(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048452
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】2軸延伸ポリエステルフィルムにヒートシール性を付与する方法、ヒートシール性を付与した2軸延伸ポリエステルフィルム及びこれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20161212BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20161212BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20161212BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20161212BHJP
B65D 33/22 20060101ALI20161212BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20161212BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J5/18CFD
B65D65/02 E
B65D30/02
B65D33/22
B32B27/36
B32B27/16
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-121672(P2014-121672)
(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-796(P2016-796A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2016年4月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 規行
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−308042(JP,A)
【文献】
特開平10−139900(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/001606(WO,A1)
【文献】
特開2005−068236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04
B32B1/00−43/00
B65D30/00−33/38
65/00−65/46
C08J7/00−7/02
7/12−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸延伸ポリエステルの層単体、または、前記2軸延伸ポリエステルの層を表面に含む積層体からなるフィルムの所定の領域において、前記2軸延伸ポリエステル層に赤外線レーザー光の照射スポットを、管状干渉光学系を用いずに、500mm/sec以上8000mm/sec以下の走査速度で走査することによって前記赤外線レーザー光を連続的に照射し、前記所定の領域における前記2軸延伸ポリエステルの層の表面にヒートシール性を付与する方法。
【請求項2】
前記2軸延伸ポリエステルとして、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記赤外線レーザー光として、赤外線波長を有する炭酸ガスレーザー光を用いる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2軸延伸ポリエステルの層単体、または、前記2軸延伸ポリエステルの層を表面に含む積層体からなるフィルムであって、前記2軸延伸ポリエステル層の一部の領域に赤外線レーザー光の照射スポットを、管状干渉光学系を用いずに、500mm/sec以上8000mm/sec以下の走査速度で走査することにより前記赤外線レーザー光を連続的に照射し、前記一部の領域における前記2軸延伸ポリエステルの層の表面にヒートシール性を付与した、フィルム。
【請求項5】
1以上の請求項4に記載のフィルムを含み、前記フィルムの前記一部の領域どうしがヒートシールされている包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸配向ポリエステル等のフィルムに表面処理を行いヒートシール性を付与する方法と、ヒートシール性を付与したフィルムと、これを用いた包装体とに関する。
【背景技術】
【0002】
2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム等の2軸配向ポリエステルフィルムは、強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、保香性等に優れることから、各種の包装用素材として有用である。そこで、このようなフィルムどうしをヒートシールして形成したフレキシブルパウチ等の包装体が期待されている。
【0003】
配向性を有するフィルムは、ヒートシール性に乏しい。そこで例えば、特許文献1は、電磁波を2軸配向ポリエステルフィルムの表面に短パルス照射し、表面を改質することによりヒートシール性を付与する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−26339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示するような短パルス照射方法では、2軸配向ポリエステルフィルムの内部配向性を損なわないようにするため、キセノンガスランプ等を用いて高出力の短パルスを発生させる必要がある。このような高出力な装置は、エネルギー効率が低く、また、安全性の確保が困難であるため、このような装置を用いた方法は実用化に向けての取り組みがなされていなかった。
【0006】
それ故に、本発明は、高効率で安全性の高い、2軸配向ポリエステルフィルムのヒートシール性付与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、2軸延伸ポリエステルの層単体、または、2軸延伸ポリエステルの層を表面に含む積層体からなるフィルムの所定の領域において、2軸延伸ポリエステル層に
赤外線レーザー光の照射スポットを
、管状干渉光学系を用いずに、500mm/sec以上8000mm/sec以下の走査速度で走査することによって前記
赤外線レーザー光を連続的に照射し、所定の領域における2軸延伸ポリエステルの層の表面にヒートシール性を付与する方法である。
【0008】
また、2軸
延伸ポリエステルとして、2軸
延伸ポリエチレンテレフタレートを用いてもよい。
【0009】
また、レーザー光として、赤外線波長を有する炭酸ガスレーザー光を用いてもよい。
【0010】
本発明の他の局面は、2軸延伸ポリエステルの層単体、または、2軸延伸ポリエステルの層を表面に含む積層体からなるフィルムであって、2軸延伸ポリエステル層の一部の領域に
赤外線レーザー光の照射スポットを
、管状干渉光学系を用いずに、500mm/sec以上8000mm/sec以下の走査速度で走査することにより
赤外線レーザー光を連続的に照射し、一部の領域における2軸延伸ポリエステルの層の表面にヒートシール性を付与した、フィルムである。
【0014】
本発明のさらに他の局面は、1以上の上述のフィルム
を含み、フィルムの一部の領域どうし
がヒートシール
されている包装体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高効率で安全性の高い、2軸配向ポリエステルフィルムのヒートシール性付与方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態に係る2軸配向ポリエステルフィルムにヒートシール性を付与する方法を説明する。本方法は、2軸配向ポリエステルの層単体からなるフィルム、または、2軸配向ポリエステルの層を表面に含む積層体からなるフィルムのいずれにも適用できる。2軸配向ポリエステルは、例えば2軸配向ポリエチレンテレフタレートであるが、これに限られない。また、2軸配向ポリエステルの層の代わりに他の熱可塑性樹脂を有するフィルムにも適用しうる。
【0018】
図1は本方法を説明する図である。
図1には、一例として2軸配向ポリエチレンテレフタレートの層単体からなるフィルム1の平面図およびそのA−A’線に沿った断面図を示す。フィルム1の表面の一部の領域2にヒートシール性を付与する場合、領域2内をレーザー光を走査しながら連続的に照射することにより領域2内の各位置に順次レーザー光を照射する。
図1に示す例では、レーザー光の照射スポットSが、所定の間隔の複数の平行な直線状の軌跡を描くように照射される。レーザー光は、エネルギーが効率的にフィルム1に吸収されやすい赤外線波長を有する炭酸ガスレーザー光を用いることが好ましい。
【0019】
フィルム1表面のレーザー光が照射された箇所は、レーザー光のエネルギーによって一時的に融解することによって変質する。また、例えば照射の軌跡に応じて、平坦さが失われ、凹部または凸部を有する微細構造が形成される。
図1に示す例では、微細構造として、複数の線状の凸条が所定の間隔で平行に形成される。しかし、レーザー光の出力や照射スポット内のエネルギー密度、走査軌跡の形状、走査速度等に応じて、微細構造は多様な形態をとりうる。また、このような微細構造が生じない場合もありうる。また、微細構造の形成とともにあるいは微細構造の形成の代わりに、照射された箇所が例えば白化し、光の反射率が大きくなる場合もありうる。
【0020】
レーザー光が照射された箇所は、変質によってヒートシール性が発現する。変質の内容として、例えば、フィルム1の分子の配向性の少なくとも部分的な低下または消失が考えられる。また、これ以外の要因が関係している可能性も考えられる。領域2全体を走査照射することにより、領域2へのヒートシール性の付与が完了する。
図2に、ヒートシール性の付与が完了したフィルム1の平面図を示す。
【0021】
レーザー光の種類、出力、照射スポット径、走査軌跡、走査速度等は、フィルム1の材質等に応じて、好適にヒートシール性が発現するよう、適宜設定すればよい。
【0022】
本方法によれば、一定出力のレーザー光を連続的に照射するため、高出力の短パルスを照射する場合に比べて、エネルギー効率が高く、また、安全性を確保しやすくことができ、例えばポリエステルフィルムどうしをヒートシールして形成した包装体の実用化を推進することができる。
【0023】
本方法によってヒートシール性を付与されたポリエステルフィルムを用いて例えば包装体を製造することができる。
図3に一例を示す。フィルム11、12、13は、周縁部のハッチングで示した箇所が本方法によってヒートシール性を付与されている。フィルム11、12の間に、2つ折りにしたフィルム13を挟み、ヒートシール処理を行うことで、包装袋20を製造することができる。包装体は、包装袋20に限らず、1枚以上のフィルムを用いて多様に構成することができる。このような包装体は、最内層に耐熱性、耐薬品性、保香性等に優れたポリエステルフィルムを用いているため、内容物を好適に収納することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本実施例に係るフィルムは、2軸配向ポリエチレンテレフタレート単体からなる厚さ50μmのフィルムである。キーエンス社製の炭酸ガスレーザー装置ML−Z9510を用いて、このフィルムに出力21Wでレーザー光の照射を行った。照射する領域は100mm×100mmの領域とし、直径0.14mmの照射スポットを、走査速度4000mm/sec、走査間隔0.1mmで複数の平行な直線状に走査した。このような照射を行った領域どうしを2秒間、温度140℃、圧力0.2MPaの熱及び圧力を加えてヒートシールを行い、シール強度を測定した結果、22N/15mmのシール強度が確認され、ヒートシール性が付与されていることを確認できた。また、配向特性の有無を確認するため照射領域にクロロホルムを滴下したところ、滴下箇所が白化(不透明化)し、2軸配向性が消失していることが確認できた。
【0025】
(実施例2)
本実施例に係るフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(厚さ12μm)/アルミニウム(厚さ9μm)/ポリエチレン(厚さ20μm)/2軸配向ポリエチレンテレフタレート(厚さ12μm)の層構成の積層体からなるフィルムである。キーエンス社製の炭酸ガスレーザー装置ML−Z9510を用いて、このフィルムの2軸配向ポリエチレンテレフタレート側の表面に出力21Wでレーザー光の照射を行った。照射する領域は100mm×100mmの領域とし、直径0.14mmの照射スポットを、以下の表1に示す各走査速度、各走査間隔で複数の平行な直線状に走査した。このような照射を行った領域どうしを2秒間、温度140℃、圧力0.2MPaの熱及び圧力を加えてヒートシールを行い、シール強度を測定した結果を表1に示す。例えば走査速度4000mm/sec、走査間隔0.2mm以下の場合、または、走査間隔0.05mm、走査速度4000mm/sec以上の場合、シール強度が向上しヒートシール性が付与されていることを確認できた。走査速度や走査間隔が大きすぎると、各部分におけるレーザー光の照射エネルギーが少なく、表面の変質が不十分となり、走査速度が小さすぎると、各部分におけるレーザー光の照射エネルギーが多く、2軸配向ポリエチレンテレフタレートが蒸発、燃焼(酸化)等により消滅するものと考えられる。また、ヒートシール性が得られた場合において、配向特性の有無を確認するため照射領域にクロロホルムを滴下したところ、滴下箇所が白化(不透明化)し、2軸配向性が消失していることが確認できた。
【0026】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、包装体等に用いられるフィルムのヒートシール性向上に有用である。
【符号の説明】
【0028】
1、11、12、13 フィルム
2 ヒートシール性を付与する領域
20 包装袋