特許第6048411号(P6048411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048411
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】画像表示装置用防眩シート
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20161212BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20161212BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20161212BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20161212BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20161212BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G02B5/02 C
   G02F1/1335
   G02B5/30
   G02B1/111
   B32B7/02 103
   B32B27/20 Z
【請求項の数】17
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-538548(P2013-538548)
(86)(22)【出願日】2012年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2012076168
(87)【国際公開番号】WO2013054804
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-224696(P2011-224696)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】古井 玄
(72)【発明者】
【氏名】本田 誠
(72)【発明者】
【氏名】児玉 崇
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/047298(WO,A1)
【文献】 特開2006−106290(JP,A)
【文献】 特開2007−72735(JP,A)
【文献】 特開2003−248101(JP,A)
【文献】 特開2008−281596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00− 5/136
G02B 1/10− 1/18
G02B 5/30
B32B 3/30
B32B 7/02
B32B27/20
G02F 1/1335
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートであって、該防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、および、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式1)および(式2)を満たすことを特徴とする防眩シート。
(式1) 10<Q/U<36
(式2) Log10(Q30/Q)<−6
【請求項2】
前記バインダー微粒子の比重は前記バインダー樹脂の比重よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の防眩シート。
【請求項3】
前記バインダー微粒子が、疎水処理を施されたフュームドシリカ及び/または層状無機化合物であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項に記載の防眩シート。
【請求項4】
前記防眩層の厚みをT(μm)としたとき、下記の(式3)を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防眩シート。
(式3) 3<T<10
【請求項5】
前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQとし、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過から20度の方向の輝度をQ20としたとき、下記の(式4)を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防眩シート。
(式4) Log10(Q20/Q)<−5.5
【請求項6】
防眩シートの全へイズ値をHa(%)とし、防眩シートの内部ヘイズ値をHi(%)と
したとき、下記の(式5)を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の防眩シート。
(式5) 0≦Ha−Hi≦1.3
【請求項7】
最表層に低屈折率層を形成してなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の防眩シート。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の防眩シートを用いた偏光板。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の防眩シートまたは請求項8に記載の偏光板を用いた画像表示装置。
【請求項10】
透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートの製造方法であって、該防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、および、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式1)および(式2)を満たすように調整することを特徴とする防眩シートの製造法。
(式1) 10<Q/U<36
(式2) Log10(Q30/Q)<−6
【請求項11】
透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートを、画像表示装置の視認側に設けることにより画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法において、前記防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、および、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式1)および(式2)を満たすことを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(式1) 10<Q/U<36
(式2) Log10(Q30/Q)<−6
【請求項12】
前記バインダー微粒子の比重は前記バインダー樹脂の比重よりも大きいことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バインダー微粒子が、疎水処理を施されたフュームドシリカ及び/または層状無機化合物であることを特徴とする請求項11乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記防眩層の厚みをT(μm)としたとき、下記の(式3)を満たすことを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の方法。
(式3) 3<T<10
【請求項15】
前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ
とし、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過から20度の方向の輝度をQ20としたとき、下記の(式4)を満たすことを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の方法。
(式4) Log10(Q20/Q)<−5.5
【請求項16】
防眩シートの全へイズ値をHa(%)とし、防眩シートの内部ヘイズ値をHi(%)としたとき、下記の(式5)を満たすことを特徴とする請求項11乃至15のいずれか1項に記載の方法。
(式5) 0≦Ha−Hi≦1.3
【請求項17】
防眩シートの最表層に低屈折率層を形成してなる請求項11乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒彩感、暗所黒味、動画用途での防眩性(動画防眩性)に優れ、高度な画質の実現に適した画像表示装置用の防眩シートに関する。
【背景技術】
【0002】
陰極線管表示装置(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示装置においては、一般に、最表面には反射防止のための光学積層体が設けられている。このような反射防止用光学積層体は、光の拡散や干渉によって、像の映り込みを抑制したり反射率を低減するものである。
【0003】
反射防止用光学積層体の1つとして、透明性基材の表面に凹凸形状を有する防眩層を形成した防眩性フィルムが知られている。この防眩性フィルムは、表面の凹凸形状によって外光を拡散させて外光の反射や像の映り込みによる視認性の低下を防止することができる。
【0004】
従来の防眩性フィルムとしては、例えば、透明基材フィルムの表面に、二酸化ケイ素(シリカ)等のフィラーを含む樹脂を塗工して防眩層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
これらの防眩性フィルムは、凝集性シリカ等の粒子の凝集によって防眩層の表面に凹凸形状を形成するタイプ、有機フィラーを樹脂中に添加して層表面に凹凸形状を形成するタイプ、あるいは層表面に凹凸をもったフィルムをラミネートして凹凸形状を転写するタイプ等がある。
【0005】
このような従来の防眩性フィルムは、いずれのタイプでも、防眩層の表面形状の作用により、光拡散・防眩作用を得るようにしており、防眩性を高めるためには凹凸形状を大きく、多くする必要があるが、凹凸が大きく、多くなると、塗膜の曇価(ヘイズ値)が上昇して白茶けが発生し、これに伴いコントラストが低下するという問題があった。
また、家庭でも、映画等の高度な画質を表示したディスプレイを鑑賞する機会が増えたため、暗室での黒画面の黒さ(以下、「暗所黒味」という)が求められている。
なお、表面凹凸により発現するヘイズを「表面ヘイズ」、前記表面凹凸を、表面凹凸を形成する樹脂または該樹脂との屈折率差が少なくとも0.02以内の樹脂を用いて平滑化したときに発現するヘイズを「内部ヘイズ」と定義し、JIS K 7136(2000)に準拠して測定する。
【0006】
コントラストを簡便に評価する方法として、ヘイズ値や内部ヘイズと総ヘイズの比が一般に用いられてきた。すなわち、光学シートの製造過程において、ヘイズ値を制御するように材料の特定、製造条件などを制御することで、コントラストの低下の少ない光学シートを製造し得ると考えられていた(特許文献1〜3参照)。
【0007】
しかしながら、同じヘイズ値であってもコントラストが異なる場合も見られ、例えば、ヘイズ値及び内部ヘイズと総ヘイズの比を指標として製造しても、必ずしも良好な画像表示装置用防眩シートを安定的に得ることはできない。
【0008】
また、防眩層の上にさらに、低屈折の光干渉層を設けることで、反射率を低減させる試みもなされているが、100nm程度の膜を精度良く設ける必要があり、非常に高価なものとなっていた。
【0009】
さらに、近年では、ワンセグをはじめとする様々な配信システムの普及や大型化の進展等により視聴環境も様々な態様が出現し、防眩シートに要求される性能もより広範で且つ個性の強いものとなってきた。
例えば、映画鑑賞等をする機会の増加により、映画館並みの高度な視聴環境で楽しむために、暗室で動画像を高画質で再現することが要求されたり、モバイル用途の増加により、明るい屋外で静止画像及び動画像を映し出すために、物理的な強度を有し且つ明室で動画及び静止画のバランスの取れた画質が要求されている。
すなわち、ディスプレイ端末に要求される画像品質は変化しており、視聴環境に適した性能を有する画像表示装置用の防眩シートの開発が要望されている。
【0010】
なお、視聴環境によって要求が異なることの例を示す特許文献4及び5には、静止画像と動画像では要求性能は異なり、また、観察者の視聴状態も異なることが記載されている。
【0011】
本発明者らは、上記の課題を鋭意検討した結果、従来考えられていたように、単に内部拡散と表面拡散の和が総ヘイズとなるのではなく、総ヘイズは、内部拡散と表面拡散以外に拡散粒子と表面凹凸との位置関係にも影響されることを見出した。
【0012】
さらに本発明者らは、暗室及び明室での高度な黒味及び高度な動画像と静止画像の共用に適した画像表示装置用、例えば液晶表示装置用(以下、単に液晶表示装置用ということがある)の防眩シートへの要求性能を鋭意検討した結果、暗室での高度な黒味を得るためには、これまで考慮されることのなかった「迷光成分」をほとんど生じることがない拡散特性としなければならないことを見出した。なお「迷光成分」とは、防眩シートの表面及び/または内部に存在する拡散要素により(例えば、表面の場合は、凹凸形状そのものが、内部の場合は、凹凸形状を形成するための粒子等が拡散要素となる)、防眩シート内部に入射した光のうち、防眩シート内部において目的とする方向とは異なる方向に走行する制御不可能な光成分をいい、防眩シート内部で繰り返し反射することが多い。
また、明室での動画像と静止画像に対しては映像光の迷光成分を考慮しつつ、これまでは防止することのみが求められていた外光の正反射成分を適度に持たせることが鑑賞に堪えうる画質を得るために重要であることを見出した。
【0013】
すなわち、上述の迷光成分は、暗部(たとえば黒)と明部(たとえば白)が同一画面内に存在するときに、明部の映像光が光学シートの拡散要素により一部が迷光となり、暗部から出光するいわゆるフレアーとなってコントラストの低下、ことに暗室コントラストの低下を引き起こすばかりか、立体感がなくなり平面的で変化に乏しい画像としてしまう。
なお、迷光成分は、正面から見た場合には影響が少なく、斜め方向から見た場合にはより強く影響が出やすい。
【0014】
また、外光の正反射成分については、正反射の極端に少ない光学フィルムは人の官能特性の影響を受け、画像が擬態物として検知されるのに対し、正反射成分を適度に持つ光学フィルムは画像が実態物として検知されやすくなり、いわゆる、動画像画面に特有な画像のテリ及び輝きを増すことになり、躍動感のある画像となることを見出した。
【0015】
なお、このような動画像に要求される、コントラスト、立体感及び躍動感を兼ね備えた性能(例えば、青空の下の若者のシーンを例に取れば、画面に表示された黒髪の毛はサラサラ感のある黒であり、黒い瞳は潤いがある黒であり、かつ、肌に若者特有な艶があり活き活きとして見える等)を「黒彩感」と称する。
【0016】
加えて、照明下で映画観賞をする場合や、モバイル用途では、動画像の鑑賞に際しても動画像の鑑賞に対応した耐映り込み性(防眩性)が求められている。そのような、完全に画像表示装置前の物体の映り込みが無いわけではなく、動画を観測する観測者の輪郭や背景にある対象物の輪郭や境界線がぼやける程度の微弱な耐映り込み性を「動画防眩性」と称する。
さらに、近年、映画鑑賞などの高度な鑑賞条件下、すなわち外光のない暗室条件であって、且つ、表示装置の好感領域内(正面輝度の33.3%以上の輝度で見ることができる鑑賞範囲)での鑑賞において、顕著で高水準な黒味である「暗所黒味」に優れた液晶表示装置用防眩シートが求められている。
【0017】
また、静止画像に、コントラストと一層の耐映り込み性に優れた画像が求められ、このような、静止画像に要求される、コントラストと耐映り込み性を兼ね備えた性能を「画像の切れ」と称する。
すなわち、黒彩感と画像の切れに優れた液晶表示装置用防眩シートであるべきとの要望が高くなっている。
【0018】
なお、画質評価としては、特許文献6には「黒しまり性」が、特許文献7には「艶黒感」が記載されている。
【0019】
液晶ディスプレイの原理的な欠陥である画角の狭さを改善するため、防眩シートに拡散性を賦与することがある。しかし、拡散性の賦与は、殊に正面視でのコントラストの低下をきたす。
黒しまり性は、この画角拡大とコントラストの折り合いを評価するもので、ディスプレイを真正面から見たときの電源off時の黒味、電源on時の黒味(黒い画像)を比較し、黒味の強いほど画面のしまり感も強いという官能比較である。
正面では非常に弱く、斜めほど強く認知されやすくなる迷光成分以外に、液晶ディスプレイではそのシステム構成上、黒表示においても液晶表示素子そのものから漏れてくる光(漏れ光)が存在するので、真正面から見た電源on時の黒味とは、前述の漏れ光と外光反射とを合わせた場合の黒さの加減であり、前述の電源off時の黒味とは、映像光は存在しないから、外光反射のみがあるときの黒味である。
換言すれば、黒しまり性とは外光にも漏れ光にも黒味が強いことになり、前述の黒彩感とは異なり、迷光成分は考慮されておらず、また、適度に必要とされる正反射成分が考慮されていないため、喩えコントラストは高くとも画像のテリ及び輝きに劣り、躍動感は生じず、黒彩感は高くならない。ことに、拡散を大きくして画角を拡大することが優先されるので迷光成分が生じやすく、暗所黒味が低下しやすい。
【0020】
また、艶黒感とは外部から光学積層体に入射した光の正反射光成分以外の拡散を抑え、この正反射光以外は観測者の目に届かなくすることで、明室環境下で画像表示装置を黒色表示した際の黒色の再現性、すなわち、黒の階調表現の豊かさであり、光学積層体のフィルム面と反対側にクロスニコルの偏光板もしくは光学フィルム用アクリル系粘着剤(全光線透過率90%以上、ヘイズ0.5%以下、膜厚10〜55μmの製品、例えばMHMシリーズ:日栄加工(株)製、日立化成工業(株)社製、商品名「L8010」など)を介した黒色アクリル板に張り合わせた後、三波長蛍光下で官能評価を行う。
すなわち、その測定法から見ても、動画の評価ではないし、映像光の迷光成分の影響も全く考慮されていない。そのため、喩えテリ及び輝きは高くとも、暗室コントラスト及び立体感は生じず、黒彩感は高くならない。
【0021】
コントラストとは黒輝度に対する白輝度の比であり、黒輝度の絶対値は白輝度に比べ非常に小さいのでコントラストは黒輝度の影響をより強く受ける。コントラストに優れた画像を得るためには画角拡大を図った上での明室黒味である「黒しまり」、絶対的な黒さである「暗所黒味」及び黒領域での階調表現の豊かさである「艶黒感」が優れていることが必要である。
さらに、静止画と動画の両立を図るには、少なくとも立体感及び躍動感を有する黒彩感に優れていることが必要である。
なお、防眩シートの拡散特性を限定する特許文献8及び9では、コントラストは良好となるものの、実用に不可避な性能である密着性、ハードコート性等の物理性能やギラツキ、動画と静止画の両立等の課題は考慮されておらず、充分な性能を得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002−267818
【特許文献2】特開2007−334294
【特許文献3】特開2007−17626
【特許文献4】特開2006−81089
【特許文献5】特開2006−189658
【特許文献6】特開2007−264113
【特許文献7】特開2008−32845
【特許文献8】特開2010−60924
【特許文献9】特開2010−60925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、このような状況の下で、低屈折干渉層を用いずとも、殊に、暗所での高度な黒味(暗所黒味)及び黒彩感、艶黒感に優れ、動画用途で許容できる防眩性(動画防眩性)を有し、実使用に供するに適した、陰極線管表示装置(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示装置用防眩シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
例えば、液晶ディスプレイの画角と画質にはトレードオフの関係がある。これまで、液晶テレビは画角が狭く、等方性であるCRTの代替としての観点からは欠陥と看做され、防眩シートも画角拡大機能を持つことを望まれていた。
然るに、本発明者らは液晶テレビを新たなディスプレイと捉えると共に、視聴環境の変化を勘案し、画角が狭く等方性が無いことを欠陥として捉えることなく、正面画質優先の思想のもと、画角と画質のトレードオフの呪縛から開放されるべく、以下の手段を講じた。
【0025】
これまで、コントラストや防眩性は表面凹凸のJIS B−0601−1994に基づく算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)、表面凹凸の平均間隔(Sm)や、小坂研究所製の表面粗さ測定器SE−3400の取り扱い説明書(1995.07.20改訂)に記載される定義による、凹凸の平均傾斜角(θa)等の表面形状に依存すると考えられたり、内部拡散剤とバインダー樹脂との屈折率差や内部拡散粒子の形状等による外光の反射状態に依存すると考えられていた。すなわち表面凹凸と内部拡散要素との相互効果を考慮されることがなかった。
ここで、θaの算出定義を説明する。
基準長さL範囲内に存在する凹凸形状において、ひとつの山から次の山へ至るまで、山には、一番高い頂部:凸部があり、かつその両端には、凹部が存在している。凹部の位置は、それぞれ同じ高さにあるとは限らない。
この異なる凹部位置各々から、その三角形の頂部までの高さをh1、h2とする。同じように、基準長さ範囲の全ての山について、凹部から凸までの高さを求め、(ひとつの山は、2つの高さを持つ)高さの和を求め、基準長さLで割った値のアークタンジェントを計算することで求められる角度である。
θa=tan−1[(h1+h2+h3+h4+・・・・・+hn)/L]
【0026】
本発明者らは、図8−1から図8−4に示すように、拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差によって、拡散粒子に入射した映像光及び外光の拡散粒子を透過する光及び反射する光の拡散特性は大きく異なり、拡散粒子とバインダー樹脂との屈折率差が大きいほど、拡散粒子による反射光量が増加し、且つ、拡散粒子を透過する光の拡散角度が大きくなるので、映像光による迷光成分の発生増加と外光の反射光量が増加しコントラストを低下させることを見出した。
【0027】
さらにまた、図7−1の1−1から1−5に示す如く、映像光においては拡散粒子と表面凹凸との位置関係により、拡散粒子を透過した映像光の透過及び反射特性や、解像度やコントラストを劣化させる迷光成分の発生状況も大きく異なること、さらには、図7−2の2−1から2−4に示す如く、外光においても、拡散粒子と表面凹凸との位置関係により、拡散層内部に侵入した外光の拡散粒子による反射光の反射特性やコントラストを劣化させる迷光成分の発生状況も大きく異なることを見出し、本願液晶表示装置用防眩シートの表面凹凸の形状、拡散粒子の特性、及び表面凹凸と内部拡散粒子の相対関係をも加味することにより、コントラストや動画防眩性に優れるばかりでなく、黒彩感(動画像)と画像の切れ(静止画像)にも優れた液晶表示装置用防眩シートを得ることを可能とした。
【0028】
また、図7−2の拡散粒子2−2のように、拡散粒子により反射される外光の拡散が大きくなる表面凹凸と拡散粒子との位置関係にある場合は、図7−1の1−2のように、映像光に関しても拡散が大きく迷光成分が発生しやすい条件となり、映像光によるコントラスト低下をもきたしやすくなっている。
すなわち、映像光の迷光成分によるコントラスト低下の大小関係は、外光の反射特性に近似して考慮することが可能である。なお、迷光成分による黒彩感(動画像)についても同様である。また、防眩層に強度は小さくとも大きな角度の拡散を持たせることでLCDの漏れ光を広く拡散させる従来の画角重視の方法は、前述の迷光成分の発生を促進することとなり、ことに暗室での高度な黒味、暗所黒味に欠けるものであった。
【0029】
すなわち、これまでの様な、総ヘイズや内部ヘイズ等による拡散特性の管理や、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)、表面凹凸の平均間隔(Sm)、平均傾斜角(θa)等の表面形状の管理を行っても優れた防眩シートを得ることは出来ない。
【0030】
本発明者らは、黒彩感に優れた動画像を得るためには、内部からの映像光の指向性が高い状態(光がある方向に集中している状態)にあること、つまり、液晶表示装置用防眩シートの透過拡散が小さく正透過強度が適度に高いことが好ましく、且つ、外光及び映像光の迷光成分を少なくするほど良好となることを見出した。
対して透過拡散が大きいと迷光成分が発生し、内部映像光の指向性が低くなり(光が拡散し、方向性をもって集中しない状態)、映像が白茶けたように見えるため肌色などの表示に対して活き活きとした表示とならない。
【0031】
一方、画像の切れに優れた静止画像を得るためには、コントラストと耐映り込み性を両立させる必要がある。しかしながら、耐映り込み性を改善する目的で、いわゆる防眩性を強くすると反射拡散が大きくなりコントラストが低下してしまい、画像の切れは悪化してしまう。
【0032】
そこで、本発明者らが画像の切れ(静止画)に関し鋭意検討した結果、観察者にとって映り込みが苦になる原因は、静止画像鑑賞時に観察者の焦点が、画像表示装置最表面に映り込んだ、外部に存在する何かの像(例えば、観察者自身の像や背景に存在する物が映り込んだ像)に度々合ってしまい、本来の画像に視点が定まらないためであることが判明した。
【0033】
そして、さらなる検討の結果、静止画鑑賞時に映り込んだ、外部に存在する何かの像の輪郭を不鮮明とすることで、映り込みは苦にならなくなり、且つコントラストの低下も押さえることができ、画像の切れを向上させることが可能であることを見出した。
ところで、動画防眩性とは、動画鑑賞時に限った微弱な耐映り込み性である。静止画像のほうが動画像よりも映りこみに対する感じ方は強く、動画よりも強い耐映り込み性が必要である。つまり、画像の切れを満たしていれば、動画防眩性を同時に満たしていることになる。
一方、動画鑑賞に限れば、静止画像での画像の切れを満たさずとも、微弱な耐映り込み性である動画防眩性を満たしていれば良い。
【0034】
すなわち、静止画像に要求される画像の切れと動画像の黒彩感を両立させるためには、透過拡散の正透過強度成分の低下を抑えつつ、かつ、映り込んだ外部映像の輪郭を不鮮明とさせる、小さい反射拡散を適度に持たせつつ迷光成分を減少させることが重要であることを見出した。
【0035】
これは、正反射強度成分を正反射近傍の拡散に転換することを意味し、以下の(a)〜(c)を考慮することで、静止画像の切れと動画像の黒彩感との両立を図った液晶表示装置用の防眩シートが得られることを意味する。
すなわち、(a)透過拡散が小さい(正透過強度が高い)こと、(b)正反射強度成分が小さいこと、(c)正反射近傍の拡散に変換すること、の三要素を満足させることである。
【0036】
防眩シートは、一般的には帯電防止機能を持たせるための導電粒子の添加や、ギラツキの防止や表面凹凸賦型のために微細粒子を添加することが多く、表面凹凸による拡散(以下外部拡散という)以外に内部拡散を有している。
【0037】
図1は、一例として屈折率1.50の樹脂塗膜の表面反射率、及び、前記樹脂塗膜中に分散させた球状拡散剤粒子表面の反射率を粒子の屈折率を変えてシミュレーションした結果である。図1に示すように内部拡散因子による反射強度は外部拡散による反射強度に比べて大幅に小さいので、拡散反射強度は表面拡散が支配的である。
【0038】
また、表面形状による透過光の拡散は、θなる傾斜面からの出射角度をψ、塗膜の屈折率をnとしたとき、スネルの法則からn×sinθ=sinψであり、出射角度ψはarcsin(n×sinθ)−θとなる。
【0039】
一方、反射は、反射の法則により、θなる傾斜面の二倍の変化を示すのであるから、反射角度ψは2×θとなる。そのため、一般的な塗膜の屈折率及び防眩シートの表面形状範囲内においては、屈折率1.50の樹脂表面の場合の計算結果である図2に示すように、表面傾斜角度に対する反射及び透過の拡散角度は比例すると看做してよい。
【0040】
すなわち、正反射強度が小さいことは正透過強度が小さいことであり、正反射近傍の拡散を増すことは正透過近傍の拡散を増すこととなるので、前述の静止画像の耐映り込み性と動画像の黒彩感の両立を図った液晶表示装置用防眩シートに要求される三要素をすべて、透過に変換することが可能である。また前述の記載より、動画防眩性を満たす上でも同様の変換を行うことが出来る。
【0041】
すなわち、上記(a)〜(c)は、それぞれ(a)透過拡散が小さいこと(正透過強度が高いこと)、(b')正透過強度成分が小さいこと、(c')正透過近傍の拡散に変換すること、と言い換えることができる。
【0042】
なお、(b')及び(c')は正透過強度(Q)と正透過近傍の拡散強度(q)の比Q/qが小さいことを表わしており、一方、(a)はQ/qが大きいことを表わしている。
【0043】
ところで、これまで液晶表示装置用防眩シートに用いられてきたヘイズ値はJIS K7136(2000)に示されるように全光線に対して、正透過から2.5度以上拡散した光の割合であるから、ヘイズ値からでは、上記のような正透過近傍の拡散(ことに、2.5度未満の拡散)を用いた考えに想到することはできない。
【0044】
但し、内部拡散の全くない液晶表示装置用防眩シートでは、ギラツキを抑えることができないので、わずかであっても内部拡散を持たせる必要がある。なお、内部拡散による拡散の大きさは2.5度を越えない拡散であってもよく、この場合は内部拡散によるヘイズはゼロとなる。
【0045】
ここで、等方拡散の場合の正透過近傍の拡散強度について考察する。
【0046】
図3の模式図に示すように拡散強度は、aなる拡散透過強度分布を持つ透明基板に、bなる拡散透過強度分布を持つ層を積層すると、0度に近いほど拡散透過強度の減少割合は大きいので、0度に近いほど強度の低下が大きいこととなり、cなる拡散透過強度分布を持つ液晶表示装置用防眩シートとなる。
【0047】
また、液晶表示装置用防眩シートは一般に内部拡散要素及び外部拡散要素の分布は疎であるため、拡散特性の強度分布は、前記拡散要素による拡散強度分布と、拡散要素が存在せず正透過のみに強度を持つ二つの強度分布の和になる。
【0048】
図4に示すように正透過±1度及び正透過±2度の強度の傾きを正透過に外挿したときの強度を仮想正透過強度Uとしたとき、Uは、拡散要素による拡散特性の正透過強度を近似したこととなり、Q/Uは「拡散要素を持たない部分Q」と「拡散要素部分の正透過強度U」との比、すなわち、「透過拡散せずに正透過した強度Q」と「透過拡散により0度方向に導かれた正透過強度U」との比となり、いわば正透過近傍の拡散状態の尺度となっている。
【0049】
また、図3及び図4から正透過近傍の強度が大きいほどUは大きくなることと、初期の拡散角度が大きい場合ほどQに対するUの変化量が小さいことは明らかである。
【0050】
換言すれば、正透過近傍の強度qに変えてUを用いることが、前述(a)の透過拡散の大きさをも加味した形となる。
【0051】
以上のように、Q/Uの範囲を特定の範囲とすることで、画像の切れと動画像の黒彩感をバランスよく、良好にさせることができ、これらの性能を両立させた液晶表示装置用防眩シートを得ることが可能となる。
換言すればQ/Uは、表面形状(外部拡散要素)に関しては、正透過となる平坦部と正透過以外の角度となる凹凸部の比率に近似される為、凹凸の傾斜の角度と凹凸の存在確率に関連し、内部拡散に関しては、拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差、拡散粒子との衝突確率及び形状に関連し、表面形状と内部拡散の相互作用に関しては、前記相互作用をより弱めあう程度と強めあう程度とに関連することで、黒彩感(動画像)と画像の切れ(静止画像)の良し悪しを決定している。
【0052】
しかしながら、高水準な暗所黒味を実現するためには、更なる迷光防止が求められるので、さらに、迷光について考察する。
【0053】
一般に、屈折率nの層と空気との界面において、層内部から光が角度θで界面に入射するときの界面における反射割合は、p偏光の場合をRp、s偏光の場合をRsとすると、反射の法則及びスネルの法則に則って計算することにより以下の式で表される。
Rp=((cosθ−n×cos(arcsin(n×sinθ)))/(cosθ+n×cos(arcsin(n×sinθ))))2
Rs=((cos(arcsin(n×sinθ))−n×cosθ)/(cos(arcsin(n×sinθ))+n×cosθ))2
また、表面凹凸を有する防眩層において、内部拡散が小さい場合の透過拡散角度ψは、表面凹凸の傾斜角度をθs、バインダー樹脂の屈折率をnBとしたとき、スネルの法則に基づいて算出され、
ψ=arcsin(nB×sinθs)−θs
となる。
【0054】
よって、透明基材側から防眩層に入射した映像光が傾斜角度θsなる凹凸表面(防眩層と空気との界面)に入射するとき、上記式においてθ=θs、n=nBとすることができるから、前記凹凸表面での反射割合は上記のRp及びRsにより表され、それらは前記透過拡散角度ψの関数として表すことができる。そして、Rp及びRsが大きいほど、前記凹凸表面で反射して防眩層内部に戻る光が多くなるため迷光成分が増大する。
【0055】
一般的なバインダー樹脂の屈折率1.50を用いて、上記の式を計算したものを図6に示す。防眩層の表面凹凸はランダムに形成されているから、平均的な反射割合は(Rp+Rs)/2と表すことができる。図6から明らかなように、透過拡散角度が30度を超えると急激に反射が増大し、すなわち迷光成分が急激に増大する。
したがって、迷光成分を発生させないためには、30度以上の透過拡散が存在しないことが好ましく、20度から反射が増大し始めることから透過拡散を20度以下とすることで確実に迷光成分の発生を防止することができる。
【0056】
そして、これらの光学的性質を実現する為には、拡散粒子による防眩層表面の凹凸形成の機構を以下のように理解することで解決策を見出した。
すなわち、バインダー樹脂は硬化するときに体積が収縮する。一方、拡散粒子は収縮することが無いため、バインダー樹脂の収縮に拡散粒子が抵抗することで拡散粒子に対応する位置の表面が凸部となって凹凸が形成される。このため、特に拡散粒子がバインダー樹脂の表面に近い位置に存在すると、拡散粒子による凸部が急峻な傾斜になりやすい。
【0057】
しかしながら、拡散粒子の周りに、バインダー微粒子(拡散粒子よりも非常に小さく、拡散要素にはならないが、バインダーと共に流動することが可能であり、バインダーのような役割をする微粒子)を局在的に密集させることにより、その部分のバインダー(バインダー樹脂とバインダー微粒子からなる)は硬化収縮しにくくなり、結果として、拡散粒子周りの凸部はなだらかな傾斜となりやすい。さらに、拡散粒子が有機微粒子の場合、バインダー樹脂との比重差が小さいためバインダー表面に近い位置に存在しやすくなるが、バインダー微粒子が無機微粒子であると、比重がバインダー樹脂より大きいため有機微粒子を沈める効果があるので、凹凸の傾斜をなだらかにする効果がより高くなる。
【0058】
本発明においては、以上のように、Q/Uさらに及びLog10(Q30/Q)について注目することを特徴とするが、さらに優れた効果を得るために、他のパラメータ、すなわち、特許請求の範囲の各請求項において規定するような種々のパラメータとの任意の組み合わせにより、本発明の目的を達成することができる。
【0059】
本発明は、上記知見に基づいて完成したものであり、以下の態様を包含する。
(1)透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートであって、該防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、及び、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式 1)及び(式 2)を満たすことを特徴とする防眩シート。
(式 1) 10 < Q/U < 36
(式 2) Log10(Q30/Q) < −6
(2)前記バインダー微粒子の比重は前記バインダー樹脂の比重よりも大きいことを特徴とする防眩シート。
(3)前記バインダー微粒子が、疎水処理を施されたフュームドシリカ及び/または層状無機化合物であることを特徴とする防眩シート。
(4)前記防眩層の厚みをT(μm)としたとき、下記の(式 3)を満たすことを特徴とする防眩シート。
(式 3) 3 < T < 10
(5)前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQとし、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過から20度の方向の輝度をQ20としたとき、下記の(式 4)を満たすことを特徴とする防眩シート。
(式 4) Log10(Q20/Q) < −5.5
(6)防眩シートの全へイズ値をHa(%)とし、防眩シートの内部ヘイズ値をHi(%)としたとき、下記の(式 5)を満たすことを特徴とする防眩シート。
(式 5) 0 ≦ Ha−Hi ≦ 1.3
(7)最表層に反射防止防眩層を形成してなる防眩シート。
(8)上記防眩シートを用いた偏光板。
(9)上記防眩シートまたは上記偏光板を用いた画像表示装置。
(10)透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートであって、該防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、及び、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式 1)及び(式 2)を満たすように調整することを特徴とする防眩シートの製造法。
(式 1) 10 < Q/U < 36
(式 2) Log10(Q30/Q) < −6
(11)透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートを、画像表示装置の視認側に有する画像装置において、前記防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、および、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式 1)および(式 2)を満たすことを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(式 1) 10 < Q/U < 36
(式 2) Log10(Q30/Q) < −6
(12)前記バインダー微粒子の比重は前記バインダー樹脂の比重よりも大きいことを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(13)前記バインダー微粒子が、疎水処理を施されたフュームドシリカ及び/または層状無機化合物であることを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(14)前記防眩層の厚みをT(μm)としたとき、下記の(式 3)を満たすことを特徴とする画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(式 3) 3 < T < 10
(15)前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQとし、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過から20度の方向の輝度をQ20としたとき、下記の(式 4)を満たすことを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(式 4) Log10(Q20/Q)< −5.5
(16)防眩シートの全へイズ値をHa(%)とし、防眩シートの内部ヘイズ値をHi(%)としたとき、下記の(式 5)を満たすことを特徴とする、画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
(式 5) 0 ≦ Ha−Hi ≦ 1.3
(17)防眩シートの最表層に低屈折率層を形成してなる画像装置の黒彩感、暗所黒味、動画防眩性、艶黒感、黒しまりを改善する方法。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、暗所での高度な黒味(暗所黒味)及び黒彩感、艶黒感に優れ、動画用途で許容できる防眩性(動画防眩性)を有し、且つ、実使用に供するに適した画像表示装置用防眩シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】球状粒子及び樹脂による反射率を示す図である。
図2】表面傾斜角度に対する反射及び透過の角度を示す図である。
図3】拡散強度分布を示す図である。
図4】本発明の評価方法の原理を説明する概念図である。
図5】本発明における拡散透過強度の測定方法を示す概念図である。
図6】本発明における透過拡散角度と凹凸表面における反射割合の関係を示す図である。
図7-1】映像光及び外光における拡散粒子と表面凹凸との位置関係による透過及び反射光の特性を説明する図である。
図7-2】映像光及び外光における拡散粒子と表面凹凸との位置関係による透過及び反射光の特性を説明する図である。
図8-1】拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差による光の拡散特性の違いを説明する図である。
図8-2】拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差による光の拡散特性の違いを説明する図である。
図8-3】拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差による光の拡散特性の違いを説明する図である。
図8-4】拡散粒子とバインダー樹脂の屈折率差による光の拡散特性の違いを説明する図である。
図9】本発明の防眩シートの実施の形態の例を示す断面図である。
図10】本発明の防眩シートを用いた偏光板の実施の形態の例を示す断面図である。
図11】本発明の防眩シートの断面STEM写真である。(a)3000倍(b)20000倍
図12】本発明の偏光板を用いた液晶表示装置の実施の形態の例を示す断面図である。
図13】本発明の画像表示装置の一つであるプラズマ表示装置のガラス基板の構造を示す模式図である。
図14】本発明の画像表示装置の一つであるプラズマ表示装置の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の防眩シートは、透明基材の少なくとも一方の面に、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層を有する防眩シートであって、該防眩層は透明基材とは反対側の面に凹凸を有し、前記凹凸は、前記バインダー微粒子の密度の高い局在化層を周囲に有する前記拡散粒子及び/または前記拡散粒子の凝集体に基づく凸部により形成されてなり、前記防眩シートに透明基材側から垂直に可視光線を照射した際の正透過方向の輝度をQ、正透過から30度の方向の輝度をQ30、正透過から+2度の方向の輝度と正透過から+1度の方向の輝度とを結ぶ直線、及び、正透過から−2度の方向の輝度と正透過から−1度の方向の輝度とを結ぶ直線を各々正透過に外挿した透過強度の平均値をUとしたとき、下記の(式 1)及び(式 2)を満たすことを特徴とする防眩シートである。
(式 1) 10 < Q/U < 36
(式 2) Log10(Q30/Q) < −6
【0063】
以下、図5を用いて、Q及びQ30の測定方法について説明する。図5に示すような液晶表示装置用防眩シートについて5の方向から可視光線を照射すると、6の方向に正透過されるとともに、一部の光が拡散される。この6の方向、すなわち、0度における透過強度が正透過強度Qである。また30度の方向の透過強度が正透過強度Q30である。
【0064】
また、正透過±2度と正透過±1度での透過強度をそれぞれ測定し、該強度を直線で結び、正透過(0度)に外挿した透過強度の平均を仮想正透過強度Uと定義する(図4参照)。
【0065】
そして、防眩シートの製造過程において、Q/Uを指標として、材料の選定、製造条件の制御などを行うことにより、黒彩感(動画像)及び動画対応の防眩性(動画防眩性)に優れ、さらには画像の切れ(静止画像)に優れた防眩シートを効率よく製造することを可能とするものである。
なお、拡散透過強度の測定は、具体的には以下のように測定する。
【0066】
(拡散透過強度の測定方法)
防眩シートの裏面から(防眩シートの観察者側と反対側の面)から垂直に可視光線を照射する。光束が防眩シートに入射し、拡散透過した光を−85度〜+85度までの範囲で1度ごとに受光器を走査することにより拡散透過強度を測定する。
【0067】
なお、拡散透過強度を測定する装置については、特に制限はないが、本発明においては、日本電色工業(株)製「GC5000L」を使用した。なお、本測定においては、−85度〜+85度間での範囲を測定したが、−1、−2、0、+1及び+2度のみの測定を行うことで簡便に仮想正透過強度の算出と、正透過強度測定ができるので、オンラインで製造条件などの変更をしながら、指定する範囲内に自動調整することも容易となる。
【0068】
ここで、「GC5000L」の光束の径は約3mmであって、この径は一般に用いられているゴニオフォトメーターの平均的な光束の径となっている。
そして、本発明に用いる拡散粒子の粒子径は、ミクロンオーダーであり、内部拡散要素である粒子の径に対して、光束の径は1000倍程度大きいものとなっていることから、すなわち、一般にゴニオフォトメーターの測定においては、光束の径は粒子径に比べて十分に大きく、また粒子も均一に分散されていることから、試料のどのポイントに光束を照射したとしても、測定値に有意な差は生じず正確な測定が可能である。
【0069】
なお、前記Q30及び、正透過から20度の方向の透過強度であるQ20は、上記測定法により測定した20度及び−20度の平均値をQ20、30度及び−30度の平均値をQ30とする。
【0070】
本発明は、下記式(x)を指標として制御することが特徴である。
Log10(Q30/Q)<−6 (x)
Log10(Q30/Q)が−6未満となるようにすることによって、黒彩感(動画像)、暗所黒味が優れた液晶表示装置用防眩シートを得ることができる。
さらに、下記式(y)を満たすことにより、より一層暗所での高度な黒味に優れた液晶表示装置用防眩シートを得ることができる。
Log10(Q20/Q)<−5.5 (y)
なお、Q30あるいはQ20が非常に小さくて測定器で検出できない場合は、Log10(Q30/Q)あるいはLog10(Q20/Q)の値を−10.0とする。
【0071】
さらに、本発明は、下記式(z)を指標として制御することも特徴の一つである。
10 < Q/U < 36 (z)
Q/Uが10超となるようにすることによって、黒彩感(動画像)に優れるとともに、36未満となるようにすることによって動画防眩性に優れた液晶表示装置用防眩シートを得ることができる。
【0072】
さらに黒彩感及び動画防眩性を向上させるので、Q/Uは22超、36未満であることがより好ましい。
【0073】
本発明の液晶表示装置用防眩シートは、上記式(x)及び(z)を満足するものである。上記式(x)及び(z)を満足する液晶表示装置用防眩シートは、暗所での高度な黒味(暗所黒味)及び黒彩感、艶黒感に優れ、動画用途で許容できる防眩性(動画防眩性)を有する液晶表示装置用防眩シートとなる。
【0074】
本発明の防眩シートにおいて、前記防眩層は、拡散粒子、バインダー樹脂、及び、前記拡散粒子の周囲に局在的に密集したバインダー微粒子を有してなるものである。
拡散粒子の周りに局在化させるバインダー微粒子は、拡散粒子に接していても良いが、完全に接する必要はなく、バインダー樹脂が間に入り込んでいる方が好ましい。それにより、拡散粒子の周囲のバインダーの硬化収縮を効果的に抑制することができる。すなわち、拡散粒子の周囲に局在的に密集したとは、防眩層中でバインダー微粒子が単独で存在している状態が少量で、多くが拡散粒子の周囲に偏って集まっている状態を意味し、このような状態は、防眩層の断面電子顕微鏡(TEM,STEM)観察により容易に判別することができる。
【0075】
また、前記拡散粒子は凝集体を形成することが好ましい。凝集体においては、凝集体の外縁部は単独に分散した粒子と同様な凹凸を持つのに対し、凝集体を構成する粒子同士は近接しているので、凝集体表面は緩やかな凹凸となる。すなわち、凝集体を形成することで、大きな傾斜成分を減らし、なだらかな成分をより多くすることが可能となる。ここでいう凝集とは、粒子同士が完全に密着している状態だけではなく、断面観察した折に最も近接する粒子間距離が、その粒子の平均粒子径よりも小さい場合には凝集しているとする。なお、平均粒子径(μm)は、透過型光学顕微鏡観察によって粒子を透過観察し、10個の粒子の最大径を平均して算出する。画像解析ソフトを用いて算出してもよい。
図11(a)(b)は、上記したように拡散粒子の周りにバインダー粒子が局在化しており、かつ、拡散粒子は凝集体を形成している防眩層の1例である。(a)は3000倍、(b)は20000倍のSTEM断面写真である。このような状態であると、表面凹凸に大きな傾斜成分がないので好ましい。
【0076】
さらに、前記拡散粒子は、防眩層断面を観察したとき、防眩層の凹凸の最表面の最も低い凹部面より透明基材側に存在することが好ましい。それにより、拡散粒子が突出せず、より効果的に凸部の傾斜をなだらかにすることができる。
【0077】
Q/U及び、Log10(Q30/Q)、Log10(Q20/Q)を規定することに加えて、さらに防眩層の厚み、すなわち、バインダー樹脂、拡散粒子及びバインダー微粒子を含む防眩層の厚みT(μm)、液晶表示装置用防眩シートの総ヘイズHa(%)、内部拡散により生じるヘイズHi(%)、表面の凹凸による拡散(以下外部拡散と称することがある)と前記内部拡散による拡散との相互作用の和としての拡散(Ha−Hi)との関連等や、防眩層のバインダー樹脂の組み合わせ、透明基材樹脂等を考慮して選択することにより、液晶表示素子表面に用いる液晶表示装置用防眩シートの性能をさらに向上させることができる。
【0078】
偏光板製造工程や偏光板と液晶素子との貼合における曲げ等により防眩シートに加わる負荷によりクラックが生じることがあるが、特に、バインダーと微粒子との接着が弱いと、この界面で剥離が生じやすくなる。拡散層の厚みが厚いと重合収縮により界面にかかるひずみが大きくなり、より剥離が生じやすくなるので、防眩層の厚みT(μm)は
(式 3) 3 < T < 10
を満たすことが好ましい。
すなわち、防眩層の厚みTが3μm以下であるとハードコート性に劣り、10μm以上であると粒子との界面の歪が大きくなり、防眩シートに加わる負荷によりクラックが生じやすくなる。
【0079】
内部拡散が小さいとギラツキは解消できない。ただし、2.5度以上の拡散角を有する内部拡散が存在する場合に内部拡散により生じるヘイズHiとしてカウントされるので、たとえHiはゼロであっても、適度な内部拡散を有していればよい。しかし、拡散角の大きい拡散、すなわち、ヘイズとしてカウントされる内部ヘイズHiが大きすぎると解像度の低下、及び迷光成分の発生による暗所黒味の低下によりコントラストの低下が顕著となり、さらには画像の切れ(静止画像)が悪化する。
【0080】
なお、コントラストは低下するものの、内部ヘイズを3.0以上とすることで、画角拡大作用により、黒しまり性を向上させることができる。
【0081】
また、本発明は、従来考えられていたように総ヘイズは内部拡散と表面拡散の和となるのではなく、総ヘイズは内部拡散と表面拡散以外に両拡散要素の位置関係が影響するという知見によるもの、すなわち、総ヘイズは、内部ヘイズ+外部へイズ+内部拡散要素と表面凹凸との相互作用によるヘイズである、ということを基本思想としている。
したがって、液晶表示装置用防眩シートのヘイズをHa、内部拡散により生じるヘイズをHiとすると、Ha−Hiは、内部拡散要素と表面凹凸との相互作用によるヘイズ及び外部ヘイズの和と言うことができる。
【0082】
動画視聴の場合では、動画像の高度な画質の実現の為、黒彩感が求められており、かつ動画防眩性は映り込み像の輪郭がわずかに認識できない程度(静止画像の防眩性よりも微弱)のものであればよい為、ヘイズ(Ha−Hi)は低い傾向が好適となる。また、拡散角が2.5度未満の場合はヘイズとしてカウントされないので、ヘイズ(Ha−Hi)はこれまで不適とされてきた0であってもQ/U値が所望の範囲であればよく、より好ましくは0%以上1.3%以下である。
【0083】
なお、ギラツキの防止の観点からは、JIS K7105に基づく防眩シートの透過画像鮮明度での光学櫛0.125mmに対する光学櫛2.0mmの値の比Dは、2未満であることが好ましい。
光学櫛0.125mmでの値は正透過近傍の拡散の大きさ(値が小さいほど拡散は大きい)を表し、これは映像光の微細なゆがみ、すなわち、ギラツキの原因となる。一方、2.0mmの光学櫛での値はより広範囲の拡散の大きさ、すなわち、ギラツキを目立たなくさせる効果を表し、値が大きいほどその効果は小さくなる。したがって、透過画像鮮明度は光学櫛0.125mmでの値は低いほど、また、光学櫛2.0mmでの値は高いほどギラツキが悪くなる。
よって、前記Dによりこの関係を表すことができ、2以上であると、ギラツキが目立つようになる。前記Dは、1.9未満であることがより好ましく、1.4未満であることが更により好ましい。
【0084】
バインダー樹脂に分散される拡散粒子について、以下詳細に説明する。
拡散粒子は透光性の微粒子であることが好ましく、有機粒子であっても、無機粒子であってもよいし、有機粒子と無機粒子を混合して使用してもよい。球状の有機粒子は凹凸形状を制御しやすいので、少なくとも1種類以上の球状有機粒子を含むことが好ましい。
【0085】
本発明の液晶表示装置用防眩シートにおいて、用いる拡散粒子の平均粒径は、0.5〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜9μmであり、最も好ましくは1.5〜8.0μmである。この範囲内であれば、内部拡散及び/または外部拡散及び/または内部拡散要素と表面凹凸との相互作用による拡散透過強度分布を、調整することが可能である。
【0086】
特に、拡散粒子の平均粒径が0.5μm以上であると、粒子の凝集が過度にならず、凹凸形成の調整が容易になり、10μm以下であると、ギラツキやざらついた画像が出にくいために、拡散透過強度分布を設計する上での自由度が確保される。
なお、上記の本願の性質を満たす為には、拡散粒子の平均粒径Rと防眩層厚Tとの関係は下記式を満たすことが好ましい。
0.35 < R/T < 0.65
防眩層厚みに対する平均粒径の比 R/T が0.65以上であると拡散粒子は塗膜層最表面に突出し、また拡散粒子により生じる凹凸は急峻なものとなるおそれがある。前記R/Tが0.35以下であると凹凸が十分に形成されず映り込みが強くなるおそれがある。上記式を満たすことによって、適度な凹凸形状を形成することができる。
【0087】
なお、上記平均粒径は、拡散粒子単独で測定する場合、コールターカウンター法による重量平均径(体積平均径)として計測できる。一方、防眩層中の拡散粒子の平均粒径は、防眩層の透過光学顕微鏡観察において、10個の粒子の最大径を平均した値として求められる。もしくはそれが不適な場合は、粒子中心近傍を通る断面の電子顕微鏡(TEM、STEM等の透過型が好ましい)観察において、任意の同じ種類で、ほぼ同じ位の粒径として観察される拡散粒子30個選択して(粒子のどの部位の断面であるか不明であるためn数を増やしている)その断面の最大粒径を測定し、その平均値として算出される値である。いずれも画像から判断するため、画像解析ソフトにて算出してもよい。
【0088】
また、拡散粒子の粒径のばらつきが少ないほど、拡散特性にばらつきが少なく、拡散透過強度分布設計が容易となる。より具体的には、重量平均による平均径をMV、累積25%径をd25、累積75%径をd75としたとき、(d75−d25)/MVが0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることが更に好ましい。
なお、累積25%径とは、粒径分布における粒径の小さい粒子からカウントして、25重量%となったときの粒子径をいい、累積75%径とは、同様にカウントして75重量%となったときの粒子径をいう。
【0089】
粒径のばらつきの調整方法としては、例えば、合成反応の条件を調整することで行うことができ、また、合成反応後に分級することも有力な手段である。分級では、その回数を上げることやその程度を強くすることで、望ましい分布の粒子を得ることができる。分級には風力分級法、遠心分級法、沈降分級法、濾過分級法、静電分級法等の方法を用いることが好ましい。
【0090】
さらに、防眩層を構成するバインダー樹脂と拡散粒子の屈折率差が0.005〜0.25であることが好ましい。屈折率差が0.005以上であると、ギラツキを抑制することができ、0.25以下であると拡散透過強度分布設計が容易となる。以上の観点から、該屈折率差は0.01〜0.2がより好ましく、0.015〜0.15であることがさらに好ましい。
【0091】
拡散粒子の屈折率は、屈折率の異なる2種類の溶媒の混合比を変化させて屈折率を変化させた溶媒中、拡散粒子を等量分散して濁度を測定し、濁度が極小になった時の溶媒の屈折率をアッベ屈折計で測定する他、カーギル試薬を用いるなどの方法により測定される。
また、拡散粒子の屈折率は、材料自身を測定する以外に、実際に液晶表示装置用防眩シートとした後に、粒子または粒子のかけらを膜から取り出して前記方法により測定する方法や、防眩シートの切断面をエリプソメーターで測定する方法、防眩シートのレーザー干渉を測定する方法((株)エフケー光学研究所製の位相シフトレーザー干渉顕微鏡や(株)溝尻光学工業所製 二光束干渉顕微鏡など)等により測定することもできる。
【0092】
拡散粒子がバインダーと屈折率が異なる有機粒子であって、塗液中の成分が有機粒子に浸透した含浸層を有し、且つ、有機粒子の中心部に塗液中の成分が含浸していないと、有機粒子とバインダー樹脂との界面の屈折率差が小さくなり界面での反射が抑制されるので迷光が発生しづらく、且つ、有機粒子内部はバインダー樹脂との屈折率差が大きいので内部拡散は維持されるので、迷光発生の防止とギラツキの防止の両立を図りやすいのでより好ましい。
【0093】
なお、上記含浸層の含浸量を増やすためには、例えば、有機粒子の架橋密度を低くしたり、含浸性の溶剤を共用したり、塗液保管温度を高くする等々が選択できるが、事前に好ましい含浸量となる条件を選定しておくことが肝要である。
前記含浸層を有する有機粒子においては、内部拡散性能を維持するとの観点から塗液中の成分が含浸していない中心部が可視光波長以上の径を有することが好ましく、1μm以上の径を有することがより好ましい。
【0094】
なお、上記中心部の含浸していない部分の径は、具体的には、予め、前述したような透過光学顕微鏡観察などで防眩層中の粒子の平均径を算出しておき、上記防眩層の断面をSTEMにて3000〜5万倍で、含浸層のある微粒子が必ず1個以上存在している任意の5場面を観察し、撮影した後に、最も含浸している部分を測定し、平均値(粒子5個以上の平均値)を求める。その含浸部の平均値を、本来の平均粒径の値から差し引いて算出できる。
【0095】
透光性有機粒子としては、ポリメチルメタクリレート粒子、ポリアクリル−スチレン共重合体粒子、メラミン樹脂粒子、ポリカーボネート粒子、ポリスチレン粒子、ポリ塩化ビニル粒子、ベンゾグアナミン−メラミンホルムアルデヒド粒子、シリコーン粒子、フッ素系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂、また中空や細孔を有する有機粒子等が用いられる。
また有機粒子を用いる場合で、バインダー粒子が無機微粒子(未処理であると表面は親水性)である場合は、好適にバインダー微粒子を有機粒子周囲に局在させることができるため、有機粒子の表面が親水化処理されていてもよい。前記親水化処理としては特に限定されず公知の方法が挙げられるが、例えば、カルボン酸基や水酸基等の官能基を有するモノマーを前記有機粒子の表面に共重合させる方法等が挙げられる。
【0096】
透光性無機粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、タルク、マイカ、カオリン、スメクタイト、ベントナイト粒子、また中空や細孔を有する無機粒子等が挙げられる。
【0097】
拡散粒子は、単粒子状態での形状が球状であることが好ましい。拡散粒子の単粒子がこのような球状であることで、粒子による光の拡散角度が大きくならず、迷光成分の発生を抑えることができるので、黒彩感に優れた防眩性シートを得ることができる。
なお、前記「球状」とは、例えば、真球状、楕円球状等が挙げられ、いわゆる角ばった部分を有し、光拡散する部分が多い不定形を除く意味である。
【0098】
さらに、拡散粒子は有機粒子であることが好ましい。有機粒子であると、前記の含浸層が形成されやすいほか、比重が小さいため、塗布直後の塗膜中で動きやすくなることにより拡散粒子による凝集体が形成しやすく、また、塗液中において拡散粒子が沈降することを抑制することができる。
【0099】
上記塗液における拡散粒子の含有量としては特に限定されないが、後述する放射線硬化型透光性樹脂100質量部に対して、0.5〜30質量部であることが好ましい。0.5質量部未満であると、防眩層の表面に充分な凹凸形状を形成することができず、本発明の防眩シートの動画防眩性能が不充分となることがある。
一方、30質量部を超えると、上記塗液中で拡散粒子同士の凝集が生じ、防眩層の表面に大きな凸部が形成されて所望の性能が得られず、白茶けやギラツキが発生してしまうことがある。
上記拡散粒子の含有量のより好ましい下限は1質量部、より好ましい上限は20質量部である。この範囲内にあることで、より上述の効果を確実にすることができる。
【0100】
バインダー微粒子としては、1nm以上で且つ拡散粒子よりも粒径が小さく、バインダー樹脂の中で凝集しやすく、バインダー樹脂より比重が大きいことが好ましく、前記透光性無機粒子を用いることができる。特に、タルクやスメクタイト類等の層状無機化合物、フュームドシリカ等を、より好ましくは表面を疎水処理して用いることができる。
なお、比重は、液相置換法、気相置換法(ピクノメーター法)等で測定できる。
【0101】
上記バインダー微粒子は、塗液の安定性が高いことから、フュームドシリカであることがより好ましい。
ここで、フュームドシリカとは、乾式法で作成された200nm以下の粒径を有する非晶質のシリカをいい、ケイ素を含む揮発性化合物を気相で反応させることにより得られる。具体的には、例えば、ケイ素化合物、例えば、SiCl4を酸素と水素の炎中で加水分解して生成されたもの等が挙げられる。上記フュームドシリカの商品としては、例えば、日本アエロジル社製のアエロジル等が挙げられる。
【0102】
フュームドシリカは、平均一次粒径が1〜100nmであることが好ましい。1nm未満であると、上述した凝集体を充分に形成できないことがあり、100nmを超えると、凝集により迷光成分が発生することがある。より好ましい下限は5nm、より好ましい上限は50nmである。なお、上記平均一次粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM,STEM)の画像から、画像処理ソフトウェアーを用いて測定した値である。
【0103】
ここで、上記防眩層をSTEM等で顕微鏡観察を行った場合、平均一次粒径が上記範囲のフュームドシリカは、凝集して数珠状に連結して巨大化している。このように巨大化している場合、その凝集体の最大部分の平均粒径は20〜600nmになっているものであると、防眩層の高透過率性を保持できるので好ましい。600nmを超えると、透明性が低下したり迷光成分が発生したりすることがある。より好ましくは、20〜400nmである。
なお、巨大化したフュームドシリカの平均粒径は、防眩層をSTEMにて断面観察し、巨大粒子10点の最大径の平均値として求められる。
【0104】
また、前記フュームドシリカの表面は、表面処理されていることが好ましく、疎水化処理されていることが好ましい。このように表面処理されていることで、フュームドシリカを有機微粒子等の表面に好適に偏在させることができ、また、フュームドシリカ同士が凝集する折に、有機微粒子等の拡散粒子の凝集体を形成することもできる。更に、フュームドシリカ自体の耐薬品性、耐ケン化性も付与できる。上記疎水処理は、例えば、メチル処理、オクチルシラン処理、ジメチルシリコーンオイル処理等が好適であり、中でも有機粒子との局在化に適する疎水度の観点からオクチルシラン処理が好ましい。
図11(a)(b)は、図10の本発明による防眩層8の一例であり、(a)は倍率3000倍、(b)は倍率20000倍のSTEM断面写真である。防眩層断面内に、有機粒子などの拡散粒子の周囲に数珠状に連結したフュームドシリカが偏在している状態となっており、かつ、拡散粒子もいくつか凝集している。この凝集部分が、なだらかな凸部を形成し、本発明においては好ましい形態である。
【0105】
防眩層を構成するバインダー樹脂としては、透光性の電離放射線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。防眩層を形成するには、電離放射線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を透明基材に塗布し、該樹脂組成物中に含まれるモノマー、オリゴマー及びプレポリマーを架橋及び/または重合させることにより形成することができる。
【0106】
モノマー、オリゴマー及びプレポリマーの反応性官能基としては、電離放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。
光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられる。
また、プレポリマー及びオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のアクリレート、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0107】
モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF EO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、等のアクリル系モノマー;トリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコール等の分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物、また、2以上の不飽和結合を有するウレタン(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0108】
ことに、多官能アクリレートであることが好ましく、なかでも、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0109】
また、バインダー樹脂として、ポリマーを上記樹脂組成物に添加して用いることも可能である。ポリマーとしては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等が挙げられる。
【0110】
ポリマーを添加することで、塗液の粘度調整が可能であり、このことによって、塗工を容易にするとともに、粒子の凝集による凹凸形成の調整が容易になったり、粒子の沈降の制御が可能となるといった利点があり、表面拡散及び内部拡散と表面凹凸の相互作用を制御することができる。
ポリマーの好ましい重量平均分子量は、2万〜10万である。2万未満であると粘度調整するためには、添加量を多くする必要があり、防眩層の硬度が低下するおそれがあり、10万以上であると粘度が高すぎ、塗工性が低下するおそれや、また、重量平均分子量が大きすぎる化合物が組成物に存在すると、硬化反応時に架橋阻害原因となり硬度が低下するおそれがあるからである。
【0111】
なお本発明の重量平均分子量は、THF溶剤におけるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値として求めたものである。
【0112】
上記樹脂組成物には、必要に応じて、光ラジカル重合開始剤を添加することができる。光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物等が用いられる。
【0113】
アセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−ジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシ−ジメチル−p−イソプロピルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン等が挙げられ、ベンゾイン類としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等が挙げられる。
また、ベンゾフェノン類としては、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン及びp−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が使用可能である。
【0114】
光増感剤を混合して用いることもでき、その具体例としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ−n−ブチルホスフィン等が挙げられる。
【0115】
さらには、前記電離放射線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂に高屈折率または低屈折率の100nm以下の微粒子を添加することで、透明樹脂の屈折率を調整することで内部拡散を制御することも可能である。
【0116】
ただし、バインダー樹脂中にオルガノシランを含有すると、塗液中の樹脂、溶剤系、粒子の親油、親水度合いの組み合わせにより、粒子の凝集性の変化が大きく、光学特性が安定しないのでオルガノシランの使用は避けることが好ましい。
この原因は、一種類の粒子であっても、例えば、乾燥途上で(通常2種以上入れるので)溶剤の揮発性の差により組成変動が生じるので、凝集と分散とを制御が困難となるためであると類推している。このことは、殊に親油、親水度合いが異なる二種以上の粒子を用いる、場合に顕著である。そのため急峻な凹凸などが生じる点などで、ガサツキやギラツキの制御ができなくなる恐れがある。
【0117】
また、上記放射線硬化性樹脂組成物には、通常、粘度を調節したり、各成分を溶解または分散可能とするために溶剤を用いる。該溶剤は、用いる溶剤の種類によって、塗布・乾燥の工程により塗膜の表面状態が異なるため外部拡散による透過強度分布を調整し得るほか、有機微粒子の含浸層厚が異なることを考慮して、適宜選択することが好ましい。
具体的には、飽和蒸気圧、透明基材への浸透性等を考慮して選定される。
【0118】
透明基材への、塗液中の低分子量成分の含浸量を調整することによって、防眩層の厚さを制御することに繋がり、また、前記透明基材に含浸したことでその基材表面が柔軟性を持ち、防眩層の硬化収縮を吸収する作用を有することにより、結果として前述の如く表面凹凸形状を調整することができる。特に、透明基材がセルロース系樹脂からなる場合に本手法は有効である。
また、粒子に含浸性を有する溶剤を用いることで、透明樹脂の成分の少なくとも一部が粒子に浸透しやすくなり、前述の含浸層の調整が可能となり拡散透過強度を制御することにつながる。
【0119】
溶剤としては、上記観点から適宜選択することができるが、具体的には、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤や、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノンなどのケトン類が好適に挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0120】
芳香族系溶剤の少なくとも1種とケトン類の少なくとも1種を混合して使用することが好ましい。その他、乾燥速度を制御するために、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類やセロソルブアセテート類、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類を混合してもよい。
【0121】
特に、バインダー微粒子として疎水処理したフュームドシリカを用いる場合は、極性が高く、かつ、揮発速度が速い溶剤を併せて用いることが好ましい。このような溶剤であると、塗液中での前記フュームドシリカの分散性が良好で、かつ、塗布後に速やかに乾燥して塗膜中で集まりやすくなり、拡散粒子の周囲に局在化させやすい。そのような溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノールが挙げられるが、その中でも、イソプロパノールが好適に用いられる。
【0122】
本発明にかかる防眩シートにおいて、バインダー樹脂中に拡散粒子、バインダー微粒子以外の添加剤が、必要に応じて配合される。
例えば、凝集防止効果及び沈降防止効果、その他、レベリング性などの特性の向上のため、各種界面活性剤を用いることができる。
【0123】
界面活性剤としては、シリコーンオイル、フッ素系界面活性剤、好ましくはパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が防眩層がベナードセル構造となることを回避することから好ましい。溶剤を含む樹脂組成物を塗工し、乾燥する場合、塗膜内において膜表面と内面とに表面張力差などを生じ、それによって膜内に多数の対流が引き起こされる。この対流により生じる構造はベナードセル構造と呼ばれ、ゆず肌や塗工欠陥となる。
また、前記ベナードセル構造は黒彩感(動画像)や画像のキレ(静止画像)などに悪影響を及ぼす。前述のような界面活性剤を用いると、この対流を防止することができるため、欠陥やムラのない凹凸膜が得られるだけでなく、透過拡散輝度特性の調整も容易となる。
【0124】
さらに、本発明では防汚剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料)、難燃剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、接着付与剤、重合禁止剤、酸化防止剤、表面改質剤などを添加することができる。
【0125】
本発明の防眩シートに用いられる透明基材としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスなど、通常画像表示装置用防眩シートに用いられるものであれば特に限定はない。
【0126】
透明樹脂フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)、ジアセチルセルロースフィルム、アセチルブチルセルロースフィルム、アセチルプロピルセルロースフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリロニトリルフィルム、ポリノルボルネン系樹脂フィルム等が使用できる。
特に、含浸性があるために表面凹凸を滑らかにし易いこと以外にも、本発明の画像表示装置用防眩シートを偏光板とともに用いる場合では、偏光を乱さないことからTACフィルムが、耐候性から環状ポリオレフィンフィルムが、機械的強度と平滑性を重視する場合は、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルムが好ましい。
また、前記透明基材は多層であっても単層であってもよいし、塗膜との接着性を目的として表面にプライマー層を設けてもよい。
【0127】
また、透明基材と塗膜層に実質的な屈折率差がある場合に界面で生じる干渉縞を防止するために、透明基材に含浸する塗液を用いる以外にも、例えば透明基板と塗膜層との間に中間の屈折率をもつ干渉縞防止層を設けることや、表面粗さ(十点平均粗さRz)として、0.3〜1.5μm程度の凹凸を設けておくことも可能である。
なお、Rzは、JIS B0601 1994に準拠した方法を元に、カットオフ値を2.5mm、評価速さを0.5mm/sとして測定した値である。
【0128】
本発明にかかる防眩シートには、ハードコート性、耐映り込み性、反射防止性、帯電防止性、防汚性等の機能を持たせることが可能である。ハードコート性は、通常、鉛筆硬度(JIS K5400に準拠して測定)やスチールウール#0000で荷重をかけながら10往復擦り試験を行い、裏面に黒テープを貼付した状態でキズが確認されない最大荷重で評価する(耐スチールウール擦り性)。
【0129】
本発明にかかる防眩シートにおいては、鉛筆硬度ではH以上が好ましく、2H以上がさらに好ましい。
また、耐スチールウール擦り性では、10往復擦り試験をしてもキズが確認されない最大荷重は、200g/cm2以上であることが好ましく、500g/cm2以上であることがさらに好ましく、700g/cm2以上であることが特に好ましい。
【0130】
また、防眩シート表面での静電気防止の点で帯電防止性能を付与することが好ましい。
帯電防止性能を付与するには、例えば、導電性微粒子、4級アンモニウム塩、ポリチオフェン、その他導電性有機化合物などと反応性硬化樹脂を含む導電性塗工液を塗工する方法、或いは透明膜を形成する金属や金属酸化物等を蒸着やスパッタリングして導電性薄膜を形成する方法等の従来公知の方法を挙げることができる。
また、帯電防止層をハードコート、耐映りこみ性、反射防止等の機能層の一部として使用することもできる。
【0131】
帯電防止性を示す指標として表面抵抗値があり、本発明では、表面抵抗値が、1012Ω/□以下が好ましく、1011Ω/□以下がさらに好ましく、1010Ω/□以下が特に好ましい。
また、該光学フィルムが蓄積できる最大電圧である、いわゆる飽和帯電圧としては、10kVの印加電圧で2kV以下であることが好ましい。
【0132】
また、本発明の防眩シートの最表面には防汚層を設けることができる。防汚層は表面エネルギーを下げ、親水性あるいは親油性の汚れを付きにくくするものである。
防汚層は防汚剤の添加により付与することができ、防汚剤としては、フッ素系化合物、珪素系化合物、またはこれらの混合物が挙げられ、特にフロロアルキル基を有する化合物が好ましい。
【0133】
また、本発明の防眩シートの最表面には、その表面に低屈折率層が積層される表面層よりも屈折率が低い低屈折率層を設けることができる。
前記低屈折率層は、80〜120nm程度の厚みを有する層であって、外光の反射を干渉により低減するものである。前記低屈折率層は、なんら限定されることは無いが、多孔質または中空シリカを添加した紫外線硬化樹脂を含む塗液を塗布及び硬化により形成することが好ましい。前記塗液を塗布及び硬化することにより、防眩層表面の凸部に存在した微小でシャープな凹凸がスムージングされてより滑らかになり、反射防止効果に加えて、より一層黒彩感の向上を図ることができる。
【0134】
本発明の防眩シートは、透明基材に最表面に凹凸形状を有する防眩層を構成する樹脂組成物を塗布して製造する。
塗布の方法としては、種々の方法を用いることができ、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、マイクログラビアコート法、スプレーコート法、スピンコート法、リバースコート法等の公知の方法が用いられる。
【0135】
本発明においては、塗布量により透過拡散輝度特性が変化するので、内部に拡散要素を有する層と透明樹脂層との厚みの和を3〜10μmの範囲で安定して得やすいロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、リバースコート法が好ましい。
【0136】
前記の方法のいずれかで塗布した後、溶剤を乾燥するために加熱されたゾーンに搬送され各種の公知の方法で溶剤を乾燥する。ここで溶剤相対蒸発速度、固形分濃度、塗布液温度、乾燥温度、乾燥風の風速、乾燥時間、乾燥ゾーンの溶剤雰囲気濃度等を選定することにより、表面凹凸形状のプロファイルによる外部拡散及び前記拡散粒子や前記添加剤による内部拡散を調整できる。
【0137】
特に、乾燥条件の選定によって透過拡散輝度特性を調整する方法が簡便で好ましい。具体的な乾燥温度としては、30〜120℃、乾燥風速では0.2〜50m/sであることが好ましく、この範囲内で適宜調整することで透過拡散輝度特性を調整することができる。
【0138】
より具体的には、溶剤の種類と乾燥温度を制御することで、樹脂及び溶剤の基材への浸透性が調整できる。すなわち、溶剤条件が同じ場合には乾燥温度を制御することで、樹脂及び溶剤の基材への浸透性を調整することができ、上述したように、表面凹凸形状を制御することにつながる。
【0139】
前記方法のいずれかで溶剤を乾燥した後に、電離放射線硬化を行い、塗膜を硬化することができる。
本発明における電離放射線種は特に制限されるものではなく、塗膜を形成する硬化性組成物の種類に応じて、紫外線、電子線、近紫外線、可視光、近赤外線、赤外線、X線など適宜選択することができるが、特に取扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。
紫外線反応性化合物を光重合させる光源としては、紫外線を発生する光源であればいずれも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、フュージョンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光なども用いることが出来る。このうち、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、フュージョンランプを好ましく利用できる。
【実施例】
【0140】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらによってなんら限定されるものではない。
【0141】
(実施例1)
透明基材としてトリアセチルセルロース(富士フイルム(株)製、厚さ80μm)を用意した。
次に、バインダー樹脂として、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA、製品名:M−451、東亜合成(株)製)70質量部、及びイソシアヌル酸PO変性トリアクリレート(製品名:M−313、東亜合成(株)製)30質量部の混合物を用いた(屈折率1.51)。
これに拡散粒子として、スチレンアクリル共重合体粒子(屈折率1.56、平均粒径3.5μm、積水化成品工業製)、バインダー微粒子としてタルク(ナノタルクD−1000、平均粒子径1.0μm、日本タルク製)を、バインダー樹脂100質量部に対して、各々5及び4質量部、含有させた。
さらに、開始剤イルガキュア184(BASFジャパン製)、レベリング剤ポリエーテル変性シリコーン(TSF4460、モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ製)をそれぞれバインダー樹脂100質量部に対して、5質量部、0.04質量部含有させた。
これに溶剤としてトルエン、イソプロパノール、及びシクロヘキサノンの混合溶剤(質量比7:2:1)を、バインダー樹脂100質量部に対して、190質量部配合して得られた樹脂組成物を、前記透明基材に塗工し、0.2m/sの流速で70℃の乾燥空気を15秒間流通させた後、さらに10m/sの流速で70℃の乾燥空気を30秒間流通させて乾燥させた。
その後、紫外線を照射して(窒素雰囲気下にて200mJ/cm2)バインダー樹脂を硬化させ、防眩シートを作製した。硬化後の防眩層厚は5.5μmとした。
【0142】
(実施例2〜10、比較例1〜5)
塗液に添加する各成分等を表1、及び表2に示したようにした以外は、実施例1と同様にして防眩シートを作成した。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
表1において、拡散粒子、バインダー微粒子、バインダー樹脂及び溶剤として示した記号の詳細は以下のとおりである。
【0146】
(拡散粒子)
α:スチレンアクリル共重合粒子(屈折率1.56、平均粒径3.5μm、積水化成品工業製)
β:スチレンアクリル共重合粒子(屈折率1.54、平均粒径2.0μm、積水化成品工業製)
γ:ポリスチレン粒子(屈折率1.60、平均粒径3.0μm、積水化成品工業製)
(バインダー微粒子)
a:タルク(ナノタルクD−1000、平均粒径1.0μm、日本タルク製)
b:疎水処理フュームドシリカ(平均一次粒径12nm、日本アエロジル社製)
(バインダー樹脂)
P:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA、製品名:M−451、東亜合成(株)製)70質量部、及びイソシアヌル酸PO変性トリアクリレート(製品名:M−313、東亜合成(株)製)30質量部の混合物(屈折率1.51)
Q:ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET−30、日本化薬製)80質量部、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬製)5質量部及びポリマーアクリレート(BS371、荒川化学製)15質量部の混合物(屈折率1.51)
(溶剤)
X:トルエン、イソプロパノール、及び、シクロヘキサノンの混合物(質量比7:2:1)
Y:トルエン、及び、シクロヘキサノンの混合物(質量比6:4)
【0147】
[評価方法]
1.膜厚:T(μm)の測定方法
共焦点レーザー顕微鏡(LeicaTCS−NT:ライカ社製:対物レンズ「10〜100倍」)にて、防眩シートの断面を観察し、界面の有無を判断し下記の評価基準で判断した。
【0148】
測定手順
(1)ハレーションのない鮮明な画像を得るため、共焦点レーザー顕微鏡に、湿式の対物レンズを使用し、かつ、光学積層体の上に屈折率1.518のオイルを約2ml乗せて観察した。オイルの使用は、対物レンズと防眩層との間の空気層を消失させるために用いた。
(2)1画面につき凹凸の最大凸部、最小凹部の基材からの膜厚を1点ずつ計2点測定し、それを5画面分、計10点測定し、平均値を防眩層厚として算出した。なお、上記共焦点レーザー顕微鏡にて界面が明確にわからない防眩シートの場合は、ミクロトームなどで断面を作成し、電子顕微鏡観察によって、上記(2)と同様に膜厚を算出することもできる。
【0149】
2.総ヘイズ:Ha(%)測定方法
総ヘイズ値は、JIS K−7136(2000)に従って測定することができる。測定機器として、ヘーズメーターHM−150(村上色彩技術研究所)を使用した。なお、ヘイズは、透明基材面を光源に向けて測定する。
【0150】
3.内部へイズ:Hi(%)測定方法
本発明で使用している内部ヘイズは、以下のように求められる。防眩シートの観察者面側最表面にある凹凸上に、表面凹凸を形成する樹脂と屈折率が等しいか少なくとも屈折率差が0.02以下である樹脂、本発明の場合は各実施例・比較例から微粒子を除いたものをワイヤーバーで乾燥膜厚が8μm(完全に表面の凹凸形状がなくなり、表面が平坦とできる膜厚とする)となるように塗布し、70℃で1分間乾燥後、100mj/cm2の紫外線を照射して硬化する。
これによって、表面にある凹凸がつぶれ、平坦な表面となる。ただし、この凹凸形状を有する防眩層を形成する組成物中にレベリング剤などが入っていることで、上記リコート剤がはじきやすく濡れにくいような場合は、あらかじめ防眩シートをケン化処理(2mol/lのNaOH(またはKOH)溶液55度3分浸したのち、水洗し、キムワイプなどで水滴を完全に除去した後、50度オーブンで1分乾燥)により、親水処理を施すとよい。
この表面を平坦にしたシートは、表面凹凸をもたず、相互作用もないので、内部ヘイズだけを持つ状態となっている。
このシートのヘイズを、JIS K−7136に従って総ヘイズと同様な方法で測定し、内部ヘイズとして求めることができる。
なお、本発明実施例で用いているトリアセチルセルロール基材自身のヘイズは0.2である。防眩層自身の内部へイズは、上記内部へイズからこの基材のヘイズを差し引いたものになるが、本発明では差し引いていない。画像表示装置には一般的に積層体として防眩層を搭載するため、防眩層のみの内部へイズではなく、積層体全体の内部へイズを考えるのが実態に近いためよい。例えば、ヘイズ0.2程度であれば影響は小さいが、もしもヘイズの高い基材を用いる場合は、差し引いてしまうと積層体としての光学特性評価とは異なるものになる。
【0151】
4.正透過強度Q、仮想正透過強度U、Q20及びQ30の測定
各製造例にて作製された防眩シートについて、明細書本文中に記載の方法により測定した。
【0152】
5.ハードコート性評価方法
本発明の防眩シートにおいて、ハード性を有するとは、鉛筆硬度試験において2H以上の鉛筆硬度を有することをいう。
鉛筆硬度は、JIS K−5400に従って測定することができる。測定に使用する機器としては、鉛筆硬度試験機(東洋精機社製)が挙げられる。該鉛筆硬度試験は、5回の鉛筆硬度試験の内、4回以上の傷等の外観異常が認められなかった場合に使用した鉛筆についての硬度を求めるものである。例えば、2Hの鉛筆を用いて、5回の試験を行い、4回外観異常が生じなければ、その光学積層体の鉛筆硬度は2Hである。
○:鉛筆硬度が2H以上のもの
×:鉛筆硬度が2Hを満たさないもの
【0153】
6.クラック評価方法
JIS K5600−5−1の屈曲試験で用いる円筒型マンドレル法の芯棒に防眩シートを巻きつけ、クラックの入り方で評価した。
○:8mmの芯棒に巻きつけてもクラックが入らず良好
×:8mmの芯棒に巻きつけた場合、クラックが入った
【0154】
7.映像の評価
ソニー社製液晶テレビ「KDL−40X2500」の最表面の偏光板を剥離し、表面塗布層のない偏光板を貼付した。
次いで、その上に各実施例、比較例で作成したサンプルを防眩層側が最表面となるように、光学フィルム用透明粘着フィルム(全光線透過率91%以上、ヘイズ0.3%以下、膜厚20〜50μmの製品、例えばMHMシリーズ:日栄加工(株)製など)により貼付した。
該液晶テレビを、照度が約1,000Lxの環境下の室内に設置し、メディアファクトリー社のDVD「オペラ座の怪人」を表示して、液晶テレビから1.5〜2.0m程度離れた場所から上下、左右様々な角度から、該映像を被験者15人が鑑賞することで、下記項目に関して官能評価を実施した。評価基準は以下のとおりである。
【0155】
(1)黒彩感:動画像表示のとき、コントラスト(艶黒感及び黒しまり)が高く、立体感があり、かつ画像にテリや輝きがあり、躍動感を感じるか否かで判定した。
◎:立体感及び躍動感が全て○である
○:立体感及び躍動感のうち一つが○でもう一つが△である
●:立体感及び躍動感がともに△である
×:立体感及び躍動感に一つでも×がある
なお、立体感、躍動感は以下の基準により評価した。
立体感
○:良好と答えた人が10人以上
△:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
躍動感
○:良好と答えた人が10人以上
△:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
【0156】
(2)動画防眩性:動画像表示のとき、耐映り込み性(観測者及び観測者の背景の映り込みが気にならない状態)に優れ、動画像が映えて見えるか否かで判定した。観測者及び観測者の背景の映り込みが気にならない状態とは、観測者がいることは認められるが、その輪郭だけは不明瞭なぼやけた状態であり、背景にある物も存在は認められるが、輪郭や境界が不明瞭になっている状態である。また、背景に白い壁があった場合、白い壁が存在することは認められるが、白がぼやけた状態で、壁の境界線が不明瞭な状態である。このように、輪郭などがぼやけるだけで、観測者にとっては映り込みが気にならない状態となる。この防眩性は、従来の防眩性のように、観測者や背景が完全に映り込まない、完全にぼやけ、不明瞭になる状態とは異なる。
◎:良好と答えた人が10人以上
○:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
【0157】
(3)暗所黒味:上記液晶テレビについて、照度を5Lx以下の環境下の室内に設置し、黒色の画面を表示して、液晶テレビから1.5〜2.0m程度離れた場所から上下、左右様々な角度から、該映像を被験者15人が鑑賞することで下記項目に関して官能評価を実施した。なお、この際の黒色の画面表示については、別途外部接続したノートパソコン(ソニー製VAIO)の画面を表示させ、背景色を全面「黒色」とした。評価基準は以下のとおりである。暗所での黒表示において、グレーがかったり、乳白色混じりの印象を感じず、黒く見えるか否かで判定した。
◎:良好と答えた人が13人以上
○:良好と答えた人が10〜12人
●:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
【0158】
(4)黒しまり:上記液晶テレビを、再び照度が約1,000Lxの環境下の室内に設置し、真正面から電源off時の黒味及び電源on時の黒味(黒い画像)を評価した。黒さという基準で表した。
◎:良好と答えた人が13人以上
○:良好と答えた人が10〜12人
●:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
【0159】
(5)艶黒感:黒色アクリル板に防眩シートを前記光学フィルム用透明粘着フィルムを用いて貼合した試料を、照度が約1,000Lxの環境下の室内にて水平面に置き、三波長線管を点灯させた状態で45度入射面につき正反射方向から被験者15人が目視官能評価を行い、艶のある黒色を再現することができるか否かにより判定する。
◎:良好と答えた人が13人以上
○:良好と答えた人が10〜12人
●:良好と答えた人が5〜9人
×:良好と答えた人が4人以下
【0160】
実施例及び比較例で得られた防眩シートについて、その評価結果を表2に示す。
【0161】
表2に示したように、実施例に係る防眩シートは、Q/U及びLog10(Q30/Q)が本発明の範囲を満たしているため、映像の評価において優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の防眩シートによれば、暗所黒味、黒彩感に優れ、かつ動画防眩性に優れた画像表示装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0163】
1.7.防眩シート
2.8.防眩層
3−1.拡散粒子
3−2.バインダー微粒子
4.バインダー樹脂
5.9.11.透明基材
6.12.偏光板
10.偏光層
13.ガラス基板
14.カラーフィルタ
15.透明電極
16.液晶セル
17.バックライト
18.ガラス基板(前面板)
19.表示電極(透明電極+パス電極)
20.透明誘電体層
21.MgO
22.誘電体層
23.ガラス基板(背面板)
24.アドレス電極
25.蛍光体
26.プラズマ表示パネル(PDP)
27.前面フィルタ
28.スペーサー
29.筺体
30.ビス
31.前面(表示面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図9
図10
図11
図12
図13
図14