(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的なダイナミックスピーカは、振動板をボイスコイルモータで往復駆動するピストンモーションにより音を発するスピーカであり、低い周波数ではほぼ点音源として機能し、広い指向特性を有するが、振動板の口径と再生音の半波長がほぼ同等になる周波数以上の帯域では、指向性が鋭くなる。このため、高音域の再生には、小口径の振動板を使用した小型のスピーカが用いられる。 また、ダイナミックスピーカの動作原理と逆の動作原理を有するダイナミックマイクロホンでも、上記と同様のことが言える。即ち、広い指向性で高音域を収集するには、小口径の振動板を使用した小型のマイクロホンが用いられる。
【0003】
これに対してリッフェル型スピーカは、一対の長方形の湾曲板により振動板が構成され、中高音域での指向性が広く、また、振動板の湾曲方向に沿う横方向に音が広がり、縦方向にはほとんど広がらないという特性を有する。
【0004】
このようなリッフェル型スピーカとして、従来、例えば特許文献1又は特許文献2に開示されたものがある。
特許文献1には、高分子樹脂フィルムの中央部分にボイスコイルとしての導電体パターンをプリント形成し、その中央部分を折り返し加工して接着することによって、導電体パターンを有する平板状の部分と、湾曲形状の第1,第2の振動部とを一体化して備える振動板が形成されており、この振動板の平板状の部分は磁気回路内の磁気ギャップ内に配置され、両振動部の先端は支持部材に固定された構造のスピーカが開示されている。
特許文献2には、振動板中央部が凹部を形成した状態で折り返され、その凹部内に、長円の環状に巻回された偏平なボイスコイルが配置され、そのボイスコイルを上下に離間した二つの磁気ギャップ内に配置した構造のスピーカが開示されている。このスピーカにおいても、振動板の外周部は、環状のフレーム上に固定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種のリッフェル型スピーカは、低音域での再生には適さないため、可聴帯域の全域を再生するためには、別途、低音域用のスピーカ(ウーハー)を用いたマルチスピーカシステムとする必要がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、1本のユニットで低音域から高音域までの広い周波数帯域に亘って広い指向性を有する安価な電気音響変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気音響変換器は、一対の縦割り筒状部の各々の凸面からなる一対の凸面を備え、前記一対の縦割り筒状部の各々の一方の側部どうしの間で谷部
が形成
され、前記谷部の両端で前記一対の縦割り筒状部の間の空間が連結板により閉塞された振動体と、該振動体の前記谷部の深さ方向に沿う振動と該振動に対応する電気信号との変換を行う変換部と、前記振動体における前記一対の縦割り筒状部の各々の他方の側部を前記振動の方向に沿って振動可能に支持する支持部と、を備える。
【0009】
この電気音響変換器は、一対の縦割り筒状部の各々の凸面が振動面となるので、本発明をスピーカに適用する場合、リッフェル型スピーカと同様に中高音域で広い指向性を有しており、しかも、変換部により振動させられる振動体は、その全体がピストンモーションするので、ダイナミックスピーカと同様に低音域においても高い音圧を有する。したがって、1本のスピーカユニットにより低音域から中高音域までの可聴帯域の全域で広い指向性で再生可能なフルレンジスピーカユニットを実現することができる。
本発明をマイクロホンに適用する場合も、一対の縦割り筒状部の各々の凸面が振動面であり、その振動体の全体が一様に振動することにより、感度を維持しながら指向性が良好となり、低音域から高音域まで広い周波数帯域に亘って広い指向性で収音することができる。
また、谷部の両端の連結版により、谷部の両端から振動体裏面側へ音波が抜けることを防止し、振動体の前面から効率的に放音又は収音することができる。
【0010】
本発明の電気音響変換器において、前記支持部は、前記振動体及び前記変換部を支持する支持体と、一端が前記振動体の前記他方の側部に固定されるとともに他端が前記支持体に固定され、前記振動体の前記他方の側部を前記振動体の振動の方向に沿って振動可能に支持するエッジ部と、を備え、前記振動体の前記谷部の深さ方向の剛性が、前記エッジ部の前記谷部の深さ方向の剛性よりも大きくなるように構成されるものとしてもよい。
【0012】
本発明の電気音響変換器において、前記振動体は、前記一対の縦割り筒状部としての一対の湾曲板と、前記一対の湾曲板の各々の湾曲形状を保持する補強部とを備えるものとしてもよい。
この電気音響変換器は、縦割り筒状部の形状特性により中高音域での指向性が広いので、分割振動させる必要はなく、湾曲板の湾曲形状を補強部により保持することにより、ピストンモーションを先端まで確実に伝達することができ、低音域における安定した指向性を確保することができる。
【0013】
この場合、前記補強部は、前記湾曲板の表面又は裏面の少なくともいずれかに形成されたリブであるとよい。
湾曲板の表面又は裏面のいずれか、又はその両面に補強部を形成することができる。
湾曲板の表面に形成する場合は、縦割り筒状部の周方向に沿って形成するとよい。縦割り筒状部に沿った湾曲板は、その湾曲方向に沿う横方向への指向性は広いが、縦方向には狭いため、湾曲板の表面に周方向(横方向)に沿ってリブを設けたとしても、音響的な影響は少ない。
なお、リブは、棒状又は板状のものを採用することができる。
【0014】
あるいは、前記補強部は、前記湾曲板の裏面を覆うように形成されたブロック体とすることもできる。
湾曲板の裏面を全面的に補強することができる。ブロック体としては、軽量化のため発泡樹脂が好適である。
【0015】
本発明の電気音響変換器において、前記支持部は、支持枠と、前記振動体の外周縁部を前記支持枠に移動可能に支持するエッジ部とを有し、前記振動体は、前記一対の縦割り筒状部の外周縁部に、前記一対の縦割り筒状部の各々の他方の側部から錐形状に延在するコーン部を有しており、前記エッジ部は、前記コーン部の外周縁部にリング状に設けられているとよい。
振動体の一対の縦割り筒状部の外周縁部にエッジ部を設ける場合、縦割り筒状部の外周縁が複雑な形状であるため、エッジ部も複雑になるが、縦割り筒状部から錐形状に延在するコーン部を介在させることにより、エッジ部を円形リング状等の単純形状とすることができ、さらに安価に製造することが可能になる。
【0016】
さらに、本発明の電気音響変換器は、各々が凸状部の表面である一対の凸面を備え、各々の一方の端部どうしが各々の他方の端部どうしよりも近接して配置されて前記一対の凸面の間に谷部
が形成
され、前記谷部の両端で前記一対の凸面の間の空間が連結板により閉塞された振動体と、前記振動体の前記谷部の深さ方向に沿う振動と前記振動に対応する電気信号との間の変換を行う変換部と、前記振動体及び前記変換部を支持する支持体と、一端が前記振動体の外周縁部に固定されるとともに他端が前記支持体に固定され、前記外周縁部を前記振動の方向に沿って振動可能に支持するエッジ部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電気音響変換器をスピーカに適用した場合、このスピーカは、低音域においてはピストンモーションにより高い音圧を有し、中低音域においては縦割り筒状部の凸面からの再生音の放射により広い指向性を有しており、1本のスピーカユニットにより低音域から中高音域までの広い範囲で広い指向性を有するフルレンジスピーカユニットを安価に実現することができる。また、本発明の電気音響変換器をマイクロホンに適用した場合も、このマイクロホンは、低音域から高音域まで広い周波数帯域に亘って広い指向性で収音することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
今回発明者らがリッフェル型スピーカの動作原理の解析を行った結果、その指向性の広さが、高域での振動領域が線音源に集中することに起因するのではなく、振動板の形状そのものに依るものであることを見出した。そこで、この形状の振動板を保持したまま、ピストンモーションさせれば高域の指向性を保ったまま、低域までの再生が可能なスピーカユニットが実現可能であることに到達した。
【0020】
以下、本発明の電気音響機器をスピーカに適用した実施形態について図面を参照して説明する。
図1〜
図5は、本発明の第1実施形態のスピーカ(電気音響機器の一例)を示す。
この実施形態のスピーカは、振動体1と、この振動体1を往復駆動するアクチュエータ(変換部の一例)2と、これら振動体1及びアクチュエータ2を支持するための支持枠3と、振動体1を支持枠3に往復移動自在に支持するエッジ部4とを備えている。
なお、
図1において、エッジ部4が設けられている側を上、アクチュエータ2が設けられている側を下とするように上下方向を設定し、後述するように矩形状に形成されている支持枠3の長辺方向を縦方向、短辺方向を横方向とする。また、上方を向く面を表面、下方を向く面を裏面とし、さらに、図示したように、縦方向をx方向、横方向をy方向、上下方向をz方向と称する場合もあるものとする。
【0021】
振動体1は、一対の縦割り筒状部(凸状部)の凸面5が並列に形成されるとともに、隣接する凸面5の一方の側部どうしの間(又は一対の縦割り筒状部の凸面5どうしの間)で谷部6を形成した表面形状とされている。なお、一対の縦割り筒状部は、筒形状の部材を、縦方向(筒部の軸方向)に分割して得られる複数の部材のうちの2つの部材によって構成されるものである。図示例の振動体1は、各々が凸面5を有する一対の縦割り筒状部としての一対の湾曲板11と、これら湾曲板11を連結する連結板12とにより構成されており、両湾曲板11の谷部6を形成している側部どうしが接合された状態とされている。連結板12は、その谷部6の縦方向の両端に、谷部6全体を塞ぐように設けられている。
また、一対の湾曲板11によって形成される一対の凸面5は、互いに向き合って配置されている。言い換えれば、一対の湾曲板11は、一対の湾曲板11の一方の湾曲板の凸面5と他方の湾曲板の凹面が互いに向き合うように配置されておらず、また、一対の湾曲板11の一対の凹面どうしが互いに向き合うように配置されていない。一対の凸面5の各々の一端部どうしが、一対の凸面5の他端部どうしよりも互いに近接して配置されるか、または、一対の凸面5の各々の他端部どうしが離間して配置され、一端部どうしが互いに接触して配置されることにより、一対の凸面5の間に一端部近傍を底部とする谷部6が形成される。
なお、この振動体1においては、谷部6の延在方向が縦方向、これと直交する方向が横方向である。
この振動体1は、その材質が限定されるものではなく、スピーカの振動板として一般的に用いられる合成樹脂、紙、金属等の材料を用いることができ、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂からなるフィルムを真空成形することにより、比較的容易に成形することができる。
【0022】
また、湾曲板11の凸面5は、必ずしも単一円弧面でなくてもよく、複数の曲率を連続させたもの、凸面5の周方向(横方向)に沿う断面が放物線形状やスプライン曲線など曲率が一定ないし連続的に変化するもの、角筒状面としたもの、階段状に複数の段差部を有する形状としたものなどを採用することができる。また本実施形態の凸面5は、一方向(凸面5の周方向:横方向)に湾曲し、その一方向と直交する方向(凸面5の縦方向であり、縦割り筒状部の筒部の軸方向)へは直線状となっているが、凸面5は、縦方向に沿う断面の曲率が横方向に沿う断面の曲率(一定の曲率又は連続的に変化する複数の曲率)よりも小さい曲面(凸面)であっても良い。そして、一対の湾曲板11が、その凸となる方向を同じ表面側に向けて並列に配置されるとともに、隣接する側部どうしが、接線方向を共通にした状態で接合されている。両湾曲板11の接合部13は、両湾曲板11の一側部を接着するなどにより、例えば帯板状に形成される。そして、この接合部13に沿って、両湾曲板11の間に、凸面5の縦方向に沿う直線状に谷部6が形成されている。
また、均一な再生音を得るために、
図4に示すように、両湾曲板11を、その断面が接合部13の共通の接線Lに対して線対称になるように形成することが好ましい。ただし、本発明においては、両湾曲板11の各々の断面は、必ずしも線対称でなくてもよい。
【0023】
アクチュエータ2は、例えばボイスコイルモータが用いられ、湾曲板11の接合部13に設けられたボイスコイル20と、支持枠3に固定された磁石機構21とにより構成される。
図1及び
図2に示す例では、湾曲板11の接合部13の長さ方向に間隔をおいて2個のアクチュエータ2が設けられている。
ボイスコイル20は、円筒状のボビン20aの回りにコイル20bが巻回されたものであり、その直径方向に湾曲板11の接合部13が配置されるように、ボイスコイル20の上端と接合部13の下縁とが接着剤等を介して固着されている。そして、このボイスコイル20の外周部がダンパー22を介して支持枠3に支持されており、ボイスコイル20は支持枠3に対してボイスコイル20の軸方向に沿って往復移動自在である。ダンパー22は一般的なダイナミックスピーカに用いられる材料のものを適用することができる。
磁石機構21は、環状の磁石23と、この磁石23の一方の極に固定されたリング状のアウターヨーク24と、他方の極に固定されたインナーヨーク25とを備えており、インナーヨーク25の中心のポール部25aの先端部がアウターヨーク24内に配置されることにより、これらアウターヨーク24とインナーヨーク25との間に、環状に磁気ギャップ26が形成され、この磁気ギャップ26内にボイスコイル20の端部が挿入状態に配置されている。
【0024】
支持枠3は、例えば金属材により成形され、図示例では、矩形の枠状に形成されたフランジ部30と、フランジ部30の下方に延びる複数のアーム部31と、これらアーム部31の下端に形成された一対(アクチュエータ2の個数分)の環状フレーム部32とを備えている。そして、そのフランジ部30内の空間に、谷部6がフランジ部30の長辺方向と平行となるように振動体1が配置され、振動体1の外周縁部、つまり両湾曲板11の接合部13とは反対側の側部及び連結板12の上端部がエッジ部4を介してフランジ部30の上面に支持されている。したがって、エッジ部4は、振動体1の外周縁部に対応して矩形の枠状に形成される。このエッジ部4も、一般的なダイナミックスピーカに用いられている材料のものを適用することができる。
なお、谷部6の深さ方向における振動体1の変形し難さの度合い(剛性)が、谷部6の深さ方向におけるエッジ部4の変形し難さの度合い(剛性)よりも大きくなるように、振動体1及びエッジ部4が形成される。言い換えれば、振動体1及びエッジ部4は、振動体1が谷部6の深さ方向に振動する際に、振動体1の振動によって引き起こされる振動体1の変形量が、振動体1の振動によって引き起こされるエッジ部4の変形量よりも小さくなるように構成される。
本発明において、振動体1を谷部6の深さ方向(z方向)に振動可能に支持する支持部35は、この実施形態では、支持枠3とエッジ部4によって構成されている。
なお、エッジ部4は、一対の湾曲板11の横方向の外周縁部、つまり、湾曲板11の接合部13が設けられた端部と反対の端部の縁部(湾曲板11のエッジ部4への接続端ともいう)にエッジ部4の一端が固定され、支持枠3にエッジ部4の他端が固定されている。従って、一対の湾曲板11の外周縁部は、エッジ部4が変形することにより、支持枠3に対して上下方向に相対的に振動することができる。従って、エッジ部4は、振動体1の全体が上下方向へ振動することを許容しつつ、振動体1を支持している。
【0025】
この支持枠3に振動体1を取り付けた状態において、凸面5は、
図4に示すように、湾曲板11とエッジ部4との接続端どうしを結ぶ線(図示例では、接続端における接線となる)を境界線Hとするとき、接続端から谷部6に向かうにしたがって境界線Hから漸次離間する方向に湾曲する。
前述したように、凸面5は、単一円弧面だけでなく、複数の曲率を連続させたもの、断面が放物線形状やスプライン曲線など曲率が一定ないし連続的に変化するもの、角筒状面としたもの、階段状に複数の段差部を有する形状としたものなどを採用することができるが、エッジ部4との接続端どうしを結ぶ境界線Hを超えない形状の凸面とするのが好ましい。
【0026】
なお、湾曲板11の接合部13は、両湾曲板11の一側部どうしを接着して帯板状に形成する形態としたが、
図6に示すように、湾曲板11の一側部の間に他の帯板状の補強板15を介在させた状態で接着する、あるいは、
図7に示すように、一枚のフィルムから接合部となる中央部を折り返し状態に成形することにより、両湾曲板11の間に折り返し状態に断面V字状又はU字状の接合部16を形成する、などの形態とすることも可能である。その他、
図6に示す帯板状の補強板15に代えて、ワイヤ(図示略)を接合部に沿って固定することにより、接合部を直線状に保持する構成としてもよい。このワイヤによる補強構造は
図7の湾曲板11の接合部16にも適用することができる。
いずれの形態の場合も、凸面5は、エッジ部4(
図6及び
図7では図示略)との接続端どうしを結ぶ境界線Hを超えない凸面とするのが好ましい。また、第1実施形態では両凸面5が接合部13で共通の接線Lを有する形状としたが、この接線は必ずしも一対の凸面で一致していなくてもよく、
図6及び
図7に示すように、接合部が凸面5の横方向に幅を有していることにより、各凸面5が相互に平行な接線L1,L2に沿って形成される場合も含むものとする。この場合、各湾曲板11は、両接線L1,L2の間の中心を通る線Mを中心として線対称に形成するのが好ましい。
【0027】
このように構成されたスピーカは、振動体1に固定されたアクチュエータ2のボイスコイル20に音声信号に応じた駆動電流が流れると、その駆動電流によって生じる磁束変化と、磁気ギャップ26内の磁界とにより、ボイスコイル20に駆動電流に応じた駆動力が作用し、磁界と直交する方向(ボイスコイル20の軸方向、
図4では矢印で示す上下方向)にボイスコイル20を振動させる。そして、このボイスコイル20に接続されている振動体1が、谷部6の深さ方向に沿って振動し、一対の凸面5から振動による再生音が放射される。
この場合、凸面5が振動面となるので、リッフェル型スピーカに用いられている振動板と同様に、凸面5の周方向に沿う横方向への音の指向性が広く、縦方向には狭いという特性を有する。また、リッフェル型スピーカに用いられている振動板と同様に中高音域で広い指向性を有している。
しかも、振動体1は、その外周縁部がエッジ部4により支持枠3に往復振動が可能なように支持されているので、接合部13から外周縁部までの振動体1全体がアクチュエータ2によって一様に振動し、いわゆるピストンモーションによる振動が振動体1に生じる。このため、ダイナミックスピーカと同様に、低音域においても高い音圧を有する。この場合、谷部6の両端が開放状態であると、振動体1により放射された音波の一部が、その開放された空間を通って湾曲板11の裏面側に抜けていくが、連結板12により谷部6の両端が塞がれた状態となっているので、音波の湾曲板11の裏面側への抜けを防止し、振動体1の前面の全体から効率的に放音することができる。
【0028】
したがって、1本のスピーカユニットにより低音域から中高音域までの可聴帯域の全域で広い指向性で再生可能なフルレンジスピーカユニットを実現することができる。このスピーカを振動体1の谷部6を連続させるように縦列に複数並べることにより、ラインアレイスピーカシステムを構築することができ、理想的な線音源による音空間を提供することができる。
また、この実施形態では、アクチュエータ2のボイスコイル20を円筒状に形成して、その上端部と振動体1とを固着したので、このアクチュエータ2として、通常のダイナミックスピーカに用いられているものを適用することができ、安価に製造することができる。
【0029】
図8〜
図13は、振動体の凸面の形状を保持するための補強部を設けた例を示している。これらの図において、第1実施形態と共通要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
図8に示す振動体41は、両湾曲板11の背面に、凸面5の周方向に沿う複数本の板状のリブ(補強部)42が凸面5の縦方向に相互に間隔をあけて平行に設けられている。これらリブ42は、凸面5の裏面にその周方向に沿って接触して、凸面5の剛性を高めることで、湾曲板11の形状、つまり、一方向には湾曲し、縦方向には直線状となっている形状を保持している。
【0030】
図9は、振動体45を構成している湾曲板46の一部を凹凸状に屈曲成形することにより、凸面5の周方向に沿う複数本のエンボス状のリブ(補強部)47が凸面5の縦方向に相互に間隔をあけて平行に形成されている。この
図9に示す例では、各リブ47は、凸面5の表面側を凹とし裏面側を凸とするように成形されている。逆に、凸面5の表面側を凸とし裏面側を凹とするものでもよく、あるいは、これらを混在させ、凸と凹とを凸面5の長さ方向に交互に配置したものでもよい。
【0031】
図10に示す振動体51は、両湾曲板11の裏面に板状のリブ(補強部)52が設けられている点は、
図8の振動体41と同様であるが、各リブ52が凸面5の周方向に対して傾斜するとともに、隣接するリブ52の一端が湾曲板11の両側部で接するように傾斜の向きを逆にして配置されている。このようなリブ52の配置とすることにより、湾曲板11の全面にわたってリブ52が配置されるので、湾曲板11の形状をより強固に保持することができる。
【0032】
図11に示す振動体55は、凸面5の裏面側ではなく、表面側に、その谷部6に嵌まり込むように、凸面5の周方向に沿う複数本の板状のリブ(補強部)56が凸面5の長さ方向に相互に間隔をあけて平行に設けられている。
前述したように、凸面5を再生音の放射面とするので、その凸面5の周方向に沿う横方向への指向性は広いが、縦方向には狭いという特性を有しており、このため、凸面5の放射面に横方向に沿って板状のリブ56を設けたとしても、音響的な影響は少ない。
【0033】
図12及び
図13に示す振動体61は、湾曲板11の裏面のほぼ全面にわたってブロック体(補強部の一例)62が固着されている。このブロック体62は、合成樹脂、コルク材、木材等により成形することができるが、軽量にするため、発泡スチロール、発泡ウレタン等、樹脂を発泡成形したものが好適である。この場合、ブロック体62は、
図13に示すように、湾曲板11の接合部13の下縁を埋め込む形状に形成され、ボイスコイル20の上端部がブロック体62内に埋設状態に固定されている。
なお、振動体61は、湾曲板11とブロック体62が一体的に、合成樹脂、コルク材、木材等により成形されても良い。
【0034】
図14〜
図18は、本発明の第2実施形態のスピーカを示している。これらの図においても、第1実施形態と共通要素には同一符号を付している。
この実施形態のスピーカでは、振動体71の外周縁部がダイナミックスピーカに広く用いられているコーン状に形成されることにより、振動体71の外周縁部にコーン部72が設けられており、振動体71を支持する支持部73が、そのコーン部72の外周縁部をリング状のエッジ部74を介して支持枠75に支持したものである。支持部73は、支持枠75とエッジ部74とによって構成される。
この振動体71は、各々が凸面5を有する一対の湾曲板部76と、これら一対の湾曲板部76の縦方向の両端縁部及び接合部13とは反対側の端部を一体に連結しつつ外方に延びるコーン部72とから構成されており、合成樹脂からなるフィルムを真空成型するなどにより、成形することができる。このコーン部72は、図示例では円錐面状に形成され、したがってエッジ部74も円形のリング状に形成されているが、湾曲板部を縦長に形成することにより、コーン部を楕円錐面状に形成し、エッジ部も楕円形のリング状に形成するようにしてもよい。
また、コーン部72は、一般的なダイナミックスピーカとして用いられる振動板であれば、円錐面状や楕円錘面状以外の形状でもよく、 正面視で丸型や角型、あるいは角型に丸型を組み合わせた形状 でもよく、全体として錐形状に形成されていればよい。一対の湾曲板76の形状も、上記コーン部72の形状に合わせて、適宜変更される。
なお、一対の湾曲板76及びコーン部72を上記のように構成することにより、振動体71の外周縁部はエッジ部74の一端部に固定され、エッジ部74の他端部(外周縁部)は、支持枠75に固定されることとなる。
【0035】
振動体71を往復駆動するアクチュエータ2、これら振動体71及びアクチュエータ2を支持するための支持枠75を有する点は
図1〜
図5に示す第1実施形態と同様である。この場合、エッジ部74が円形等のリング状に形成されているので、このエッジ部74が取り付けられる支持枠75のフランジ部78もエッジ部74と同じ円形等のリング状に形成されている。
なお、
図14及び
図15において符号80は、ボイスコイル20を外部に接続するための端子を示している。
【0036】
この実施形態のスピーカは、振動体71の外周縁部にコーン部72を有しているので、エッジ部74を円形リング状等の単純形状とすることができ、したがって、エッジ部、支持枠、アクチュエータ等として、通常のコーン状振動板を有するダイナミックスピーカと共通の部品を適用することができ、さらに安価に製造することが可能になる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、第1実施形態における振動体を湾曲板と連結板とにより構成したが、連結板は必ずしもなくてもよい。また、連結板を設ける場合も、湾曲板の間を全面的に連結するものでなくともよく、高さ方向の上端部、あるいは中間部のみを連結するものであってもよい。
また、第2実施形態における振動体は、湾曲板部とコーン部とを一体に成形したが、円錐状又は楕円錐状のコーン部の表面に湾曲板部を貼付した構成としてもよく、振動体の表面に凸面が形成されていればよい。
また、第2実施形態における一対の湾曲板の各々の表面あるいは裏面の少なくとも一方に、
図19に示されるように、リブ90等の補強部を設けることとしても良い。複数のリブ90の各々は、振動体71の一対の湾曲板部76の凸面5の周方向に沿って表面に固定される。また、複数のリブ90は、凸面5の縦方向に沿って互いに等間隔に平行に配置されている。この複数のリブ90に加えて、あるいは複数のリブ90に代えて、第2実施形態における一対の湾曲板の各々の裏面に、ブロック体等の補強部を設けることとしても良い。
【0038】
また、振動体を補強するリブは、板状のものに限らず、棒状のものでもよい。
さらに、振動体を往復駆動する変換部として、ボイスコイルモータを適用したが、ボイスコイルモータに代えて、圧電素子等を用いてもよい。
また、前述の実施形態では、
図1等に示すように振動体に対して縦方向(x方向)に間隔をおいて二箇所に変換部を設けた実施形態と、
図14に示すように振動体に1個の変換部を設けた実施形態とを示したが、変換部は1個または2個に限らず、振動体の縦方向(x方向)に間隔をおいて3個以上配置してもよい。
また、上記実施形態ではいずれも本発明をスピーカに適用したが、本発明をマイクロホンに適用することも可能である。本発明をスピーカに適用する場合は、ボイスコイルモータ等の変換部が、音声信号に基づく電気信号を振動体の振動に変換するが、本発明をマイクロホンに適用する場合も、変換部としてボイスコイルモータ等を用いることができ、その場合の変換部は、音波を受けて振動する振動体の振動を電気信号に変換する。そして、本発明を適用したマイクロホンは、凸面が振動面であり、その振動体の全体が一様に振動することにより、感度を維持しながら指向性が良好となり、低音域から高音域まで広い周波数帯域に亘って広い指向性で収音することができる。