特許第6048459号(P6048459)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048459
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】NOx吸蔵還元型触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/66 20060101AFI20161212BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B01J23/66 AZAB
   B01D53/86 222
   B01J35/02 H
   B01J37/16
   B01J33/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-162697(P2014-162697)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-36783(P2016-36783A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】白川 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】明石 和利
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−216518(JP,A)
【文献】 特開平05−317652(JP,A)
【文献】 特開平06−031139(JP,A)
【文献】 特開2006−055748(JP,A)
【文献】 特表2014−509553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/73
B01D 53/86−90
B01D 53/94−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材とを触媒担体に担持してなり、前記触媒金属中の金含有量が、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下であることを特徴とする、NOx吸蔵還元型触媒。
【請求項2】
前記触媒金属中の金含有量が、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して5mol%以上10mol%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
【請求項3】
前記触媒金属の平均一次粒子径が0nm超10nm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
【請求項4】
前記触媒担体が、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア−ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
【請求項5】
前記触媒担体がセリア又はセリア−ジルコニアであることを特徴とする、請求項4に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
【請求項6】
白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材とを触媒担体に担持してなるNOx吸蔵還元型触媒の製造方法であって、
前記触媒金属中の金含有量が該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下となるような量において白金イオンと金イオンを含む混合溶液に水素化ホウ素ナトリウムを添加することにより、白金イオンと金イオンを還元して白金と金の固溶体からなる触媒金属を生成する還元工程、
前記還元工程において得られた触媒金属を精製する精製工程、及び
精製した触媒金属とNOx吸蔵材を触媒担体に担持する担持工程
を含むことを特徴とする、NOx吸蔵還元型触媒の製造方法。
【請求項7】
前記還元工程が加熱操作なしで実施されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記精製工程が前記触媒金属をアセトンで抽出することを含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合溶液が保護剤をさらに含むことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOx吸蔵還元型触媒及びその製造方法、より詳しくは白金と金の固溶体からなる触媒金属を含むNOx吸蔵還元型触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全体として理論空燃比よりも高い空燃比で運転されるリーンバーンエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中のNOxを浄化する触媒として、NOx吸蔵還元型(NSR)の排ガス浄化用触媒が開発され、実用化されている。
【0003】
このような触媒としては、コージェライト等のハニカム基材の上に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒金属を含む触媒層を形成し、当該触媒層にアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素等の元素を含むNOx吸蔵材を担持したものが一般的に知られている。
【0004】
特許文献1では、無機物担体上に、Pt,Pd,Au,Ag,Rh及びIrからなる群より選択された金属粒子を担持し、前記金属粒子の上にPt,Pd,Au,Ag,Rh及びIrからなる群より選択されかつ前記担持された金属粒子と異なる金属を積相させることを含み、当該積相が還元析出法によって行われるNOx吸蔵還元型触媒の製造方法が記載され、実施例において(Pt−Au)Al23等の触媒の製造が具体的に開示されている。また、特許文献1では、上記の製造方法によれば、第1の触媒金属粒子とその上に積相された第2の金属を備え、浄化率に優れたNOx還元触媒を、還元析出法によって安定に製造することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−104804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NOx吸蔵還元型(NSR)触媒を使用した浄化方法では、常時はリーン空燃比の下で燃焼が行われ、この間、例えば、排ガス中のNOは、Pt等の触媒金属によってNO2に酸化されてNOx吸蔵材中に硝酸塩として吸蔵される。そして、NOx吸蔵材のNOx吸蔵能力が飽和に近づくと、排ガスの空燃比を一時的にリッチにすることでNOx吸蔵材からNOxが放出され、次いで、放出されたNOxが排ガス中に含まれる炭化水素(HC)等と反応して還元浄化される。
【0007】
ここで、Pt等の触媒金属はメタルの状態においてNO酸化活性を発現することが一般的に知られている。しかしながら、酸素過剰のリーン雰囲気下では、Ptは酸化物を形成しやすく、それゆえ排ガス中のNOを十分に吸着及び酸化することができない場合がある。この場合には、排ガス中のNOxをNOx吸蔵材に十分に吸蔵させることができなくなるという問題が生じる。
【0008】
特許文献1に具体的に開示されている(Pt−Au)Al23等の触媒では、Pt粒子の上にAuが積相され、すなわちPt粒子がAuによって覆われているために、PtによるNOの吸着及び酸化がAuによって阻害される虞がある。このため、特許文献1において具体的に開示されている触媒では、必ずしも十分に高いNOx吸蔵能を達成できない場合があった。
【0009】
そこで、本発明は、白金を触媒成分として含む新規のNOx吸蔵還元型触媒であって、従来の触媒と比較してより高いNOx吸蔵能を達成することができるNOx吸蔵還元型触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は下記のとおりである。
(1)白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材とを触媒担体に担持してなり、前記触媒金属中の金含有量が、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下であることを特徴とする、NOx吸蔵還元型触媒。
(2)前記触媒金属中の金含有量が、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して5mol%以上10mol%以下であることを特徴とする、上記(1)に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
(3)前記触媒金属の平均一次粒子径が0nm超10nm以下であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
(4)前記触媒担体が、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア−ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
(5)前記触媒担体がセリア又はセリア−ジルコニアであることを特徴とする、上記(4)に記載のNOx吸蔵還元型触媒。
(6)白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材とを触媒担体に担持してなるNOx吸蔵還元型触媒の製造方法であって、
前記触媒金属中の金含有量が該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下となるような量において白金イオンと金イオンを含む混合溶液に水素化ホウ素ナトリウムを添加することにより、白金イオンと金イオンを還元して白金と金の固溶体からなる触媒金属を生成する還元工程、
前記還元工程において得られた触媒金属を精製する精製工程、及び
精製した触媒金属とNOx吸蔵材を触媒担体に担持する担持工程
を含むことを特徴とする、NOx吸蔵還元型触媒の製造方法。
(7)前記還元工程が加熱操作なしで実施されることを特徴とする、上記(6)に記載の方法。
(8)前記精製工程が前記触媒金属をアセトンで抽出することを含むことを特徴とする、上記(6)又は(7)に記載の方法。
(9)前記混合溶液が保護剤をさらに含むことを特徴とする、上記(6)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PtとAuを原子レベルで固溶させた触媒金属であって、特定のAu含有量を有する触媒金属を合成しそしてそれを触媒担体に担持することで、Pt単独の触媒金属を触媒担体に担持したNOx吸蔵還元型触媒や、あるいはPt粒子の上にAuを積相した触媒金属を含む従来の還元析出法によるNOx吸蔵還元型触媒と比較して、NOx吸蔵能が顕著に改善されたNOx吸蔵還元型触媒を得ることができる。また、本発明の方法によれば、従来の還元析出法やアルコール還元を用いた方法とは異なり、白金イオンと金イオンを特定の量において含む混合溶液に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを単に添加することにより、加熱操作を何ら必要とすることなしに白金と金の固溶体からなる触媒金属を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のNOx吸蔵還元型触媒におけるリーン雰囲気下でのNOx吸蔵のメカニズムを説明する概念図である。
図2】本発明における触媒金属の製造プロセスを模式的に示した図である。
図3】例1のNOx吸蔵還元型触媒(Au含有量1mol%)のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図4】例2のNOx吸蔵還元型触媒(Au含有量5mol%)のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図5】例3のNOx吸蔵還元型触媒(Au含有量10mol%)のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図6】例6のNOx吸蔵還元型触媒(Au含有量0mol%)のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図7】例1〜6及び比較例1〜6のNOx吸蔵還元型触媒に関するNOx吸蔵能を示す。
図8】例2及び比較例2のNOx吸蔵還元型触媒(Ag含有量5mol%)に関するX線回折パターンを示す。
図9】例2及び比較例2のNOx吸蔵還元型触媒(Ag含有量5mol%)に関するCOパルス吸着法によって算出されたPt−Au触媒金属の粒子径を示すグラフである。
図10】(a)本発明の方法及び(b)従来の還元析出法に従って調製したNOx吸蔵還元型触媒におけるCO吸着を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<NOx吸蔵還元型触媒>
本発明のNOx吸蔵還元型触媒は、白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材とを触媒担体に担持してなり、前記触媒金属中の金含有量が、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下であることを特徴としている。
【0014】
触媒金属として白金(Pt)を含むNOx吸蔵還元型(NSR)触媒では、リーン空燃比の間、排ガス中のNOは、PtによってNO2に酸化され、当該酸化されたNO2がバリウム(Ba)等のNOx吸蔵材中に硝酸塩、すなわちBa(NO32等として吸蔵されることが一般に知られている。しかしながら、酸素過剰のリーン雰囲気下においては、Ptの少なくとも一部、特には触媒金属粒子の表面に存在するPtは、NOに対して高い酸化活性を示すメタルの状態を維持することができずに酸化物を形成し、その結果として、排ガス中のNOを十分に吸着及び酸化することができない場合がある。このような場合には、排ガス中のNOxをNOx吸蔵材に十分に吸蔵させることができなくなるという問題が生じる。
【0015】
従来、このような問題を克服するために、例えば、比較的多い量の燃料を噴射してPtを酸化された状態からNO酸化活性を示すメタルの状態に還元し、それによって排ガス中のNOをNO2に酸化してNOx吸蔵材中に吸蔵させるという制御がなされる場合があった。しかしながら、このような制御は、燃費の大幅な悪化を招くため一般的には好ましくない。
【0016】
そこで、本発明者らは、酸素に対する親和力が比較的弱い金(Au)に着目してそれを白金(Pt)と組み合わせた触媒について検討を行った。その結果として、本発明者らは、AuをPtと原子レベルで固溶させた触媒金属であって、特定のAu含有量を有する触媒金属を合成しそしてそれを触媒担体に担持することで、Pt単独の触媒金属を触媒担体に担持したNOx吸蔵還元型触媒や、あるいは特開2001−104804号公報において開示されている方法に従って調製したNOx吸蔵還元型触媒、具体的には触媒担体に担持されたPt粒子の上にAuを積相したものと比較して、NOx吸蔵能が顕著に改善されたNOx吸蔵還元型触媒が得られることを見出した。
【0017】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明のNOx吸蔵還元型触媒では、排ガスの雰囲気が酸素過剰のリーン雰囲気下においては、例えば、以下に説明するようなメカニズムによって排ガス中のNOxがNOx吸蔵材に吸蔵されるものと考えられる。
【0018】
図1は、本発明のNOx吸蔵還元型触媒におけるリーン雰囲気下でのNOx吸蔵のメカニズムを説明する概念図である。より具体的には、図1(a)は、Pt単独の触媒金属を含む従来のNOx吸蔵還元型触媒によるNOx吸蔵挙動を示し、図1(b)は、白金と金の固溶体からなる触媒金属を含む本発明のNOx吸蔵還元型触媒によるNOx吸蔵挙動を示している。
【0019】
まず、図1(a)を参照すると、Pt単独の触媒金属を含む従来のNOx吸蔵還元型触媒は、触媒金属10とBa等のNOx吸蔵材11が触媒担体12に担持された構成を有し、触媒金属10はPt13のみから構成されている。図1(a)に示すように、従来のNOx吸蔵還元型触媒では、酸素過剰のリーン雰囲気下においては、触媒金属10中の特に表面に存在するPt13が酸素(O)と結びついて酸化物を形成しやすい。この場合には、触媒金属10によって排ガス中のNOxを十分に吸着及び酸化することができない。その結果として、排ガス中のNOxを触媒金属10の近くに存在しているNOx吸蔵材11に十分に吸蔵させることができなくなる。
【0020】
一方で、図1(b)を参照すると、本発明のNOx吸蔵還元型触媒では、触媒金属10は、Pt13とAu14が固溶した構造を有している。この場合には、酸素過剰のリーン雰囲気下においても、酸素に対する親和力が比較的弱いAu14によってそれと近接して存在しているPt13の酸化が顕著に抑制されるものと考えられる(AuによるPtの酸化抑制効果)。それゆえ、Pt13の少なくとも一部、特には大部分をNO酸化活性の高いメタルの状態に維持することが可能となる。したがって、本発明のNOx吸蔵還元型触媒によれば、酸素過剰のリーン雰囲気下においても、排ガス中のNOをPt13によってNO2に酸化してNOx吸蔵材11中に確実に吸蔵させることが可能になると考えられる。その結果として、本発明のNOx吸蔵還元型触媒によれば、Pt単独の触媒金属を含む従来のNOx吸蔵還元型触媒と比較して、顕著に改善されたNOx浄化性能を達成することが可能となる。
【0021】
[触媒金属]
本発明における触媒金属は、白金と金の固溶体からなる。
【0022】
本発明において「白金と金の固溶体」という表現は、白金と金の両元素が互いに溶け合い、全体として均一な固溶体を形成している状態(完全固溶状態)、及び白金と金の両元素が完全には固溶していないが、少なくとも部分的に固溶している状態(不完全固溶状態)を包含するものである。
【0023】
[STEM−EDXによる固溶の判断]
本発明のNOx吸蔵還元型触媒では、白金と金の固溶は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX:Scanning Transmission Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray Analysis)による触媒金属の分析結果に基づいて判断することができる。
【0024】
STEM−EDXとは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を組み合わせた分析装置であり、当該分析装置を用いることによりSTEM像の特定の箇所又は領域に対して元素分析を実施することが可能である。
【0025】
具体的には、白金と金の固溶は、例えば、触媒金属をSTEM−EDXを用いて電子線のスポット径が1nm以下の条件下で分析したときに、無作為に選択した5箇所以上の測定点のうち過半数の測定点において白金と金の両方の元素が検出されるか否かによって決定することができる。すなわち、触媒金属をSTEM−EDXを用いて電子線のスポット径が1nm以下の条件下で分析したときに、無作為に選択した5箇所以上の測定点のうち1又は2個の測定点においてしか白金と金の両方の元素が検出されないか又は5箇所の測定点の全部において白金と金のいずれか一方の元素しか検出されない場合には、白金と金は固溶していないと判断することができる。
【0026】
とりわけ、白金と金の固溶は、触媒金属をSTEM−EDXを用いて電子線のスポット径が1nm以下の条件下で分析したときに、無作為に選択した5箇所以上の測定点のうち60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上又は90%以上、最も好ましくは95%以上又は100%の測定点において白金と金の両方の元素が検出されることによって決定することもできる。このような触媒金属を使用することで、白金と金を組み合わせたことによる本発明の効果を十分に発揮させることが可能である。
【0027】
[金含有量]
本発明によれば、触媒金属中の金含有量は、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下である。
【0028】
触媒金属中の金含有量が1mol%以下である場合には、金の添加による上記の効果、例えば、金による白金の酸化抑制効果を十分に得ることができない場合がある。一方で、金含有量が20mol%超である場合には、白金と金が固溶体を形成できなくなるか又は金の一部が白金と固溶体を形成できずに白金の表面上に析出する虞がある。このような場合には、白金と金がナノレベルで近接して存在していないために金による白金の酸化抑制効果を十分に得ることができないか、あるいは白金上に析出した金によって白金の活性点が覆われるために当該白金のNO酸化活性を大きく低下させてしまう虞がある。
【0029】
本発明によれば、触媒金属中の金含有量は、該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超、特には2mol以上、3mol%以上、4mol%以上又は5mol%以上であり、かつ20mol%以下、特には17mol%以下、15mol%以下、12mol%以下又は10mol%以下であり、例えば1mol%超20mol%以下、3mol%以上17mol%以下、4mol%以上15mol%以下、又は5mol%以上10mol%以下であることが好ましい。金含有量をこれらの範囲内に制御することで、白金と金を確実に固溶させるとともに、触媒金属表面の白金の活性点数を十分に確保することが可能となる。その結果として、白金と金を組み合わせたことによる本発明の効果、例えば、金による白金の酸化抑制効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0030】
本発明において「金含有量」とは、特に断りのない限り、白金と金の固溶体からなる触媒金属を合成する際に導入される白金イオン源及び金イオン源中に含まれる白金と金の合計モル数に対する金のモル数の割合を言うものである。
【0031】
[触媒金属の平均一次粒子径]
本発明によれば、触媒金属の平均一次粒子径は0nm超20nm以下であることが好ましい。
【0032】
触媒金属の平均一次粒子径が20nmよりも大きくなると、白金と金がナノレベルで均一な固溶体を形成できなくなり、結果として、白金と金を組み合わせたことによる効果を十分に得ることができない場合がある。また、触媒金属がこのような大きな平均一次粒子径を有する場合には、当該触媒金属の表面積が小さくなって白金の活性点数が少なくなり、最終的に得られるNOx吸蔵還元型触媒について十分なNOx吸蔵能、ひいては十分なNOx浄化性能を達成することができない場合がある。したがって、本発明のNOx吸蔵還元型触媒においては、触媒金属の平均一次粒子径は、0nm超20nm以下、特には0nm超15nm以下、0nm超10nm以下、0nm超9nm以下、0nm超8nm以下、0nm超7nm以下、0nm超6nm以下、又は0nm超5nm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明において「平均一次粒子径」とは、特に断りのない限り、透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子の定方向径(Feret径)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値を言うものである。
【0034】
[触媒金属の結晶子径]
本発明によれば、触媒金属の結晶子径は0nm超10nm以下であることが好ましい。
【0035】
触媒金属の結晶子径が10nmよりも大きくなると、白金と金を組み合わせたことによる効果を十分に得ることができない場合がある。また、触媒金属がこのような大きな結晶子径を有する場合には、触媒金属の表面積が小さくなって白金の活性点数が少なくなり、最終的に得られるNOx吸蔵還元型触媒について十分なNOx浄化性能を達成することができない場合がある。したがって、本発明のNOx吸蔵還元型触媒においては、触媒金属の結晶子径は、0nm超10nm以下、特には0nm超9nm以下、0nm超8nm以下、0nm超7nm以下、0nm超6nm以下、0nm超5nm以下、0nm超4.5nm以下、又は0nm超4nm以下であることが好ましい。このような結晶子径を有する触媒金属を触媒成分として使用することで、白金と金を組み合わせたことによる効果を十分に発揮させることができる。その結果として、NOx吸蔵能、ひいてはNOx浄化性能が顕著に改善されたNOx吸蔵還元型触媒を得ることが可能である。
【0036】
本発明において「結晶子径」とは、特に断りのない限り、粉末X線回折により得られた回折ピークにおける半価幅からシェラー式を用いて算出した結晶子径のことを言うものである。
【0037】
[NOx吸蔵材]
本発明によれば、NOx吸蔵材としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般にNOx吸蔵材として知られる任意の材料を使用することができる。例えば、NOx吸蔵材としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などのアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類金属、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)などの希土類元素、及びそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0038】
[触媒担体]
本発明のNOx吸蔵還元型触媒では、上記の触媒金属及びNOx吸蔵材は、任意の適切な量において触媒担体上に担持される。特に限定されないが、例えば、触媒金属は、当該触媒金属中に含まれる白金及び/又は金の量が触媒担体に対して、一般的に、0.01wt%以上、0.1wt%以上、0.5wt%以上、1wt%以上、若しくは2wt%以上、及び/又は10wt%以下、8wt%以下、7wt%以下、若しくは5wt%以下となるような範囲において当該触媒担体上に担持することができる。同様に、NOx吸蔵材は、触媒担体に対して、一般的に0.01wt%以上20wt%以下となるような範囲において当該触媒担体上に担持することができる。
【0039】
本発明によれば、上記の触媒金属が担持される触媒担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般に触媒担体として知られる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、例えば、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、シリカ−アルミナ(SiO2−Al23)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、セリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)、チタニア(TiO2)、及びそれらの組み合わせ等を挙げることができる。酸素吸放出能(OSC能)の観点から、例えば、触媒担体は、セリア(CeO2)又はセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)等を含むことが好ましい。
【0040】
触媒担体は、追加の金属元素をさらに含むこともできる。例えば、触媒担体は、アルカリ土類金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素をさらに含むことができる。このような追加の金属元素を含むことで、例えば、触媒担体の耐熱性を顕著に向上させることが可能である。このような追加の金属元素の具体的な例としては、特に限定されないが、例えば、バリウム(Ba)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)及びそれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0041】
本発明のNOx吸蔵還元型触媒は、上記の触媒金属に加えて、他の触媒成分をさらに含んでもよい。例えば、本発明のNOx吸蔵還元型触媒は、白金(Pt)及び金(Au)以外のパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属をさらに含むことができる。これらの触媒成分をさらに含むことで、NOxの吸蔵能及び浄化性能だけでなく、COやHCの酸化活性についても顕著に改善することが可能である。
【0042】
<NOx吸蔵還元型触媒の製造方法>
本発明では、上記の触媒金属及びNOx吸蔵材を含むNOx吸蔵還元型触媒を製造することができるNOx吸蔵還元型触媒の製造方法がさらに提供される。当該製造方法は、触媒金属中の金含有量が該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%以上20mol%以下となるような量において白金イオンと金イオンを含む混合溶液に水素化ホウ素ナトリウムを添加することにより、白金イオンと金イオンを還元して白金と金の固溶体からなる触媒金属を生成する還元工程、前記還元工程において得られた触媒金属を精製する精製工程、及び精製した触媒金属とNOx吸蔵材を触媒担体に担持する担持工程を含むことを特徴としている。
【0043】
まず第一に、白金と金の固溶体を生成することは一般に非常に困難である。なぜならば、Au−Pt系二元状態図からも明らかなように、白金含有量が約15mol%以上の範囲では、一般に白金と金は固溶体を形成することができない系だからである。
【0044】
複数の金属元素を触媒担体に担持してなる触媒を製造する方法としては、例えば、各金属元素をそれらの塩を含む混合溶液を用いて触媒担体に単に含浸担持し、次いで乾燥及び焼成等を行ういわゆる含浸法が一般に公知である。しかしながら、このような従来の含浸法では、白金と金の特定の組み合わせにおいてそれらを固溶させた触媒金属を形成することはできない。また、このような方法によって得られた触媒では、白金と金がそれぞれ白金粒子及び金粒子として別々に触媒担体上に存在しているものと考えられる。したがって、従来の含浸法によって白金と金を触媒担体に担持したNOx吸蔵還元型触媒では、十分なNOx吸蔵能及びNOx浄化性能を達成することはできない。
【0045】
一方で、複数の金属元素を触媒担体に担持してなる触媒を製造する別の方法としては、各金属元素の塩を溶解した混合溶液にアンモニア水等の塩基性物質を加えて共沈させ、得られた沈殿物を熱処理するいわゆる共沈法が一般に公知である。しかしながら、このような共沈法によっても、含浸法の場合と同様に、白金と金を固溶させた触媒金属を形成することはできない。
【0046】
また、特開2001−104804号公報において教示されるような還元析出法は、金属粒子上へ別の金属を積相させるものであり、より詳しくは金属粒子、例えばPt粒子の一部の表面上に別な金属、例えばAuが相として存在することを意味するものにすぎない。したがって、当然ながら、特開2001−104804号公報において教示される還元析出法によっても白金と金を固溶させた触媒金属を形成することはできない。
【0047】
さらに、複数の金属元素を含有する粒子を製造する方法の1つとして、当該粒子を構成する各金属元素の塩を含む混合溶液にアルコール等の還元剤を添加し、必要に応じて加熱を行いながら、混合溶液中に含まれる各金属元素のイオンを同時に還元し、次いで焼成等する方法が知られている。しかしながら、たとえこのような従来公知の方法を白金と金の特定の組み合わせに対して適用したとしても、白金と金がナノレベルで共存した触媒金属を製造することはできない。また、たとえこのような方法によって白金と金を含む触媒を製造したとしても、これらの成分がナノレベルで共存していなければ、白金と金を組み合わせたことによる特有の効果、すなわち金による白金の酸化抑制効果を得ることもできない。
【0048】
本発明者らは、従来の含浸法、共沈法、さらには上記の還元析出法及びアルコール還元を用いた方法とは異なり、白金イオンと金イオンを特定の量において含み、特には白金イオンと金イオンを触媒金属中の金含有量が1mol%超20mol%以下となるような量において含む混合溶液に、還元剤としてアルコールではなく、水素化ホウ素ナトリウムを単に添加することにより、加熱操作等を何ら必要とすることなしに白金と金の固溶体からなる触媒金属を生成できることを見出した。さらに、本発明者らは、生成した白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材を従来公知の方法によって触媒担体に担持することで、リーン雰囲気下におけるNOx吸蔵能が顕著に改善されたNOx吸蔵還元型触媒を得ることができることをさらに見出した。
【0049】
[還元工程]
図2は、本発明における触媒金属の製造プロセスを模式的に示した図である。なお、理解を容易にするため、アルコール系還元剤を用いた従来の方法についても図2に併せて示している。
【0050】
図2を参照すると、例えば、まず、白金イオン源と金イオン源が1つ又は複数の溶媒中に溶解され、Pt2+イオン21とAu3+イオン22、さらには後で説明するポリビニルピロリドン(PVP)等の任意選択の保護剤23を含む混合溶液が調製される。そして、Pt2+イオン21及びAu3+イオン22と任意選択の保護剤23によって錯体24が形成される。
【0051】
次いで、従来の方法では、図2の上段に示すとおり、還元剤としてエタノール等のアルコールが添加され、必要に応じて加熱等を行いながら、混合溶液中に含まれるPt2+イオン21とAu3+イオン22が還元される。しかしながら、アルコール等の比較的弱い還元剤を用いた場合には、Pt2+イオン21に比べて還元されやすいAu3+イオン22が優先的に還元されて粒成長し、その結果としてPtとAuの相が分離してAu粒子25とPt粒子26がそれぞれ生成してしまうと考えられる。
【0052】
これに対し、図2の下段に示す本発明の方法では、還元剤としてアルコールではなく水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が添加され、必要に応じて攪拌等を行いながら、混合溶液中に含まれるPt2+イオン21とAu3+イオン22が還元される。その後、後で説明する精製処理を実施して混合溶液中に残留する水素化ホウ素ナトリウムが除去される。何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、水素化ホウ素ナトリウムはその還元力がアルコール系還元剤に比べて非常に強いために、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用することで、アルコール系還元剤を使用した場合のようにPt2+イオン21に対してAu3+イオン22が優先的に還元されるということなく、混合溶液中に溶解しているPt2+イオン21とAu3+イオン22の両イオンを同時に還元することができると考えられる。その結果として、本発明の方法によれば、PtとAuがナノレベルで固溶した触媒金属10を得ることができるものと考えられる。
【0053】
[白金イオン源及び金イオン源]
白金イオン源及び金イオン源としては、特に限定されないが、例えば、それらの金属を含む錯体、又はそれらの金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。本発明の方法では、所定量の白金イオン源及び金イオン源が1つ又は複数の溶媒中に溶解されて、白金イオン及び金イオンを含む混合溶液が調製される。
【0054】
[溶媒及び混合溶液]
白金イオン及び金イオンを含む混合溶液において用いられる溶媒としては、白金イオン源及び金イオン源を溶解して白金イオン及び金イオンを含む混合溶液を調製することができる任意の溶媒、例えば、水などの水性溶媒やアルコールなどの有機溶媒等を使用することができる。
【0055】
本発明の方法によれば、上記の混合溶液は、触媒金属中の所望の金含有量に対応した量において上記の溶媒中に白金イオン及び金イオンを含有する。具体的には、当該混合溶液は、触媒金属中の金含有量が当該触媒金属中に含まれる白金と金の合計モル数に対して1mol%超20mol%以下、3mol%以上17mol%以下、4mol%以上15mol%以下、又は5mol%以上10mol%以下となるような量において白金イオン及び金イオンを含有することができる。
【0056】
[還元剤(水素化ホウ素ナトリウム)]
本発明の方法によれば、上記のとおり、白金イオン及び金イオンを含む混合溶液に還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が添加される。なお、当該水素化ホウ素ナトリウムは、混合溶液中に溶解している白金イオンと金イオンを還元して白金と金の固溶体からなる触媒金属を形成するのに十分な量において添加すればよい。
【0057】
従来のアルコール系還元剤を使用した方法では、混合溶液中に含まれる各金属のイオンを当該アルコール系還元剤によって還元する際、加熱等の操作を行うことが一般的に必要とされる。しかしながら、本発明の方法によれば、白金イオンと金イオンを含む混合溶液に水素化ホウ素ナトリウムを単に添加しそして混合することで、このような加熱操作を特に必要とすることなく、混合溶液中に含まれる白金イオンと金イオンを室温下で同時に還元して、白金と金がナノレベルで少なくとも部分的に、特には完全に固溶した触媒金属を生成することが可能である。
【0058】
例えば、本発明の方法では、アルコール系還元剤と比較して強い還元力を有する他の還元剤を水素化ホウ素ナトリウムに代えて使用することも可能である。このような還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウムと同じホウ素系還元剤、特にはアンモニアボラン(NH3BH3)や、あるいはヒドラジン(N24)等を挙げることができる。
【0059】
[保護剤]
本発明の方法では、当該方法の還元工程において生成する触媒金属の表面に配位又は吸着して触媒金属同士の凝集や粒成長を抑制しかつ安定化させる目的で、白金イオン及び金イオン含む混合溶液に保護剤を任意選択で添加してもよい。このような保護剤としては、特に限定されないが、配位性の物質でありかつ白金及び金のいずれにも配位能を有する物質であることが好ましい。本発明の方法で用いることのできる保護剤としては、例えば、親水性高分子等の高分子化合物や両親媒性分子が挙げられる。
【0060】
親水性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)等の水酸基含有化合物、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと略す)等の環状アミド含有化合物、環状イミド含有化合物、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、ポリ(アクリル酸カリウム)、ポリアクリル酸部分水和物架橋体、アクリル酸・イタコン酸アミド共重合体等のカルボキシル基含有化合物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物等のカルボン酸エステル化合物、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリアクリルアミド部分加水分解物のアミド基含有化合物、アクリロニトリル共重合体等のニトリル基含有化合物、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン、ポリアミン、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン、ポリアミノ酸、ポリリン酸、ヘテロポリ酸等の水溶性若しくは親水性の高分子及びこれらの共重合体、又はシクロデキストリン、アミノペクチン、メチルセルロース、ゼラチンなどの天然物等が挙げられる。これらの中でも、PVPを用いることが好ましい。
【0061】
両親媒性分子としては、溶質分子が親水性基と親油基とを有すればよく、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸アルカリ塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のアルキルスルホン酸塩、エチルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミドの高級アミンハロゲン酸塩、ヨウ化メチルピリジニウム等のハロゲン化アルキルピリジニウム、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム等のテトラアンモニウム塩等の陽イオン活性剤、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン活性剤、アミノ酸等の両性表面活性剤等が挙げられる。上記の保護剤を本発明の方法においてロジウム塩、イリジウム塩、溶媒、及び還元剤を含む混合溶液に添加することで、得られる二元金属粒子の大きさをより確実にナノメートルサイズに制御することが可能である。
【0062】
[精製工程]
上記の還元工程において生成された触媒金属を含む溶液中には還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムが残留している。この水素化ホウ素ナトリウムは、その後の担持工程における熱処理によっては必ずしも十分に分解除去することができない。したがって、水素化ホウ素ナトリウムを用いて白金イオンと金イオンを同時還元した後、これを多量のアセトン等を用いて精製処理することが好ましい。これにより残留する水素化ホウ素ナトリウムをアセトン相に抽出することができるので、得られた触媒金属を容易に精製することが可能である。なお、精製工程において使用される溶媒としては、アセトン以外にも、触媒金属に対する溶解度が小さい任意の貧溶媒を使用することが可能である。
【0063】
[担持工程]
本発明の方法によれば、上記の還元工程において生成された白金と金の固溶体からなる触媒金属とNOx吸蔵材が、次の担持工程において従来公知の方法によって触媒担体に担持される。当該担持工程において導入される触媒担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、先に述べたとおり、例えば、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、シリカ−アルミナ(SiO2−Al23)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、セリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)、チタニア(TiO2)、及びそれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0064】
例えば、担持工程においては、まず、先の還元工程で合成した白金と金の固溶体からなる触媒金属を含む溶液を、所定量の溶液に分散させた金属酸化物(触媒担体)の粉末に、白金及び/又は金の量(金属換算担持量)が当該触媒担体に対して一般的に0.01〜10wt%の範囲になるような量において添加する。次いで、これを所定の温度及び時間、特には不純物や任意選択の保護剤等を分解除去しかつ触媒金属を触媒担体上に担持するのに十分な温度及び時間において乾燥及び焼成することにより、触媒金属を触媒担体に担持することができる。一般的には、上記の乾燥は、減圧下又は常圧下において約80℃〜約250℃の温度で約1時間〜約24時間にわたって実施することができ、一方で、上記の焼成は、酸化性雰囲気中、例えば空気中において約300℃〜約800℃の温度で約30分間〜約10時間にわたって実施することができる。
【0065】
次に、触媒金属が担持された触媒担体にさらにNOx吸蔵材が担持される。具体的には、まず、NOx吸蔵材を構成する金属の塩、例えば、酢酸塩又は硝酸塩等を所定の濃度で含有する溶液を用いて公知の含浸法等によりNOx吸蔵材を触媒担体に担持することができる。最後に、触媒金属及びNOx吸蔵材が担持された触媒担体を所定の温度及び時間にわたって乾燥及び焼成することにより、本発明のNOx吸蔵還元型触媒を得ることができる。特に限定されないが、例えば、上記の乾燥はマイクロ波等を使用して行ってもよい。マイクロ波を使用して乾燥することにより、NOx吸蔵材を触媒担体上にむらなく均一に担持することが可能である。
【0066】
上記のようにして得られた本発明のNOx吸蔵還元型触媒は、必要に応じて、例えば、高圧下でプレスしてペレット状に成形するか、又は所定のバインダ等を加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布することにより使用することができる。なお、後者の場合には、例えば、NOx吸蔵材は、触媒金属が担持された触媒担体の粉末を上記の触媒基材上にウォッシュコートした後、得られた触媒層上に含浸担持してもよい。
【0067】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
[例1(参考例)]
[Au含有量1mol%のPt−Au触媒金属の合成]
まず、適切なサイズの攪拌子を入れた1Lのセパラブルフラスコに保護剤としてのポリビニルピロリドン(PVP K−25)を3.448g導入し、それを蒸留水300mLを加えて攪拌しながら溶解させた(溶液1)。次に、白金イオン源としての塩化白金酸薬液(H2PtCl4、濃度33.02wt%)1.818gと、金イオン源としての塩化金酸薬液(HAuCl4、濃度29.988wt%)0.0204gとを200mLのビーカーに入れて混合した(溶液2)。次いで、この溶液2を上記溶液1に加えた後、蒸留水50mLで共洗いした。得られた混合溶液を当該混合溶液中の酸素を追い出して白金と金が還元されやすい条件にするために窒素でバブリングしながら室温で攪拌した。次いで、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)0.470gを蒸留水50mLで希釈し、これを上記セパラブルフラスコ中の混合溶液に添加した。添加後、すぐに混合溶液の色が黒くなり、その後、当該混合溶液をさらに30分程度攪拌した。
【0069】
次に、5Lのビーカーにアセトン約4Lを入れ、これに上で得られた溶液を一気に投入した。次いで、この混合溶液を遠心分離機(3000rpm)で5分間処理することにより金属粒子成分(沈殿物)を抽出した。次いで、上澄み溶液を廃棄して、残留する水素化ホウ素ナトリウム等を除去した。最後に、得られた沈殿物に約300mLのエタノールを加え、Au含有量が1mol%のPt−Au触媒金属を含む溶液を得た。
【0070】
[Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量1mol%)の調製]
次に、上で得られたPt−Au触媒金属(Au含有量1mol%)を含む溶液をセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)担体にPtの担持量が当該セリア−ジルコニア担体に対して1wt%となるような量において導入し、次いで蒸発乾固させた。次に、乾燥炉で12時間乾燥した後、これを乳鉢に入れて乳棒ですり潰し、得られた粉末を焼成炉において空気中500℃で2時間焼成した。
【0071】
次に、焼成炉から試料を取り出し、乳鉢に入れて乳棒ですり潰し、得られた粉末を攪拌子を入れた1000mLのビーカーに投入した。次に、攪拌子を入れた100mLの別のビーカーに酢酸バリウム((CH3COO)2Ba)6.14gを投入し、次いで酢酸バリウムが溶けきるまでイオン交換水を徐々に加えた。5分程度攪拌した後、これを先の1000mLのビーカー中に加えて攪拌した。しばらく攪拌した後、マイクロ波を用いて室温で乾燥させた(1.5kW×30分)。乾燥が終了した後、得られた粉末を坩堝に入れ、当該坩堝を焼成炉にセットし、500℃で30分間焼成することにより、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量1mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0072】
[例2]
[Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量5mol%)の調製]
塩化白金酸薬液及び酢酸バリウムの添加量は変更せずに、金含有量が5mol%となるような量において塩化金酸薬液を加え、それに応じてポリビニルピロリドン及び水素化ホウ素ナトリウムの量を適切に変更したこと以外は例1と同様にして、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量5mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0073】
[例3]
[Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量10mol%)の調製]
塩化白金酸薬液及び酢酸バリウムの添加量は変更せずに、金含有量が10mol%となるような量において塩化金酸薬液を加え、それに応じてポリビニルピロリドン及び水素化ホウ素ナトリウムの量を適切に変更したこと以外は例1と同様にして、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量10mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0074】
[例4]
[Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量20mol%)の調製]
塩化白金酸薬液及び酢酸バリウムの添加量は変更せずに、金含有量が20mol%となるような量において塩化金酸薬液を加え、それに応じてポリビニルピロリドン及び水素化ホウ素ナトリウムの量を適切に変更したこと以外は例1と同様にして、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量20mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0075】
[例5(参考例)]
[Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量30mol%)の調製]
塩化白金酸薬液及び酢酸バリウムの添加量は変更せずに、金含有量が30mol%となるような量において塩化金酸薬液を加え、それに応じてポリビニルピロリドン及び水素化ホウ素ナトリウムの量を適切に変更したこと以外は例1と同様にして、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量30mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0076】
[例6(参考例)]
[Pt,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量0mol%)の調製]
塩化金酸薬液を加えず、それに応じてポリビニルピロリドン及び水素化ホウ素ナトリウムの量を適切に変更したこと以外は例1と同様にして、Pt,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量0mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0077】
[比較例1]
[還元析出法を利用したPt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量1mol%)の調製]
特開2001−104804号公報において開示されている還元析出法を利用して、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量1mol%)を調製した。具体的には、まず、Pt(NO22(NH32を9.98×10-2wt%溶解した水溶液に、CeO2−ZrO2粉末を添加し、3時間攪拌した後、大気中で120℃×24時間の乾燥を行った。乾燥の後、大気中で300℃×2時間の熱処理を行い、1wt%Pt担持粉末を得た。この粉末を分散させた60℃のイオン交換水に所定量のHAuCl4・4H2O、還元剤としてNa223・5H2O(9.40×10-2wt%)、Na223(2.41×10-1wt%)、C67NaO6(9.45×10-1wt%)を添加し、24時間攪拌しながらAuを還元析出させた。この還元析出の後、ろ過し、60℃のイオン交換水で洗浄を行った。洗浄した粉末を大気中で120℃×2時間の乾燥を行った。乾燥の後、大気中で500℃×2時間の熱処理を行った。
【0078】
次に、焼成後の試料を乳鉢に入れて乳棒ですり潰し、得られた粉末を攪拌子を入れた1000mLのビーカーに投入した。次に、攪拌子を入れた100mLの別のビーカーに所定量の酢酸バリウム((CH3COO)2Ba)を投入し、次いで酢酸バリウムが溶けきるまでイオン交換水を徐々に加えた。5分程度攪拌した後、これを先の1000mLのビーカー中に加えて攪拌した。しばらく攪拌した後、マイクロ波を用いて室温で乾燥させた(1.5kW×30分)。乾燥が終了した後、得られた粉末を坩堝に入れ、当該坩堝を焼成炉にセットし、500℃で30分間焼成することにより、Pt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量1mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0079】
[比較例2〜5]
[還元析出法を利用したPt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量5、10、20及び30mol%)の調製]
HAuCl4・4H2Oの量を変更したこと以外は比較例1と同様にして、Au含有量がそれぞれ5、10、20及び30mol%である比較例2〜5のPt−Au,Ba/CeO2−ZrO2(Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を得た。
【0080】
[比較例6]
[Pt,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量0mol%)の調製]
比較例1においてAuの還元析出を行わずに、1wt%Pt担持粉末に単にBaを担持することにより、Pt,Ba/CeO2−ZrO2(Au含有量0mol%、Pt担持量1wt%及びBa担持量11wt%)のNOx吸蔵還元型触媒を調製した。
【0081】
[STEM−EDXによる触媒の分析]
例1〜3及び6のNOx吸蔵還元型触媒について、エネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX)(日立製HD−2000、加速電圧:200kV)によってそれらの測定を行った。その結果を図3〜6に示す。図3〜6は、それぞれ例1〜3及び6のNOx吸蔵還元型触媒のSTEM−EDXによる分析結果を示している。より詳しくは、図3〜6は、(a)が例1〜3及び6のNOx吸蔵還元型触媒のSTEM−EDXによる写真を示し、(b)が(a)中の測定点1〜5(電子線のスポット径が1nm以下の条件下で分析したもの)におけるPtとAuの組成比(mol%)を示している。
【0082】
図3〜6を参照すると、例1〜3及び6のすべてのNOx吸蔵還元型触媒において約10nm以下、特には約5nm以下の粒径を有する一次粒子が多く形成されていることを確認することができる。図3〜6(a)の測定点1〜5における一次粒子の平均粒径は、それぞれ3.07nm(図3)、3.09nm(図4)、3.77nm(図5)及び3.56nm(図6)であった。
【0083】
次に、EDXによる組成分析について説明すると、Auを含まないPtのみからなる触媒金属を触媒担体に担持した例6のNOx吸蔵還元型触媒では、当然ながら図6(a)中の全ての測定点においてPtが100mol%であった(図6(b)を参照)。一方で、Au含有量が1mol%の例1のNOx吸蔵還元型触媒では、Au含有量が非常に小さいにもかかわらず、図3(a)中の測定点1〜5のうち過半数の3つの測定点においてPtとAuの両方の元素が検出された。
【0084】
さらに、Au含有量がそれぞれ5及び10mol%の例2及び3のNOx吸蔵還元型触媒では、図4(b)及び図5(b)の結果から明らかなように、図4(a)及び図5(a)中の測定点1〜5のうち全ての測定点においてPtとAuの両方の元素が検出され、すなわち同一粒子内にPtとAuの両方の元素が共存していることを確認した。これらの結果は、本発明のNOx吸蔵還元型触媒において白金と金が原子レベルで均一な固溶体を形成していることを裏付けるものである。また、図3(b)〜図5(b)を参照すると、例1〜3のNOx吸蔵還元型触媒において、PtとAuの組成比に多少のばらつきは見られたものの、各測定点のAu含有量は仕込みのAu含有量とよく一致していた。
【0085】
[NOx吸蔵能の評価]
次に、例1〜6及び比較例1〜6のNOx吸蔵還元型触媒についてそれらのNOx吸蔵能を評価した。各NOx吸蔵還元型触媒を冷間静水等方圧プレス(CIP)により1トンの圧力で加圧成型し、次いで粉砕しながらふるいにかけてペレット触媒を得た。次いで、このペレット触媒3gを流通式反応炉に入れ、窒素流通下30℃/分の昇温速度で500℃まで加熱して、この温度において水素1%(窒素バランス)のガス中で5分間保持した後、窒素流通下300℃まで降温した。次に、下表1に示す評価用モデルガスを使用し、リーンモデルガス(60秒)とリッチモデルガス(8秒)を交互に切り替えながら20L/分の流量で触媒床に流してそれを5サイクル繰り返し、2〜4サイクルのNOx吸蔵量の平均値を算出した。その結果を図7に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
図7は、例1〜6及び比較例1〜6のNOx吸蔵還元型触媒に関するNOx吸蔵能を示す。図7は、横軸にAu含有量(mol%)を示し、縦軸にNOx吸蔵量(mg−NO2/g−cat・s)を示している。
【0088】
図7を参照すると、Auを含まないPtのみからなる触媒金属を触媒担体に担持した例6及び比較例6の両触媒において、ほぼ同等のNOx吸蔵能を示していることがわかる(図中の点線)。そして、特開2001−104804号公報において開示されている還元析出法を利用して調製した比較例1〜5のNOx吸蔵還元型触媒では、Au含有量が1mol%でNOx吸蔵能がわずかに増加したが、さらにAg含有量を増やすにつれて、NOx吸蔵能が低下する傾向が見られた。
【0089】
一方で、本発明の方法に従って調製した例1〜5のNOx吸蔵還元型触媒では、Au含有量が1mol%では、Auを含まない例6のNOx吸蔵還元型触媒と同程度のNOx吸蔵能しか示さなかったものの、さらにAg含有量を増やすことで、NOx吸蔵能が大きく向上し、Au含有量が1mol%超20mol%以下の範囲において例6のNOx吸蔵還元型触媒よりも高いNOx吸蔵能を達成することができた。
【0090】
[X線回折(XRD)による触媒の分析]
次に、Ag含有量が5mol%の例2及び比較例2のNOx吸蔵還元型触媒について、X線回折(XRD)(X線源:CuKα)によってそれらの分析を行った。その結果を図8に示す。図8には、各触媒に関するPt−Au触媒金属の結晶子径についても併せて示している。これらの値は、各触媒に関する2θ=39.8°付近の回折ピークからシェラー式によって算出したものである。図8を参照すると、本発明の方法に従って調製した例2のNOx吸蔵還元型触媒では、Pt−Au触媒金属の結晶子径が3.7nmであったのに対し、特開2001−104804号公報において開示されている還元析出法を利用して調製した比較例2のNOx吸蔵還元型触媒では、Pt−Au触媒金属の結晶子径が3.8nmであり、ほぼ同等の値を示すことがわかる。
【0091】
[COパルス吸着法による触媒の分析]
次に、Ag含有量が5mol%の例2及び比較例2のNOx吸蔵還元型触媒について、COパルス吸着法を用いてCO吸着量を測定し、それによってPt−Au触媒金属の粒子径を算出した。その結果を図9に示す。図9を参照すると、例2のNOx吸蔵還元型触媒では、Pt−Au触媒金属の粒子径が3.8nmであり、図8におけるPt−Au触媒金属の結晶子径とほぼ同等の値を示した。一方で、比較例2のNOx吸蔵還元型触媒では、Pt−Au触媒金属の粒子径が8.2nmであり、図8におけるPt−Au触媒金属の結晶子径と比較して非常に大きな値を示した。
【0092】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、図8及び図9における結果は、例2及び比較例2のNOx吸蔵還元型触媒におけるPt−Au触媒金属の構造に起因するものと考えられる。図10は、それぞれ(a)本発明の方法及び(b)従来の還元析出法に従って調製したNOx吸蔵還元型触媒におけるCO吸着を説明する概念図である。
【0093】
図10(a)について説明すると、本発明の方法に従って調製したNOx吸蔵還元型触媒では、PtとAuが均一に固溶しているために、触媒金属の表面に存在するAuが少ないと考えられる。すなわち、AuがPtの結晶骨格内に入ってPtの酸化を抑制しつつも、表面にAuが析出してPtの活性点を覆うことがないと考えられる。このため、図10(a)に示すように、COパルス吸着法による測定においてPtへのCO吸着がAuによって阻害されることが比較的少ないか又は全くなく、それゆえXRDによる結晶子径の値とほぼ同等の測定結果を示したと考えられる。
【0094】
一方で、図10(b)について説明すると、従来の還元析出法に従って調製したNOx吸蔵還元型触媒では、PtとAuが固溶することなくPt粒子の上にAuが積相されるために、触媒金属の表面に多くのAuが存在するものと考えられる。この場合には、Ptの活性点がAuによって被覆されるために、図10(b)に示すように、COパルス吸着法による測定でPtへのCO吸着がAuによって阻害され、その結果として、実際の粒子径よりもCOパルス吸着法による粒子径が大きく算出されたものと考えられる。
【符号の説明】
【0095】
10 触媒金属
11 NOx吸蔵材
12 触媒担体
13 Pt
14 Au
図1
図2
図7
図8
図9
図10
図3
図4
図5
図6