(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態において、La、Sr、Fe、Co、O元素を含む金属塩と、第1ポリマーと、Zn元素を含む金属塩と、第1溶媒とを混合して第1溶液を調整する第1調整工程と、前記第1溶液をエレクトロスピニング法で噴射して前駆体ファイバーを作製する噴射工程と、前記前駆体ファイバーを加熱してZn酸化物を有するペロブスカイト型酸化物を作製する焼成工程と、前記ペロブスカイト型酸化物をアルカリ溶液に含侵させてZn酸化物を除去する含侵工程と、を備える纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒の製造方法、が提供される。ただし、ペロブスカイト型酸化物とは、結晶相としてペロブスカイト相を有する酸化物である。
【0010】
発明者らは、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒について鋭意研究を行ったところ、以下の知見を得た。すなわち、ペロブスカイト型酸化物触媒の原料を含む第1溶液に添加剤、すなわちZn源を導入し、エレクトロスピニング法により第1溶液を紡糸し、紡糸で得られた前駆体ファイバーを熱処理し、熱処理で得られた繊維状のペロブスカイト型酸化物をアルカリ処理することで、比表面積の非常に大きな繊維状のペロブスカイト型酸化物触媒が得られる。比表面積が増える理由は、熱処理によりペロブスカイト型酸化物と共に形成されるZn酸化物がアルカリ処理により溶解除去されるため、Zn酸化物の存在した場所が細孔になり、細孔の数が増えるためである。その結果、電気化学反応が起こる領域の面積が増加し、電気化学反応の活性点が増加して、酸素還元活性が向上する。また、このペロブスカイト型酸化物触媒は繊維状の構造が絡まって隙間の多い形状を有する。そのため、このペロブスカイト型酸化物触媒を例えば空気電池の空気極に用いると、空気極の内部に細孔だけでなくマクロ孔が多く存在することになる。その結果、そのマクロ孔を介して電気化学反応に用いられる酸素や水の輸送を促進できる。以上のことから、本実施の形態により、良好な酸素還元活性を示す繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を得ることが可能となる。
【0011】
以下、本実施の形態に係る纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒の製造方法(以下、単に「本製造方法」ともいう。)について詳細に説明する。
【0012】
本製造方法では、La、Sr、Fe、Co、Oを構成元素として含むペロブスカイト型酸化物触媒であるLa
1−xSr
xFe
1−yCo
yO
3(0<x<1、0<y<1)を含む触媒を製造する。この触媒は、高い酸素還元活性及び酸素発生活性を有し、高い耐久性を更に有している点で好適である。ここで、より高い酸素還元活性、酸素発生活性及び耐久性が得られる観点から、0.6≦x<1;0.2≦y≦0.6が好ましく、0.7≦x≦0.9;0.3≦y≦0.5が更に好ましい。中でも、概ねx=0.8;y=0.4のLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3が特に好ましい。ただし、いずれの場合にも、不可避的不純物や上記特性に悪影響を与えないドーパントを含んでもよい。
【0013】
本製造方法の第1調整工程では、La、Sr、Fe、Co、O元素を含む金属塩と、第1ポリマーと、Zn元素を含む金属塩と、第1溶媒とを混合して第1溶液を調整する。ここで、原料となるLa、Sr、Fe、Co、O元素を含む金属塩としては特に制限はないが、例えば、Laを含む金属塩としてLa(NO
3)
3、La
2(CO
3)
3、Srを含む金属塩としてSr(NO
3)
2、SrCO
3、Feを含む金属塩としてFe(NO
3)
3、FeCO
3、Coを含む金属塩としてCo(NO
3)
2、CoCO
3がそれぞれ挙げられる。ただし、一つの金属塩がLa、Sr、Fe、Co、O元素のうちの複数の元素を含んでいてもよい。
【0014】
また、上記第1溶液に導入される添加剤、すなわちZnを含む金属塩としては、Zn(NO
3)
2、ZnCO
3が例示される。ここで、Znを含む金属塩は、上記原料と共に第1溶液に混合され、エレクトロスピニング法で紡糸され、熱処理された後、Zn酸化物となり、ペロブスカイト型酸化物上に析出する。このZn酸化物、すなわちZnOがアルカリ処理などで溶解除去されることにより、ペロブスカイト型酸化物表面に多数の細孔が形成され、比表面積を増加できる。このとき、酸処理ではなくアルカリ処理を行うので、ペロブスカイト型酸化物に影響はない。上記の添加剤は、Znを含む金属塩に限定されるものではなく、ペロブスカイト型酸化物中に取り込まれない、すなわちLa、Sr、Fe、Coのいずれかと置換可能でない元素、且つ、熱処理で形成される酸化物がアルカリ処理で溶解除去可能あればよい。そのような添加剤としては、ある種の両性元素を含む金属塩が例示される。両性元素としては、例えばAl、Sn、Pb、Beが挙げられる。Znを含む金属塩(添加剤)と、La、Sr、Fe、Co、O元素を含む金属塩とのモル比は、後述されるように、Zn酸化物とLaSrFeCoOペロブスカイト型酸化物との重量比が所望の比となるように設定される。その重量比については後述される。
【0015】
また、上記第1溶液に導入される第1ポリマーとしては、エレクトロスピニング法で使用可能な材料であれば特に制限はないが、例えば、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、PCL(ポリカプロラクトン)が挙げられる。また、上記第1溶液に導入される溶媒としては、エレクトロスピニング法で使用可能な材料であれば特に制限はないが、例えば、DMAc(ジメチルアセトアミド)、HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)、DMF(ジメチルフォルムアミド)が挙げられる。
【0016】
第1溶液における第1ポリマーとLa、Sr、Fe、Co及びZn元素を含む金属塩の合計との重量比は、1:99〜50:50が好ましく、5:95〜20:80がより好ましい。また、第1溶液における第1ポリマー及び金属塩の合計と第1溶媒との重量比は、5:95〜25:75が好ましく、10:90〜20:80がより好ましい。これらの重量比の範囲は、エレクトロスピニング法による所望の特性を有する紡糸を可能とする観点から決定される。
【0017】
本製造方法の噴射工程では、第1溶液をエレクトロスピニング法で噴射して前駆体ファイバーを作製する。すなわち、La
1−xSr
xFe
1−yCo
yO
3で表されるペロブスカイト型酸化物を形成するための前駆体を製造する。ここで、エレクトロスピニング法とは、シリンジなどに入ったポリマー溶液とコレクターとの間に高電圧を印可することで、シリンジの噴射口からコレクターに向かって押出されたポリマー溶液を帯電させ、静電反発により分裂させてコレクター上に細かな繊維を得る方法である。本製造方法の噴射工程において、エレクトロスピニング法を用いる理由は以下のとおりである。エレクトロスピニング法で製造される前駆体(ファイバー)は、湿式混合法により製造される前駆体(粉末試料)と比較して、高い比表面積を有することができる。そのため、その前駆体ファイバーから形成されるペロブスカイト型酸化物触媒もまた、高い比表面積を有することができ、よって電気化学反応に寄与することが可能な反応場を多くすることができる。特に、本実施の形態では、第1溶液に添加物を導入し、形成された酸化物をアルカリ溶解除去するという今までにはない斬新な方法で、その比表面積を更に著しく増大させることができる。
【0018】
エレクトロスピニング法におけるパラメーターとしては、溶液特性、紡糸条件、紡糸環境に大別されるが、中でもポリマー濃度、送液速度、雰囲気湿度、印加電圧、噴射口−コレクター間距離、溶媒種が重要である。これらのパラメーターの組み合わせによって、所望の特性を有するように、前駆体ファイバーの形態(形状、配向など)を調整できる。これらのパラメーターの値については、前駆体ファイバーから得られるペロブスカイト型酸化物触媒が所望の特性を有する範囲であれば特に制限はないが、例えば、ポリマー濃度、すなわち第1溶液に対する第1ポリマーの濃度は1〜50wt%が好ましく、5〜20wt%がより好ましい。送液速度は0.01〜5ml/hrが好ましく、0.1〜1ml/hrがより好ましい。雰囲気湿度は60%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。印加電圧は1kV〜100kVが好ましく、10kV〜50kVがより好ましい。噴射口−コレクター間距離は5〜50cmが好ましく、10〜30cmがより好ましい。溶媒種はDMAcが好ましい。その他の条件については、所望の前駆体ファイバーの形態(形状、配向など)を得られるように適宜調整される。
【0019】
本製造方法の焼成工程では、前駆体ファイバーを加熱してZn酸化物を有するペロブスカイト型酸化物を作製する。ここで、熱処理の温度としては、前駆体ファイバーがペロブスカイト型酸化物を形成可能であれば特に制限はなく、500℃〜1000℃が例示される。ただし、熱処理を1回行うのではなく、複数回行ってもよい。例えば、1回目の熱処理は120〜300℃、2回目の熱処理は300℃から600℃、3回目の熱処理は600℃〜1009℃などである。熱処理の雰囲気としては、前駆体ファイバーがペロブスカイト型酸化物を形成可能であれば特に制限はなく、不活性雰囲気でもよいし、酸化雰囲気であってもよい。不活性雰囲気は、Ar雰囲気やN
2雰囲気に例示される。このような熱処理により、前駆体ファイバーを、纎維状のペロブスカイト型酸化物触媒とすることができる。このとき、Zn金属塩のZnはペロブスカイト型酸化物にその成分として取り込まれることはほとんどなく、Znの酸化物、例えばZnOになる。ZnOは纎維状のペロブスカイト型酸化物触媒の表面だけでなく、内部にも分散していると考えられる。ここで、前駆体ファイバーは、熱処理の前に解砕されてもよい。
【0020】
また、ペロブスカイト酸化物触媒の比表面積をできるだけ大きくするべく、後述されるアルカリ処理によりZn酸化物が抜けた細孔を十分に多く形成する観点からZn酸化物は多い方が好ましい。その一方で、電気化学反応を多く起こさせるべく、反応を担うペロブスカイト酸化物を十分な量で形成する観点からペロブスカイト酸化物も多い方が好ましい。これらを考慮すると、La
1−xSr
xFe
1−yCo
yO
3で表されるペロブスカイト酸化物触媒とZnOで表されるZn酸化物との重量比は、1:9〜9:1が好ましく、4:6〜6:4が更に好ましい。中でも、概ね5:5(=1:1)が特に好ましい。
【0021】
本製造方法の含浸工程では、ペロブスカイト型酸化物をアルカリ溶液に含侵させてZn酸化物を除去する。アルカリ溶液としては、Zn酸化物を溶解除去可能であれば特に制限はないが、例えばNH
4ClやNaOHが挙げられる。このアルカリ処理により、纎維状のペロブスカイト型酸化物触媒の表面や内部に分散したZn酸化物が除去され、ペロブスカイト型酸化物触媒は酸処理ではないため溶解せずそのまま残存する。このとき、Zn酸化物の存在した場所が細孔になるため、纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒に多数の細孔が形成される。それにより、比表面積の著しく大きい纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒を得ることができる。この纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒は、電気化学反応が起こる活性点が非常に多く、酸素還元活性が非常に高い、という特性を備えることができる。
【0022】
このようにして得られた纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒を空気電池の空気極、すなわち電極体として用いる場合には、この纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒をカーボンに担持する。具体的には、纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒と、担体カーボンと、バインダーとを物理混合する。
【0023】
このとき、担体カーボンとしては、特に制限はないが、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、異元素ドープカーボン、メソポーラスカーボン、VGCF(気相成長法炭素繊維)などが挙げられる。好ましくは、導電性が高く、幾何学的比表面積、電気化学的比表面積が高く、かつ酸化還元耐性が高いもの、例えば、Cabot社製Vulcan(比表面積:242m
2/g)、ライオン社製KB(比表面積:1320m
2/g)、Timcal社製C65(比表面積:65m
2/g)などの比表面積65m
2/g以上のものが挙げられる。
【0024】
また、纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒と担体カーボンとの合計に対する纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒の割合、すなわち触媒担持量は、5wt%から95wt%であり、好ましくほ30wt%〜60wt%であり、より好ましくは40〜50wt%である。発明者らの研究によれば、電極触媒での酸素還元反応、すなわち4電子還元反応(O
2+2H
2O+4e
−→4OH
−)は、最初に起こる第1の2電子還元反応(O
2+H
2O+2e
−→HO
2−+OH
−)と、続いて起こる第2の2電子還元反応(HO
2−+H
2O+2e
−→3OH
−)とから成り立っていると推測される。そして、第1の2電子還元反応は主に担体カーボンで起こり、第2の2電子還元反応は主に纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒で起こると推測される。そのため、上記の触媒担持量の範囲と比較して、触媒担持量が多すぎる場合には電子伝導性が不足すると共に担体カーボンの第1の2電子還元反応が起こり難くなる。一方、担持量が少なすぎる場合には第1の2電子還元反応は起こるが、第2の2電子還元反応が十分に起こらず、担体カーボンが反応中間体であるぺロオキサイド(HO
2−等)の攻撃により酸化され分解されてしまい、電極触媒の耐久性が低下すると共に反応速度が低下する。
【0025】
また、バインダーとしては、特に制限はないが、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)のようなイオン伝導性ポリマーが好適に用いられる。添加するバインダーの量はとしては、電極厚み、酸素透過性、電子伝導及びイオン伝導性を最適化し良好な三相界面を形成するために適宜調整すれば良く、5wt%〜75wt%が例示される。
【0026】
空気極を製造する場合には、上記の纎維状ペロブスカイト型酸化物触媒と担体カーボンとバインダーとの混合物を圧延することにより、自立膜の電極体を形成する。あるいは、上記の混合物を含むスラリーを、任意の塗布方法により集電体に塗布し、乾燥させ、必要に応じて、圧延することで電極体を形成する。空気と対向する側の電極体の表面には、電解液の漏液を防止するために疎水処理などを施すことが好ましい。
【0027】
集電体は、酸素透過性及び電子伝導性など空気電池の空気極として機能し得る支持体、例えば発泡金属、金属メッシュ、カーボンペーパーなどの多孔体や、アニオン電解質膜を用いることができる。金属の材料としては、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンが例示される。集電体へのスラリーの塗布方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法およびスクリーン印刷法が例示される。
【0028】
また、本製造方法では、カーボン元素を含む材料と、第2ポリマーと、第2溶媒とを混合して第2溶液を調整する第2調整工程を更に備えていてもよい。この場合、噴射工程は、エレクトロスピニング法で、第1調整工程の第1溶液と第2調整工程の第2溶液とを並行して噴射する。第2溶液におけるカーボン元素を含む材料としては、カーボンを含む材料であれば特に制限はないが、PAN(ポリアクリロニトリル)、スクロースのような糖類などが例示される。また、第2溶液におけるポリマー及び溶媒については、第1溶液と同様のものを用いることができる。
【0029】
第2溶液における第2ポリマーとカーボン元素を含む材料との重量比は、5:95〜50:50が好ましく、10:90〜30:70がより好ましい。また、第2溶液における第2ポリマー及びカーボン元素を含む材料の合計と溶媒との重量比は、5:95〜25:75が好ましく、10:90〜20:80がより好ましい。これらの範囲は、エレクトロスピニング法による所望の特性を有する紡糸を可能とする観点から決定される。
【0030】
第2調整工程及び噴射工程において、La
1−xSr
xFe
1−yCo
yO
3で表されるペロブスカイト型酸化物触媒の前駆体を調整する過程で、担体となるカーボン源を導入することで、焼成工程後にペロブスカイト型酸化物触媒とカーボン担体とが緊密に複合化した構造を形成することができる。この場合、ペロブスカイト型酸化物触媒とカーボンとを単に物理混合する場合と異なり、担体かつ導電体であるカーボンと繊維状のペロブスカイト型酸化物触媒とが高度に密接した構造が実現される。そのため、ペロブスカイト型酸化物触媒に密接したカーボン上での第1の2電子還元反応によって生成する反応中間体であるペロオキサイド(HO
2−等)が効率的にペロブスカイト型酸化物触媒にスピルオーバーされる。その後、最適組成を有し比表面積の高い繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒上で第2の2電子還元反応が起こるため、狙いとする4電子還元反応を効率的に起こすことができ、最終生成物のOH
−を効率的に生成することが可能となる。その結果、酸素還元反応に関する過電圧が低減し、電池出力特性を向上させることができる。このようなカーボンは、電子還元反応を促進する助触媒と見ることもできる。
【0031】
以上説明されたように、本製造方法を用いた繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では、添加物由来のZn酸化物を溶解除去して細孔を形成し電気化学反応面積を増大することにより、酸素還元反応を向上させることができる。更に、前駆体ファイバーの形成時にカーボン源を加えて担体かつ導電体であるカーボンとペロブスカイト型酸化物触媒とが高度に密接した構造を形成することにより、酸素還元特性を更に向上させ、酸素発生過電圧も改善することができる。加えて、このような繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を空気電池の空気極に用いれば、触媒が繊維形状を有しているので、空気極内のマクロ孔が多く存在するために、電気化学反応に用いられる酸素や水の輸送を促進できる。また、ペロブスカイト型酸化物触媒に用いる金属としてFeを含むことにより、触媒のコストを低減することができる。
【0032】
以下、本発明の実施の形態に係る空気電池について具体的に説明する。
【0033】
(空気極)
空気極としては、上記の製造工程で製造された電極体を空気極(触媒層)として用いることができる。
【0034】
(負極)
負極は、負極活物質と負極集電体とを備えている。負極活物質としては、金属材料、合金材料又は炭素材料が例示される。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の第13族元素、亜鉛、鉄、ニッケル、チタン銀等の遷移金属、白金等の白金族元素、これらの金属を含有する(合金)材料、又は、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。更に、リチウムイオン電池等に用いられ得る負極材料が挙げられる。特に、効率的な充放電を行うことができる金属を含む材料として、例えば、AB
5型希土類系合金(LaNi
5など)及びBCC合金(Ti−Vなど)のような水素吸蔵合金や、白金、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム及びカドミウムのような金属が挙げられる。また、負極集電体の材料としては、銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボンが例示される。また、負極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ状等が例示される。
【0035】
負極は、例えば負極活物質が粉末状である場合などでは、導電助剤及び/又はバインダーを更に含んでいてもよい。導電助剤及びバインダーとしては上記空気極の担体カーボン及びバインダーと同様の材料を用い得る。
【0036】
(電解質)
電解質は、空気極及び負極との間でイオンの伝導を行うものであり、液体電解質、固体電解質、ゲル状電解質、ポリマー電解質、又はそれらの組み合わせを用いることができる。液体電解質及びゲル状電解質は、水系電解液及び非水系電解液を用いることができる。
【0037】
水系電解液としては、アルカリ水溶液や、酸水溶液などが例示され、負極活物質の種類に応じて適宜選択することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液などが例示される。酸水溶液としては、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液などが例示される。このうち、水系電解液としては、高アルカリ水溶液が好ましい。例えば、8MのKOHである。
【0038】
非水系電解液としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒又はイオン液体が挙げられる。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびフルオロエチレンカーボネート(FEC)などの環状カーボネート、γ−ブチロラクトン(GBL)などの環状エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)などの鎖状カーボネート、又はそれらの組み合わせなどが例示される。イオン液体としては、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(DEMETFSA)、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)、又はそれらの組み合わせなどが例示さえる。また、有機溶媒とイオン性液体とを組み合わせてもよい。また、有機溶媒やイオン性液体には支持塩を溶解させてもよい。支持塩は、例えばリチウム空気電池の場合にはLiPF
6、LiBF
4、LiN(CF
3SO
2)
2、LiCF
3SO
3、などに例示される。
【0039】
非水系電解液は、ポリマーを添加してゲル化して用いることもできる。非水電解液のゲル化の方法としては、例えば、非水系電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリマーを添加する方法が挙げられる。
【0040】
(その他の構成要素)
その他の構成要素として、セパレータ(図示されず)を用いてもよい。セパレータは、上述した空気極と負極との間に配置される。セパレータの材料としては、ポリエチレン及びポリプロピレンの多孔膜に例示される。上記セパレータは、単数層であっても良く、複数層であっても良い。
【0041】
(電池容器)
空気電池の電池容器としては、金属缶、樹脂、ラミネートパック等、空気電池の電池容器として通常用いられる材料を使用することができる。電池容器には、酸素を供給するための孔を任意の位置に設けることができ、例えば空気極の空気との接触面に設けることができる。
【0042】
なお、本実施の形態に係る繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の用途は、上述した空気電池の空気極に限定されることはなく、他の電池、例えば燃料電池の空気極としても用いることが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示す。以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、各測定は、以下の装置で行った。
充放電特性の測定装置:BioLogic社製VMP3
比表面積の測定装置:日本ベル社製BELLSORP
Gurley数の測定装置:東洋精機製作所社製ガーレー式デンソメーター(透気度試験機)
【0044】
(I)繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の評価方法
[実施例1]
実施例1の試料は、La
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒であり、作製過程で、助触媒としての機能を有するカーボンの前駆体(PAN)と、酸化物の比表面積を増大させるための添加剤(Zn(NO
3)
2)とが導入された。ただし、添加剤(Zn(NO
3)
2)から転化したZnOは最終的には溶解除去された。
【0045】
(1)試料の作製
(1−1)前駆体作製
まず、La(NO
3)
3、Sr(NO
3)
2、Fe(NO
3)
3及びCo(NO
3)
2と、Zn(NO
3)
2と、PVPと、DMAcとを混合した第1溶液を形成した。
ただし、ペロブスカイト型酸化物触媒の組成がLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3となるように、La、Sr、Fe及びCoの金属塩のモル比をLa(NO
3)
3:Sr(NO
3)
2:Fe(NO
3)
3:Co(NO
3)
2=2:8:6:4とした。また、焼成工程後のLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3とZnOとの重量比が1:1となるように、添加剤の金属塩であるZn(NO
3)
2の量を決定した。また、La、Sr、Fe、Co及びZnの金属塩の合計とPVPとの重量比が1:9となるように、PVPの量を決定した。また、La、Sr、Fe、Co及びZnの金属塩の合計及びPVPとDMAcとの重量比が10:90となるように、DMAcの量を決定した。
また、PANと、PVPと、DMAcとを混合した第2溶液を形成した。ただし、PANとPVPとDAMcとの重量比がPAN:PVP:DAMc=8:2:80となるようにPAN、PVP及びDMAcの量を決定した。
次にエレクトロスピニング法により前駆体ファイバーを作製した。エレクトロスピニング法では、二つのシリンジにそれぞれ第1溶液及び第2溶液を入れ、各シリンジの噴射口−コレクター間に所定の電圧を印加しつつ、各シリンジの噴射口先端から第1溶液及び第2溶液を別々に同時に同一の一定速度でコレクターへ向けて噴射した。それにより、コレクター上に第1溶液の繊維と第2溶液の繊維とが絡まった前駆体ファイバーが形成された。
ただし、エレクトロスピニング法の詳細な条件は以下の通りである。
印過電圧:30kV
送液速度:0.3ml/hr
横行速度:9.6cm/min
ターゲット回転速度3ml/mim
ポリマー種:ポリビニルピロリドン(PVP)
ポリマー重量パーセント:10wt%
溶媒種:ジメチルアセトアミド(DMAc)
噴射口−コレクター問距雛:15cm
カーボン前駆体種:ポリアクリロニトリル(PAN)
カーボン前駆体種重量パーセント:10wt%
雰囲気温度:室温
雰囲気相対湿度:35%以下
(1−2)繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の作製
上記の前駆体ファイバーを解砕後、Ar雰囲気において、アルミナボート上で170℃、500℃、650〜950℃の三段階熱処理を行い、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を得た。
また、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を2MのNH
4C1に含浸させることにより、添加剤(Zn(NO
3)
2)が熱処理により変化してできたZnOを溶解除去した。
(1−3)電極体の作製
上述した繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒と、担体カーボンであるTimcal社製C65(比表面積:65m
2/g)と、バインダーであるPTFEとを物理混合した後、圧延してシート状の電極体を作製した。繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒と、C65と、PTFEとの重量比は、40:40:20である。
【0046】
(2)試料の評価
(2−1)結晶性の評価
上記(1−2)で得られたこの繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の結晶構造をXRD(X−ray Diffraction)で計測した。また、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の表面構造をSEM(Scanning Electron Microscope)又はTEM(Transmission Electron Microscope)で計測した。
(2−2)比表面積(Specific Surface Area)の評価
上記(1−2)で得られたこの繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の比表面積をガス吸着法で計測した。
(2−3)Gurley数の評価
上記(1−3)で得られたこの繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を用いた電極体のGurley数(ガスの通過に対する膜の抵抗性を示す尺度)をGurley試験によって測定した。
(2−4)還元電流評価
上記(1−4)で得られたこの繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒を用いた電極の酸素還元活性を評価する手法として、以下に示すCV測定法を用いた。CV測定法は、スキャンレート10mV/secにて、−0.5Vから0.8V(vs.Hg/HgO)の範囲で3サイクル行った。空気極(作用極)には上記(1−3)で得られた電極体を用い、対極にはPtメッシュ(2cm×2cm)を用い、参照極にはHg/HgO電極を用いた。
【0047】
[実施例2]
実施例2の試料は、実施例1と同じLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒であるが、作製過程で、助触媒としての機能を有するカーボンの前駆体(PAN)を導入しなかった点で実施例1と相違する。
試料の作製及び資料の評価については、実施例1と同じである。
【0048】
[参考例]
参考例の試料は、La
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒であり、作製過程で、酸化物の比表面積を増大させるための添加剤(Zn(NO
3)
2)を導入しなかった点で実施例1と相違する。
試料の作製及び資料の評価については、実施例1と同じである。
【0049】
[比較例1]
比較例1の試料は、La
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒であり、作製過程で、助触媒としての機能を有するカーボンの前駆体(PAN)と酸化物の比表面積を増大させるための添加剤(Zn(NO
3)
2)をいずれも導入しなかった点で実施例1と相違する。
試料の作製及び資料の評価については、実施例1と同じである。
【0050】
[比較例2]
比較例2の試料は、La
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒であるが、上記(1−1)前駆体作製の方法がクエン酸錯体法を用いている点、及び、作製過程で、助触媒としての機能を有するカーボンの前駆体(PAN)と酸化物の比表面積を増大させるための添加剤(Zn(NO
3)
2)をいずれも導入しなかった点で実施例1と相違する。
試料の作製及び資料の評価については、実施例1と同じである。
(1−1)クエン酸錯体法を用いた前駆体作製
まず、La(NO
3)
3、Sr(NO
3)
2、Fe(NO
3)
3及びCo(NO
3)
2の金属塩を硝酸水溶液に溶解させた後、金属カチオンに対し2当量のクエン酸をエタノールに溶解したものを更に加えて、十分に攪拌・混合した。この溶液を室温にて十分混合した後、還流装置を用いて70℃で2時間攪拌し、クエン酸が金属塩混合物に配位した錯体を生成した。得られた生成物を電気炉で400℃まで9時間段階的に焼成した後、焼成炉にて600℃4時間空気焼成した。
【0051】
上記各実施例、参考例及び比較例の試料をまとめたものを表1に示す。ただし、ES法はエレクトロスピニング法の意味である。
【表1】
【0052】
(II)繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒の評価結果
(1)結晶性の評価
図1は、実施例1のLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒のXRD測定結果を示す回折パターンである。ペロブスカイト相に帰属される回折パターンが検出されており、ほぼペロブスカイト相単相であることが確認された。図示しないが実施例2、参考例、比較例1〜2もほぼペロブスカイト相単相であることが確認された。
また、
図2及び
図3は、実施例1のLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成される繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒のSEM観察の結果を示す写真である。ただし、
図3は
図2の一部を拡大した写真であり、
図2の横幅が2μmに相当し、
図3の横幅が500nmに相当する。実施例1の繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒は、ペロブスカイト型酸化物触媒で形成された繊維状の部分と、カーボンで形成された粒状の部分とが存在し、カーボンの粒状部分がペロブスカイト型酸化物触媒の繊維状の部分の表面に多量に密に析出していることが分った。ただし、これらカーボンの粒状部分は、カーボン源(PAN)が熱処理により炭化したものである。すなわち、ペロブスカイト型酸化物触媒とカーボンとが極めて近接し、相互作用し易い位置に配置されている。そのため、カーボンは酸素還元反応の助触媒として機能し易い位置にあるということができる。また、この繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒は繊維状であり、その繊維が絡まって隙間の多い形状を有していることも確認された。
一方、
図4は、比較例2のLa
0.2Sr
0.8Fe
0.6Co
0.4O
3で構成されるペロブスカイト型酸化物触媒(クエン酸錯体法)のTEM観察の結果を示す写真である。ペロブスカイト型酸化物触媒は黒っぽい箇所であり、粉末状であり、繊維状ではないことが分った。
【0053】
(2)比表面積(Specific Surface Area:SSA)の評価
評価結果が下記表2に示されている。表2に示されるように、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒(実施例1、2、参考例、比較例1)はクエン酸錯体法によるペロブスカイト型酸化物触媒と比較して、比表面積が高かった。また、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では、助触媒として機能する前駆体(PAN)を導入すると(参考例)比表面積が更に高くなった。触媒繊維の上に粒状炭素が形成されたためと考えられる。また、比表面積増大のための添加剤(Zn(NO
3)
2)を導入すると(実施例2)更に比表面積が高くなった。触媒繊維中のZnOが除去され細孔が増えたためと考えられる。また、両方導入すると(実施例1)比表面積が最も高くなった。特に、実施例1、2の繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では比表面積が20m
2/g以上となることが分った。
【0054】
(3)Gurley数(ガーレー数)の評価
Gurley数の値が低いほど透気度(ガスの通りやすさを表す指標)が高いことを示す。評価結果が下記表1に示されている。評価結果が下記表2に示されている。表2に示されるように、繊維状のペロブスカイト型酸化物触媒(実施例1、2、参考例、比較例1)はクエン酸錯体法による粒状のペロブスカイト型酸化物触媒と比較してGurley数が低く、空気透過性が高かった。また、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では、助触媒として機能する前駆体(PAN)を導入すると(参考例)Gurley数が低くなった。粒状炭素の形成により隙間が増加したためと考えられる。また、比表面積増大のための添加剤(Zn(NO
3)
2)を導入すると(実施例2)更にGurley数が低くなった。細孔の形成により隙間も増えたためと考えられる。また、両方導入すると(実施例1)Gurley数が最も低くなった。特に、実施例1、2の繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒ではGurley数が4200s以下となることが分った。そのようにGurley数が低いために、特に大電流領域において高い酸素還元特性を示すと推察される。
【0055】
(4)還元電流評価
図5〜
図7は実施例1〜2、参考例の繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒のCV測定結果を示すグラフであり、
図8〜
図9は比較例1〜2のペロブスカイト型酸化物触媒のCV測定結果を示すグラフである。いずれも縦軸は還元電流を示し、横軸は電位(vs.SHE)を示す。それらをまとめた結果が下記表2に示されている。表2に示されるように、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒(実施例1、2、参考例、比較例1)はクエン酸錯体法によるペロブスカイト型酸化物触媒と比較して、酸素還元電流の立ち下りが速く、還元電流値が大きかった。すなわち、酸素還元の反応速度が速く(グラフの横軸切片)、酸素還元活性が大きかった。また、繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では、助触媒として機能する前駆体(PAN)を導入すると(参考例)還元電流値が大きく、すなわち酸素還元活性が大きくなった。触媒繊維の上に粒状炭素が形成され、4電子還元反応が効率的に起きたためと考えられる。また、比表面積増大のための添加剤(Zn(NO
3)
2)を導入すると(実施例2)酸素還元の反応速度が速くなり、更に還元電流値が大きく、すなわち酸素還元活性が大きくなった。細孔の増加して電気化学反応の活性点が増加したためと考えられる。また、両方導入すると(実施例1)酸素還元の反応速度が最も大きくなり、還元電流値が最も大きく、すなわち酸素還元活性が最も大きくなった。特に、実施例1、2の繊維状ペロブスカイト型酸化物触媒では還元電流値が250mA/cm
2以上となることが分った。
【0056】
上記各実施例、参考例及び比較例の評価結果をまとめたものを表2に示す。
【表2】