特許第6048420号(P6048420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048420
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20161212BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161212BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20161212BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20161212BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0567
   H01M2/16 P
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-9678(P2014-9678)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-138665(P2015-138665A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 正人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 平
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−243104(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073012(WO,A1)
【文献】 特開2006−278322(JP,A)
【文献】 特開2013−218913(JP,A)
【文献】 特開2011−192541(JP,A)
【文献】 特開2003−249262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 2/16
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
H01M 10/0567
Science Direct
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池外装体と、
前記電池外装体の内部に、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、
前記電池外装体は、内圧の上昇によって作動する電流遮断機構を有しておらず、
前記セパレータは、温度の上昇によって孔径を閉じるシャットダウン機能を有し、
前記正極は、LiNiaCobc2(ただしa+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、MはMnおよびAlの少なくともいずれかである。)を含み、
前記負極は、黒鉛系負極活物質を含み、
前記非水電解質は、シクロヘキシルベンゼンを含み、
交流インピーダンス測定において周波数が0.1Hzであるときの前記負極の総キャパシタンスをx[F]とし、前記非水電解質における前記シクロヘキシルベンゼンの含有量をy[質量%]としたとき、xy直交座標において点(x、y)が、点(14.82、0.05)、点(34.19、0.3)、点(34.19、4.5)、点(19.95、5.3)および点(14.82、5.5)からなる5点を頂点とする多角形領域に含まれる、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の過充電時の安全性を確保するため様々な試みがなされている。たとえば特開2013−149456号公報(特許文献1)には、セパレータが予め定められたシャットダウン温度(Ts)において軟化・溶融して多孔性を失うように構成された電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−149456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非水電解質二次電池において、過充電時の安全性の確保は重要課題のひとつであり、各種の厳しい基準が設けられている。そのため非水電解質二次電池には、過充電時の電流遮断を目的とした対策が多重的に講じられている。たとえば、特許文献1に開示されるシャットダウン機能を有するセパレータに加えて、電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)を備える電池外装体が広く利用されている。
【0005】
ここでCIDとは、電池の内圧が所定値に達すると電流経路を物理的に切断する機構あるいは装置であり、一般に過充電時に内圧を上昇させるための過充電添加剤とともに用いられる。過充電添加剤は、所定の電圧で酸化分解してガスを発生し、これによりCIDが作動するため、当該電圧を超える過充電を防止することができる。
【0006】
しかしながらCIDは振動や衝撃によって誤作動する場合がある。とりわけ車載用途のように振動が避けられない用途では、CIDの誤作動が懸念されている。また多重的な安全対策が電池価格の上昇を招いていることも否めない。
【0007】
非水電解質二次電池がCIDを備えない構成とした場合、セパレータのシャットダウンによって電流遮断を行なう必要がある。しかしこの場合は、セパレータの熱収縮によって電流遮断が不完全となる。すなわち過充電時に電極体の中心部と外周部との間で温度差(温度ムラ)が生じるため、温度の高い電極体の中心部ではセパレータ自体が熱収縮してしまい、セパレータの細孔が閉塞されたとしても、正極と負極とが接触して短絡に至る。
【0008】
近年、車載用電池の形状はスペースの有効利用の観点から角形が主流となりつつあるが、角形電池はラミネート型電池等に比べると放熱性が悪く、電池の厚さ方向に温度ムラが生じやすい。この傾向は電池サイズが大型になるほど顕著である。またLi+受入性の観点から負極のキャパシタンスは大きいことが好ましいが、負極のキャパシタンスが大きくなるにつれて負極材料の発熱量も大きくなり、温度ムラの拡大に拍車をかけることとなる。このような事情から従来技術では、CIDを用いずに過充電時の安全性を確保することは極めて困難であった。
【0009】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、CIDを用いずに過充電時の安全性が確保された非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行なったところ、従来CIDを作動させるために添加されていたシクロヘキシルベンゼン(CHB:CycloHexylBenzene)と、負極の総キャパシタンスとが特定の関係を満たすことにより、過充電時に電極体の温度ムラを緩和できるとの新規な知見を得、該知見に基づき更に研究を重ねることによって本発明を完成させるに至った。すなわち本発明の非水電解質二次電池は以下の構成を備える。
【0011】
(1)非水電解質二次電池は、電池外装体と、該電池外装体の内部に、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備える。この電池外装体は内圧の上昇によって作動する電流遮断機構を有しないものである。
【0012】
セパレータは温度の上昇によって孔径を閉じるシャットダウン機能を有し、正極はLiNiaCobc2(ただしa+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、MはMnおよびAlの少なくともいずれかである。)を含み、負極は黒鉛系負極活物質を含み、非水電解質はシクロヘキシルベンゼンを含む。
【0013】
そして交流インピーダンス測定において周波数が0.1Hzであるときの負極の総キャパシタンスをx[単位:F]とし、非水電解質におけるシクロヘキシルベンゼンの含有量をy[単位:質量%]としたとき、xy直交座標において点(x、y)が、点(14.82、0.05)、点(34.19、0.3)、点(34.19、4.5)、点(19.95、5.3)および点(14.82、5.5)からなる5点を頂点とする多角形領域に含まれる。
【0014】
上記の非水電解質二次電池において、CHBは過充電時に発熱する性質を有する。本発明者の研究によれば、非水電解質におけるCHBの含有量と負極の総キャパシタンスとが上記関係を満たす場合、電極体の外周部がCHBの発熱によって温度上昇するため、電極体の中心部と外周部との温度差が小さくなり、セパレータの局所的な熱収縮を防止することができる。これによりセパレータが全域に亘って均一にシャットダウンすることができ、以ってCIDを用いない電池であっても過充電時の安全性が確保される。
【0015】
ここで「負極の総キャパシタンス」とは、非水電解質二次電池に含まれる負極合材のキャパシタンスの総量を示すものとする。負極合材の単位質量あたりのキャパシタンスの測定方法(交流インピーダンス測定)等については後述する。
【0016】
(2)非水電解質二次電池は角形電池であり、セパレータを挟んで正極と負極とが対向するように巻回されてなる電極体を備え、該正極および該負極は、該電極体の巻回軸の端部に非塗工部を有し、該非塗工部は集電部を構成するものであることが好ましい。
【0017】
従来このような電池構成は特に温度ムラを生じやすいものであったため、CIDが必須とされてきたが、負極の総キャパシタンスと非水電解質におけるCHBの含有量とが上記の関係を満たすことによりCIDを用いずとも過充電時の安全性を確保することができる。
【0018】
(3)非水電解質二次電池は、定格容量が23Ah以上であることが好ましい。従来、定格容量が23Ah以上である大型の高容量電池は温度ムラが大きく、CIDが必須であったが、負極の総キャパシタンスと非水電解質におけるCHBの含有量とが上記の関係を満たすことによりCIDを用いずとも過充電時の安全性を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、CIDを用いずに過充電時の安全性が確保された非水電解質二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池における負極の総キャパシタンスおよび非水電解質のシクロヘキシルベンゼン含有量と過充電試験結果との関係を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係わる黒鉛系負極活物質の示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
図3】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成の一例を示す模式的な透視図である。
図4】本発明の一実施形態に係わるキャパシタンス測定用セルを図解する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0022】
<非水電解質二次電池>
図3は本実施形態の非水電解質二次電池の構成の一例を示す模式的な透視図である。図3に示す電池1000は角形電池である。電池外装体500はCIDを有しない外装体であり、セパレータ300を挟んで正極100と負極200とが対向するように巻回されてなる電極体400と、非水電解質とを内蔵する。
【0023】
電極体400は、巻回軸の一方の端部に正極集電体が露出した正極非塗工部100aと、他方の端部に負極集電体が露出した負極非塗工部200aとを有している。正極非塗工部100aは正極集電部材100bに纏めて溶接され、負極非塗工部200aは負極集電部材200bに纏めて溶接されており、それぞれ集電部を構成している。そして正極集電部材100bは電池外装体500に設けられた正極端子100cと接続され、負極集電部材200bは同じく電池外装体500に設けられ負極端子200cと接続されている。以下、電池1000を構成する各部について説明する。
【0024】
(負極)
負極200は長尺帯状のシート部材であり、負極集電体(たとえばCu箔)上に黒鉛系負極活物質を含む負極合材層が固着されてなる。負極200は、幅方向の片側の端部に負極集電体が連続して露出した負極非塗工部200aを有する。
【0025】
負極合材層は、黒鉛系負極活物質と結着材とを含む負極合材から構成される。黒鉛系負極活物質は、天然黒鉛および人造黒鉛のいずれであってもよい。結着材としては、たとえばカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。負極合材層は、たとえば黒鉛系負極活物質とCMCとSBRとを水中で混練して得た負極合材スラリーを負極集電体上に塗工、乾燥して、さらに圧延することにより形成される。
【0026】
図1に示すように本実施形態において負極200の総キャパシタンスは、14.82F以上34.19F以下であることを要する。ここで負極200の総キャパシタンスは、負極200に吸着し得る電荷の総量に等しいことから、負極200の反応性を示す指標と考えることができる。前述のように負極の総キャパシタンスが大きくなると、Li+受入性が向上するが、その反面、負極の発熱量が大きくなる。
【0027】
図2は、黒鉛系負極活物質を含む負極(SOC100%)とエチレンカーボネート(EC)との混合物における示差走査熱量測定(DSC)の結果を示すグラフである。図2に示すサンプルAとサンプルBとでは、キャパシタンスが互いに異なっており、サンプルAはサンプルBに比べてキャパシタンスが大きいものである。図2から分かるように、キャパシタンスが大きいサンプルAは、100℃〜220℃の範囲でサンプルBに比べ発熱量が大きい。したがって負極の総キャパシタンスが大きくなると、電極体の温度ムラが拡大すると考えられる。そのため従来技術では、過充電時の発熱量の懸念から、負極の総キャパシタンスは14.82F未満の範囲に制限されていた。
【0028】
ところが本発明者が、負極の総キャパシタンスと過充電時の安全性との関係について詳細に調査したところ、負極の総キャパシタンスを14.82F以上34.19F以下という、従来に比してことさら大きい範囲としながら、CHBを特定の範囲で非水電解質に添加した場合は、過充電時の安全性が顕著に向上するという驚くべき結果が得られた。
【0029】
具体的には、負極の総キャパシタンスをx[F]とし、非水電解質のCHB含有量をy[質量%]としたとき、xy直交座標において点(x、y)が、点(14.82、0.05)、点(34.19、0.3)、点(34.19、4.5)、点(19.95、5.3)および点(14.82、5.5)からなる5点を頂点とする多角形領域(以下「領域α」と記す)に含まれる場合に、CIDを必要としない程に過充電時の安全性が向上することが明らかとなった。この理由は、あえて発熱量の大きい負極を用い、さらに過充電時に発熱するCHBを非水電解質に添加することによって、電極体400の外周部が温度上昇して、電極体400の温度ムラが解消され、セパレータ300を早い段階で均一にシャットダウンさせることができるからであると考えられる。
【0030】
(キャパシタンスの測定方法)
負極の総キャパシタンスは、「負極合材の単位質量あたりのキャパシタンス」に「負極合材層の総目付量(乾燥時の総塗工質量)」を乗ずることにより算出することができる。負極合材の単位質量あたりのキャパシタンス(周波数0.1Hz時)は次のようにして測定することができる。
【0031】
まず負極200から測定用試料(たとえば21.15cm2)を2枚切り出す。次に、図4を参照して第1の測定用試料62aと第2の測定用試料62bとを、測定用セパレータ61を挟んで対向させ電極群を作製する。さらに該電極群および非水電解質(たとえばLiPF6=1.0mol/L、EC:DMC:EMC=1:1:1)を用いて、2枚の測定用試料を対電極とする測定用セル60(ビーカーセルあるいはラミネートセル等)を作製する。そして測定用セル60を用いて、25℃環境下で交流インピーダンス測定を行ない、所定範囲の周波数(f)に対して得られたインピーダンスZ(f)を、下記式(1)として示す一群の関係式を用いて、その所定範囲の周波数に対する電気二重層容量成分C(f)に変換する。そして得られたC(f)のうち周波数0.1HzにおけるC’(f)を第1の測定用試料62aまたは第2の測定用試料62bの負極合材の質量で除することにより、「負極合材の単位質量あたりのキャパシタンス」とすることができる。なお交流インピーダンス測定には、従来公知の周波数応答アナライザを用いることができる。また測定周波数の範囲は、たとえば0.1〜100000Hz程度である。
【0032】
【数1】
【0033】
(非水電解質)
本実施形態の非水電解質は、典型的には非プロトン性溶媒に溶質(リチウム塩)が溶解されてなる液体状の電解質である。そして本実施形態の非水電解質には、CHBが0.05質量%以上5.50質量%以下の範囲で添加されおり、かつCHBの添加量と負極の総キャパシタンスとは前述の特定の関係を満たすものである。当該条件を満たす限り、非水電解質は如何なる構成であってもよい。
【0034】
非プロトン性溶媒としては、たとえばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、γ−ブチロラクトン(GBL)およびビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート類等を用いることができる。これらの非プロトン性溶媒は電気伝導率や電気化学的な安定性の観点から、2種以上を適宜併用して用いることができる。特に環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合して用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの体積比は1:9〜5:5程度が好ましい。なお本実施形態の非水電解質はゲル状であってもよい。
【0035】
また溶質であるリチウム塩としては、たとえばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、Li(CF3SO22N、Li(CF3SO3)等を用いることができる。また、これらの溶質についても2種以上を併用してもよい。非水電解質中における溶質の濃度は特に限定されないが、放電特性および保存特性の観点から0.5〜2.0mol/L程度であることが好ましい。
【0036】
(セパレータ)
セパレータ300はシャットダウン機能を有する。セパレータ300のシャットダウン温度は、好ましくは110℃〜150℃程度であり、より好ましくは120℃〜140℃程度である。セパレータ300には、たとえばポリオレフィン系の微多孔膜、たとえばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)製の微多孔膜が好適である。また複数の微多孔膜を積層して用いてもよい。セパレータ300の厚さは、たとえば5〜40μm程度とすることができる。セパレータ300の孔径および空孔率は、透気度が所望の値となるように適宜調整すればよい。
【0037】
(正極)
正極100は長尺帯状のシート部材であり、正極集電体(たとえばAl箔)上に正極活物質を含む正極合材層が固着されてなる。正極100は、幅方向の片側の端部に正極集電体が連続して露出した正極非塗工部100aを有する。
【0038】
正極合材層は、正極活物質と導電助材と結着材とを含む正極合材から構成される。本実施形態において正極活物質は3元系正極活物質、すなわちLiNiaCobc2(ただしa+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、MはMnおよびAlの少なくともいずれかである。)を含む。かかる組成を満たす正極活物質としては、たとえばLiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.4Co0.3Mn0.32、LiNi0.5Co0.3Mn0.22、LiNi0.5Co0.3Al0.22等を挙げることができる。3元系正極活物質は、PEやPP製の微多孔膜セパレータにおけるシャットダウン温度付近での発熱量が小さい。したがって3元系正極活物質を用いることにより、セパレータのシャットダウンは主に負極側での発熱に依存することとなるため、負極側での発熱を利用してセパレータを均一にシャットダウンさせる本実施形態にとって都合がよい。なお上記組成式においてMはより好ましくはMnであり、a、bおよびcは、より好ましくは0.2≦a≦0.4、0.2≦b≦0.4、0.2≦c≦0.4を満たす。
【0039】
なお本実施形態の正極は、3元系正極活物質の他にLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、LiFePO4等の正極活物質を含んでいてもよいが、その場合は正極活物質の総質量に対して3元系正極活物質の占める割合を50質量%以上とすることが好ましく、75質量%以上とすることがより好ましい。
【0040】
正極合材に含まれる導電助材としては、たとえばアセチレンブラック(AB)等を用いることができ、結着材としてはポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を用いることができる。正極合材層は、たとえば正極活物質と導電助材と結着材とを、たとえばN−メチルピロリドン(NMP)等の溶媒中で混練して得た正極合材スラリーを正極集電体上に塗工、乾燥して、さらに圧延することにより形成される。
【実施例】
【0041】
以下実施例を用いて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
以下のようにしてCIDを有しない角形非水電解質二次電池を作製し、過充電試験を行なって安全性を評価した。
【0043】
(正極の作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と、導電助材(AB)と、結着材(PVdF)とを、溶媒(NMP)中で混練することにより正極合材スラリーを得た。該正極合材スラリーを長尺帯状のAl箔上に塗工、乾燥して、さらに圧延することにより正極100を得た。正極100は幅方向の片側に正極非塗工部100aを有するものとした。
【0044】
(負極の作製)
負極活物質(天然黒鉛粉末)と、増粘材(CMC)と、結着材(SBR)とを水中で混練することにより負極合材スラリーを得た。該負極合材スラリーを長尺帯状のCu箔上に塗工、乾燥して、さらに圧延することにより負極200を得た。負極200は幅方向の片側に負極非塗工部200aを有するものとした。
【0045】
またこのとき表1に示すように、負極合材層の片面目付量は7.3mg/cm2とし、負極合材層の塗工面積は14500cm2とした。また前述の方法に従って、周波数0.1Hzにおける負極合材の単位質量あたりのキャパシタンスを測定したところ0.14F/gであった。したがって負極の総キャパシタンスは次式(2)により、14.82Fである
(負極の総キャパシタンス)=(負極合材の単位質量あたりのキャパシタンス)×(片面目付量)×(塗工面積)・・・(2)。
【0046】
(非水電解質の調整)
ECとEMCとDECとを、EC:EMC:DEC=3:5:2(体積比)となるように混合して非プロトン性溶媒を得た。次いで該非プロトン性溶媒にCHB(0.05質量%)およびLiPF6(1.0mol/L)を溶解させることにより、非水電解質を調整した。
【0047】
(組み立て)
セパレータ300として、PP/PE/PPの3層構造を有する微多孔膜セパレータ(厚さ20μm、シャットダウン温度130℃)を準備した。そして図3を参照して、セパレータ300を挟んで正極100と負極200とが対向するように巻回して巻回体を得、さらに該巻回体をプレス成形することにより電極体400(厚さ20mm)を得た。なおここで電極体400の厚さとは、図3に示す矢印の方向の厚さを示す。
【0048】
次いで電極体400を、CIDを有していない電池外装体500に挿入し、非水電解質を注液することにより、定格容量が23Ahである実施例1にかかる角形非水電解質二次電池を得た。
【0049】
<実施例2〜6および比較例1〜7>
負極の総キャパシタンスが表1に示す値となるように、負極合材の単位質量あたりのキャパシタンス、片面目付量および塗工面積を変更し、これに合わせて正極および電池容量設計を変更し、さらにCHBの添加量を変更することを除いては、実施例1と同様にして実施例2〜6および比較例1〜7に係る角形非水電解質二次電池を得た。
【0050】
<評価>
各電池の過充電試験を以下の要領で実施し、過充電時の安全性を評価した。結果を表1に示す。なお以下の説明において「電流値1.0C」とは、電池の定格容量を1時間で放電する電流値を示すものとする。
【0051】
(過充電試験)
25℃環境下で、CC−CV充電(電流値1.0C、CV電圧10V、CV充電時間10分)を行なった後、10分間放置してからOCVを測定した。そして測定されたOCVに基づき、次の「A」および「B」の2水準で過充電時の安全性を評価した。
【0052】
A:OCVが4.2V以上
B:OCVが3.6V以下
ここで過充電後のOCVが高いほど、短絡面積が小さく過充電時の安全性に優れると評価できる。特にOCVが4.2V以上であれば、実質的に短絡は発生しておらず、十分な安全性を有するといえる。
【0053】
【表1】
【0054】
また同結果を、負極の総キャパシタンスをx[F]とし、非水電解質のCHB含有量をy[質量%]とするxy座標にプロットした(図1)。図1中、丸形の凡例は「A:OCVが4.2V以上」であったことを示し、菱形の凡例は「B:OCVが3.6V以下」であったことを示している。
【0055】
(結果と考察)
(i)比較例2、比較例5、比較例6および比較例7
比較例2、5、6および7は、いずれも過充電後のOCVが低く、過充電時の安全性は十分ではなかった。図1に示すxy座標においてこれらの比較例は、領域αから上側に外れた領域(CHBが多い)、または右側に外れた領域(負極の総キャパシタンスが大きい)に位置する。したがってこれらの比較例では、CHBあるいは負極に起因する発熱量が過度に大きくなり、セパレータの熱収縮が起こったものと考えられる。
【0056】
(ii)比較例1および比較例4
比較例1および4も、過充電後のOCVが低く、過充電時の安全性は十分ではなかった。図1に示すxy座標においてこれらの比較例は、領域αから下側に外れた領域(CHBが少ない)に位置する。したがってCHBによる電極体の温度ムラ抑制効果が小さく、温度ムラが大きくなり、セパレータのシャットダウンが不均一になったものと考えられる。
【0057】
(iii)実施例1〜6
これらの比較例に対して点(x、y)が領域αに属する実施例1〜6は、いずれも過充電試験後におけるOCVが4.2V以上であり、実質的に短絡が発生しておらず、十分な安全性を有していた。この理由は、CHBの添加量と負極の総キャパシタンスとの関係を制御したことにより、電極体の厚さ方向における温度ムラが大幅に緩和され、セパレータのシャットダウンが全域に亘って均一に起こったからであると考えられる。
【0058】
以上の結果から、電池外装体と、該電池外装体の内部に、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、該電池外装体は、内圧の上昇によって作動する電流遮断機構を有しておらず、該セパレータは、温度の上昇によって孔径を閉じるシャットダウン機能を有し、該正極は、LiNiaCobc2(ただしa+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1、MはMnおよびAlの少なくともいずれかである。)を含み、該負極は、黒鉛系負極活物質を含み、該非水電解質は、シクロヘキシルベンゼンを含み、交流インピーダンス測定において周波数が0.1Hzであるときの該負極の総キャパシタンスをx[F]とし、該非水電解質における該シクロヘキシルベンゼンの含有量をy[質量%]としたとき、xy直交座標において点(x、y)が、点(14.82、0.05)、点(34.19、0.3)、点(34.19、4.5)、点(19.95、5.3)および点(14.82、5.5)からなる5点を頂点とする多角形領域に含まれる実施例に係る非水電解質二次電池は、CIDを有せずとも過充電時の安全性が確保された電池であることが確認できた。
【0059】
以上のように本実施形態および実施例の説明を行なったが、今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
60 測定用セル、61 測定用セパレータ、62a 第1の測定用試料、62b 第2の測定用試料、100 正極、100a 正極非塗工部、100b 正極集電部材、100c 正極端子、200 負極、200a 負極非塗工部、200b 負極集電部材、200c 負極端子、300 セパレータ、400 電極体、500 電池外装体、1000 電池、α 領域。
図1
図2
図3
図4