(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化物イオン伝導性を有する第1固体電解質体と同第1固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第1電極及び第2電極とを含む第1電気化学セルと、酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質体と同第2固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第3電極及び第4電極とを含む第2電気化学セルと、緻密体と、拡散抵抗部と、を備え、前記第1固体電解質体と前記第2固体電解質体と前記緻密体と前記拡散抵抗部とにより画定される内部空間に前記拡散抵抗部を介して被検ガスとしての内燃機関の排気が導入され、前記第1電極が前記内部空間に露呈し且つ前記第2電極が前記内部空間とは異なる空間である第1別空間に露呈し、前記第1電極よりも前記拡散抵抗部に近い位置において前記第3電極が前記内部空間に露呈し且つ前記第4電極が前記内部空間とは異なる空間である第2別空間に露呈するように構成された素子部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する第1電圧印加部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流に対応する第1検出値を取得する第1取得部と、
前記第3電極と前記第4電極との間に電圧を印加する第2電圧印加部と、
を有するガス濃度検出装置において、
前記第1電極は、前記第1電極と前記第2電極との間に第1所定電圧以上の電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる水(H2O)及び硫黄酸化物(SOx)を分解させることが可能となるように構成され、
前記第3電極は、前記第3電極と前記第4電極との間に第2所定電圧以上の電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる酸素(O2)及び窒素酸化物(NOx)を分解させることが可能となるように構成され、
前記第2電圧印加部は、前記第2所定電圧以上の電圧であって、前記第3電極において窒素酸化物の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の第1除去用電圧を前記第3電極と前記第4電極との間に印加するように構成され、
前記第1電圧印加部は、前記第1所定電圧以上の電圧であって、前記第1電極において水の分解が開始する電圧以上の所定の測定用電圧を前記第1電極と前記第2電極との間に印加するように構成され、
前記第1取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される前記第1検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出するように構成された、
ガス濃度検出装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関を制御するために、排気中に含まれる酸素(O
2)の濃度に基づいて燃焼室内の混合気の空燃比(A/F)を取得する空燃比センサ(A/Fセンサ)が広く使用されている。このような空燃比センサの1つのタイプとして、限界電流式ガスセンサを挙げることができる。
【0003】
上記のような空燃比センサとして使用される限界電流式ガスセンサは、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質体と、固体電解質体の表面に固着された一対の電極と、を含む電気化学セルであるポンピングセルを備える。一対の電極の一方は、拡散抵抗部を介して導入される被検ガスとしての内燃機関の排気に曝され、他方は大気に曝されている。上記一方の電極を陰極とし、上記他方の電極を陽極として、これらの一対の電極の間に酸素の分解が始まる電圧(分解開始電圧)以上の電圧を印加すると、被検ガス中に含まれる酸素が還元分解されて酸化物イオン(O
2−)となる。この酸化物イオンは上記固体電解質体を介して陽極へと伝導されて酸素となり、大気中へと排出される。このような陰極側から陽極側への固体電解質体を介する酸化物イオンの伝導による酸素の移動は「酸素ポンピング作用」と称される。
【0004】
上記酸素ポンピング作用に伴う酸化物イオンの伝導により、上記一対の電極の間に電流が流れる。このように一対の電極間に流れる電流は「電極電流」と称される。この電極電流は一対の電極間に印加される電圧(以降、単に「印加電圧」と称される場合がある。)が上昇するほど大きくなる傾向を有する。しかしながら、上記一方の電極(陰極)に到達する被検ガスの流量が拡散抵抗部によって制限されるので、やがて酸素ポンピング作用に伴う酸素の消費速度が陰極への酸素の供給速度を超えるようになる。即ち、陰極における酸素の還元分解反応が拡散律速状態となる。
【0005】
上記拡散律速状態においては、印加電圧を上昇させても電極電流が増大せず、略一定となる。このような特性は「限界電流特性」と称され、限界電流特性が発現する(観測される)印加電圧の範囲は「限界電流域」と称される。更に、限界電流域における電極電流は「限界電流」と称され、限界電流の大きさ(限界電流値)は陰極への酸素の供給速度に対応する。上記のように陰極に到達する被検ガスの流量が拡散抵抗部によって一定に維持されているので、陰極への酸素の供給速度は被検ガス中に含まれる酸素の濃度に対応する。
【0006】
従って、空燃比センサとして使用される限界電流式ガスセンサにおいて「限界電流域内の所定の電圧」に印加電圧を設定したときの電極電流(限界電流)は被検ガス中に含まれる酸素の濃度に対応する。このように酸素の限界電流特性を利用して、空燃比センサは被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出し、それに基づいて燃焼室内の混合気の空燃比を取得することができる。
【0007】
尚、上記のような限界電流特性は酸素ガスのみに限定される特性ではない。具体的には、分子中に酸素原子を含むガス(以降、「含酸素ガス」と称される場合がある。)の中には、印加電圧及び陰極の構成を適切に選択することにより限界電流特性を発現させることができるものがある。このような含酸素ガスの例としては、例えば、硫黄酸化物(SOx)、水(H
2O)及び二酸化炭素(CO
2)等を挙げることができる。
【0008】
ところで、内燃機関の燃料(例えば、軽油及びガソリン等)には微量の硫黄(S)成分が含まれる。特に、粗悪燃料とも称される燃料は、比較的高い含有率にて硫黄成分を含有している場合がある。燃料中の硫黄成分の含有率(以降、単に「硫黄含有率」と称される場合がある。)が高いと、内燃機関の構成部材の劣化及び/又は故障、排気浄化触媒の被毒、排気における白煙の発生等の問題が発生する虞が高まる。そのため、燃料中の硫黄成分の含有率を取得し、取得された硫黄含有率を、例えば、内燃機関の制御に反映させたり、内燃機関の故障に関する警告を発したり、排気浄化触媒の自己故障診断(OBD)の改善に役立てたりすることが望まれる。
【0009】
内燃機関の燃料が硫黄成分を含有していると、燃焼室から排出される排気中に硫黄酸化物が含まれる。更に、燃料中の硫黄成分の含有率(硫黄含有率)が高くなるほど、排気中に含まれる硫黄酸化物の濃度(以降、単に「SOx濃度」と称される場合がある。)も高くなる。従って、排気中のSOx濃度を正確に取得することができれば、取得されたSOx濃度に基づいて硫黄含有率を正確に取得することができると考えられる。
【0010】
そこで、当該技術分野においては、上述した酸素ポンピング作用を利用する限界電流式ガスセンサによって内燃機関の排気中に含まれる硫黄酸化物の濃度を取得する試みがなされている。具体的には、被検ガスとしての内燃機関の排気が拡散抵抗部を介して導かれる内部空間に陰極が面するように直列に配置された2つのポンピングセルを備える限界電流式ガスセンサ(2セル式の限界電流式ガスセンサ)が使用される。
【0011】
このセンサにおいては、上流側のポンピングセルの電極間に相対的に低い電圧を印加することにより、上流側のポンピングセルの酸素ポンピング作用によって被検ガス中に含まれる酸素を除去する。更に、下流側のポンピングセルの電極間に相対的に高い電圧を印加することにより、下流側のポンピングセルによって被検ガス中に含まれる硫黄酸化物を陰極において還元分解させ、その結果として生ずる酸化物イオンを陽極へと伝導する。この酸素ポンピング作用に起因する電極電流値の変化に基づいて、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度が取得される(例えば、特許文献1を参照。)。
【発明の概要】
【0013】
上述したように、当該技術分野においては、酸素ポンピング作用を利用する限界電流式ガスセンサによって、内燃機関の排気中に含まれる硫黄酸化物の濃度を取得する試みがなされている。しかしながら、排気中に含まれる硫黄酸化物の濃度は極めて低く、硫黄酸化物の分解に起因する電流(分解電流)も極めて小さい。更に、硫黄酸化物以外の含酸素ガス(例えば、水及び二酸化炭素等)に起因する分解電流も電極間に流れ得る。そのため、硫黄酸化物に起因する分解電流のみを精度良く区別して検出することは困難である。
【0014】
そこで、本発明は、限界電流式ガスセンサを使用して被検ガスとしての排気中に含まれる硫黄酸化物の濃度をできるだけ精度良く取得することができるガス濃度検出装置を提供することを1つの目的とする。
【0015】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を続けてきた。その結果、酸素ポンピング作用を有する電気化学セル(ポンピングセル)において所定の印加電圧にて水及び硫黄酸化物を分解させるときの電極電流が被検ガスとしての内燃機関の排気中の硫黄酸化物の濃度に応じて変化することを見出した。
【0016】
より具体的には、2セル式の限界電流式ガスセンサにおいて、上流側のポンピングセルの電極間に相対的に低い電圧を印加することにより、上流側のポンピングセルの酸素ポンピング作用によって被検ガス中に含まれる酸素を除去する。更に、下流側のポンピングセルの電極間に相対的に高い電圧を印加することにより、下流側のポンピングセルによって被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物を分解させる。このときの下流側のポンピングセルの電極電流は、水に起因する分解電流及び硫黄酸化物に起因する分解電流を含む。
【0017】
一般に、内燃機関の排気における水の濃度は硫黄酸化物の濃度よりも高いので、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物のみに起因する分解電流よりも上記電極電流は大きく、容易に且つ精度良く検出することができる。本発明者は、この電極電流の大きさが被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化することを見出したのである。しかも、上記構成によれば、上流側のポンピングセルによって被検ガス中に含まれる酸素は除去されているので、下流側のポンピングセルの電極電流は、酸素に起因する分解電流は含まない。従って、本発明者は、この電極電流に対応する検出値を取得し、この検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く取得することができるとの考えに到った。
【0018】
ところが、内燃機関の排気中には、窒素酸化物(NOx)が含まれる場合があり、その濃度(以降、単に「NOx濃度」と称される場合がある。)は、内燃機関の燃焼室において燃焼される混合気の空燃比及び燃焼状態によって変化する。この窒素酸化物もまた、下流側のポンピングセルによって分解され、窒素酸化物に起因する分解電流を生ずる。従って、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く取得するためには、上流側のポンピングセルによって被検ガス中に含まれる窒素酸化物を除去することが望ましい。
【0019】
上記のような点に鑑み、本発明に係るガス濃度検出装置(以降、「本発明装置」と称される場合がある。)は、酸素ポンピング作用を有する2つの電気化学セルを備える2セル式の限界電流式ガスセンサと同様の構成を有する。即ち、本発明装置は、上流側のポンピングセル(第2電気化学セル)及び下流側のポンピングセル(第1電気化学セル)を備える素子部と、第1電圧印加部と、第2電圧印加部と、第1取得部と、を有する。
【0020】
具体的には、素子部は、第1電気化学セルと、第2電気化学セルと、緻密体と、拡散抵抗部と、を備える。第1電気化学セルは、酸化物イオン伝導性を有する第1固体電解質体と同第1固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第1電極及び第2電極とを含む。第2電気化学セルは、酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質体と同第2固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第3電極及び第4電極とを含む。尚、第1固体電解質体と第2固体電解質体とは別個の固体電解質体(例えば、薄板体)であってもよい。或いは、第1電気化学セルと第2電気化学セルとが1つの固体電解質体(例えば、薄板体)を共有していてもよい。
【0021】
更に、素子部は、前記第1固体電解質体と前記第2固体電解質体と前記緻密体と前記拡散抵抗部とにより画定される内部空間に前記拡散抵抗部を介して被検ガスとしての内燃機関の排気が導入されるように構成される。加えて、素子部は、前記第1電極及び前記第3電極が前記内部空間に露呈し、前記第2電極が前記内部空間とは異なる空間である第1別空間に露呈し、且つ前記第4電極が前記内部空間とは異なる空間である第2別空間に露呈するように構成される。この内部空間において、前記第3電極は前記第1電極よりも上流側(前記拡散抵抗部に近い側)の位置に形成される。即ち、第2電気化学セルは第1電気化学セルよりも上流側に形成される。
【0022】
第1電圧印加部は、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する。第2電圧印加部は、前記第3電極と前記第4電極との間に電圧を印加する。第1取得部は、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流に対応する第1検出値を取得する。第1及び第2電圧印加部は、例えば電源(例えば、バッテリ等)から供給される電力を制御して所定の電圧をそれぞれ第1電極と第2電極との間及び第3電極と第4電極との間に印加する内燃機関の電子制御装置(ECU)であってもよい。更に、第1取得部は、例えば第1電極と第2電極との間に流れる電流に対応する第1検出値(例えば、電流値、電圧値及び抵抗値等)を検出する検出手段(例えば、センサ等)から送出される信号を受け取るECUであってもよい。
【0023】
本発明装置において、前記第1電極は、前記第1電極と前記第2電極との間に第1所定電圧以上の電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる水(H
2O)及び硫黄酸化物(SOx)を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において水及び硫黄酸化物を分解させることが可能な第1電極は、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。
【0024】
前記第3電極は、前記第3電極と前記第4電極との間に第2所定電圧以上の電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる酸素(O
2)及び窒素酸化物(NOx)を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において酸素及び窒素酸化物を分解させることが可能な第3電極は、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。
【0025】
そして、前記第2電圧印加部は、前記第2所定電圧以上の電圧であって、前記第3電極において窒素酸化物の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の第1除去用電圧を前記第3電極と前記第4電極との間に印加するように構成される。従って、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されると、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の限界電流特性が発現し、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物が内部空間から排出される。一方、被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物は、第1除去用電圧が印加された第3電極においては分解されない。
【0026】
そして、前記第1電圧印加部は、前記第1所定電圧以上の電圧であって、前記第1電極において水の分解が開始する電圧以上の所定の測定用電圧を前記第1電極と前記第2電極との間に印加するように構成される。「水の分解が開始する電圧」は「硫黄酸化物の分解が開始する電圧」よりも高いので、前記第1電極と前記第2電極との間に前記除去用電圧が印加されると、被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物の分解に起因する電極電流が、これらの電極間に流れる。この電極電流の大きさは、上述したように、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。
【0027】
そこで、前記第1取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される前記第1検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出するように構成される。上述したように、第1除去用電圧は、第2所定電圧以上の電圧であって、第3電極において窒素酸化物の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の電圧である。従って、第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されている場合、酸素及び窒素酸化物の限界電流特性が発現し、第2電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物が除去される。
【0028】
一方、測定用電圧は、第1所定電圧以上の電圧であって、第1電極において水の分解が開始する電圧以上の所定の電圧である。従って、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されている場合、第1電気化学セルにより、被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物が分解され、これらの成分に起因する分解電流が電極電流として流れる。しかも、本発明装置によれば、第1電気化学セルの上流側にある第2電気化学セルによって被検ガス中に含まれる酸素のみならず窒素酸化物までもが被検ガスから除去される。従って、この電極電流の大きさは、内部空間に導入されたときに被検ガス中に含まれていた酸素及び窒素酸化物による影響を受けること無く、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。
【0029】
即ち、第1取得部は、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く取得することができる。より具体的には、第1取得部は、例えば、予め取得された被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度(SOx濃度)と第1検出値との対応関係に基づいて、取得された第1検出値に対応するSOx濃度を特定することができる。このようにして、本発明装置によれば、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を極めて高い精度にて検出することができる。
【0030】
この場合、例えば、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される第1検出値(例えば、電極電流の大きさ)と被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度との対応関係を予め事前実験等によって求めておく。この対応関係を表すデータテーブル(例えば、データマップ等)を、例えばECUが備えるデータ記憶装置(例えば、ROM等)に格納しておき、上記検出時にCPUに参照させるようにすることができる。これにより、上記第1検出値から被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を特定することができる。
【0031】
尚、内燃機関から排出される排気中に含まれる水の濃度は、例えば、当該内燃機関の燃焼室において燃焼された混合気の空燃比等に応じて変化する。被検ガスとしての内燃機関の排気中に含まれる水の濃度が変化すると、第1検出値に基づいて検出される硫黄酸化物の濃度の精度が低下する虞がある。従って、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出するためには、例えば内燃機関の定常運転時等、内燃機関の燃焼室において燃焼される混合気の空燃比が所定の値に維持されているときに第1検出値を検出することが望ましい。
【0032】
ところで、上記のように第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されている場合に取得される第1検出値が被検ガス中の硫黄酸化物の濃度に応じて変化するメカニズムの詳細については不明である。しかしながら、上記のように第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されているとき、被検ガスに含まれる水のみならず、被検ガスに含まれる硫黄酸化物もまた分解される。その結果、硫黄酸化物の分解生成物(例えば、硫黄(S)及び硫黄化合物等)が陰極である第1電極に吸着して、水の分解に寄与することができる第1電極の面積が減少すると考えられる。このため、第1電極と第2電極との間に第1所定電圧が印加されているときの電極電流に対応する第1検出値が被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化すると考えられる。
【0033】
上記メカニズムによれば、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されている期間が長いほど、より多くの硫黄酸化物の分解生成物が第1電極に吸着し、第1検出値に対応する電極電流の低下幅が大きくなる。即ち、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されている期間の長さに応じて、第1検出値に対応する電極電流の低下幅が変化する。従って、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出するためには、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が予め定められた所定期間に亘って印加された時点において第1検出値を検出することが望ましい。更に、上述したSOx濃度と第1検出値との対応関係もまた、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が予め定められた所定期間に亘って印加された時点における第1検出値を用いて取得することが望ましい。
【0034】
加えて、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度の検出に使用した本発明装置を再度使用して被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を新たに検出しようとする場合は、当該本発明装置の第1電極に吸着した分解生成物を除去することが必要である。第1電極に吸着した分解生成物を除去する方法は特に限定されないが、例えば、当該分解生成物を再酸化させて再び硫黄酸化物とする方法が挙げられる。このような再酸化は、例えば、(硫黄酸化物を還元分解させるときとは逆に)第1電極を陽極とし、第2電極を陰極として、当該分解生成物を再酸化することができる所定の電圧を第1電極と第2電極との間に印加することによって行うことができる。
【0035】
ところで、上述したように、本発明装置は、第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されており且つ第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されているときに第1電極と第2電極との間に流れる電極電流に対応する第1検出値に基づいて、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出する。この第1検出値は、上記電極電流に対応する何らかの信号の値(例えば、電圧値、電流値、抵抗値等)である限り、特に限定されない。典型的には、前記第1検出値は、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流の大きさである。換言すれば、前記第1取得部は、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流の大きさを前記第1検出値として取得するように構成され得る。
【0036】
更に、上述したように、第1電極と第2電極との間に測定用電圧が印加されている場合に第1電極と第2電極との間に流れる電極電流の大きさは、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。具体的には後述するように、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度が高いほど上記電極電流が小さい。従って、上記のように第1電極と第2電極との間に流れる電流の大きさを第1検出値とする場合、前記第1取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される前記第1検出値が小さいほど、前記被検ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOx)の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0037】
ところで、上述したように、第2電気化学セルの第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されている場合、酸素の限界電流特性が発現する。本明細書の冒頭において述べたように、限界電流の大きさは被検ガス中に含まれる酸素の濃度に応じて変化するので、酸素の限界電流特性を利用して被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出することができる。
【0038】
そこで、本発明装置は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流に対応する第2検出値を取得する第2取得部を更に有し得る。この場合、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第2検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するように構成され得る。
【0039】
上記の場合、1つの本発明装置によって、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出すると共に、被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出することができる。更に、このようにして取得される酸素濃度に基づいて、内燃機関の燃焼室において燃焼された混合気の空燃比を取得するようにしてもよい。従って、これによれば、例えば、内燃機関の制御システムの低コスト化及び/又は小型化を図ることができる。
【0040】
尚、上記のように、被検ガス中に含まれる酸素の濃度は、第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されているときに第3電極と第4電極との間に流れる電流に対応する第2検出値に基づいて検出される。第1除去用電圧は、第2所定電圧以上の電圧であって、第3電極において窒素酸化物の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の電圧である。更に、第3電極は、第3電極と第4電極との間に上記第1除去用電圧を印加したときに被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物を分解させることが可能となるように構成される。従って、第2検出値に対応する電極電流には、酸素の限界電流のみならず窒素酸化物の限界電流も含まれる。
【0041】
即ち、厳密には、上記のようにして検出される酸素の濃度には、酸素の濃度に加えて、窒素酸化物の濃度も含まれる。しかしながら、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度は酸素の濃度と比較して十分に低い。従って、上記のようにして検出される酸素の濃度を酸素のみの濃度とみなしても、一般的な用途(例えば、混合気の空燃比の算出等)においては、実質的な問題は無い。
【0042】
ところで、上記において、第2検出値は、上記電極電流に対応する何らかの信号の値(例えば、電圧値、電流値、抵抗値等)である限り、特に限定されない。典型的には、前記第2検出値は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流の大きさである。換言すれば、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流の大きさを前記第2検出値として取得するように構成され得る。
【0043】
更に、第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されている場合にこれらの電極の間に流れる電極電流は被検ガス中に含まれる酸素(及び窒素酸化物)の限界電流であり、本明細書の冒頭において述べたように、この限界電流の大きさは被検ガス中に含まれる酸素の濃度に応じて変化する。具体的には、被検ガス中に含まれる酸素の濃度が高いほど上記限界電流が大きい。従って、上記のように第3電極と第4電極との間に流れる電流の大きさを第2検出値とする場合、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第2検出値が大きいほど、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0044】
ところで、これまで説明してきた本発明装置においては、上流側のポンピングセル(第2電気化学セル)によって被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の両方を除去していた。しかしながら、本発明装置は、被検ガス中に含まれる酸素と窒素酸化物とをそれぞれ別個のポンピングセルによって除去するように構成され得る。
【0045】
この場合、前記素子部は、酸化物イオン伝導性を有する第3固体電解質体と同第3固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第5電極及び第6電極とを含む第3電気化学セルを更に備える。尚、第3固体電解質体は、第1固体電解質体及び第2固体電解質体とは別個の固体電解質体(例えば、薄板体)であってもよい。或いは、第3電気化学セルは、第1電気化学セル及び第2電気化学セルの何れか又は両方と固体電解質体(例えば、薄板体)を共有していてもよい。
【0046】
更に、前記素子部は、前記第3電極よりも前記拡散抵抗部に近い位置において前記第5電極が前記内部空間に露呈し、且つ前記第6電極が前記内部空間とは異なる空間である第3別空間に露呈するように構成される。即ち、この内部空間において、前記第5電極は前記第3電極よりも上流側(前記拡散抵抗部に近い側)の位置に形成される。換言すれば、第3電気化学セルは第2電気化学セルよりも上流側に形成される。
【0047】
上記の場合、本発明装置は、前記第5電極と前記第6電極との間に電圧を印加する第3電圧印加部を更に有する。第3電圧印加部は、例えば電源(例えば、バッテリ等)から供給される電力を制御して所定の電圧をそれぞれ第5電極と第6電極との間に印加する内燃機関のECUであってもよい。
【0048】
前記第5電極は、前記第5電極と前記第6電極との間に第3所定電圧以上の電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる窒素酸化物を分解させること無く酸素を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において窒素酸化物を分解させること無く酸素を分解させることが可能な第5電極は、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。
【0049】
そして、前記第3電圧印加部は、前記第3所定電圧以上の電圧であって、前記第5電極において酸素の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の第2除去用電圧を前記第5電極と前記第6電極との間に印加するように構成される。
【0050】
更に、前記第1取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第2除去用電圧が印加されており且つ前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される前記第1検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出するように構成される。
【0051】
第5電極と第6電極との間に第2除去用電圧が印加されると、被検ガス中に含まれる酸素の限界電流特性が発現し、第3電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる酸素が内部空間から排出される。第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されると、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の限界電流特性が発現し、第2電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる窒素酸化物が内部空間から排出される。その結果、最も下流側に配設された第1電気化学セルの第1電極に到達する被検ガスには酸素及び窒素酸化物が実質的に含まれない。従って、第1取得部によって取得される第1検出値は、内部空間に導入されたときに被検ガス中に含まれていた酸素及び窒素酸化物による影響を受けること無く、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。
【0052】
即ち、第1取得部は、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く取得することができる。より具体的には、第1取得部は、例えば、予め取得された被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度(SOx濃度)と第1検出値との対応関係に基づいて、取得された第1検出値に対応するSOx濃度を特定することができる。このようにして、本発明装置によれば、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を極めて高い精度にて検出することができる。
【0053】
上記において、第3電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる酸素が内部空間から排出され、第2電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる窒素酸化物が内部空間から排出される。従って、第3電気化学セルにおける酸素の分解に起因する電極電流に対応する検出値に基づき、被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出することができる。同様に、第2電気化学セルにおける窒素酸化物の分解に起因する電極電流に対応する検出値に基づき、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出することができる。
【0054】
この場合、本発明装置は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流に対応する第2検出値を取得する第2取得部と、前記第5電極と前記第6電極との間に流れる電流に対応する第3検出値を取得する第3取得部と、を更に有する。
【0055】
更に、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第2所定電圧が印加されている場合に取得される前記第2検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出するように構成される。より具体的には、第2取得部は、例えば、予め取得された被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度(NOx濃度)と第2検出値との対応関係に基づいて、取得された第2検出値に対応するNOx濃度を特定することができる。
【0056】
加えて、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第3所定電圧が印加されている場合に取得される前記第3検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するように構成される。このようにして取得される酸素濃度に基づいて、内燃機関の燃焼室において燃焼された混合気の空燃比を取得するようにしてもよい。
【0057】
第2取得部は、例えば第3電極と第4電極との間に流れる電流に対応する第2検出値(例えば、電流値、電圧値及び抵抗値等)を検出する検出手段(例えば、センサ等)から送出される信号を受け取るECUであってもよい。同様に、第3取得部は、例えば第5電極と第6電極との間に流れる電流に対応する第3検出値(例えば、電流値、電圧値及び抵抗値等)を検出する検出手段(例えば、センサ等)から送出される信号を受け取るECUであってもよい。
【0058】
上記のようにして、本発明装置によれば、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出すると共に、被検ガス中に含まれる酸素の濃度と窒素酸化物の濃度とを個別に検出することができる。従って、これによれば、例えば、内燃機関の制御システムの低コスト化及び/又は小型化を図ることができる。
【0059】
ところで、上記において、第3検出値は、上記電極電流に対応する何らかの信号の値(例えば、電圧値、電流値、抵抗値等)である限り、特に限定されない。典型的には、前記第3検出値は、前記第5電極と前記第6電極との間に流れる電流の大きさである。換言すれば、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に流れる電流の大きさを前記第3検出値として取得するように構成され得る。
【0060】
更に、第5電極と第6電極との間に第2除去用電圧が印加されている場合にこれらの電極の間に流れる電極電流は被検ガス中に含まれる酸素の限界電流であり、本明細書の冒頭において述べたように、この限界電流の大きさは被検ガス中に含まれる酸素の濃度に応じて変化する。具体的には、被検ガス中に含まれる酸素の濃度が高いほど上記限界電流が大きい。従って、上記のように第5電極と第6電極との間に流れる電流の大きさを第3検出値とする場合、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第2除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第3検出値が大きいほど、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0061】
ところで、上記において、第2検出値は、上記電極電流に対応する何らかの信号の値(例えば、電圧値、電流値、抵抗値等)である限り、特に限定されない。典型的には、前記第2検出値は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流の大きさである。換言すれば、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流の大きさを前記第2検出値として取得するように構成され得る。
【0062】
更に、第3電極と第4電極との間に第1除去用電圧が印加されている場合にこれらの電極の間に流れる電極電流は被検ガス中に含まれる窒素酸化物の限界電流であり、この限界電流の大きさは被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度に応じて変化する。具体的には、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度が高いほど上記限界電流が大きい。従って、上記のように第3電極と第4電極との間に流れる電流の大きさを第2検出値とする場合、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第2検出値が大きいほど、前記被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0063】
ところで、上記本発明装置においては、第2電気化学セルの更に上流側に第3電気化学セルが配設されている。即ち、第2電気化学セルと第3電気化学セルとは直列に配置されている。しかしながら、第2電気化学セルと第3電気化学セルとは並列に配置され得る。
【0064】
ここで言う「並列」とは、第2電気化学セルと第3電気化学セルとが幾何学的な意味において並列に配置されている場合に限定されない。具体的には、上記「並列」は、第2電気化学セルに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、第3電気化学セルに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、が実質的に等しくなるように、第2電気化学セルと第3電気化学セルとが配置されている場合を含む広い概念である。
【0065】
この場合、前記素子部は、酸化物イオン伝導性を有する第3固体電解質体と同第3固体電解質体の表面にそれぞれ形成された第5電極及び第6電極とを含む第3電気化学セルを更に備える。尚、第3固体電解質体は、第1固体電解質体及び第2固体電解質体とは別個の固体電解質体(例えば、薄板体)であってもよい。或いは、第3電気化学セルは、第1電気化学セル及び第2電気化学セルの何れか又は両方と固体電解質体(例えば、薄板体)を共有していてもよい。
【0066】
更に、前記素子部は、前記第3電極に到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度に等しい濃度の酸素を含む被検ガスが到達する領域において前記第5電極が前記内部空間に露呈し且つ前記第6電極が前記内部空間とは異なる空間である第3別空間に露呈するように構成される。
【0067】
一方、前記第5電極と前記第6電極との間に電圧を印加する第3電圧印加部を更に有する点、前記第5電極は、前記第5電極と前記第6電極との間に第3所定電圧を印加したときに前記被検ガス中に含まれる窒素酸化物を分解させること無く酸素を分解させることが可能となるように構成される点、及び前記第3電圧印加部は、前記第3所定電圧以上の電圧であって、前記第5電極において酸素の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の第2除去用電圧を前記第5電極と前記第6電極との間に印加するように構成される点、については、上述した第2電気化学セルと第3電気化学セルとが直列に配置される態様と同様である。
【0068】
更に、前記第1取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第2除去用電圧が印加されており且つ前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されており且つ前記第1電極と前記第2電極との間に前記測定用電圧が印加されている場合に取得される前記第1検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出するように構成される点についても、上述した第2電気化学セルと第3電気化学セルとが直列に配置される態様と同様である。
【0069】
即ち、この場合もまた、最も下流側に配設された第1電気化学セルの第1電極に到達する被検ガスには酸素及び窒素酸化物が実質的に含まれない。従って、第1取得部によって取得される第1検出値は、内部空間に導入されたときに被検ガス中に含まれていた酸素及び窒素酸化物による影響を受けること無く、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。従って、第1取得部は、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く取得することができる。
【0070】
上記において、第3電気化学セルの酸素ポンピング作用により、被検ガス中に含まれる酸素が内部空間から排出される。これに対し、第2電気化学セルの酸素ポンピング作用によっては、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物が内部空間から排出される。従って、第3電気化学セルにおける電極電流は酸素の分解電流に起因する。一方、第2電気化学セルにおける電極電流は酸素及び窒素酸化物の分解電流に起因する。
【0071】
ところが、上述したように、第2電気化学セルに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、第3電気化学セルに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、は実質的に等しい。従って、第2電気化学セルにおける電極電流に対応する第2検出値と、第3電気化学セルにおける電極電流に対応する第3検出値と、の差異は、第2電気化学セルに到達する被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を反映している。つまり、第3検出値に基づいて被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出することができ、第2検出値と第3検出値との差異に基づいて被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出することができる。
【0072】
この場合、本発明装置は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流に対応する第2検出値を取得する第2取得部と、前記第5電極と前記第6電極との間に流れる電流に対応する第3検出値を取得する第3取得部と、を更に有する。
【0073】
更に、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第2除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第3検出値に基づいて、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するように構成される。このようにして取得される酸素濃度に基づいて、内燃機関の燃焼室において燃焼された混合気の空燃比を取得するようにしてもよい。
【0074】
一方、前記第2取得部は、第2検出値と第3検出値との差異に基づいて、ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出するように構成される。この第3検出値は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第2除去用電圧が印加されている場合に取得される第3検出値であり、この第2検出値は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されている場合に取得される第2検出値である。第2取得部は、例えば、予め取得された被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度(NOx濃度)と「第2検出値と第3検出値との差異」との対応関係に基づいて、取得された第2検出値と第3検出値との差異に対応するNOx濃度を特定することができる。
【0075】
上記のようにして、本発明装置によれば、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を検出すると共に、被検ガス中に含まれる酸素の濃度と窒素酸化物の濃度とを個別に検出することができる。従って、これによれば、例えば、内燃機関の制御システムの低コスト化及び/又は小型化を図ることができる。
【0076】
上記において、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に流れる電流の大きさを前記第3検出値として取得するように構成され得る。このように第5電極と第6電極との間に流れる電流の大きさを第3検出値とする場合、前記第3取得部は、前記第5電極と前記第6電極との間に前記第3所定電圧が印加されている場合に取得される前記第3検出値が大きいほど、前記被検ガス中に含まれる酸素の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0077】
更に、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に流れる電流の大きさを前記第2検出値として取得するように構成され得る。このように第3電極と第4電極との間に流れる電流の大きさを第2検出値とする場合、前記第2取得部は、前記第3電極と前記第4電極との間に前記第1除去用電圧が印加されている場合に取得される前記第2検出値が大きいほど、前記被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度をより大きい値として検出するように構成され得る。
【0078】
ところで、上述したように、第5電極は、第5電極と第6電極との間に第3所定電圧以上の電圧を印加したときに、被検ガス中に含まれる窒素酸化物を分解させること無く酸素を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において窒素酸化物を分解させること無く酸素を分解させることが可能な第5電極もまた、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。典型的には、前記第5電極は、白金(Pt)、金(Au)、鉛(Pb)及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0079】
更に、上述したように、第3電極は、第3電極と第4電極との間に第2所定電圧以上の電圧を印加したときに被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において酸素及び窒素酸化物を分解させることが可能な第3電極は、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。このような第3電極を構成する材料は、例えば、第3電極と第4電極との間に第2所定電圧以上の電圧を印加したときに被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物を分解させることができる活性を有する物質(例えば、貴金属)を含む。典型的には、前記第1電極は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0080】
更に、上述したように、第1電極は、第1電極と第2電極との間に第1所定電圧以上の電圧を印加したときに被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物を分解させることが可能となるように構成される。このように所定の印加電圧において水及び硫黄酸化物を分解させることが可能な第1電極は、例えば電極材料を構成する物質の種類及び電極を作製する際の熱処理の条件等を適宜選択することによって作製することができる。このような第1電極を構成する材料は、例えば、第1電極と第2電極との間に第1所定電圧以上の電圧を印加したときに被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物を分解させることができる活性を有する物質(例えば、貴金属)を含む。典型的には、前記第1電極は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0081】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0083】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るガス濃度検出装置(以下、「第1装置」と称される場合がある。)について説明する。
【0084】
(構成)
第1装置が備える素子部10は、
図1に示すように、第1固体電解質体11s及び第2固体電解質体12s、第1アルミナ層21a、第2アルミナ層21b、第3アルミナ層21c、第4アルミナ層21d、第5アルミナ層21e及び第6アルミナ層21f、拡散抵抗部(拡散律速層)32並びにヒータ41を備える。
固体電解質体11sは、ジルコニア等を含み、酸化物イオン伝導性を有する薄板体である。固体電解質体11sを形成するジルコニアは、例えば、スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)等の元素を含んでいてもよい。第2固体電解質体12sも同様である。
第1乃至第6アルミナ層21a乃至21fは、アルミナを含む緻密(ガス不透過性)の層(緻密体)である。
拡散抵抗部32は、多孔質の拡散律速層であり、ガス透過性の層(薄板体)である。
ヒータ41は、例えば、白金(Pt)とセラミックス(例えば、アルミナ等)とのサーメットの薄板体であり、通電によって発熱する発熱体である。
【0085】
素子部10の各層は、下方から、第5アルミナ層21e、第4アルミナ層21d、第3アルミナ層21c、第1固体電解質体11s、拡散抵抗部32及び第2アルミナ層21b、第2固体電解質体12s、第6アルミナ層21f、第1アルミナ層21aの順に積層されている。
【0086】
内部空間31は、第1固体電解質体11s、第2固体電解質体12s、拡散抵抗部32及び第2アルミナ層21bによって画定される空間であり、その中に拡散抵抗部32を介して被検ガスとしての内燃機関の排気が導入されるようになっている。即ち、素子部10においては、内部空間31は拡散抵抗部32を介して、内燃機関の排気管(何れも図示せず)の内部と連通している。従って、排気管内の排気が内部空間31内に被検ガスとして導かれる。
【0087】
第1大気導入路51は、第1固体電解質体11s、第3アルミナ層21c及び第4アルミナ層21dによって画定され、排気管の外部の大気に開放されている。尚、第1大気導入路51は、第1別空間に該当する。第2大気導入路52は、第2固体電解質体12s、第1アルミナ層21a及び第6アルミナ層21fによって画定され、排気管の外部の大気に開放されている。尚、第2大気導入路52は、第2別空間に該当する。
【0088】
第1電極11aは陰極であり、第2電極11bは陽極である。第1電極11aは、第1固体電解質体11sの一方の側の表面(具体的には、内部空間31を画定する第1固体電解質体11sの表面)に固着されている。一方、第2電極11bは、第1固体電解質体11sの他方の側の表面(具体的には、第1大気導入路51を画定する第1固体電解質体11sの表面)に固着されている。第1電極11a及び第2電極11b並びに第1固体電解質体11sは、酸素ポンピング作用による酸素排出能力を有する第1電気化学セル11cを構成している。
【0089】
第3電極12aは陰極であり、第4電極12bは陽極である。第3電極12aは、第2固体電解質体12sの一方の側の表面(具体的には、内部空間31を画定する第2固体電解質体12sの表面)に固着されている。一方、第4電極12bは、第2固体電解質体12sの他方の側の表面(具体的には、第2大気導入路52を画定する第2固体電解質体12sの表面)に固着されている。第3電極12a及び第4電極12b並びに第2固体電解質体12sは、酸素ポンピング作用による酸素排出能力を有する第2電気化学セル12cを構成している。これらの第1電気化学セル11c及び第2電気化学セル12cは、ヒータ41により、活性化温度まで加熱される。
【0090】
第1固体電解質体11s及び第2固体電解質体12s並びに第1乃至第6アルミナ層21a乃至21fの各層は、例えばドクターブレード法、押し出し成形法等により、シート状に成形することができる。第1電極11a及び第2電極11b、第3電極12a及び第4電極12b、並びにこれらの電極に通電するための配線等は、例えばスクリーン印刷法等によって形成することができる。これらのシートを上述したように積層して焼成することにより、上記のような構造を有する素子部10を一体的に製造することができる。
【0091】
第1電極11aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極である。一方、第2電極11bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。同様に、第3電極12aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極である。一方、第4電極12bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。
【0092】
尚、
図1に示した例においては、第2電気化学セル12cは、第1電気化学セル11cを構成する第1固体電解質体11sとは別個の第2固体電解質体12sを含む。しかしながら、第2電気化学セル12cは、第1固体電解質体11sを第1電気化学セル11cと共有していてもよい。この場合、第1大気導入路51は、第1別空間及び第2別空間として機能する。
【0093】
第1装置は、更に、電源61、電流計71及び図示しないECU(電子制御ユニット)を備える。電源61及び電流計71はECUに接続されている。
電源61は、第1電極11aと第2電極11bとの間に第2電極11bの電位が第1電極11aの電位よりも高くなるように所定の電圧を印加できるようになっている。電源61の作動はECUにより制御される。
電流計71は、第1電極11aと第2電極11bとの間に流れる電流(従って、第1固体電解質体11sを流れる電流)である電極電流の大きさを計測して、その計測値をECUに出力するようになっている。
【0094】
加えて、第1装置は、電源62、電流計72及び図示しないECUを更に備える。電源62及び電流計72はECUに接続されている。
電源62は、第3電極12aと第4電極12bとの間に第4電極12bの電位が第3電極12aの電位よりも高くなるように所定の電圧を印加できるようになっている。電源62の作動はECUにより制御される。
電流計72は、第3電極12aと第4電極12bとの間に流れる電流(従って、第2固体電解質体12sを流れる電流)である電極電流の大きさを計測して、その計測値をECUに出力するようになっている。
【0095】
ECUは、CPU、CPUが実行するプログラム及びマップ等を記憶するROM並びにデータを一時的に記憶するRAM等を含むマイクロコンピュータである(何れも図示せず)。ECUは、図示しない内燃機関のアクチュエータ(燃料噴射弁、スロットル弁及びEGR弁等)に接続されている。ECUは、これらのアクチュエータに駆動(指示)信号を送出し、内燃機関を制御するようになっている。
【0096】
ECUは、第1電極11a及び第2電極11bに印加される印加電圧Vm1を制御することができる。即ち、電源61及びECUは第1電圧印加部を構成している。更に、ECUは、電流計71から出力される第1電気化学セル11cを流れる電極電流Im1に対応する信号を受け取ることができる。即ち、電流計71及びECUは第1取得部を構成している。加えて、ECUは、第3電極12a及び第4電極12bに印加される印加電圧Vm2を制御することができる。即ち、電源62及びECUは第2電圧印加部を構成している。更に、ECUは、電流計72から出力される第2電気化学セル12cを流れる電極電流Im2に対応する信号を受け取ることができる。即ち、電流計72及びECUは第2取得部を構成している。
【0097】
尚、
図1に示した例においては、第1電圧印加部と第2電圧印加部とを、別個の電圧印加部として含む。しかしながら、これらの電圧印加部は、所期の印加電圧を所期の電極間にそれぞれ印加することが可能である限り、1つの電圧印加部として構成されていてもよい。同様に、第1取得部と第2取得部とを、別個の取得部として含む。しかしながら、これらの取得部は、所期の検出値を所期の電極間からそれぞれ取得することが可能である限り、1つの取得部として構成されていてもよい。
【0098】
(作用)
内燃機関から排出される排気中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度は、例えば、当該内燃機関の燃焼室において燃焼される混合気の空燃比及び燃焼状態に応じて、様々に変化し得る。その結果、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化する場合がある。被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化すると、酸素ポンピング作用を有する電気化学セルが備える電極間に流れる電流の大きさも変化するので、濃度を測定しようとする成分(例えば、水及び硫黄酸化物等)の濃度の検出精度の低下を招く虞がある。
【0099】
しかしながら、第1装置が備える素子部10においては、第3電極12aと第4電極12bとの間に第1除去用電圧を印加することにより、酸素ポンピング作用によって内部空間31から酸素及び窒素酸化物を排出することができる。より具体的には、第3電極12a及び第4電極12bがそれぞれ陰極及び陽極となるように、これらの電極間に第1除去用電圧を印加すると、内部空間31から第2大気導入路52へと酸素及び窒素酸化物が排出される。このように、第1装置が備える素子部10においては、第2電気化学セル12cによって、内部空間31内の被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物を実質的に除去することができる。
【0100】
即ち、第1装置が備える素子部10においては、たとえ被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化しても、上記のように第2電気化学セル12cの酸素ポンピング作用により内部空間31から酸素及び窒素酸化物を排出することによって、内部空間31内の酸素及び窒素酸化物の濃度を一定(典型的には、概ね0(ゼロ)ppm)に調整することができる。
【0101】
一方、第1電極11aと第2電極11bとの間に、第2電極11bの電位が第1電極11aの電位よりも高くなるように、測定用電圧が印加されると、被検ガス中に含まれる水のみならず、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物もまた第1電極11aにおいて分解される。硫黄酸化物の分解生成物(例えば、硫黄又は硫黄化合物)は第1電極11aに吸着し、水の分解に寄与することができる第1電極11aの面積を減少させると考えられる。その結果、第1電極11aと第2電極11bとの間に測定用電圧を印加したときの電極電流に対応する第1検出値が、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度に応じて変化する。
【0102】
上記において、第1電極11aに到達した被検ガス中に酸素及び/又は窒素酸化物が含まれていると、これらの成分もまた第1電極11aにおいて分解される。即ち、上記第1検出値が被検ガス中に含まれる酸素及び/又は窒素酸化物の影響を受ける。しかしながら、上述したように、素子部10においては、第1電気化学セル11cの上流側に配設された第2電気化学セル12cにより、内部空間31内の被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物が実質的に除去される。従って、第1装置においては、たとえ被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化しても、第1電気化学セル11cにおいて検出される電極電流Im1への影響を有効に低減することができる。その結果、第1装置によれば、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出することができる。
【0103】
(測定原理)
ここで、第1電気化学セル11cにおける印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係につき、更に具体的に説明する。
図2は、第1電気化学セル11cにおいて、印加電圧Vm1を徐々に上昇させた(昇圧スイープした)ときの印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係を示す模式的なグラフである。尚、この例においては、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物としての二酸化硫黄(SO
2)の濃度がそれぞれ0、100、300及び500ppmである異なる4種の被検ガスを使用した。更に、第1電気化学セル11cの第1電極11a(陰極)に到達する被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度は、第1電気化学セル11cの上流側に配設された第2電気化学セル12cにより、何れの被検ガスにおいても一定(実質的に0(ゼロ)ppm)に維持されている。
【0104】
先ず、実線の曲線L1は、被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度が0(ゼロ)ppmである場合における印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係を示している。上記のように、素子部10においては第2電気化学セル12cにより内部空間31内の被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物が実質的に除去されるので、印加電圧Vm1が約0.6V未満である領域においては、電極電流は流れない(Im1=0μA)。印加電圧Vm1が約0.6V以上となると、電極電流Im1が増大し始める。この電極電流Im1の増大は、第1電極11aにおける水の分解が始まったことに起因する。
【0105】
次に、点線の曲線L2は、被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度が100ppmである場合における印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係を示している。この場合も、印加電圧Vm1が第1電極11aにおける水の分解が始まる電圧(分解開始電圧)(約0.6V)未満であるときには、印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係は曲線L1(被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度が0(ゼロ)ppmである場合)と同様である。即ち、印加電圧Vm1が約0.6V未満である領域においては、電極電流Im1は流れない。一方、印加電圧Vm1が第1電極11aにおける水の分解開始電圧(約0.6V)以上であるときには、水の分解に起因して電極電流Im1が流れる。しかしながら、曲線L1と比較して電極電流Im1が小さく、印加電圧Vm1に対する電極電流Im1の増加率もまた曲線L1と比較して小さい(傾きが小さい)。
【0106】
更に、一点鎖線及び破線によって表される曲線L3及び4は、被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度がそれぞれ300ppm及び500ppmである場合における印加電圧Vm1と電極電流Im1との関係を示している。これらの場合もまた、印加電圧Vm1が第1電極11aにおける水の分解開始電圧(約0.6V)未満であるときには、電極電流Im1は流れない。一方、印加電圧Vm1が第1電極11aにおける水の分解開始電圧(約0.6V)以上であるときには、水の分解に起因して電極電流Im1が流れる。しかしながら、被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度が高いほど電極電流Im1が小さく、印加電圧Vm1に対する電極電流Im1の増加率もまた被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度が高いほど小さい(傾きが小さい)。
【0107】
以上のように、印加電圧Vm1が第1電極11aにおける水の分解開始電圧(約0.6V)以上であるときの電極電流Im1の大きさは、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物としての二酸化硫黄の濃度に応じて変化する。例えば、
図2に示したグラフにおける印加電圧Vm1が1.0Vであるときの曲線L1乃至L4における電極電流Im1の大きさを被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度に対してプロットすると、
図3に示したグラフが得られる。
図3において点線の曲線によって表されているように、特定の印加電圧Vm1(この場合は1.0V)における電極電流Im1の大きさが被検ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度に応じて変化する。従って、特定の印加電圧Vm1(水の分解開始電圧以上の所定電圧であり、「第1所定電圧」とも称呼される。)における電極電流Im1(に対応する第1検出値)を取得すれば、その(第1検出値に対応する)電極電流Im1に対応する硫黄酸化物の濃度を取得することができる。
【0108】
尚、
図2に示されているグラフの横軸に示されている印加電圧Vm1、縦軸に示されている電極電流Im1、及び上記説明において述べられている印加電圧Vm1の個々の具体的な値は、
図2に示されているグラフを得るために行った実験の条件(例えば、被検ガス中に含まれる各種成分の濃度等)によって変動することがあり、印加電圧Vm1及び電極電流Im1の値が常に上述した値となるとは限らない。
【0109】
(具体的作動)
ここで、第1装置において実行されるSOx濃度取得処理ルーチンにつき、より具体的に説明する。
図4は、素子部10を使用してECUが実行する「SOx濃度取得処理ルーチン」を示すフローチャートである。例えば、上述したECUが備えるCPU(以降、単に「CPU」と称呼される場合がある。)は、所定のタイミングにてステップ400から処理を開始し、ステップ410に進む。
【0110】
先ず、ステップ410において、CPUは、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を取得する要求(SOx濃度取得要求)が有るか否かを判定する。SOx濃度取得要求は、例えば、第1装置が適用される内燃機関が搭載される車輌において燃料タンクへの燃料の充填が行われたときに発生する。更に、燃料タンクへの燃料の充填が行われた後にSOx濃度取得処理ルーチンが実行されて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度が取得された履歴が有る場合にはSOx濃度取得要求を解除するようにしてもよい。
【0111】
上記ステップ410においてSOx濃度取得要求が有ると判定した場合(ステップ410:Yes)、CPUは次のステップ420に進み、第1装置が適用される内燃機関(E/G)が定常状態にあるか否かを判定する。CPUは、例えば、所定期間内における負荷の最大値と最小値との差が閾値未満であるとき、又は所定期間内におけるアクセル操作量の最大値と最小値との差が閾値未満であるとき、内燃機関が定常状態にあると判定する。
【0112】
上記ステップ420において内燃機関が定常状態にあると判定した場合(ステップ420:Yes)、CPUは次のステップ430に進み、第1除去用電圧(第1装置においては0.4V)を印加電圧Vm2として第3電極12aと第4電極12bとの間に印加すると共に、測定用電圧(第1装置においては1.0V)を印加電圧Vm1として第1電極11aと第2電極11bとの間に印加する。
【0113】
次に、CPUはステップ440に進み、印加電圧Vm1としての測定用電圧及び印加電圧Vm2としての第1除去用電圧が印加されている期間の継続時間が所定の閾値(Tth)に一致したか否かを判定する。この閾値Tthは、第1電極11aと第2電極11bとの間への印加電圧Vm1を第1所定電圧とすることにより被検ガス中に含まれる硫黄酸化物が分解され、その分解生成物が陰極である第1電極11aに吸着して電極電流を低減させるのに十分な期間の長さに対応する。この閾値Tthの具体的な値(時間的長さ)は、例えば第1装置が備える素子部10を使用する事前実験等によって定めることができる。
【0114】
上記ステップ440において上記期間の継続時間が所定の閾値に一致したと判定した場合(ステップ440:Yes)、CPUは次のステップ450に進み、電極電流Im1を第1検出値として取得する。次に、CPUはステップ460に進み、例えば
図3に示したようなデータマップを参照して、第1検出値に対応する硫黄酸化物の濃度を取得する。そして、CPUはステップ470に進み、当該ルーチンを終了する。このようにして、第1装置は、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出することができる。
【0115】
尚、上記ステップ410においてSOx濃度取得要求が無いと判定した場合(ステップ410:No)、上記ステップ420において内燃機関が定常状態にないと判定した場合(ステップ420:No)、及び上記ステップ440において上記継続時間が所定の閾値(Tth)に一致しないと判定した場合(ステップ440:No)、CPUはステップ470に進み、当該ルーチンを終了する。
【0116】
以上のようなルーチンをCPUに実行させるためのプログラムは、ECUが備えるデータ記憶装置(例えば、ROM等)に格納することができる。更に、印加電圧Vm1を測定用電圧(第1装置においては1.0V)としたときの第1検出値としての電極電流Im1と被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度との対応関係は、例えば、硫黄酸化物の濃度が既知の被検ガスを使用する事前実験により予め求めておくことができる。そして、当該対応関係を表すデータテーブル(例えば、データマップ等)をECUが備えるデータ記憶装置(例えば、ROM等)に格納しておき、上記ステップ460においてCPUに参照させることができる。
【0117】
尚、第1装置においては、上述したように、第1除去用電圧を0.4Vとした。しかしながら、前述したように、第1除去用電圧は、第3電極12aを陰極とし、第4電極12bを陽極として、これらの電極間に印加した場合に、窒素酸化物の限界電流特性が発現する電圧帯の下限以上であり且つ硫黄酸化物の分解が開始する電圧未満である所定の電圧であれば、特に限定されない。尚、窒素酸化物の限界電流域は約0.1V乃至0.2V以上であり、硫黄酸化物の分解が開始する電圧は約0.5V乃至0.6Vである。この電圧帯においては酸素の限界電流特性もまた発現する。
【0118】
上記において、窒素酸化物の限界電流域は、被検ガス中に含まれる酸素の濃度が高くなるほど高電圧側にシフトする傾向がある。従って、被検ガス中に含まれる酸素の濃度が高いほど第1除去用電圧をより高くするように第2電圧印加部を構成することが望ましい。
【0119】
更に、第1装置においては、測定用電圧を1.0Vとした。しかしながら、前述したように、測定用電圧は、第1電極11aを陰極とし、第2電極11bを陽極とした場合に、これらの電極間に印加することにより、被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物を分解させることが可能となる所定の電圧であれば、特に限定されない。尚、前述したように、水の分解が開始する電圧は約0.6Vである。従って、測定用電圧は、0.6V以上の所定の電圧であることが望ましい。
【0120】
一方、印加電圧Vm1が水の限界電流域の下限電圧以上の電圧となると、拡散抵抗部を介して第1電極(陰極)に到達する水の供給速度を第1電極における水の分解速度が超えるようになる。即ち、水の限界電流特性が発現するようになる。このような場合、第1検出値に基づいて被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出することが困難となる虞がある。更に、印加電圧Vm1が過度に高い電圧となると、被検ガス中に含まれる他の成分(例えば、二酸化炭素(CO
2)等)及び/又は第1固体電解質体11sの分解を招く虞がある。従って、測定用電圧は、水の限界電流域の下限電圧未満の所定の電圧であることが望ましい。換言すれば、測定用電圧は、水の分解が開始する電圧以上であり且つ水の限界電流特性が発現する(観測される)電圧帯の下限未満の所定の電圧であることが望ましい。尚、例えば被検ガス中に含まれる水の濃度及び測定条件等により若干の変動は見られるが、水の限界電流域の下限電圧は約2.0Vである。
【0121】
更に、第1装置においては、第1電極11aと第2電極11bとの間に測定用電圧が印加されているときに第1電極11aと第2電極11bとの間に流れる電極電流の大きさを第1検出値とした。しかしながら、前述したように、第1検出値は、上記電極電流に対応する何らかの信号の値(例えば、電圧値、電流値、抵抗値等)である限り、特に限定されない。尚、第1検出値として上記電極電流と正の相関を有する信号の値(例えば、電圧値、電流値)を採用した場合は、第1装置は第1検出値が小さいほどSOx濃度を大きい値として検出するように構成される。逆に、第1検出値として上記電極電流と負の相関を有する信号の値を採用した場合は、第1装置は第1検出値が大きいほどSOx濃度を大きい値として検出するように構成される。
【0122】
第1装置においては、第3電極12aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第4電極12bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。しかしながら、第3電極12aを構成する材料は、第3電極12aと第4電極12bとの間に第2所定電圧を印加したときに、拡散抵抗体32を介して内部空間31に導かれた被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物を還元分解させることができる限り、特に限定されない。好ましくは、第3電極12aを構成する材料は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素又はそれらの合金等を主成分として含む。より好ましくは、第3電極12aは、白金(Pt)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む多孔質サーメット電極である。
【0123】
同様に、第1装置においては、第1電極11aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第2電極11bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。しかしながら、第1電極11aを構成する材料は、第1電極11aと第2電極11bとの間に第1所定電圧を印加したときに、拡散抵抗体32を介して内部空間31に導かれた被検ガス中に含まれる水及び硫黄酸化物を還元分解させることができる限り、特に限定されない。好ましくは、第1電極11aを構成する材料は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素又はそれらの合金等を主成分として含む。より好ましくは、第1電極11aは、白金(Pt)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む多孔質サーメット電極である。
【0124】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係るガス濃度検出装置(以下、「第2装置」と称される場合がある。)について説明する。
【0125】
(構成)
第2装置が備える素子部20は、第2電気化学セル12cの上流側(拡散抵抗部32側)に配設された第3電気化学セル13cを更に備える点を除き、第1装置が備える素子部10と同様の構成を有する。従って、以下の説明においては、第1装置との相違点に注目して、第2装置の構成について説明する。
【0126】
図5に示すように、素子部20においては、第5電極13a及び第6電極13b並びに第2固体電解質体12sによって構成される第3電気化学セル13cが、第2電気化学セル12cの上流側(拡散抵抗部32側)に配設されている。第5電極13aは陰極であり、第6電極13bは陽極である。第5電極13aは、第2固体電解質体12sの一方の側の表面(具体的には、内部空間31を画定する第2固体電解質体12sの表面)に固着されている。一方、第6電極13bは、第2固体電解質体12sの他方の側の表面(具体的には、第2大気導入路52を画定する第2固体電解質体12sの表面)に固着されている。第5電極13aは、第3電極12aよりも拡散抵抗部32により近い位置において内部空間31に面するように配設されている。
【0127】
電源63は、第5電極13aと第6電極13bとの間に第6電極13bの電位が第5電極13aの電位よりも高くなるように所定の電圧を印加できるようになっている。電源63の作動はECUにより制御される。このように、ECUは、第5電極13a及び第6電極13bに印加される印加電圧Vm3を制御することができる。即ち、電源63及びECUは第3電圧印加部を構成している。尚、第2装置においては、第2除去用電圧及び第1除去用電圧を何れも0.4Vとする。
【0128】
電流計73は、第5電極13aと第6電極13bとの間に流れる電流(従って、第2固体電解質体12sを流れる電流)である電極電流Im3の大きさを計測して、その計測値をECUに出力するようになっている。このように、ECUは、電流計73から出力される第3電気化学セル13cを流れる電極電流Im3に対応する信号を受け取ることができる。即ち、電流計73及びECUは第3取得部を構成している。
【0129】
第3電極12aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第4電極12bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。一方、第5電極13aは、白金(Pt)と金(Au)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第6電極13bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。即ち、第5電極13aは、所定の印加電圧においても、酸素は分解するものの、窒素酸化物を実質的に分解しないように、電極自体が作製されている。
【0130】
(作用)
上記により、第3電気化学セル13cは、第2電気化学セル12cの印加電圧Vm2と同じ印加電圧Vm3(0.4V)が印加されているにも拘わらず、被検ガス中に含まれる窒素酸化物を実質的に分解せず、酸素のみを分解する。即ち、第3電気化学セルの電極電流Im3は、窒素酸化物の分解に起因する電流を実質的に含まず、酸素の分解に起因する電流のみを含む。一方、第2電気化学セル12cは、第3電気化学セル13cの下流に配設されている。被検ガス中に含まれる酸素は第3電気化学セルによって除去されるので、第2電気化学セル12cは窒素酸化物のみを分解する。即ち、第2電気化学セルの電極電流Im2は、酸素の分解に起因する電流を実質的に含まず、窒素酸化物の分解に起因する電流のみを含む。
【0131】
従って、第2装置によれば、第3電気化学セル13cの電極電流Im3に対応する第3検出値に基づいて、被検ガス中に含まれる酸素の濃度を検出することができる。加えて、第2電気化学セル12cの電極電流Im2に対応する第2検出値に基づいて、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出することができる。具体的には、第2装置は、第3電気化学セル13cの第5電極13aと第6電極13bとの間に第2除去用電圧(印加電圧Vm3=0.4V)を印加したときの電極電流Im3(第3検出値)と、第2電気化学セル12cの第3電極12aと第4電極12bとの間に第1除去用電圧(印加電圧Vm2=0.4V)を印加したときの電極電流Im2(第2検出値)と、に基づいて、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度をそれぞれ個別に検出することができる。
【0132】
素子部20において、第5電極13a及び第6電極13bをそれぞれ陰極及び陽極として、これらの電極間に第2除去用電圧を印加すると、酸素ポンピング作用により内部空間31から酸素が排出される。更に、第3電極12a及び第4電極12bをそれぞれ陰極及び陽極として、これらの電極間に第1除去用電圧を印加すると、酸素ポンピング作用により内部空間31から窒素酸化物が排出される。このように、素子部20においては、第3電気化学セル13c及び第2電気化学セル12cによって、内部空間31内の酸素及び窒素酸化物を除去する。従って、素子部20においても、第1電気化学セル11cの第1電極11a(陰極)に到達する被検ガス中には酸素及び窒素酸化物が実質的に含まれていない。
【0133】
即ち、素子部20においては、たとえ被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化しても、第1電気化学セル11cにおいて検出される電極電流Im1への影響を有効に低減することができる。その結果、第2装置においても、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出することができる。
【0134】
尚、
図5に示した例においては、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとは第2固体電解質体12sを共有するように構成されている。この場合、第2大気導入路52は、第2別空間及び第3別空間として機能している。しかしながら、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとは、それぞれ別個の固体電解質を含むように構成されていてもよい。更に、
図5に示した例においては、第3電気化学セル13c及び第2電気化学セル12cは、第1電気化学セル11cを構成する第1固体電解質体11sとは別個の第2固体電解質体12sを含む。しかしながら、第3電気化学セル13c及び第2電気化学セル12cの何れか一方又は両方が、第1固体電解質体11sを第1電気化学セル11cと共有していてもよい。この場合、第1大気導入路51は、第1別空間としてのみならず、第3別空間及び第2別空間の何れか一方又は両方としても機能する。
【0135】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態に係るガス濃度検出装置(以下、「第3装置」と称される場合がある。)について説明する。
【0136】
(構成)
第3装置が備える素子部30は、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとが、内部空間31において、それぞれ上流側及び下流側に(直列に)配設されているのではなく、互いの近傍に並列に配設されている点を除き、第2装置が備える素子部20と同様の構成を有する。ここで言う「近傍」とは、これらの電気化学セルの陰極に到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度に等しい濃度の酸素を含む被検ガスが到達する領域を指す。尚、以下の説明においては、第2装置との相違点に注目して、第3装置の構成について説明する。
【0137】
図6(b)は、
図6(a)に示した線分A−Aを含む平面による素子部30の断面図である。
図6(b)に示した例において、第3装置は、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとが互いに近傍して併設されている。具体的には、第3装置においては、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとは、内部空間31において、拡散抵抗部32から同じ距離だけ下流側に離れた位置に配設されている。
【0138】
第3電気化学セル13cは、第2固体電解質体12sを第2電気化学セル12cと共有し、その表面に配設された一対の電極である第5電極13a及び第6電極13bを有する。第3装置においては、第5電極13aは内部空間31に面するように配設され、第6電極13bは第2大気導入路52に面するように配設されている。
【0139】
電源63は、第5電極13aと第6電極13bとの間に、第6電極13bの電位が第5電極13aの電位よりも高くなるように、印加電圧Vm3を印加する。電流計73は、第3電気化学セル13cを流れる電極電流Im3に対応する信号をECU(図示せず)へ出力する。ECUは、第5電極13a及び第6電極13bに印加される印加電圧を制御することができる。即ち、電源63及びECUは第3電圧印加部を構成している。尚、第3装置においては、第2除去用電圧及び第1除去用電圧を何れも0.4Vとする。更に、ECUは、電流計73から出力される第3電気化学セル13cを流れる電極電流Im3に対応する信号を受け取ることができる。即ち、電流計73及びECUは第3取得部を構成している。加えて、第3装置は、第2電気化学セル12cを流れる電極電流Im2と第3電気化学セル13cを流れる電極電流Im3との差を検出する電流差検出回路81を備える。
【0140】
第2装置と同様に、第3電極12aは、白金(Pt)とロジウム(Rh)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第4電極12bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。一方、第5電極13aは、白金(Pt)と金(Au)との合金を主成分として含む多孔質サーメット電極であり、第6電極13bは、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。即ち、第5電極13aは、所定の印加電圧においても、酸素は分解するものの、窒素酸化物を実質的に分解しないように、電極自体が作製されている。
【0141】
(作用)
上記により、第3電気化学セル13cは、第2電気化学セル12cの印加電圧Vm2と同じ印加電圧Vm3(0.4V)が印加されているにも拘わらず、被検ガス中に含まれる窒素酸化物を実質的に分解せず、酸素のみを分解する。即ち、第3電気化学セルの電極電流Im3は、窒素酸化物の分解に起因する電流を実質的に含まず、酸素の分解に起因する電流のみを含む。一方、第2電気化学セル12cは、第3電気化学セル13cと同じ印加電圧が印加されているにも拘わらず、被検ガス中に含まれる酸素と及び窒素酸化物の両方を分解する。即ち、第2電気化学セルの電極電流Im2は、酸素の分解に起因する電流及び窒素酸化物の分解に起因する電流の両方を含む。従って、第3電気化学セル13cの電極電流Im3に対応する第3検出値と第2電気化学セル12cの電極電流Im2に対応する第2検出値との差をとることにより、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を検出することができる。
【0142】
具体的には、第3装置は、第3電気化学セル13cの第5電極13aと第6電極13bとの間に第2除去用電圧(印加電圧Vm3=0.4V)を印加したときの電極電流Im3(第3検出値)に基づいて、被検ガス中に含まれる酸素の濃度を精度良く検出することができる。更に、第2電気化学セル12cの第3電極12aと第4電極12bとの間に第1除去用電圧(印加電圧Vm2=0.4V)を印加したときの電極電流Im2(第2検出値)と、電極電流Im3(第3検出値)と、の差異を電流差検出回路81によって取得し、この差異に基づいて、被検ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を精度良く検出することができる。このように、第3装置は、被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度をそれぞれ個別に検出することができる。
【0143】
更に、上述したように、素子部30においても、第3電気化学セル13c及び第2電気化学セル12cによって、内部空間31内の酸素及び窒素酸化物を除去する。従って、素子部30においても、第1電気化学セル11cの第1電極11a(陰極)に到達する被検ガス中には酸素及び窒素酸化物が実質的に含まれていない。
【0144】
即ち、素子部30においても、たとえ被検ガス中に含まれる酸素及び窒素酸化物の濃度が変化しても、第1電気化学セル11cにおいて検出される電極電流Im1への影響を有効に低減することができる。その結果、第3装置においても、被検ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を精度良く検出することができる。
【0145】
尚、
図6に示した例においては、第3電気化学セル13cは、第2固体電解質体12sを第2電気化学セル12cと共有している。しかしながら、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12c)とは、それぞれ別個の固体電解質体を含んでもよい。
【0146】
更に、
図6に示した例においては、第3電気化学セル13cと第2電気化学セル12cとは互いの近傍に配設されている。しかしながら、第3電気化学セル13cの陰極である第5電極13aに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、第2電気化学セル12cの陰極である第3電極12aに到達する被検ガス中に含まれる酸素の濃度と、が等しいという条件を満足する限り、これらの電気化学セルの位置関係は特に限定されない。
【0147】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。