(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記制御部(35)は、上記後進散布スイッチ(63)の切替えによって後進走行時の薬液散布の場合に報知手段(63a)によって発報する報知制御を備えることを特徴とする請求項1に記載の乗用型防除機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、散布態様が、前進走行時に薬液を散布し、後進走行時に散布を停止する場合は、前進走行と後進走行の走行毎に散布スイッチを操作し、すなわち、散布スイッチを入れて前進走行し、続く後進走行時に散布スイッチを切り、この繰り返しによる煩わしい操作を強いられるという問題が避けられなかった。
【0005】
本発明は、前後進の圃場走行について薬液を連動散布するとともに、必要により、後進走行時の散布停止を可能とする乗用型防除機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、薬液散布量を前後進の走行車速に対応して制御する制御部(35)を備える乗用型防除機において、上記制御部(35)は、後進走行の検出に応じて薬液散布を停止する限定散布制御と、この限定散布制御による散布規制を解除して後進走行時に薬液散布可能に切替えるための後進散布スイッチ(63)とを備えること特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記制御部(35)は、上記後進散布スイッチ(63)の切替えによって後進走行時の薬液散布の場合に報知手段(63a)によって発報する報知制御を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明により、制御部(35)は、走行時の薬液散布量を前後進の走行車速に対応して制御し、この場合において、制御部(35)は、限定散布制御により、後進走行の検出に応じて薬液散布を停止し、また、後進散布スイッチ(63)の切替えにより、限定散布制御による散布規制を解除して後進走行時に薬液散布が可能となる。したがって、前進走行時の連動散布を可能とするとともに、後進散布スイッチ(63)の切替え操作のみで、後進走行毎の煩わしい散布停止操作を要することなく、後進走行時の散布停止が可能となる。
【0009】
請求項2に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、報知手段(63a)が上記後進散布スイッチ(63)による後進走行散布の設定を発報することから、薬液散布作業における後進散布スイッチ(63)の設定について、作業者が容易に確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、走行車両の前進行方向を基準に、前後、左右と云う。
【0012】
本実施形態の防除用作業車両である乗用型防除機は、前輪1と後輪2を設けた走行車体の前部にボンネット3を設け、エンジン9を覆っている。ボンネット3の後方にはステアリングハンドル4を設け、さらにその後方には運転座席5を設けている。運転座席5はステップフロワ6の上方に設け、前輪1と後輪2との間には燃料タンク7及び乗降用のステップ8を設けている。
【0013】
運転座席5の後方に薬液を収容する樹脂製の薬液タンク18を搭載し、ボンネット3の前方には薬液を散布するブーム10を設け、ブーム10を昇降リンク取り付け体11に取り付ける構成である。昇降リンク取り付け体11は、左右一対の昇降リンク12側と連結して昇降リンク12と共に昇降可能とする構成とし、昇降リンク12及びブーム取り付け体11の昇降動作は走行車体の左右中央部に設ける昇降シリンダ13の伸縮動作で行う。昇降シリンダ13の一端を左右の昇降リンク12を連結する連結軸14に取り付けることで、昇降シリンダ13が伸縮すると連結軸14及び昇降リンク12がボンネット3側の本体車両側に固定する回動軸12aを支点にして昇降する構成である。
【0014】
図1から
図3のブーム10の姿勢は非散布状態の収納姿勢を示し、ブーム10を走行車体の左右両側に設けるブーム受け15で受けることで、斜め後ろ上がり姿勢としている。
図5はブーム10を走行車両の左右両側に水平姿勢に伸びる姿勢にして多数のノズル16(左ブーム10aのノズル16a,右ブーム10bのノズル16b,中央ブーム10cのノズル16c)から噴霧状の薬液を散布する薬液散布状態を示している。左右のブーム10それぞれを個別に左右両側に伸びる姿勢にしたり収納位置にするためのブーム散布収納切換用シリンダ17(左ブーム用シリンダ17a,右ブーム用シリンダ17b)を設けている。
【0015】
薬液散布の経路及び動力伝動機構について
図7に基づいて説明する。
薬液タンク18内の薬液をブーム10に供給する防除ポンプ21を設け、薬液タンク18と防除ポンプ21の入力側とを防除用第一管20aで連結し、防除ポンプの出力側と薬液タンク18とを防除用第二管20bを連結している。防除用第一管20aは、薬液タンク18内の薬液を防除ポンプ21で吸引されるときに薬液が通過する管であり、防除用第二管20bは、防除ポンプ21から薬液タンク18内の薬液を撹拌するための空気や、後述する取水装置40に供給する空気又は水が通過する管である。
【0016】
防除ポンプ21とブーム10とを防除用第三管20cで連結する。防除用第三管20cの途中には、流量を調節する流量調節弁36や、左ブーム10a,右ブーム10b,中央ブーム10cそれぞれに薬液を供給するか否かを選択する手動の噴霧コック22(左ブーム用噴霧コック22a,右ブーム用噴霧コック22b,中央ブーム用噴霧コック22cを設けている。エンジン9の動力は入力軸23からミッション機構24を経て走行系出力軸25と、防除ポンプ用出力軸26に出力される。
【0017】
防除用第二管20bの一端は、薬液タンク18の外側面の下部に連結されており、防除用第二管20bの終端部には切り換えバルブ28と、後述する取水装置40とを連結する連結部29を設けている。
【0018】
操作盤30について
図7に基づいて説明する。
操作盤30は運転座席5の一側より前方に突出して設け、盤面には薬液の散布及びブーム10の操作用の各種操作具を備えている。ブーム10の左右方向動作及び上下方向動作を操作するブーム用操作レバー31(左ブーム用操作レバー31a及び右ブーム用操作レバー31b)を設ける。また、左ブーム10aの収納姿勢と散布姿勢を切り換える左ブーム用姿勢変更レバー32a、同様に右ブーム用姿勢変更レバー32b、左ブーム10a及び右ブーム10bを共に姿勢を切り換えるブーム姿勢変更レバー32cを設ける。操作盤30の内部には薬液の散布量やブーム10の動作等を制御する制御部35を設けている。
【0019】
また、薬液をブーム10から散布するか停止するかを操作する噴霧コック22(左ブーム用噴霧コック22aと中央ブーム用噴霧コック22cと右ブーム用噴霧コック22b)を設ける。また、散布量を表示する表示計53と散布量の増減を設定する散布量設定スイッチ54を設ける。また、防除ポンプ21をON・OFFするポンプスイッチ33を設けている。また、昇降シリンダ13の伸縮操作する操作盤側昇降用レバー34を設ける。操作盤側昇降用レバー34はブーム10の散布高さ位置を調節することで、農作物の高さに合わせた薬液の散布ができる。
【0020】
薬液タンク18の構成について説明する。
薬液タンクは、背面視又は正面視で車体の左右方向の中心から左右方向に構成し、薬液タンク18は略左右対称形状に構成している。薬液タンク18の前部は運転座席5の左右両側に突出する突出部18a及び18bを形成している。薬液タンク18の後部の上面には、水や薬液を供給するための開閉蓋19を設けている。薬液タンクの18の後部の底面には第一開口部18cと第二開口部18dを形成し、第一開口部18cと第二開口部18dは背面視で薬液タンク18の左右中心位置からそれぞれ左右両側に形成している。操作盤側の薬液タンク18の外側面の下部には第三開口部18eを形成し、防除用第二管20bの一端を取り付ける構成である。
【0021】
第一開口部18cには防除用第一管20aの一端を取り付け、着脱自在に構成している。防除用第一管20aの途中部には、薬液から不純物をろ過するフィルタ37を設けている。第二開口部18dは薬液タンク18内の薬液を排水するドレンとし、ドレン用開閉蓋27を設けている。
【0022】
操作盤30と反対側の薬液タンク18の突出部18aの前面に沿って薬液タンク18内の液量を検出する第一液面計44を設けている。第一液面計44は上下方向に延びる管の形状とし、薬液タンク18内の液面と同じ水位まで管内を薬液が上昇することで、車体外側からオペレータが薬液タンク18内の液量を視認できる。
【0023】
薬液タンク18の背面の操作盤30側の一側に第二液面計45を設け、第二液面計45とドレン用開閉蓋27と切換バルブ28と連結部29は互いに接近する位置に設けている。
【0024】
取水装置40は水源から取水するタービンを内蔵する取水部41と、防除用第二管20bの連結部29と連結する取水用第一管42と、取水部41から取水した水が通過する取水用第二管43から構成している。
【0025】
薬液を散布するときには、エンジン9を駆動し、ブーム姿勢変更レバー32cを散布位置側に操作すると、制御部35が、まず昇降シリンダ13を伸張させて左右のブーム10をブーム受け15から離間させ、次いで、ブーム散布収納切換用シリンダ17が伸張させて、左右のブーム10を走行車体の外側に水平状に伸びて散布姿勢となるよう制御する。ポンプスイッチ33をONして噴霧コック22を散布するほうに操作して操作盤側昇降用レバー34でブーム10の高さを調節しながら前進走行することで、ノズル16から農作物に噴霧状の薬液が散布される。薬液の散布を終了してブーム10を収納位置に戻す場合には、ブーム姿勢変更レバー32cを収納位置側に操作すると、制御部35が前述の収納位置から散布姿勢までの制御とは反対の順序でブーム10を収納位置まで制御する。
【0026】
薬液タンク18内に取水装置40で薬液用の水を水源Gから汲み上げる取水作業について説明する。
取水用第一管42を連結部29に連結し、取水部41を水源Gに投入し、取水用第二管43を薬液タンク18の開閉蓋19を開けて薬液タンク18内に挿入する。そして、防除ポンプ21を駆動し、切換バルブ28を開けると、防除ポンプ21の空気が防除用第二管20bを経て取水用第一管42を経て取水部41に供給され、取水部41のタービンが駆動する。すると、水源Gから汲み上げられた水が取水用第二管43を通過し、薬液タンク18内に供給される。
【0027】
薬液タンク18内にオペレータが必要な水量が供給されるのを第二液面計45で確認すると、切換バルブ28を閉じて取水作業を終了させる。そして、オペレータは薬液タンク18内に収容した水に薬液の原液を投入して希釈させることで、圃場に散布する薬液に生成する。取水作業時、オペレータは、第二液面計45を視認しながら水を薬液タンク18内に供給し、切換弁28の閉操作で水の供給の停止を行うことができる。
【0028】
(前後進散布)
上記乗用防除機は、走行散布用のポンプスイッチ33によって起動される防除ポンプ21と、前後進の走行車速に比例して流量調節弁36を制御することにより薬液散布量を調節する制御部35とを備え、防除ポンプ21を起動して走行した場合に、前後進の機体走行と連動して薬液を各ノズル16…から散布可能に構成する。制御部35は、散布量設定スイッチ54によって設定した面積当たりの散布量となるように前後進の走行車速に比例して流量調節弁36を制御する。
【0029】
また、制御部35は、後進走行時の薬液散布を停止して散布走行を前進時に限定可能に構成する。すなわち、変速レバー61のポジション構成図を
図12に示すように、変速レバー61の後進ポジションを検出するリミットスイッチ62等による後進検出手段を設け、その後進走行検出に応じて薬液散布を停止する限定散布制御と、この限定散布制御を停止して薬液を前後進走行に連動して散布する前後進連動散布制御とを切換え可能に構成する。
【0030】
具体的には、散布制御のシーケンス図を
図13に示すように、後進検出手段であるリミットスイッチ62のB接点をポンプスイッチ33による散布作動系に直列接続して限定散布制御を構成し、この後進検出リミットスイッチ62と並列してシーソースイッチ等による後進散布スイッチ63を接続する。
【0031】
この後進散布スイッチ63によって上記限定散布制御による散布規制の解除が可能となることから、ポンプスイッチ33がオンの場合は、前進走行について薬液が連動散布され、また、後進走行の際は、後進散布スイッチ63の切替えにより後進散布のオンとオフを随時選択することができる。
【0032】
上記制御部35は、操作盤構成の斜視図を
図14に示すように、操作盤30に設けた後進散布スイッチ63が後進散布オンの場合に点灯するランプ63a等の暗中識別が容易な報知手段を設けることにより、後進散布スイッチ63の設定を作業者が容易に確認することができる。
【0033】
また、HST変速レバーを備える無段変速式の乗用型防除機については、変速レバーの構成図を
図15(a)に示すように、変速レバー64の基部にレバー角度位置を検出するアングルセンサ64aによる後進検出手段を設けて前進走行と後進走行とを判定可能に構成する。
【0034】
後進散布の制御は、フローチャートを
図15(b)に示すように、後進散布スイッチ63の判定が「後進散布」であって、かつ、アングルセンサ64aの角度判定が「後進走行」の両条件を満たす場合に限って散布のためにポンプを作動する。なお、アングルセンサ64aの後進走行の判定は、所定のしきい値以下の角度条件を満たす場合を「後進走行」として判定する。
【0035】
(ブーム開閉)
次に、薬液散布装置のサイドブームの開閉操作について説明すると、ブームの開閉シーケンス図を
図16に示すように、左ブーム10aの収納姿勢と散布姿勢を切換える開閉制御系に姿勢変更レバー32aの操作と連動して機体の両側端部配置の左のウィンカ65を点灯可能に構成する。右ブーム10bについても同様に、姿勢変更レバー32bによって右ウィンカ65を点灯可能に、さらに、左右同時動作の姿勢変更レバー32cによって左右ウィンカ65,65を点灯可能に構成する。
【0036】
上記制御構成により、作業者が左右のブーム10a,10bをレバー操作している場合に、対応する側の左右のウィンカ65,65の点灯によってそれぞれの動作状況を暗い場合であっても認識できるので、操作性を向上することができる。また、防除機の周辺においても、路上走行用のウィンカ65,65の点灯により、左右のブーム10a,10bの動作を知覚することができるので、安全性の向上が可能となる。
【0037】
(ブーム昇降)
次に、昇降シリンダによるブーム昇降支持構成について説明する。
機体前部に配置されるブーム昇降用の昇降シリンダは、運転者の目前に位置しており、その結果、前方視界が遮られて丈の高い作物への防除作業では、視認性の悪化によって散布制度の低下を招くとともに、走行安全性にも影響が及んでいた。
【0038】
このような問題を解消するために、ブーム支持構成の正面図、平面図、および側面図を
図17から
図19に示すように、ブームフレーム71と昇降リンク(アンダー)12間を左右配置の昇降シリンダ13,13でそれぞれ連結して3分割構成のブーム10a,10b,10cを昇降可能に構成し、これら昇降シリンダ13,13を機体中心(オペレータ席5センター)Cよりオフセットして構成することにより、防除作業時の前方視認性が改善され、作業精度の向上と安全走行性の向上が可能となる。
【0039】
また、昇降リンクセンターに昇降シリンダを設けた従来の構成では薬液ノズル16…を装着したブームランスが大きく揺れ、散布精度が悪くなる問題があり、また、センター一本化した電動油圧式シリンダでは推力不足が発生し、特に、リフトスピードが経年変化によって低下する問題があったことから、機体中心線Cより相対して、昇降リンク12の内方に昇降シリンダ13を左右それぞれ配置することにより、それぞれの昇降リンク12の捩れ剛性を確保することができ、その結果、作業の高速化が可能となる。
【0040】
また、左右の昇降シリンダ13,13は、昇降リンク12の内部で、その外フレーム寄りに配置することで、オペレータからの前方視認性の確保および、走行時の昇降リンク12の捩れ低減効果を更に高めることができる。
【0041】
また、上記左右の昇降シリンダ13,13は、機体正面視で鉛直方向にブームフレーム71と昇降リンク(アンダー)12間を連結することにより、シリンダの作動効率が最大となるので、小型で消費電流の小さい電動油圧シリンダの適用によって低コストの防除機提供が可能となる。
【0042】
また、上記昇降シリンダ13,13は、シリンダの本体側を上、ロッド側を下として配置することにより、農薬散布によってもシリンダ本体のオイルシール面に農薬が溜まることがないので、農薬によるオイルシールの劣化を抑えることができる。