特許第6048429号(P6048429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048429コバルト−ニッケル合金材料及びそれを被覆された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048429
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】コバルト−ニッケル合金材料及びそれを被覆された物品
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/10 20060101AFI20161212BHJP
   B22D 11/059 20060101ALI20161212BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20161212BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20161212BHJP
   H01M 4/66 20060101ALN20161212BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALN20161212BHJP
【FI】
   C25D5/10
   B22D11/059 110B
   C25D3/56 B
   C22C19/03 G
   C22C19/07 G
   C25D7/00 F
   !H01M4/66 A
   !H01M8/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-41569(P2014-41569)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-166483(P2015-166483A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155470
【氏名又は名称】株式会社野村鍍金
(74)【代理人】
【識別番号】100085615
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】三次 晴士
(72)【発明者】
【氏名】胡本 義隆
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−268571(JP,A)
【文献】 特開平06−196324(JP,A)
【文献】 特公昭52−050733(JP,B1)
【文献】 特開昭55−100851(JP,A)
【文献】 特開2004−237315(JP,A)
【文献】 特開昭56−053850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/00−7/12
C25D9/00−9/12
C25D13/00−21/22
B22D11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可避的不純物、コバルト及びニッケルからなるコバルト−ニッケル合金であって、ニッケル比率の小さい層と大きい層の2種類の層を上下方向に繰り返し交互に積層した構造を有し、ニッケル比率の小さい層と大きい層とのニッケル比率の差が1〜20wt%であることを特徴とするコバルト−ニッケル合金材料。
【請求項2】
積層構造を有する合金は、その製作手段が電気めっき法であり、且つ同一のめっき液で製作することを特徴とする請求項1に記載のコバルト−ニッケル合金材料。
【請求項3】
ニッケル比率の小さい層と大きい層の厚さは、それぞれ1〜500μmあって、それぞれの層厚比を1:1から1:10の範囲としたことを特徴とする請求項1または2に記載のコバルト−ニッケル合金材料。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のコバルト−ニッケル合金材料を被覆された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性・耐食性・耐摩耗性に優れるだけでなく、伸びが著しく改善された独特の積層構造を有するコバルト−ニッケル合金材料及びそれを被覆された物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄鋼連続鋳造鋳型の被覆材料として、コバルト−ニッケル合金を被覆することは良く知られており、特許文献1には、鉄鋼連続鋳造鋳型内面の鋳片による摩耗損耗防止、特に鋳型内面の下端部での腐食損耗防止を図る為にニッケルを10〜30wt%含有するコバルト合金を被覆している。つまり鋳型下部での耐摩耗性の改善にはニッケル量が少ない方が良く、また同じく下部での耐腐食性改善には逆にニッケル量が多い方が良いとし、16〜30wt%が適切であるとしている。しかし、コバルト−ニッケル合金の伸びは純ニッケルと比べると相対的に劣っており、特にニッケル量が10wt%以下の場合にはそれが顕著で、鋳造速度が速い場合には、鋳型上部でのヒートクラックを生ずるなどの課題があり、問題の回避の為にコバルト−ニッケル合金の被覆を鋳型の下半分にとどめ、上半分は素材のままで、あるいは伸びの良いニッケル皮膜で被覆して対応している。
【0003】
特許文献2では、コバルト−ニッケル合金に炭素を共析させて皮膜の伸び、引張り強さを改善する提案が記載されている。提案の方法をトレースしてカーボン粉末やブチンジオールの存在による炭素の共析の可否を確認したが、カーボン粉末がめっき液にイオンの形態で完全溶解するはずもなく、単に炭素粉を固体で含有させた粗雑なコバルト−ニッケル分散めっきとなる。また特許文献2に開示している光沢ニッケルめっき用の第二種光沢剤として著名なブチンジオールを添加した場合には、コバルト−ニッケル合金皮膜に光沢性・平坦性は付与出来ても伸びや引張り強さを改善するどころか脆い皮膜となり到底目的を達成し得るものではない。
【0004】
特許文献3では、同一めっき浴を用いて、めっき電流の電流密度を一定周期で切り替えることにより、隣接する薄膜層の組成と異なる組成を有する合金薄膜層を複数積層した多層構造薄膜とその製造方法が開示されているが、サブミクロンオーダーの積層単位を複数積層することにより全体の膜厚が3μmにも満たないような多層構造薄膜を形成することで、磁気ヘッドの磁気特性を改善する技術であり、耐熱性・耐食性・耐摩耗性や伸びの改善とは無関係である。
【0005】
一方、鉄鋼連続鋳造鋳型への被覆材料として求められる特性は、鋳造する鋼種・鋳造条件により一括りにすることはできない。つまり耐熱性・耐摩耗性はいずれの鋳型にも共通する要求特性であるが、加えて連続鋳造機毎に鋳造鋳型の内壁面に被覆する皮膜に対する特性が少しずつ異なるのが実情で、ある鋳造鋳型の場合は、耐摩耗性をある程度犠牲にしても鋳型内壁下部の腐食耐摩耗性を強く求め、また別の鋳型の事例では、被熱温度の高い鋳型内壁上部では、耐摩耗性よりもヒートクラック防止の為に皮膜の伸びが最優先される。
【0006】
特許文献が開示する内容は、コバルト−ニッケル合金のみで、耐摩耗性・耐食性付与・伸びの改善には、限界があることを示唆している。つまり、耐摩耗性付与には高コバルト合金が、また耐食性付与とヒートクラック防止には高ニッケル合金が良いことを示している。
【0007】
しかし、コバルト−ニッケル合金を被覆した連続鋳造用銅製鋳型の場合には、合金皮膜単体で要求される特性の全てを満足させることは不可能に近い。その為ニッケルを鋳型内壁面表面全体に被覆し、次いで鋳型下半分に局所的にコバルト−ニッケル合金を被覆する形態、鋳型上部が溶鋼と直接接触する弊害に眼をつぶって下半分のみに当該合金を被覆する形態、あるいはこれらの形態に加えて、下部耐食性の改善の為に耐摩耗性を犠牲にしてニッケルの合金比を高めたコバルト合金を利用する形態をとっているのが実態である。
【0008】
異種金属、コバルトと白金との多層膜を作成した例は、非特許文献1に見られるが、2浴と2電源を用いてナノレベルで積層させるものであり、実施方法目的が根本的に異なる。また非特許文献2には2種類のめっき液を利用したナノレベル多層膜の製作と一液によるナノレベル多層膜の製作を開示しているが、一液での多層膜の実現は、薄膜且つ銅とニッケルとの電極電位が極端に異なっている為に達成できたものであり、電極電位の近接するいずれもコバルトとニッケルを共析させ、且つニッケルの析出濃度(含有量)を意図的に変化させた層構成とした本発明のものとは根本的に異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−263190号公報
【特許文献2】特許第3506993号公報
【特許文献3】特開平6−196324号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】技術雑誌「表面技術」vol.53,No12,2002,852〜859、電析法によるCo/Pdナノ多層膜作製のオートメーション化
【非特許文献2】技術雑誌「表面技術」vol.62,No12,2011,681〜685、一液法及び二液法によって作成されたCu/Niナノオーダー多層めっき膜の耐摩耗性
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のコバルト−ニッケル合金材料の有する問題点に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性・耐食性・高い引っ張り強度・高い伸びの全てを著しく高めたコバルト−ニッケル合金材料を電気めっき法で得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、不可避的不純物、コバルト及びニッケルからなるコバルト−ニッケル合金であって、ニッケル比率の小さい層と大きい層の2種類の層を上下方向に繰り返し交互に積層した構造を有し、ニッケル比率の小さい層と大きい層とのニッケル比率の差が1〜20wt%であることを特徴とするコバルト−ニッケル合金材料である。
請求項2の発明は、請求項1に記載のコバルト−ニッケル合金材料において、積層構造を有する合金は、その製作手段が電気めっき法であり、且つ同一のめっき液で製作することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のコバルト−ニッケル合金材料においてニッケル比率の小さい層と大きい層の厚さは、それぞれ1〜500μmあって、それぞれの層厚比を1:1から1:10の範囲としたことを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1〜のいずれかに記載のコバルト−ニッケル合金材料を被覆された物品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコバルト−ニッケル合金材料は、ニッケル比率の小さい層と大きい層の2種類の層を上下方向に繰り返し交互に積層した構造を有し、ニッケル比率の小さい層と大きい層とのニッケル比率の差を1〜20wt%としたので、コバルト色の強い特性と、ニッケル色が強い特性とが同時に現われる効果があり、通常の手法で製作した合金と比べて、伸び、引張り強さ、硬度、耐食性などの特性を任意に改善することができる効果があり、一部の特性をその他の物性を変えずに改善することも可能である。
請求項2の発明は、ただ一種類の液だけを利用して電気めっきすることで、ニッケル合金比に多寡のある層を積層した材料を製作できる。具体的には、1分間以上のインターバルで、電流密度の強弱、ないしエア吹き込み量の強弱、あるいはその両方を併用することで製作できる。
請求項3の発明はニッケル比率の小さい層と大きい層の厚さを、それぞれ1μm以上したことにより、コバルト色の強い特性と、ニッケル色が強い特性とが明確に現われて、さらにはそれぞれの特性が合わさることにより、伸び、引張り強さ、耐摩耗性、耐食性が想定外に改善される効果がある。
すなわち、本発明のコバルト−ニッケル合金材料は、積層構造を有していない通常のコバルト−ニッケル合金と比較すると、平均値で測ったニッケル比率が同じであっても、伸び、引張り強さ、耐摩耗性、耐食性が想定外に改善される効果がある(図6図9参照)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電流密度強弱法により製作した本発明のコバルト−ニッケル合金めっきの断面ミクロ組織を示す写真である。
図2】従来の一般的に実施されている電気めっき法で製作したコバルト−ニッケル合金めっきの断面ミクロ組織を示す写真である。
図3】エア撹拌強弱法により製作した本発明のコバルト−ニッケル合金めっきの断面ミクロ組織を示す写真である。
図4】エア撹拌強弱法により製作した本発明のコバルト−ニッケル合金めっきの断面ミクロ組織を示す写真である。
図5】エア撹拌強弱法により製作した本発明のコバルト−ニッケル合金めっきの断面ミクロ組織を示す写真である。
図6】本発明のコバルト−ニッケル合金の室温での破断伸びを従来のニッケル−コバルト合金と比較して示した図である。
図7】本発明のコバルト−ニッケル合金のテーバー法による耐摩耗性を従来のニッケル−コバルト合金と比較して示した図である。
図8】本発明のコバルト−ニッケル合金の代表的な鉱酸による腐食速度を従来のニッケル−コバルト合金と比較して示した図である。
図9】鉄鋼連続鋳造鋳型の銅材の表面被覆に適用することを前提に通常の電気めっき法で製作したコバルト−ニッケル合金と本発明のコバルト−ニッケル合金の伸びを700℃迄調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の課題を解決するためには、上述した特許文献のようにコバルト−ニッケル合金の液組成の見直しや新たな添加剤の併用のみでは不可能なことはまぎれもない事実で、コバルト−ニッケル合金の合金比によってその特性が固定されてしまう。そこで本発明者らは、発想を転換して液の組成以外の電気めっき法を構成する要素、例えば電気めっきに必須とする整流器(交流を直流に変換する機器)や液のかき混ぜを含めた液の対流方法などに着目し、実験を繰り返した。
【0016】
実験では、交流を単純に整流した直流電源による電解、当該直流を断続的にオン・オフさせ、通電時間の有無をパラメータとして合金皮膜を作成するパルス電解、パルス電解の変法として無通電時間、電流値に強弱を付した電解、さらには周期的に陰極と陽極の極性を繰り返し、それぞれの陰極と陽極との通電時間を周期的に変化させる周期的電解(PR電解と称す)によって合金皮膜を作成して、耐摩耗性・耐食性・引張り強度・伸び等を調査した。その結果、直流電流を時間的に強弱を付して電解するパルス電解に於いて、電流の強弱の時間設定をそれぞれ1分以上とすることによって初めてコバルト−ニッケル合金皮膜に明瞭で特異な層構造を発現出来ることを見出した。この時のコバルト−ニッケル合金浴の液組成は、表1に示しているが、コバルトイオンとニッケルイオン、温度・電流密度・めっき液に吹き込むエア量は表1に示す範囲から適宜選定した。
【0017】
【表1】
【0018】
例えば、図1は電流密度強弱法を用いて、液の組成として金属コバルトイオン0.45mol/L、金属ニッケルイオン0.90mol/Lとし、温度50℃、エア撹拌量0.2m3 /m2 ・分に固定し、電流密度2A/dm2 で1分間、4A/dm2 で1分間のパルス状電解を繰り返して、合計1mm厚を目標に被覆した場合の断面ミクロ組織である。この合金の高電流密度層は約2μm、低電流密度層は約1μmの層膜厚が交互に積層し、これが繰り返された構造となっている。
【0019】
一方、これに対して定電流密度法として、同じ浴を用いて電流密度を3A/dm2 に固定して1mm厚迄連続して電解した合金の断面ミクロ組織が、図2である。この場合は樹脂状組織のみで積層構造は存在しない。
【0020】
また断面よりEPMAにて線分析した結果、電流の強弱を付して作製したコバルト−ニッケル合金と、一定電流密度で電解して作成したコバルト−ニッケル合金のニッケル含有率を比較したものを表2に示す。なお、それぞれの層の厚みは、高電流密度付与時間と低電流密度付与時間とを1分間以上の範囲で任意に変化させることによって達成できる。また高電流密度と低電流密度の差は、少なくとも2A/dm2 以上の差としなければ層間のニッケル含有量に顕著な差異を生じさせることが出来ないことが明らかとなったが、電流密度の強弱にも限界があって、外観を損ねる問題があり、高電流密度側を無闇やたらと高くすることが出来ないので、結果として相互の層のニッケル含有量差には限界がある。
【0021】
【表2】
【0022】
図1は表2の電流密度強弱法で製作した積層構造を有するコバルト−ニッケル合金の断面ミクロ組織であり、電流密度差により高電流密度層と低電流密度層のニッケル含有率を変えており、通電時間差で高電流密度層と低電流密度層の層厚みを変えている。図2は、定電流密度法で製作したコバルト−ニッケル合金の断面ミクロ組織を示している。
【0023】
次に本発明者らは電流密度を変化させるのではなく、エア撹拌時の通気量の強弱でニッケル合金比の差異を生じさせる方法を検討し、液の組成は電流密度強弱の実験に用いたものと同一組成とし、温度50℃、電流密度3A/dm2 の元にエア通気量:0.1m3 /m2 と0.4m3 /m2 とで、同じく1mm厚を目標にコバルト−ニッケル合金を作成した。エア通気量0.1m3 /m2 及び0.4m3 /m2 の場合の時間設定を3分間に設定した。結果を表3に示すが、電流密度の強弱よりもエア通気量の強弱の方が層間のニッケル含有量の多寡の差を遥かに大きくすることも可能であることを発見した。
【0024】
【表3】
【0025】
また、各個のエア通気量の時間を任意に設定することにより、それぞれの層厚を任意に変化させることも可能となり、適用目的に応じて皮膜硬度・耐食性・引張り強さ・伸び等の物性を変化させることが可能である。さらに、電流密度強弱とエア通気量強弱を組み合わせれば、積層する各層のニッケル含有量の差を大きくすることが可能となる。
【0026】
図3図5は、浴温度50℃、電流密度3A/dm2 でエア通気量を変化させ、且つそれぞれのエア通気時間を変えて作製したコバルト−ニッケル合金の断面ミクロ組織を示したものであるが、それぞれのエア通気時間の好ましい範囲は、1〜40分間の範囲で設定するのが良い。設定したエア強/エア弱の時間は、図3では強5分/弱3分、図4では強5分/弱30分、図5では強30分/弱30分であった。図3図5を見れば、ニッケル含有率の異なる各層の層厚比を1:1〜1:10の範囲で任意に設定できることは明らかである。
【0027】
また、図6は、95wt%ニッケル−コバルト合金、積層型コバルト−15wt%ニッケル合金、通常のコバルト−16wt%ニッケル合金の3種類を作製し、N=3で伸びを測定した結果である。積層型のコバルト−ニッケル合金の場合のニッケル含有量は全体の層の平均値で示しているが、同じ程度のニッケル合金比であっても伸びが3倍以上の合金とすることができる。なお、それぞれの引張り破断強度も、それぞれニッケル−5wt%コバルト合金で、57.2Kg/mm2 、通常のコバルト−16wt%ニッケル合金の場合で、59.3Kg/mm2 であったが、積層構造のコバルト−15wt%ニッケル合金の場合では、69.8Kg/mm2 と強靭な合金となっている。
【0028】
コバルト−ニッケル合金に於いて、コバルト含有量が増加すると耐摩耗性が改善されるのは良く分かるが、図7の如く、積層型のコバルト−ニッケル合金にすると、通常のコバルトーニッケル合金と比べると耐摩耗性もやや改善される特異な性状を示している。このように、コバルト−ニッケル合金に於いて何故、伸び、引張り強さ、摩耗量すらも改善される傾向があるかの理由は、全体としてみれば合金でありながらもニッケルリッチ層、コバルトリッチ層が隣接して存在し、これをベースに繰り返して積層されていることにより、コバルト色の強い特性、また別の場合にはニッケル色が強い特性、さらにはそれぞれの特性が合わさることにより、想定外の効果を発揮しているものと考えられる。なお、図7の摩耗試験は、テーバーアブレッションテスターで評価した結果である。
【0029】
耐食性については、液と条件を表3に示した条件で、積層型コバルト−ニッケル合金の評価用試験片を作製し、塩酸、硫酸、フッ酸のそれぞれ1M溶液に対する腐食試験を行ってみると、図8の如くほぼ同じニッケル含有量であっても耐食性に差異が認められる。
【0030】
当該合金を鉄鋼連続鋳造鋳型に適用する場合、連続鋳造機により、あるいは鋳造する鋼種により、鋳型内壁の上半分では、コバルト−ニッケル合金皮膜に強力なヒートクラックを呈すものがある。これは皮膜自体の伸びの特性が大きく関与しており、通常のコバルト−ニッケル合金では対処できない場合がある。この問題の解決に液組成・温度条件等を固定して、電流とエア吹き込み量の強弱を付与し、且つそれぞれの時間を適切に設定すれば、図9に見られるように耐摩耗性を維持しつつ、通常の電気めっきではあり得ない高温時の伸びを呈し、確実にヒートクラックを防止することが可能となった。
なお、本発明のコバルト−ニッケル合金材料は、製作の形態としては、合金皮膜のみでも、また特定の基材に被覆した状態でも製作できる。
【0031】
以下に本発明の実施例の一部を表4にて記載する。表4の実施例では、低濃度層のNi含有率は12wt%より少なく、高濃度層のNi含有率は13wt%より多く設定されている。表4によれば、低濃度層と高濃度層のNi含有率に4〜20wt%の差を設けることにより、同程度の平均Ni含有率を有する比較例に比べて、Co−Ni合金の物性が大幅に改善されていることが分かる。また、特に伸びの改善については、低濃度層と高濃度層のNi含有率の差が10〜20wt%となる実施例3〜5の場合に、より一層顕著なものとなることが分かる。
【0032】
本発明は下記の実施例で記載されたものに限定されず、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲に於いて適宜変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【0033】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のコバルト−ニッケル合金材料は、鉄鋼連続鋳造鋳型の基体となる銅合金製材料の表面に被覆して利用されたり、また、独特の耐熱性・耐摩耗性・耐食性故に当該合金のみで製作する成形金型材料としてニッケル電鋳の代替としても利用可能である。さらにリチウム電池の負極集電体用銅箔への耐食性付与や燃料の燃焼温度の高いSOFC型燃料電池のセパレータなどの保護皮膜にも適用できる。
図6
図7
図8
図9
図1
図2
図3
図4
図5