特許第6048413号(P6048413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048413
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】畜肉練り製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/60 20160101AFI20161212BHJP
【FI】
   A23L13/60 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-538609(P2013-538609)
(86)(22)【出願日】2012年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2012076876
(87)【国際公開番号】WO2013054946
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-224763(P2011-224763)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 律彰
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147373(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074219(WO,A1)
【文献】 特公昭43−011727(JP,B1)
【文献】 特開2011−254762(JP,A)
【文献】 特開昭49−075763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−17/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を添加することを特徴とする、食塩含量0.01%〜0.9%の畜肉練り製品の製造方法。
【請求項2】
原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を用いることを特徴とする、食塩無添加の畜肉練り製品の製造方法。
【請求項3】
つなぎを使用せず、原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニンまたはその塩を用いることを特徴とする、つなぎ不使用の畜肉練り製品の製造方法。
【請求項4】
畜肉練り製品の食塩含量が0.00%〜0.9%である、請求項3に記載の畜肉練り製品の製造方法。
【請求項5】
原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を添加することを特徴とする、食塩含量0.01%〜0.9%の畜肉練り製品の歩留り向上方法又は結着性向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニンまたはその塩を用いることを特徴とする、無塩又は低塩の畜肉練り製品、あるいは、つなぎ不使用の畜肉練り製品、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハンバーグ、ソーセージ、ミートボール、ギョーザ、チョップドハム、メンチカツ、ナゲット、肉まんなどの畜肉練り製品のほとんどには食塩が原料肉に対し1〜3重量%添加されている。食塩は、混練時またはカッティング時に添加され、塩味を付与すると同時に肉の結着性を上げるという非常に重要な役割を果たしている。畜肉練り製品における結着性はとても重要な要素であり、結着性が増すと弾力やしなやかさ、保水性などに優れた非常に好ましい食感となる。一方、結着性の弱い畜肉練り製品は、ボソボソとして崩れ易く、歩留りも低下するため、食塩の添加は必須とも言える。
しかし近年、健康志向の高まりから、高血圧や心臓病の原因となり得る食塩の添加量を減らした低塩食品のニーズが増えてきている。そのため、様々な低塩食品が開発されてきているが、低塩食品を製造するにあたり塩味が低下してしまうことが大きな課題として捉えられており、あらゆる食品において塩味代替技術の開発が進められている。畜肉練り製品においてもその傾向は同じで食塩添加量を減らす試みがなされているが、塩味のみならず結着性の低下が大きな課題となるため、物性面での食塩の機能を代替する技術が強く望まれていた。
物性面での食塩の機能を代替する方法としては知見が少ないが、トランスグルタミナーゼとタンパク加水分解物を併用するという技術(特開平10−117729号公報)が開示されている。低塩にもかかわらず硬さや弾力などの物性面での強度が顕著に付与され好ましい効果が見られるが、しなやかさや歩留りに若干の課題が残されており、食塩の機能を完全には代替しておらず、更なる機能の向上が期待されている。
一方、塩味増強技術は多数開示されており、アルギニンを用いた技術も幾つか知られている。タンパク酵素分解物とアルギニンを併用する方法(WO2009−119503)、グルタミン酸含有ジペプチドとアルギニンを併用する方法(WO2009−113563)などが開示されているが、いずれも物性に関する記述はない。
アルギニンが食肉製品の物性を向上させるという知見も幾つか存在し、アルギニンなどの塩基性アミノ酸を単独で用いる方法(特公昭57−021969号公報)、アルギニンとタンパク加水分解物などを併用する方法(特開平7−155138号公報)、アルギニンなどの塩基性アミノ酸と油脂および乳化剤からなる乳化液を用いる方法(特開2002−199859号公報)などが開示されているが、いずれにおいても食塩による結着性向上機能との比較は行っていない。
【発明の開示】
【0003】
本発明の目的は、歩留りや物性の良好な無塩又は低塩畜肉練り製品、あるいは、つなぎ不使用の畜肉練り製品、およびそれらの製造方法を提供することである。
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、アルギニンまたはその塩を用いて畜肉練り製品を製造することにより上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
(1)原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を添加することを特徴とする、食塩含量0.01%〜0.9%の畜肉練り製品の製造方法。
(2)原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を用いることを特徴とする、食塩無添加の畜肉練り製品の製造方法。
(3)つなぎを使用せず、原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニンまたはその塩を用いることを特徴とする、つなぎ不使用の畜肉練り製品の製造方法。
(4)畜肉練り製品の食塩含量が0.00%〜0.9%である、(3)記載の畜肉練り製品の製造方法。
(5)(1)乃至(4)記載の方法で製造された畜肉練り製品。
(6)原料肉100gあたりアルギニン換算で0.0001g〜10gのアルギニン又はその塩を添加することを特徴とする、食塩含量0.01%〜0.9%の畜肉練り製品の歩留り向上方法又は物性向上方法。
本発明により、歩留りや物性の改善された低塩畜肉練り製品およびその製造方法を提供することができる。
本発明による畜肉練り製品の製造方法には、アルギニン又はその塩を用いる。アルギニン又はその塩の例としては、アルギニン、アルギニングルタミン酸塩、アルギニン塩酸塩、アルギニン酢酸塩、アルギニン酪酸塩、アルギニン硫酸塩などが挙げられ、その他いかなる塩でもよく、それらの組み合わせでも構わない。L体、D体、それらの混合物でもよい。また、本発明で用いるアルギニンもしくはその塩は、醗酵法、抽出法などいかなる方法で製造されたものでも構わない。尚、味の素(株)より市販されているL−アルギニンがその一例である。
本発明の畜肉練り製品としては、ハンバーグ、荒挽きソーセージ、ミートボール、ギョーザなどの荒挽き練り製品や、絹挽きソーセージ、チョップドハムなどの絹挽き練り製品が挙げられる。また、これらの冷凍品も含まれる。畜肉練り製品にアルギニン又はその塩を用いる場合は、製造時のどの段階で添加し、作用させても構わないが、結着性を効率的に向上させるためには荒挽き練り製品の混練時または絹挽き練り製品のカッティング時、もしくはそれ以前の工程で添加するのが望ましい。更に、アルギニン又はその塩を、食塩、糖類、香辛料、酵素等他の食品原料、食品添加物と併用しても構わない。ただし、本発明における食塩の添加量は、原料肉100gあたり0.00%〜2%、好ましくは0.00%〜0.9%、より好ましくは0.00%〜0.7%である。畜肉原料としては、豚、牛、鶏、羊、山羊、馬、らくだ、鳩、鴨、アヒル、鶉、アルパカなどいかなる動物由来の原料でもよく、生、乾燥、加熱品などいかなる状態、品質でも構わない。
畜肉練り製品の製造において、アルギニン又はその塩を添加し、畜肉原料に作用させる場合、アルギニン又はその塩の添加量は、アルギニン換算で畜肉原料100gに対して0.0001g〜10g、好ましくは0.001g〜5gの範囲が適正である。尚、アルギニン換算とは、アルギニン塩の重量にアルギニンの分子量を乗じ、アルギニン塩の分子量で除した値を意味する。例えば、アルギニン塩酸塩(分子量210.66)の場合、アルギニン塩酸塩1gのアルギニン換算は、1g×174.20÷210.66=0.83gとなる。さらに、澱粉、加工澱粉、デキストリン等の賦形剤、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、色素、酸味料、香料等その他の食品添加物等を混合してもよい。
本発明において、つなぎ不使用の畜肉練り製品とは、パン粉、麩、コーンミール、小麦粉、異種タンパク(卵白等の卵タンパク、大豆タンパク、乳タンパク、小麦タンパク、血液タンパク等)、異種タンパク分解物、澱粉(生澱粉、加工澱粉、α化澱粉、湿熱処理澱粉、油脂加工澱粉等)、澱粉分解物、増粘多糖類等のつなぎを使用しないで製造された畜肉練り製品を意味する。
アルギニン又はその塩を用いることにより、もしくはアルギニン又はその塩と食塩を混合することにより、つなぎ不使用でも、歩留りや物性の良好な畜肉練り製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、本発明の実施例1に係る豚ゲルの歩留りおよび破断距離を示す図である。
図2は、本発明の実施例2に係る豚ゲルの歩留りおよび破断距離を示す図である。
図3は、本発明の実施例3に係る豚ゲルの歩留りおよび破断距離を示す図である。
図4は、本発明の実施例4に係る豚ゲルの歩留りおよび破断距離を示す図である。
図5は、本発明の実施例5に係る豚ゲルの歩留りおよび破断距離を示す図である。
図6は、本発明の実施例6に係るハンバーグの焼成歩留りを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0006】
豚内モモ肉(国産一枚肉)を除脂し、2cm角程度の小片にカットした後、3mmダイスのミンサー「グレートミンチWMG−22」(ワタナベフーマック社製)にてミンチ状にした。その後、肉に対して表1に示す各添加剤を添加し、更に上述のミンサーに3回通すことでカッティングを行いペースト状の肉を得た。得られたペースト状の肉を1試験区あたり100g計量し、10gの蒸留水とともに十分に混合した。すなわち、肉に対して110%加水となる。アルギニン(以下Argと表記する場合がある)は味の素社製のL−アルギニンを、ヒスチジン(以下Hisと表記する場合がある)は味の素社製のL−ヒスチジンを、リジン(以下Lysと表記する場合がある)は東京化成工業社製のL−リジンを使用した。尚、各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。
蒸留水と混合されたペースト状の肉は、脱気した後ビニール製のケーシングチューブ「クレハロンフィルム47mm×270mm」(呉羽化学工業社製)に詰め、クリッパーにて結搾した。ケーシングチューブに詰めたペースト肉の重量を測定した。ケーシングチューブに詰めた肉は、5℃にて1時間静置した後、プログラムインキュベーター「恒温恒湿槽LH21−13P」(ナガノ科学機械製作所社製)を用いて55℃にて1時間、75℃にて1時間加熱し、豚肉の加熱ゲルを得た。得られた加熱ゲルを豚ゲルと称した。豚ゲルは、5℃にて12時間保存した後、1時間室温にて静置した。豚ゲルのケーシングを開き、豚ゲル表面に付着した水分をペーパータオルにて拭き取った後、重量を測定した。加熱前のペースト状の肉の重量と比較することで、加熱歩留りを算出した(単位は%)。豚ゲルは、2cm幅にカットし、1本の豚ゲルから5つの円筒状の豚ゲル片を得た。2cm幅の円筒状の豚ゲル片は、曲面に対してプランジャーが挿入される方向にセットし、テクスチャーアナライザー「TA.XT.plus」(Stable Micro Systems社製)に供した。プランジャーはステンレス製の直径7mmの球体を使用し、テストスピードは1mm/secとした。破断点におけるプランジャーの挿入距離を破断距離(単位はmm)とし、各試験区5つのデータの平均値を求め、破断距離の実測値とした。以上により得られた加熱歩留りおよび破断距離の値を、図1に示す。尚、上述の通り畜肉練り製品における食塩の重要な機能として結着性の向上が挙げられ、それにより弾力やしなやかさ、保水性が向上するが、当試験における加熱歩留りは保水性と相関があり、破断距離はしなやかさと相関がある。従って、これらの指標は、畜肉練り製品における食塩の機能を示していることとなる。
【表1】
図1に示す通り、歩留り、破断距離ともに食塩により顕著に増強された。食塩0.7%添加区に対して各種塩基性アミノ酸を添加したところ、アルギニンを添加した試験区4において食塩1%添加区を上回る大きな効果が確認された。このことから、アルギニンは食塩と同様の機能を有することが示された。また、食塩0.7%添加区にアルギニンを0.15%添加することで食塩1%添加区を上回る効果が得られたことから、食塩とアルギニンを併用することで相乗的に効果を発揮することが確認された。尚、後に示す実施例2において、食塩量の半量のアルギニンの添加にて食塩と同等の機能を示すことから、本実施例における食塩0.7%とアルギニン0.15%の併用では食塩1%と同等となるはずだが、それを上回る効果であったことが相乗効果と言える根拠である。従って、低塩畜肉練り製品において食塩の一部を効率的にアルギニンに代替することが可能であることが示唆された。更に、他の塩基性アミノ酸を食塩と併用した際の効果はアルギニンのそれに大きく及ばなかったことから、アルギニンによる食塩との相乗的な改質機能はアルギニン特有の機能であることが明らかとなった。また、食塩の添加量を減らせることから、畜肉練り製品の栄養成分表示におけるNa量の低減にも貢献できる。
【実施例2】
【0007】
実施例1と同様の方法にて、豚ゲルを作成した。試験区は、表2に示す通りとした。アルギニンは実施例1と同じものを使用し、重合リン酸塩製剤は「ポリゴン」(千代田商工社製)、炭酸ナトリウムは「精製炭酸ナトリウム(無水)」(大東化学社製)を使用した。各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。尚、「ポリゴン」は、トリポリリン酸ナトリウムおよびピロリン酸ナトリウムをそれぞれ50%ずつ配合した製剤である。歩留りおよび破断距離の測定結果を図2に示す。
【表2】
図2に示す通り、アルギニンを0.5%添加することで、歩留りおよび破断距離において食塩1%添加区とほぼ同等の効果が得られ、畜肉練り製品における食塩の機能をアルギニンが代替可能であることが示唆された。すなわち、アルギニンを用いることで、無塩(食塩不使用)畜肉練り製品が製造できることが示唆された。また、重合リン酸塩製剤の添加ではそれに大きく及ばず、炭酸ナトリウムの添加では歩留りは向上するものの破断距離が低下し食塩とは異なる機能であった。このことから、アルギニンによる食塩代替機能は、タンパク溶出を促すとされる重合リン酸塩や、pH上昇に寄与する炭酸ナトリウムでは得られない、アルギニン特有の機能であることが示された。
【実施例3】
【0008】
実施例1と同様の方法にて、豚ゲルを作成した。試験区は、表3に示す通りとした。アルギニン、ヒスチジン、リジンは実施例1と同じものを使用し、グリシン(以下Glyと表記する場合がある)は味の素社製のグリシンを使用した。各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。歩留りおよび破断距離の測定結果を、図3に示す。
【表3】
図3に示す通り、アルギニンを0.5%添加することで、歩留りおよび破断距離において食塩1%添加区とほぼ同等の改質効果が得られ、畜肉練り製品における食塩の機能をアルギニンが代替可能であることが示唆された。一方、ヒスチジンおよびリジンによる効果はやや改質の方向性が異なる上アルギニンには大きく及ばず、グリシンではほとんど効果が得られなかった。以上より、アルギニンによる食塩代替機能は、他のアミノ酸では得られないアルギニン特有の機能であることが示された。
【実施例4】
【0009】
実施例1と同様の方法にて、豚ゲルを作成した。試験区は、表4に示す通りとした。アルギニンは実施例1と同じものを使用し、ポリリン酸カリウム(以下ポリリン酸Kと表記する場合がある)は「ポリリン酸カリウム」(千代田商工社製)、ピロリン酸カリウム(以下ピロリン酸Kと表記する場合がある)は「ピロリン酸四カリウム」(千代田商工社製)、リン酸三カリウム(以下リン酸三Kと表記する場合がある)は「リン酸三カリウム」(米山化学工業社製)、焼成カルシウム(以下焼成Caと表記する場合がある)は「貝殻焼成カルシウム(CaO)」(エヌ・シー・コーポレーション社製)を使用した。各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。歩留りおよび破断距離の測定結果を、図4に示す。
【表4】
図4に示す通り、アルギニンを0.5%添加することで、歩留りおよび破断距離において食塩1%添加区とほぼ同等の改質効果が得られ、畜肉練り製品における食塩の機能をアルギニンが代替可能であることが示唆された。一方、ポリリン酸カリウムやピロリン酸カリウムは改質効果が弱く、リン酸三カリウムや焼成カルシウムでは歩留りは向上するものの破断距離が低下し食塩とは異なる機能であった。このことから、アルギニンによる食塩代替機能は、重合リン酸塩などの各種カリウム塩やカルシウム塩では得られない、アルギニン特有の機能であることが示された。
【実施例5】
【0010】
実施例1と同様の方法にて、豚ゲルを作成した。試験区は、表5に示す通りとした。アルギニンは実施例1と同じものを使用し、塩化カリウム(以下KClと表記する場合がある)は「スーパーカリ」(赤穂化成社製)、塩化カルシウム(以下CaCl2と表記する場合がある)は「塩化カルシウムH」(富田製薬社製)、塩化マグネシウム(以下MgCl2と表記する場合がある)は「塩化マグネシウムS」(富田製薬社製)、塩化アンモニウム(以下NH4Clと表記する場合がある)は「塩化アンモニウム」(赤穂化成社製)を使用した。各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。歩留りおよび破断距離の測定結果を、図5に示す。
【表5】
図5に示す通り、アルギニンを0.5%添加することで、歩留りおよび破断距離において食塩1%添加区とほぼ同等の改質効果が得られ、畜肉練り製品における食塩の機能をアルギニンが代替可能であることが示唆された。一方、試験に供した各種無機塩類は、いずれもアルギニンには及ばないもしくは改質の方向性が異なる機能であった。このことから、アルギニンによる食塩代替機能は、各種無機塩類では得られない、アルギニン特有の機能であることが示された。
【実施例6】
【0011】
表6に示す配合に従いミキサー(HOBART社製)に原料を投入し、スピード「1」で2.5分間混合した。得られた生地を130gずつハンバーグの形状に成型した。成型した生地は、ホットプレートを用いて表面を250℃で1分間焼成した後、裏面を250℃で30秒間焼成した。その後、フタをして160℃で8分間蒸し焼きにし、ハンバーグを得た。ハンバーグの焼成前後の重量を測定し、焼成歩留りを得た。尚、焼成中にハンバーグが身割れを起こすと脂が流出し、焼成歩留りや官能上のジューシー感が低下することを確認しているため、焼成歩留りの測定により身割れやジューシー感を間接的に評価することができる。
【表6】
図6に示す通り、つなぎを抜くことで焼成歩留りが著しく低下するが、アルギニンを添加することでコントロール同等レベルに回復した。また、食塩を抜いた場合もアルギニンを添加することでコントロール同等レベルに回復した。尚、焼成歩留りと身割れの状態およびジューシー感に相関があることを、外観の目視および官能評価により確認を実施している。以上より、畜肉練り製品のひとつであるハンバーグの系において、アルギニンにより卵白やパン粉などのつなぎの機能、食塩の機能を、代替できることが示唆された。
【実施例7】
【0012】
実施例1と同様の方法にて、豚ゲルを作成し、歩留りおよび破断距離の測定を行った。アルギニンは実施例1と同じものを使用した。各添加剤の添加量は、畜肉原料100gに対する重量(g)として示した。すなわち、重量%と同義である。各試験区のアルギニン・食塩添加量、及び、対照である試験区1の測定値に対する各試験区の測定値の変化量(各測定値より試験区1の測定値を引いた値)を表7に示す。尚、試験区1の歩留りは77.96%、破断距離は9.95mmであった。得られた歩留りのデータに関し、等量のアルギニンのみを添加した区分および等量の食塩のみを添加した区分の結果をもとに、併用添加区分の理論上の歩留りを算出し解析を行った。各試験区の測定値の対照に対する変化量が、等量のアルギニンを添加し、食塩を添加しない区分および等量の食塩を添加し、アルギニンを添加しない区分の変化量の和(理論値)と比較し、理論値よりも大きければ理論を上回る効果、すなわち相乗効果であることを意味し、大きくなければ相乗効果はないことを意味する。例えば、アルギニン0.1%、食塩0.3%を添加した試験区61の場合、アルギニン0.1%を添加した試験区6の歩留り変化量3.21%と食塩0.3%を添加した試験区56の対照に対する歩留り変化量3.49%の和6.70%が試験区61のコントロールに対する歩留り変化量の理論値となる。試験区61の歩留り変化量の測定値は12.94%であり、理論値6.70%よりも大きいので、理論値を上回る効果、すなわち相乗効果であることを意味する。一方、アルギニン20%、食塩0.3%を添加した試験区66の場合、アルギニン20%を添加した試験区11の歩留り変化量16.18%と食塩0.3%を添加した試験区56の対照に対する歩留り変化量3.49%の和19.67%が試験区61のコントロールに対する歩留り変化量の理論値となる。試験区66の歩留り変化量の測定値は19.56%であり、理論値19.67%よりも小さいので、相乗効果ではないことを意味する。上記の方法を用い、全ての併用試験区において、歩留りに関する相乗効果の解析を行った。また、同様の方法にて、破断距離に関する相乗効果の解析も行った。表7において、相乗効果を示した区分をグレーで示した。
アルギニンの添加量が0.0001%〜10%であり、食塩の添加量が0.01%〜0.9%である領域の全ての試験区において、歩留り、破断距離ともに、相乗効果が確認された。以上より、アルギニンを畜肉原料100gあたり0.0001g〜10g添加することを特徴とする食塩含量0.01%〜0.9%の畜肉練り製品において、歩留りおよび破断距離においてこれらが相乗的な効果を発揮することが示唆された。
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明によると、無塩又は低塩の畜肉練り製品又はつなぎ不使用の畜肉練り製品を製造することができるので、食品分野において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6