(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板の表面の少なくとも一部を覆うSn層、Fe−Sn−Ni合金層およびFe−Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなるめっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき鋼板の前記めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、
前記皮膜が、TiおよびNiを有し、
前記皮膜は、前記めっき鋼板の片面あたりのTi換算の付着量が3.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であり、前記めっき鋼板の片面あたりのNi換算の付着量が1.0mg/m2以上10.0mg/m2以下であり、
前記皮膜は、前記めっき鋼板側の1/4厚のNi比率(前記めっき鋼板の片面あたりのNi換算の付着量/前記めっき鋼板の片面あたりのTi換算の付着量)が、前記めっき鋼板側とは反対側の1/4厚の前記Ni比率よりも大きい、容器用鋼板。
鋼板の表面の少なくとも一部を覆うSn層、Fe−Sn−Ni合金層およびFe−Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなるめっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき鋼板の前記めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、
前記皮膜が、TiおよびNiを有し、
前記皮膜は、前記めっき鋼板の片面あたりのTi換算の付着量が3.0mg/m2以上60.0mg/m2未満であり、前記めっき鋼板の片面あたりのNi換算の付着量が1.0mg/m2以上10.0mg/m2以下であり、
前記皮膜は、前記めっき鋼板との界面のNi比率(前記めっき鋼板の片面あたりのNi換算の付着量/前記めっき鋼板の片面あたりのTi換算の付着量)が、表面の前記Ni比率よりも大きい、容器用鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[容器用鋼板]
本発明の容器用鋼板は、概略的には、めっき鋼板と、めっき鋼板のめっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する。
そして、本発明者らは、この皮膜がTiおよびNiを特定量で含有し、さらに、皮膜のめっき鋼板側のNi比率が、めっき鋼板側とは反対側(以下、便宜的に「空気側」ともいう)のNi比率よりも大きいことにより、フィルム密着性および塗料密着性が優れることを見出した。
このメカニズム(理由)は明らかではないが、皮膜のめっき鋼板側に析出したNiによりSn層などのめっき層(以下、「錫めっき層」ともいう)の表面が安定化されてSnの溶出が抑制され、皮膜中に取り込まれる樹脂密着性の低いSn量が低減することで、フィルムまたは塗料との密着性が高くなり、一方、皮膜の空気側に過剰のNiが存在すると、Niが粒子状に析出して、皮膜とフィルムまたは塗料との密着を妨げるためと考えられる。
また、めっき鋼板上に、TiおよびNiを含有する皮膜を形成した場合に、錫めっき層から溶出したSnが皮膜中に取り込まれて褐色の着色を呈する場合があるが、本発明者らは、この皮膜のめっき鋼板側のNi比率を、空気側のNi比率よりも大きくすることで、皮膜の着色が抑制され、容器用鋼板の外観が優れることを見出した。これは、皮膜のめっき鋼板側に析出したNiによりSnの溶出が抑制され、皮膜中に取り込まれるSn量が低減するためと考えられる。
なお、上記メカニズムはいずれも推測であり、上記メカニズム以外であっても本発明の範囲内であるとする。
【0009】
以下に、めっき鋼板、および、皮膜の具体的な態様について詳述する。まず、めっき鋼板の態様について詳述する。
【0010】
〔めっき鋼板〕
めっき鋼板は、鋼板と、鋼板の表面の少なくとも一部を覆うSn層、Fe−Sn−Ni合金層およびFe−Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなるめっき層とを有する。
素材の鋼板としては、一般的な缶用の鋼板を使用できる。めっき層は、連続層であってもよいし、不連続の島状であってもよい。また、めっき層は、鋼板の少なくとも片面に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。めっき層の形成は、含有される金属元素に応じた公知の方法で行える。
以下に、鋼板およびめっき層の好適態様について詳述する。
【0011】
〈鋼板〉
鋼板の種類は特に限定されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板(例えば、低炭素鋼板、極低炭素鋼板)を用いることができる。この鋼板の製造方法、材質なども特に限定されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。
【0012】
鋼板は、必要に応じて、その表面にニッケル(Ni)含有層を形成したものを用い、該Ni含有層上に錫めっき層を形成してもよい。Ni含有層を有する鋼板を用いて錫めっきを施すことにより、島状Snを含む錫めっき層を形成することでき、溶接性が向上する。
Ni含有層としてはニッケルが含まれていればよく、例えば、Niめっき層(Ni層)、Ni−Fe合金層などが挙げられる。
鋼板にNi含有層を付与する方法は特に限定されず、例えば、公知の電気めっきなどの方法が挙げられる。また、Ni含有層としてNi−Fe合金層を付与する場合、電気めっきなどにより鋼板表面上にNi付与後、焼鈍することにより、Ni拡散層を配位させ、Ni−Fe合金層を形成できる。
Ni含有層中のNi量は特に限定されず、片面当たりのNi換算量として50〜2000mg/m
2が好ましい。
【0013】
〈めっき層〉
めっき鋼板は、鋼板表面上にSnを含有するめっき層を有する。このめっき層は鋼板の少なくとも片面に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。
めっき層の鋼板片面当たりのSn付着量は、容器用鋼板の外観がより優れ、耐食性にも優れるという理由から、0.1〜15.0g/m
2が好ましく、0.2〜15.0g/m
2がより好ましく、加工性が優れる点で、1.0〜15.0g/m
2がさらに好ましい。
【0014】
なお、Sn付着量は、電量法または蛍光X線により表面分析して測定できる。蛍光X線の場合、Sn量既知のSn付着サンプルを用いて、Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、同検量線を用いて相対的にSn量を特定する。
【0015】
めっき層は、鋼板表面の少なくとも一部を覆う層であり、連続層であってもよいし、不連続の島状であってもよい。
【0016】
めっき層としては、錫をめっきして得られるSn層からなるめっき層のほか、錫めっき後通電加熱などにより錫を加熱溶融させて得られる、Sn層の最下層(Sn層/地鉄界面)にFe−Sn合金層が一部形成しためっき層、または、Sn層の全Snが合金化しFe−Sn合金層を形成しためっき層も含む。
また、めっき層としては、Ni含有層を表面に有する鋼板に対して錫めっきを行い、さらに通電加熱などにより錫を加熱溶融させて得られる、Sn層の最下層(Sn層/地鉄界面)にFe−Sn−Ni合金層、Fe−Sn合金層などが一部形成しためっき層、または、Sn層の全Snが合金化しFe−Sn合金層を形成しためっき層も含む。
【0017】
めっき層の製造方法としては、周知の方法(例えば、電気めっき法や溶融したSnに浸漬してめっきする方法)が挙げられる。
例えば、フェノールスルフォン酸錫めっき浴、メタンスルフォン酸錫めっき浴、またはハロゲン系錫めっき浴を用い、片面あたりの付着量が所定量(例えば、2.8g/m
2)となるように鋼板表面にSnを電気めっきした後、Snの融点(231.9℃)以上の温度でリフロー処理を行って、錫単体のめっき層(Sn層)の最下層またはSn層の全Snを合金化しFe−Sn合金層を形成した錫めっき層を製造できる。リフロー処理は省略した場合、錫単体のめっき層を製造できる。
【0018】
また、鋼板がその表面上にNi含有層を有する場合、Ni含有層上に錫めっきを施しSn層を形成させ、リフロー処理を行うと、錫単体のめっき層(Sn層)の最下層(Sn層/鋼板界面)またはSn層の全Snが合金化しFe−Sn−Ni合金層、Fe−Sn合金層などが形成される。
【0019】
〔皮膜〕
次に、上述しためっき鋼板のめっき層側の表面上に配置される皮膜について説明する。皮膜は、概略的には、その成分として、Ti(チタニウム元素)およびNi(ニッケル元素)を含有する皮膜であり、後述する処理液を用いて形成される。
【0020】
皮膜は、めっき鋼板の片面あたりのTi換算の付着量(以下、「Ti付着量」ともいう)が3.0mg/m
2以上60mg/m
2未満である。Ti付着量が3.0mg/m
2未満ではTiによる有機樹脂との密着性が不十分でフィルム密着性および塗料密着性に劣る。また、Ti付着量が60mg/m
2以上では皮膜中の内部応力が高くなりフィルム密着性および塗料密着性に劣る。Ti付着量は、フィルム密着性および塗料密着性がより優れるという理由から、5.0〜20.0mg/m
2が好ましい。
【0021】
また、皮膜は、めっき鋼板の片面あたりのNi換算の付着量(以下、「Ni付着量」ともいう)が1.0mg/m
2以上10.0mg/m
2以下である。Ni付着量が1.0mg/m
2未満であるとめっき層からのSnの溶出抑制効果に乏しく外観に劣るほか、フィルム密着性および塗料密着性にも劣る。また、Ni付着量が10.0mg/m
2超では皮膜の表層にNiが析出しフィルム密着性および塗料密着性に劣る。Ni付着量は、フィルム密着性および塗料密着性がより優れるという理由から、1.0〜5.0mg/m
2が好ましい。
【0022】
なお、Ti付着量およびNi付着量は、蛍光X線による表面分析により測定する。
皮膜中のTi、Ni等は、それぞれ、各種のチタン化合物、ニッケル化合物として含まれ、これら化合物の種類や態様は特に限定されない。
なお、蛍光X線分析は、例えば、下記条件により実施される。
・装置:リガク社製蛍光X線分析装置System3270
・測定径:30mm
・測定雰囲気:真空
・スペクトル:Ti−Kα、Ni−Kα
・スリット:COARSE
・分光結晶:TAP
上記条件により測定した皮膜の蛍光X線分析のTi−Kα、Ni−Kαのピークカウント数を用いる。付着量既知の標準サンプルを用いて、Ti付着量およびNi付着量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、同検量線を用いて相対的にTi付着量およびNi付着量を求める。
【0023】
そして、皮膜は、Ni付着量とTi付着量との比(Ni付着量/Ti付着量)であるNi比率に特徴を有する。すなわち、皮膜においては、めっき鋼板側の1/4厚のNi比率が、めっき鋼板側とは反対側(空気側)の1/4厚のNi比率よりも大きい。これにより、本発明の容器用鋼板は、フィルム密着性および塗料密着性が優れると共に、着色が抑制されて外観にも優れる。
【0024】
ここで、皮膜の「めっき鋼板側の1/4厚」とは、皮膜を厚さ方向に4等分した部位のうち、最もめっき鋼板側に位置する部位のことをいう。
一方、皮膜の「めっき鋼板側とは反対側の1/4厚」とは、皮膜を厚さ方向に4等分した部位のうち、めっき鋼板から最も離れている(空気側の)部位のことをいう。
したがって、皮膜の「めっき鋼板側の1/4厚のNi比率」といった場合には、めっき鋼板との界面から1/4の距離に位置する皮膜断面のNi比率を意味するのではなく、界面から1/4の距離までの部分全体のNi比率を意味するものである。
これは、皮膜の「めっき鋼板側とは反対側の1/4厚のNi比率」においても同様である。
【0025】
皮膜のめっき鋼板側の1/4厚および空気側の1/4厚のNi比率(Ni付着量/Ti付着量)については、皮膜のNi量およびTi量を、グロー放電発光分析法を用いて測定することで求める。
なお、グロー放電発光分析は、例えば、下記条件により実施される。
・装置:リガク社製GDA750
・陽極内径:4mm
・分析モード:高周波低電圧モード
・放電電力:40W
・制御圧力:2.9hPa
・検出器:フォトマル
・検出波長:Ni=341.4nm、Ti=365.4nm
皮膜の空気側の1/4厚のNi量およびTi量は以下のように求める。グロー放電発光分析による表面からのスパッタリング深さとスパッタリング時間との関係を求め、空気側の1/4厚に相当するスパッタリング時間までのグロー放電発光分析のNiおよびTiのカウント積算値を求める。予め、Ni付着量およびTi付着量既知のサンプルを測定した積算値と付着量の関係からNiおよびTiの検量線を作成しておく。1/4厚のNiおよびTiのカウント積算値からNiおよびTiの検量線に基づきNi量およびTi量を求める。
一方、皮膜のめっき鋼板側の1/4厚のNi量およびTi量は、空気側の1/4厚のNi量およびTi量と同様に、表面からのスパッタリング深さとスパッタリング時間との関係を求め、めっき鋼板側の1/4厚に相当するスパッタリング時間までのグロー放電発光分析のNiおよびTiのカウント積算値を求める。これらの積算値から検量線に基づきNi量およびTi量を求める。
【0026】
なお、めっき鋼板側の1/4厚のNi比率が空気側の1/4厚のNi比率よりも大きい皮膜の好適態様としては、例えば、後述するように、下層皮膜と上層皮膜とからなり、下層皮膜のNi比率を上層皮膜のNi比率よりも大きくした皮膜が挙げられる。
この態様の場合、下層皮膜の比(Ni付着量/Ti付着量)を、皮膜の「めっき鋼板側の1/4厚」のNi比率とすることができ、また、上層皮膜の比(Ni付着量/Ti付着量)を、皮膜の「空気側の1/4厚」のNi比率とすることができる。
【0027】
皮膜のめっき鋼板側の1/4厚におけるNi比率(Ni付着量/Ti付着量)は、容器用鋼板の外観、ならびに、塗料およびフィルムとの密着性がより優れるという理由から、2.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。
また、皮膜の空気側の(1/4厚におけるNi比率(Ni付着量/Ti付着量)は、容器用鋼板の外観、ならびに、塗料およびフィルムとの密着性がより優れるという理由から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0028】
また、本発明を別の観点から見た場合、皮膜は、めっき鋼板との界面のNi比率が、めっき鋼板側とは反対側の表面のNi比率よりも大きい。これにより、本発明の容器用鋼板は、フィルム密着性および塗料密着性が優れると共に、着色が抑制されて外観にも優れる。
【0029】
皮膜のめっき鋼板との界面および表面(めっき鋼板側とは反対側の表面)のNi比率(Ni付着量/Ti付着量)については、めっき鋼板から塩酸を用いてめっきを溶解させて剥離した皮膜の両面のNi付着量およびTi付着量を、X線光電子分光法を用いて測定することで求める。
なお、X線光電子分光法は、例えば、下記条件により実施される。
・装置:島津/KRATOS社製AXIS−HS
・X線源:モノクロAlKα線(1486.6eV)
・測定領域:250×250(μm)
・測定ピーク:Ni 2p、Ti 2p
【0030】
なお、めっき鋼板との界面のNi比率が表面のNi比率よりも大きい皮膜の好適態様としては、例えば、後述するように、下層皮膜と上層皮膜とからなり、下層皮膜のNi比率を上層皮膜のNi比率よりも大きくした皮膜が挙げられる。
【0031】
皮膜のめっき鋼板との界面におけるNi比率(Ni付着量/Ti付着量)は、容器用鋼板の外観、ならびに、塗料およびフィルムとの密着性がより優れるという理由から、2.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。
また、皮膜の表面のNi比率(Ni付着量/Ti付着量)は、容器用鋼板の外観、ならびに、塗料およびフィルムとの密着性がより優れるという理由から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0032】
皮膜の厚さは、特に限定されないが、3〜60nmが好ましく、5〜20nmがより好ましい。皮膜の厚さは、皮膜の断面を収束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による断面プロファイルから測定できる。
【0033】
[容器用鋼板の製造方法および処理液]
上述した本発明の容器用鋼板を製造する方法としては、例えば、後述するNi含有量が比較的に多い処理液(以下、便宜的に「本発明の処理液」ともいう)を用いて1層目の下層皮膜を形成する皮膜形成工程(下層)と、Ni含有量が比較的に少ない本発明の処理液を用いて2層目の上層皮膜を形成する皮膜形成工程(上層)と、を備える方法(以下、便宜的に「本発明の製造方法」ともいう)が好適に挙げられる。
このような本発明の製造方法の場合、得られる皮膜は、下層皮膜と、この下層皮膜の表面上に配置された上層皮膜とからなる。
そして、下層皮膜のNi比率を上層皮膜のNi比率よりも大きくすることで、めっき鋼板側の1/4厚のNi比率を空気側の1/4厚のNi比率よりも大きくした皮膜、または、めっき鋼板との界面のNi比率を表面のNi比率よりも大きくした皮膜を形成する。
以下、このような本発明の製造方法について説明を行い、この説明の中で、併せて本発明の処理液についても説明する。
【0034】
〔皮膜形成工程(下層・上層)〕
皮膜形成工程(下層)は、めっき鋼板のめっき層側の表面上に、1層目の下層皮膜を形成する工程であって、本発明の処理液中にめっき鋼板を浸漬する(浸漬処理)、または、浸漬しためっき鋼板に陰極電解処理を施す工程である。
皮膜形成工程(上層)は、下層皮膜の表面上に、2層目の上層皮膜を形成する工程であって、下層皮膜を形成しためっき鋼板を本発明の処理液中に浸漬する、または、本発明の処理液中に浸漬した下層皮膜を形成しためっき鋼板に陰極電解処理を施す工程である。
【0035】
なお、陰極電解処理は、浸漬処理よりも、より高速に、均一な皮膜を得ることができるという理由から好ましい。また、陰極電解処理と陽極電解処理とを交互に行う交番電解を実施してもよい。
以下では、皮膜形成工程(下層)と皮膜形成工程(上層)とをまとめて、単に、「皮膜形成工程」ともいう。また、上層皮膜と下層皮膜とをまとめて、単に「皮膜」ともいう。
以下に、使用される本発明の処理液や陰極電解処理の条件などについて詳述する。
【0036】
〈処理液〉
本発明の処理液は、上記皮膜にTi(チタニウム元素)を供給するためのTi成分(Ti化合物)を含有する。
このTi成分としては、特に限定されないが、例えば、チタンアルコキシド、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム二水和物、硫酸チタン、チタンラクテート、チタンフッ化水素酸(H
2TiF
6)および/またはその塩などが挙げられる。なお、チタンフッ化水素酸の塩としては、例えば、六フッ化チタン酸カリウム(K
2TiF
6)、六フッ化チタン酸ナトリウム(Na
2TiF
6)、六フッ化チタン酸アンモニウム((NH
4)
2TiF
6)等が挙げられる。
これらのうち、処理液の安定性、入手の容易性などの観点から、チタンフッ化水素酸および/またはその塩が好ましい。
本発明の処理液におけるTi含有量は、特に限定されないが、チタンフッ化水素酸および/またはその塩を使用する場合、六フッ化チタン酸イオン(TiF
62-)に換算した量が、0.004〜0.4mol/Lであるのが好ましく、0.02〜0.2mol/Lがより好ましい。
【0037】
また、本発明の処理液は、上記皮膜にNi(ニッケル元素)を供給するためのNi成分(Ni化合物)を含有する。
このNi成分としては、特に限定されないが、硫酸ニッケル(NiSO
4)、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル(NiCl
2)、塩化ニッケル六水和物などが挙げられる。
本発明の処理液におけるNi含有量は、特に限定されないが、Niイオン(Ni
2+)に換算した量が、0.002〜0.04mol/Lであるのが好ましく、0.004〜0.02mol/Lがより好ましい。
【0038】
なお、本発明の処理液中の溶媒としては、通常水が使用されるが、有機溶媒を併用してもよい。
本発明の処理液のpHは、特に限定されないが、pH2.0〜5.0が好ましい。該範囲内であれば、処理時間を短くでき、かつ、処理液の安定性に優れる。pHの調整には公知の酸成分(例えば、リン酸、硫酸)・アルカリ成分(例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水)を使用できる。
また、本発明の処理液には、必要に応じて、ラウリル硫酸ナトリウム、アセチレングリコールなどの界面活性剤が含まれていてもよい。また、付着挙動の経時的な安定性の観点から、処理液には、ピロリン酸塩などの縮合リン酸塩が含まれていてもよい。
【0039】
ここで、再び皮膜形成工程の説明に戻る。皮膜形成工程において、処理を実施する際の処理液の液温は、20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0040】
皮膜形成工程において、陰極電解処理を実施する際の電解電流密度は、形成される皮膜中のTiおよびNiが適量となって、フィルム密着性および塗料密着性がより優れるという理由から、1.0〜80.0A/dm
2が好ましく、3.0〜50.0A/dm
2がより好ましい。
このとき、陰極電解処理の通電時間は、同様の理由から、0.1〜5秒が好ましく、0.3〜2秒がより好ましい。
なお、陰極電解処理の際の電気量密度は、電流密度と通電時間との積であり、適宜設定される。
【0041】
なお、皮膜中に含まれるFを低減させるという理由から、陰極電解処理の後、得られた鋼板の水洗処理を行うのが好ましい。
水洗処理の方法は特に限定されず、例えば、連続ラインで製造を行う場合、皮膜処理タンクの後に水洗タンクを設け、皮膜処理後に連続して水に浸漬する方法などが挙げられる。水洗処理に用いる水の温度(水温)は、40〜90℃が好ましい。
このとき、水洗時間は、水洗処理による効果がより優れるという理由から、0.5秒超が好ましく、1.0〜5.0秒が好ましい。
【0042】
さらに、水洗処理に代えて、または、水洗処理の後に、乾燥を行ってもよい。乾燥の際の温度および方式は特に限定されず、例えば、通常のドライヤーや電気炉乾燥方式が適用できる。乾燥処理の際の温度としては、100℃以下が好ましい。上記範囲内であれば、皮膜の酸化を抑制でき、皮膜組成の安定性が保たれる。なお、下限は特に限定されないが、通常室温程度である。
【0043】
そして、下層皮膜のNi比率を上層皮膜のNi比率よりも大きくするためには、例えば、皮膜形成工程(下層)で用いる処理液中のNi含有量を、皮膜形成工程(上層)で用いる処理液中Ni含有量よりも多くする方法が挙げられる。
また、皮膜形成工程(下層)と皮膜形成工程(上層)とで、同じ処理液を用いても、陰極電解処理の条件(例えば、電流密度、浴の温度、通電時間など)を異ならせることで、下層皮膜と上層皮膜とのNi比率を異ならせることができる。
【0044】
〔前処理工程〕
本発明の製造方法は、上述した皮膜形成工程の前に、以下に説明する前処理工程を備えていてもよい。
前処理工程は、アルカリ性水溶液(特に、炭酸ナトリウム水溶液)中で、めっき鋼板に陰極電解処理を施す工程である。
めっき層がSn層である場合、通常、めっき層の作製時にその表面は酸化されて、錫酸化物が形成される。該めっき鋼板に対して、陰極電解処理を施すことにより、不要な錫酸化物を除去して、錫酸化物量を調整できる。
前処理工程の陰極電解処理の際に使用される溶液としては、アルカリ性水溶液(例えば、炭酸ナトリウム水溶液)が挙げられる。アルカリ性水溶液中のアルカリ成分(例えば、炭酸ナトリウム)の濃度は特に限定されないが、錫酸化物の除去がより効率的に進行する点から、5〜15g/Lが好ましく、8〜12g/Lがより好ましい。
陰極電解処理の際のアルカリ性水溶液の液温は特に限定されないが、40〜60℃が好ましい。陰極電解処理の電解条件(電流密度、電解時間)は、適宜調整される。なお、陰極電解処理の後に、必要に応じて、水洗処理を施してもよい。
【0045】
本発明の製造方法によって得られる本発明の容器用鋼板は、DI缶、食缶、飲料缶など種々の容器の製造に使用される。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
〈めっき鋼板の製造〉
以下の方法によって、めっき鋼板を製造した。
まず、板厚0.22mmの鋼板(T4原板)を電解脱脂し、ワット浴を用いて第3表に示す片面当たりのNi付着量でニッケルめっき層を両面に形成後、10vol.%H
2+90vol.%N
2雰囲気中にて700℃で焼鈍してニッケルめっきを拡散浸透させることによりFe−Ni合金層(Ni含有層)(第3表にNi付着量を示す)を両面に形成した。
引き続き、上記表層にNi含有層を有する鋼板を、錫めっき浴を用い、第3表中に示す片面当たりのSn付着量のSn層を両面に形成した。その後、Snの融点以上でリフロー処理を施し、めっき層をT4原板の両面に形成した。このようにして、下層側から順に、Ni−Fe合金層/Fe−Sn−Ni合金層/Sn層からなるめっき層が形成された。
【0048】
また、板厚0.22mmの鋼板(T4原板)を電解脱脂し、錫めっき浴を用い、第3表中に示す片面当たりのSn付着量のSn層を両面に形成した。このようにして、Sn層からなるめっき層が形成された。その後、Snの融点以上でリフロー処理を施し、めっき層をT4原板の両面に形成した。このようにして、下層側から順に、Fe−Sn合金層/Sn層からなるめっき層が形成された。
【0049】
〈皮膜の形成〉
《前処理工程》
浴温50℃、10g/Lの炭酸ナトリウム水溶液中に上記めっき鋼板を浸漬し、第2表に示す条件にて、陰極電解処理を行った。
《皮膜形成工程(下層)》
次いで、得られた鋼板を水洗し、pHを4.0に調整した第1表に示す組成の処理液(溶媒:水)を用い、第2表に示す浴温(処理温度)および電解条件(電流密度、通電時間、電気量密度)で陰極電解処理を施した。その後、得られた鋼板を水洗処理して、ブロアを用いて室温で乾燥を行い、下層皮膜を両面に形成した。なお、水洗処理は、得られた鋼板を、第2表に示す水温の水槽に、第2表に示す水洗時間だけ浸漬させることにより行なった。
《皮膜形成工程(上層)》
次いで、pHを4.0に調整した第1表に示す組成の処理液(溶媒:水)を用い、第2表に示す浴温(処理温度)および電解条件(電流密度、通電時間、電気量密度)で陰極電解処理を施した。その後、得られた鋼板を水洗処理して、ブロアを用いて室温で乾燥を行い、上層皮膜を両面に形成した。これにより、容器用鋼板の試験材を作製した。なお、水洗処理は、得られた鋼板を、第2表に示す水温の水槽に、第2表に示す水洗時間だけ浸漬させることにより行なった。
【0050】
その後、作製した容器用鋼板の試験材について、以下の方法で、外観、フィルム密着性および塗料密着性を評価した。各成分量、および、評価結果を第3表にまとめて示す。
皮膜のTi付着量およびNi付着量、皮膜厚さ、ならびに、Ni比率は、上述した方法により測定ないし計算した。
【0051】
〈外観〉
作製した容器用鋼板の皮膜表面について、未経時の状態で色差計(SQ2000、日本電色工業社製)を用いて、色調(L値)を測定した。L値が65以上であれば、容器用鋼板の外観が優れるものとして評価できる。
【0052】
〈フィルム密着性〉
作製した容器用鋼板の表面に、市販のPETフィルム(Melinex850、デュポン社製)を、ロール加圧4kg/cm
2、板送り速度40mpm、ロール通過後の板の表面温度が160℃となる条件で熱融着させ、次いで、電気炉中で後加熱(到達板温210℃で120秒保持)を行ない、ラミネート鋼板を作製した。
作製したラミネート鋼板に対し、先端径3/16インチRのポンチを用い、1kgの錘を250mmの高さから落下させ、フィルムを貼った面の側が凸になるようデュポン衝撃加工を行った。このような加工試験片を4つ作成し、レトルト装置内に、凸面が上になるように置き、130℃のレトルト環境で30分間保持後、取り出し、加工部のフィルム剥離の程度を目視で、下記5段階で評価し、4つの試験片の平均値(小数点以下1桁)を用いて、フィルム密着性を評価した。実用上、結果が3.0以上であれば、フィルム密着性に優れるものとして評価できる。
5:剥離なし
4:加工部の面積の5%未満で剥離発生
3:加工部の面積の5%以上20%未満で剥離発生
2:加工部の面積の20%以上50%未満で剥離発生
1:加工部の面積の50%以上で剥離発生
【0053】
〈塗料密着性〉
作製した容器用鋼板(幅100mm×長さ150mm)の表面に、エポキシフェノール系塗料を塗布し、210℃で10分間の焼付を行い、付着量50mg/dm
2の塗装を施した。次いで、上記塗装を施した同一の条件で作製した2枚の容器用鋼板を、ナイロン接着フィルムを挟んで塗装面が向かい合わせになるように積層した後、圧力2.94×10
5Pa、温度190℃、圧着時間30秒の圧着条件下で貼り合わせた。その後、これを5mm幅の試験片に分割した。分割した試験片の2枚の容器用鋼板を引張試験機で引き剥がし、引き剥がしたときの引張強度を測定した。各条件について2つの分割試験片の平均値を下記基準で評価した。実用上、結果が◎、○又は△であれば、塗料密着性に優れるものとして評価できる。
◎:3.0kgf以上
○:2.0kgf以上3.0kgf未満(クロメート処理材同等)
△:1.0kgf以上2.0kgf未満
×:1.0kgf未満
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
上記第1表〜第3表に示す結果から明らかなように、本発明例はいずれも外観色調、フィルム密着性および塗料密着性に優れることが確認された。
これに対して、皮膜のNi付着量が10.0mg/m2以下でない比較例(試験材No.10)は、塗料密着性およびフィルム密着性に劣ることが確認された。
また、Ni比率がめっき鋼板側(界面側)よりも空気側(表面側)の方が大きい比較例(試験材No.25,28〜30)は、外観ならびに、塗料密着性およびフィルム密着性に劣ることが確認された。
また、皮膜のTi付着量が3.0mg/m
2以上でない比較例(試験材No.26)は、フィルム密着性および塗料密着性が劣っていた。
また、皮膜のTi付着量が60.0mg/m
2未満でなく、かつ、Ni付着量が10.0mg/m
2以下でない比較例(試験材No.27)は、外観ならびにフィルム密着性および塗料密着性が劣ることが確認された。