上部仕切板16の通過口16aからのみ、第一領域Aから第二領域Bに移動し、上部仕切板16と薄膜形成部材25との間に形成された流路を液面まで上昇する。このとき、第一領域Aで溶融された溶融ガラスの表層が上部仕切板16に堰き止められるため、未溶融物が溶融ガラスにおける表層の早流れに乗って第一領域Aから第二領域Bに移動するのが阻止される。また、溶融ガラスが上部仕切板16と薄膜形成部材25との間に形成された流路を流れる間に、未溶融物の溶融が行われるとともに、溶融ガラスに含まれる気泡が液面に押し上げられて破泡する。このため、上部仕切板16と薄膜形成部材25との間に形成された流路は、溶融ガラスの清澄部として機能する。
【0071】
そして、液面にまで達して薄膜形成部材25から溢れ出た溶融ガラスは、薄膜形成部材25の上部通過部25aを通過し、薄膜形成部材25の薄膜形成面25bを伝って薄膜状に形成されながら滑り落ちる。このとき、溶融ガラスが薄膜化されると、気泡がその形状を保持できなくなるため、溶融ガラスに含まれている気泡は、薄膜形成面25bを伝って滑り落ちる際に破泡する。このため、薄膜形成部材25の上部通過部25a及び薄膜形成面25bは、溶融ガラスの清澄部として機能する。また、溶融ガラスが薄膜形成部材25により薄膜化されることで溶融ガラスの伝熱効率が向上するため、溶融ガラスの加熱が促進されて、溶融ガラスの均質化が図られる。
【0072】
このように、ガラス溶融炉11において高温溶融、清澄及び均質化された溶融ガラスは、引出口15から鉛直方向下方に引き出される。そして、引出口15から引き出された溶融ガラスは、ケーシング18に形成された排出口23、床2に形成された床穴3及び繊維化設備30のフォアハース31に形成された上部開口35を通ってフォアハース31内に導入され、更に、フォアハース31の底部に設けられたブッシング32の多数のノズルからガラスフィラメントとして引き出される。そして、ブッシング32の多数のノズルから引き出されたガラスフィラメントにアプリケータ37で集束剤を塗布し、集束ローラ34で多数のガラスフィラメントを集束しながら高速回転する回転ドラム33で巻き取ることで、細長いガラスフィラメントが集束されたガラス繊維が製造される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、上部仕切板16と引出口15との間に薄膜形成部材25を配置することで、加熱用電極14の加熱により溶融された溶融ガラスは、薄膜形成部材25により堰き止められるため、溶融ガラスの液位を上部通過部25aよりも僅かに高くし、上部通過部25aを通過した溶融ガラスを薄膜形成部材25の薄膜形成面25bに伝わせて下降させることで、溶融ガラスを引き延ばして薄膜状に形成することができる。これにより、溶融ガラスに含まれる気泡がその形状を保持できなくなって破泡するため、非常に優れた清澄効果を得ることができる。
【0074】
また、溶融ガラスが薄膜化されることにより溶融ガラスへの伝熱効率が高くなるため、未溶融物の溶融が促進されて溶融ガラスの均質化が図られる。
【0075】
そして、薄膜形成部材25を投入口19側に傾斜させることで、上部通過部25aを通過した溶融ガラスが薄膜形成部材25から離れることなく薄膜形成面25b上を滑り落ちるため、スムーズに溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。
【0076】
また、ガラス溶融炉11に挿入された加熱用電極14を通電することで、ガラス溶融炉11の溶融ガラスを直接加熱することができるとともに、ガラス溶融炉11の任意の位置で溶融ガラスを加熱することができる。このため、ガラス溶融炉11の形状、大きさ、素材などに関わらず、溶融ガラスを効率的に加熱することができ、特に、大型のガラス溶融炉11にも適用することができる。
【0077】
また、ガラス溶融炉11をイリジウム又はイリジウム基合金で構成することで、シリカの融点以上の高温でガラス原料を溶融することができるため、ガラス原料の溶融時間を劇的に短縮することができる。また、イリジウムは、溶融ガラスと接触しても溶融ガラスからシリコンを発生させないため、溶融ガラス中のシリコン粒子が低減して、溶融ガラスの品質を向上させることができる。
【0078】
そして、加熱用電極14の加熱により溶融ガラスを1700〜2000℃に加熱することで、ガラスの主成分であるシリカ単体で溶融されるため、ガラス原料の溶融時間を飛躍的に短縮することができる。
【0079】
また、ケーシング18内を不活性ガス雰囲気とすることで、ガラス溶融炉11全体を大気から隔離することができるため、ガラス溶融炉11や加熱用電極14が酸化して昇華するのを抑制することができる。このため、溶融ガラスを高温に加熱しても、ガラス溶融装置10の耐用年数が低下するのを抑制することができる。
【0080】
また、ガラス溶融炉11内に上部仕切板16を配置することで、溶融ガラスの表層の早流れに乗って未溶融物が引出口から引き出されるのを防止できるとともに、ガラス溶融炉11内における溶融ガラスの移動経路を延ばすことができる。これにより、ガラス溶融炉11内における溶融ガラスの滞留時間が長くなるため、脱泡が促進されて溶融ガラスの清澄効果が高まり、また、ガラス原料の溶融が促進されて溶融ガラスの均質化が図られる。更に、上部仕切板16と薄膜形成部材25との間に溶融ガラスを上方に向けて流す流路が形成されるため、溶融ガラスに含まれる気泡を上方に押し上げて溶融ガラスの液面にて破泡させることができる。これにより、溶融ガラスの清澄効果を更に高めることができる。
【0081】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、基本的に第1の実施形態と同様であり、薄膜形成部材の形状のみが相違する。このため、以下の説明では、第1の実施形態と相違する部分のみを説明し、第1の実施形態と同一の部分の説明を省略する。
【0082】
図5は、第2の実施形態に係るガラス繊維製造装置におけるガラス溶融炉の平面図である。
図6は、
図5に示すガラス溶融炉のVI−VI線断面図である。
図5及び
図6に示すように、第2の実施形態に係るガラス繊維製造装置のガラス溶融炉70は、第1の実施形態の薄膜形成部材25の代わりに、薄膜形成部材71が設けられている。
【0083】
薄膜形成部材71は、第1の実施形態の薄膜形成部材25と同様に、第一領域Aで溶融された溶融ガラスを堰き止め、溢れ出た溶融ガラスを薄膜状に形成してから引出口15に導出するものである。この薄膜形成部材71は、引出口15を囲む円管状に形成されており、底壁12に立設されて、底壁12に当接されている。
【0084】
薄膜形成部材71の上端部には、第一領域Aで溶融された溶融ガラスを通過させる上部通過部71aが形成されている。上部通過部71aは、例えば、薄膜形成部材71の上端面により形成してもよく、薄膜形成部材71に形成した貫通口や切り欠きにより形成してもよい。この上部通過部71aは、溶融ガラスを均一な厚さの薄膜状に形成するために、溶融ガラスの液面よりも僅かに低くなる位置において、水平面状に形成されている。
【0085】
薄膜形成部材71の引出口15側に配置される内側には、上部通過部71aを通過した溶融ガラスを下降させて引き延ばすことにより薄膜状に形成する薄膜形成面71bが形成されている。この薄膜形成面71bの横断面は、真円状に形成されているが、溶融ガラスを薄膜状に形成することができれば、楕円や多角形など、如何なる形状に形成してもよい。
【0086】
この薄膜形成部材71は、ガラス溶融炉11の底壁12及び側壁13と同様に白金族金属で構成されており、その中でも、イリジウム(Ir)又はイリジウム基合金で構成されることが好ましい。なお、薄膜形成部材71は、レンガなどの一般的な炉材の表面に、イリジウム(Ir)及びイリジウム基合金などの白金族金属を被覆して構成してもよい。
【0087】
このように構成される薄膜形成部材71は、上端から下端にかけて、同一の水平断面形状であってもよく、異なる水平断面形状であってもよい。但し、上端から下端にかけて異なる水平断面形状である場合は、薄膜形成部材71から溢れ出た溶融ガラスが薄膜形成面71bから離れることなく薄膜形成面71bを伝って滑り降りるように、薄膜形成面71bが鉛直方向上部から鉛直方向下部に向けて小さく窄まる形状であることが好ましい。具体的には、薄膜形成面71bが鉛直方向上部から鉛直方向下部に向かって小さく窄まるすり鉢状、漏斗状、テーパ状などであることが好ましい。
【0088】
また、上部通過部71aの上端面は、上部通過部71aを通過した溶融ガラスを薄膜形成面71bにスムーズに案内するべく、薄膜形成面71b側を面取りした曲面状に形成することが好ましい。
【0089】
このように構成されるガラス溶融炉70では、ガラス溶融炉11内における溶融ガラスの液位を薄膜形成部材71の上部通過部71aよりも僅かに高くすると、第一領域Aで溶融された溶融ガラスが、炉内底部に形成された上部仕切板16の通過口16aからのみ第一領域Aから第二領域Bに移動し、薄膜形成部材71に堰き止められる。
【0090】
そして、薄膜形成部材71から溢れ出た溶融ガラスは、薄膜形成部材71の上部通過部71aを通過し、薄膜形成部材71の薄膜形成面71bを伝って薄膜状に形成されながら滑り落ちる。このとき、溶融ガラスが薄膜化されると、気泡がその形状を保持できなくなるため、溶融ガラスに含まれている気泡は、薄膜形成面71bを伝って滑り落ちる際に破泡する。このため、薄膜形成部材71の上部通過部71a及び薄膜形成面71bは、溶融ガラスの清澄部として機能する。また、溶融ガラスが薄膜形成部材71により薄膜化されることで溶融ガラスの伝熱効率が向上するため、溶融ガラスの加熱が促進されて、溶融ガラスの均質化が図られる。そして、溶融ガラスが、引出口15から鉛直方向下方に引き出される。
【0091】
以上説明したように、本実施形態によれば、引出口15を囲う管状の薄膜形成部材71を設けることで、加熱用電極14の加熱により溶融された溶融ガラスは、薄膜形成部材71により堰き止められるため、溶融ガラスの液位を上部通過部71aよりも僅かに高くし、薄膜形成部材71から溢れ出した溶融ガラスを薄膜形成面71bに伝わせて下降させることで、溶融ガラスを引き延ばして薄膜状に形成することができる。これにより、溶融ガラスに含まれる気泡がその形状を保持できなくなって破泡するため、非常に優れた清澄効果を得ることができる。
【0092】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0093】
例えば、薄膜形成部材は、溶融ガラスを堰き止めて薄膜状に降下させることができれば如何なる形状、構造であってもよく、
図7及び
図8に示す形状であってもよい。
図7は、板状の薄膜形成部材の他の例を示す図であり、(a)及び(b)はガラス溶融炉の断面図、(c)及び(d)はガラス溶融炉の平面図である。
図8は、管状の薄膜形成部材の他の例を示す図であり、(a)はガラス溶融炉の断面図、(b)〜(d)はガラス溶融炉の平面図である。なお、
図7及び
図8では、薄膜形成部材以外の構成要素を省略してガラス溶融炉を図示している。
【0094】
図7(a)に示す板状の薄膜形成部材25Aは、水平方向において円弧状に湾曲した曲面状に形成されている。
図7(b)に示す板状の薄膜形成部材25Bは、水平方向において波状に湾曲した曲面状に形成されている。
図7(c)に示す板状の薄膜形成部材25Cは、鉛直方向において円弧状に湾曲した曲面状に形成されている。
図7(d)に示す薄膜形成部材25Dは、鉛直方向において波状(段状)に湾曲した曲面状に形成されている。
【0095】
そして、
図7(a)及び(b)に示すように、薄膜形成部材を水平方向において湾曲させることで、溶融ガラスの流量を増やすことができるため、溶融ガラスの製造量を増やすことができる。また、
図7(c)及び(d)に示すように、薄膜形成部材を鉛直方向において湾曲させることで、薄膜形成部材の薄膜形成面上での溶融ガラスの滞留時間を増やすことができるため、溶融ガラスの清澄効果を向上させることができる。
【0096】
図8(a)に示す管状の薄膜形成部材71Aは、矩形環状に形成されており、引出口の内径と薄膜形成部材の内径とが異なっている。
図8(b)に示す管状の薄膜形成部材71Bは、薄膜形成面が鉛直方向上部から鉛直方向下部に向かって小さく窄まるテーパ状に形成されている。
図8(c)に示す管状の薄膜形成部材71Cは、薄膜形成面が鉛直方向上部から鉛直方向下部に向かって曲線的に小さく窄まるすり鉢状又は漏斗状に形成されている。
図8(d)に示す管状の薄膜形成部材71Dは、薄膜形成面が鉛直方向上部から鉛直方向下部に向かって段階的に小さく窄まる二段すり鉢状に形成されている。
【0097】
そして、
図8(a)に示すように、薄膜形成部材を矩形環状に形成することで、薄膜形成部材を容易に製造することができる。また、
図8(a)に示すように、引出口の内径と薄膜形成部材の内径とを異ならせることで、引出口と薄膜形成部材とを高精度に合致させる必要がなくなるため、ガラス溶融炉を容易に製造することができる。また、
図8(b)〜(d)に示すように、薄膜形成部材を鉛直方向下方に向けて窄めることで、薄膜形成部材から溢れ出た溶融ガラスが、薄膜形成部材から離れることなく薄膜形成部材の薄膜形成面を滑り落ちるため、スムーズに溶融ガラスを薄膜状に形成することができる。また、
図8(b)に示すように、薄膜形成部材を直線的に窄めることで、薄膜形成部材を容易に製造することができる。また、
図8(c)に示すように、薄膜形成部材を曲線的に窄めることで、薄膜形成部材の薄膜形成面上での溶融ガラスの滞留時間を増やすことができるため、溶融ガラスの清澄効果を向上させることができる。更に、
図8(d)に示すように、薄膜形成部材を段階的に窄めることで、薄膜形成部材の薄膜形成面上での溶融ガラスの滞留時間を更に増やすことができる。
【0098】
また、上記実施形態では、ガラス溶融炉11がケーシング18に覆われるものとして説明したが、ガラス溶融炉11や加熱用電極14などの酸化の問題が許容でき、ガラス溶融炉11や加熱用電極14を不活性ガス雰囲気に晒す必要が無い場合は、必ずしもケーシング18でガラス溶融炉11を覆う必要はない。
【0099】
また、上記実施形態では、引出口15から引き出された溶融ガラスを直接フォアハース31に導入するものとして説明したが、
図9に示すガラス繊維製造装置60のように、引出口15から引き出された溶融ガラスを、溶融ガラス貯留槽61及び減圧脱泡炉62などの中間槽を介してフォアハース31に導入してもよい。なお、減圧脱泡炉62は、溶融ガラスが導入される炉63をケーシング64で気密に覆うとともに、このケーシング64内を減圧ポンプ65により減圧することで、炉63に導入された溶融ガラスの脱泡を促すものである。
【0100】
また、上記実施形態では、ガラス溶融装置10をガラス繊維製造装置1に適用するものとして説明したが、ガラスカレットの製造装置など、様々な製品の製造装置に適用することができる。
【0101】
また、上記実施形態では、引出口15は底壁12に形成されるものとして説明したが、引出口15は、薄膜形成部材71の上部通過部25aを通過する溶融ガラスの液面レベルよりも鉛直方向下方であれば如何なる位置に形成してもよい。例えば、底壁12と側壁13との接合部(底壁12と側壁13とで形成される角の部分)や、側壁13の下部(底壁12と側壁13との接合部付近)などに形成してもよい。